ゴジラ2000 ミレニアムの魅力を語り尽くす！現実問題を取り入れた意欲作！【ネタバレ注意】

48.突然変異

UFOの残骸の陰からミレニアンの成れの果て、怪獣オルガが出現。オルガナイザーG1を無理矢理吸収したことで元の姿とは似ても似つかない姿になったのだ。製作側曰くオルガの姿はかのエメリッヒ大イグアナを題材にした模様。ゴジラは自らの体の急激な変化に戸惑うオルガの隙を突き「体を返せ！」と言わんばかりに激しく噛み付く。

49.翻弄するオルガ

しかし簡単に漁船を噛み砕けるゴジラでもオルガナイザーG1で強化された皮膚を食い破ることは出来ない。オルガは左肩の波動砲を撃ち、ジャンプしてゴジラの関心を自分に向けた隙に念力で操るUFOの破片をぶつけゴジラを転倒させる。不意に破片をぶつけられるゴジラの気分を観客も体感できるカメラワークが面白い。

それにしても肉体の急激な変化にも関わらず自分自身の能力をすぐに理解しゴジラを翻弄する作戦を瞬時に立てて即実行するオルガの知性はかなりのものだ。怪獣を知性の欠片も無く力任せに暴れるだけの存在と認識する人もいるようだが、ミレニアム本編にそんな怪獣は一切登場しない。

50.破壊力と再生力

ゴジラが放射熱線を吐こうとしていることを察知したオルガは再びUFOの破片を念力で操り盾代わりにするが、ゴジラの放射熱線はUFOの破片をあっさりと粉砕しオルガの体を抉り取る。ここでオルガナイザーG1の治癒力が発動しオルガの傷口は再生していく。CGと着ぐるみの併用で驚異的な再生力を表現している。ケロイド状の傷口が痛々しい。

51.貪欲なる侵略者

激しく咆哮したゴジラはオルガに接近し、尾で脚を払うことで転倒させたオルガの左腕に噛み付く。オルガは起き上がってゴジラを振りほどき、ゴジラの左腕に噛みついて体力を吸い取る。皮膚がゴジラに似てきたオルガを見た篠田は、オルガがゴジラになろうとしていることに気づく。

52.原爆の犠牲者のような姿

オルガを振りほどいたゴジラはしつこく噛み付こうとするオルガに放射熱線を撃ち込み爆発炎上させる。それでもオルガは死なず焼けただれた姿で炎から這い出てくる。その姿は原爆投下直後の広島長崎の人達そのものだ。侵略者オルガは核の権化ゴジラの被害者でもあることを示す場面といえよう。

53.知性で死闘を制する破壊神

皮膚を再生し大きく口を開くオルガにゴジラは自分から飲み込まれる。背びれも生えゴジラ化完了を目前にしたオルガだが、ゴジラの体が光り「しまった！」と言わんばかりに目を見開いた直後に爆死。ゴジラに成り代わるオルガの野望を逆に利用した作戦を瞬時に立てて即実行するゴジラの高い知性が死闘を制する決め手となった。結局千年王国は見果てぬ夢のまま終わったのである。

54.侵略者の最期

征服欲に溺れ大東亜共栄圏という見果てぬ夢を追った大日本帝国が破滅したように、征服欲に溺れ千年王国という見果てぬ夢を追ったミレニアン＝オルガも破滅した。灰になって崩れ去るという原爆の犠牲者にそっくりな最期も強烈である。

55.次なる標的

突如ゴジラが迫ってきたので篠田達は逃げる。ところが片桐はまだ権力と武力でゴジラを打倒するという信念に囚われているのか、あるいは逃げても無駄と悟ったのか一人でゴジラと対峙。ゴジラが東京に来たのは東海村で自分を攻撃したUFOだけでなく片桐へのリベンジを果たすためだったのだ。

56.権力者の最期

ゴジラが足場を崩し始める。片桐は自分を助けようとする篠田を殴り逃げることを拒否。破壊神の名を叫ぶ権力者を直後に破壊神が叩き潰す。独裁的権限を有する権力者も破壊神の前ではただの人。東海村で破壊神に攻撃を仕掛け怒りを買った時点でこうなることは決まっていた。

権力を私物化せず非常時の緊急対応に取り組んできた片桐の姿勢自体は素晴らしいのだが、どれほど権力を濫用しても破壊神の打倒など不可能だと認識していなかったのが命取りだ。私利私欲とは無縁の人物が強権を行使しても破壊神を打倒出来ず結局敗死という結末は、暴走する国家権力の限界と人智を超えた存在である破壊神の強大さを物語っている。

57.破壊神を眺める人達

生き残った篠田達は暴れ回るゴジラを呆然と眺める。実質的にCCIを一人で背負っていた片桐の死は事実上のCCI崩壊に他ならない。結局ゴジラ打倒のため日本政府が作り上げた組織や制度はそのゴジラによって完膚なきまでに壊滅させられた。ゴジラに喧嘩を売った日本政府はそのゴジラに完敗したのである。誰もゴジラを止めることなどできない。

核という科学の暴走の産物が生み出したゴジラ。ミレニアムに登場するゴジラは人類の傲慢さ、愚かさ、罪深さの象徴であり、破壊によって科学や権力、武力を濫用する人類に制裁を加える破壊神だ。

58.同じ過ちを繰り返す日本政府がもたらした結末

侵略者と権力者を滅ぼし東京を火の海にする破壊神の姿が本編を締め括る。ゴジラを殺す発想自体に反対する篠田の正しさに片桐が最初から気づいていればこの最悪の結末は回避出来ていた。ミレニアム本編の日本政府が東京から遠く離れた場所にいるゴジラに攻撃を仕掛け怒りを買い東京炎上をお膳立てという初代ゴジラの時と同じ過ちを繰り返しているのを踏まえると、ここで初代ゴジラと同じ構図が使われているのも絶妙だ。破壊神の怒りに触れ東京が火の海に変えられるミレニアムの結末は、旧約聖書におけるソドムとゴモラの滅亡にも通じるものがある。

59.ミレニアム本編のまとめ①

以上がミレニアムの本編である。対ゴジラ兵器が地味、敵怪獣が醜い等色々叩かれることが多いが、実は初代ゴジラの要素を細かい部分まで取り入れつつ、ゴジラに立ち向かう日本政府や自衛隊こそ実は民間人を巻き添えにする怪獣同然の存在という現実を本編に反映した希少なゴジラ映画なのだ。

初代ゴジラの要素をただ取り入れるだけなら二番煎じだが、ミレニアムの場合初代ゴジラのガイガーカウンターが鳴る描写を人体以外への放射能の影響を映像で見せる、敵怪獣であるオルガを原爆の犠牲者そっくりの焼けただれた姿にするなど「ゴジラ新世紀」の文言にふさわしく要旨を変えずに新たな形や異なる視点からの描写で継承している。

60.ミレニアム本編のまとめ②

ゴジラを武力で倒せない存在と認識しゴジラの動きをいち早くつかんで被害を最小限に抑えることを主眼としたGPNを主催するミレニアムの主人公篠田の姿勢は、1984年版ゴジラ以降顕在化したゴジラを日本政府が打倒すべき標的と見做す風潮とは一線を画す。ゴジラを殺すこと自体に反対した初代ゴジラの山根博士の主張を継承した上に殺さずにゴジラに対応する方法を示したのは画期的だ。

こうした設定がゴジラ打倒しか考えない日本政府をえこひいきする映画になることを阻止しているのも見逃せない。国家権力のサンドバッグなどではないゴジラの途方も無い強大さを表現するには、まず国家権力にこびへつらう映画にしないことが必須だからだ。

61.ミレニアム本編のまとめ③

ミレニアムの劇中で日本政府の機関であるCCIはUFOを引き揚げ重大な危機を招く、イオを巻き添えにした先制攻撃でゴジラを怒らせる、篠田を見殺しにしただけのUFO爆破作戦と何度も間違った判断で墓穴を掘っている。CCI局長の片桐には強大な権限があるので間違った判断をしても誰も阻止出来ない。

日本政府の無謬性（＝日本政府はいつも正しいという思い込み）を全面否定し、国家や権力者の間違った判断が招く重大な危機を描いたのがミレニアムだ。これは現実問題として考えるべきである。中国や欧米に戦争を仕掛けアジア人だけで二千万人以上を犠牲にする等日本政府が何度も間違った判断をしているのは事実なのだから。

62.ミレニアム本編のまとめ④

ミレニアム版ゴジラは濃霧に隠れて根室上陸、放射熱線を吐く時の高熱を利用して口や背びれを縛るケーブルを焼き切る、わざと飲み込まれる作戦でオルガ爆殺と知力に優れ、規格外の治癒力を持つオルガナイザーG1等人類には全解明などまず不可能な生命の謎を持つ。ミレニアム製作陣が自衛隊に媚びなかったからこそここまで強大なゴジラを描けたのは明白だ。現に大イグアナを退治する結末でそれまでの米軍の失態を擁護するエメリッヒ版とは違い、ミレニアムには篠田親子を巻き添えにしたり見捨てたりしたCCIや自衛隊の暴挙を擁護する隙が全く無い。

63.ミレニアム本編のまとめ⑤

一方的に地球を攻めるID4のUFOとは違い、ミレニアムのUFOは日本政府の機関であるCCIが自ら招いた災難なのは前述の通りだが、同時にCCIや自衛隊の力の脆弱さ、ゴジラの破壊力の強大さを示してもいる。

ミレニアン＝オルガはオルガナイザーG1がゴジラ以外には制御出来ないことを示すだけでなく、強大な力でゴジラを制しようとして自分が滅びる点では片桐の映し鏡だ。そして焼けただれた姿や灰になって崩れ去る末路はゴジラ同様に核の被害者であることを象徴しているともいえる。様々な角度からミレニアムの物語に深みを与えている存在なのは間違いない。

64.ミレニアム本編のまとめ⑥

短時間で人類やゴジラについて調べ上げ地球の言葉で地球征服宣言、何本も束ね強化した地下ケーブルでゴジラを攻撃、不意に破片をぶつける作戦でゴジラを転倒させる等ミレニアン＝オルガの知力が並外れているのは明白だ。勿論ゴジラに成り代わることへの過剰な執着故に、オルガナイザーG1が自分には制御出来ないことやゴジラのわざと飲み込まれる作戦を見抜けず自滅したともいえるのだが。

最終的にゴジラに完敗するミレニアン＝オルガが知力に優れCCIや自衛隊の手に負えない強大な存在だからこそ、ゴジラの途方も無い強大さが際立つ。なお過去作に登場した怪獣のリメイクや派生を除けば日本のゴジラ映画の新怪獣はオルガが最後である。

65.ミレニアム本編のまとめ⑦

偽のMOを提供する形で権力者片桐の不当な要求を拒否するイオ、自発的にUFOの狙いを調査したり篠田を見殺しにする自衛隊に従わず救助に向かったりする一ノ瀬と国家や男性に従属しない女性を描いているのがミレニアムだ。男尊女卑が常態化している日本ではミレニアム本編におけるこうした女性の描き方はなかなか注目されないが、私はそうした現状を追認せず一人でも多くの方に知ってもらうためこうやって記事にした次第である。

66.『ゴジラVSメカゴジラ』について

ミレニアムと同じ大河原孝夫監督の『ゴジラVSメカゴジラ』（1993年公開）では一見ゴジラはメカゴジラのやられ役のようだが、最終的にゴジラが完勝する展開でゴジラの強大さをしっかり描いている。劇中ではベビーゴジラの卵を持ち帰るという形でミレニアム同様にゴジラ襲来の原因を作る日本の愚かさを描き、ゴジラをただの敵役にしていないのも見事だ。

67.2000年以降の日本のゴジラ映画について

ゴジラを日本が倒すべき敵役や日本の力とやらを自慢するためのやられ役として扱う2000年以降の日本のゴジラ映画は、ゴジラ映画というより日本自慢映画だ。こうした作品における女性の主要人物はゴジラ打倒しか頭にない日本政府の駒か武力や権力を濫用する男性の付属品で、男性に堂々と意見する女性やゴジラ打倒を否定する女性もすぐに死亡する端役か結局国家の意向に忠実な駒や主人公（男性）の付属品に甘んじている。ミレニアムとは違い、劇中の主要人物に国家や男性に従属せず自分の意思で動く女性が誰もいない。

ところでエメリッヒ版はゴジラ（とも呼べない大イグアナ）をやられ役にしてアメリカの軍事力を自慢する映画なのだが。

68.日本自慢映画を真っ向から否定するミレニアム

日本政府からの攻撃で怒ったゴジラがその攻撃を指揮した権力者を叩き潰し東京を火の海にして日本政府に完勝するミレニアムは日本自慢映画に成り下がる前の最後のゴジラ映画だ。自衛隊に媚びたガメラ三部作の悪影響なのか、日本自慢映画はゴジラをやられ役にして国家という組織・機構の力を自慢する形で現実の日本政府に媚を売っている。一方ミレニアムは現実の日本政府に媚びず、ゴジラに喧嘩を売りゴジラに完敗する形で国家という組織・機構の自滅を描いている。

それにしても物語の方向性が真逆のミレニアムと日本自慢映画を一緒くたにしてミレニアムシリーズと呼ぶのも変な話だ。

69.ドラゴンとミレニアム版ゴジラの共通点

余談だが心理学者エスター・ハーディング氏曰く「ドラゴンは人の脆弱な意識を育むか破壊する、人の意識の奥底に潜む非人格的な力の化身」で、要はドラゴンは人の内面に潜む恐怖、破壊、混沌等の象徴というわけだ。篠田のこの台詞も要旨は同じでありミレニアム版ゴジラはドラゴンの一種ということになる。

70.放射熱線の色について

実は私も佐野史郎さんと同様にゴジラの放射熱線はチェレンコフ光の青色が望ましいと考えている。ただポスターでは初代ゴジラの放射熱線は赤色、ストロンチウムの炎色反応色に酷似（同位体のストロンチウム90は放射性物質）、火の海の背景と適合という理由からミレニアム版ゴジラの放射熱線も気に入っている。

71.ミレニアムを継承するハリウッド版ゴジラ映画

『GODZILLA ゴジラ』（2014年公開）は数十回核攻撃しても殺せないゴジラ、武力によるゴジラ打倒に反対しゴジラの謎を追う芹沢博士、ウラン欲しさに怪獣を覚醒させる多国籍企業、結局無駄だった日米両政府の隠蔽、民間人を命の危機に晒す武力行使、原爆の犠牲者同様に体を焼き切られて死亡する敵怪獣等2000年以降の日本のゴジラ映画が捨てたミレニアムの要素を独自の形で継承している。かつてゴジラとも呼べない大イグアナをやられ役にしてアメリカ軍の武力を自慢する映画を製作したハリウッドがここまでやったことに私は驚いた。日本より海外の方がゴジラ映画を正しく理解しているのではないかとさえ思えてくる。