薬屋のひとりごと(ラノベ・漫画)のネタバレ解説・考察まとめ

『薬屋のひとりごと』は、日向夏による日本のオンライン小説、ライトノベル作品。コミカライズもされており、ビッグガンガン版(作画:ねこクラゲ、構成:七緒一綺)と「猫猫の後宮謎解き手帳」の副題がつくサンデーGX版(作画:倉田三ノ路)がある。なお2誌とも同じ原作の内容を描いている。物語は中国によく似た世界での話。元花街で働いていた猫猫(マオマオ)が後宮で働くことになる。そこで様々な事件に巻き込まれ(たまに自ら首を突っ込み)持っている薬の専門知識で事件を次々と解いていくファンタジーラブコメミステリー作品。

持っていった薬に飛びつく猫猫に、壬氏も呆気に取られる。

後宮内において風明に関係する人間が大量解雇されていた。
そんな話を聞いた猫猫は嫌な予感がする。彼女を拐った人間達がもしかしたら風明の商売と関わっているかもしれない。
焦る猫猫。今後宮を解雇されると花街でやり手婆の手によって妓女として売り飛ばされることが確実だからだ。
すぐに壬氏に確認しに行く。
壬氏を見つけると「お話がありますっ!」と彼に詰め寄った。
壬氏は既に猫猫の話したいことをわかっていて部屋に入るとすぐに「大量解雇のことだろ?」と答えた。自分がどうなるかを聞く猫猫に壬氏は無常にも猫猫の名前が書かれた名簿を見せる。
ショックを受ける猫猫に、壬氏は尋ねた。
「お前はどうしたい?」
尋ねながらも壬氏は彼女を引き留めたくて仕方がない。自分の権限で隠蔽してしまえる。しかしそれが猫猫にわかった時、彼女から嫌われるのが恐ろしい。高順から「都合の良い駒だったのでは?」とも言われたが、彼は隠蔽工作をしなかった。
そして猫猫の答えを待つ。
猫猫は猫猫で自分はただの下女であることを理解している。それでも。
「言われるままに下働きでもまかないでも毒見役でも命じられればやります」
身売りまでの執行猶予が出来れば。解雇にしないでくれと必死な思いで彼女は言った。
だが、壬氏はその言葉を沈痛な顔で受け止める。やはり彼女は自分の命令を受け入れてしまう。例え彼女の意志に反していたとしても。
「わかった。金ははずもう」
壬氏にはそう言うしかなく、猫猫にとっては死刑宣告にも似た解雇通告であった。

それから1週間。
壬氏は死にそうな顔で仕事をしている。そんなのは「壬氏」として失格である。
そんな彼を見て高順は溜息を吐き出した。
昔からお気に入りの玩具をなくした壬氏に新しい玩具を与えるのは骨が折れたことを思い出す。しかし、今回は猫猫を玩具として扱いたくなくて壬氏が猫猫を引き止めなかったのだ。
代わりが用意出来ないのなら本物を用意するしかないか、と高順は諦めたように動き始めた。
李白の紹介で大口の仕事が緑青館に入る。
どうしても猫猫を妓女にしたいらしいやり手婆の命令で化粧と服を着替えて猫猫は仕事先である貴人の家に向かった。今回は一晩の酌で一年の銀が消える緑青館の三美姫である梅梅(メイメイ)、白鈴(バイリン)、女華(ジョカ)も呼ばれている。どれだけの金持ちだというのだろう。
自分の役目は引き立て役だと、猫猫は宴席を回り客の盃が空かないように目を配らせた。
見目麗しい三美姫や多くの妓女達に客から感嘆の声が上がる中、酒を注ぎ回る猫猫の目にあからさまに沈み込んで暗い空気を放つ客が目に入る。
酒を注ぎに行くとその男から死にそうな声が出された。
「1人にしてくれ。1人になりたいんだ」
その声に聞き覚えがあった猫猫はその男の髪をそっとずらす。
「壬氏さま?」
猫猫の声に壬氏は驚いたように彼女を見て、着飾っている猫猫を見て思わず言ってしまった。
「お前、化粧で変わるって言われないか?」
「…よく言われます」
言われ慣れている猫猫はそう答える。猫猫の存在を確かめるように手を握ろうと壬氏はするが、猫猫からひょいっと逃げられる。アルバイト中だから触れないでくださいと言う猫猫に、顔を真っ青にして壬氏は呟く。
「………!………もしかして」
貞操を疑われていることに些かムッとしながらまだ客はとってないと答える猫猫。すると壬氏は言った。
「なら俺が買ってやろうか?」
初めは冗談、と声を荒げる猫猫だったがよくよく考えて頷く。
「…いいかもしれませんね」
肯定の言葉を聞いて喜ぶ壬氏に猫猫は「もう一度後宮務めも悪くない」と言った。ガクッと肩を落とす壬氏。
「あそこが嫌でやめたんじゃなかったのか?」
壬氏の質問に猫猫は怒りながら言う。
「続けたいと打診したのに解雇したのはそちらでしょう。不満は毒実験ができないことくらいでした」
猫猫の言葉に壬氏はふっと笑い言った。
「毒実験はさすがにやめろ」
その笑顔と言動に猫猫はいつもより幼い壬氏にやりにくさを感じる。
「おまえはそうゆう奴だった」と猫猫にとって謎の納得を見せながら壬氏は彼女に言う。
「言葉が足りないって言われないか?」
「……よく言われます」
猫猫は不服そうに答えた。そして壬氏がまた猫猫に触れようと手を伸ばす。が、猫猫はまたしても逃げる。どうしても触れたい壬氏が食い下がると根負けした猫猫が深い深いため息をだしたため、猫猫は「指先だけ」触れて言いと許可をした。
壬氏は指先で猫猫の唇に触れた後、その部分を今度は自分の唇に触れさせる。紅がひかれた唇でにこっと微笑む壬氏に、猫猫は思わず体ごと視線を逸らしてしまった。カァァッと顔が赤くなる。
そんな自分達を見てクスクス笑う緑青館の三美姫に声を荒げるが、何かをやり遂げた顔をしている高順を交互に見比べて猫猫は困惑した。
数日後、やり手婆も目が眩むお金と、虫から生えた貴重な草を持った壬氏は、猫猫の身請けをする。

宮中務め

重なる事件

自身の目的のため、唯一の武器である容姿を利用することを決める壬氏。

緑青館で猫猫を買い取った壬氏は彼女に職をつけようと試験を受けさせたが、ことごとく猫猫は落ちた。彼女の頭の良さは薬や毒に関してだけ発揮されるものなので仕方がない。
猫猫は壬氏直属の下女として働くことになった。
麗しい姿の壬氏の下女になっただけで他の官女達に絡まれる。その中に1人だけ冷静な官女、翠苓(スイレイ)が「どうしてあなたが、選ばれたの?」と尋ねた。猫猫は場を上手く収めるため嘘泣きをしながら自分で傷をつけた包帯を解き、こんな傷を受けている自分を助け雇ってくれた天女のような壬氏さまと大袈裟に言う。毒気が抜けた官女達は帰っていった。

猫猫が新しい生活に慣れてきた頃、壬氏と懇意にしていた浩然(コウネン)という人物が亡くなる。彼は礼部(祭祀、外交、礼楽、儀式や試験などを司った役所の一つ)の長だった。
珍しくしおれている壬氏の頼みでこの事件の謎解きをする猫猫。
浩然は生前酒がとても好きで亡くなった時も一気飲みをしていた。だが壬氏は酒が死因だとは思えないと言う。
当日飲んでいた酒と同じものを用意するがそれは甘い酒であり、昔は辛党だったが遠征中に妻子を亡くし戻ってきてから浩然は甘党に変わったと壬氏は言った。
猫猫は亡くなった当日に浩然が飲んでいた酒の瓶を見たいと言い、壬氏は割れた瓶の破片を猫猫に見せる。するとそこには塩が大量についていた。
それを見て猫猫は話し始める。
誰かの悪戯で入れられた大量の塩。しかし浩然はその味に気づかない。何故なら彼は妻子を亡くしたショックで塩味がわからなくなっていたのだ。
そのせいで酒を一気に飲み干しても中に入っている塩に気づかずに大量に塩を摂取したため死亡した。塩も一気に摂取すれば毒になる。
入れた犯人はわかるか?と壬氏に聞かれるが、猫猫は首を振った。
「それを調べるのは私の仕事ではありません」

明くる日、猫猫は李白に呼び止められた。原因不明のぼや騒ぎがありその調査に向かっているとのこと。
好奇心が湧いた猫猫は現場に向かい、ぼやの割に破片が飛び散っている倉庫を見て不思議に思う。
ぼやというよりは爆発があったみたいな、と感想を言う猫猫に、李白は頷き、ぼやの起きた倉庫の番も同じ証言をしていたと教えてくれた。
ぼやのおきた倉庫は食糧庫であり、中には小麦粉や穀物が収められていたという。そして猫猫は倉庫の中で象牙の価値が高そうな煙管を見つける。
一気に原因のわかった猫猫は笑顔で李白に実験の用意をお願いした。
木箱に小麦粉を入れて、穴の空いた蓋をして密閉状態にする。小麦粉じゃ爆発は起きないと言う李白をその場に残して、穴に火種を入れた猫猫はその場から退避した。するとボンッと爆発が起きる。
爆発の余波で火がついた李白に水をぶっかける猫猫。ガクガク震えながら説明を求める李白に猫猫は簡単に答えた。
粉が充満した空間に火が入るとそれだけで爆発を起こすことがある。ぼや騒動のあった日もきっとそうだったのだろう。
倉庫番には中で煙草を吸わないようにお伝えくださいと言って猫猫は帰って行った。

次に猫猫は高順にある事件の話をされる。
それは10年前、ある商家でフグ毒にあたったとされる事件。この事件に高順は携わっていた。
そしてその事件とよく似た事件が先日起きたと元同僚から相談されたのだと言う。
魚の鱠を食べて官僚が1人昏睡状態なのだそうだ。しかも料理人は今回も10年前もフグを使っていないと証言している。
被害にあった2人とも美食家でよくフグを食べていたそうだ。しかし捜査したところどこからもフグは発見されていない。
その日食べた膾の詳しい料理法を聞くが肝心の何の魚を使ったかはわからなかった。しかし使った野菜は海藻だったと聞き猫猫はピンと思い当たる食材に辿り着く。
それは江蓠(オゴノリ)と呼ばれる海藻で、処理の方法を間違えると毒になる食材であった。いつも買っているのは北部産の江蓠であり、ちゃんと処理は出来ている。しかし南方では江蓠を食べる文化がないため処理の仕方が甘かったのだ。
殺害方法が分かれば犯人がわかるのも早い。今回起きた事件の犯人は昏睡状態の官僚の弟であり、動機は単純な逆恨みである。
しかし重要なのは何故10年前の殺害方法を知っていたのかということだ。犯人である弟の供述によると殺害方法は10年前の事件を知る者から教えてもらったということだったが、果たして偶然なのか、猫猫の中に疑問が残った。

最近立て続けに事件が起きていると思いながらも、猫猫は嫌な気持ちを切り替えようと楽しいことに考えを巡らす。例えば壬氏が身請けの際くれた冬虫夏草という珍しい薬の使い道について。その時壬氏が帰ってきて猫猫は思わず笑顔で迎えてしまった。
珍しい猫猫の笑顔に壬氏は思わず柱に頭を叩きつけ興奮を抑えるという奇行に走るが、お茶を飲んで落ち着くと最近仕事を押し付けられて疲れが溜まっていると話す。
その人物は軍部の高官で四十路を過ぎても妻帯を持たず、仕事の他は碁や将棋ばかりを打ち噂話ばかりしているという。
その話を聞いて猫猫は心当たりがある人物を思い出して思わず顔をしかめるが、まさかそんなはずがない、とその嫌な予感を忘れることにした。
忘れたところで、嫌な予感というものは当たるというのに。

妓女の価値を下げる方法

自分が買い取りたかった猫猫を先に買い取ってしまった壬氏に厄介な仕事を押し付けたり嫌味なことを言いに来る羅漢。

宮中でも変人と有名な漢 羅漢(カン・ラカン)が壬氏の仕事を邪魔するようにやってきた。
彼も昔緑青館に通い馴染みの妓女がいたと壬氏に話す。その妓女はちょっと変わり者だったが頭が良く碁や将棋が得意で芸は売っても身体は売らない、客相手にも尊大な態度でそれが妙に癖になる女だった。しかしその妓女はどんどん値が高くなり羅漢には手が出せなくなった。だからその妓女の希少価値を下げてやった、と彼は笑いながら話す。そして羅漢は壬氏に尋ねる。
「どうやったか、知りたいですか?」
「ここまできてもったいぶるのですか?」
壬氏の返答も置いておき、彼は猫猫の話題を口に出した。
「最近そちらに入った下女がなかなかに面白いようで。謎解きが得意なようですな」
そして、羅漢は壬氏にその下女にある事件を調べてほしいという依頼をする。
ある彫金細工師が突然亡くなった。彼は実子3人を弟子にしていたが、その遺言を誰も理解できないという。
職人は彼の秘伝を後継者に伝えると言っていたが、3人のうち誰を後継者にするが決めないままだった。
彼の遺言はただ一言。
「皆、昔のように茶会をするといい」
猫猫はその職人の家に赴き、3人の実子に会う。
長男は作業小屋を、次男は作業小屋内にある固定されて動かない箪笥を、三男はガラス製の金魚鉢を、遺品としてもらっていた。
箪笥には鍵がついていたが、一段めの引き出しの鍵穴には入らず、二段めの真ん中の引き出しに至っては鍵穴に何かが詰まっていて何も入りもしない。その鍵穴を見て猫猫はあることに気付く。
猫猫は一旦職人の遺言に従うようにお茶会をすることを提案した。
作業小屋でお茶を飲む時は3人とも決まった席でお茶を飲む。そして遺言の謎を解くため3人が定位置に座り雑談をする。ちょうど部屋の中に陽が差し込んできて、それを懐かしく思った彼らはいつも陽が部屋に差し込んで来たころに休憩をしていたと言う。
猫猫は窓を見るとその前に置かれていた棚に日焼けの跡があることを発見し、何の跡かを確認すると金魚鉢が置かれていたと聞いた。すぐに水の入った金魚鉢を置く。すると金魚鉢がレンズのような働きをし、太陽光が集光され箪笥の二段めの真ん中引き出しの鍵穴にちょうど差し込む。
しばらく経ってから猫猫が箪笥の鍵を受け取り二段め真ん中の引き出しにさす。先程までは入らなかった鍵が簡単に入り、引き出しが開いた。
そこに入っていたのは上の引き出しの鍵。だが、その鍵はまだ型に入ったままになっている。型から鍵を取り出し一段めの引き出しを開けると、はいっていたものは『鉛』と『錫』と『結晶』。長男と次男はそれを見て遺産とは程遠い品物に頭を抱える。だが、三男だけはそれらの品と真ん中の引き出しに詰まっていたものの仕掛けをジッと見つめていた。
帰り道に一体どういうことだったのか、と聞かれた猫猫は引き出しの中身に関して話す。
引き出しの中身は恐らく焊(鉛と錫を合わせたもので金属同士を接着させるのに使う)の素材。鉛と錫と蒼鉛と呼ばれる結晶。その三つを組み合わせることで生まれる低温で溶ける特殊な金属が連れられる作れる。それこそが秘伝だったのだ。
箪笥の二段めの引き出しの鍵穴に詰まっていたものはその秘伝の金属であり、太陽光によって簡単に溶け出す。溶け出した金属は型に収まり熱が収まった後すぐさま固まり一段めの引き出しの鍵になった。
秘伝の技術とその材料を職人は残していたのだ。しかしその秘伝に気付いたのは三男だけだったが。

事件の真相を壬氏に話した猫猫は、彼から聞きにくそうに一つのことを聞かれる。
「妓女の価値を下げる方法って何かわかるか?」
結局妓女の価値の下げ方がわからなかった壬氏は羅漢から妓女に詳しい者に聞いてみるといい、と言われたため猫猫に聞いたのだった。
壬氏の質問に猫猫はなるべく平静を保ちつつ答える。
「見た目が良く芸の立つ妓女は簡単に身を売らせません。手が届かない純潔な花ほど価値が上がるものです。だからこそその花を手折るだけで価値は半減します。さらに…子をはらませれば価値などないに等しくなります」
猫猫の様子が可笑しいことに気付きながらも、壬氏はその返答に驚きと嫌悪感を抱いたのだった。

羅漢に彫金細工師について報告をした壬氏は彼に随分悪どい手を使うと言った。
妓女の価値を下げる方法を羅漢はやったのだ。
しかし羅漢は反対に壬氏に対してあなたに言われたくないと言われてしまう。
羅漢はずっと待っていたのだ。彼女が妓女になれば金で買えるようになる。それを壬氏が横取りをした。
猫猫のことを言っていると気付いた壬氏は羅漢には渡さないと伝える。
そして羅漢はあの娘はどう思っているでしょうね、と言いながら伝言を壬氏に頼む。
「そのうち会いに行くとお伝えください」
翌朝、猫猫に羅漢の伝言を伝えると、猫猫は言葉をなくした。
あまりにも酷い拒絶を示す表情をした猫猫に気圧され、壬氏は私から断っておくと猫猫に言った。ありがとうございます、と猫猫は答えてその場から去っていく。
その後ろ姿を見送りながら壬氏は呆気にとられたまま考える。
羅漢……あの男…何をしたんだー。

羅漢の話を聞いてげっそりしている猫猫は医局へのおつかいを頼まれた。
ウキウキと医局に行き薬の匂いを満喫している猫猫は後ろからコツンと殴られる。振り返るとそこにはいつか絡んできた女官達の中にいた翠苓がいた。薬を貰うと翠苓はとっとと医局から出て行く。彼女は軍部の所属だと彼女にデレデレとしている医官が言った。
薬をもらった帰り道、薬に使える草が道に点在して生えていることに気付いた猫猫はその道を辿った。すると薬草がたくさん植えられてい丘の上に出て感動をする。
そこへまた翠苓がやってきて自分が勝手に植えた場所だと言う。何を植えているのか尋ねる猫猫に翠苓は薬草を手入れしながら答えた。
「蘇りの薬」
その言葉に興味を持つ猫猫に、冗談と流しつつ翠苓は挑発的な言葉を放つ。
「あなた薬師だって聞いたけど、どれだけの腕前なのかしら」
更におつかいの途中じゃなかったの?と指摘され、猫猫は時間をかけ過ぎたことに気付き慌てて帰っていった。

繋がる事件

自分の体をボロボロにしながらも壬氏を救い、薬を強請る猫猫にそれどころじゃないと沈痛な気持ちで言う壬氏。

李白が猫猫を訪ねてくる。李白の顔は困った表情をしていた。
ぼや騒ぎの際、猫猫が拾った煙管を持ち主の倉庫番に返して欲しいと李白に託していたが、李白が倉庫番に煙管を返そうとすると倉庫番は突っ返してきたという。
そもそもその煙管は薬の匂いがする知らない女からの礼として貰ったものだと倉庫番は答えたそうだ。
李白が困った顔をしているのはどうやら煙管を突っ返されただけじゃないらしい。ぼや騒ぎが起きた時、別の倉庫で盗みがあり、祭祀で使う祭具が盗まれたそうだ。
ぼや騒ぎはまるで陽動のようだったと言う李白。猫猫も李白の言葉を聞き、確かに薬の匂いがする女にぼやが起きるよう倉庫番は誘導されたように思えた。倉庫番が思わず使いたくなるような高価な煙管。そしてその薬の匂いがする女がどうしても翠苓に思えて仕方がない猫猫は、盗まれた物はなんだったのかを李白に聞くが、李白はわからないと返した。
ずさんな管理に呆れる猫猫だが、李白は頭を掻きながら言う。管理者である礼部の長官は亡くなったばかり、後任の人間も食中毒で昏睡状態だ、と。
猫猫は目を大きく見開く。最近起きた事件が全て関わっていた。
それを壬氏に報告すると、彼は一連の事件調査を猫猫に依頼する。
「牛黄」というとても珍しい薬を渡すと笑顔で持ち掛ける壬氏に、猫猫は目を爛々として答えた。
「やります。調べましょう、なんだって……!!」

次の日猫猫は早速礼部に行き、調べを始める。
礼部には荷物がいやに少ない。その事を不思議に思い礼部の中を案内してくれていた男に尋ねると、今日は中祀が行われる日だから荷物はその儀式に出ていると答えが返ってくる。
男は中祀の仕事に関わっていたのか、丁寧に今日行われる中祀の儀式や祭壇の仕組みを教えてくれる。
天井から祝いの言葉が書かれた布が垂れ下がり、中祀の度に増やしていくと言う。高い位置に布をかける部分は特別な作りになっており、予め柱に布をつけた状態にしその柱を天井からワイヤーで吊っているという。
詳しい説明に猫猫が感心すると男は前に祭壇の設計をしていたが、ワイヤーや祭具の強度について進言をしたら担当から外されたと嘆いた。
何故強度が大事なのか?と聞くと、柱の下で『やんごとなきお方』が祈祷するからワイヤーが切れでもしたらそのお方が柱の下敷きになると答えてくれた。
男は盗まれた祭具の中にワイヤーを固定する部分もあったが、すぐに代わりが見つかって良かったと話した。同じ彫金細工師が作った物だから大丈夫だろうという言葉を聞いて猫猫は男に掴みかかる。
彫金細工師。最近解決した事件の中にその人物もいたからだ。
慌てて男に中祀がいつあるかを聞くと男は今日だって言っただろ?と答える。
猫猫は慌てて儀式が行われる場所まで走った。
しかし神事の最中に下女が入ることなど出来るはずもなく兵士に止められる。
猫猫は兵を煽るように、祭壇に致命的な欠陥があり誰かが工作した可能性がある。もしかしてあなた、一味の1人ですか?とあえて言う。
思わずカッとなった兵士は猫猫を殴り飛ばした。騒ぎを起こして神事を止めようとするが止まらない。猫猫は焦る。
このままだと牛黄が貰えない。
鼻血を拭きながらも中に入れてもらえるよう頼む猫猫の隣から羅漢が現れ、通すように兵士に圧力をかけた。兵士は道を開ける。
嫌な奴に借りを作ったと思いながら猫猫は慌てて中に入った。そして祭壇の下で祈祷している人物を押し倒す。
間一髪天井にあった柱が落ちてきて、猫猫と祈祷をあげていた人物は下敷きを免れた。
しかしその際猫猫は足に深い傷を負ってしまう。足から自分が押し倒した相手に意識を向けるとそこには壬氏がいた。
お互い呆気に取られているが、怪我をした猫猫はそのまま壬氏の胸の中で意識を手放してしまう。
壬氏は焦り猫猫を抱きかかえ走る。その姿はいつものキラキラした壬氏の姿ではなく猫猫は調子が狂うと思いながら再度意識を無くした。

次に目を覚ますとそこは壬氏の自室だった。
驚く猫猫に足は15針も縫う大怪我で、医局に置いておくより壬氏が部屋に連れてきたいと言って連れてきたらしい。
簡単な着替えを済ませて猫猫は真相を壬氏達に伝えるため起き上がった。
これは偶然を装った″事故″が重なって起きた″事件″である、と。
そう切り出した猫猫は一つ一つの″事件″について説明した。
一つ目の事件。礼部の長官である浩然が酒宴の席で亡くなる。これはただの飲み過ぎではなく酒に仕込まれた大量の塩を飲んだことで起きた。塩を入れた人物は未確認。
二つ目の事件。食料庫のぼや騒ぎ。騒ぎに乗じて同日祭具が盗まれる。平時であればすぐに気付かれたはずだが礼部の長官である浩然は亡くなった直後、後任も有毒の海藻を食べて昏睡状態で確認が出来なかった。
それだけで祭祀に何かが起こるなんてわからなかった。だが猫猫は盗まれた祭具が彫金細工師の作ったものだと知り繋がりに気付いた。
祭祀ではワイヤーで鉄柱を吊り下げ床の固定具で止めていた。火の熱が当たる箇所に熱で溶ける金具が使われていたとしたら。猫猫は彫金細工師の作業小屋で見たのだ。低温で溶ける金属の存在を。
恐らく彫金細工師は知らないまま依頼された通りに部品を作ったのだろう。
しかし祭祀で事故が起これば職人も不審に思う。だから彫金細工師は消されたのだ。
驚く壬氏に、自分の話せることは全て話したと言う猫猫。
ここまで話せばきっと高順が翠苓のことを調べあげるだろう。と猫猫は思う。
しかし後日猫猫の耳に入ったのは翠苓は毒を飲んで死んだというということだった。
何かが可笑しい。こんな大かがりであり緻密な計画を翠苓1人でやったとは思えない。
猫猫は彼女の挑むような口調を思い出していた。
壬氏にお願いをし、彼女の死亡確認をとった医官と一緒に死体安置室へ行く。
やってきた医官はいつぞや翠苓に好意を抱いていた医官であることに気付き、猫猫は医官に彼女が飲んだ毒には曼荼羅華が入っていなかったかを尋ねた。
驚く医官。その反応だけで曼荼羅華が入っていたことを語っている。しかし医官は他にも様々な毒が調合されていたと答えた。
「では本当にその毒で死んだのか、確かめてみましょう」
猫猫はそう言うとすぐに翠苓が入っている棺桶を無理矢理開ける。そこには翠苓には似ても似つかない女の遺体が入っていた。愕然とする医官。
翠苓は自身に好意を寄せていた医官が彼女の遺体を丁寧に扱うだろうと予想し利用したのだ。安置室に置いてある他の棺桶の中の一つに使用された形跡のある棺桶が一つ混じっている。
翠苓は人を死んだように見せかける薬を飲み、自分の死亡が確定されると棺の業者に化けた仲間の中に加わりまんまと逃げたのだ。
猫猫は言う。
「暗殺は未遂に終わりましたが、彼女の勝ちのようなものです。棺が燃やされてしまっていれば完全勝利だったはず」
いつかまた会いたい。その時は蘇りの薬の作り方を教えてもらうと猫猫は怪しく笑い、同席していた壬氏達は呆れ果てた暗い表情で猫猫を見つめるのだった。

後宮再び

青薔薇

羅漢から提案された無理難題な仕事の一つである青薔薇を用意し皇帝に献上する壬氏。

壬氏から玉葉妃が懐妊したかもしれないと聞き、猫猫はもう一度後宮で玉葉妃の毒見役として働くことになった。
相変わらず女性達の噂話が絶えない後宮に懐かしさを感じる猫猫。今の噂の的は阿多妃の後に新しく入ってきた楼蘭(ロウラン)妃だ。彼女はいつも派手な化粧と異国の様々な服を着ており帝も通う度に別人を相手にしているようだと困惑している。
玉葉妃は公主を懐妊した時毒を盛られたこともあり、侍女達は一生懸命玉葉妃を守ろうとしていた。猫猫も彼女が出来る限りの対策を打つ。
まずは後宮の医局の掃除と整理整頓。何日もかけて徹底的に掃除をする。
そして玉葉妃の懐妊が確かなものになった頃、春の園遊会が開かれようとしていた。
玉葉妃は体調のことを考え欠席をすることにしたが、懐妊したことを周囲に知られると危険が増える可能性がある。懐妊したことがわからないように新しくやってきた楼蘭妃に席を譲るという形で欠席をすることにした。
穏やかに過ごす猫猫だったが、また壬氏から特殊な依頼をされる。
青い薔薇を園遊会で愛でたいと言われたとの事だ。しかも猫猫なら作れるのではないかと誰かに言われたらしい。
青い薔薇は不可能な代名詞とまで言われる代物だが、見たという人物が複数いたのだ。
しかし園遊会は来月。薔薇が咲くにはあと二ヶ月もかかる。その事を知らなかった壬氏は諦めようとした。
が、壬氏に無理難題を押しつけているのは羅漢で、その原因が自分であるとわかっている猫猫はその挑戦を不敵な笑顔で引き受けることにする。

梨花妃が鉛入りの白粉で体調を崩していた頃、汗を流して毒素を出すため簡易サウナを建設した。猫猫はそれを借りて沢山の白薔薇を育てることにする。
1人での作業は大変な上猫猫はすぐに無茶をするため、小蘭をお目付役として薔薇の育成が始まった。
苦労をした甲斐もあり白薔薇は蕾をつける。
しかし猫猫は相変わらず無茶をしており、徹夜でサウナの温度が下がらないように蒸気を出し続けたりしていた。小蘭は真面目だなと言いながら水晶宮の侍女達がサボって2人の様子を見ていることにムッと眉を寄せる。気が散ると思った猫猫は小蘭の爪に紅をつけてマニキュアを施す。それを見た水晶宮の侍女達は自分達もやろうとそそくさと去っていった。
ようやく静かになると思いながら、自分の爪についた紅を見る。左の小指だけが歪な爪をしていた。
白薔薇の葉をむしりながら最終段階に入る。
園遊会当日、猫猫は不満そうな顔で青薔薇だけじゃなく様々な色のついた薔薇を花瓶に入れ壬氏に渡した。蕾のままだったことが彼女的には納得がいってなかったのだが、それでも充分な華やかさだ。
壬氏は労うように猫猫の頭を撫で、色とりどりな薔薇を帝に献上する。
その壬氏の姿を見て羅漢は残念がる。猫猫がやってこなかったことに、だ。

無茶な仕事をようやく終えて休んでいる猫猫の元に壬氏がやってきた。
どうやってあれだけ色とりどりな薔薇を作ることが出来たのかと彼は尋ねる。
内側から染めたと猫猫は答えた。
今は花瓶に一つにまとめられている薔薇だが、それぞれの色のついた水が入った花瓶に白薔薇を入れて放置する。すると白薔薇は水を吸い上げその水の色に染まる。
そこへ高順が用意が出来たと猫猫を呼びに来た。
まだもう一仕事、猫猫にはしなくてはいけないことがある。あのいけ好かない男に一泡吹かせてやるのだと猫猫は気合を入れた。

賭け将棋と妓女の身請け

猫猫との約束である妓女の買い取りに対して、ずっと探していた鳳仙を希望する羅漢。

羅漢は生まれた時から人の顔が判別出来ない。
それを出世に対する障害だと思った彼の父親は羅漢に対して冷たく当たった。しかし、彼の叔父は羅漢を見捨てずに将棋を教える。いつしか羅漢は人々の顔が将棋の駒に見えるようになった。そうなると軍の仕事は簡単だ。その駒にあった場所に人物を配置するだけで勝てる。
彼は将棋の達人で軍師と呼ばれるようになった。

羅漢が呼び出された場所には彼女と同じマニキュアをした猫猫、壬氏と高順がいる。
挑戦的な目で猫猫は将棋を見せた。
「お相手、願えますでしょうか」
そう言う猫猫に羅漢は頷く。
「もちろん。断るわけがないだろう?」
猫猫は羅漢にルールと賭けの代償を決めることにする。
負けるなんて考えていない猫猫の態度に壬氏は焦った。何故なら相手は負けなしの軍師と呼ばれる将棋の達人。しかも猫猫は羅漢の名前を聞いただけであからさまな嫌悪を顔に出している。そんな相手に賭けを申し込むなんて壬氏からしたら正気の沙汰ではない。
心配する壬氏をよそに猫猫と羅漢は賭けの代償を決めてしまう。
羅漢が勝てば猫猫は羅漢の家の子になること。
猫猫が勝てば羅漢は緑青館の妓女を1人身請けすること。
賭けの代償が決まったところで、今度はルールの説明をする猫猫。
そこへ高順が並々と注いである杯が5つ乗っているお盆を持ってきた。
中身はただの酒だがそれだと面白くないという理由で猫猫は3つの杯に粉を入れる。その粉は1つの杯分だけなら薬になるが、3つ飲めば毒になるというものだった。それをどれに入れたかわからなくする。
勝者は1つ杯を選びそれを敗者が飲む。そしてどんな理由でも試合を放棄したら負け。
そのルールに羅漢は頷いた。
勝負は猫猫の2連敗で始まる。酒を飲む猫猫は2杯とも美味しそうに飲み干してしまうので壬氏と高順は猫猫が毒を飲んでいるのかわからない。
すると3戦目で羅漢が負けた。驚く壬氏に猫猫は杯を選ぶ。
飲む前に毒には味がするのかを確認する羅漢。少ししょっぱいと答える猫猫。それを聞いて羅漢は杯を一気に飲み干した。
「しょっぱいな」
羅漢の感想にほっと息を吐く壬氏。3つの杯の内1つの杯を羅漢が飲んだおかげで猫猫が毒を飲む可能性は無くなった。しかしこのままでも猫猫の負けは濃厚だ。
慌てる壬氏に勝負はまだこれからと笑う猫猫。
すると羅漢が倒れた。
呆気にとられる壬氏と高順。毒は3つの杯を飲まないといけないのでは?と焦るが、猫猫はしれっと言った。
「酒とは本来そういうものです。吸収を良くするため砂糖と塩を少し足しましたが」
猫猫の答えにも疑問を覚える壬氏は、ではなぜ?と呟く。すると猫猫は簡単に答えた。
「この人下戸なんです」
「よく知ってたな…」
驚きながら言う壬氏に猫猫は淡々と言う。
「こんなんでも一応父親ですから」
猫猫のその言葉に衝撃を受ける壬氏と高順を見て、猫猫は聞いてなかったのかと言う。
賭けの内容である羅漢の家の子になるというのも言葉の通りで、壬氏はすごく安堵した。
酒一杯でも倒れるほど酒に弱い羅漢。しかし負ければ毒を入れた杯を飲むという条件をつければ、父親としての情がある羅漢は必ず一回は負けるだろうと思い、猫猫はこの賭け将棋を挑んだのだった。そして猫猫は言った。
「試合放棄ですね…私の勝ちです」

これはもう十数年前の話。
将棋の達人と言われていた羅漢の元に囲碁将棋の得意な妓女の噂が入ってくる。その妓女は頭は良いが変わり者で笑わずの妓女と呼ばれていた。どれだけ強いと言われていても所詮は酔っ払い相手に勝っているだけの妓女。そう思って羅漢は勝負を挑みに行った。
そして羅漢は負けた。
碁での勝負。侮っていたことを見透かされそこを突かれた。羅漢は思いっきり鼻っ柱を折られたのだ。
見事なまでの容赦のなさが清々しく羅漢は笑い転げる。初めてこの人間の顔が見たいと思った人物だった。
そして妓女は禿に今度は将棋盤を持って来るように言う。
羅漢に淡々とした声で妓女は言った。
「次はお得意な将棋で」
今まで将棋の駒にしか見えていなかった人間の顔が、初めて見えた瞬間だ。
妓女の顔を見て人間とはこんな顔をしているのかと羅漢は感嘆する。
羅漢は思わず彼女の名前を聞いた。そして妓女は答える。
「鳳仙(フォンシェン)」
鳳仙は妓女の誇りだけを固めた女だった。対応がきついので万人受けはしないが頭が良いので一部の好事家に受けていた。
才能のある妓女はある程度人気が出ると売り惜しみされる。鳳仙もその1人だ。値は釣り上がり羅漢は3ヶ月に一度会うのが精一杯だった。
そんな時鳳仙に身請けの話が出る。羅漢には手を出すことも出来ない金額。
鳳仙は羅漢に賭けを申し出る。勝った方が好きなものを貰えるという賭け。
羅漢は鳳仙を手に入れた。互いに睦言すらない似た者同士の2人。羅漢の腕の中で鳳仙は「碁を打ちたい」と呟き、羅漢も「将棋を打ちたい」と呟いた。
その後羅漢の叔父が失脚する。羅漢は叔父と懇意にしていたため、羅漢の家まで累が及ぶといけないと父親から家を出るように言われた。鳳仙の身請け話は破談になったと便りがあり、半年で戻れると思っていた羅漢は何もせず都から離れる。まさか3年も都に帰って来れなくなるとは思わなかったのだ。
久しぶりに自分の家に帰った羅漢は鳳仙からの手紙に女性の小指と子供の小指がつけられていることに驚き慌てて緑青館へ向かう。
そこには鳳仙はおらず、やり手婆から罵声を浴びせられて追い返される。
信用を無くした妓女がどうなるか、羅漢にもわかった。彼は泣きながら自分の浅はかな行いを悔いたがもう遅い。
それから何度も羅漢は緑青館に通い、やり手婆に追い返される日々だったが、ある日小さな少女に出会う。
少女の顔が羅漢にはハッキリと見え、更にその子の小指の先端は切り取られていた。それに気付いた羅漢は少女に近寄るが、養父が少女を呼び寄せる。
養父は羅漢の叔父だった。
少女が自分の娘である猫猫だとわかった羅漢は猫猫を迎え入れるため、自分の父親から家督を奪い異母弟を排斥し甥っ子を養子にする。
賭け将棋を猫猫から挑まれた時ようやく一緒に暮らせると思ったのに。
羅漢はゆっくりと目を覚ました。
そこは見慣れない部屋だったが、すぐそばに緑青館の梅梅がいることに気付く。
梅梅は猫猫特製の酔い覚ましを羅漢に渡すが凄い味で彼は思わず叫ぶ。しかし猫猫のお手製だったため、気合いで飲みきる。
羅漢が鳳仙と猫猫の情報を得るために緑青館に行く度、鳳仙の禿であった梅梅が必ず彼の相手をしてくれていた。
そうしているとやり手婆がやってきて、猫猫から聞いた妓女の身請け話をし始める。
やり手婆は三美姫も入れた妓女の中から選ばせてやると言って部屋を移動した。
羅漢はそれならいつも面倒をみてくれた梅梅を選ぶべきか、と投げやりに思うが、それに気付いた梅梅が部屋の窓を開けながら言い切る。
「私とて妓女の矜持は持ち合わせています。選ぶならちゃんと選んでくださいね」
やり手婆が勝手に窓を開けるんじゃないと怒るが、そこから微かな歌声が聞こえてきた。
それは羅漢と鳳仙が一夜を過ごした時、鳳仙が歌っていた彼女の母親との唯一の思い出の歌だ。
聞いた瞬間羅漢は窓から身を乗り出し地面に足をつけると、そのまま足をもつれさせながらそれでも羅漢が出せる最大限の速さで緑青館の外れにある小屋に勢いよく入る。
そこには病気で顔が崩れもはや喋ることも記憶も曖昧になっていた鳳仙が寝台で歌を歌っていた。
やり手婆もすぐに後を追って入ってくる。ここは病人の部屋だからさっさと相手を選べと言う彼女に羅漢は「この女だ…」と呟いた。
莫迦言ってるんじゃないとやり手婆に怒られるが、羅漢は怒鳴り返す。誰でもいいと言ったのはアンタだろう、この女でもいいはずだ、と。
そして鳳仙の手をそっととると彼女の好きな碁石を乗せてやる。嬉しそうに見つめるその姿に羅漢の涙は止まらない。
「私はこの妓女を身請けするよ。金なら十万でも二十万でも出してやる。彼女じゃないなら誰もいらない…」
梅梅もようやくやってきて、その様子に思わず微笑む。
鳳仙の禿だった梅梅は、羅漢が来ると僅かに笑っていた鳳仙の姿を見ていたため彼女の想いに気付いていた。だからこそ素直になれなかった2人がようやく結ばれたことに涙を流す。

一方その頃、まだやつれた顔をしていた猫猫は後宮に帰るのは壬氏の部屋でご飯を食べて精をつけてからと言われていた。
壬氏に「羅漢のことを恨んでいると思っていた、母親のことで」と言われ猫猫は首を振る。
羅漢のことは恨んでいない。そもそも妓女の同意がなければ子は出来ない。何故なら妓女は常に堕胎薬や避妊薬を飲んでいるから望まない子ならば生まれることはない。むしろ謀られたのは羅漢の方かもしれないと淡々と猫猫は言う。
羅漢は人の顔がわからない。だから顔がわかる鳳仙と猫猫に拘る。
だがそんな執着心だけではなく父親としての情も持っていることはやり手婆に殴られて追い返されても何度も猫猫に会いに来ていた羅漢の姿を見ているので猫猫はわかっていた。
けれど猫猫の中での父親は養父である羅門なのだ。
なので猫猫は羅漢に関しては「嫌いではあるけれど恨んではいない……そんなところですかね」と言う。
しかし壬氏は猫猫が羅漢に対して露骨に嫌っていたじゃないかと言葉を続ける。
すると猫猫はどんよりとした表情をして言った。
「あの男に『パパって呼んで(ハートマーク)』と言われたらどうですか」
壬氏もすぐさま顔色を変える。
「眼鏡をかち割りたくなるな」
「でしょう」
同意する猫猫。
しかし本当の理由は尊敬している養父の羅門が羅漢のことを認めているため、羅漢に対して嫉妬しているというそんな理由だった。
それまでの会話を聞いて孫までいる高順は心底気の毒そうに猫猫に言う。
「好きで嫌われる父親なんていないということも知っておいてください……」
キョトンと猫猫と壬氏は高順を見つめた。

『薬屋のひとりごと』の登場人物・キャラクター

主要人物

猫猫(マオマオ)

ビッグガンガン版(作画:ねこクラゲ)

サンデーGX版(作画:倉田三ノ路)

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