Maison book girl(ブクガ)とは【徹底解説まとめ】

Maison book girlとは、2014年11月5日に結成された日本のアイドルグループ。作曲家・音楽プロデューサーのサクライケンタとBiSのメンバーであったコショージメグミを中心として誕生。サクライケンタの「現音ポップ」と称する変拍子を多用した楽曲をバックにコショージメグミが詞の朗読を行うというパフォーマンスを発展させた形といえる。一筋縄ではいかない「現音ポップ」に合わせてパフォーミングを行う、という独自の世界を持っている。2021年5月30日、活動終了が公表される。

INTERVIEW : サクライケンタ

4分の4拍子も5拍子も4分の7拍子も全部自分の中では同じ感覚
ーーメンバーの話を聞いて意外だったのは、明確にサクライさんのコンセプトがあって、それを演じているのかと思いきや、全然そんな感じじゃないんですね。
サクライケンタ(以下、サクライ) : そうですね。ガチガチにはやっているんですけど、例えば、ジャケットの表面をメンバーにするかどうかとかは相談していて、メンバーの意見も取り入れようとはしていますね。
ーーMaison book girlって、サクライさんの美意識をすごく感じるグループなんですけど、どういうコンセプトのもと作ったグループなんでしょう。
サクライ : もともと「いずこねこ」っていうアイドルをやっていたんですけど、その次にやるプロジェクトに関しては、音的にもヴィジュアル的にも、もっと洗練されたものをやりたい気持ちがあって。楽曲については、極力音数を減らして、シンプルだけどかっこいいものを作りたくて。自分の元々持っている好きな世界観は昔から変わってないんですけど、その世界観の中でシンプルで、なるべく必要最低限のものだけで作ろうという意識ではじめました。
ーー楽曲に関しては変拍子に着目する方が多いですけど、それ以上にクリーンな音作りというか、無菌室な感じの音づくりがすごく印象的でした。
サクライ : そこは自分の音の好みで、うるさい曲がそんなに好きじゃないんですよね。このアルバムの中だと「my cut」はエレキ・ギターとかが入っていて、お客さんにはすごく評判がいいんですけど、盛り上がる曲が1曲くらいないとまずいかなと思って作ったところもあって。リズム楽器とアコースティック・ギター、クラシック系の楽器を元にアレンジをして、自分が聴いてて気持ちいいところを考えて作っています。拍子に関しては、自分がドラムから楽器を始めたこともあってリズムが好きなだけで、特に変拍子であることはあまり思っていなくて。わりとナチュラルに気持ちよさで決めてるみたいなところはあります。4分の4拍子も5拍子も4分の7拍子も全部自分の中では同じ感覚というか。
ーー気をてらっているわけではない?
サクライ : そうですね。普通に聴いていて気持ちいいものを作ろうとしたら、そういうふうになったって感じですね。
ーーサクライさんは、楽曲作る上でのリファレンスを立てたりするんですか? Maison book girlの曲って、そこがあまり見えないなと思って。
サクライ : 本当に1つのアイデアから膨らませて作っていっていますね。「最後の彼女のような曲」でいうと、コショージが三拍子の曲の歌詞を書きたいってことで作ったんですけど、三拍子っていうこととサビで4分の4拍子になるっていう構成を軸に、ドラムのフレーズ、ギターの一小節のフレーズ、このコードとこの楽器が絡まるみたいなイメージを想像して作り始めました。あとはそこから勝手に広がっていったり、作りながら考えるみたいな感じですね。作りながら続きを考える感じなので、何何っぽい曲にしようっていうのはまったくないです。
ーーサクライさんの楽曲の特徴として、メロディがキャッチャーっていうのも特徴ですけど、メロディは最後の方に当てていく感じになるんですか?
サクライ : いつもピアノで作りはじめるんですけど、それも作りながらAメロから作ったり、サビから作ったり。ただ、ほぼイントロから作ることが多いですね。
ーーイントロから作るんですか?
サクライ : はい。イントロから作って、そこから繋げて考えて作っていくみたいな感じですね。
ーーそういう作り方ってあんまり聞いたことないので面白いですね。
サクライ : そうですか(笑)。イントロって、曲の雰囲気が決まるじゃないですか。その雰囲気に沿って続きを作るみたいな感じです。

僕の場合は、ひょっとしたら数学的なのかもしれないですね
ーー自分の中で、ここは絶対に崩さないという軸になる部分はどういうところでしょう。
サクライ : 変拍子だけど綺麗に聴こえるというか、聴き心地がいいメロディになるように作っているつもりです。シンプルだけどパズルみたいな感じというか。メロディと各楽器の繋がりにちゃんと意味があって、それを綺麗にまとまるように意識して最終的には作っていますね。
ーーパズルという言葉がでましたけど、Pro Toolsなどのソフトって、波形を見て切り貼りすることがメインなわけで、目で見て作る作業が多いわけじゃないですか。わりと視覚的に考えてる部分ってあるってことなんですかね。
サクライ : そこはあると思いますね。ただ、僕の場合は、ひょっとしたら数学的なのかもしれないですね。ギターは生で録った音を入れたりしているんですけど、どのコード音を使うかは決まってるじゃないですか。そのコードだけを録って、パズルみたいに並べたりとかはします。音がぶつかるのがそんなに好きじゃなくて、一つ一つの音が、なるべく大切にされるように作っていますね。
ーーもともと理系の勉強をされていたんですか?
サクライ : いや、全然。小4くらいからまともに学校にも行ってなくて(笑)。
ーーじゃあ独学で?
サクライ : そうですね、音楽は独学です。
ーーちなみに、どういう音楽を好んで聴いていたんでしょう。
サクライ : 小学生の時とかは、テレビで流れてるとような音楽を聴いていて、中学生になった時は、姉の影響で渋谷系とかを聴いたりしていました。そのあと、現代音楽を聴き始めて、アイドルとかアニソンも好きになって。最近のアイドルってアイドルっぽくない曲が多いじゃないですか? 言ったら、アニソンもアイドルっぽい。そういう曲とかと現代音楽が好きで、中間が抜けている感じですね。
ーー現代音楽で特に好きなミュージシャンは?
サクライ : 最初に聴き始めたのがスティーヴ・ライヒで、いまも本当に好きですね。
ーー現代音楽のどういうところに惹かれるんですか?
サクライ : やっぱり、聴いてて飽きないというか。オリジナリティがある。クラシック楽器だけで何かを表現しようとしていて、メッセージ性だけじゃなく、このリズムで何かをしたかったんだなっていうのが伝わってくる。昔の絵画を観るのと同じような感覚だと思うんです。絵画を観るのって、考えながら観るじゃないですか。僕は、それと一緒の感覚で楽しんでますね。
ーー聴けば聴くほど、サクライさんが、なぜアイドルをプロデュースしているのかっていうのが疑問なんですよね。
サクライ : アイドルが好きっていうのもあるんですけど、間口が広いというか、入り口として、すごくやりやすいんですよね。アイドル好きな方も、とても音楽的に聴いてくれる人が多いので、全然そこは問題ないかなと思っていて。

出典: ototoy.jp

サクライケンタ

未完成な4人が歌っているのが面白いのかなって
ーーMaison book girlは、コショージさんありきではじまったところがあると思うんですが、彼女の魅力ってどういう部分でしょう。
サクライ : コショージに関しては、感覚的に好きなものが似ている部分があって。話していても、やりたいことに関して、意見の食い違いとかは本当にないというか。僕のことも分かってくれてるなと思うし、やりたい方向性っていうのを理解してくれていると思いますね。
ーーこれは1番衝撃だったんですけど、最初のメンバー・オーディションに歌唱審査がなかったそうで(笑)。どういうところを見て評価していたんですか?
サクライ : 人間性とかオーラとかですね。あとアイドルなんで、普通に可愛い子がいいじゃないですか。曲は僕が作っているから、歌の部分とかはいろいろいじれる(笑)。なので、まずはその子の雰囲気とか、見た目とか、持っているオーラを重視して選びましたね。
ーーMaison book girlはファッションだったり、音楽以外の部分でも細部にこだわりを感じますけど、歌だけのグループって感じでは捉えていないんですか。
サクライ : アイドルには、物販があるじゃないですか。僕は本当にブランドとしてやっていきいから、同じものを再生産しないんですよね。1回作って売り切れたら新しいのを作るって形にしていて。Tシャツ一つに関しても、ちゃんとタグから作って、ちゃんとしたものを作ろうと思って、こだわっていますね。そこで手を抜いたら、やりたいことがズレるんじゃないかと自分では思っています。
ーー写真もPVもそうなんですけど、4人以外の存在が見えないというか、世界の中に他の他者が見えないような世界観を感じるんですけど、それは意図的ですか。
サクライ : 外からみたらそう感じるのかもしれないですけど、歌詞についても、自分で書いてるものに関しては嘘は書いてないんですよね。本当のことしか書いていない。ジャケットで説明すると、裏面には4人がいるじゃないですか。表には誰もいないじゃないですか。そんな感じですかね(笑)。
ーー全然わからないです(笑)!! 僕の印象としては、サクライさんの脳内世界が全面的にヴィジュアル化されて、音になって、形になっているのかなと思ったんです。
サクライ : 今回は、コショージが2曲作詞していますけど、自分の世界観と違っていたら、ボツにしたと思うんですよ。そこは偉そうな意味じゃなくて、自分の世界観の範囲で収まるものだったので使っていて。だから、僕の世界観を作るっていうのは、いずこねこの時よりも今の方が強いかもしれないですね。いずこねこの方が、まだアイドル性が強かったと思う。自分もそういうのを意識して曲を書いたりっていうのがあったんですけど、今回はそういうものも無視して、自分の作りたいものを作るっていう感覚だったので、完全にわがままというか(笑)。
ーー僕はこのアルバムがすごい名作だと思ってるんですけど、それはサクライさんのやりたいことを全部出し切ってるからだと思うんです。そこにメンバー4人の予期せぬ影響があって、それが交わることでおもしろくなっているんじゃないかって。そういう意味で、サクライさんがメンバーに期待するのはどんなことですか?
サクライ : 経験はあるといえ、コショージもBiSに半年いただけですし、和田が一番経験があるんですけど、あとの2人は歌もダンスも経験がない。そういうところで、その成長を見たいっていうのはすごくありますね。お客さんもそれを見て楽しんでくれればなと思います。自分も、歌上手くなったねとか、ステージングがちょっとよくなったねとか、そういうところを見て勝手に楽しんでるところはありますし。
ーー確かに、いずこねこは完成している感じがありましたよね。
サクライ : あの子は、もとから歌も上手くてダンスもできたんで、また違うと思うんですけど、成長過程を見てもらったりっていうのも面白いのかなって思います。Maison book girlに関しては、余白の部分というか、そういう部分が欲しかったっていうのもあるかもしれないですね。未完成な4人が歌っているのが面白いのかなっていうか。
ーー僕は、このアルバムを聴いて、意識がすごく変わりました。これから、すごくおもしろくなっていくんじゃないかって期待しています。
サクライ : ありがとうございます(笑)。アルバムをいろんな人に聴いて欲しい気持ちはもちろんあるので、ライヴでメンバーが好きってだけの人が来てくれてもいいし、アイドルが好きって人が来てくれてもいいし、曲もアイドルも好きって方が来てくれるのも嬉しいです。はじめて全国流通盤として出すので、これを機にちょっと売れてほしいなと思います。

出典: ototoy.jp

左から井上唯、和田輪、矢川葵、コショージメグミ。

2017年4月5日:『image』

『image』

01. ending
02. sin morning
03. end of Summer dream
04. veranda
05. faithlessness
06. int
07. townscape
08. karma
09. screen
10. blue light
11. opening

2014年11月5日の結成から約2年5ヵ月経過した時点でリリースされた通算2枚目、そしてメジャーでのデビューアルバム。
徳間ジャパンコミュニケーションズからのリリースだが、次のアルバム『yume』はポニーキャニオン移籍後になるので、徳間ジャパンコミュニケーションズからのアルバムはこの『image』のみである。
フォトブック付の初回限定盤と通常盤の2タイプがリリースされておりジャケットは共通。
初回限定盤のフォトブックにはメンバーの幼少期の写真が掲載されている。
それぞれの写真にはメンバー名が明記されていないのだが、顔つきからなんとなくこのメンバーの幼少期だな、という推測はできる。

前作『bath room』と比較すると、本作『image』は硬質さがやや薄れ、柔軟性が出てきたように感じられる。それは各メンバーのヴォーカル力の向上によるものが一つの大きな要因だと思われる。
コショージメグミはインタビューで「確かに歌がうまくなったなっていう実感はめっちゃあります。声とか歌い方が大人っぽくなった。だから『bath room』に比べて聴きやすいのかなって。『bath room』は幼さと音楽のズレがあって、それはそれでよかったのかもしれないけど、今回はその2つが近付いているのがいいと思います」と語っている。
また、別の要因としてサクライケンタ作品とMaison book girlの4人の関係がより接近してきた、ということもあると思われる。
同じくコショージメグミは「今回のアルバムの曲から特に感じたんですけど、サクライさんが作る楽曲が私たちの側に寄ってきているところもあるのかもしれないです。それもあって、より立体的に表現できるようになっているのかなと思います。例えば「かわいらしさ」というのも、メンバーから出てくるものと、楽曲が私たちに寄ってきたことで醸し出されているもの。その両方があるのかもしれないですね」と語っているように、サクライケンタの作り出す現音ポップの音世界と、4人のメンバーで構成されているMaison book girlというグループが乖離する事なく、うまく有機的に、より親密な関係を築くことができた証だと思われる。
『bath room』は決して悪い作品ではないのだけれど、『image』はそれ以上にとっつきやすく、それだけ深く聴き手の奥に響いてくる作品になっている。

ちなみに、この『image』のレコーディングに関して、インタビューで面白いやり取りがあったので抜粋しておく。
――レコーディングでハプニングはありましたか?
矢川葵 サクライさんが曲制作に追われていて一番ドタバタしていたという印象があります。私たちは穏便に終わりました。
――サクライさんだけですか? 歌入れは一人ずつ録っていく感じ?
矢川葵 日程は一緒なんですけど、和田ちゃんから録って、次に私が録って、コショージ、唯ちゃんという順番なんです。
――その順番には何か理由が?
コショージメグミ 身長順ですね(笑)。
和田輪 マイクスタンドの高さをずらさないといけないので。

●楽曲概説
1. ending
作曲:サクライケンタ
編曲:サクライケンタ
アルバムのオープニングを飾るのは「ending」と題されたインストゥルメンタル。
前作『bath room』もオープニングはインストゥルメンタルだったのだが、メンバーが一切関知しない演奏物をアルバムのオープニングに置く、ということだけでMaison book girlの目指している特異な世界感が伝わってくる。
アンビエントミュージック的な佇まいの曲であり、変拍子やサクライケンタが多用している音色が音の配置を明確に設定した形で提供されているので、これからMaison book girlのアルバムを聴くための準備運動のような役割を果たしている。

2. sin morning
作詞:サクライケンタ
作曲:サクライケンタ
編曲:サクライケンタ
華やかになった、というのが第一印象。
無機質で硬質な印象があったMaison book girlの楽曲群だけれど、ここでは華やかさ以外に「可愛らしさ」すらも加わっている。
コショージメグミがいう「サクライさんが作る楽曲が私たちの側に寄ってきているところもある」という言葉はこの辺りから来ているのだろうし、メンバーの個々の歌唱もグンと存在感を増してきている。
矢川葵がこの曲に最も適した感想を述べている。
「やっと私がずっと聴いていたようなタイプのメロディを作ってくださったな」

「sin morning」
監督・編集:スズキケンタ
ビジュアルエフェクト:持田寛太
撮影監督:荻原楽太郎

3. end of Summer dream
作詞:サクライケンタ
作曲:サクライケンタ
編曲:サクライケンタ
かなり複雑な楽曲なのに、その複雑さを聴き手に感じさせないのは、間違いなくメンバー4人のヴォーカル力の向上にあるだろう。
ただし演者にとってはかなりやっかいな楽曲のようで、井上唯は「『end of Summer dream』がすごい難しいんですよ。拍にハマってないというか、最初に聴いたときは意味がわからなくて」と語っている。
矢川葵と和田輪はこの曲を好きな1曲に挙げている。
「『end of Summer dream』をかわいく歌ってみたら、完成したときにかわいくなってて気に入ってます」とは和田輪の言葉。

4. veranda
作詞:サクライケンタ
作曲:サクライケンタ
編曲:サクライケンタ
この曲も前の2曲同様にメロディの良さとメンバーのヴォーカルが際立っている。
今までであればバックのマリンバを模した音がもっと目立って響いてきていたのだけれど、この曲ではスっと後退して、柔らかさと丸みを帯びた、それでも存在感を失わない作りになっている。
井上唯はレコーディングで最も苦労した曲にこれを挙げているが、それは主に体調面によるものだったとのこと。
「レコーディングの日に体調を崩しちゃって。おなかにくる風邪で、夜中から朝までずっと吐きまくってたんです。病院で先生に「大丈夫」って言われたからレコーディングに行ったんですけど、ブースにゲロ袋持ち込んで歌いました(笑)。死にそうになりながらがんばりました。それはしんどかったですね」

5. faithlessness
作詞:サクライケンタ
作曲:サクライケンタ
編曲:サクライケンタ
本アルバムの2ヵ月前にリリースされた初の映像作品『Solitude HOTEL 2F + faithlessness』にリード曲としてCD添付されていた楽曲。
ある意味、この時点でアルバム『image』の方向性が示されていたということになる。
「裏切られてぇ~裏切られてぇ~裏切られてぇ~裏切るの」というサビのメロディなどは今までにないキャッチーさを持っている。
この曲も複雑な作りになっているがそれを少しも感じさせない。
コショージメグミによると、この曲のサビのダンスは激しくて難しいとのこと。

「faithlessness」
監督・編集:二宮ユーキ

6. int
作曲:サクライケンタ
編曲:サクライケンタ
10分にも及ぶインストゥルメンタル。
オープニングの「ending」以上にアンビエントミュージックの度合いが強く、多用されるシーケンス・フレーズは一種催眠効果すら感じられる。
果たしてこれがアイドルのアルバムのド真ん中(11曲中、6曲目に置かれている)に位置されるべき楽曲なのか。
そこにはアイドルという既成概念をぶち壊そうとしている意志が働いているのかもしれない。
下に引用したインタビューにおいて、Maison book girlは自らを「4人組ニューエイジ・ポップ・ユニット」と表している。
そうなると、もはやアイドルを自己否定しているのかもしれない。
そして何よりも一番の驚きなのは、アルバムの流れの中でこの曲が全く違和感がなく収まっている、ということだろう。

「int」
監督::YAVAO

7. townscape
作詞:サクライケンタ
作曲:サクライケンタ
編曲:サクライケンタ
かなり複雑な曲で、バックの演奏は抑え気味ではあるが、かなりせわしなく動きまわるし、拍子もいつものように一定ではない。
和田輪は「やばかったです」という表現でこの曲のレコーディング風景を語っている。
コショージメグミは「私が“あぁ、この曲はこういうクセで歌うんだ”って思ってサクライさんの仮歌どおりに歌ったら、『あ、それオレが必死になり過ぎて間違ったやつだから普通に歌って』って言われて(笑)。すごいクセで歌うなと思っていたら間違えだったって言う」と暴露している。
曲を作ったサクライケンタ自身「仮歌を入れるのすら練習した」と嘆いている。

8. karma
作詞:サクライケンタ
作曲:サクライケンタ
編曲:サクライケンタ
本アルバムの5ヵ月前にリリースされたメジャーデビューシングル『river (cloudy irony)』からの1曲。
同シングルのリードトラックだった「cloudy irony」ではなくこの「karma」が選曲されたのは、サクライケンタのお気に入りの曲だったからとのこと。
コショージメグミ曰く「(「cloudy irony」ではなく「karma」が選ばれたことに対して)「karma」が気に入っていたんだと思います(笑)。『river』の時も、サクライさんは「karma」をリードにするか迷っていたみたいだったんですけど、結局「cloudy irony」になったんです。それでポップというか聴きやすいシングルが出来たんですけど、このアルバムでは「karma」を入れているように、Maison book girlの深い部分が知れるような選曲にしているんです」

「karma」
撮影・編集:田山百華

9. screen
作詞:サクライケンタ
作曲:サクライケンタ
編曲:サクライケンタ
この曲もかなり複雑な楽曲。
メロディはポップだし、スムーズに流れるような曲の印象があるが、一歩間違えるととっ散らかっただけのバラバラの楽曲になりそうで、ギリギリのところで見事にまとまっている、といった印象を受ける。
井上唯、和田輪、そして矢川葵が「レコーディングが大変だった曲は?」という質問にこの曲を挙げている。
井上唯「これ、実は難しい曲なんですよ。“townscape”が一番難しいと思っていたんですけど、実は“screen”が隠れボスだった感じです」
和田輪「私は“screen“です。他の曲とはちょっと違った歌詞の割り方をしていて、耳で仮歌を聴いた時よりも歌を入れる時の方が難しかったです」
矢川葵「私も“screen“ですね。“townscape“は難しいなと分かっていたので、レコーディングの前に自分で息継ぎのタイミングをメモしていました。“screen“は特にメモなどをしないで臨んだら、実は一番難しかったんです」

10. blue light
作詞:サクライケンタ
作曲:サクライケンタ
編曲:サクライケンタ
本アルバムの約1年前にリリースされたEP『summer continue』に収録されていた楽曲で、当時レコーディングされたものがそのままここにも収録されている。
本アルバム中、最も古いレコーディングであるため、バックの演奏の肌触りが他の曲と多少違って聴こえるが違和感はない。
楽曲が持っているポップさが本アルバムにうまく溶け込んでいるように感じられる。
和田輪によると「少し前の曲なので今回のアルバムに入ると思わなかったです。「blue light」こそブクガの世界、という感じがします。
仮歌を聴いて一番衝撃を受けた歌です。すごくいいなって。アップテンポな曲が多かったので新鮮でしたし」とのこと。
コショージメグミにとってこの曲が最もレコーディングが大変な曲だったそうだ。
「blue light」はインディーズの時の曲なんですけど、これが難しかったのを覚えていますね」
また、何故この古い楽曲が本アルバムに収録されたのかについて同じくコショージメグミは「単純にサクライさんが気に入っていたんだと思います(笑)」と語っている。

11. opening
作詞:コショージメグミ
作曲:サクライケンタ
編曲:サクライケンタ
エリック・サティ的なサクライケンタのピアノがバックに恒例となった詩の朗読が始まる。
「詩」というよりも今回は「物語」といった印象が強い。
作詞したコショージメグミはこう語っている。
「アルバムの曲ができる前にサクライさんに言われて1曲書いてたんですよ。そうしたら、「もっとストーリーっぽいものを書いてほしい。希望みたいなテーマで、これから何かが始まりそうなのを書いてほしい」って言われて」
「これは希望のストーリーがテーマで書きました。いちばん最初に書いたのが最後の猫とおじいさんの会話で、そこから最初のほうを書いたんですけど、そういうセリフから書いて話を発展させていくことが結構多いんです。ひとつの感情みたいなものを書き出して、その後そこにいくまでのストーリーを作るみたいな」
他の3人のメンバーにとってもこの「opening」は好意的に受け取られている。
矢川葵「レコーディングのときに唯ちゃんとコショージがふたりでマイクに立って、私と和田ちゃんが別のマイクに立ったのでふたりの顔は見えなかったんですけど、録りながら私ちょっと泣きそうになったんです(笑)。それで終わった後コショージを見たらコショージも自分で書いたのに泣きそうになっていて」
コショージメグミ「自分で書いたから感情移入し過ぎて」
矢川葵「それで“いい話じゃない、私も泣きそうになったよ”って盛り上がった(笑)」
和田輪「いつも哲学的なのが多いから(頭を抱えてるポーズで)“うぅー”ってなるのが、今回は純粋に“良かったねー”って」
井上唯「出来上がったものを聴いても、今までのポエトリーリーディングは喋った文を途中で切られてサクライさんの音が入ったりしていたんですけど、今回はお話がメインな感じで聴きやすかったから泣けます」

前列左から和田輪、矢川葵。後列左から井上唯、コショージメグミ。

以下、オフィシャルサイトに掲載された本アルバムに対するコメントを引用。
メンバーやサクライケンタの本アルバムに対する意気込みや、楽曲のみでなく歌詞についての考察、そしてプロデューサーであるサクライケンタと、彼の楽曲を受けてパフォーマンスを繰り広げるメンバーの間にある信頼関係についても触れられている。
本アルバムを聴く上での多少なりとものバックボーンになるはずである。

繰り返される、無限の足し算。ブクガの進撃は加速する。
Maison book girlのメジャー1stアルバム、『image』が完成した。プロデューサーのサクライケンタが「死にかけながら作った」と振り返るように渾身の力作であり、ブクガの今後の飛躍を決定づける快作である。すでにライブの定番となっている“faithlessness”や“sin morning”、音楽家・サクライケンタの真髄が発揮された10分超えの大作インスト“int”、5曲の完全新曲にポエトリーリーディングまで、ブクガの音楽的妙味がこぼれ落ちることなく詰まっている『image』では、サクライが音楽を通して表明する「ブクガという思想」とメンバー4人のパフォーマンス面の進化が、ガッチリと噛み合っている。以前、コショージメグミは「神になりたい」と言ったが、きっとこのメジャー1stアルバムは、世界がブクガを見つけるための大きな一歩を記すことになるだろう。

予感はあった。昨年11月6日、渋谷WWW Xで行われた2ndワンマンライブ『Solitude HOTEL 2F』。MCなしで本編15曲を駆け抜け、アンコールラストの“my cut”で4人が見せた、この上なく晴れやかな表情がヒントである。あのときメンバーが感じていたのは、「やればできる!」という自信と、「次はもっとできる」という悔しさに似た感情だった。以後、ブクガのステージを何度か観ていて、そのたびに力強くなり、安定感は増し、パフォーマンスとしての美しさや整合性も向上していると感じたのだが、その契機は間違いなく2ndワンマンライブだと思う。しかし、何しろブクガは「神になる」ことを標榜している。立ち止まってなんていられないし、現状に満足する素振りもまったくない。メジャーデビューからワンマンライブを経て育んだ高いモチベーションが、ブクガをさらに前へと駆り立てていく。現状についてメンバーが語った、頼もしい言葉を紹介しよう。

井上唯「まだ知らない人に広めていくには、今頑張るしかない。わたしたちができるのは、パフォーマンス力を上げることで、ライブの精度を上げて完成させること。そうしたら、オセロをひっくり返すように『おまえもおまえも!』って(笑)」
コショージ「難しい音楽って言われてやってきたけど、自分がちゃんと曲を理解してライブをしていけば、お客さんはきっとわかってくれると思う。まずは曲をひとつずつ理解して、自分の中に落とし込んで、それを伝えることをやっていきたい」

ブクガが前進することで、彼女たちの楽曲やパフォーマンスが届く範囲は、必然的に広がっていく。そしてそこには、受け手=オーディエンスへの責任も生じてくる。ブクガの音楽を受け取り、愛し、支えてくれる存在について、メンバーは今、どんなことを感じているのだろうか。

矢川葵「やっぱり、お客さんがいてくれないと何の意味もないことなので、イベントをやったときに奥のほうまで人がいてくれたりすると、やる気が倍になるし、ありがたいなって思います。でも、『もっと来て!』って思う(笑)」
和田輪「みんながTwitterとかで和田輪の絵を描いたりしてるのを見て、『こういうことを求めてるんだな』って思う。わたしが個人的に目指すだけじゃなく、皆さんの意見を加味したところが最高地点だと思うので、そこはすり合わせです」

それぞれの発言から伝わってくるように、メンバー4人は今、とても前のめりである。歌やパフォーマンスの精度に手応えを感じていることや、リスナーからの期待が広がりつつあることも、彼女たちに力をもたらしている。そして一方で、サクライケンタが生み出す楽曲への信頼も口にしているのだが、このことはとても大きい。「全員と面と向かって作り上げていくというよりは、ステージを観たり、レコーディングで歌を聴いたりすることで、『もっと新しいことができるんじゃないか』って思う。基本的には『はい、これができました。頑張って』っていう感じ(笑)」とサクライは語っているが、これこそがブクガのクリエイションのキモである。サクライとブクガの間に起きていることは、予定調和の掛け算ではない。完成されたもの同士の掛け算だったら答えはひとつだし、天井も決まってしまうけど、ブクガの場合、メンバーの進歩がサクライの創作の枠を拡張し、新たな楽曲へとつながるサイクルが確立されている。以前、『river』のリリース時に「“ブクガという思想”の箱を4つの強い力が異なる方向へと押し広げようとしている」と書いたが、今のブクガはまさにその状態である。「掛ける」のではなく、無限に「足し上げる」。ここ数ヶ月で4人は確実に進歩しているが、同時に「まだまだいける」という伸びしろも強く感じる。呼応するように高め合っていくメンバーのパフォーマンスと、サクライのクリエイション。その「足し算」は、ぼんやりとした予感ではなく、実体を伴った強い期待を抱かせてくれる。

ブクガの音楽が我々を惹きつける理由は他にもたくさんあるのだが、『image』というアルバムを知る上で、サクライが紡ぐ歌詞について取り上げてみたい。皆さんがブクガの歌詞に抱いているイメージは、「暗い」「救いがない」「同じモチーフが頻出する」といった感じだろうか。たぶんどれも正しいし、『image』に収録された楽曲の歌詞も、概ねその印象の通りである。実際、歌詞の中に登場する少年少女は、多くの場合出口を探すけれども、少なくとも歌詞の中で出口は示されてこなかった。しかし、出口がない一方で、歌詞で描かれている場所には閉塞感もない。たとえば、既発曲も含めて「部屋」というモチーフが数多く登場するが、その「部屋」は基本的にとても居心地がいい場所である。部屋の外で起きている事象が悲しかったり、部屋から出ていってしまった人を想って苦しくなったりはする。だけど、その「部屋」が第三者に害されたりすることは絶対にない。閉じてはいるけど、行き詰まっていない――これは、ブクガの歌詞の大きな特徴のひとつだ。サクライ自身も、「美しいものが好き、という気持ちが根底にある。美しい部分を書こうと思ったら、汚さも説明しないといけない」「『image』のジャケットの写真は行き止まりっぽく見えるけど、若干の光があるし、それは歌詞の中にもある。どんな世界でも、生き方によっては何かしらの光があるんじゃないか」と語っている。サクライの言葉を聞いていると、彼の表現の根底に流れるある種の「熱さ」を感じるのだが、無機質で退廃的に見える歌詞の向こう側にも、温もりのある感じではないけれど、確かなポジティヴィティが宿っている。『image』を聴いていて心地よく感じるのは、きっとそういうことなのだと思う。

アルバムが完成した直後の3月初旬、メンバーとサクライケンタ、それぞれに話を聞く機会があったので、せっかくだからということで、お互いへのメッセージを募ってみた。メンバーは、
「頑張ってほしいです」「ブクガをメインに考えてくれればそれでいいです(笑)」
と述べ、それを受けてサクライは、
「一番に――いや、メインに考えてますよ。でなければ、こんなに頑張れない(笑)」
と応じたのだった。……微妙に嚙み合ってない、この感じ。でも、これがMaison book girlである。そしてこの関係性が、今後のブクガの躍進を支えていくのだろう、とも思う。音楽によって成し遂げたいことが明確なプロデューサー。そのクリエイションを信じ、理解し、パフォーマンスの精度を高めていくことを誓う4人のメンバー。「掛け算」という単純な言葉では説明できないせめぎ合いが、ブクガのクリエイションをもっと面白くする。その先にこそ、Maison book girlの音楽が席巻する世の中、つまりコショージが言う「神になる」状況が現れる。そして4月からの全国ツアーでは、『Solitude HOTEL 2F』を凌駕する圧倒的なライブを見せつけてくれるはずだ。ブクガの進撃は、加速する。『image』を聴きながら、そのときを楽しみに待っていよう。

出典: www.maisonbookgirl.com

左から井上唯、和田輪、矢川葵、コショージメグミ。

以下、音楽ナタリーより今回新装された衣装についての各メンバーのコメントを引用。
楽曲だけでなくファッションもMaison book girlの大切なファクターの一つであることが理解できる。

コショージメグミ コメント
私の衣装が一番最後に完成したんですけど、袖が付いてるのがかわいくてお気に入りです。これまでのものは半袖が多かったので。あとは前よりも、身体に密着……? そうだ、タイトめ! ぴったりしてる感じもありますね。MV撮影のときにみんなが着てるのを初めて見たんですけど、葵が一番布の面積が少なくて(笑)。ずっと葵の二の腕触ってました。

和田輪 コメント
デザイナーさんは「アサシンをイメージしたんですよ」ってお話ししてくれて、見た目的には2つ前の衣装に近い感じになりました。前回は脇の部分が開いてたりしてたんですけど、今回は閉ざされてます(笑)。衣装が新しくなると少しずつ、メンバーそれぞれの雰囲気に合わせたデザインになってきていて。今回はそれがより色濃くなりました。

井上唯 コメント
今回スカートになったので、初めて見たときは「私だけテイストが違うな」って(笑)。今までのものよりガーリーな印象が強くなったように感じます。でもダンスで回ったとき、広がりが増えるわけで。ブクガの振り付けはターンが多いので、きれいに見せられたらいいですね。真っ黒な衣装だけど、ブクガらしさがないわけでなく、雰囲気も合ってると思います。

矢川葵 コメント
よりいっそうクールな衣装になりました。布の量が少ないので動きやすくなったんですけど、二の腕が開いてるから人前に出るのが恥ずかしい……。前の衣装も袖無しになる予定で、最終的に袖を付けてもらえたんですけど、今回はついに取られました(笑)。コショージのウエストのところがちょっと開いてる“ちらっと”感がいいし、唯ちゃんのスカートもボリューミーでかわいいです。

出典: natalie.mu

左から井上唯、和田輪、矢川葵、コショージメグミ。

以下、音楽ナタリーより各メンバーのソロインタビューを引用。
メジャー・デビューに至るまでの個々のメンバーがどういう思いで活動を続けてきたのか、今回のメジャーデビューアルバムへの意気込みなど、4人そろってのインタビューとはまた違った、ソロならではの素顔を垣間見ることができる。

コショージメグミ

yamada3desu
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サクライケンタとは、作詞家・作曲家・編曲家・音楽プロデューサーであり、株式会社ekomsの代表取締役。彼が頭角を現したのは、いずこねこのプロデューサーとしてであり、その後はMaison book girlの総合プロデューサーとして活躍している。スティーヴ・ライヒなどの現代音楽家に影響を受け、ポピュラー音楽にその現代音楽をミックスさせた「現音ポップ」を提唱している。Maison book girlだけでなく、クマリデパートのプロデュースや開歌-かいか-、大森靖子との仕事などで知られている。

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