薬屋のひとりごと(ラノベ・漫画)のネタバレ解説まとめ

『薬屋のひとりごと』は、日向夏による日本のオンライン小説、ライトノベル作品。コミカライズもされており、ビッグガンガン版(作画:ねこクラゲ 構成:七緒一綺)と「猫猫の後宮謎解き手帳」の副題がつくサンデーGX版(作画:倉田三ノ路)がある。なお2誌とも同じ原作の内容を描いている。物語は中国によく似た世界での話。元花街で働いていた猫猫(マオマオ)が後宮で働くことになる。そこで様々な事件に巻き込まれ(たまに自ら首を突っ込み)持っている薬の専門知識で事件を次々と解いていくファンタジーラブコメミステリー作品。

『薬屋のひとりごと』の概要

『薬屋のひとりごと』は、日向夏による日本のオンライン小説、ライトノベル作品。挿絵担当はしのとうこ。
コミカライズもされており、ビッグガンガン版(作画:ねこクラゲ、構成:七緒一綺)と「猫猫の後宮謎解き手帳」の副題がつくサンデーGX版(作画:倉田三ノ路)がある。なお2誌とも同じ原作の内容を描いている。

物語は中世中国によく似た世界観で描かれている。花街で薬屋として働いていた猫猫(マオマオ)は薬草採取中に人攫いに攫われ、後宮に売り飛ばされた。自分の容姿体型がまったく男性受けしないことを認識していた猫猫は大人しく年季明けを待つ。しかし花街で薬屋として生きてきた猫猫は自身の好奇心とほんの少しの正義感から、妃と帝の子供達を苦しめていた謎の体調不良の原因を見抜き警告をしてしまった。それが猫猫の人生を大きく変えるとは知らずに。
警告文が自身の服の布だったためすぐに猫猫が警告をしてきた人物だと見抜かれてしまう。見抜いた人物は後宮の宦官で絶世の美貌を持つ壬氏(ジンシ)であった。そして彼から様々な事件の相談や頼み事をされ、その度に美味しい餌を釣らされまんまと乗ってしまう猫猫。
猫猫と壬氏が事件を通して親しくなるにつれ、壬氏は自身の目的のために利用していた猫猫に『壬氏』としてはらしくない感情を持つ。笑顔で女性、果ては同性である男性までも魅了する彼のぎこちない愛情表現にまったく気付かない猫猫は常にクールな態度で彼に対応し思いっきり彼を振り回す。
猫猫の薬の専門知識で事件を次々と解いていく中華ファンタジーラブコメミステリー作品である。

時系列別発行書籍内容

2011年10月、Web小説投稿サイト『小説家になろう』にて連載開始。
2012年に主婦の友社のRay Booksレーベルより単行本全一巻として発売。
2014年に同社のライトノベルレーベルであるヒーロー文庫にてその後、新装刊として発売。それ以降継続され発売されている。挿絵担当:しのとうこ。
2017年はコミカライズ版連載開始。5月から月刊ビッグガンガン版(出版社:スクウェア・エニックス。作画:ねこクラゲ、構成:七緒一綺)が。8月から月刊サンデーGX版(出版社:小学館、作画:倉田三ノ路)副題として「猫猫の後宮謎解き手帳」がつく。

2020年9月時点でシリーズ累計発行部数は900万部を突破している。

2019年8月22日、ねこクラゲ作画の漫画版が「次にくる漫画大賞」2019年度コミックス部門第1位に選定。

『薬屋のひとりごと』のあらすじ・ストーリー

後宮編

皇帝の子の連続不審死と出世

妃の姿を一目見ただけで原因がわかる主人公の猫猫。

花街で薬屋として働いていた猫猫(マオマオ)は、ある日薬草採取中に人攫いに誘拐され後宮に売られてしまった。
目立たず年季である2年を過ごそうとする彼女の耳に入ってきたのは「皇帝の子の連続不審死」についての噂。
これは呪いだ、と噂好きの同僚である後宮下女の小蘭(シャオラン)が言う。
皇帝には今まで3人の子がいたが全員生まれて間もなく亡くなっていた。現在は梨花(リファ)妃が生んだ東宮と玉葉(ギョクヨウ)妃が生んだ公主の2人がいるが、妃も合わせて徐々に体調を悪くしているらしい。頭痛に腹痛に吐き気を起こしているそうだ。
そんな噂を聞いた猫猫は抑えていた薬屋としての好奇心が溢れ出し、思わずその妃達の住んでいる場所まで向かう。
その途中、梨花妃が怒りに任せて玉葉妃の頬を叩き怒鳴りつけている現場に行き当たる。猫猫は遠くから妃達2人の様子を見て何が原因かがわかってしまった。
2人に伝えるため「何か書ける物さえあれば」と呟きながらその場を離れる猫猫とすれ違う1人の宦官。
騒動から1ヶ月もしない内に東宮は亡くなった。
猫猫は自身の服を破って用意した布で作った警告文を送り主が分からぬように梨花妃と玉葉妃へ注意して届ける。しかし、梨花妃はその警告には取り合わず東宮を亡くしてしまい更に自身の体調は悪化、玉葉妃の方は警告に従ったため公主も自身も体調不良から立ち直った。
玉葉妃はとある人物にその警告文を渡す。それを受け取りマジマジと見つめた人物は梨花妃と玉葉妃が騒動を起こした時、すれ違った小柄なソバカスの女官を思い出していた。
ニッと笑ったその人物は玉葉妃に質問をする。
「この文の主を見つけたらどうなさいます?」

ある日呼び出しを受けた猫猫。呼び出された先には自分と同じような背格好の女達が集められている。
そこへ現れたのは猫猫が女だと間違えてしまうほど美しい男。周りの女達も「壬氏(ジンシ)様〜」と黄色い声援をあげている。
そして壬氏と呼ばれていた男が紙に何かを書きそれを皆に見せた。
そこのソバカス女 お前は居残りだ、そう書かれていた紙を読んだ猫猫は自分のことを書かれていると思い体が強張る。
しかし壬氏はすぐに笑顔で「これで解散だ。帰っていいぞ」と告げた。
男の言葉に周りの女達はゾロゾロと帰っていく。文字を読んでいたため反応が遅れた猫猫は意図に気付き慌てて周りにあわせて帰ろうとした。
しかし、猫猫は壬氏によってガシッと肩を掴まれると「君は居残りだよ」と言われ引き留められてしまう。ニッコリと微笑む壬氏を見上げ猫猫は自分がハメられたことに気づいてムッと表情を歪める。
呼び出しを受けた女官達は皆文字を理解出来ておらず、壬氏が見せた文字にも不思議そうな反応をしていた。だが、文字が読める猫猫は紙に書いてあった居残りという内容に思わずその場に留まってしまったせいで壬氏に文字が読めることがバレてしまったのだ。
「壬氏だ。黙ってついてこい」という壬氏の後に続いて歩き出す猫猫は厄介なことになったと悩む。
壬氏に連れて来られた場所は翡翠宮。玉葉妃の部屋だ。
部屋に入ると玉葉妃がおり、猫猫に頭を下げる。それに猫猫は驚きそんなことをなされる身分ではありません!と慌てた。しかし玉葉妃は私の感謝はこれだけではない、子供の恩人なのだからと微笑む。
文字が理解出来るということがバレただけでも面倒なことになったと思っている猫猫は目線を逸らしながら、「人違いではありませんか?」と最後までシラをきる。
悲しげな顔をする玉葉妃。
そこで咳払いをしながら壬氏があるものを取り出した。
それは猫猫が送った警告文であり、書かれている内容は「おしろいはどく 赤子にふれさすな」だ。
使われた布は下女の仕事着に使われる布で、裳(スカート)を裂いたのでは?と言う壬氏から縫い合わせている服を見えないように咄嗟に隠す猫猫。しかしここまでバレてしまっては仕方がない。
これ以上自分が警告文を送った人物が自分じゃないと隠し通す事は出来ないと悟った猫猫は、今回後宮で起きた帝の子供達や妃達の体調不良の原因を言う。
「簡単な話です。毒を含む高級白粉を使わなければいい」
猫猫が育った花街でも高級白粉を使っている技女が多くいた。そして殆どが含まれた毒により命を落とした。それを覚えていただけだ。
「元は薬屋でしたので。…それで、私は、一体、何をすればよろしいのでしょうか?」
自分が警告文を送った人物だと認めた上で観念したようにその知識を伝え、今後の処遇を尋ねる猫猫に対して嬉しそうに微笑み合う壬氏と玉葉妃。
「今日から私の侍女になってもらいます」
本当に嬉しそうに笑いながら猫猫の今後の処遇に対して答える玉葉妃に、猫猫は呆気にとられた。
これはいわゆる出世である。

翡翠宮での仕事

猫猫を労う壬氏だが、嫌そうな顔を返される。

後宮の上級妃である玉葉妃には彼女自身が信頼している4人の侍女しかいない。しかしその人数の少なさでは上級妃としての矜持が保てない。
だから侍女を増やしたかった壬氏だが、聡明で用心深い玉葉妃が簡単に侍女を受け入れることはないだろうと思っていた。
そこへ猫猫が現れる。玉葉妃と公主にとって命の恩人である猫猫ならば侍女として受け入れるだろう。壬氏の目論見通り猫猫は玉葉妃付きの侍女として受け入れられる。
更に猫猫は毒の知識にも詳しく、利用しない手はないと壬氏は考えた。
それに今まであんな害虫を見るかのような目で見られたことのない壬氏は、猫猫の態度に面白さを感じ新しい玩具を手に入れた時のように嬉しそうに笑っていた。

今まで同僚達と雑魚寝をしていた猫猫は寝台付きの部屋をもらう。
しかも玉葉妃に仕える4人の侍女達は皆働き者の少数精鋭で、彼女達の仕事に猫猫が入る隙はない。何かをやろうとすると同情に満ちた目で見られ部屋でお菓子でも食べてて、と気遣われる。
何故なら猫猫の新しい仕事は玉葉妃の毒見役だったからだ。実際玉葉妃は公主を懐妊した際2度ほど毒を盛られている。当時の毒見役は1人は軽症だったがもう1人は手足が動けなくなった。
しかし自身の身体で様々な薬や毒の実験をしていた猫猫は自分を育ててくれた養父からもマッドサイエンティストと呼ばれる程の毒好き。毒に対して耐性を持っており毒見役には向かないが、毒を食べる機会があるかもしれない毒見役につけたのは幸運だったなと猫猫は内心喜ぶ。だが、その内心に留めたはずの喜びは溢れ出しており毒見をしながらもふふふっと笑う猫猫の姿に、緊張した様子で猫猫を見守っていた周囲の人間から引かれたことを猫猫は知らない。

毒見役としての日々を過ごしていたある日、壬氏から媚薬を作って欲しいという依頼を受ける。
そんなもの一体何に使うつもりなのか?猫猫は不審に思ったが、久々に薬が作れることを喜び勇んで薬を作る準備をした。
必要な材料を揃えるため医務室へ向かうと壬氏の付き人の高順(ガオシュン)と出会い挨拶をする。
猫猫は媚薬として効能もあるチョコレートを作る。自身が小さい頃に食べて体調がおかしくなったという体験をした時、チョコレートを食べ慣れていない耐性がない人間には媚薬として売買されていることを知った。
作ったチョコレートを壬氏に渡し無事に依頼は完了する。
いつものように翡翠宮にやってきた壬氏は雑談として玉葉妃と猫猫にある話をした。
半月前野営していた軍の武官達が食事中に腹痛や吐き気を催す。食料調達した村で毒が盛られたのか、とその村の村長や逆らった村人達は処刑される。それについてどう思う?と壬氏は猫猫に聞く。すると猫猫は生木を燃やすと発生する毒もある、と答えた。それを笑顔で聞いた壬氏は嬉しそうに「参考になった」と頷く。
猫猫はある噂を耳にした。
夜な夜な城壁の上で踊る女の幽霊。
壬氏とまた会った猫猫は幽霊騒ぎに関してと夢遊病は治るのか?と聞かれる。幽霊騒ぎは噂程度なら知っている、夢遊病は薬で治せる病ではないと答えるが、壬氏は強引に猫猫から「…努力します」との言葉を言わせた。
夜になり猫猫と高順が城壁に行くと、そこで中級妃である芙蓉(フヨウ)妃が城壁の上で踊っている。彼女は来月幼馴染である武官に下賜される予定であった。帝の元にやってきた時に得意の踊りを献上しようとしたところ失敗してしまいそれ以来ずっと引きこもってしまっていた妃である。
そこで猫猫はある仮説にたどり着く。
そして報告のため壬氏の元に行くと「夢遊病は治らないもの」と言い張りこの件を終わらせる。
芙蓉妃が武官に下賜される日。彼女はとても嬉しそうだった。その様子に玉葉妃は驚いた顔をするが猫猫は何かを知っている様子で見ている。玉葉妃は猫猫に私にだけ真実を教えて頂戴と言い、猫猫は困ったように話しだす。
武官と芙蓉妃が結ばれるには下賜されるしかない。それにはどうしたらいいのか。帝と関係をもたないようわざと踊りを失敗し引きこもることにした。結果、綺麗な体のまま武官の元に嫁げることになったが、そこで帝の興味が自分に向かれては困る。だから夢遊病のフリをしたのだろう、という内容だった。
内容を聞いた玉葉妃は「他人が欲しがるものに興味を持つことは、帝ならありえる」と頷いた。
芙蓉妃のことを羨ましいと言う玉葉妃は猫猫に言う。
「そういえば下賜先の武官は、こないだの話の村人の処刑を止めた功で芙蓉妃を下賜されたそうよ」
「えっ」
驚く猫猫。
芙蓉妃を見ると彼女は嬉しそうに壬氏と話をしていた。そこで猫猫は一連の事件と壬氏の依頼を思い出す。
もし、芙蓉妃が武官に思いを寄せていることを知っている者がいたとする。その者が彼女の恋文となかなか行動に出さない堅物武官の背中を押すために媚薬を渡す。その上で武官の功績を取り上げるよう帝に働きかけたとしたらどうなるか。そんなこと出来る者は、とそこまで思考が巡ったところで猫猫は壬氏と目が合い、意味ありげな笑みを浮かべられてしまう。これ以上は推測がすぎる、と猫猫は考えるのをやめた。

水晶宮への出向

禁止したはずの白粉を使用していた人間に怒る猫猫。

ある日翡翠宮にやってきた帝から「体調が悪い梨花妃を見てくれ」と言われた猫猫は水晶宮へ出向することになった。
帝の「見てくれ」はつまり「治せ」ということ。
翌日から水晶宮に行く猫猫。
毒入り白粉を使用し引き起こされた体調不良の際、梨花妃は自分の子供である皇太子を亡くしている。そのせいで精神的に弱ってしまったこともあり梨花妃の体調はなかなか元に戻っていなかった。毒入り白粉は既に後宮内で使用不可となっているため、後は梨花妃の身体の中にある毒を排出すればいいだけなのだが、翡翠宮とは違い気位の高い水晶宮の侍女達は猫猫の行動にことごとく反発をする。
このままでは梨花妃は衰弱死してしまうと思う猫猫の前に壬氏が現れ手を貸してくれた。彼のおかげでようやく梨花妃の診断が出来る。
部屋に入ると猫猫は顔を顰めた。
帝権限でわざわざ用意した繊維質の豊富な粥や利尿作用のあるお茶、消化のよい果実は全て捨てられて、代わりに胃が弱っている病人には重すぎる食事を与える侍女。病人の匂いを隠したいため香が焚かれた部屋で換気がまったくされていない。極めつけは禁止にされていたはずの白粉を「梨花さまにはいつでも美しくあってほしい」という理由で使用していた。
みるみると表情が変わっていった猫猫は化粧担当の侍女の頬を平手で叩き、膝をついた侍女の髪を掴み引っ張るとその白粉を頭からぶっかける。
「そのうち全身に毒が回るだろう。良かったなぁ、これで綺麗になれるぞ。お慕いする梨花さまと同じだ。眼窩は落ちくぼみ、いずれ食事もとれないような身体が手に入る。なんで禁止にされたかわかってんのか?毒だっつってんだろが」
ガタガタと震えだす侍女は自分の正当性を主張するように「だってその白粉が一番きれいになるから、梨花さまも喜ぶんじゃないかって」と言う。
猫猫はその主張を鼻で笑いながら白粉を自身の手につけ侍女の顔を掴んだ。
「誰が自分のガキ殺した毒を喜ぶんだよ」
猫猫の迫力にその場にいた侍女達も空気に飲まれた。猫猫は白粉のついている侍女に口をゆすいで顔を洗うように言い、残りの侍女達には換気と掃除を指示する。
全てを見ていた壬氏が感心したように呟く。
「女とは本当に恐ろしい」
やってしまったと青ざめる猫猫だったが、これをきっかけに侍女達の梨花妃への対応は改善した。
「どうしてあのまま死なせてくれないのか」
梨花妃がか弱い声で猫猫に言う。猫猫は冷静に粥を彼女の口元に持っていき「食事をとらなければいい」と答える。梨花妃はコクンと粥を食べた。
「食べると言うことは死にたくないからでしょう」
猫猫の言葉に梨花妃は涙を流しながら「そうか」と何度も呟いた。
それから2ヶ月後だいぶ体調の良くなった梨花妃は猫猫に礼を言い、それから不安そうに猫猫に相談をする。
「私にはもう子はなせないのかしら?」
猫猫が初めみかけた梨花妃は玉葉妃と言い争いをしている場面だったため気性の激しい女性だと思っていたが、自尊心はあるが高慢ではない妃に相応しい人格なことを猫猫はわかっていた。そうでなければライバルである玉葉妃の侍女である猫猫に礼を言い更には身分の低い彼女に相談事を話したりしないだろう。
なので猫猫は梨花妃の心配事を取り除くように子供が出来るかどうか、試してみればよろしいかと答える。
猫猫としては水晶宮に行くように命令したのは帝なので、例えその命令が政治的かまたは感情的なものだったとしても帝が梨花妃を案じているのはわかっていた。
猫猫が翡翠宮へ戻れば梨花妃の病が治ったと思い、帝もまた水晶宮に通うだろう。
しかし梨花妃は元々寵愛を受けていたのは玉葉妃の方で自分は玉葉妃の持っている淡い髪や翡翠の瞳を持っていないと自虐する。
それを聞いた猫猫は「牡丹と菖蒲のどちらが美しいかは決めつけるものではない。それに梨花妃には病気で痩せてしまっても健在する立派なものがある。それだけの大きさはもとより、張り形は至宝」と梨花妃の胸を褒めた後、耳元で「ある秘術」を囁きそれを置き土産として翡翠宮へと戻る。
「ある秘術」とは花街で育った猫猫が男と夜を過ごす妓女達から聞いた男を寝所で悦ばすテクニックのことだったのだが、生憎と胸の平らな猫猫には使い道がなかった。しかしこうして梨花妃に教えることによって役に立ったと喜ぶ猫猫。
その後翡翠宮にて、帝のお通りが極端に減った玉葉妃が「やっと睡眠不足から解放されるわぁ」と言っている後ろで、「ある秘術」を教えたことが玉葉妃への帝の通いが極端に減った理由だとわかっている猫猫が目を泳がせていたのは別の話である。

園遊会

久々に食した毒に思わず恍惚の表情をする猫猫。

1年に2回行われる宮中行事。園遊会が迫ってきた。
宮廷の庭園に偉い方々が集い、様々な出し物が行われたり食事が振る舞われたりする。
招かれる立場である上級妃とその侍女達は何もせず皇帝に付き従えばいいだけとのことだ。
通常であれば侍女の1人ぐらい辞退しても平気なのだが、今回は公主のお披露目に加えて上級妃の4人が全員参加するため、猫猫は辞退することは出来なかった。

園遊会当日。
4人の上級妃とその侍女達は主人である妃に与えられた色を来て参加することになっていた。
玉葉妃は真紅。梨花妃は群青。阿多(アードゥオ)妃は黒。里樹(リーシェ)妃は白。そう決められている。
だが園遊会に来ていた里樹妃の衣装の色は濃い桃色であった。これでは玉葉妃と服の色が被ってしまう。幼い彼女は決まり事が分からず、更には注意する人間がいなかったのかと猫猫は首を傾ける。
園遊会という行事は出会いの少ない後宮の侍女達が、休憩時間の間に優秀な人材として武官や文官に勧誘されその印として相手から装飾品をもらうという場でもあった。
なので猫猫はすでに玉葉妃から首飾りを、壬氏からは簪を貰っている。理由を聞いた猫猫は年季明けの働き先候補としての勧誘という意味でもらったのかと納得した。猫猫としては年季が明ければ花街に帰る予定なのでまるで関係のない話だ。
そんなところに猫猫へ1人の武官が簪を渡す。彼の名前は李白(リハク)といい腰帯には大量の簪が挟まっていたので彼が目につく女性達に簪を配り歩いているのがわかった。なので猫猫は遠慮なく簪をもらう。そこへ梨花妃もやってきて猫猫へ簪を渡した。
食事の時間になり毒見役の猫猫も舞台に上がる。
他の毒見役が怖々と食事をしているなか、勢いよくそして淡々と毒見をする猫猫に見ている武官文官達はどよめく。
そんな中、猫猫はいつもなら青魚を使用している料理になますが使用されていることに気付いた。猫猫は膳が間違ったのだろうかと周囲を見ると、里樹妃がおろおろしながらも帝がいる前で食べない訳にもいかず料理を無理矢理食べて青ざめている姿を目撃する。そしてそのすぐ後ろで里樹妃付き毒見役がクスと笑ったのを見た。里樹妃付きの毒見役が、里樹妃を困らせるためにわざと玉葉妃の膳と交換したのがわかり猫猫は嫌な気持ちになる。
自分の仕事である毒見に意識を戻し、猫猫はスープを口に含んだ。
どの料理を食べた時もよりもうっとりとした表情をする猫猫に宴席の人々は「どんなに美味い料理なんだ?」とどよめく。
しかし猫猫は手ぬぐいで口元を覆った後、美味しそうに食べていたとは思えない言葉を言い放った。
「これ、毒です」
一気に宴席中が騒ぎになる。「玉葉妃のスープに毒が盛られた」という事実に。
喧騒の中、猫猫は気にせずに走り去って行く。その理由は美味しそうに毒を食べるのはまずいと思ったからだ。
休憩場所の水飲み場まで来た猫猫に不機嫌な壬氏は言葉をかける。そしてすぐに腕を引っ張り彼女を無理矢理医務室へ連れて行こうとした。毒を飲んだ猫猫の身を案じているのだ。
彼の不機嫌な理由がわかり、毒は手ぬぐいに吐き出したから大丈夫だと猫猫は答える。そして連れて来て欲しい方がいると壬氏に頼んだ。
壬氏が連れてきたのは里樹妃とその毒見役。
猫猫はすぐに里樹妃の服の袖をまくる。そこには赤い発疹が現れていた。やっぱりと呟きながら猫猫は里樹妃に尋ねた。
「食べられないのは魚介ですか?」
猫猫の質問に肯定を表すように里樹妃の顔が青ざめる。
「どういうことだ?」
一連のやり取りの意味がわからない壬氏が猫猫に尋ねる。
「人によって食べられない食べ物があるんですよ」
そう答えながら猫猫はアレルギーに関する簡単な説明をした後、今回の毒物混入事件について自分の意見を話す。
今回の料理は後宮側が用意したもので、玉葉妃は好き嫌いはない。本来なら帝と同じモノを提供されるはずだったが、今回玉葉妃の料理は違っていた。おそらく何かの手違いで玉葉妃と里樹妃の料理が入れ替わったのではないか、と。
そして猫猫は里樹妃に、そして毒見役にわかるように言う。
「今回は蕁麻疹程度ですみましたが、時に心不全や呼吸困難を引き起こし最悪の場合も考えられます。もしそれを知っていて与えたなら毒を盛ったのと同じことです」
顔色が一気に変わる里樹妃と毒見役。そして汗がダラダラと流れている毒見役に注意事項を書いた竹簡を渡しながら猫猫はもう一度念を押すように猫猫は言葉をかけた。
「難しいことはありません。しかし一つ間違えば医官であろうと対処できない問題であること。ゆめゆめ忘れないようにしてください」
震える手で注意事項が書かれた竹簡を受け取った毒見役はコクコクと頷く。
脅しはこんなもんかと溜息を吐く猫猫。
2人との面会が済んだ後、壬氏は猫猫に何故毒見役も呼んだのか、という質問するが彼女は曖昧に答える。
納得のいかない壬氏だったがひとまず解散となり、翡翠宮に戻ると毒を飲んだ猫猫を心配して待っていた侍女達にとにかく休むように言われ自室に戻った。
そこへ高順が毒の入ったスープを器ごと布にくるんで持ってくる。猫猫は粉と綿を使って器についた指紋を調べた。
ついていた指紋は4人分。スープを用意した者、配膳した者、そして里樹妃の毒見役と正体不明の指紋。と指紋の持ち主について話す。
その結果に高順は考えながら猫猫に尋ねる。
「何故毒見役の指紋がついていたのか?」
純粋な疑問を聞かれて猫猫はせっかく誤魔化したのになぁと思いながらも自身の憶測を高順に話した。
「いじめです」
上級妃に対して侍女が行ったことに驚く高順。猫猫は続ける。
毒見役は里樹妃が食べられないものが入っていると分かっていて玉葉妃の器と里樹妃の器を交換し困らせた。
衣装に関してもそうだ。濃い桃色の服では玉葉妃と色が被ってしまう。そういう場合は侍女が他の衣装を勧めるか、妃に準じて同じ色を着るはず。しかし園遊会で里樹妃の侍女達は本来着るはずの白い服を着ていた。それでは里樹妃1人だけが道化だ。
「何故あの侍女をかばおうとしたのですか?」
話を聞いていた高順が疑問を口にする。猫猫はじーと高順の真意を確かめようとするが、彼が「興味本位です」と答えたので、素直に疑問に対する答えを言う。
「侍女の命など軽くたやすいものです。ましてや、毒見役の命ともなれば」
猫猫の真意を聞き、高順は「壬氏には上手く説明する」と答え、猫猫は「ありがとうございます」と頭を下げた。
園遊会での毒混入事件によって壬氏は完全に忙しくなっていた。いつものキラキラした天女のような姿ではなくダラダラとした態度で壬氏は高順の報告を聞く。そして納得したように壬氏は呟いた。
「狙われていたのはやはり玉葉妃ではなく里樹妃だったか」
あまりにだらしのない格好をしている壬氏に高順は注意をする。小言のうるさい高順に壬氏は自身のつけていた簪の保管を無理矢理言い渡し部屋を退出させた。数日は寝ていない目の下にクマのある顔で壬氏は思った。
暇人宦官・壬氏でいるのも楽じゃないな。

里帰り

自分の生まれ育った花街に里帰りするも、事件に遭遇し物思いにふける猫猫。

園遊会でもらった装飾品には意味があった。
装飾品をくれた人物を身元保証人とすることで後宮で働く女官は一時外出することが出来る。
それを聞いた猫猫は早速花街へ里帰りをするため簪をくれた武官である李白を呼び出し、身元保証人になってくれるよう交渉をした。しかし義理で簪を渡していた李白は猫猫の身元引受人になる気はないとハッキリと断る。そこで猫猫はお礼としてある条件を提示した。猫猫が懇意にしている緑青館という高級妓楼で人気の三美姫の誰かを紹介するというものだ。
見事な餌にひっかかった李白は猫猫と一緒に3日間の花街へと繰り出す。猫猫にとっては久しぶりの里帰りだ。
一方その頃後宮では山のような仕事をなんとか終わらせた壬氏が猫猫の元へ会いに行ったが、玉葉妃から園遊会で武官である李白に簪を貰いそのまま後宮をでて里帰りした、と聞いて本気で落ち込んでいた。壬氏も園遊会で猫猫に簪を贈っていたのに一切そんな話をされていない。その上猫猫は他の男を頼りにしたのだ。そのショックはとてつもないものだった。
そんなことは知らずに花街に戻ってきた猫猫は緑青館の主人であるやり手婆に李白を紹介する。李白の筋肉を見てやり手婆は白鈴(パイリン)を呼ぶ。白鈴は大の筋肉好きなため、ただお茶を飲むだけではすまない。きっと夜の営みまで白鈴は李白を誘導するだろう。それがわかっている猫猫はやり手婆に抗議をする。今回の支払いは後宮を出るため身元保証人となってくれた李白のために猫猫持ちなので、彼女の後宮の給料ではとても足りない。しかしやり手婆は意地悪く笑いながら、借金にしておくと答え、いざとなれば妓女になって体で払えとまで言ってくる。猫猫は断るが、それならもっと上客を持ってこいとやり手婆に言われ猫猫の客探しが始まった。
それはそれとして、猫猫は花街の一つ抜けた先へ行く。
「ただいま、おやじ」
と言って猫猫が一つの家に入ると、丸みの帯びた老いた男が猫猫を迎えいれる。
「おう、おかえり。遅かったね」
その人物は漢 羅門(カン・ルォメン)といい猫猫の養父だ。医術と薬師としての腕は確かだがとにかく運が悪い。
今まであったことを羅門に話すと猫猫は先に寝てしまう。
「後宮とは因果だねぇ」
羅門は言った。

次の日。猫猫が目を覚ますと既に羅門は起きていて畑へ行っていた。
そこへ羅門の家の扉を壊さんばかりの強さで戸を叩く禿の姿が。猫猫はその禿に強引に妓楼へ連れられる。
入った時に感じた匂いに慌てて猫猫がとある部屋へ行くとそこには倒れている男女がいた。心中事件と判断出来る。
すぐに応急処置をすると、先程の禿に炭の用意と羅門を呼ぶように頼んだ。
思っていたよりも遅く羅門がやってきて、部屋の様子と一命を取り留めた男女の診察した後、猫猫に尋ねる。
「これはなんの毒だと思った?」
猫猫は自分を試すような質問をする羅門に「煙草の毒」と自分の考えを言った。確かに部屋の中には煙草の草が大量にばら撒かれていた。
「水は飲ませなかったようだね?」
確認するように聞く羅門に、頷き答える猫猫。
「飲んだら逆効果だろ?」
「そうだね。でももしこれが最初から水に溶かしたものなら薄めた方がいいのかもしれない」
その羅門の答えに猫猫はハッと察するともう一度吐瀉物を見る。煙草の葉が混ざっていない。つまり煙草の葉を飲んでいないことになる。
自身の見逃しに反省をしながら、水溶性の毒は薄めるために水を飲ませた方がいい、ということを猫猫は覚えた。
禿がやってきてこの妓楼の主人が羅門と猫猫が豪華な食事で労ってくれる。そこにでていた麦稈(むぎわら)の使い方がわからずに主人を見る、それを飲み物に入れて吸い出している(所謂ストロー)。口紅がつかないような工夫に感心した。
「おやじ、容態見てくる」
と言って猫猫は席を外す。容態が悪かったのは男の方だったため猫猫は先に男を休ませている部屋へ入る。するとそこには禿が男に跨って刃物で男を殺そうとしていた。
慌てて刃物を奪う猫猫。その騒ぎを聞いて別の妓女がやってくる。猫猫は奪った刃物を持ち、禿が泣き叫ぶ姿とを見て「何やってるの」と驚く妓女に、猫猫は面倒なことになったと困った顔をした。
猫猫が事情を話すと、やってきた妓女は禿を庇うように抱きながら禿の生い立ちを話す。
今回心中事件を起こした身なりの良い男は禿の姉がいる妓楼にも通っており禿の姉にも身請けの話をしていた。しかし男は突然身請け話を白紙に戻し、禿の姉は絶望して自殺してしまう。
豪商の息子である男は他にも大勢の妓女を口説いては捨てを繰り返しており相当な恨みを買っていた。それは本人もわかっていたようで最近では護衛をつけて妓楼へ通うほどの警戒だ。
そんな男が禿の懐いていた心中事件を起こした妓女にも身請け話をし、そして心中事件が起きた。尚更男を許せなかったのだろう、と妓女は猫猫に同情を誘うように語る。
妓楼から帰ってきた猫猫と羅門だったが、猫猫は納得がいかない。
しかし羅門が釘を刺すように言った。
「憶測でものを言っちゃいけないよ」
羅門のその言葉で彼が既に真相にたどり着いていることを悟る猫猫。
猫猫はもう一度現場にあったものを思い出す。
倒れた男女。ガラスの器。散らばった煙草の葉。そして「もしこれが最初から水に溶かしたもの」という羅門の言葉。
ハッと猫猫は気づいた。
器が一つ。近くに落ちていた麦稈と種類の違う2色の酒。
そんな猫猫の頭に手を当て撫でながら羅門は穏やかに言う。
「もう終わったことだよ」
「わかってる」
そう答えた猫猫も真相に行き着いていた。
今回の騒動は心中ではなく殺人。犯人は男と一緒に倒れていた心中相手の妓女。犯行に使われたのは煙草を漬けた酒。
何度も事件を起こし用心深くなっていた男に毒を飲ますため、妓女は色や重さ濃さの違う2種類の酒を使用する。それを透明の器に入れ2種類の酒を2層に分離させ、見た目の綺麗さを話の種に見せる。そして毒の入っていない下の層の酒を毒見のため妓女は麦稈で飲んでみせた。男は安心してその酒を上の毒が入っている層から飲む。男が倒れたことを確認すると妓女は毒酒の匂いを誤魔化すため煙草の葉をばら撒いた。心中だと思わせるための工作だ。全て済んだら妓女は上澄みの酒を死なない程度に飲む。
猫猫は事件のあった妓楼の近くまで来た。そこには意識の戻った妓女の姿が見える。
儚げでいてとてもしたたかな彼女の姿に、また羅門の言葉を思い出す。
憶測でものを言ってはいけない。

こうして3日間の里帰りが終わり、李白はすっかり白鈴に骨抜きにされていた。
翡翠宮で帰るとすごく怒っている壬氏から呼び出される。猫猫は彼がそんなに怒っている理由がわからない。
李白のことを聞かれ、義理でもらった簪を使い彼に身元保証人になってもらったことをネチネチと怒られる。
意味がわからない猫猫は「壬氏さまに頼んでも満足させられる対価を用意出来ないから」と事情を話した。
壬氏は不思議そうに「李白って奴に対価を払ったのか?」と聞き、猫猫は答える。「一夜の夢に喜んでもらった」と。
壬氏は持っていた湯呑みを思わずみしりと割った。
しかし猫猫は白鈴に接待され鼻の下を伸ばし切っていた李白を思い出し自信満々に言う。
「大変ご満足いただけたようでこちらとしても頑張ったかいがあります」
そこまで言って壬氏のお茶が溢れていることに猫猫は気付いた。慌てて拭くものをとりにいくが、そこには笑い転げる玉葉妃と思わず猫猫の頭をペシッと叩く侍女頭の紅娘(ホンニャン)とやれやれと呆れきった顔をしている高順がいた。
笑い続けている玉葉妃から猫猫と李白の関係は、身元を引き受けてもらう代わりに有名な妓女に会わせてあげるという取引で成り立っていたことを説明された壬氏はようやく安堵するのだが、それからしばらくいじけ続け高順の苦悩は増えることになる。

柘榴宮への出向

自分のために事件を起こしてしまった者、死んだ者に思いを馳せる阿多妃。

後宮の堀から柘榴宮の下女の水死体が見つかった。
彼女の自室からは遺書が見つかりそこには里樹妃暗殺を企てていたと書かれていたが、壬氏は毒物の入手経路も他に共犯者がいたのかもわからない状況に納得出来ない。
そこへ猫猫がやってきて、下女は自殺かもしれないが1人では無理だと壬氏に伝える。何故なら彼女は纏足(足が小さいことが美しいとされていたことがあり、幼少期から足に包帯を巻き小さくなるように変形させること。そのため成人してから歩行が困難になる場合もある)なため城壁を登ることが1人では出来ないからだ。
そして壬氏はニッコリと笑うと猫猫に告げる。
「柘榴宮に手伝いに行ってもらえないか?」

柘榴宮に行った猫猫を迎えたのは侍女頭の風明(フォンミン)だった。年末の大掃除の手伝いという口実でやってきた猫猫は柘榴宮の主、阿多(アードゥオ)妃と挨拶をする。中性的な凛々しさと美しさを持った彼女は女官達に人気だ。同じく女官達から人気の壬氏の魅力が男性なのにまるで天女のような美しさだとすれば、阿多妃は女性なのに凛とした男性らしい美しさを持っていた。
柘榴宮の侍女達は皆、妃を慕い行き届いた仕事をする。特に風明は下女がやるような雑用さえ率先してやっていた。
掃除を始めた猫猫の目にズラッと並んだ壺の棚がある。中を開けるとそれは全て蜂蜜だった。風明の実家が養蜂をやっていると聞いて納得した猫猫だったが、ふと思い出す。
最近翡翠宮で行われた玉葉妃と里樹妃とのお茶会で里樹妃が蜂蜜を見た時、アレルギーを起こすものを見た時と同じ反応をしていたのだ。
久々にしっかりと働いた猫猫はすっかり夜も遅くなったこともあり柘榴宮で休むことになる。風明が自身の部屋に呼び、夜は冷えるからと獣の毛皮をわざわざ渡してくれた。猫猫はチラッと部屋の中を覗くと隅に隠してあった靴を見つけた。その靴は纏足用の靴だ。だが、猫猫は表情を崩さず毛皮を受け取り休みをとる。こうして猫猫の柘榴宮の出向は終わった。
翌日、壬氏に報告をすると彼は「怪しい人物がいたんじゃないか?」と嫌な聞き方をしてくる。
根拠のないことを言いたくない猫猫は壬氏に尋ねた。「自殺した下女の靴は見つかりましたか?」と。
「見つからなかった」と言う壬氏に猫猫は風明の部屋に片方だけの纏足の片方があったことを伝える。風明は纏足ではないから纏足用の靴が片方だけあるのは不自然だ。
猫猫の報告は壬氏にとっては及第点だったらしく、猫猫は解放される。
風明について考えていた猫猫は彼女の実家が養蜂をしていたことと里樹妃の蜂蜜嫌いのことを思い出す。
猫猫は里樹妃へ直接確かめるために金剛宮へと向かい、里樹妃に「蜂蜜はお嫌いですか?」と尋ねた。
里樹妃は言い当てられ驚く。嫌いと言うよりは赤子の頃蜂蜜を口にしたため命が危なくなったことがあり、それ以来食べないようにしていると猫猫に答える。猫猫は更に里樹妃に質問を重ねた。
「風明さまと面識はありますか?」
言い淀む里樹妃から詳しい話を聞く。
里樹妃は阿多妃のことを母のように慕っていた。なので柘榴宮にはよく通っていたそうだ。そして風明に自分の体質のことを話していた、と語る。
猫猫は里樹妃から話を聞くと高順に後宮の出来事が記されている書物を手配してもらえるように頼む。
全ての情報を手に入れて猫猫は柘榴宮の風明の元を尋ねる。
風明に会うと彼女にしか見えないように持ってきた箱の中身を見せた。そこには「毒」と書かれた紙と蜂蜜が入っている。それを見た瞬間風明の顔から表情が消え、猫猫を自室に招き入れた。
荷物はすっかり片付いており、阿多妃が後宮を去ることがわかる。子を成さない妃は去らなければならない。
全ての始まりは17年前のこと。今の帝がまだ皇太子だった頃の話。
阿多妃はちょうど出産を迎えていた。そこへ先帝の妃が産気づいたと報告が入る。先に阿多妃の処置をしようとする医官だったが、皇太子妃より皇后の方が地位が上だと言われ、無理矢理皇后の出産へ向かわされた後、阿多妃の出産に戻る。子供は無事に取り出せたが長時間放置されていたため、阿多妃は子宮を失うことになり子供が作れない体になってしまった。
体調の良くない阿多妃の代わりに子供の世話をしていたのは風明だ。そして彼女は蜂蜜が滋養に良いと赤子に与えてしまう。抵抗力のない赤子には致命的な毒になるとは知らずに。
そうして阿多妃の子は亡くなった。
泣き腫らした顔をしながらも誰も責めない阿多妃に風明は自分を責める。
それから月日は流れ幼い里樹妃が後宮にやってきた。阿多妃を追い落とす立場でありながら、彼女に親の愛情を求めるように懐いてくる里樹妃。里樹妃がいなければ今後新しい上級妃がやってきても阿多妃はまだ妃の立場でいることも可能だ。
更に里樹妃は阿多妃の子と同じように小さい頃に蜂蜜を食べ死にかけた経験があり、それを阿多妃に言われたら風明が阿多妃の子供を殺してしまったことがわかってしまう。
風明は里樹妃の殺害を決意した。
園遊会で仕掛けた毒殺は失敗し犯人探しが始まる。悩んでいる風明に柘榴宮の1人の下女が自分が身代わりになると名乗り出た。下女は阿多妃に声をかけられ気遣ってもららえたことを恩に感じていた。今、風明が捕まれば阿多妃にも罪が及ぶかもしれない。下女の独断でやったことにすれば阿多妃には何も影響は出ないだろう。
そう信じて下女は全ての罪を背負い城壁から堀へと身を投じた。
後悔で泣き崩れる風明に、猫猫は一つの提案をする。
正一品である阿多妃の立場を守るためと阿多妃の子供を殺してしまったことがバレないように里樹妃を殺す。その2つある動機を1つにすること。
風明は阿多妃の正一品の座を保つためだったという動機で里樹妃の毒殺を画策したと自首をした。
これ以上主人である阿多妃が傷つくことのないように。

風明の処刑は恙無く行われた。
阿多妃が後宮から去る前夜のこと。
猫猫は下女が身を投じた城壁の上に登り月見をしている。そこへ阿多妃がやってきた。彼女の勧めで酒を酌み交わす。
阿多妃から「息子が私のもとからいなくなってから帝とは友人に戻った。妃の座に縋るべきじゃなかった。さっさと次に受け渡せばよかった」と自身の心情を吐露された。
阿多妃は自身の持っていた酒を堀へと注ぎ「寒かっただろうな。…苦しかっただろうな」と呟く。猫猫も「…ええ」と答え、阿多妃を見つめる。人の上に立つべき人だ、もったいない。と彼女を評価した。
阿多妃が去り少し経った後、猫猫も城壁を降りて自室へ戻ろうとする。しかし「そこで何をしている!」と大声で声をかけられ驚いた猫猫は城壁の壁の途中の高さから落ちた。
ちょうど声をかけた人物を下敷きにする形で。
「って壬氏さま!?なぜここに」
そう、声をかけてきたのは壬氏で今現在猫猫の下にいる。慌てて退こうとする猫猫を壬氏はギュッと抱きしめた。彼からは酒の匂いがする。
「離していただけますか?」
「寒いから…やだ」
ぐりぐりと自分の肩に頭を押しつけながら駄々をこねるように言う壬氏を面倒くさそうに放置した後、もう一度猫猫は離してもらえるように声をかけるが彼の頬に一筋の涙が流れているのを見て動けなくなった。
更に強く抱きしめられながら、猫猫は壬氏のすがりつくような声を聞く。
「もう少しだけだ。少しだけ温めてくれ」

翌日後宮を去る阿多妃の姿はとても立派なものだった。
対峙する壬氏と阿多妃の姿を見て猫猫は気付く。阿多妃が誰かに似ていると思ったら壬氏にだったのだ。
思い出すのは昨夜の阿多妃の言葉。「息子が私のもとからいなくなってから」という箇所。死んでからではなく、いなくなってからという表現。まるでまだ自分の息子は生きているような言い方だ。
ほぼ同時に生まれた皇后妃の子供と皇太子妃の子供。出産時に皇后より後回しにされた阿多妃は思う。今後も似たようなことが起こるのではないか、と。
皇后妃である自分から生まれた子供として育つより、皇后の子供として育った方が何か危険があった時優先される。
出産直後で正常な判断の出来なかった阿多妃がそう考え、自分の子供と皇后妃の子供を入れ替えたとしても仕方がない。
後日入れ替わりが発覚し、しかもそれが本物の皇后妃の子供が死んだ後ならば、出産の担当をしていた宦官の医官が片膝の骨を抜かれるという肉刑を受け追放された、というのもわかる。そんな酷い仕打ちを受けてしまった自分の養父である羅門を思い出し、猫猫は小さく自重するような笑みを浮かべた。
子供の入れ替え、それは猫猫の実にくだらない妄想である。

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