相棒season20(ドラマ)のネタバレ解説・考察まとめ

『相棒season20』とは、警視庁特命係の刑事コンビが数々の事件を解決していく、テレビ朝日によるテレビドラマである。
「警視庁特命係」は、不祥事を起こした刑事や辞職してもらいたい刑事が上層部の意向で送り込まれる窓際部署。“人材の墓場”とも揶揄されるここには、しかし優秀過ぎて上層部が隠しておきたい秘密まで暴いてしまう刑事・杉下右京と、その杉下への好奇心からキャリア官僚の道を捨てて刑事となった冠城亘がいた。その推理力と、上司の叱責を物ともしない行動力で、2人は難事件に挑んでいく。

『相棒season20』の概要

杉下右京(左)と冠城亘(右)。

『相棒season20』(あいぼうしーずんとぅえんてぃ)とは、警視庁特命係の刑事コンビが数々の事件を解決していく、テレビ朝日によるテレビドラマである。2000年から続く『相棒シリーズ』の20作目であり、主役の1人である杉下右京(すぎした うきょう)を初代から演じている水谷豊(みずたに ゆたか)を含め、レギュラー陣は全員が前シーズンから続投している。
2000年に放送された土曜ワイド劇場『相棒 警視庁ふたりだけの特命係』を皮切りに始まった『相棒シリーズ』は、秀逸なストーリーと個性的な刑事たちの活躍で人気を博し、日本屈指の長期ドラマ作品として定着。劇場版、小説、コミックスとメディアミックスを続けており、現在もファンを増やし続けている。

「警視庁特命係(けいしちょうとくめいかかり)」は、不祥事を起こした刑事や辞職してもらいたい刑事が上層部の意向で送り込まれる窓際部署。“人材の墓場”とも揶揄されるここには、しかし優秀過ぎて政府が隠しておきたい秘密まで暴いてしまう刑事・杉下右京(すぎした うきょう)と、その杉下への好奇心からキャリア官僚の道を捨てて刑事となった冠城亘(かぶらぎ わたる)が在籍していた。
白バイ警官狙撃事件に端を発する一連の謎を暴いていった特命係は、ついにその黒幕の1人がIT長者・加西周明(かさい しゅうめい)であることをほぼ突き止める。しかし杉下たちが決定的な証拠を掴む前に、加西は暗殺されてしまう。加西と癒着関係にあった内閣官房長官・鶴田翁助(つるた おうすけ)が、「加西が捕まれば自分につながる情報を吐きかねない」と判断し、愛人の柾庸子(まさき ようこ)に命じて暗殺者を送り込ませたのだ。その柾すら尻尾切りに使い、自らの悪事の証拠を隠滅した鶴田だったが、杉下は「あなたの悪事は必ず暴いてみせる」と宣言。鶴田の側も決して諦めようとしない特命係の2人を警戒し、これを叩き潰すために策略を巡らせていく。
その類稀な推理力と、上司の叱責や組織上層部の妨害を物ともしない行動力で、杉下と冠城は真実に肉薄していく。

renote.jp

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『相棒season20』のあらすじ・ストーリー

第1話「復活~口封じの死~」

鶴田のフェイク動画により窃盗犯に仕立てられた冠城に、杉下は「罪を認めて拘置所に向かえ」と命じる。

警視庁特命係の杉下右京と冠城亘が追い続けた白バイ隊員狙撃事件の黒幕・加西周明は、柾庸子の送り込んだ殺し屋によって毒殺される。柾は逮捕されるも、彼女に加西の抹殺を指示した内閣官房長官・鶴田翁助のことについては完全黙秘を貫き、捜査は暗礁に乗り上げていた。
そんな状況に納得がいかないのは、かつてエンパイア・ロー・ガーデン(以下ELG)という弁護士事務所に勤めていた中郷都々子(なかさと つづこ)も同様だった。柾とは同郷の友人でもある中郷は、なんとか彼女を救う方法はないかと思案した末、かつて加西がELGの所長に渡していた、彼が「切り札」だと語るどこかの鍵のことを思い出す。ELGは加西とも鶴田とも付き合いがあり、両者の癒着にも深く関与していた。

その頃、特命係の2人は郊外の牧場を訪れていた。かつて杉下がその罪を暴き、収監されていた元内閣官房長官・朱雀武比古(すざく たけひこ)が3年前に仮出所し、今はここで悠々自適に過ごしているのだという。ありえないほど短期間での仮出所に、杉下は「現官房長官で朱雀の弟子でもある鶴田が裏から手を回したのではないか」と推測するが、久々に顔を合わせた朱雀はこれを否定も肯定もせず、ただ「鶴田は自分のように女で失敗することはないだろう」と答える。
まるでそれが何かの予言だったかのように、その晩柾が拘置所内で自殺。柾は鶴田の愛人であり、鶴田と癒着していた加西を始末するために使い捨てられたというのが特命係の見立てだったが、これを証明するための重要な証人がいなくなってしまったことになる。拘置所内で起きた被疑者の自殺という不祥事に警視庁の面々が頭を抱える中、杉下はこれが自殺に見せかけた鶴田の工作ではないかと推測する。

柾の自殺は大々的に報道され、中郷も彼女の死を知ることとなる。柾は自殺などする女ではないと信じる中郷は、直感的に「柾は鶴田に殺されたのだ」と察し、鶴田への復讐を画策。加西のような悪党が全面的に相手のことを信用するはずはない、あの鍵は鶴田の決定的な弱みに違いない。そう考えた中郷は、ELGの事務所に忍び込み、密かに問題の鍵を盗み出す。
中郷はこの鍵を、どういったものかは説明せずに特命係に預ける。かつて加西にも肉薄したこの2人なら、必ず鶴田を捕まえてくれると判断したのだ。

しかし、この時にはすでに鶴田も動き出していた。ELGの所長から「加西から預かった鍵を盗まれた」ことを聞いた鶴田は、それが中郷の犯行であることを突き止め、その後の彼女の動きを予測。中郷の知る中でもっとも優秀で、かつ国家権力に歯向かうことを恐れない特命係の下にこの鍵を持ち込むだろうことを察して、“ELGの事務所から冠城が鍵を盗み出した”と警察に連絡。以前に開発した、通常の手段で見破ることは絶対に不可能な精巧無比の特殊画像で“冠城が鍵を盗み出す動画”まで用意して、特命係を追い詰める。
この特殊画像に関する事件にも関わった杉下と冠城は、これが鶴田の謀であることを一瞬で悟るも、ここで弁解したところで動画という証拠を突き付けられては分が悪いと判断。杉下は「なんのつもりかは知らないが、窃盗を働くとは見損なった」と冠城を痛罵し、さらに“とっとと罪を認めて拘置所でやるべきことをやれ”と彼に命じる。冠城はこれに観念した風を装い、「ELGから鍵を盗んだ」と偽りの自供を始める。

かくして拘置所に送り込まれる冠城だが、これは“拘置所内で起きた柾の死”を調べるための特命係の工作だった。仮病を使って拘置所内の病院に入り込んだ冠城は、ちょうど柾が死んだ日、彼女の死亡推定時刻にもここに“急患が担ぎ込まれた”ことを突き止める。柾が“拘置所内で自殺”していたなら、病院に急患として運び込まれることはありえない。恐らく柾は、その時はまだ生きていたのだ。
一方、冠城を窃盗犯に仕立てたことで“加西の切り札”である鍵を回収した鶴田は、これ以上騒ぎを大きくしてボロを出さない内に、「ELGとの示談が成立した」という形で事態を収拾。不起訴処分となり特命係に戻ってきた冠城から急患の件を聞いた杉下は、「柾の死はただの自殺などではない」との推測にますます確信を抱いていく。

改めて話を聞くため、中郷の自宅を訪ねる杉下と冠城。しかしインターホンを押しても返事は無く、不審に思った2人が戸を開けると、中は冷房を限界まで稼働させて異様なまでに冷えていた。その部屋のベッドの上で、中郷は己で己の手首を切った遺体となって発見される。

第2話「復活~死者の反撃」

なぜか忍者装束に身を包み、加西の残した電脳空間に踏み込む青木(左)、杉下、冠城。

どうして部屋が冷やされていたのか。どうして鍵が開いていたのか。不審な点がいくつか見られたものの、中郷の死は自殺だろうと判断される。
一方、鶴田の仕掛けた謀略は様々な形で警視庁内に波及し、警視庁総務部の社美彌子(やしろ みやこ)は「特命係が止めて止まるとは思っていないが、どちらかの選択を迫られる事態になったら、私はあなたたちを捨てて甲斐さんを守る」と杉下たちに釘を刺す。さらに刑事部長の内村完爾(うちむら かんじ)は、冠城が虚偽の証言で捜査の邪魔をした件を咎め、「懲戒か免職を覚悟しろ」と彼に告げる。

捜査一課の伊丹憲一(いたみ けんいち)、芹沢慶二(せりざわ けいじ)、出雲麗音(いずも れおん)らからも不審の声が上がったことから、内村の命令で中郷の遺体は司法解剖に回され、その体内からテトロドトキシンが検出される。手足が痺れて麻痺していくこの毒を服用した上で自殺することはほぼ不可能であることから、一転して中郷の死は他殺説が濃厚となる。
ただ友の仇を取ろうとした結果、何も分からないまま殺された中郷はさぞ無念だったろうと語り合う杉下と冠城。捜査を続けるにしても糸口が無いと悩む冠城に、杉下は懐から1本の鍵を取り出して見せつける。冠城が拘置所の中を調べている間に、密かに証拠品の保管所に忍び込み、中郷が渡してきた例の鍵を別の物と入れ替えていたのだった。もちろん普通に違法行為である。

青木を呼び出し、「想像を絶する悪党だな」と呆れる彼を宥めすかして協力させ、鍵がどこのものか調べる杉下と冠城。青木の調査によれば、それは加西が最初期に買い上げた物件のものだという。そこに出向いて、閉ざされた入り口の鍵穴に鍵を差し込むと、果たして扉はすんなりと開く。
中を調べていく内、杉下、冠城、興味丸出しでついてきた青木の3人は、稼働中のパソコンが設置された部屋に辿り着く。そこには加西が生み出したバーチャル空間「ネオ・ジパング」に入り込むのに使用するのと同じタイプのヘッドマウントディスプレイが用意されており、彼が隠した何かしらの情報がそこに秘められているものと思われた。

その時、杉下のスマホに連絡が入る。これに出ようとした杉下は、部屋の外に潜んでいた不審な青年を偶然発見。慌てて逃げようとする彼を、冠城と協力して確保する。
電話は社からで、鶴田の部下である内閣情報官・栗橋(くりはし)が、都内で発見された死体の面通しのために呼び出されたというものだった。これはつまり、その死体と栗林になんらかの接点があると考えられたためであり、念のため調べてほしいという。不審な青年からも情報を聞き出さねばならず、杉下と冠城はいったんパソコンの置かれた部屋を離れることにする。

警視庁に連行された不審な青年は、しかししたたかな態度を崩さず、「違法な捜査をしていたお前たちに俺を捕まえる権限は無い」と嘯く。これはこれで事実ではあったが、冠城はなおも彼から情報を聞き出そうと尋問を続ける。その真の目的は、不審な青年の仲間が痺れを切らして連絡を取りに来るところを押さえることだった。果たしてそれは成功し、不審な青年のスマホには、栗橋からの連絡が入る。さらに冠城は青木と協力して捜査を進め、この“佐野”と名乗る不審な青年が、柾の自殺の前後から事件の周囲で暗躍していた人物であることを突き止める。
一方、杉下も杉下で、栗橋が面通しに呼ばれたという死体が加西を殺した暗殺者であることを突き止めていた。以上から栗橋と佐野が一連の事件に関わっている可能性が浮上し、伊丹たちが「官房長の部下を相手にどこまで突っ込めばいいんだ」と頭を抱える一方、内村は「とっととしょっ引いてこい」と気炎を上げる。

この動きを察した鶴田は、今度は栗橋と佐野を尻尾切りに利用する。2人は出頭し、栗橋が「自分が全てやった」と罪を認める一方、佐野はだんまりを決め込む。佐野は本当の名を“鷲見三乗(すみ みのる)”といい、以前は刑事だったのである。冠城の尋問をブラフだと見抜いたのも、そういった知識があるからなのだった。
しかし、ここで警務部の大河内春樹(おおこうち はるき)が取調室に現れ、特命係の2人を外に連れ出す。青木が鍵を盗み出した件を上層部に報告し、それがここに来て大きな問題となったのだった。本来許されざる違法行為だが、すでに社が鶴田と「鍵を返却し、鷲見を解放すれば不問にする」という話をまとめていた。こうして特命係は首の皮一枚で違法行為を見逃されるも、捜査はまたも暗礁に乗り上げる。このままでは、栗橋1人が罪を背負い、真の黒幕である鶴田には逃げられてしまう。

思っていた以上に鷲見が鶴田にとって重要な人物であること、柾の死が自殺などではないことをいよいよ確信する杉下と冠城。柾が死んだ晩に近くの救急医療施設のある病院に移送されたこと、遺族との対面が霊安室のような場所で行われたことなど、不審な点は他にもまだたくさん残されていた。
伊丹たち捜査一課の面々と密かに情報を共有した杉下と冠城が、次にどのような切り口から捜査を進めるべきか思案しながら警視庁内の特命係が間借りしている部屋に向かうと、そこには分厚い遮光カーテンがかけられていた。中には青木が待ち構えており、「遅い」と2人を罵りながら、「ネオ・ジパング」用のヘッドマウントディスプレイを差し出す。青木は加西の残したパソコンに咄嗟にバックドアを仕込んでおり、外部から侵入できるよう細工していたのである。特命係を目の敵にする一方で好奇心を抑えられずに協力する、青木はそういう男だった。

早速ヘッドマウントディスプレイを装着し、加西が用意した電脳空間に侵入する杉下、冠城、青木の3人。彼らが進んでいった先には石造りの古城があり、その前にはデータとして再現された加西が待ち構えていた。大仰に「この館は誰も拒まない」と語ると、加西は3人を城の中へと案内する。

第3話「復活~最終決戦」

加西が残した音声データを突きつけ、杉下と冠城は内閣官房長官の鶴田(中)を追い詰める。

電脳空間の城の中にやってきた杉下たちは、NPCの執事に案内されて城内の一室へと向かう。その途中、杉下が三階建てになっている城の見取り図のようなものを見つけて気に掛ける一方、青木は「データさえあればこんなこともできる」と電脳空間内での自分の姿を杉下のものに変更し、杉下の声で自身を賞賛する。呆れた冠城に促されつつ進んでいった先の部屋で、3人は不意に閉じ込められ、NPCに襲われてログアウトする羽目になる。用心深くてひねくれ者だった加西は、たとえこの電脳空間に入ることができたとしても、簡単には隠された情報に辿り着けないよう様々な罠を用意していたのだった。
その頃、栗橋の取り調べは難航を極めていた。鶴田が部下に命じた実行させた数々の犯罪を、あくまで「鶴田から命じられたことは一度もなく、自分が勝手にやった」と言い張る栗橋は、それ以外のことには完全黙秘を貫く。完全に鶴田の罪を被るつもりでいる彼に、捜査一課もお手上げの状態が続いていた。伊丹たち知り合いの刑事からそういった愚痴を聞いた杉下と冠城は、「栗橋は完全に覚悟して出頭してきたが、鶴田が鷲見を回収しようとしたのは、彼は完全黙秘を貫くほどの覚悟が無いと考えたからではないか」と推測。となるとこれ以上追及の手が及ばないよう、鷲見は高跳びさせられるとの見解で一致する。

果たして杉下たちの読み通り、鷲見は鶴田の手で日本国内の大使館にスタッフとして送り込まれることとなっていた。この内部は外国の領地として扱われるため、犯罪人引渡し条約を結んでいない国の大使館に鷲見が送り込まれてしまえば打つ手が無くなる。こうして、鶴田の罪を暴くために鷲見を突破口にすることは不可能となってしまう。
翌日、警視庁を驚きのニュースが駆け巡る。栗橋の後釜として、社が内閣情報官に据えられたというのだ。杉下は「加西が残した鍵について、鶴田が異様に素早く対応してきたのは社が情報を流していたためであり、この人事はそれに報いたもの」だと推測する。一方で社はこれまでにも特命係に有益な情報をあちこちから集めて提供しており、事実上の二重スパイであることを冠城が指摘。社はこれを暗に認めつつ、「鶴田の罪を暴くつもりなら、邪魔はしないが協力もしない」と告げる。

その鶴田は、特命係から回収した鍵を使って、加西が残した電脳空間に辿り着いていた。データとして再現された加西と対面した鶴田だったが、そこに柾ともう1人の加西、そして特命係の2人が現れる。新たに現れた加西は、お道化た口調で鶴田の罪を暴いていく。
自分の身を守るため、鶴田は柾に加西の殺害を命じた。その柾も口封じのために殺害したかのように思われたが、実際には彼女は生きていた。鶴田は殉職した警察庁長官官房室長・小野田公顕(おのだ こうけん)が最後に遺した「証人保護プログラム」を活用し、柾に新しい戸籍と名前を与え、国外に逃がしたのだという。拘置所で自殺した柾の周囲でいくつかの“不自然な動き”があったのは、テトロドトキシンで一時的に仮死状態にした彼女に蘇生させるための処置を施していたからなのだった。

その後加西は、生前の加西と鶴田の音声データを再生する。それは「鶴田が光ファイバーケーブルに盗聴器を仕掛けさせ、全国民の盗聴を行っている」ことを証言するものだった。世間に知られれば一発でアウトの情報であり、この音声データこそが加西が鶴田に対抗するために用意していた“切り札”だった。
激昂した鶴田は、新たに現れた加西に「正体を見せろ」と迫る。加西の死後の出来事も語っている以上、この新加西が彼の生前のデータから作られた存在ということはありえず、恐らくは特命係かその協力者が演じているはずだというのだ。果たしてその推測は正しく、新加西の正体は外見のデータを変更した杉下で、それまで杉下を演じていたのは青木だった。鶴田は柾にも正体を明かすように要求するも、彼女は「私は本物だ」と言い張る。

鶴田に「出頭していただけませんか」と要求する杉下。しかしこの時、鶴田は部下に命じて加西の残した電脳空間のデータを破壊する準備を進めていた。青木がまるごとコピーを用意していたものの、これもハッキングされた上で消去されてしまう。
これで自分につながる証拠は全て無くなったと得意満面の鶴田だったが、ログアウトした彼の前に伊丹たち捜査一課の刑事たちが現れる。パリに逃がしたはずの柾が、鶴田に命じられた一連の工作を告白したのだという。加西の電脳空間に現れた柾は、間違いなく彼女本人だったのだ。

鶴田のために加西を抹殺することまでやってのけた柾だったが、その彼女が突如鶴田を裏切り杉下たちに協力することにしたのは、友人である中郷が鶴田の差し金で殺されたことが大きな理由だった。パリに出立する前、中郷に別れを告げるため彼女の部屋の近くに立ち寄った柾は、栗橋の雇った暗殺者がマンションから出ていくところに鉢合わせる。「中郷に何かあったのでは」と直感した柾が部屋を訪れれば、案の定すでに彼女は殺されていた。これをそのままにするに忍びなく、さりとて死んだことになっている自分が警察や消防を呼ぶことは身の破滅に直結するためそれもできず、柾はせめて遺体の傷みが遅くなるようエアコンで部屋を冷やし、少しでも早く彼女が発見されるよう扉の鍵を開けて立ち去ったのだった。
その後復讐がために暗殺者を呼び出し、自ら手にかけることまでしてのけた柾だったが、特命係は検察に掛け合い「可能な限り減刑処置をする」ことを条件に彼女から証言を引き出すことに成功。鶴田が行わせてきた様々な工作の影響で、検察も散々に振り回されており、その意趣返しも兼ねて「内閣官房長のような大物を捕まえられるなら」と密約が交わされたのである。

柾の証言により、いよいよ追い詰められる鶴田。しかしそれでも彼は「自分が感情的になって“アイツに死んでほしい”と言ったのを、栗橋が勝手に実行しただけ」と言い張り、自身のダメージを最小限にしようと立ち回る。そんな彼の下にやってきた杉下と冠城は、消去されたはずの「鶴田と加西の光ファイバーケーブル盗聴に関する音声データ」を突き付ける。杉下が気に掛けていた城の見取り図は、3階分を重ねると二次元コード(QRコード)になっていたのである。そこから辿った先のページにも鶴田と加西の音声データは残されており、特命係はこれを回収したのだった。
改めて「静かで安全な場所を御所望ならぜひ出頭を」と促し、引き上げていく特命係。その途中、杉下はふと足を止めて鶴田を振り返ると、「小野田の足元にも及ばない、虫唾が走る」と彼を痛罵する。鶴田は小野田に憧れており、今回証人保護プログラムを悪用したのも“彼のような権力者になりたい”という想いがその一端にあった。杉下はそんな小野田と敵とも味方ともつかない深い絆を築いており、「多少方法が間違っていても市民のため日本のために尽くしたい」という彼の志を、「方法が間違っている時点で論外」と認めてこそいなかったものの、その根底に正義を貫かんとする意志があることは誰よりも理解していた。自分の野望のためだけに鶴田が小野田の手法を真似ようとしたことが、杉下には許せなかったのである。

逃げ場のなくなった鶴田は出頭し、一連の事件はついに世間に明らかとなる。その鶴田の口利きで昇進した社は、前のポストに戻されるかと思いきや、内閣情報官の地位を維持。社は特命係が鶴田の犯罪を絶対に暴くだろうことを見越して、事前に国家公安委員長・鑓鞍兵衛(やりくら ひょうえ)に接触し、そうなった時に自分の後ろ盾になるよう依頼していたのだった。
社のしたたかな立ち回りに舌を巻く特命係。冠城や直属の上司である甲斐と共にそれについて話しながら公園を歩いていた杉下は、不意に殉職したはずの小野田と擦れ違う。幻覚なのか幽霊なのか、驚いて振り返った杉下の前で、小野田らしい人影は何も言わぬまま去っていく。冠城たちから「どうかしたのか」と問われた杉下は、「なんでもありません」と答えて彼らを追うのだった。

第4話「贈る言葉」

友人の身の潔白を証明するために奔走する陣川(左)と、彼に協力する冠城。

警視庁捜査一課の経理担当、陣川公平(じんかわ こうへい)は、ほんの一時期特命係にも所属していたことがある、思い込みの激しい熱血漢。事件をズバズバ解決する名刑事に憧れ、杉下を崇拝するも、たびたび先走っては厄介事を引き寄せるトラブルメーカー的な体質の持ち主である。その陣川が久し振りに杉下と冠城の前に現れ、小料理屋こいまりで食事をする2人についていく。
陣川の高校の頃からの友人で世界的なゲームクリエイターである鴫野大輔(しぎの だいすけ)が、中村亜里沙(なかむら ありさ)という女性と結婚することとなり、友人代表としてスピーチを頼まれたのだという。結婚式の練習としてそのスピーチを披露する陣川だが、杉下たちの反応は微妙なものだった。さらに草稿を練り直すよう勧められた陣川は、鴫野のスピーチライターをしている宮森由佳(みやもり ゆか)という女性に力になってもらうと言い出す。陣川の極端に惚れっぽい性格を知る杉下は、また面倒なことになるのではないかと案じたか、念のためこれについていくこととなる。

宮森は8年前から鴫野と仕事をしており、彼のスピーチの文章やイベントでの演出を全面的に担当していた。その一環として今回の相談にも乗ってくれたのだが、案の定陣川は宮森のちょっとした言葉に「もしかして自分に好意を抱いてくれているのでは」と浮足立ち、杉下から「勘違いしている」と釘を刺される。そうやって宮森からアドバイスをもらっている最中、陣川のスマホに鴫野から助けを求める連絡が届く。鴫野の勤めるチネルコーポレーションの元社員相島順平(あいじま じゅんぺい)の他殺体が発見され、鴫野がその犯人として警察の捜査対象になっているというのだ。
慌ててチネルコーポレーションに向かう陣川と、彼に同行する特命係。すでに伊丹、芹沢、出雲たち捜査一課の刑事が会社に押しかけ、仕事中の鴫野に話を聞いているところだった。相島は昨晩の午後10時から12時の間に殺されたらしく、その少し前に鴫野に「許せない、全てを公表して謝罪しろ」とのメールを送っていた。相島がチネルコーポレーションを辞めたのは、鴫野のパワハラが原因だとされており、ここから「相島は自分をパワハラで辞職に追いやった鴫野を恨み、彼を脅迫し、これに堪えかねた鴫野によって殺されたのではないか」という線が浮かび上がったのだった。

捜査一課にアリバイを尋ねられた鴫野は、「特に何も考えずにどこかを歩き回っていた」と曖昧な供述に終始し、相島のメールが届いたという自分のスマホも「昨日の夕方にどこかに落としたから、そんなメールのことは知らない」と証言。誤魔化すにしても苦しい話ばかりで、捜査一課はさらに鴫野への疑惑を強めていくが、杉下は“疑惑はあっても証拠はない”と指摘し、彼らをいったん追い払う。
デッドウォーリアーというゲームで一世を風靡した鴫野は、現在その4作目の開発中で、何度も延期を繰り返している状態だった。鴫野は天才肌の人間で、開発に行き詰まるたびに夜通しフラフラと出歩いてアイデアを捻り出すことがあり、これまでにも何十足という靴を履き潰していた。このこともあって、チネルコーポレーションの社長の江口稔(えぐち みのる)は、「鴫野が相島を殺すはずがない、今回もアイデアを出そうとして歩き回っていたのだろう」と杉下たちに説明する。

その後、例によって捜査一課とは別口から捜査を進める特命係に興味を持った出雲が彼らにこっそり接触し、事件現場から鴫野の指紋がついたイヤホンが発見されたという情報を伝える。捜査一課はこれを証拠として鴫野を任意同行するも、彼はなお「自分はやっていない」と主張する。陣川は友人の言葉を信じ、鴫野のアリバイを立証するために動き出す。陣川が1人で動くことを不安視した冠城も、これにつきあうこととなる。
一方、杉下は鴫野の婚約者である中村に接触。相島のメールにあった「全てを公表して」というのが何を意味するのか心当たりはないか尋ねていた。杉下の巧みな誘導もあり、中村はしばし言い淀んだものの「鴫野がチネルコーポレーションを辞め、デッドウォーリアーの開発からも離れ、独立することを密かに考えていた」ことを打ち明ける。デッドウォーリアーの最新作の開発が遅れていたのも、鴫野がすでに同作を作り続けることへの意欲を失っていたためだったのである。鴫野からこれを打ち明けられた江口は、「良いゲームというだけでは売れない、デッドウォーリアーにはお前の名前が必要だ」と彼を必死で引き留めていたという。

鴫野がデッドウォーリアーの開発から手を引いて独立したいと考えていたことは、彼とデッドウォーリアーに崇拝にも近い想いを抱いていた相島からすれば、“楽しみにしているファンへの裏切り”だと受け取られてもおかしくはない。彼のメールにあった「全てを公表して」とはこのことだったのだ。これを知った杉下が次に考えたのは、「相島はどこで鴫野が独立を考えていることを知ったのか」だった。鴫野自身も秘密にしていた、世間には公表されていないこの情報を知っているのは、中村や江口ら直接相談されたごく近しい数人だけのはずなのだ。
再び宮森のオフィスを訪ねた杉下は、相島が再就職の面接対策に彼女からアドバイスを受けていたことを知り、その際に顧客情報をまとめた仕事用のメモを盗み見たのではないかと推理する。宮森もまた、鴫野の最近の言動から彼が独立を考えていることを察し、それをこのメモに記載していたのである。

その頃、たった2人でローラー作戦を敢行していた冠城と陣川は、ついに“事件のあった日に鴫野のスマホを拾った”という清掃員を発見。これにより、鴫野が相島からのメールを見て犯行に及んだという捜査一課の見立てた事件の構図を突き崩すことに成功する。友人の潔白を証明できたと喜ぶ陣川からこの報告を受けた杉下は、そのスマホを清掃員から「鴫野に渡しておく」として受け取ったのが江口であること、その江口がつい先ほど弁護士と共に警視庁に乗り込んで鴫野を解放させたことを知るや、大至急鴫野の行方を探すように指示を出す。
杉下は「相島を殺したのは江口であり、鴫野にその罪を押し付けて始末するつもりなのではないか」と推測していた。これは当たっており、鴫野は彼の別荘に連れ込まれた上で江口に殺されそうになるも、危ういところで特命係と陣川がここに駆けつける。江口は取り押さえられ、これで事件は解決かと思われたが、杉下にはまだ気になることがあった。

江口が鴫野を殺そうとしたのは、事件現場から鴫野の指紋がついたイヤホンが発見された旨を記した差出人不明のメールを受け取り、「事件現場に鴫野のイヤホンがあったということは、そこに彼がいて相島を殺すところを見られていたということであり、真犯人が自分であることを警察に伝えられる前に口を封じるしかない」と思い込んだことも理由だった。しかしイヤホンのことは重要な捜査情報であり、警察の外部の者がそれを知ることはありえないはずなのだ。
唯一の例外があるとすれば、それは“事件現場に鴫野の指紋のついたイヤホンを置いた人間”である。つまり、実際に事件現場にイヤホンを置いた何者かが、江口に“事件現場で鴫野のイヤホンが発見された”というメールを送り、焦った彼が口封じと自分の罪を被せる生贄を兼ねて鴫野を殺害するよう誘導したことになる。

その後杉下たちは宮森の下に押しかけ、「相島はメモを盗み見たのではなく、宮森から鴫野が独立を考えていることを直接教えてもらったのではないか」との推理を披露。「宮森が相島を焚きつけて鴫野を殺そうとするも失敗し、次に江口を追い詰めて“鴫野を殺すしかない”と思いこませた」という事件の真相を突き付ける。すでに江口に送られた差出人不明のメールの発信元が宮森であることは特定されており、これと「宮森の事務所が入っているビルで鴫野がイヤホンを落とし、“自分から鴫野に返す”と言って彼女がこれを受領していた(=事件現場に落ちていたイヤホンは宮森が仕込んだものだった)」という事実が動かぬ証拠となった。動機を尋ねられた宮森は、「おもしろくなかった」と答える。
鴫野は生来口下手で、ゲームクリエイターとしては天才的だが、それ以外は何もできない人間だった。そんな彼にスピーチのコツを教え、イベントのたびに様々な演出を考えてきたのが宮森だった。しかしそうやって育て上げた鴫野は、中村と出会ってからは宮森の指示には従わず、スピーチに自分の言葉を交えるようになり、あまつさえ独立を考えている。「世界的ゲームクリエイター“鴫野大輔”を作った自分が蔑ろにされた」、それが宮森が彼を殺そうとその周囲の人々を言葉巧みに操ってきた理由だった。

事件は解決するも、江口は相島の殺人容疑で逮捕され、チネルコーポレーションは大きな打撃を受ける。デッドウォーリアーの最新作も開発中止すらありうる状況に追い込まれるが、鴫野はどこかさっぱりした様子でこれを受け入れていた。それを見た杉下は、「独立を考えていたのではなく、ゲームクリエイターを辞めたいと考えていたのではないか」と彼に尋ねる。
杉下は、中村の部屋で見た、半年前に撮られたという鴫野とのツーショット写真が気になっていた。そこで履いていた靴を、鴫野は今もほとんど擦り減っていないまま使い続けている。今までずっと続けていた、「アイデアを捻り出すための夜通しの散歩」をしていない証拠である。これを指摘された鴫野は苦笑を浮かべ、「4作目ともなるとアイデアも枯渇する、独立という言葉で逃げ出したかった」と語り、杉下の指摘を肯定する。

自分の知らない間に友人が背負い続けてきた重荷を知って、陣川は「逃げる逃げないだけじゃない、他の選択肢だってあるんだ」と彼を励ます。そのどこか見当違いな、しかし心からの激励に、鴫野は「お前は全然変わらないな」と嬉しそうに微笑み、彼に感謝の言葉を伝えるのだった。

第5話「光射す」

自殺か殺人か、密室で発見された遺体の隣室に住む三宅富士子(右)と、彼女から話を聞く特命係の2人。

ある朝、組対5課の角田は顔見知りの水木洋輔(みずき ようすけ)という男が落ち込んでいる様を見かけて声をかける。水木は太田署に勤めていた元刑事で、2か月前から行方不明になった娘の沙也加を案じるあまり、ネットで情報提供を募った人物だった。寄せられた情報は不確かなものばかりで、かえって捜査を混乱させてしまい、水木は責任を取って辞職。娘の沙也加は未だに見つかっておらず、“光の見えない日々”が続いている。角田は特命係の2人の前でその話題を持ち出して、水木に同情するのだった。
その頃、羽田空港で警備員をしている桂木雪乃(かつらぎ ゆきの)は、同僚の紅林啓一郎(くればやし けいいちろう)が出社しないことから、様子を見るために彼のアパートを訪れていた。管理人に鍵を開けてもらって中に入ると、紅林は死後3日ほど経過した首吊り死体となって発見され、警察が呼ばれることとなる。

状況から見て自殺かと思われたが、紅林の額と後頭部には生前に付いたと思われる傷跡があり、他殺の可能性も疑われる。さらに部屋には鍵がかけられていたものの、室内には指紋を拭き取られた形跡があり、これが殺人ならいわゆる密室殺人ということになる。唯一の目撃者は、紅林の部屋で飼育されていたペットの亀。いつものように首を突っ込んできた杉下と冠城は、この一件に興味を持ち、独自に捜査を進めていく。
紅林は音楽を聞くことを趣味としており、音が漏れないようにか窓には目張りが施されていた。しかしアパートの壁は薄く、隣の部屋の咳の音が聞こえるほどであり、杉下たちは事件のことを何か知らないかと隣室の住人を訪ねる。応対したのは三宅富士子(みやけ ふじこ)という老齢の女性で、夜間の警備員の仕事をしていた紅林とは生活時間帯が真逆なため、事件のことは何も知らないと言い張る。

聞き込みを進めていくと、いくつかの新しい事実が明らかとなる。紅林はかなりの遊び人であったらしく、若い女性を何人も部屋に連れ込んでいたということ。富士子には卓司(たくじ)という、もう50にもなる息子がいるが、彼は10年以上も部屋に引き籠っているということ。紅林の部屋には、動体センサーとスマホへの通知機能のついたペットの監視用のカメラが設置されていたが、亀のケージに向けられていて犯人は映っていなかったということ。水木が集めたネットの情報の中に、「紅林が女性を監禁している」というものがあり、これを信じた水木が紅林の部屋を令状無しで家宅捜索したことが、彼が辞職する決定的な理由になったこと。
このネットの情報は、あのアパートで紅林と生活時間帯が重なる唯一の人物である卓司にしか知りえないものだと判断した特命係は、青木に書き込み主を割り出すよう依頼。一方、密室の謎についても話し合うが、「密室殺人を行うもっともポピュラーな理由は“自殺に見せかける”ためだが、明らかに第三者につけられた傷があるのに自殺も何もないのではないか」と考え、犯人にはそれ以外の目的があったと推理する。

その頃、捜査一課は桂木の下を訪れていた。事件現場となったアパート近辺の監視カメラに、桂木が映っていたのである。これがまさに紅林が死亡したその当日の映像である上に、桂木と紅林が恋人関係にあったことから、捜査一課は彼女への疑惑を一気に強くしていた。
しかし蓋を開ければ簡単な話で、桂木は2か月前に紅林と破局。預かったままの合鍵を返そうとして彼の部屋を訪れるもちょうど留守にしており、ポストも目張りされていたため窓の桟に合鍵を隠して立ち去ったのだという。この鍵を使えば誰でも密室が作れる。密室殺人の謎はこうしてあっさりと解けるのだった。

水木の家を訪ねた杉下は、彼から紅林の部屋を家宅捜索した件について詳しく話を聞く。水木は刑事にありがちな家庭を顧みない父親で、妻が去年病死して以来、娘の沙也加との間になんら信頼関係が存在しないことに初めて気付いたという。大学生の沙也加は今さら父親面をしようとする水木を拒絶し、外泊を繰り返すようになり、これを咎めようとした水木が思わず手を上げてしまったことで、家にも帰らなくなってしまった。沙也加が羽田空港でアルバイトをしていたことを知る水木は、紅林の情報を目にした時、「これだ」と確信して止めようとした部下の内川優(うちかわ すぐる)を振り切るように家宅捜査を強行。しかし沙也加を見つけることはできず、刑事も辞めることになったのだ。
その後特命係の2人は、工場で働く富士子に接触。紅林による女性の監禁という情報をネットに書き込んだのが卓司である可能性を伝え、彼と話をさせてほしいと頼み込む。しかし富士子は「私が言った程度で出て来る子じゃない」と答え、どうしても話したいなら拳銃でも突き付けて引っ張り出せと苦悩と諦観に満ちた言葉を口にする。実際に富士子の部屋を訪ねて戸を叩くも卓司が応じる様子はなく、杉下は「今日は退散する、いつでも話し相手になる」と言い残して引き上げる。

しかし、「せっかくここまで来たのだから」ともう一度紅林の部屋を調べた際、彼らは意外な事実を突き止める。アパートの一室の床は板の間になっているのだが、紅林はなぜかここに柄がそっくりの木目のカーペットを隙間なく敷き詰めていたのである。杉下と冠城がこれを剥がすと、そこには床下収納があり、そこには血痕と誰かを監禁していた痕跡が残されていた。
これを知った捜査一課は、「水木が紅林を殺し、沙也加を救出してどこかに保護したのでは」と考える。紅林が死んだ夜、何者かが女性を背負って移動する姿が監視カメラに映っていたこともあり、水木を強い口調で問い質すも、彼には完全なアリバイがあった。しかも司法解剖で紅林の死が自殺であることが確定してしまい、捜査一課は水木の追及を断念せざるを得なくなる。

一方、青木の捜査により、例のネットの書き込みが卓司によるものであることが突き止められる。この情報は捜査一課にももたらされ、彼らは卓司を犯人と見立てて逮捕状を取る準備を進めるも、杉下たちはまったく別の可能性を考えていた。
翌日、富士子の下を訪れた特命係の2人は、水木も交えて自分たちの推理を披露する。紅林が沙也加を監禁していたことに最初に気付いたのは卓司である、これは間違いない。彼なら桂木が合鍵を窓の桟に置いていったことも知りえたかもしれない。とはいえ、10年以上も引き籠りを続けていた卓司が紅林の部屋に乗り込み、相手に怪我をさせるほどに奮闘した上で見ず知らずの女性を助けられるかと考えると、その可能性は低いと言わざるを得ない。しかし、その卓司から沙也加の監禁と桂木が残していった鍵のことを教えてもらった人物がいたとすれば話は変わってくる。これに該当する人物は、卓司が唯一接する家族である富士子だけだ。

沙也加を助けようと躍起になっていた水木は、当然ながら富士子にも接触していた。親として必死に娘を助けようとする彼の姿は、同じく息子のために老骨に鞭打って働き続けている富士子には共感できたはずだ。息子の言う通り、本当に隣人はあの刑事の娘を監禁しているのだろうか。気になった富士子は、意を決して紅林の部屋に忍び込んだのではないか。
紅林は狡猾な男で、ペットの監視用のカメラも、“自分以外の誰かが部屋に忍び込んだ時にすぐ分かる”ように設置したものだった。富士子が床下収納の中の沙也加を発見した頃、職場から大急ぎで戻ってきた紅林と鉢合わせ、揉み合いとなる。富士子は必死に反撃し、その場にあったライトで紅林の額を殴打。面食らった彼が倒れ、後頭部を打ち付けたことで昏倒し、富士子は沙也加を救出することに成功。顔を見られた自分の家に運ぶわけにもいかず、職場である工場へと運び込んだ。普通に考えれば80過ぎの老女にできることではないが、水木の沙也加を想う気持ちに、親が子を守りたいと願う気持ちに共感した富士子はこの困難な作業を成し遂げた。捜査一課が水木に突き付けた監視カメラの映像は、この時のものだったのだ。

沙也加の監禁が発覚することは免れないと悟った紅林は、罪に問われることを恐れて自殺。一方、富士子は水木に連絡し、今後について彼に相談した。指紋を拭き取るなどの工作は、全て水木によるものだった。以上が、状況から杉下が導き出した事件の全貌である。
杉下たちが富士子と水木にわざわざ推理を披露したのは、角田に沙也加の居場所を調べさせるための時間稼ぎだった。果たして沙也加はホームレスなどに医療を提供する団体の病院に入院しており、観念した富士子と水木は杉下の推理が正しいことを認める。

水木が富士子に協力したのは、娘を助けてもらった恩という以上に、娘自身のためでもあった。何十日も狭く光の射さない床下に監禁され続けた沙也加は、深い精神的外傷を負っていた。これが回復したとしても、今回の事件が公になれば沙也加は一生「監禁された女」として色眼鏡で見られ続けることとなる。犯人である紅林が死亡した今なら、沙也加が精神的外傷から回復してしまえば、“沙也加が監禁されていた”という事実は誰にも知られることなく闇に葬られ、彼女は何も気負うことなく普通の人間として生きていける。そのためには、富士子のやったことが明らかになってはならなかったのだ。
自分のせいで事件に巻き込んでしまった、罪を背負わせてしまったと泣きながら富士子に詫びる水木。しかし富士子は、自身も涙を浮かべながら、「気持ちは分かる、子供のためなら当たり前だ。あんたは間違ってない。もう一度頼まれたって同じことをする」と強い口調で言い切る。

それぞれ住居侵入と傷害、犯人隠避と証拠隠滅で捜査一課に連行されていく富士子と水木。彼女たちがパトカーに乗り込もうとしたその時、突如三宅家の扉が開いて卓司が飛び出してくる。それを見た富士子は、ほんの少しの逡巡の後、パトカーを発進させてくれと捜査一課の刑事たちに伝える。
犯人として運ばれていく老いた母を、何も言えないまま見詰める卓司に歩み寄る特命係。杉下は「やっとあなたと話ができた」と彼に語り掛け、穏やかに光射す今日の空を見上げるのだった。

第6話「マイルール」

刺殺されたミステリー作家の第一人者・福山光一郎。

人気ミステリー作家・福山光一郎(ふくやま こういちろう)が自宅で刺殺された状態で発見される。彼は常々“現金主義”であることを語っており、大金が入った財布が丹羽から発見されたため、捜査一課は琴線目当ての犯行と見立てる。呼ばれてもいないのにその場に首を突っ込んできた特命係の2人だったが、杉下は福山が連載していた「運命の来たる日」というミステリー小説の最終回原稿が無くなっていることに気付き、ただの物取りではないと判断する。
「運命の来たる日」は、ジャパンミステリーという月刊誌に連載されている福山光一郎の推理小説である。先の読めない展開で好評を博し、普段は小説の類を読まない杉下も注目するほどの人気作だ。福山は20年以上ヒット作を連発している小説家だが、扱いにくい人柄でも知られていた。今から2年前、「運命の来たる日」の連載をどこで行うかについても編集者と揉めに揉めたことがあるという。いったい何が原因だったのか、杉下達が当事者である編集者に聞いてみると、「ただでさえ登場人物の多い小説なのに、“川上”という人物が2人も出てきて紛らわしいので、それを指摘したら怒らせてしまった」らしい。

「14歳の少女が殺されたことを皮切りに、“アンノウン”と名付けられた正体不明の人物による連続殺人が発生。最初の被害者の父でもある老刑事がこれを追い詰めていくも、その報復として仲間や家族が次々に惨殺される。なお諦めない老刑事は、多くのものを失いながらも、アンノウンが潜伏するカルト宗教の施設を突き止め、そこに突入。居並ぶカルト宗教の信者たちの1人を指差し、“アンノウンはお前だ”と叫ぶ」。以上が、「運命の来たる日」最終回までのストーリーである。
改めて福山の著作やインタビュー記事を読み直してみた杉下は、彼が小説の登場人物の名前にマイルールを設けていることに気付く。たとえばある作品の登場人物なら関ヶ原の戦いに参加した武将から名字が取られており、別の作品ではそれがとある地方の市と駅の名前になっているといった具合だ。「運命に来たる日」にもなんらかのマイルールが用いられているはずだと推理する一方、杉下は福山がとあるインタビュー記事で漏らした「今度の作品は事実を元にした完全なフィクションだが、完結すれば失われた事実が明らかになる」という発言を気に掛ける。

そんな杉下とは別口で捜査を進めていた冠城は、興味深い事実を突き止める。福山は22年前、当時14歳だった娘を殺害されていたのである。金銭目当ての犯行で、犯人は当時17歳の少年。彼は事件後すぐに捕まり、素直に罪を認めて反省した態度を示したこと、家庭環境が劣悪だったことなどが考慮され、実名が明かされることすらなく少年院に入り、現在は更生して普通に暮らしているという。一方の福山は、当時の少年法の規定で犯人について何1つ知らされることもなく、娘を失った悲しみから立ち直れずに妻とも離婚。その妻も少し後に病死し、今は天涯孤独の身の上となっていた。
殺された福山の娘と、「運命の来たる日」で最初に殺される少女の名前が同じだったことから、杉下と冠城は「福山の言う“失われた事実が明らかになる”というのは、自分の娘を殺した犯人の情報を小説の形で世間に知らしめることだったのではないか。そうやって犯人を社会的に破滅させることで、福山は娘の復讐を果たそうとしていたのではないか」と考える。

その少年こと野間口健一(のまぐち けんいち)が入所していた少年院に向かった特命係の2人は、法務教官の三上彰(みかみ あきら)から、2年前に福山がここにやってきたことを聞き出す。20年の時間と、人気作家として得た財産を使って、福山は健一がかつてここにいたことだけでなく、彼の名前までをも突き止めていた。健一の情報を教えてほしいと頼み込む特命係だったが、三上は服務規程を盾にそれを拒む。
ならばと、杉下たちはこれまでに調べた情報を捜査一課に提供。彼らを動かすことで健一が今は結婚して“村上”と名乗っていること、フランチのシェフとして店を持つまでになっていることを突き止める。早速店に向かう特命係の2人は、そこである事実に気付く。健一の店の周囲には、「運命の来たる日」の登場人物たちと同じ名前の表札がかかっていたのである。娘を殺された福山の復讐の念は、健一の店を特定するまでに至り、彼は直接ここに赴いて今回の小説の名付けのルールを設定したのだ。いずれファンたちが“「運命の来たる日」のマイルール”を解き明かした時、自動的に健一の店まで辿り着けるように。編集者と散々に揉めた「川上という登場人物が2人いる」のも、これに従った結果だった。

その健一は、22年前に起こした事件を心から悔いる一方で、福山の復讐を心底恐れて怯え切っていた。特命係の2人が家を訪ねると、彼は慌てふためいてその場から逃げ出すも、捜査一課に確保される。「運命の来たる日」が健一への復讐のために書かれたものであること、福山がむりやりにでもそれを読ませるために毎月のジャパンミステリーの発売日にそれを村上家のポストに投函していたことを杉下と冠城が指摘すると健一は涙を流して慄き、錯乱しながら「自分が福山を殺した、原稿はどこに捨てたか分からない」と自供する。
しかし、杉下は健一の自供に納得できないものを感じていた。健一にとって、「運命の来たる日」最終回の原稿は自身の破滅を告げるもので、殺人をも決意させるほどの恐怖の塊だったはずだ。それほど重要なものを、どれほど錯乱していたとしても“どこに捨てたか分からない”ということは考えにくいのではないか。そう判断した杉下は、冠城と共に健一の妻・由梨の下を訪ねる。そして彼女の口から、健一が決定的に怯えるようになったのは、今から1か月前に福山が直接店にやってきた時からであることを教えられる。

普通に客としてやってきた福山だったが、健一は彼がかつて殺した少女の父親であることにすぐに気づき、連載中の「運命の来たる日」を半ばむりやり読まされていたこともあって、恐怖に身を竦ませながら接客。健一の料理を食べた福山は「美味い店だ、今度私の小説に出してやろう」と嘯きつつ、殺された娘について言及し、健一の過去の罪を22年分の憎しみと共に糾弾する。それは健一に、そして彼の過去を知ってなお結婚した由梨に、“遺族の怒りと悲しみが薄れることはない”と知らしめるには十分な出来事だった。
ただただ頭を下げることしかできない健一を見兼ねて由梨が飛び出し、「運命の来たる日」の連載中止を求めて弁護士と相談中であることを伝えると、福山は激昂して「先に私の娘を殺したのはこの男だ」と健一を睨みつける。この22年間、健一が福山にしたことは、自分の名前も記さない謝罪の手紙を送りつけたことだけ。そんな謝罪にもなっていない謝罪に、ただ自分の罪を軽くするために弁護士に言われて送った手紙に、どれだけの意味があるというのか。怒り狂い、憎悪を吐き散らす福山の前で、由梨は呆然とする健一と共にひたすら頭を下げて、「彼の罪は自分も一緒に背負う」と謝罪の言葉を繰り返した。

「ペンは剣よりも強しという言葉があるが、実際にペンで人を殺すことはできると思うか。私は殺せると思う」
最後にそう言い残し、福山は帰っていった。それ以来、健一は「離婚して死ぬしかない」とたびたび口走るようになり、由梨は「本当に自殺してしまうのではないか」と必死で彼を見張り続けた。近親者(家族)の証言はアリバイを証明するものにはならないが、健一が福山を殺していないことは自分が保証すると、由梨は特命係に訴える。
ここで杉下と冠城は、最終回の原稿が世に出ることを恐れていた人物が、健一以外にも存在することに気付く。いかに福山が金を潤沢に使える人物だったとはいえ、服務規程で守られた“少年院を出た後の健一の足取り”を調べるのは極めて困難だったはずだ。誰かがそれを彼に漏らしたとしか思えない。そしてそれは、福山が「運命の来たる日」を書き始めた2年前に起きたと見るのが妥当だ。その時期に健一の件で福山が接触していた人物といえば、服務教官の三上しかいない。

三上を呼び出してこの推理を突き付けると、彼は愕然としながら福山に健一のことを教えてしまったことを認める。福山の熱意に負けたわけではなく、健一が立派に更生したこと、今は結婚してシェフになっていることを教え、復讐を断念するよう諭したつもりだった。しかしその情報から福山は健一の店を突き止め、復讐のために「運命の来たる日」の連載を開始。「福山に情報を漏らしたことが知られれば、自分は服務規程違反で咎められ、退職金がもらえなくなる」と焦った三上は、福山に最終回の原稿を公開しないよう直談判に赴いたという。
しかし福山は「私が書いたのは完全なフィクションだ」と言って三上の懇願を取り合わず、そればかりか三上が案じているのは健一のことではなく、自分が服務規程違反の罰を受けることだろうと彼を嘲笑。カッとなった三上は福山に掴みかかり、揉み合いの中でナイフを突き立ててしまった。福山を殺すつもりなどなかった三上は狼狽しつつ、物取りの犯行に見えるよう工作を施した上で、最終回の原稿を奪って逃げたのである。

その原稿がどこにあるのか尋ねる杉下。すでに燃やしたのではないかと問う冠城。しかし意外にも、三上は最終回の原稿を自室の押し入れの奥に隠したという。彼自身、恐怖に駆られながらも読み進める内に「運命の来たる日」に夢中になってしまい、最終回の内容が気になって自宅で目を通していた。その結果、“これは燃やせない、燃やしてはならない”と感じたと、三上は特命係の2人に打ち明ける。
後日、「運命の来たる日」の最終回が掲載されたジャパンミステリーが発売される。そこに健一を糾弾するような内容はなく、アンノウンはアンノウンと表記されたまま己の罪を認め、カルト宗教の施設に火を放って自害。老刑事も運命を共にするというものになっていた。健一にもまた共に支え合って生きようとする家族ができたことを知った福山は、最後の最後に「ペンで人を殺してはならない」と悟り、血を吐くような思いで復讐を断念したのだ。福山の復讐の念の全てを注ぎ込んだ「運命の来たる日」は、いつしか彼の憎しみを残らず飲み込んでいった。そうやってようやく“娘を殺した健一”と“娘を死なせてしまった自分自身”に許しを与えることが、その人生に安寧の祈りを捧げることができたのだろうと、杉下は感慨深げに語るのだった。

YAMAKUZIRA
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@YAMAKUZIRA

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