Maison book girl(ブクガ)とは【徹底解説まとめ】

Maison book girlとは、2014年11月5日に結成された日本のアイドルグループ。作曲家・音楽プロデューサーのサクライケンタとBiSのメンバーであったコショージメグミを中心として誕生。サクライケンタの「現音ポップ」と称する変拍子を多用した楽曲をバックにコショージメグミが詞の朗読を行うというパフォーマンスを発展させた形といえる。一筋縄ではいかない「現音ポップ」に合わせてパフォーミングを行う、という独自の世界を持っている。2021年5月30日、活動終了が公表される。

舞台平面図

Touch Designerの画面。

「絶対大丈夫」は無条件で信じよう
ーー「5F」から半年後、2018年11月に「Solitude HOTEL 6F」が開催されました。この公演ではアルバム「yume」をモチーフに、1日に昼の部(hiru)と夜の部(yoru)の2公演が行われました。昼と夜でセトリが変わり、2つの対比が面白いライブでしたが、制作はどのように始まったのでしょうか。
としくに:「ニューアルバム『yume』を引っ提げて、1日に2公演やりましょう」という概要は5Fの段階で決まっていました。hiruとyoruでセトリを変えて明暗を見せていくっていう、わかりやすいコンセプトのライブだったと思います。あと、最初から「公演中に衣装を変えたい」というオーダーがあり、衣装チェンジが全体を通したコンセプトのフックになっている公演でした。
YAMAGE:最初はプロデューサーのサクライケンタさんと、メンバーのコショージメグミさんを交えて、楽曲のセットリスト決めもhuezの事務所で一緒にやりました。hiruはMCもあり、明るい曲もあり、比較的5Fに近いアイドル的なライブをして、その分トリッキーな演出はyoruに集まっていきました。
YAVAO:6Fは僕らも交えてセトリを一緒にがっつり組んで作りました。コンセプトには「昼・夜・夢」というシーンの違いがあって、そこはすでにサクライさん・コショージさんの方で決まってて、そこに対して演出プランを提案しながらセトリも作っていく、という感じでした。ライブ全体の”ルール”もわかりやすかったです。
hiruでのhuezの演出としては、前半はほとんど照明さんにお任せしていて、生っぽい色でライブ映えするような照明をお願いしました。セトリとしても「cloudy irony」や「snow irony」の様な盛り上がる楽曲を前半に持ってきています。後半からhuezの色味を出して、段々とyoruへの布石になっていくような作りにしました。
としくに:hiruはブクガの皆さんも結構明るいテンションで、結構ゆるいMCというか、お客さんと近い距離感のMCをするターンがあって、これは「Solitude HOTEL」では初めてのことだと思います。本当に表裏公演じゃないですけど、白黒はっきりつけた公演にはしようと。hiruは王道っぽく作ることを意識していましたね。
暗転後の後半では機材も盛り込んでhuezらしさを出せたと思います。暗転後「狭い物語」が始まるんですが、この曲はビジュアルも曲調も盛り上げられる曲で、暗い真っ赤な舞台で歌が続いて、最後のサビで白いサスがあたって、ラストにはバン!と青空になるっていう演出を入れました。この曲の後でさらに、音ハメレーザーが冴える「言選り」が続きます。
YAVAO:この時の「言選り」ではあんまり見たことがないような表現ができたと思っていて。舞台をビデオカメラで撮影して、その映像を背景に投影すると、合わせ鏡みたいに舞台上に無限の奥行きが出て、しかもそこにレーザーを当てると、レーザーの光の線が残像として残って、反射して奥に進んでいくような絵になるんです。ライブ全体の中でもわかりやすいピークを作れたと思っています。
としくに:その後「十六歳」を挟んで「karma」が入るんですが、ライブ演出でどうしてもミニマルに見えてしまう瞬間を壊せる力がこの曲にはあるな、と思っていて。僕らは「karma」を4Fからやってて、この回ではhuezの集大成が見せられたと思っています。ある意味、構造的に完成している。VJがバリバリ入って、ストロボがバンバン焚かれて、レーザーがビュンビュン。
レーザーとカメラによる演出
ーー対するyoruではセトリもがらっと変わって、huezさんの演出比重も増えたように見えました。
YAVAO:yoruは序盤から「huezゾーン」が詰まってた。hiruとリンクする部分もたくさん作りました。
YAMAGE:たとえば「karma」では別途撮影した映像をyoruで使ったりしてます。
としくに:昼に行ったリハーサルの「karma」を録画して、その映像を投射しました。同時に会場を撮影しているカメラの映像にスイッチしたりして、後ろに映ってるブクガのメンバーが、生で撮影しているものなのか予め用意した映像なのか分からない、という演出ができました。ブクガに限らずダンスアクトって、基本的に毎回ほぼ完璧に同じ動きになるので実現できた演出です。ここはかなりhuezの作家性を出せた部分でした。
YAMAGE:hiruの「言選り」で使った演出をyoruは「faithlessness」で使っていて、「karma」でも同じ演出かな、と思って見ていると時々録画が挟まるので、なおびっくりします。hiruとyoruでは衣装も違いますし。あとでSNSを見たら「これどうなってんの!?」みたいな反響があって嬉しかったです。
としくに:あとは「rooms」ですね。もともとこの曲にはサビとCメロで舞台が真っ暗になる、完全に照明が暗転する演出があるんですけど、hiruは通常通りの演出で、yoruはその明転部分と暗転部分を真逆にする、っていう“逆rooms”をやりました。これはサクライさんのアイデアです。
真っ暗な時間がめちゃくちゃ続くので演出としては正直不安で、サクライさんに確認したんですが「絶対大丈夫だからこれはやろう」と。僕らはアーティストさんを信じるので、不安はあるけれどやってみよう、見てみようと。そうしたら、やっぱり成立するんですよね。僕はこの時またひとつ信用したんです。サクライさんとかコショージさんとかが言ってる「絶対大丈夫」は無条件で信じようと思ったんですよ。むしろガンガン背中を押そう、100パーセント信じよう、と思えた。そういうきっかけになった演出ですね。
ーーhiru、yoruともに楽曲セットリストの制作段階から深いコミュニケーションを重ねたことで実現した演出が多々あったように思います。演出素材の制作などはどのように進んだのでしょうか?
YAVAO:6Fに関しては5Fに引き続きTouch Designerで作った映像素材をたくさん使ったので、そういうのは随時、上がったものからサクライさんにバンバン共有してました。ド深夜に素材をお送りしたら「あ、サクライさん起きてた」みたいなこともあります。
としくに:ただ、どうしても制作が佳境に入ってくると「ここまではやろう」「ここに手を付けると今からでは間に合わない」みたいなゾーンに入ってくるので、そういう時間とクオリティのバランスは僕が見るようにしています。そこはサクライさんにも理解していただけているので、「当日までにいかにクオリティを上げるのか?」という本質にフォーカスできます。
当日の話をすると、2つの公演を1日で行うため仕込みが多くて大変でした(笑)。当日の0時に会場入りして、24時間会場にいました。舞台監督さんが入ってくれたのはありがたかった。ガッツリ仕込んで、全く違うワンマンライブを2本やるというのは初めての経験で、着席とスタンディングで客層も少し分かれて、そういうことが知れたという意味でも勉強になりました。あとはサクライさん、コショージさんに空っぽの舞台で照明を見せる、テクリハ的なやつを6Fからはじめました。ゲネプロとは別の「光を見る時間」を独立して作ったことで、かなりイメージの共有が楽になりましたね。これは今に至るまで継続しています。この公演で、現行の制作フローがほぼ固まったという感じです。

出典: realsound.jp

“逆rooms”の一幕。

「機材屋」と「演出家」の間で奔走
ーー「hiru/yoru」公演からちょうど3週間後の12月16日、「Solitude HOTEL 6F yume」が開催されました。
としくに:「hiru/yoru」を作ってる途中に「yume」をやるのがほぼ確定して、「『yume』ではニューアルバム(yume)を丸々やろう」という話になりました。「hiru/yoru」をあそこまで振り切ったコンセプトライブにできたのは、「yume」が決まっていたからだとも言えます。だから、セトリは一瞬で確定したんですよ。ニューアルバムの途中からライブを始めて、アルバムのラストからスタートにつないで……っていう流れも速攻で決まりました。
課題だったのは演出です。「hiru/yoru」であそこまでコンセプトに振ってしまったので、王道のアルバムリリースワンマンライブをどうやって盛り上げるか、という。あと、「hiru/yoru」の演出が光を使った「舞台外からのアプローチ」だったので、「yume」に関しては美術やブクガさん自身にフォーカスした「舞台上からのアプローチ」を取る必要があるかな、とも思っていました。ただ、ブクガさんとの仕事で舞台上のアクトに干渉するのは初めてのことで、huezのテクニカルの部分とメンバーの動きを合わせていくのが難しかったです。サクライさんからたくさんアイデアやルールの解説、要望をもらって、舞台上にベッドを置いたり、あとはOHP(オーバーヘッドプロジェクター)を舞台上に置いて、ブクガの皆さんに触ってもらう演出も入れました。5Fの「レインコートと首の無い鳥」で初登場したペストマスクも取り入れて。この公演で試した舞台上からのアプローチは、7Fのときにも武器になりました。
あと、僕の中で「ブクガ筋」って言い方をしているんですが、メンバーの皆さんはみんな謎の筋肉が付いていて、例えば「暗転の間を平然としている」って、すごく怖いことなんですよね。彼女たちはその状態で舞台を持たせる、テンションを張り続けるための”筋肉”がとても鍛えられているんだ、っていうのはそのとき改めて感じました。「オルゴールが鳴っているなか、ぼーっと空を見上げているだけ」を成立させるのはすごい筋肉ですよ。普通だったら怖いですよ、あの間。「何もしていないじゃない?」って。でも「『何もしていない』をしている」から、しっかり立っていられる。
YAVAO:制作としては、いつになく大量に映像を作ったライブでした。このアルバムはインスト曲がとても多くて、メンバーさんのハケるタイミングも多数あったので「int」「move」とかも僕が映像を仕込んでいます。「rooms」もいつもとちょっと違う演出にしてて、MVの素材をもらって背景に入れ込んで、メンバーの顔がおぼろげな形で見えるようにしました。「ボーイミーツガール」では少女の映像素材にモーフィングエフェクトをかけたり、ノイズをガリガリに走らせたり、顔をグリッチさせたりして。
「ボーイミーツガール」でよく覚えてるのは、少女たちの顔を歪ませるのであんまりエフェクトかけるとさすがに気持ち悪いだろうなと思って、最初ちょっと控えめに作ったんですよ。そしたらサクライさんに「もっとやんなきゃダメですよ」って怒られて、結構はっとして。サクライさんのスタンスを勉強させてもらった瞬間でした。尖ったことをちゃんとやろう、みたいな。
それでもっと気持ち悪い感じでエフェクトガリガリにして、それをずっと一人で編集してたんで夢に出てきて……(笑)。
としくに:サクライさんから勉強させてもらう瞬間は度々あって、結局僕らはどこかで自分たちのことを「機材屋」だと思っているので、ハードの限界とかで無意識に自分を縛ってしまうんですよね。この公演で「yume」のサビをどうするか、という話をしていたとき、「サビの瞬間にプロジェクターで真っ白の光を当ててください、それ以外いりません」って言われて。僕らはそういう演出が舞台で成立するのか不安に思ってしまうんですが、実際に本番で目の当たりにしたらきれいに成立している。こういう演出プランは機材屋的な発想では出せないです。
ーー当日の仕込みはいかがでしたか。
としくに:照明の釣り物とかはそこまで派手ではなかったんですが、舞台上からのアプローチを取った結果、リハでやることがめちゃくちゃ多かったです(笑)。メンバーの出ハケのCueシートとか、全部僕が書きました。舞台監督さんとベッドメイクもしました。
本番でよく覚えてるのがYAVAOのアドリブでした。YAMAGEは事前にキメキメに作った素材で完全に決め打ちのオペレーションをするのに対して、ヤバはまれに、その場の機転で演出を変えることがあって。よく覚えてるのはラストに幕が閉じている時、予定ではプロジェクターの光を落とすはずだったんですよ。でもまだ光が残ってるときにヤバが、「合ってるから放置」って言ってフェーダーを降ろさなかったんです。
YAVAO:なんかあそこで白いのを消すと、予定調和すぎて気持ち悪いなと思って。
としくに:みたいなことを突然やったのでビビりました。確かに舞台には合ってたんですけど。あとアドリブで言うと、本番中にサクライさんが寄ってきて、「これやってください」みたいなことを突然言う時があるんですよ。そういう本番のアドリブが成立するようになったのは、クルーがある程度完成してきたからだろうとは思っていて。それは信頼関係のひとつだから嬉しいんですけど、心臓は痛いです(笑)。
YAVAO:これはワンマンとは関係ないんですけど、あるフェスにブクガが出た時、出番直前にLEDディスプレイがバグってしまい、急遽僕らがその場で「バグっぽいノイズ映像」を用意してVJしたことがあります。結局ディスプレイの故障が悪化して、右半分が映らなくなってしまったんですが、そこにサクライさんが来て「画面に『bug』という文字を表示できないか」と言われて。どうにかその場でテキストを表示して続行したんですが、あれはトラブル対応で全員が機転を利かせて動けた事例でした。
個人的には、トラブルはチャンスだと思っています。トラブルによりその場のお客さんしか得られないコンテクストが発生するので、それを利用してエポックな体験を生み出したい。その後Twitterでお客さんが「バグも演出だと思った」とツイートしていたのを見て、嬉しかったですね。

出典: realsound.jp

照明のシュート用メモ。

世界観を守りながらエンタメを成立させる
ーーそして年が明けて2019年4月、「Solitude HOTEL 7F」が開催されました。
YAVAO:7Fは最初に世界観の資料が送られてきて、その情報を整理してまとめるところから始まりました。7Fの世界観解説図みたいな物をもらったのですが、結構難解で。
としくに:このライブの前に「SOUP」というシングルが発売されてて、それをベースにしたビジュアルとか、楽曲の世界観なんかは組み上がっていました。なのでその世界観の説明をもらうところからのスタートです。その中で出てきた「首だけの鳥」っていうキャラクターについて確認したり。サクライさんに「ヨナって名前なんだよ」と言われて。
あと7Fでは舞台美術のデザインも初めてhuezでやることになりました。特殊照明的な立ち位置からスタートして、舞台上にもアイデアを出して、7Fは本格的に「演出」っていうパートで関わった公演でした。昭和女子大学人見記念講堂、という舞台でやったんですが、初めて特殊効果(特効)も入れて、舞台上で煙を焚きました。
あそこは天井が高いので、スクリーンを飛ばしきったり、赤い布を天井に上げきったり、そういう演出も取り入れて。かなり色んな所に手を入れているんですが、実は、過去のライブの中で機材量が一番少ない公演です。うちが持っていったの、プロジェクターとOHPだけなので。あとは舞台美術です。
YAVAO:今回は美術も入ってるのでレーザーもカットになって、7Fは比較的映像を作るターンが多かったです。久々にやった「bath room」ではMVを編集したり、「おかえりさよなら」では当日の本番開場1時間前に撮影した映像を即書き出して編集したり……。あとはOHPのハラタさんにも来ていただいて。「まんげつのよるに」のOHPが美しくて、個人的にすごく好きです。「新しい曲からどんどん古い曲に戻っていって、また新しい曲に戻っていく」っていう仕掛けがあったので、映像でもそれを見せたくて、結果的に過去のライブ映像を全部編集することになりました。5時間、6時間分のデータを全部切り刻んで。
あと「sin morning」でブクガなりのサービス映像だと思って、会場のカメラで撮ったアップの映像にリアルタイムでエフェクトをかけてバックに出したり。
としくに:アイドルのライブって背景に顔アップが映る「サービス映像」のタイミングが絶対にあるんですけど、これをブクガ流でやるならどうしよう、と思ったんです。結果的には顔は映っているんだけど、エフェクトが掛かっててよく見えない、みたいな映像になりました。
演出側の意識としては、今までの「Solitude HOTEL」では王道のライブをするか、すごくコンセプティブで尖ったライブをするかの2択だったんですけど、このライブは両方を掛け合わせたライブじゃないとダメだった。ブクガの色のままで、いろんな視点から楽しめるショーを作る必要がありました。
YAVAO:ハードがシンプルだったので、メンバーさんのパフォーマンス力がよく見えるライブになったと思います。最初にサクライさんからもらったテキストと「世界観のルール」が5Fや6Fよりも強力だったので、そのルールを守りながらエンターテイメントとして成立させること、ブクガのお客さんが求めているエンターテイメントをどうやって作るのか、ということに苦労しました。
としくに:たしかにそうだね。お客さんの目も肥えていくじゃないですか。ファンの方もブクガのライブを見に来るセッティングができてる。7Fのときは、暗転の後の、お客さんの拍手の間が上手だなって思った。ライブの間を理解していると言うか。特に難しかったのは濡れるシーンです。ブクガのみなさんが水に濡れて出てくるシーンがあって、水浸しのコショージさんが絶叫してポエトリーを読むんですけど、濡れてることを舞台上でうまく伝えるのが難しかった。後から映像を確認したらいい感じに見えたんですけど、現場では遠くの席からはどうしても見えづらかったんです。
YAVAO:世界図を読むと「他の世界に移動するとき水面を通る」ようで、それで濡れたみたいです。
としくに:あとは中盤の「cloudy irony」から終盤にかけて映像にブロックノイズみたいな白い四角いノイズを入れるシーンがあって、これは「7F」で初めて取り入れました。曲中に白いノイズがだんだん増えていって、最後、会場に煙をぶわっと焚く。煙が出るタイミングでそのノイズは消すつもりだったんですが、本番中にサクライさんから「ブロックノイズ続けてください!」って言われて。
YAVAO:プログラム的に、ブロックノイズを出し続けられる設計にはなってなかったんですよね。いきなりのオーダーで、しかも目の前でライブは進んでて時間もない。どうにかその場で2分ぐらい使ってTouch Designerを組み替えて、「ブロックノイズを増やせるフェーダー」を作りました。
としくに:そしたらサクライさんがチラチラこっち見るんですよ。本番中に手が空いてて操作できるの、僕しか居ないんで(笑)。なのでそのフェーダーを急遽本番中に動かしました。ぶっつけ本番で横にいるサクライさんにフェーダーの上げ具合を指示されながらバーってフェーダー上げて。そしたらプロジェクターで投影したブロックノイズが、焚かれた煙の上に投影されて、「ブロックノイズが客席に迫ってくる」っていう面白い演出ができた。ホッとして見てたらまたサクライさんが寄ってきて、なんか怒られるのかな、って思ったら「OKです!」って言われて。それは本番後でいいよ!って(笑)。
こういう仕事は同じことの繰り返しになってしまうこともありますが、ブクガは絶対同じことをしてこないので楽しいですね。「謎解き脱出ゲーム」みたいだな、って思うときがあります。サクライさんとかコショージさんとかYAVAOが作ってくる謎解きゲーム。

出典: realsound.jp

空間演出イメージ

担保された安心を破っていく演出
ーー早足ですが、ここまで「Solitude HOTEL」についてお聞きしてきました。としくにさんは過去にこの連載で「日本のライブは空間ではなく、タレントを見るために機能していることが多い」とおっしゃっています。「Solitude HOTEL」においては「セットリストを脚本として捉えて可視化する」というアプローチを取りつつ、空間の説得力を強めたいという意図を感じました。
としくに:そうですね。Maison book girlに関しては、おそらくメンバーの4人以外にもいろんな部品がブクガを構成していて、「Solitude HOTEL」ではそれぞれのパーツを集めてMaison book girlという形を見せているんだと思います。舞台が真っ暗でもメンバーは踊るし、そもそも舞台にメンバーが居ないシーンもある。個々のタレントの意思よりもMaison book girlを成立させることが重要で、それにメンバーも自覚的だと思う。だからいい意味でタレント性の薄いライブが行われているように思います。
YAVAO:「タレントを見せるだけ」で場を持たせようとするライブが多いなとは思っていて。そういうライブにはタレントの面白さ、タレントのコンテンツ性がライブ中に消費されちゃうリスクがある。対してライブにタレント性がもはや消えちゃうぐらいの演出が入ると、その後改めてタレント性が立ち上がってくる。そういうメリハリの面白さを提案したいです。
としくに:タレントと演出の競争みたいな。もちろん演出も、僕らがバッキバキにやり過ぎるとテクノロジーライブみたいになってしまうのでこれもまた違うんですよね。例えば「流体のOHPを背景に語られるポエトリーリーディング」が正解なのだとしたら、そこで演出が立ちすぎても引きすぎてもいけない。タレント性をむやみに消費しても埋没させてもいけない、そういうバランスを考えながら演出を入れていく。
YAVAO:「Solitude HOTEL」には毎回強いストーリーがあるので、メンバーのタレント性で見せる方向性とは違う、ストーリーを主軸にした演出を意識しています。
としくに:もちろんタレント性を見せる演出も入れますが、「一般的なワンマンライブ」と比べたら少ない。というより、僕の中では本当に「ホテル」を作って見せている感じなんです。ブクガのメンバーもプロデューサーのサクライさんも我々も、全員同じ立場で、「Solitude HOTEL」を表現しています。
ーー4F~7Fまでの中でhuezの役割がどんどん明確化して、同時に請け負う部分が増えていきましたね。
としくに:「見たことないものを見せたい」という意識がメンバーやサクライさんにあって。煙がバーッて出てくるとか、気づいたら舞台から人が消えているとか、真っ暗な中で歌うとか。人って見たことないものを見るとびっくりするので、僕的には手品とかホラーに近い見せ方だなと思っています。
YAVAO:としくにさんは「ホラー」っていう言葉で表現するんだね。俺は「お客さんに余裕を与えない」っていうテーマを持っていて。エンターテイメントを楽しむお客さんの中には、ある程度「虚構が担保されている」というか、「嘘の世界なんですよ」っていう前提があって、そういう気配が最近、より強くなっているように思います。でも、その担保されている安心を破っていく、安心を壊していくことで「作家性」を見せていけるんじゃないかと。お客さんに余裕を与えない姿勢というか、それを気に入ってくれるお客さんももちろんいて、そういう人が次も見に来てくれるんだろうなと思って。
としくに:同じ意識だと思うよ。ホラーもそうなんだけど、要は「いつ驚かされるか分からない」から面白い。僕がいつかやりたいのは、見ている場所とかで体験の内容が変わるライブ。みんな同じライブを見にきたのに、捉えているものが違う、みたいな。
ーー次回の話も少しだけ。年明けの2020年1月5日、LINE CUBE SHIBUYAで「Solitude HOTEL ∞F」が開催されます。今回もhuezさんが演出に入っています……よね?
としくに:もう百も承知でしょう。
YAVAO:まだ明確なストーリーとか世界観をもらっているわけではないですが、現段階でできる準備をしながら感度を上げています。あとは、ライブ演出に関係ありそうなあれこれに手を伸ばして、映像作家さんとかいろいろチェックしたりしていますね。
としくに:僕はやりたい仕掛けがあるので、それの準備だけ頭の中に入れておく、みたいなフェイズです。予想されるテーマに関連した技術を探したり、武器探しみたいなことをやってます。「yume」のときも「夢」に関連する何かネタ探しをしてました。6Fの頃ぐらいからはその1つ次の公演のことも考えるようになって、「7F、8Fってどんな感じになりますかね?」って聞いたんですよ。そしたらコショージさんとサクライさんは「8って横に倒したら無限(∞)になりますよね」ってその時点で言ってて。8はなんかすごそうだな、やべえ!スケジュール空けとこう!みたいな心構えはできていた。
YAVAO:4Fがかなり挑戦的なライブになったこともあるからね。それの2倍の8Fっていうのもある。
としくに:そういう本人からこぼれるキーワードを拾っておくというのも結構重要なんです。こないだとかもサクライさんと話していて、「逆に9Fはいらないかな」って。「逆」ってなんだよ!っていう(笑)。
YAVAO:違った形で9Fを作るってことかもしれないね。まだ何もわからないですけど。
としくに:どんな形でもアウトプットできる方々なので、次回以降も面白い物を見せてくれると思います。この間のAmazon購入者限定公演とかは演出にサクライさんが入ってなくて、コショージさんと僕らで一緒に作る公演でした。あとダンスにもステージの体の動きに関わる方が増えて、本人たちのパフォーマンスもどんどん向上している。次回は身体性もバキバキ使った公演になるだろうなと思っています。

出典: realsound.jp

Maison book girlの削除(=活動終了)

2021年5月30日、まさに青天の霹靂ともいうべき、Maison book girlの削除(=活動終了)がオフィシャル・ホームページにて公表された。
ここで「削除」と言っているのは後述するように、オフィシャル・ホームページでは「活動終了」という単語を一切使用しておらず、「Maison book girlは削除されました」という表記になっているからだ。
2021年5月30日は、Maison book girlにとって10回目となるワンマン・ライブ「Solitude Hotel」が千葉県の舞浜アンフィシアターにて開催された日である。そのライブのオープニングにおいて、まずMaison book girlのオフィシャル・ホームページのURLがステージ後方のスクリーンに映し出される。そしてライブ終了後、エントランスにおいて、来場者にそのオフィシャル・ホームページのURLが書かれた青い紙が手渡された。そして来場者がそのURLを訪れると、そこには今までオフィシャル・ホームページにあったコンテンツは何もなく、「Maison book girlは削除されました」の文字が書かれていたのだ。

オフィシャル・ホームページの内容は以下の通り。

Maison book girlは削除されました。
あなたが探していたものは現在このアドレスには存在しません。
ここには何もありません。
コンパクトディスク及びインターネット上のミュージックアーカイブは一部を除き削除されません。引き続きお楽しみください。

※Blu-ray disc「Solitude HOTEL」https://solitudehotel.fc2.net/blog-entry-1.html

このエラーページを探していた場合はおめでとうございます!
あなたは完全にそれを見つけました。

上記のように、ここにはMaison book girlの解散の文字も活動終了の文字もなく、ただ「削除」の単語があるだけである。
これが彼女たち流の(サクライケンタ流の、といってもいいかも知れない)最後の挨拶になるのかどうかわからないが、各種音楽サイトはすでにMaison book girlの活動終了の旨を記事にしている。
以下、それらネット記事の中から、音楽ナタリーに掲載された「削除されたMaison book girl、最後のステージで何が起きたのか」を引用する。
2021年5月30日、「Solitude Hotel」で何が起きたのか、その前兆とも思えるような不穏な現象とはどういったものだったのか、が分かる内容となっている。

4月にはおよそ4時間かけて全楽曲を披露するワンマン「Solitude HOTEL 9F」を実施したブクガ。彼女たちはこの4月のライブ内で舞浜アンフィシアター公演の開催を発表したが、その告知ビジュアルは文字化けを起こしていたり、HTTPステータスコードにおいてURLが存在しないエラーを意味する「404」という文字が書かれていたりと、どこか不穏なものとなっていた。さらに「Solitude HOTEL 9F」終演後から時間が経つにつれ、グループのオフィシャルサイトは一部ページが開けなくなる、各メンバーのアー写が原型を留めないほど歪む、トップページのレイアウトが崩れるなど徐々に変貌。加えて「Solitude HOTEL」の特設サイトでは、舞浜アンフィシアター公演の終演時刻である5月30日19:00に向けて謎のカウントダウンが行われていた。

この一連の告知を受けて不安そうな様子を見せているファンも多い中、いよいよ開演時刻に。暗転と共に「last scene」が流れ始め、ペストマスクをかぶった人物がステージに出現。彼がステージ中央に置かれた青い紙を手にすると、その紙に書かれていたブクガのオフィシャルサイトのURLが舞台後方のスクリーンに映し出された。ペストマスクの人物がゆっくりステージから立ち去ると、今度は2017年12月に行われたワンマン「Solitude HOTEL 4F」でも使用されたものと同じVTRが上映され、メンバーが登場。序盤は「sin morning」を皮切りに、「Solitude HOTEL 4F」冒頭のセットリストと同じ曲順で「rooms__」「lost AGE_」「end of Summer dream」といった楽曲が披露された。

彼女たちのいるステージは薄暗く、青空や夜の街中といったイメージ映像がステージ後方のスクリーンに投影されているものの、4人の姿はかすかにしか見えない状況。6曲目「bed」のパフォーマンスを終えるとメンバーは、新型コロナウイルス感染拡大の影響でいくつものライブが延期になったことや、ライブを観ているオーディエンスに対する思いを語り始める。彼女たちがこのMCをしながらぎこちなく客席に向かって手を振ると、時折PCのUSBを抜いたときの音や接触不良を起こしたような音がフロアに鳴り響いた。2017年の「Solitude HOTEL 4F」ではMCのあとに「cloudy irony」が披露されたが、矢川葵が「次の曲は『cloudy irony』」と曲紹介をするものの、始まったのは「karma」。曲が始まると、パフォーマンスする4人の姿をますます見えなくするように、メンバーの手前に張られた紗幕に映る砂嵐のようなノイズが観客の視界を塞ぐ。曲は途中から、「karma」のトラックとメロディで「cloudy irony」の歌詞を歌う「river」へとノンストップで移行。砂嵐はどんどんと荒れていき、曲の終盤になると4人の姿がほとんど見えない状態に。スモークに包まれたステージ中央がせり上がってくると、そこには床に座り込んだメンバーの姿があった。それまでパフォーマンスをしていたかに見えた4人は、実はスクリーンに投影された事前収録した映像だったのだ。映像の4人はそのまま砂嵐の中に埋もれて消えていくが、新たに現れた4人はうつむいたまま歌わず、曲のバックトラックだけが流れていく。そして曲が終わるとサイレンのような音がこだまし、ライブ本編の始まりを告げるように、スクリーンに「Solitude HOTEL」のロゴが写し出された。

ステージ後方のみを使い、映像を投影した前半から打って変わり、ここからブクガは、中央の円形部分も使用してパフォーマンスを行っていく。「レインコートと首の無い鳥」終盤にはステージ中央の円形の床がせり上がり、シングル「cotoeri」リリース期の衣装に身を包み、フードをかぶって顔が見えないダンサー4人が登場。「townscape」ではこのダンサーも加わり、8人体制でのステージングが繰り広げられた。「闇色の朝」は顔に穴の開いた人物がミュージックビデオに出てくることに合わせたのか、円形のセリ台を下ろしてステージ上に大きな穴が空いたままパフォーマンスを展開。この穴の中で虫がうごめく様子を表現するかのようにレーザーライトを穴に当てたりと、MVとリンクするような演出が施された。最初期のライブで披露されていたポエトリーリーディング「眠れる森」では、ステージ中央の回転床が起動し、メンバーはこの上を歩きながら朗読を行った。

ライブではおなじみの映像を用いた楽曲も、これまでとは異なるエフェクトが掛けられたものに変わった。真っ赤な草原の映像が特徴的な「狭い物語」は白黒に変更。脳活動の情報を解読・再構成した画像を用いた「夢」も画面が白黒にされ、楽曲自体もメンバーの声以外はハンドクラップのみというアカペラアレンジになった。「十六歳_」では「0」「1」の文字コードが後方スクリーンいっぱいに映され、何かのシルエットを示すように各文字が入れ変わっていた。

もう1つのポエトリーリーディング「non Fiction」ではメンバーが1人ずつステージに登場し、ペストマスクの人物に向かって“君になりたい僕”について語りかける。4人とも泣き出しそうなほど声を震わせ、これまでにないほど感情を露わにしていた。ラストに全員がステージに集合し、一緒に「僕を見つけて」と絶叫。ステージは真っ暗になり、鉄を打ち付けるような音がフロア中に鳴り響く。しばらく経つと、メンバーが消えた誰もいないステージから客席に銀テープが発射され、その瞬間、会場はセミの鳴き声でいっぱいに。そこからポエトリーリーディングの1つ「シロの夢」で使用されたノスタルジックなピアノのメロディが流れ始めた。

再びメンバーがステージに戻ると、変拍子のハンドクラップでおなじみの「bath room」がスタート。ところがこの曲は歌詞がすべて差し替えられ、歌メロもまったく別物になっていた。この初披露曲で彼女たちは「僕たちは いくつもの ユメをみる その先で また 君と出会えたね ゆっくりと 影たちの 悲しみが 消えていく 運命を くり返す」「僕たちは いくつもの ウソをつく その愛で また誰か 傷つけて 吐き出した 空っぽな 言葉には 消えていく 運命を 救えない」と歌唱。そして「last scene」が流れると、またもステージは照明が落とされ薄暗い状態に。会場内はどんどんと暗くなっていき、最終的にはメンバーの姿がまったく見えなくなってしまった。サビの「僕らの夢はいつも叶わない。きっと。」という歌詞を彼女たちが歌い終えた直後、曲をぶった切るように突然無音に。ようやくステージが明るくなるが、メンバーはどこにも見当たらない。余韻に浸る間もなく終演のアナウンスが流れ、そのまま「Solitude HOTEL」は終わりを迎えた。

終演後のエントランスでは来場者に、ライブ冒頭でペストマスクの人物が拾い上げた青い紙が配布された。この紙にはブクガのオフィシャルサイトのURLが書かれており、アクセスするとページは真っ青でシンプルなデザインに変化していた。そこに書かれていた「Maison book girlは削除されました。」という短いテキストによって、グループの活動終了が告げられた。

出典: natalie.mu

このようにしてMaison book girlは削除されてしまった。
最後の正式な挨拶もなく、何のコメントも発表されないままの終焉というのは、やはりMaison book girlらしい、と言えるのだろうか。
サクライケンタはこれからどうするのか(クマリデパートはまだ活動を続行するようなので、そちらに集中するのか)。
4人のメンバー、井上唯、コショージメグミ、矢川葵、和田輪のこれからの動向はどうなるのか。
あるいは極端なことを言ってしまえば「Maison book girlは本当に活動終了してしまったのか」。
様々な謎を残したままというのも、これはこれでMaison book girlらしいのかも知れない。

yamada3desu
yamada3desu
@yamada3desu

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クマリデパート(Qumali Depart)とは【徹底解説まとめ】

クマリデパート(Qumali Depart)とは【徹底解説まとめ】

クマリデパートとは、サクライケンタがプロデュースを務め、「完全王道アイドル」として2016年に結成された日本の女性アイドルユニット。ミスiD2016ファイナリストの羽井リサコ、同セミファイナリストの優雨ナコに加え、サクライの知人から紹介された早桜ニコの3人組としてデビューを果たす。2018年5月、羽井が卒業するとともに、新メンバー、小田アヤネ、楓フウカ、比奈ミツバが加入。同年6月、比奈が脱退。2020年2月、山乃メイ、七瀬マナが加入。2023年3月、日本武道館単独ワンマンライブを開催した。

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