相棒season20(ドラマ)のネタバレ解説・考察まとめ

『相棒season20』とは、警視庁特命係の刑事コンビが数々の事件を解決していく、テレビ朝日によるテレビドラマである。
「警視庁特命係」は、不祥事を起こした刑事や辞職してもらいたい刑事が上層部の意向で送り込まれる窓際部署。“人材の墓場”とも揶揄されるここには、しかし優秀過ぎて上層部が隠しておきたい秘密まで暴いてしまう刑事・杉下右京と、その杉下への好奇心からキャリア官僚の道を捨てて刑事となった冠城亘がいた。その推理力と、上司の叱責を物ともしない行動力で、2人は難事件に挑んでいく。

第7話「かわおとこ」

「弟は“川男”に溺れさせられた」と語る少女・百花(左から2人目)。

レストランで昼食を食べようとしていた杉下たちは、誰かが言い争うような物音を耳にして外に出る。そこでは、辻浦百花(つじうら ももか)という少女が、安田秀人(やすだ ひでと)という男と舌戦を繰り広げていた。秀人は妻と離婚しており、百花は実の子の1人ではあったが、その彼女によって「早く返してよ、ろくでなし」と手ひどく罵られていたのだった。閉口した秀人が人目を気にして百花を連れていこうとしたところで特命係の2人が割って入ると、彼は自分たちが親子たちを説明し、娘に追い立てられるようにして逃げていくのだった。
その後警視庁に戻った杉下たちは、先日奥武蔵野町で川遊び中に行方不明になった男の子が、遥か下流で意識不明の状態で発見されたというニュースを見る。幼い子供の痛ましい事件に胸を痛める2人だったが、ネットで情報を漁った際、「幼い子供を放置して溺れさせた親は許せない」として母親のことを調べようとする者たち、いわゆる特定班がどこからか手に入れた写真を見て驚く。家族写真らしいそこには、溺れた男の子とその母親と思しき人物の他に、百花の姿も映っていたのである。

百花が安田に言っていた「早く返して」というのは弟のことだったのではないかと考えた杉下たちは、詳しい話を聞こうと彼女の下へと赴く。そこでは、住民たちが川の水質汚染に関する抗議運動と独自調査を進めている真っ最中だった。川の近くにある城西エレクトロニクスという会社は3年前にも有害物質の漏洩事故を起こしており、ここ数ヶ月ほどの間に再び魚の大量死があったことで、住民たちは「またあの会社の仕業ではないか」と考えたのである。
杉下たちが百花の弟・悠太(ゆうた)が溺れた場所について尋ねると、住民たちはそれを教えると共に「4か月前にも同じ場所で人が溺死する事故があった」ことを口にする。近所にある笹沼硝子という会社で働いていた荻野(おぎの)という男性が、川岸の淵で水死体となって発見されたのだという。荻野は釣り好きで、その際に足を滑らせたのだろうとして事件性は無いとされていたが、彼が死んだのは川から魚の死骸が上がり始めた時期と一致しているとのことだった。

そこに学校帰りの百花が現れ、「悠太も荻野も“川男”に水の中まで引きずり込まれた」のだと語り出す。百花の母・千夏(ちなつ)は、秀人と別れてから女手1つで百花と悠太を育てており、「子供たちを放置気味」との噂も流れていた。意外とオカルト趣味のある杉下は、百花の言う“川男”が何者なのか、がぜん興味を持ち始める。
悠太が溺れた場所に向かった杉下と冠城は、そこで祈りを捧げていた高部行人(たかべ ゆきと)という男性と出会う。高部は笹沼硝子という会社で働いており、溺死した荻野の直属の上司でもあった。高部は「荻野のために祈っていた」と言って去っていくが、杉下は「4か月も前に亡くなった部下のために祈るというのは、その鎮魂を願う以外にも何か理由があるのではないか」と訝しむ。

その近くでようやく百花を発見した杉下たちは、彼女から川男についての話を聞き出そうと試みる。周囲の大人たちと同様に疑念が先行している冠城とは裏腹に、杉下は「川男が本当にいるなら会ってみたい」と乗り気な様子を見せ、これが功を奏して2人を警戒していた百花も一転して協力的になる。百花が言うには、奥武蔵野町に引っ越してすぐ、ここで「背が高くて真っ黒な人影」を見たのだという。それは彼女の所有する妖怪図鑑で紹介されていた川男の特徴と、完全に一致していたのだ。当初は「悠太は秀人が連れ出した」と考えて父を糾弾していた百花だったが、それが間違いだったことが分かった今、弟を溺れさせたのは川男だったと固く信じるようになっていた。
何かあったらすぐ連絡してもらう約束を取り付けた上で引き揚げていく途中、特命係の2人は笹沼硝子の工場に通りかかる。ついでに話を聞いていこうと中に入ると、ちょうど社長の笹沼敏夫(ささぬま としお)が車から降りてくるところだった。荻野の溺死は本当にただの事故なのか、何かトラブルがあったのではないかと尋ねると、笹沼は「バカバカしい」と杉下たちの推測を一蹴。3年前に周辺住民と揉めた城西エレクトロニクスとは違い、自分の工場は健全そのものだとアピールする。「ガラスの精製にも大量の水を使用するのは事実だが、笹沼硝子では廃液をタンクに貯蔵して完璧に処理している」と豪語する笹沼だったが、彼が杉下たちと話し込む様を、工場の中から高部が何事か言いたげな様子で見詰めていた。

奥武蔵野町で起きたいくつかの出来事には関連があるのではないか。そう考えた特命係は、改めてこの町で起きた事件を調べていく。冠城が調べたところ、荻野の死因は間違いなく溺死ではあったが、死の直前に後頭部に傷を負っていたことが判明する。川釣りの最中に足を滑らせて転倒し、岩に頭を打って気絶、そのまま溺死したというのが現地の警察の見立てだった。
青木に頼んで調査を進めた城西エレクトロニクスについては、完全なシロであることが判明する。3年前に有害物質を川に流して問題になったことは事実だが、その後は工場廃液に法律で定められた通りの処置を行っており、問題らしい問題は見られないという。一方の杉下が妖怪としての川男について調べていたことを知った青木は、「自分にこんな面倒を押し付けて何をやっているんだ」と呆れるが、杉下は“コティングリー妖精写真”という100年前の事件を持ち出して「妖怪の存在を全否定はできない」と言葉を返す。

その時、百花から「自分の他にも川男を見た人がいた」という連絡が入る。奥武蔵野町で飲食店を営む女将が、百花と同様に「背が高くて真っ黒な人影」を見たというのだ。新たな証人が登場したことを喜ぶ百花だったが、女将は特命係の2人に「百花があんまり一生懸命で、つい話を合わせてしまった」と密かに伝える。彼女によれば、怪しい人影を見たことは事実だが、それは恐らく釣り人だろうとのことだった。
しかしその目撃情報は荻野が溺死した場所と一致しており、さらには彼が亡くなった月命日と同じタイミングだった。改めて現場を調べた杉下たちは、そこに釣り人用の靴の足跡と、住民が用意していたのと同じ水質調査のサンプル回収用のボトルの蓋を発見する。足跡の方はただの靴のものではなく、手製のスパイクを打ち込んだ特別製で、滑りやすい川の中を歩くため特別に用意した代物であることが判明する。

一連の事件に関連性があることを見抜いた杉下は、「また魚の市街が浮いていた」という話を女将に流してもらい、川男こと密かに水質調査を続けていた高部を誘い出す。笹沼硝子では廃液をタンクに貯蔵して処理する方式を取ってはいたが、数か月前にそのタンクが破損し、廃液が土壌に流出していた。これが川に流れ込み、水質汚染の原因になっていたのである。
これを知った荻野は、「全てを明らかにして対策を取るべきだ」と高部たちに訴えるものの、社長の笹沼は「うちの廃液が原因かどうかは分からない、せっかく都合よく城西エレクトロニクスが疑われているのだから余計なことをするな」とこれを却下。それでも荻野は1人で独自に水質調査を続け、その結果足を滑らせて命を落とすこととなったのだという。

最初は笹沼に従っていた高部だったが、荻野の死に衝撃を受け、彼の行動を無駄にしたくない一心で水質調査を密かに引き継いでいた。しかしある日、釣り用の黒いウェーダーを着て川に赴いた際、川に遊びに来ていた悠太に見つかってしまう。自分が水質調査をしていることを笹沼に知られたくなかった高部は騒がれる前にその場を離れ、彼を追いかけて川の中に入った悠太はそのまま溺れてしまった。高部がここで祈っていたのは荻野のためではなく、悠太の回復を願うためのものだったのだ。
釣り好きの冠城が「荻野が釣り用の靴をさらに滑りにくくする工夫を知っていれば事故も起こらなかった」と嘆くと、高部は意外なことを口にする。荻野は釣り用の靴に滑り止めの工夫をする方法を知っていたというのだ。だとすれば、荻野の死は事故ではなく事件である可能性が高くなる。

さらに捜査を進めた結果、荻野は笹沼によって殺されたことが明らかとなる。溺死した荻野の肺には大量の水が入り込んでいたが、発見された場所で検出された笹沼硝子由来の有害物質テトロエデンはほとんど入っていなかった。つまり荻野は違う場所で溺死し、それから何者かによって発見された地点まで運ばれたことになる。そして荻野が実際に死亡したとされる川の上流では、死亡推定時刻に笹沼が車を走らせている姿が監視カメラに記録されていたのだった。
荻野が水質調査を進めていることを知った笹沼は、それを咎めようとして揉み合いになり、押し倒した際に後頭部を岩に打ち付けて気絶させる。これをそのまま溺死させた上で、自分の犯行と荻野が水質調査を行っていた事実を隠すため、彼の遺体を運んだというのが真相だった。

笹沼硝子の社員たちからタンクの破損の証言も取られたことで、笹沼は捜査一課によって逮捕。高部は病院を訪れて「自分が注意して止めていれば悠太は溺れなかった」と千夏に謝罪し、杉下たちも「荻野の事件を警察が早急に解決していればこの事態は回避できた」と彼女に頭を下げる。大人たちがそれぞれの責任を果たす中、百花もまた「自分が一緒に川に行けば悠太は溺れなかった、悠太の面倒を見るのが嫌で“宿題で忙しい”と嘘をついた」と涙ながらに千夏に打ち明ける。千夏はそんな娘を優しく抱き締め、百花にはなんの罪もないこと、2人で悠太が目覚めるのを信じて待とうと語り掛ける。その頃、病室では悠太がかすかに指を動かし、意識を取り戻す兆候を見せ始めていた。
百花が「川男の仕業だ」と頑なに言い張っていたのは、彼女なりに千夏を守ろうと、母親にはなんの責任もないのだということを主張したのだろうと分析する杉下。コティングリー妖精写真は、後年になって捏造写真であることが撮影した少女たちによって打ち明けられるも、彼女たちは「本物の妖精を見たのに、誰も信じてくれないから捏造写真を作った」とも語っていたという。大人に見えないからといって、子供たちにしか見えないものの全てが実在しないとは限らないのだと、杉下は話を締めくくるのだった。

第8話「操り人形」

50年前の殺人事件について尋ねるため、人形劇団を主宰する藤島(右)の下を訪れる特命係の2人。

都内の大学構内の工事現場で白骨死体が発見される。頭蓋骨に大きな傷があり、何者かによって殺害されてから埋められたと推定されるものの、現場や遺体の状況などから実際の犯行は50年ほど前だと断定。すでに時効が成立していることもあって、伊丹、芹沢、出雲ら捜査一課の面々はやる気の無さそうな様子を見せる。その場にやってきた特命係にこれ幸いと捜査を丸投げすると、伊丹たちは早々に事件現場から引き上げていった。
オカルト趣味のある杉下が「誰かの声が聞こえた」、「被害者は成仏できていないのでは」と妙に興味を示し、“捜査一課に任された”ことを口実に特命係は白骨死体について調べていくこととなる。

DNA鑑定により、死体は犯行と同じ時期に行方不明になった岡田茂雄(おかだ しげお)という人物のものであることが判明。岡田は当時盛んだった学生運動の中心的人物の1人で、「内ゲバで殺されたのではないか」と冠城は推理するが、杉下はそれに異を唱える。当時の学生運動はセクト(派閥)同士で殺人にも至る事件を起こすことが珍しくなく、敵対する相手への攻撃は盛んに喧伝するのが常だった。岡田ほどの有力な人物がそういう形で殺されたのなら、どこかがそれを公表したはずだというのだ。しかし実際はどこかのセクトが岡田を殺害したと誇るようなことはなく、それどころか事件を隠蔽するように死体は埋められている。当時のことをさらに調べるために、特命係は岡田と同じセクトに所属していた吉澤秀介(よしざわ しゅうすけ)という人物を訪ねる。
吉澤によれば、演説の巧みさで学生たちの支持を集めていた岡田が、多くのセクトから命を狙われていたのは事実だという。他に岡田を恨んでいた者に心当たりはないかと杉下が尋ねると、吉澤は「女には恨まれていたかもしれない」と言い出す。岡田は好色な人物で何人もの女性に手を出しており、むりやり行為に及んだことを自慢することすらあったという。さらに吉澤は、当時の岡田をよく知る人物として、彼の幼馴染の藤島健司(ふじしま けんじ)という男の名を挙げる。藤島は学生時代に立ち上げた「糸使い」という人形劇団の主催者をしているらしく、吉澤は「藤島は糸で人形を操り、岡田は言葉で人間を操る」と言って、2人はある意味よく似ていると評する。

特命係がそうやって捜査を進めていた日の夜、藤島は糸使いの立ち上げメンバーの1人で今はカジハラロジスティクスという会社の社長をしている梶原太一(かじはら たいち)から、ショートメールで唐突に呼び出されていた。待ち合わせ場所に指定された荒坂大橋へと藤島が赴いたその翌日、同じ場所で梶原の死体が発見される。
これこそまさに自分たち向けの事件だと、嬉々として捜査を始める伊丹たち。梶原の会社の社員たちによれば、彼は最近情緒不安定気味で、「もうダメかもしれない」、「亡霊」とたびたび口にしていたという。梶原が藤島に頻繁に連絡していたことを知り、捜査一課もまた糸使いに向かう。

一足早く藤島の下を訪れた特命係は、彼が人形を操って“耐えがたい嘆きに崩れ落ちる”様を演じているところを目撃する。藤島は岡田の死体が発見されたという記事の載った数日前の新聞をわざわざ手元に残しており、当時のことについても何か事情を知っているように思われた。しかし藤島は岡田の死については何も知らないと言い張り、「お役に立てそうにない」と特命係を追い返そうとする。
このタイミングで捜査一課もこの場に現れ、「なぜ特命係がいるのか」と驚きながらも藤島を詰問。藤島と梶原の間になんらかの関係があったと見て、彼に任意同行を求める。捜査一課が藤島と共に去っていくのを杉下たちが見送っていると、田中美鈴(たなか みすず)という女性が糸使いにやってくる。彼女もまた、糸使いの立ち上げメンバーの1人だった。

美鈴によれば、藤島と梶原は学生の頃からの親友だという。梶原は人形劇を心から愛し、家業を継ぐために糸使いから離れる時は散々に悔しがり、社長となってからも公演には必ず駆けつけ、ずっと資金面から運営を支えてくれた。その梶原を藤島が殺すことなどありえないと、美鈴は断言する。
しかし美鈴は藤島と梶原がここ最近頻繁に連絡をやり取りしていたことは知らず、彼らの今の関係までは承知していなかった。ここで杉下が糸使いの中に飾られていた写真に気付き、美鈴に子供がいたことを知るも、それについて尋ねると彼女は突然興奮して「今はそんなこと関係ないでしょう」と吐き捨てる。美鈴にとって、息子の話題はタブーであるらしかった。

捜査一課の取り調べでも藤島は完全黙秘を貫き、有力な証拠も無かったことから帰されることとなる。冠城は「藤島と梶原が岡田を殺し、梶原はそれが発覚することを恐れていたのではないか」と推理するも、杉下はこれを「すでに時効が成立している以上、社長という立場のある梶原はともかく、藤島が岡田のことまで黙秘する理由が説明できない」として解明できていない真実があると分析する。今の状況で藤島が何も語ろうとしないのは、“誰かを庇っている”からではないかというのが、この時点での杉下の見立てだった。
その後梶原の通信記録を確認した杉下と冠城は、荒坂大橋への呼び出しの時だけ、梶原がショートメール(携帯電話からのメール)を使っていたことに気付く。社員によれば、梶原は携帯電話でメールを送ることを嫌っており、ショートメールを使うところは見たことがないという。藤島を呼び出す際のメールは、梶原を殺した人物による工作である可能性が高くなった。さらに社員は梶原が口にした亡霊についても、「“亡霊に見える”という言い回しをしていた」と興味深いことを証言する。「亡霊が見える」なら死者の霊を見たということになるが、「亡霊に見える」なら誰かを亡霊のように感じていたということになる。

捜査を進める特命係は、50年前に糸使いの立ち上げにも立ち会った野添広道(のぞえ ひろみち)という人物を訪ねる。野添は今は喫茶店のマスターをしており、店内には糸使いにもあった藤島たちの若い頃の写真が飾られ、彼らとごく親しい間柄だったことがうかがわれた。藤島たちもかつてはこの店によく訪れており、その際には美鈴の子供である健太という少年も一緒だったという。しかしその健太は学生の頃にグレてしまい、何度も事件を起こして2度も刑務所に入ったらしい。この時美鈴は親子の縁を切った一方、藤島と梶原は息子同然にかわいがってきた健太のことを見捨てず、なんとか立ち直らせようと力を尽くしてきた。
半年前、その健太が久し振りに店を訪れ、一緒にやってきた梶原に「立ち直るチャンスを与えてほしい」と雇ってくれるよう懇願。その場にいた藤島からも頼み込まれ、藤島はこれを承諾して健太を運転手として雇ったという。

その後、特命係は捜査一課と共にカジハラロジスティクスに乗り込み、健太を逮捕する。梶原を殺したのは健太だったのだ。しかし健太は「俺じゃない、梶原さんが急におかしくなった」と言い張り、正当防衛を主張する。
事件のあった日、梶原は唐突に健太に「辞めてもらう」と言い出した。健太が荒坂大橋の近くで車を停めてその理由を問おうと身を乗り出すと、梶原は不意に恐慌して「許してくれ岡田」と言いながら車を飛び出す。混乱しながら梶原を追いかけていった健太は、彼と揉み合いになって首を絞められ、咄嗟に反撃した結果、意図せずして殺してしまったのだという。事情も分からないまま人殺しになってしまった健太は、咄嗟に罪から逃れようと梶原の携帯電話で藤島を呼び出す工作を行った。これが事件の真相だった。

その後糸使いを訪れた特命係は、劇団を畳む準備を進めていた藤島と美鈴に、健太が逮捕された旨を報告。藤島が庇っていたのが健太だったことを指摘する。梶原が普段使わないショートメールを使って呼び出してきた時点で、藤島は何が起きたのかを察し、息子同然に育ててきた健太のために黙秘を貫こうとしていたのだ。
どうしてそんなことになったのか。悲痛な顔を浮かべる藤島たちの前で、杉下はある仮説を披露する。50年前に岡田が美鈴をレイプし、これに激昂した梶原が岡田を殺害。死体を隠して事件を隠蔽するも、この時には美鈴の中には新たな命が宿っていた。こうして生まれたのが健太なのではないか。岡田の死体が発見されたことで、改めて罪の意識に苛まれた梶原は、岡田によく似た面影を持つ健太と一緒にいることに耐えられなくなっていった。だからこそ「亡霊に見える」という言葉を使って藤島に相談を重ね、彼を首にすることで自身から遠ざけようとしたのだ。

藤島と美鈴は杉下の仮説を否定せず、ただ力なくうなだれる。「岡田のことは憎いが自分の中に宿った命まで殺すことはできなかった、健太の父親は藤島と梶原だ」と語る美鈴だったが、どこまで苦しめれば気が済むのかと嘆きの言葉を口にする。時効が成立しているため藤島たちが改めて罰せられることはなかったものの、逆に今となっては岡田の罪を問うこともできず、白骨死体の発見から始まった事件はただ悲惨な過去を掘り起こしただけに終わる。
糸使いを後にする中、冠城は「今回の事件は、岡田の亡霊が自分の息子を操り人形にして引き起こしたように見える」とつぶやく。吉澤の語っていた「藤島は糸で人形を操り、岡田は言葉で人間を操る」という言葉を思い出しながら藤島たちを見やる杉下。夢か幻か、そこには窓の向こうから2人をジッと見詰める人影があった。

第9話「生まれ変わった男」

「20年前の殺人事件の記憶がある」と語る大学生・吉岡翼(中央)に興味を持ち、接触する特命係の2人。

今から20年前、都内にあるスーパー八神の駐車場で、電気技師の関田正平(せきた しょうへい)という男性が刺殺体で発見される。金銭が奪われていなかったことから怨恨の線で捜査が進められるものの、正平は面倒見の良い善良な人物で殺されるような理由はまったく見つからず、犯人の手掛かりがつかめないまま時は流れていった。
そして現在、正平の妻である関谷園子(せきや そのこ)から「遺留品を返して欲しい」との訴えが警察に届けられる。いずれも証拠能力の低い品であることからこれは了承され、特命係がこれを届けることとなる。どうでもいい仕事を押し付けられたと冠城はぼやくものの、杉下は「頼まれればなんでもやるのが特命係」だと意にも介さない。

その関田家で、杉下と冠城は不思議な話を耳にする。園子は独自に事件の情報提供を呼び掛けるビラ配りを続けていたのだが、そんな彼女に「自分はあなたの夫の生まれ変わりかもしれない」という青年が接触してきたというのだ。彼は吉岡翼(よしおか つばさ)と名乗り、自分が正平が殺された日に近くの病院で生まれたことを明かし、「自分には正平が殺された時の記憶がある」と訴えてきたのだという。
からかわれたと感じた園子は話を最後まで聞かずに立ち去ったというのだが、杉下は大いに興味をそそられる。生まれ変わりが実際にあるかどうかはともかく、本当に翼に事件当時の記憶があるのなら、迷宮入りしかけている事件を解決できるかもしれない。

こうして特命係は、改めて20年前の事件について捜査を開始する。正平は事件の直前まで園子と電話をしており、直後に死体が発見されたことから犯行時刻は午前9時20分から25分とごく限られた範囲になるという。捜査を担当した地元の警察署で当時の証拠品を調べていた杉下は、その中にある1枚のトレーディングカードに目を留める。これは当時大人も子供も夢中になっていたものだったが、正平にはこれを集める趣味が無く、犯人の所持品だと目されていた。
一方、冠城はサイバーセキュリティ対策本部の土師太(はじ ふとし)に協力してもらい、翼の個人情報を集めていた。翼は聖洋大学に通う学生で、陸上の短距離の選手として活躍。ジュニア時代は数々の記録を打ち立て、“神童”と呼ばれていたという。冠城は彼の語る“前世の記憶”には懐疑的だったが、杉下は「本当かどうかまず確かめる必要がある」として、2人は聖洋大学を訪れる。

園子に信じてもらえなかった翼は、自分の“前世の記憶”に興味があるという杉下と冠城に驚くも、自身もこの記憶がなんなのか知りたいとの思いから彼らに協力する。驚いたことに、翼の語る“前世の記憶”には、犯人と被害者以外には知らないはずの、現場から持ち去られた凶器に関する情報までもが含まれていた。翼は子供の頃からこの“誰かに刺される夢”に悩まされ、その影響かここ数年はスランプに苦しみ、陸上でも良い結果を出せずにいるという。
事件現場で検分を進めていた翼と特命係だったが、「駐車場で妙なことをしている男たちがいる」とスーパーの客に気味悪がられ、副店長の八神友彦(やがみ ともひこ)が様子を見に現れる。20年前に正平の遺体を発見したのは友彦の父で店長の八神淳一(やがみ じゅんいち)で、事情を聞いた彼は翼と特命係たちに事件当時のことを語る。あの時淳一は店の前で呼子をしており、駐車場から聞こえてきた叫び声ことで「何かあったのか」とその場に駆けつけ、正平の死体を発見したのである。この話を聞いた翼の脳裏に新たな記憶が蘇り、「正平が殺された時、誰かが“太陽”と叫んでいた」との証言が得られる。

太陽とはなんのことなのか、そもそも翼の“前世の記憶”はどこまで信じていいものなのか。慎重に捜査を進めていく特命係だったが、ここで興味深い事実が明らかとなる。当時の事件記録の中に、翼の父である吉岡博幸(よしおか ひろゆき)の名前があったのだ。博幸はただ事件当時にスーパー八神の店内にいたために事情聴取されただけに過ぎなかったが、店の中を慌ただしく駆け回っていたという目撃証言があるという。
博幸からも話を聞こうと、吉岡家を訪ねる特命係。当時のことについて尋ねると、博幸はスーパー八神にいたのは飲み物やオムツを買うためで、駆け回っていたのは妻の直美(なおみ)が突然産気づいたという連絡を受けたからであり、太陽という言葉にも心当たりはないと答える。しかしそれを聞いた翼は「嘘だ」と叫び、“太陽”と叫んでいたのは博幸であることを指摘する。特命係と共に過去を掘り返していく中で、彼の中の“前世の記憶”もさらに明確になっていたのである。

翼が子供の頃、吉岡家は何度も引っ越しを繰り返し、親戚付き合いもまったくしてこなかった。それは何か事件に関することを隠しているからではないのかと父に問う翼だったが、博幸は「記憶違いだ」と取り合わない。両親の言葉が信じられず、翼は家を飛び出し、冠城がそれを追いかける。一方、杉下は家に飾ってある家族写真に目を留める。そこには正月にホールケーキを前に笑顔を浮かべる吉岡家の人々の姿があり、「正月にケーキとは珍しい」と杉下が指摘すると、直美は「翼がおせちを食べたがらないので、吉岡家では毎年そうしている」と答える。
その日の晩、翼が何者かに刺される事件が発生。幸い命に関わるほどの傷ではなく、捜査一課が聴取を行うも、腹部を正面から刺された翼は「何も見ていない」、「黙秘する」と頑なに犯人についての言及を避ける。しかしその場にやってきた杉下が、凶器となったナイフが正平の遺品の中にあった電工ナイフであることから、彼を刺したのは園子ではないのかと指摘。すると翼は後悔に顔を歪め、「自分が悪い、あの人を追い詰めてしまった」と苦しそうにつぶやく。

特命係が本格的に正平の事件の再捜査を始めたことを察した園子は、「翼は本当に夫の生まれ変わりなのか」をどうしても確かめたくなり、彼を呼び出して妻である自分のことを覚えていないのかと詰問。しかし思い出せるのは事件のことだけで、それ以前の正平に関する情報は無く、翼はただただ「あなたのことは分からない」と言って頭を下げる。些細な口論をしたまま正平に死なれ、20年間苦しみ続けた園子は、「夫の名を使ってからかわれていたのか、そんなに自分を苦しめたいのか」と激昂し、咄嗟に彼を刺してしまったのだという。
翼が必死に自分を庇おうと、犯人であることを警察に知られまいとしていたと捜査一課の面々から聞かされ、泣き崩れる園子。一方の翼は、自分が何者なのか、園子のように苦しみ続けた人の気持ちを踏みにじってまで“前世の記憶”について調べるべきなのか分からなくなり、病室で天を仰ぐ。

しかし一連の事件を経て、特命係は翼の“前世の記憶”についての真相を突き止めていた。博幸と直美を呼び出した杉下たちは、事件現場に落ちていたトレーディングカードに“翼の指紋”がついていたことを伝え、翼は事件当日より以前に生まれた子供だということを指摘する。
直美は前夫から執拗なDVを受けており、「このままでは殺される」と怯えてシェルターに避難。そこで博幸と出会って最初の子である“太陽”を設けるものの、この時点では離婚に抵抗する前夫との籍がそのままになっていた。「離婚後300日以内に生まれた子供は自動的に離婚前の夫との子になる」という民法の規定により、このままでは太陽は前の夫との子ということになり、様々な法律上のつながりができてしまう。下手をすれば太陽までもがDVの被害に遭うかもしれない。これを恐れた博幸と直美は、太陽を無戸籍のまま育てていった。

太陽が3歳になった頃、博幸と直美の間には第2子となる“翼”が、正平が殺された当日にその近くの病院で生まれる。しかし翼は生後4か月頃に乳幼児突然死症候群で呆気なく命を落としてしまった。直美が悲しみに暮れる中、博幸は「太陽を翼として育てよう」と彼女に提案。こうすれば太陽はちゃんとした戸籍を得られるし、直美の前夫との縁も切ることができる。息子のために、博幸と直美は共謀して本当の翼の遺体を墓地の近くに埋め、それ以降第一子の太陽を翼として育てていった。彼の幼少期の写真が処分されていたのも、何度も引っ越しを繰り返したのも、この工作に気付かれないようにするためだった。“前世の記憶”とは、実際に事件の瞬間を目撃した翼の幼少期の朧げな記憶だったのだ。
子の未来を想ってのこととはいえ、死体遺棄と戸籍を偽ったことはれっきとした犯罪だと厳しく指摘する杉下。観念してそれらを正していくことを約束する博幸と直美だったが、ここで意外な事実が明らかとなる。事件当時博幸がスーパーを駆け回っていたのは、その時はまだ“太陽”という名前だった翼が迷子になってしまったからだったが、駐車場で息子を見つけた時、近くで倒れていた正平の死体には凶器のナイフが刺さったままだったというのだ。これが事実なら、それから警察がやってくるまでのわずかな間に、誰かがナイフを持ち去ってどこかに隠したということになる。

改めてスーパー八神を訪れた杉下と冠城は、凶器のナイフを持ち去ることができるのは第一発見者の淳一しかいないこと、彼がそこまでして庇うとしたら息子の友彦しかいないだろうことを指摘する。果たして特命係の読み通り、正平を殺したのは当時中学生だった友彦であることが明らかとなる。
その日駐車場から実家でもあるスーパー八神に向かっていた友彦は、迷子になっていた太陽(現在の翼)と出会う。彼が自分に懐いてくれたことから、自慢のトレーディングカードや趣味のナイフを見せびらかしていたところ、折悪く正平がその場に現れた。正平は「ナイフを手に持つ少年と幼い男の子」という構図を見て何か犯罪めいた事態を想像し、咄嗟に太陽を保護して警察に連絡しようとする。まだ中学生だった友彦はこの事態に驚き、「警察」という言葉に慄き、慌ててそれを止めようとするも、勢い余って正平を刺し殺してしまった。自分の仕出かしたことに恐慌して友彦は現場を駆け去り、直後に博幸が迷子になっていた息子と正平の死体を見つけて「戸籍の無い息子を抱えたまま警察に関わるわけにはいかない」とこの場を離れ、その後に淳一が到着。正平の遺体に突き立てられたままのナイフが自分の息子の所持品であることに気付き、彼を庇うために警察が来る前にこれを持ち去ったというのが真相だった。

涙ながらに「息子を守りたかった」と語る淳一だったが、杉下は「それが親の愛だと思ったら大間違いだ」と彼を糾弾。淳一のしたことは、友彦から罪を償う時間を奪っただけであり、親ならもう少し早く息子さんを罪と向き合わせて楽にさせるべきだったと告げる。
20年前のスーパー八神での殺人事件の真相は明らかとなり、吉岡家の秘密も公然のものとなる。翼が残した数々のジュニア時代の記録も、彼が本当は3歳年上だったから残せたもので、取り消されることが決定する。

しかし“太陽”という名を取り戻すこととなった翼は、「あなたたちが信じてくれたから本当の自分を取り戻せた」と杉下と冠城に感謝する。そんな彼に、杉下は「君の本当の誕生日は1月1日ではないか」と尋ねる。吉岡家で正月にケーキを食べていたのは、いなくなってしまった“太陽”の本当の誕生日を祝うためではないかというのだ。
果たしてそれは当たっており、太陽は杉下の推理力に舌を巻く。一連の出来事は全て博幸と直美が自分を心から愛してくれていたからこそ起きたことだと、太陽は全てを前向きに受け止め、大学に通う間は陸上を続けると宣言。杉下と冠城に晴れ晴れとした笑顔で頭を下げて、再び練習に戻っていくのだった。

第10話「紅茶のおいしい喫茶店」

張り込みのため、喫茶店の店員に扮する杉下と冠城。

ある日、組織犯罪対策五課(通称“組対五課”)の角田課長が特命係に顔を出し、捜査を手伝ってほしいと杉下たちに頼み込んでくる。組対五課では現在とある詐欺グループを追っており、そのための手が足らないというのだ。特命係は組対五課に間借りしており、日頃から状況に応じて協力し合う関係であることから、杉下と冠城はこれを快諾する。
問題の詐欺グループは、仮装通貨を使ったロマンス詐欺(ターゲットに異性の仕掛け人が近づき、仲良くなったところで相手の恋心を利用して詐欺を働く手法)で荒稼ぎしているらしい。被害にあったのは多田野という男性で、“さやか”と名乗る女性とマッチングアプリで親しくなり、彼女に言われるまま架空の仮装通貨に手を出して財産をほとんど奪われてしまったのだという。

多田野はなんとか金を取り戻そうとさやかとの接触を試みたのだが、“さやかの夫”だと名乗る男に「これ以上さやかに付きまとうなら、彼女との不倫をお前の家族や会社にバラす」と脅されて単独での調査を断念。しかし喫茶店でさやかの夫と出会った際、彼が使用したストローを「何かの手掛かりになるかも」と回収し、ここからさやかの夫役の詐欺師のDNAが判明している状態だった。
別件で警察に捕まった平田という男が、この詐欺グループの構成員だったことが判明しており、そこから少なくない情報が得られていた。それによれば、詐欺グループは50人以上から構成され、明確な役割分担のある高度に組織化されたものだという。指示は常にメールで送られ、リーダーの顔は誰も知らないらしい。詐欺グループの集めた金は都内8か所に隠されており、角田たちは組織の構成員がこれを回収しに現れるところを狙って逮捕し一網打尽にする計画を進めていた。特命係には、その内の1つである倉庫の監視を頼みたいというのだ。

問題の倉庫に赴いた杉下と冠城は、その道路を挟んだ反対側に喫茶店を発見する。倉庫を監視するには都合がいいと考えた2人は、喫茶店のマスターである真鍋弘明(まなべ ひろあき)に「ここで張り込みさせてほしい」と頼み込む。いきなり押しかけてきた2人の刑事に真鍋は困惑するも、彼の喫茶店が紅茶に特化した店であることを知ると、紅茶好きの杉下は大いに興味を惹かれ、紅茶談義を繰り広げる。今年のダージリンのセカンドフラッシュのことが話題に上ると、真鍋は「香りが弱くていまいちだった」と通らしい言葉を口にするのだった。
1日中張り込むのであればその方が好都合だと、杉下と冠城は刑事としての身分を隠し、真鍋の喫茶店で店員に扮して働くこととなる。冠城が捜査協力への同意書を用意する中、紅茶を愛好する杉下はわざわざ何種類かの高級茶葉を持ち込む。真鍋は「警察はここまでするのか」と呆れた様子でそれを眺めつつ、同意書にサインして杉下の持ち込んだ茶葉を店でも出すことを許可するのだった。ぜひ本職から味の感想が聞きたいといって杉下が用意したブレンド紅茶をマグボトルで受け取ると、真鍋は後のこと特命係の2人に任せて、捜査の邪魔にならないよう店を去っていく。

真鍋の喫茶店はそれなりに繁盛しており、中でも大杉瑞枝(おおすぎ みずえ)という老婦人はすっかり常連となっていた。窓際の席に座って外の景色を見ながら紅茶を楽しむのがお気に入りで、杉下に勝るとも劣らない紅茶好きである瑞枝は、彼が持ち込んだのが最高級の茶葉であるゴールデンティップスであることもあっさりと気付く。
瑞枝がかなりの紅茶マニアであることを知った杉下は、同好の士として彼女と紅茶談義を交わす。そんな中でふと話題は瑞枝の家族のことに移り、彼女は夫とは離れて暮らしていること、彼が今奥諏訪の別荘にいることを説明する。

そんな中、1台の車が問題の倉庫の前に停車。中から降りてきた1組の男女について冠城が角田に報告していると、彼らは喫茶店に普通に客として入ってくる。怪しまれないように接客し、2人が帰るところを追跡しようとする冠城だったが、店にいた客が彼を捕まえて「紅茶に髪の毛が入っていた」とクレームを付け始める。同じタイミングで杉下も瑞枝に会計をするよう頼まれてしまい、2人は怪しい男女を見失う。一方、彼らが使用して唾液のついたティーカップから、そのDNAを採取することには成功するのだった。
この唾液は早速分析にかけられ、その日の内に男の方が鷲尾琢磨(わしお たくま)、女の方が赤堀絵里(あかぼり えり)という前科者であることが判明。鷲尾のDNAは“さやかの夫”として現れた人物のものとも一致しており、これを突破口に詐欺グループを捕まえようと意気込む角田だったが、ここに予想外の報せが飛び込む。鷲尾が都内のビルの非常階段で死体で発見されたというのだ。

鷲尾の遺体には頭部に損傷があり、転落死したものと推測された。赤堀と共にこのビルのレストランで食事をした後、彼女に支えられるようにしながら鷲尾が店を出ていく映像が防犯カメラに残されており、さらにはこの事件の混乱で監視が疎かになった問題の倉庫から金が持ち出されていることが判明。捜査一課はこの金を巡って鷲尾と揉めた赤堀が彼を殺したという見立てで捜査に着手する。
一方、あまりにタイミングよく鷲尾が殺されたことを不審に思った特命係は、彼についての捜査を角田と共に進めていく。鷲尾は詐欺グループの中でも中心的な人物の1人で、2年前から「原野商法」と呼ばれる詐欺を繰り返していた。これは1980年代に流行した「二束三文の土地を“近々値上がりする”と偽って売りつける」という詐欺だが、これの被害者たちを対象に「原野商法の被害者救済のため有料の手続きをお願いしたい」という新たな詐欺が近年横行していた。2度に渡って大金を騙し取られた人の中には自ら命を絶った者も少なからずおり、当時の資料に目を通していた杉下はその被害者の中に“大杉隆也(おおすぎ りゅうや)”という人物がいることに気付く。一方、鷲尾たちの昨日の足取りを確かめていた冠城は、街中の監視カメラの映像に2人を追う瑞枝の姿が映っているのを発見するのだった。

瑞枝を問い詰めると、彼女は鷲尾を殺したことをあっさりと認める。彼女の夫である隆也は、1980年代に原野商法に引っ掛かって大金を失い、2年前には鷲尾によって再び騙されて老後の資金を奪われ、絶望の末に自ら命を絶った。愛する夫を失った瑞枝は、いったんはその悲劇を忘れて生きようと考えるも、ある日偶然にも街中で鷲尾を見つけてしまう。復讐の念に駆られた瑞枝は、自分の手で鷲尾を殺すために、彼が入っていった倉庫を見張れる“特等席”こと真鍋の喫茶店に通い詰めるようになった。そしてあの日、喫茶店を出ていった鷲尾を尾行し、赤堀に肩を貸されながら出てきた彼が、非常階段に腰かけているところを後ろから突き飛ばし、夫の仇を討ったというのだ。
瑞枝は取り調べにも素直に応じ、これで鷲尾が殺された件については解決するかと思われた。しかし杉下は鷲尾に目立った出血が無かったことから、「瑞枝に突き落とされた時には鷲尾はすでに死んでいたのではないか」と考え、彼の遺体を司法解剖に回す。果たして鷲尾の遺体からは猛毒のテトロドトキシンが検出され、直接の死因はこれであったことが判明。レストランで一緒に食事をしていた赤堀が食事か飲み物に毒を混入し、鷲尾を殺害した可能性が高くなる。

その翌日、今度は赤堀の死体が東京湾で発見される。遺書によれば、鷲尾と倉庫に隠した金の分け前で揉めて毒殺したが、逃げ切れないと考えて服毒自殺を図ったという。さらに倉庫から持ち出した金は海に捨てたとも書いてあり、強引ではあるが一応の辻褄は合う形となっていた。しかし杉下と冠城はあまりにもスムーズに“事件の幕引き”を図ったかのようなこの展開そのものを疑問視し、これが真犯人による工作であると推理。一連の事件を裏で操っていた人物がいるとの見解で一致する。
真鍋の店を訪れた杉下と冠城は、彼こそが一連の事件の真犯人で、誰も顔を知らない詐欺グループのリーダーであることを指摘する。そもそも彼の紅茶知識は大部分で間違っており、その時点で杉下は不審を感じていたという。同意書のサインと当時の捜査資料に記されていた筆跡が同じだったことから、真鍋は32年前に瑞枝の夫を騙して大金を奪った張本人であることも判明する。

なお白を切ろうとする真鍋に、杉下は自身のオリジナルブレンドの茶葉を突きつける。赤堀の胃の中からも、これと同じ成分の紅茶が発見されていた。この世でこのブレンドの紅茶を持っているのは、作った本人である杉下と、彼からこの紅茶をマグボトルに詰めて渡された真鍋しかいない。これが決定的な証拠となり、真鍋がこの紅茶に毒を混ぜて赤堀を殺したことが明らかとなったのだ。
真鍋は数十年に渡って人々を騙してきた大物詐欺師だった。喫茶店のマスターに扮して倉庫を見張っていた彼は、鷲尾を付け狙う瑞枝の存在と、倉庫を見張ろうとする特命係が目の前に現れたことを利用して、金を独占することを思いつく。瑞枝に「鷲尾を殺した」と思い込ませることで事件の幕引きを図り、これが見破られたと察するなり今度は赤堀に罪を擦り付けて殺害する。これが今回の事件の全貌だった。

真鍋は「自分以上に頭の回る人間を始めて見た」と漏らし、金をやるから見逃してくれと特命係に持ち掛ける。杉下と冠城はこれを一瞬で却下すると、それぞれに「いいかげんにしなさい、もう逃がしません」、「これまでも配下を切り捨てて逃げのびてきたんだろう」と彼を罵る。リーダーを捕らえられた詐欺グループは壊滅し、詐欺被害者への救済に向けて大きな一歩が踏み出される。
その後杉下と冠城は、執行猶予の処分を受けた瑞枝を街中の飲食店に呼び出す。「どうして真鍋を捕まえたのか、私が殺したかった」と語る瑞枝を、杉下は「復讐に囚われてはいけない、ご主人の分まで生きてください」と諭す。しかし瑞枝は「老い先短い自分が何を楽しみに生きていけばいいのか」と、悲しそうに言葉を返すのみだった。

そんな彼女に、杉下は「自分の紅茶友達になってほしい」と告げる。差し当たって真鍋の喫茶店でも出したゴールデンティップスを振る舞うと、瑞枝は「しょうがないわね」と苦笑を浮かべ、冠城も交えて紅茶談義に花を咲かせるのだった。

第11話「二人」

記憶喪失の男・湊健雄(左から2人目)の素性を調べるため、特命係は悪戦苦闘することとなる。

年の瀬も迫る中、杉下と冠城は甲斐に連れられてフレンチレストランに赴き、食事をご馳走になっていた。行きつけのこてまりが予約でいっぱいで入れず、それを見兼ねた甲斐がこの店を紹介してくれたという次第である。奢りとはいえ上司2人との食事に冠城が辟易する一方、杉下は店で見かけた個室のテーブルに与党の政調会長・袴田茂昭(はかまだ しげあき)、実業家の藤原信宏(ふじわら のぶひろ)、さらにもう1人のネームプレートが置いてことを確認し、この店がVIP用の高級店であることを再確認する。
その晩、近くの公園ではいくつかの事件が立て続けに起きていた。まず、自分を追いかけてきた青年に突き飛ばされ、老紳士が頭を打って昏倒。ややあって青年が袴田と連れ立って戻ってきた時には、昏倒した老紳士はいずこかへと姿を消していた。混乱し口論する青年と袴田を、落としたスマホを回収しようとして公園を訪れた小学生・早瀬新(はやせ あらた)とその友人である峰岸聡(みねぎし さとし)が目撃し、スマホで撮影。これに気付いた青年と袴田が新と聡を捕まえようとするも、2人は危ういところで逃走する。しかし回収するはずだった新のスマホは青年の手に渡り、夜の公園に現れた人々はそれぞれに去っていく。

自分のスマホを回収できなかった新は、動画データの入っている聡のスマホを借りて、同じアパートに住む遠藤佑人という人物の部屋を訪れる。聡との思い出の写真がたくさん詰まった自分のスマホをどうしても取り戻したいと考えた新は、システムエンジニアをしている遠藤に「この人たちが誰か分からないか」と相談する。遠藤は「なんとかしてみる」といって聡のスマホを預かり、その後どういうわけか「お前が前から欲しがっていたスケボーを買ってやる」という連絡を新に送り、いずこかへと出かけていく。
翌日、杉下は冠城に「会わせたい人がいる」と言われて都内にある教会へと連れていかれる。そこにいたのは冠城の姉である由梨(ゆり)という女性と、“湊健雄(みなと たけお)”という名の老人だった。健雄はどうやら昨晩どこかで頭を強打したらしく、一時的な記憶喪失になっており、由梨はなんとか彼を家族の下に帰してやりたいと考えていた。そのために警視庁に勤めている弟の冠城を頼ったのである。

そういう事情であればと健雄の素性を探り始める特命係だったが、頭を打った際に盗まれたのか、彼は財布や自身の身元を証明する品を一切所有していなかった。服装も安っぽい靴や外套に高級品のシャツを組み合わせたチグハグなもので、なんらかの事件に巻き込まれた可能性が高い。フラフラと夜道を歩いていた健雄を保護したのは新と聡で、由梨はもちろん福田 浩介(ふくだ こうすけ)など教会に出入りする人々も彼のことを心配する。根気強く話を聞き出そうとする杉下と冠城だったが、結局健雄が思い出せたのは自分自身の名前と、「デイリーハピネス」という言葉だけだった。
デイリーハピネスとは、フレンチレストランで袴田と会っていた藤原が代表を務める、都内の駅構内のほとんどに売店を出している会社である。健雄がここの関係者である可能性が出てきたことから、杉下たちはその本社ビルへと足を運ぶ。これは空振りに終わるものの、デイリーハピネスが劣悪な労働環境で社員たちと係争中であることが明らかとなり、健雄が頭を打ったのもこのことと無関係ではないのではないかと2人は考える。

両親と死別し、祖母の君枝(きみえ)と共に貧しい暮らしを送る新は、「何もできない、名前とデイリーハピネスという言葉以外のことは何も思い出せない」と嘆く健雄を「記憶が戻ればなんでもできるよ」と励まし、一方で入院中の君枝のお見舞いのために協力させたりと、子供らしい純粋さを発揮しながら振り回す。健雄は当初これに困惑するものの、やがて新と打ち解けていき、彼の家族が抱える“貧困”という問題についても深い関心を抱いていく。
健雄の身元の調査が難航する中、都内の倉庫で身元不明の男性の死体が発見される。それが遠藤のものであることと、なんらかの情報端末を持って誰かと会おうとしていたことが相次いで判明し、彼と顔見知りだった由梨たちは衝撃を受ける。これに前後して、新がスマホを落とした夜に公園で袴田と口論していた青年・結城宏(ゆうき ひろし)が、教会の近辺を嗅ぎ回るようになる。新のスマホを回収した結城だったが、厳重なパスワードでロックされていたため、これを操作することができずにいた。

発見時の状況から、健雄が何者かに襲撃されたこと、その結果気を失うもトドメは刺されなかったこと、恐らく襲撃犯とは別の何者かが彼の私物を盗んでいったことを推理で導き出す特命係。健雄の私物は2度に分けてそれぞれ別々の人物に盗まれており、その内の1人は福田だった。福田は自分が窃盗を働いたことが発覚することを恐れ、不意に目覚めた彼が記憶を失っていることに気付くと「あなたは湊健雄だ」と言いくるめ、実際にそう思い込ませることに成功していた。“湊健雄”とは、かつて福田が歌手として活動していた頃の芸名だったのである。杉下がこれを見抜いて問い詰めると、福田は観念してあの晩盗んだ“自分を「湊健雄」だと思い込まされていた老紳士”の私物を差し出す。そこには、最高裁判所の判事である若槻正隆(わかつき まさたか)の名が記されていた。
一方、結城は新の暮らすアパートを突き止めていた。その新と一緒にいる若槻の姿を確認すると、彼は顔色を変えて取り乱す。

袴田は藤原と結託し、デイリーハピネスの社員たちの起こした裁判を有利に進めるために、判事たちを抱き込むことを画策していた。フレンチレストランで杉下が見たネームプレートは、そのために設けられた袴田、藤原、若槻の会席の場だったのである。しかし気骨溢れる若槻はこれに頑として応じず、あくまで法に則って裁判を進めることを明言。なんとか翻意を促そうと結城がこれを追いかけ、揉み合いになり、突き飛ばされた若槻は後頭部を強打し気を失ってしまう。
これを「殺してしまった」と錯乱した結城は、自分だけの責任にされるのは堪らないと一度店に戻って袴田を連れ出し、改めて現場へと向かう。しかし実際には若槻は死んでおらず、記憶を失い福田たちに私物を盗まれつつも覚醒し、自分を“湊健雄”だと思い込まされた上で公園を後にした。少し遅れて結城と袴田が若槻が倒れていた現場に到着し、「死体が無い」と騒いでいるところを新と聡に目撃されて動画を撮影される。これがあの晩に公園であったことの真相だった。

スマホの画像データから結城たちの悪事を知った遠藤は、彼を脅して大金を手に入れようとしていた。しかし結城は「今後繰り返し金を強請られるかもしれない」と案じ、取引現場に現れた遠藤を鈍器で撲殺。改めて動画データを回収しようと新のことを追い続け、若槻が死んでいないことをようやく知ったのである。
必要のない殺人を犯してしまったことに絶望する結城だったが、それでもあの動画データは袴田の政治生命を終わらせかねない決定的な証拠である。なんとしてもこれを回収して消去するよう命じられ、結城は新と若槻を誘拐するという凶行に走る。聡がこれを目撃して警察に通報、詳しい話を聞こうとする特命係に「新を助けてほしい」とすがりつく。

すでに殺人を犯した結城は追い詰められた状態であり、下手なことをすれば新と若槻を道連れにしかねない。ここに至るまでに事件の筋書きをほぼ看破した杉下は、他ならぬ袴田を捜査本部に呼び出し、結城の説得に当たらせるという奇策を提案する。そうやって時間を稼いで突入チームを送り込み、かつ袴田から今回の事件に関与したという言質を取り、結城ともども捕まえようというのだ。
新を脅してパスワードを聞き出した結城が、動画データの削除のためにスマホに電源を入れたタイミングで袴田から電話をかけさせ、彼の説得が開始される。その最中、杉下は不意に袴田からマイクを奪って「このままでは君は袴田の尻尾切りに利用される」と結城を諭す。今の自分の状況と袴田の性格から考えてそれが極めて可能性の高い話であることを悟った結城は呆然自失となり、ここに冠城と捜査一課の刑事たちを中心とする突入チームが到着。新と若槻を救出し、結城を逮捕する。

杉下もまた袴田を巧みに誘導し、事件の決定的証拠となる言葉を吐かせることに成功。取調室への同行を求められた袴田に「いずれ決着をつけなければいけないようだ」と憎々しげに毒づかれた杉下は、これに「望むところです」と言い返すのだった。
こうして新は無事に敏や君枝と再会。再び生きて会えたことを喜ぶ少年たちの姿を眺め、冠城は杉下に「僕にも昔、あの2人のように仲の良かった“和也(かずや)”という友達がいた」と語る。少年時代の自分のことを回想し、ケンカしたまま別れてしまった彼は今どこでどうしているのかと、冠城は物思いに耽る。

誘拐される時に結城の顔を見た若槻は記憶を取り戻し、特命係に「今回のことはいい勉強になった」と礼を述べる。由梨や君枝にも世話になったことへの感謝の言葉を伝える若槻に、新は「祖母ちゃんとデートしてほしい」と言い出す。見舞いに行った際、2人が気の合う様子を見せていたことをちゃっかりと覚えていたのである。意外にも若槻は紳士的な態度で君枝を誘い、彼女もこれにまんざらでもない様子を見せ、新たちは和気あいあいと言葉を重ねる。
事件が解決した後、杉下と冠城は甲斐に連れられてこてまりを訪れる。あの晩、こてまりに来られなかったからこそ、「袴田、藤原、若槻が面会しようとしていた」という重要な情報が得られたのだと語る杉下に、「なら私のお陰で事件が解決できたということかしら」とおどけて見せる茉梨。ゆったりとした時間の流れる中、4人は新年を祝福するために杯を交わすのだった。

第12話「お宝探し」

徳川埋蔵金を探索するチーム「ここ掘れワンワン」の臨時メンバーとなって調査に赴く杉下と冠城。

世田谷西署の元刑事である安岡宏(やすおか ひろし)という男性が、自宅で死んでいるのが発見される。遺体には何者かに鈍器で殴られた痕跡があり、警察は殺人事件と断定。死亡推定時刻は2日前の午後8時から数時間ほどの間だという。「金が盗られている様子がないし、安岡に恨みを持つ者の犯行ではないか」と捜査一課が見立てる一方、杉下はまるで違うことを考えていた。
定年退職後に警備会社東堂エステートで働くようになった安岡は、“徳川埋蔵金の発掘”を目的とする「ここ掘れワンワン」というチームに参加しており、ユアライブという動画投稿サイトでその様子を公開し、その界隈ではちょっとした人気者になっていたのである。これが今回の事件の鍵なのではないかと判断した特命係は、独自に捜査を開始する。

早速ここ掘れワンワンが主な活動場所としている赤城山近辺に赴き、そのメンバーである竹内秀雄(たけうち ひでお)と新井正二(あらい しょうじ)に接触する杉下。竹内たちは安岡が殺されたと聞くと驚き、彼が3か月前に急に“徳川埋蔵金の隠し場所”が記されているという古地図を片手に参加を申し出てきた新参のメンバーであること、3日前にいきなりここ掘れワンワンを辞めると言い出したことなどを説明する。杉下はここ掘れワンワンの活動には安岡が殺されるに至ったなんらかの秘密があると睨み、竹内と新井を言葉巧みに丸め込んで、新規メンバーとしてチームの一員となる。
一方、冠城は都内の大学で日本史の教授をしている磯部昭夫(いそべ あきお)という人物に会いに行っていた。彼はここ掘れワンワンがアップロードした動画に「そこはもう東堂エステートの会長が発掘しているから何も出てこない」という書き込みをしており、詳しい話を聞こうとしたのである。磯部によると、東堂エステートもまた以前に徳川埋蔵金を見つけようと赤城山の周辺のあちこちを掘り返したことがあるらしく、ここ掘れワンワンが探索している洞窟もその一つだというのだ。しかし安岡は東堂エステートの発掘のことをとっくに知っていたらしく、わざわざ磯部の研究室にまで足を運んで当時の様子を詳しく尋ねてきたという。つまり安岡は“埋蔵金が無いと分かっている場所で埋蔵金を探していた”ことになり、彼の本当の目的は埋蔵金とは別のものだったのではないかと冠城は分析する。

東堂エステートが怪しいと見た特命係は、直接話を聞こうとその社長である東堂元信の下を訪れる。東堂エステートは3年前に突然埋蔵金発掘事業から手を引いているが、元信はこれを「それらしい古地図を手に入れて一瞬夢を見たが、重役たちから“会社の金を道楽に使うな”と言われて目が覚めた」からだと説明する。安岡について尋ねると「個々の社員のことまでは知らない」と言いつつ、3か月ほど前に古い書類の整理を部下に任せたことがあり、その時に問題の古地図を見つけたのではないかと言う。その後元信の息子の東堂憲一(とうどう けんいち)の案内で当時の発掘の資料を見せてもらうも、ここではそれ以上取り立てて有力な情報は得られずに引き返すこととなる。
その頃、捜査一課の捜査も暗礁に乗り上げていた。安岡は温厚な性格で、「殺してやりたい」というほど憎んでいる者がどうしても見つからなかったのである。困り果てた彼らは特命係の後追いの形で竹内と新井に接触、戸惑う2人を杉下が「完璧なものではないが竹内と新井にはアリバイがある」と庇うこととなる。

その後杉下は、竹内の一家が経営する温泉旅館に宿を取る。ここ掘れワンワンの活動をする際は安岡もここを利用していたらしく、料理を気に入ったのかわざわざ厨房まで足を運んでは仲居にお礼を言うのが常だったという。
安岡はここ掘れワンワンとしての活動を隠れ蓑に、ここで何かを調べていたのだとの思いを強くする杉下と冠城。かつて刑事だった人間がそのようなことをするとなると、「現役時代に未解決のままだった事件の手がかりを見つけてしまった」というのがもっともありうる話である。冠城が世田谷西署に向かって話を聞くと、果たして安岡は刑事生活の最後に東堂沙耶香(とうどう さやか)という女性の失踪事件を担当し、これを解決できないままに定年を迎えたことが明らかとなる。

沙耶香は憲一の妻で、3年前に突如失踪。夫の憲一が憔悴と焦燥に苦しみながら「なんとしても妻を見つけてほしい」と安岡たちに届け出た数日後、今度は義父である元信が世田谷西署に現れ「沙耶香は男と駆け落ちした、孫の祐希(ゆうき)のためにも大事にしたくないから訴えを取り下げさせてくれ」と頼み込んできたという。世田谷西署はこれを受理するものの、安岡は刑事としての勘で「元信の言っていることは信じられない」と判断し、独自に捜査を続行。沙耶香が銀座でホステスをしていた頃の交際相手である熊沢和也(くまざわ かずや)という男が行方不明となっていることまでは突き止めたものの、そこで定年を迎えてしまったらしい。東堂エステートが埋蔵金の発掘を突如中止したのも3年前で、2つの事件にはなんらかの関連性があるように思われた。
「沙耶香が熊沢と不倫関係にあることに気付いた憲一が逆上して彼女を殺害し、事件の発覚を恐れた元信が埋蔵金発掘現場に死体を埋めた」。安岡は事件の構図をそのように推理し、“動画配信”という形で自分が真実に迫っていることを東堂エステートの人間にアピールして、彼らが焦って動き出すところを抑えようとしていたのではないか。しかし古地図に記されていた場所をいくら掘っても怪しいものは発見できず、元信たちが反応する様子もない。何か重要な情報が欠けているのではないかとここ掘れワンワンが調べている洞窟に赴いた杉下は、古地図にも記されている洞窟の目印の地蔵が、どこかから移動させられたものであることに気付く。

その後杉下と冠城は、ここ掘れワンワンの新規動画という体裁を取って、「地蔵が動かされていたことが分かった」、「改めて調査して、古地図に記されている“埋蔵金が隠れた本当の洞窟”の位置が判明した」、「明日にはそこをライブ配信しながら掘り返す」旨を語る動画を配信。本当の死体の隠し場所を突き止められたと焦った東堂エステートの人間が動くところを確保する。驚いたことに、待ち構えていた杉下と冠城の前に現れたのは、3年前に失踪した沙耶香だった。
3年前、沙耶香は熊沢に復縁するようしつこく言い寄られ、ついには自宅にまで押しかけ襲ってきた彼を、咄嗟にガラスの灰皿で殴って殺してしまう。そこに元信が帰宅し、一瞬で状況を悟り、泣いて謝りながら「警察に自首する、祐希のことをお願いします」と言う沙耶香を制止し、熊沢の死体を偶然同じタイミングで手を引くつもりだった埋蔵金の発掘現場に隠すことを命じる。幼い祐希を「殺人犯の子」という立場にしたくない一心で2人は結託し、密かに熊沢を発掘現場に埋めた後、沙耶香は名前を変えてその近辺で経営していた竹内の宿に就職。もし熊沢の死体の隠し場所に近づく者がいたら、即座に対応するためである。これが3年前の沙耶香の失踪事件の真相だった。

安岡は竹内の旅館に宿泊した際、仲居の1人が沙耶香であることに気付き、同時に事件の全体像もおおよそ把握。彼が何度も厨房を訪れていたというのは、その仲居が沙耶香本人であることを確認するためだったのだ。迂闊に沙耶香に接触すれば、祐希の未来のために彼女が自ら命を絶つこともありうると判断した安岡は、隠蔽工作を主導しただろう元信を先に動かそうと画策。今からでも事実を明らかにするよう説得を繰り返した。しかし「孫の未来のため」と言いつつ己の保身にも囚われていた元信はこれを拒否し、秘密を知られた以上安岡を生かしておくことはできないと考え、事件のことで話し合うという体裁で自宅に押しかけて彼を殺害したのだった。
安岡は結婚していたが子供はおらず、妻にも先立たれて孤独な老後を過ごしていた。そんな彼だからこそ、家族に会えないつらさは身に染みて理解していた。なんとか沙耶香と祐希を真っ当な形で再会させてやりたいという安岡の優しさが、結果として彼の命を奪うこととなったのだ。元信と一緒に逮捕され、彼とは別個に取り調べを受ける中、沙耶香は捜査一課から安岡の最後の願いとその顛末を聞かされ、祐希のためだと思って罪を重ねてしまったことに涙する。

結局古地図に記されていた場所からは埋蔵金は発見されず、杉下もここ掘れワンワンの臨時メンバーを辞して東京へと帰還。竹内と新井はめげずに埋蔵金探しを続けているらしく、ネットにはすでに新たな動画が上げられているという。懲りない2人に冠城が呆れる一方、杉下はここ掘れワンワンでの活動中に新井が語っていた「埋蔵金探しは男のロマンだ」という言葉を、真面目な顔で口にするのだった。

第13話「死者の結婚」

13年前に失踪し、突如両親の下に戻ってきた多岐川未来(左)を巡り、様々な事件が起きていく。

ある晩、老いた夫婦が2人暮らしをしている多岐川(たきがわ)家に、1人の若い女性が訪れる。出迎えた直樹(なおき)と愛子(あいこ)夫妻の前で、若い女性は自らを“多岐川未来(たきがわ みらい)”だと名乗る。それは13年前、まだ10歳の頃に失踪して行方不明となった直樹と愛子の一人娘の名前だった。未来はひどく憔悴しており、「お母さんとお父さんに会いたかった、今までずっと男に監禁されていた」と語り、直樹たちの前で気を失う。夫婦は困惑し、しかしその女性に確かに小学生だった頃の未来の面影を感じ、驚愕しながらも彼女を迎え入れる。一方、事件について根掘り葉掘り聞かれることで娘が傷つくことを恐れて、直樹と愛子は警察には「未来が帰ってきた」と連絡しないことを決める。
それからしばらくして、捜査一課の伊丹はかつての先輩刑事で13年前に定年退職した黒瀬和也(くろせ かずや)という人物から相談を受ける。彼が最後に担当した事件の被害者である多岐川未来が、多岐川家に帰っているのではないのかというのだ。しかし調べた限りではそういった届け出は出ておらず、伊丹は「黒瀬の勘違いではないのか」と結論する。そこに特命係が通りかかり、事件発生の報せを聞いて伊丹が辞するのと入れ替わるように、黒瀬の話し相手となる。

かつて似顔絵捜査官として活躍した黒瀬は、定年後にボランティアで冥婚絵を描くようになっていた。冥婚絵とは、「幼くして命を落とした子供が、成長して結婚していたらこんな姿になっていたのではないか」という想像の姿を描いたものである。想像上のものとはいえ、人生で一番幸せな姿を絵にすることは、子供を亡くした親にとっては大変な慰みになるのだ。
雅弘と愛子から「自分たちが未来にしてやれるのはこれくらいだ」として未来の冥婚絵を依頼された黒瀬は、それが自身で最後に担当することとなった未解決事件の被害者ということもあり、小学生の頃の未来の写真を参考に「大人になればこういう顔立ちになっているはずだ」と特に力を入れて冥婚絵を描き上げる。しかしそれを渡した後で「もう少し完成度を上げたい」と思い立ち、3日前に改めて直樹たちを訪ねた際、自分の描いた冥婚絵そっくりの若い女性が多岐川家に出入りしているのを目撃する。それ以来、黒瀬は「もしかしたらあの女性は未来で、多岐川家に帰ってきているのではないか」と気になって仕方がないのだという。事件が起きて伊丹が忙しくなりそうなことを察した黒瀬は、杉下と冠城に「多岐川家に現れた女性の正体を調べてほしい」と頼み込む。

その頃、伊丹は都内で発生した殺人事件の現場にいた。殺されたのは西城雅弘(さいじょう まさひろ)という30歳のフリーターで、13年前からかつての祖母の家でずっと独り暮らしをしていたらしい。家の中からは女性のものらしい毛髪が発見され、これが犯人につながる大きな手掛かりになると目されていた。さらに現場を調べる内、伊丹はプリントアウトされた多岐川未来の冥婚絵を発見し、「どうしてこんなものが」と困惑する。
多岐川家を訪れた特命係は、「未来の事件について調べている」と説明した上で、家にいる若い女性が何者なのかを愛子に尋ねる。愛子は「彼女は未来のいとこの遥香(はるか)だ」と説明し、未来とはなんの関係もないと答える。訝しむ杉下と冠城だったが、そこに“遥香”だと説明された女性が現れ、「いとこだから似ているのは当たり前、今さらそんなことを確認しに来たのか」と言って2人を追い返す。

その後冠城が調べたところによると、確かに未来には同年代の“遥香”といういとこがいるものの、現在はイギリスに留学しているはずだという。黒瀬が多岐川家で彼女を目撃したのが3日前だから、いとこにしてもかなり長く滞在していることになる。どうにも不審な話だったが、杉下はあまり先入観を抱くのもミスの元になるといったん頭を切り替え、13年前の事件を改めて調べていく。すると事件当時に「愛子が“未来のランドセルを捨てる若い男”を目撃していた」こと、「黒瀬がその話を元に犯人の似顔絵を作成していた」ことが判明する。
頼まれたことの報告を兼ねて黒瀬の家を訪ねた特命係の2人は、似顔絵のことについても彼に質問する。資料として残されていたその似顔絵は非常に精巧なもので、これを参考にして工藤雄一郎(くどう ゆういちろう)という男が捜査線上に上がったという。工藤は以前にも小学生の女の子を拉致監禁した前科があり、似顔絵が彼と酷似していたこともあって、黒瀬は「コイツが犯人で間違いない」と懸命に捜査したものの、結局決定的な証拠は見つけられず、逮捕には至らなかった。

そこに伊丹が現れ、尊敬している先輩の黒瀬と邪険に扱っている特命係が一緒にいることに鼻白んだ様子を見せつつ、雅弘の事件と彼の家から未来の冥婚絵が見つかったことを説明する。この冥婚絵は黒瀬の個人的なホームページで公開されているものをダウンロードしたものだったのだが、伊丹は雅弘がどうしてこの絵を手元に置こうとしたのか不思議に思い、それを聞こうとここまでやってきたのだった。
多岐川家に現れた謎の女性、13年前の未来の失踪事件、そして雅弘が殺された事件。この3つには関連があると見て、杉下と冠城は警視庁の特命係用の部屋で情報をまとめていく。さらに未来と雅弘は事件当時同じピアノ教室に通っていたことが判明し、冠城は「未来は13年前に雅弘に拉致され、10年間監禁され続けた末に、隙を突いて彼を殺害して自力で多岐川家に帰還。直樹と愛子はそれを知って彼女を庇おうとしている」と推理する。杉下はこれを「筋は通っている」としつつ、“遥香”を名乗るあの女性が成長した未来であることを証明する必要があると指摘。事件のことが気になるのか、普段は特命係を毛嫌いしている伊丹や青木もここに顔を出す中、青木は黒瀬が描いた未来の冥婚絵に目を留めて、呆気にとられた様子でこれを凝視する。

13年前に未来と雅弘が通っていたピアノ教室に赴いた杉下は、その講師である松尾紗月(まつお さづき)という女性から当時の2人について話を聞く。それによれば、このピアノ教室は当時からずっと個人レッスンで、未来と雅弘に面識があったとは思えないとのことだった。さらに雅弘は未来の失踪の直後にピアノ教室を辞めており、その後のことは分からないという。ここで別行動を取っていた冠城から連絡が入り、雅弘の家に誰かを監禁していた痕跡は無かったこと、女の子用の手編みの手袋が片方だけ見つかったことを杉下に報告する。
その後特命係は、雅弘の家で発見した手袋を持って多岐川家に向かい、愛子に確認してもらう。彼女はそれを間違いなく自分が未来のために編んだものだと断言し、これで雅弘が未来の失踪に深く関与していたことが確定する。しかし黒瀬の似顔絵と当時高校二年生だった雅弘の顔立ちはまるで似ておらず、杉下は「本当に犯人の顔を見たのか」と愛子を問い詰める。実際のところ、愛子は未来のランドセルをどこかに捨てようとしている男を目撃してはいたものの、見たのは街灯の無い暗い夜道で距離もあり、線路の向こう側だったこともあって追いかけることもできず、人相までは分からなかったという。黒瀬に誘導されるまま顔立ちを語り、出来上がった似顔絵を犯人のものだと思い込んでしまっていたのだ。

「自分が適当なことを言ってしまったせいで事件を長引かせ、未来を10年も苦しめてしまった」と苦悩し、心労で崩れ落ちる愛子。そこに“遥香”が現れ、愛子を「お母さん」と呼んで慌てて救急車を呼ぶ。「私が犯人の顔ちゃんと見ていれば未来はつらい目に遭わずにすんだのに」と譫言のように繰り返す愛子を救急車に乗せると、“遥香”は怒りに憤然としながらどこかに走り去る。
さすがに口を挟むこともできず、不用意なことを言ってしまったと悔やむ特命係の2人に、直樹が己の身を切るような様子で「愛子は末期ガンを患っており、3か月前には余命半年と言われている」と打ち明ける。未来のことで捜査を続けてくれていることには感謝しつつ、どうか自分たちのことは放っておいてほしいと、特命係は直樹に懇願される。

杉下と冠城の前から走り去った“遥香”は、黒瀬の家に乗り込んでいた。驚く黒瀬につかみかかると、彼女は「どうしてあんなデタラメな似顔絵を描いてお母さんを苦しめたんだ」と激昂。ここに“遥香”を追ってきた特命係が現れ、なんとか2人を引き離す。「どのような理由があれ暴力は認められない」と杉下に諭され、怒りを抑えられない様子で帰っていく“遥香”。それを見送る一方、杉下は黒瀬に「13年前の事件で似顔絵を捏造した」ことを指摘する。
未来の失踪事件当時、愛子はすっかり憔悴しており、まともな証言がほとんど得られない状態だった。黒瀬はなんとか未来を見つけてやりたい一心で、「犯人は工藤に間違いない」と勝手に判断し、刑事として培った話術で愛子を誘導して工藤そっくりの似顔絵を仕上げたのだった。杉下はそれが冤罪の元になったと黒瀬を厳しく叱責すると同時に、13年前の事件の犯人が雅弘で間違いない旨を彼に伝える。ここに来て「13年前の事件の犯人は工藤」というのが自分の思い込みでしかなかったことを否応なく突き付けられた黒瀬は、10日ほど前にかかってきたという雅弘からの電話について杉下と冠城に打ち明ける。

雅弘は「冥婚絵を見て目が覚めた、13年前に未来を殺して山に埋めた、これから自首する」と語っていたのだが、“工藤犯人説”に囚われていた黒瀬はイタズラだろうとこの時は気にも留めていなかった。実際に雅弘が自首した様子も無かったことからその想いはより確固たるものとなり、その後に彼が殺されたと聞いても“工藤犯人説”にすがりたい一心であえて考えないようにしていたらしい。
しかし、だとすれば多岐川家にいる“遥香”は何者なのか。伊丹も交えて調べた結果、イギリス留学中の本物の遥香が帰国したという証拠はなく、彼女はますます謎の存在となっていく。一方で杉下は雅弘が電話で話した内容について、「当時高校生だった雅弘に、小学生の女の子の遺体を誰にもバレずに山奥に埋めることは、ほとんど不可能だったのではないか」と指摘。雅弘には共犯者がいたのではないかと推理する。

その後特命係は、13年前に未来と雅弘が通っていたピアノ教室の講師である松尾の下を訪れる。13年前に雅弘と2人で未来の遺体を埋め、その雅弘も殺しただろうことを追及し、彼の家で見つかった女の頭髪が証拠になると伝えると、松尾は観念して全てを白状する。
13年前、松尾と雅弘は不倫関係にあった。個別レッスンで2人きりになるのをいいことに、いつもピアノ教室で逢瀬を楽しんでいたのである。たまたま手袋を忘れて自分のレッスンのない日に教室にやってきた未来がそれを見てしまい、雅弘が咄嗟に捕まえようとして階段で揉み合いとなり、そのまま彼女を突き落として死なせてしまう。ほとんど事故のようなものではあったが、これが発覚すると自分の家庭もピアノ講師という立場も失うと考えた松尾は、雅弘にも協力させて未来の遺体を山奥に埋めた。これが13年前の事件の真相だった。

その後雅弘は未来の命を奪って死体を隠した後悔からピアノ教室を辞め、高校も中退。たまたまネットで未来の冥婚絵を見ていよいよ罪悪感に耐えられなくなり、松尾にも自首する旨を打ち明けた。そうなれば自分も破滅だと考えた松尾は、なんとか翻意させようと彼の家に押しかけて説得するも叶わず、口封じに殺害したのだった。
松尾の証言通りに山奥から女の子の遺体が発見され、13年前の事件も解決する。あとはこれが本当に未来のものであるかどうかを直樹と愛子に確認してもらうだけだが、その前に杉下と冠城は“遥香”を呼び出して遺体発見の事実を伝える。いつまで成りすましているつもりなのかと尋ねられ、“遥香”は「分かってたのか」と悪びれることもなく自分が未来ではないことを認める。かつて青木はガールズバーで梶本彩菜(かじもと あやな)という女性にぼったくられたことがあり、黒瀬の冥婚絵を見て同じ人物に間違いないと断言していた。彼の読み通り、これまで“遥香”として特命係の前に現れていた若い女性は、多岐川家とはまったく無縁の彩菜なのだった。

ガールズバーで働いていた彩菜は、ほんの数日ほど前にたまたま直樹と出会い、その冥婚絵に瓜二つの姿で彼を驚愕させた。「余命いくばくもない妻のために、行方不明の娘を演じてほしい」と直樹に頼まれた彩菜は、報酬として提示された大金欲しさにそれを引き受け、直樹のサポートを受けつつ“13年ぶりに帰ってきた娘”として多岐川家に入り込んでいたのだ。
命尽きようとしている女性を騙して胸が痛まないのかと冠城が指摘すると、彩菜は彼を鼻で笑って「お母さんが気付いていないと思うのか」と言い返す。愛子は“13年ぶりに帰ってきた娘”が未来ではないことを見抜き、その上で直樹の優しさを汲んで気付かないふりをしているのだという。

「一緒に暮らしているのだからそれくらい分かる、本当に暖かくていい人たちだ。私もあんな家に生まれたかった」と、彩菜はどこか遠い眼差しをしながらつぶやく。自分を捕まえるのかと彩菜に問われ、笑顔で「そんなつもりはない」と答える杉下と冠城。彩菜は2人に「ありがとうございます」と頭を下げて、“お母さん”が待つ多岐川家に帰っていく。
その後杉下と冠城がこてまりに顔を出すと、珍しいことに伊丹が先に来て食事を済ませていた。伊丹は「これは独り言だが」と前置きし、黒瀬が「13年前の過ちに向き合う機会をくれた」と2人に感謝していたことを伝え、自分と杉下と冠城の分だとして3人分の支払いをして去っていく。女将の茉梨によれば、彼らが店に来るのを怖い顔をしながらずっと待っていたという。あまりに不器用な振る舞いに呆れながら、杉下と冠城は「伊丹なりの感謝なのだろう、人は見かけによらない」と語り合うのだった。

『相棒season20』の登場人物・キャラクター

警視庁特命係

杉下右京(すぎした うきょう)

YAMAKUZIRA
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@YAMAKUZIRA

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