アメリカン・スナイパー(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『アメリカン・スナイパー』とは、2014年公開のアメリカ映画である。イラク戦争に従軍した実在の狙撃兵クリス・カイルの自伝的原作を、巨匠クリント・イーストウッド監督が実写映画化。主演はブラッドリー・クーパーが務める。クリスは海軍史上最強と言われる伝説的スナイパー。だが過酷な任務に心を蝕まれ、彼と家族はその影響に苦しむ。残酷な戦場と虚しい戦争の実像を、過剰な演出を排除した構成で淡々と描く。ミリタリー・アクションとしての鑑賞にも十分堪えるが、極めてメッセージ性の強い反戦映画である。

『アメリカン・スナイパー』の概要

出典: kagurazaka-samurai.com

『アメリカン・スナイパー』とは、2014年にアメリカで製作・公開された戦争アクション映画である。実際にイラク戦争に従軍したクリス・カイルの自伝『ネイビー・シールズ最強の狙撃手』(原題:American Sniper:The Autobiography of the Most Lethal Sniper in U.S. Military History)を題材としている。監督のクリント・イーストウッドは『ミリオンダラー・ベイビー』『父親たちの星条旗』『硫黄島からの手紙』などを手掛けた手腕を活かし、派手な演出を極力排除した構成を用いてリアルな戦場の姿を描いた。
主演は『世界にひとつのプレイブック』『アメリカン・ハッスル』で評価の高かったブラッドリー・クーパーが務める。彼はプロデューサーも兼任しており、戦場で華々しい功績を挙げながらも心的外傷後ストレス障害(PTSD)に苦しむ兵士を好演した。脚本に『アメリカン・ソルジャー』『パワー・ゲーム』のジェイソン・ホールを迎え、実話を元にした無骨な原作をよりエンターテインメント性のある物語に昇華させている。
また、音楽は極力使わない手法が取られておりインターネット・ムービー・データベース(略称IMDb)にクレジットされているのは3曲のみである。主題歌とされる「Someone Like You」はVan Morrisonが1987年に発表したジャズのナンバーで、本作においては主人公の結婚式のシーンで流れている。また、「The Funeral」はEnnio Morriconeが手掛けた静かな曲で、葬儀のシーンで挿入されている。そして「Taya's Theme」はクリント・イーストウッド監督みずからが作曲しており、主人公が妻タヤと寝室で対面するシーンなどにさりげなく使われている。また、IMDbには無いもののdean valentineの「Main Theme」という曲も使われている。
本作の評価について述べると、アカデミー賞のうち作品賞及び主演男優賞(ブラッドリー・クーパー)、脚色賞、ふたつの音響賞(編集と調整)、編集賞の6つの部門がノミネートされている。その中から実際に音響賞(編集)を受賞し、高い評価を受けた。また、アメリカで3億5千万ドルに上る興行収入を上げ、2014年公開作品の中で第1位を獲得した。日本でも興行収入22億円を超える大ヒットとなり、世界での興行収入は合計5億ドルに上った。これら興行収入において、それまで全米歴代1位だった『プライベート・ライアン』の記録を塗り替え、戦争映画の名作と言える作品となった。

クリス・カイルは海軍特殊部隊シールズに属し、スナイパーとしてイラク戦争に従軍する。そして、海軍史上トップクラスの戦績を挙げ「レジェンド」と称されるまでになった。過酷な戦場に常に身を置き、クリスは国の為家族の為に仲間を守り、戦い抜く。だがその活躍の裏側で、彼の心は少しずつダメージを受け、蝕まれ続けていた。4度のイラク派遣を生き延びて帰国したクリスだが、戦地での経験から心的外傷後ストレス障害(PTSD)になり、その影響に苦しむことになる。

実在する狙撃兵の物語である本作のほとんどは、実話で構成されている。伝説のスナイパーと呼ばれ、英雄とも言われる功績は敵兵160人を殺害したものである。その経験と戦場で見たものは、クリスの心に深い傷を負わせた。本作は兵士とその家族の苦悩が描かれ、「戦争とは何か」「戦うこととは何か」を問いかけている。また、細部に渡るリアリティーは、過酷な戦場の現実を観る者にこれでもかと突き付けるのだ。
さらに衝撃的なのは、映画製作が進行中の2013年に原作者のクリス・カイルは銃撃により死亡している。アメリカでのボランティア活動の最中に起きた悲劇であった。
戦争映画としてミニタリー・アクションとしての鑑賞に十分堪え得るものの、本作の本質は空しい戦争の実態と兵士に課せられる犠牲の重さを表現した、極めてメッセージ性の強い反戦映画である。

『アメリカン・スナイパー』のあらすじ・ストーリー

クリス・カイルの生い立ち

カイル家の団らん。右からクリス、ジェフ、ウェイン、デビー

クリス・カイルはアメリカ南部テキサス州のオデッサで生まれた。父ウェインと母デビー、そして弟のジェフの家族4人で暮らしていた。

クリスは幼少より父ウェインから狩猟を教わり、その薫陶を受けて育った。少年時代のある日、シカを仕留めたクリスはうれしくなり、思わずライフルを放り出して獲物に駆け寄ってしまう。ウェインは「決して銃を置き去りにするな」とクリスを叱りつけた。ハンターにとってライフルは、信頼できる友であり自らを守る盾でもあるからだ。
だが同時にウェインは「よくやった。一流のハンターになれるぞ」と、その成長と才能を認めクリスを褒めることも忘れなかった。

また別の日、弟のジェフはひどく殴られいじめられていた。そこへクリスは割って入り、相手を殴り倒してジェフを助け出す。顔にあざを作り泣きべそをかいたジェフと、まだ興奮冷めやらぬ様子のクリスを前にウェインは息子たちを諭すように言う。
「この世界には3種類の人間がいる。羊と狼、そして羊の番犬だ。この世の悪意に無縁な者もいるが、そんな人々はいざという時に身を守る術を知らない。彼らは羊。じっとしているだけだ。その羊を襲って食べようとする奴らがいる。そいつらが狼だ。そして戦う術を知り、羊の群れを守る才能を持って生まれた者がいる。狼に立ち向かえるのは彼らだけ。それが羊の番犬だ」

ウェインは「羊を育てる気はない。だが狼になれば容赦しないからな」と言い、クリスのいじめっ子への暴力は不問にした。傍らで見ていた母デビーは、ウェインが息子たちをひどく折檻するのではと心配していたがホッと胸を撫でおろした。

クリスはジェフと共に、両親から愛情深く育てられた。そして南部テキサスの男として、また人間として逞しく成長していくのである。

青年期になると、クリスとジェフは毎週末ごとにロデオ(荒馬乗り)に出かけては賞金を稼いでいた。普段は牧場の使用人を生業とする、典型的なテキサスのカウボーイであった。このままテキサスを回って稼ごうと勧めるジェフに対し、クリスは煮え切らない。悪くはないが、何か物足りなさを感じていたのだ。

その当時、クリスはサラという恋人と暮らしていた。ロデオから戻りジェフを伴って家に帰ると、そこへ慌てて身支度をする見知らぬ男が出てくる。サラは浮気をしていたのだ。
クリスはその男を殴り飛ばし、家から追い出す。サラは「あんたのせいよ!いつも家を留守にして」とクリスを責める。だが、クリスは意に介さずサラも追い出してしまう。恋人と別れ、普通は落ち込むところだがクリスは違った。そんな出来事さえ、ジェフとビールを飲みながら豪快に笑い飛ばすのであった。

1998年、タンザニアとケニアでアメリカ大使館爆破事件が起きる。テレビのニュースでその悲惨な様子を見たクリスは、とてつもない衝撃を受けた。罪のない無防備な命に対する、厳然たる暴力と悪の存在を目の当たりにしたのだ。
クリスは沸き立つ怒りの感情と、愛国心と正義感に打ち震える。自分にも何か役に立てることは無いかと考え、海軍に志願することを決意した。また、ジェフも同様に感じたらしく共に海軍に入隊する。

運命の出会い

射撃訓練中のクリス

それまでクリスはカウボーイとして生きてきた。年齢はすでに30歳に近づいており、軍に入隊するには少し遅かった。しかもクリスはアメリカ軍きっての狭き門、海軍特殊部隊シールズに志願していた。海軍特殊部隊シールズ(Navy SEALs)とは、SEが海(SEA)、Aが空(AIR)、Lが陸(LAND)と、それぞれアルファベットの頭文字から取られており、その名の通り環境を問わず偵察や監視、戦闘等の特殊作戦に対応出来る能力を持つ部隊である。訓練は過酷そのもので、しかも長期に及ぶ。それは、任務に堪えられない弱い者をふるいにかける作業でもあった。

寒風が吹きすさぶなか、泥に身を沈めてじっと座るだけの訓練。腹筋運動のさなか、ホースから水を浴びせられる訓練。真冬の海に、完全装備で突っ込んでゆく訓練。そのうえ、上官たちは暴言を浴びせ精神的にも追い込もうとする。だがクリスは持ち前のタフネスと、燃え上がる愛国心で乗り越えてゆく。そんな厳しい訓練をやり切り、クリスは正式に海軍特殊部隊ネイビー・シールズの1部隊に配属される。そして一連の訓練を通し、仲間との絆も深まることになる。

基礎訓練が終わると、実弾を使用した射撃訓練が始まる。クリスは初めの頃、なぜか訓練用の的を外してばかりであった。教官はその度に「的は小さく狙え」と諭す。大きいものとして狙えば、外す時も大きい。その逆に小さいものとして捉えることで、的は当たり易いと言うのだ。
ある日の訓練中、クリスは教官から注意を受ける。スナイパーは遠くの標的を狙う際にスコープを覗き込むが、普通は片方の目を閉じるものである。それはスコープを覗く方の目に集中するためだが、クリスは両目とも開けていたのだ。

「使わない目は閉じておけ」と言う教官に対し、クリスは「それでは周囲に危険があっても見えません」と反発する。そして「ここに敵はいないぞ」と、さらに教官に釘を刺されるが「何かが見えます」と言ってクリスは譲らない。「懲罰を受けたいのか?では撃ってみろ」と教官はクリスに命じた。
その直後、クリスはライフルの引き金を引く。そして、訓練用の的を大きく逸れて弾は飛び、地面に砂煙をあげると同時に何かを吹き飛ばしたのだ。なんと、クリスが命中させたのは草むらの影を這っていたヘビであった。「生きた標的は得意です」クリスのこの言葉に、教官もその才能を認めざるを得なかった。そこでクリスは腕を磨き、優秀な成績を収めスナイパーとして頭角を現し始める。

入隊から数年が過ぎた2001年、クリスは仲間とよく通う行きつけのバーで、ひとりの女性と出会う。名前をタヤといい、クリスはひと目で彼女に心を奪われる。だがタヤはクリスとは違い、あまり乗り気ではなかった。それは、クリスがネイビー・シールズに入隊している事を知ったのが大きな理由だった。
実はタヤには姉が居て、以前シールズの男性と婚約していた。タヤは姉からその男性との苦労話をよく聞かされていたので、シールズとは「絶対に結婚しない」と決めていたのだ。クリスはそれを聞かされ「絶対なら仕方ないな」と、落胆しつつタヤから去ろうとした。だが、「結婚はしないって言ったの。付き合わないって意味じゃないわ」タヤはこう言ってクリスを引き止める。どこかクリスの人柄に惹かれるものがあったのだ。

やがて飲み過ぎてしまったタヤは、バーを飛び出し店先で吐いてしまう。クリスは嘔吐物が付かない様にタヤの髪をまとめてやり、背中をさすって介抱する。やっと一息つき、タヤが「ずっと兵士になりたかったの?」とクリスに問いかけると、クリスは「カウボーイになりたかった。だけど何か物足りなくてさ」と答える。するとタヤは「それでバーから私を助け出したのね」と、やや自嘲気味につぶやく。まだ少し苦しそうな様子だ。それを受け、クリスが「そうじゃない。君からバーを救ったんだ」と笑顔で言うと、タヤも思わず吹き出してしまった。

飲み過ぎたタヤを優しく介抱して、実際には彼女を助けたと言える。だがタヤの軽妙な比喩に対して、クリスは照れ隠しもあったのかジョークで返したのだ。タヤがあまりにも大酒飲み(単に飲み過ぎただけだが)なので、バーからお酒が無くなっては大変とのジョークである。

その後、何度もデートを重ねたふたりは、互いを深く愛するようになる。

ある日の朝、テレビを点けるとそこには衝撃的な映像が流れていた。ワールドトレードセンターの高層ビルに2機の旅客機が続けて激突する映像である。それは2001年9月11日に起こった「アメリカ同時多発テロ事件」のニュースであった。ふたりは言葉を失い、惨劇を映し出す画面を見つめるほか無かった。タヤは「なんてひどいことを」と漏らし、泣き崩れる。
そして2002年、クリスとタヤは結婚した。だが結婚式当日、クリスの部隊に招集命令が下される。やむなくハネムーンの予定を数日繰り上げ、クリスは派遣先のイラクに向かうことになる。

第一回派遣

前線へ向かうクリスの部隊

イラクのファルージャで、クリスは狙撃手として友軍部隊をやや離れた後方から支援する任務に就いていた。中東の砂埃と過酷な暑さに耐えながら、建物の屋上でうつ伏せ状態となりスナイパーライフルのスコープを覗く。
同僚の観測手で、愛称ゴートことウィンストンが傍らに待機している。狙撃手は基本的に、観測手を伴って行動する。長距離射撃における弾道の観測と修正を担当させるためだ。

戦車を先頭に、地上を海兵隊の一群が移動している。クリスは建物の2階に不審な男を発見する。装備されている無線を使い、本部の判断を仰ぐ。建物の男は、携帯電話を片手に部隊の様子を注視しているように見える。本部からは「怪しい動きがあれば撃て」との回答が送られた。

すぐに男は建物内に戻った。すると同じ建物から女と少年が出てきた。女はイラク女性がよく着ている「チャドル」と呼ばれる黒い布をまとっており、年齢も表情も分かりにくい。少年はおそらく10歳に満たないだろう。クリスは彼らを200m先からスコープで捉えている。

やがて女は少年に何かを手渡した。クリスはそれを「RKG対戦車手榴弾」と視認した。ロシアが開発した対戦車手榴弾で、威力はそれほど無いが携行しやすく一般人でも扱える厄介な兵器である。とはいえ、炸裂すれば数人を殺害する可能性は十分にあるのだ。
本部からは「判断は任せる」と言ってきた。ゴートは「もし違っていたら刑務所行きだぞ」と尻込みしている様子だ。軍が定めた交戦規定というものがあり、むやみに一般市民を殺害してはならない。仕方の無いことだが、それは市街戦に身を投じる兵士にとっては大きな足かせとなる。

スコープの中で少年が駆け出す。まるで子猫でも抱くように、対戦車手榴弾を抱えたまま部隊に向かっていく。それは子供が遊んでいるだけのようにも見えるし、持っている手榴弾も遠目にはおもちゃのようにも見える。だが、それは戦車さえ破壊しうる人間を殺害するために用いる兵器なのだ。
乾いた発射音が響き、少年の胸の辺りに血しぶきが上がる。クリスの放った弾丸が命中したのだ。女は声を上げ、少年に近寄るがそれは対戦車手榴弾を拾うためだった。女はそのまま部隊に向かうが、すぐに2発目の弾丸により絶命する。手榴弾は戦車の数メートル手前で爆発し、部隊は無傷であった。

宿舎に戻るとライアン・ジョブ(愛称ビグルス)がベッドで雑誌を読んでくつろいでいた。クリスの同僚であり、気の置けない友でもある。「最初が女と子供とは思わなかった」とクリスがボヤくと、ビグルスは「任務を全うしただけさ。気にするな」と励ましてくれる。確かにそうだが、重い気持ちを拭いきれないクリスであった。

別の日の任務では、爆弾を仕込んだ車両を走らせ部隊に突入しようとする運転手を狙撃した。車は部隊のはるか手前で停止したのちに爆発した。クリスはその射撃の腕前で、多くの味方を守ったのだ。だが、このような日常が戦場の現実であった。
地上で部隊の指揮を執っていたマーク・リーは「守ってくれてありがとう」と感謝とねぎらいの言葉を伝え、「何人倒したんだ?」と問いかけた。クリスが「6人だ。撃ったのは8人だが2人は運ばれていった」と答えると、マークは「6人だと?他のヤツを合わせた数より多い」と驚いていた。
いつしかクリスは部隊の内外を問わず、誰よりも優れたその功績から「レジェンド(伝説)」とあだ名されるようになる。

その頃、クリスが所属する部隊は「ザルカウィ」という名の男を最重要目標としていた。イラク・アルカイダのNo.2とされ、オサマ・ビンラディンからの信頼も厚いという。この男を捜索するのが当面の任務となった。徹底的に探し出し、必要なら殺害せよとの命令である。

ただ、情報は限られているため、建物を一軒ずつ捜索する作戦が取られる。まず避難区域を定め、住民を退去させた後に海兵隊が屋内をあらためてゆくのだ。何が起こるか分からない、極めて危険な任務である。

この日もクリスは狙撃手として、後方から監視する任務に就いていた。だが、危なっかしい若い海兵隊の様子を見てじっとして居られなくなる。勇敢に建物内に突入するのはいいが、何かあればその都度、負傷者を出すような有様であった。過酷なうえ長期に渡る訓練で知られるシールズと違い、海兵隊はおよそ半年の基礎訓練のみで戦地へ送り込まれている。訓練不足なのは明らかだ。結局、業を煮やしたクリスは屋上から地上に下り、海兵隊に同行することにした。
そして、ある建物に居た長老(シャイフ)のオボーディ師から重要人物の情報を得る。その人物とは、イラクで活動するアルカイダの幹部ザルカウィの右腕とされ、支配地域の中での汚れ仕事を一手に引き受けている男だ。その残虐な手口から「虐殺者(ブッチャー)」と呼ばれ、電動ドリルを用いた拷問や殺害を行い地域住民からも恐れられていた。しかもブッチャーの本名「アミール・ハラフ・ファヌス」まで知ることが出来た。

オボーディ師は、ブッチャーの潜伏先も知っていたが情報を渡すのは極めて危険な行為であった。もし万が一、アメリカ軍に協力したことが知れたらブッチャーたちに何をされるか分からない。そこで、オボーディ師はアメリカ軍に取引を持ち掛ける。ブッチャーの情報と引き換えに10万ドルを要求したのだ。クリスらは本部に戻り、この情報を報告した。DIA(国防情報局)のスニード捜査官は「確かな情報なら」と、その取引を受け入れた。そしてすぐに金をバッグに詰め、クリスらの部隊に同行してオボーディ師に会いに向かう。

だが、車輛に分乗したクリスらの部隊はオボーディ師宅の手前で狙撃される。まず先頭車輛の運転手が撃たれ、続けざまに機銃座の兵士が倒れる。敵側にも凄腕のスナイパーがいるとの噂はあった。名を「ムスタファ」と言い、シリア出身で射撃の元オリンピック選手だという。

クリスらの部隊はムスタファの狙撃により、身動きが取れない。そこへイラク・アルカイダの一群が現れた。彼らはオボーディ師宅へ押し入り、まだ少年の息子を広場へ引きずり出したのだ。そして、無残にも家族の見守る中、少年はドリルで殺害されてしまう。さらに叫びながら駆け寄るオボーディ師も銃撃され、帰らぬ人となった。

クリスらがようやく態勢を立て直した頃には、ムスタファとブッチャー、アルカイダの部隊は去ったあとであった。まさに惨憺たる結果である。これにより上層部は作戦中止の命令を下す。部隊は基地で待機を命じられ、クリスはそのまま帰還の日を迎えた。

帰国したクリスは、アメリカでの日常に戻る。タヤはクリスとの子供を身ごもっており、お腹は大きく膨らんでいた。愛を育み、あたたかい家庭を築くべきマイホームだ。だが、タヤはイラクから帰還したクリスに違和感を覚える。
「手の感触が違う。あなたじゃないみたい」タヤはクリスの大きな手を取り、不安そうな表情を浮べた。クリスはそんな妻に「違わないさ、僕は変わらないよ」と言う。久しぶりの再開であり日常の生活にクリスが緊張しているのか、それはタヤにもわからない。それでも明らかにクリスの様子はおかしかった。
普通に暮らしている中ではほとんど気にならない機械音に驚いたり、タヤが話しかけてもどこか上の空でクリスは応えたりした。平和に暮らす人々がイラクでの現実に無関心な事が腹立たしく思え、その怒りを言葉にすることもあった。

そんな中、タヤは第一子となる息子のコルトンを出産する。ふたりの人生にとって最良の瞬間であり、これからがとても大事な時期だ。ところがクリスの関心はイラクの戦況にあった。驚くべきことに、ムスタファに米兵が射殺される様を収めたビデオが普通に近所のショップで売られていた。「あなたの責任じゃない」とタヤは言うがクリスは焦燥感を募らせるばかりであった。

第二回派遣

派遣部隊を迎えるマーティンス中佐

クリスにとって2度目のイラク派兵が始まる。前回の功績により兵曹長となったクリスは、空港で弟のジェフと再会する。久しぶりに抱き合い、喜び合うふたりであったがジェフの表情は暗かった。「兄貴は俺のヒーローだ。今も昔も」ジェフはそう言って笑顔を見せたが、その直後に「こんなとこクソ食らえだ」と吐き捨てた。クリスは弟の豹変に驚くが、戦場でつらい経験をしたのだとすぐに悟った。ジェフは兄と入れ替わるように故郷へ帰った。
クリスはすでに、敵味方を問わず有名人であった。アルカイダからは最重要指名手配人として懸賞金をかけられ、その額は18万ドル(約2千万円)だという。

アメリカ軍の調査でブッチャーの動向についての情報がもたらされ、クリスの部隊は現地住民の家に潜伏する。監視対象は、通りの向こうにあるレストランだ。夜になり、家の主人から食事に招待されたクリスたちはレストラン監視に数人を残し、彼の家族と共に食卓を囲んだ。仲間と歓談し合い、ひとときの食事を楽しむ。その時、普通に見える主人の不審な点にクリスは気付いた。

スナイパーは長い時間、ライフルを構えつつ伏せた状態で標的を待つ。そのため肘にタコのようなもの出来てしまうのだが、その主人にも同様のタコがあったのだ。クリスはトイレに行くと断り、席を立つ。そして、別の部屋へ行き怪しいものは無いか捜索し始める。そこでクリスは床下に隠匿された、大量の銃器や弾薬を発見する。
その頃、監視チームは十数人の男たちがレストランに入るのと、その中にブッチャーの姿も確認していた。主人を逮捕したクリスは「イラクの刑務所に入りたいか?嫌なら協力しろ」と脅し、レストランのドアを開けさせる。

階上にはケヴィン・ラーチ(愛称ドーバー)がスナイパーライフルを構えている。そして、クリスは地上の突入部隊を指揮するのだ。メンバーは愛称「D(ディー)」ことダンドリッジ、「リス」ことケイス、トニーそしてマーク・リーら精鋭とその他の仲間たちだ。マークは前回の派遣では上官であったが、クリスが異例の昇進を遂げた事で今ではその部下となっている。

レストラン周辺では、すぐに激しい銃撃戦が繰り広げられる。突入部隊とドーバーの狙撃により、アルカイダの兵は次々と倒れていく。例の主人は倒れた兵士が落とした銃を拾ってクリスらに銃口を向けたため、ドーバーに撃たれる。
アルカイダ兵の抵抗は激しく、混乱に乗じる形でブッチャーは車輛に乗り込み逃走を図った。「ヤツが逃げるぞ!」と叫んだクリスは銃弾が飛び交う中、走って追いすがり車輛めがけて果敢に銃撃を加えた。
続けざまにクリスの弾丸を受け、それがガソリンタンクに命中したのだろう。大きな炎が上がり、車輛は乗員もろとも爆発する。クリスたちは、ついにブッチャーを仕留めることに成功したのだ。

やがて帰国したクリスは、戦場での過酷な経験と平和そのものに思えるアメリカでの日常のギャップに苦しんでいた。そんな中、息子のコルトンと立ち寄った店で、帰還兵だという若者に声を掛けられる。彼はクリスに「命を救われた」と感謝を伝え、コルトンにも「パパを貸してくれてありがとう。パパは偉大な英雄なんだ」と告げる。その右足は金属製の義足であった。

その頃、タヤは第二子となる女の子を出産した。「家族にはあなたが必要よ。身体は帰ってきても、心はイラクに置いてきているわ」と、タヤは涙ながらにクリスに訴える。シールズを辞めて、共に子育てをして家庭に居て欲しいのだ。クリスには、タヤの気持ちが痛いほど分かっていた。だが、戦場にやり残した事がある。それは、自分にしか出来ないことなのだと、この時のクリスは考えていたのだ。

第三回派遣

敵を追跡中のクリスのチーム。ビグルス(右)とクリス(左)

その日、クリスはチームリーダーとして仲間を率いていた。今回で3度目のイラク派遣である。本部の命令を受け、2台の一般車輛に分乗し1台の車輛を追跡していた。ブッチャーの残党を掃討する作戦の一環である。そんなクリスらの様子を、建物上から怪し気な男が見ていた。そして、すぐに携帯電話を取り出し何者かと話している。男は見張り役で、連絡を受けたのは凄腕スナイパーのムスタファであった。

同じ車輛を運転するビグルスは、「帰国したらプロポーズするんだ。ぜひ君に付き添え人を頼みたい」と、クリスに話す。最も親しいと言える戦友ビグルスの頼みである。クリスは当然、引き受けた。後続車輛にはドーバーやリス、「D」やマークも乗っている。気心の知れた仲間たちだ。

突然、追跡中の車輛から男が発砲し始めた。「接近しろ」とビグルスに命じ、クリスは応戦する。車輛が止まり、男がひとり逃走する。クリスは逃げようと車輛から出てきた別の男を倒した。ここがアジト周辺なのか不明であったが、チームは逃げた男を追う。ビグルスを伴い、クリスは建物に入り屋上へと上がってゆく。周辺を警戒するためだ。
「異常なし」と、ビグルスが仲間に報告すると「男を射殺。車輛を制圧した」と返答があった。それを聞いてクリスらは安堵するが、突然ビグルスの頭部から鮮血が飛び散った。ムスタファが放った弾がビグルスの銃に当たり、破片が彼の顔面を直撃したのだ。

幸いビグルスは一命を取り留めたが、かなりの重傷を負ってしまう。基地に戻ると、そう遠くない別の建物に隠れ家があるとの情報が本部に入った。速やかに制圧すべく、本部では襲撃チーム編成の命令が下された。上官のマーテンス中佐は、戻ったばかりのクリスの部隊に「君らは休んでも構わない」と、この任務が過酷になるだろうとの示唆をする。まだ現場周辺には海兵隊の部隊が居るが、彼らだけに任せるわけにはいかない。クリスたちはビグルスの仇討ちを誓い、引き返すのだった。

クリスの部隊は海兵隊と合流後、情報にあった場所に到着した。建物内に侵入して捜索するのだが、敵兵の姿は無くもぬけの殻であった。実はクリスらの動きは察知されており、待ち伏せされていたのだ。クリスらをめがけ、周囲からおびただしい銃撃が浴びせられる。そのうちの数発を撃ち込まれ、マークの身体は床に崩れ落ちた。そして、そのまま帰らぬ人となったのである。

帰国したクリスは、マークの葬儀にタヤを伴い参列する。弔意を表す空砲が鳴り響き、遺族の涙が流れた。クリスは平静を装うが、どうしてもやるせなさを禁じ得なかった。その後、ビグルスを見舞ったクリスは「必ず仇を討つ」と、復讐を誓うのだった。

タヤは「家族のためにここに居て欲しい。どうしても行くのなら、たとえ戻っても私はいないと思って」と言って、イラクへ戻ることを打ち明けたクリスを責める。だがクリスは「これで最後だ。国のため、家族を守るために行くんだ」と約束し、タヤを説得した。そして4度目となる戦地イラクへと向かったのだ。

第四回派遣

サドルシティのアメリカ軍基地

イラクのサドルシティにクリスは降り立った。今までの任地とは違い、敵勢力の動きが活発で現地の部隊は何度も攻撃を受けていた。そして部隊の顔ぶれも随分変わっており、リスは名誉除隊、ドーバーは妻の妊娠がきっかけで故郷に隠遁したという。
基礎訓練以来のめぼしい仲間といえば、今や「D」くらいであった。そのDは、ビグルスの訃報をクリスに告げる。手術の最中に容態が悪化したと言うのだ。クリスは仲間を失う悲しみと寂しさに言葉を失うが、今は耐えるしかなかった。

指令本部からの命令で、マーテンス中佐は「防護壁」で敵を封じ込める作戦を展開していた。だが、はるか1000メートルの彼方から壁を建設中の作業員を狙撃され、思うようにならない。例のムスタファの仕業だ。そこで中佐は、クリスたちシールズに「ヤツを仕留めろ」と、敵の支配地域内に向かわせた。

クリスたちシールズは、数人のチームで目標の建物を確保した。壁の建設現場から離れた場所で監視を行い、ムスタファが発砲すれば位置を特定して排除する作戦である。
チームは建物の屋上に分散して配置に着く。敵の支配地域内だが、今のところ気付かれてはいない様子だ。監視してしばらくすると、防護壁建設の作業員が撃たれる。クリスはその射撃音から、およその位置を割り出す。弾は東方向から飛んできた。

「何かが見える。距離は1920m先だ」クリスがそう言うと、仲間のひとりは「そんな距離、当たるわけがない」と発砲に反対する。撃てばチームの存在を察知され、敵兵が押し寄せるだろう。数人のチームではひとたまりもない。すぐにQRF(即応部隊)の要請をするが、到着まで20分との回答である。それまでに何人の犠牲が増えるか、見当も付かない状況だ。

Dはクリスの、スナイパーとしての腕を信頼していた。「やれる自信があれば撃て!」と、クリスを励ます。このチャンスを逃せば、二度と機会は巡ってこないかもしれない。クリスは、覚悟を決めた。
視界を拡大するスコープにさえ、はるか1920m先の建物の屋上は小さく映る。ムスタファの姿は当然見えないが、時折キラキラと光るものが見える。それはスナイパーライフル特有のスコープ、そのガラス面が太陽光に反射して起こる現象だった。

クリスは「的は小さく狙え」と、何度もつぶやく。訓練時代の教訓であり、狙撃の初歩の教えである。呼吸を整え、クリスは引き金を引いた。弾は空を切り、はるか彼方の屋上で次の獲物を狙っていたムスタファに命中する。クリスとチームは、ついに宿敵ムスタファを仕留めたのだ。

「やってくれたぜ、レジェンドさんよ!」反対していた仲間がボヤいた。案の定、射撃音により位置を特定され、瞬く間に大勢のアルカイダ兵に取り囲まれてしまう。クリスらシールズは的確な射撃で応戦するが、敵は増える一方であり多勢に無勢だ。本部に緊急要請を送り、クリスらは自分たちのいる建物を標的に爆撃させるほど追い込まれた。

そこへ中東ではよくある砂嵐が辺りを覆う。この砂嵐自体は作戦当初から想定していた事だったが、まさに絶妙のタイミングだった。クリスらはこの機に乗じ、最悪のピンチから脱出することに成功したのだ。

宿敵ムスタファを仕留めたクリスは、その後も過酷なイラクでの戦闘を生き抜き、ほどなくしてアメリカへの帰還を果たす。そして2009年に退役した。

その後のクリス

軍医(左)にカウンセリングを受けるクリス

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アベンジャーズ/エンドゲーム(MCU)のネタバレ解説・考察まとめ

『アベンジャーズ/エンドゲーム』とは、2019年に公開されたアメリカ合衆国のスーパーヒーロー映画である。マーベル・コミック『アベンジャーズ』の実写映画化作品としては4作目で、完結編となる。マーベル・コミックの実写映画で、世界観を共有するクロスオーバー作品として2008年公開の第1作『アイアンマン』から続いてきたMCUシリーズとしては22作目、本シリーズのフィナーレとなっている。サノスとの戦いに敗北し宇宙を漂流していたトニー・スタークは、キャプテン・マーベルの協力によって地球へと帰還する。

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ジャージー・ボーイズ(Jersey Boys)のネタバレ解説・考察まとめ

「ジャージー・ボーイズ」は、1960年代に活躍したポップスグループ、フォー・シーズンズの伝記をもとに脚色したブロードウェイの最高傑作を、巨匠クリント・イーストウッドが映画化した。神から与えられた歌声と、曲を作る才能、息のあったハーモニー、スターダムにのし上がった4人の若者”フォーシーズンズ”の名曲誕生に秘められた、友情、夢、栄光と挫折、そして今明かされる真実の物語。2014年に全米で公開。

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チェンジリング(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

ある日突然姿を消した息子が、5か月後に保護された。しかし息子として保護された少年は、彼女の本当の息子ではなかった。1920年代に実際に起きた「ゴードン・ノースコット事件」と呼ばれる連続少年誘拐殺人事件を、アンジェリーナ・ジョリー主演、クリント・イーストウッド監督により映画化したミステリー・ドラマ。

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アリー/ スター誕生(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『アリー/ スター誕生』とは、歌手に憧れる女性の成功と苦悩と愛を描いた、2018年公開のアメリカ映画。主演は、本作が初主演となるレディー・ガガ。監督は、俳優で本作でもジャックを演じるブラッドリー・クーパー。1937年の同名映画4度目のリメイク。劇中の音楽も高い評価を受け、サウンドトラックは全米1位を獲得。自信のないシンガーが才能を見出され、スターダムを駆け上がっていく。単なるシンデレラストーリーだけではなく、依存症や家族のあり方を含めた人の苦節や愛情という側面も深く描いた作品。

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