文豪とアルケミスト(文アル)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『文豪とアルケミスト』(略称:文アル)とは、「文豪」を題材にした育成シミュレーションゲームである。開発・運営は、ゲームプラットフォームのDMM GAMESである。2016年11月にブラウザ版がリリースされ、翌年の2017年6月にスマートフォン版の配信が開始された。大正ロマンとスチームパンクを基調にした現実とは異なる歴史を歩んだ日本を舞台に、物語を展開していく。侵蝕者と呼ばれる敵から文学を守る為、プレイヤーは文豪達を転生させ、彼らと共に侵蝕者達と戦っていく事となる。

里見弴(さとみ とん)

CV:石田彰
明治から昭和にかけて活躍した文豪・里見弴をモデルにしたキャラクター。純文学の作家で、代表作は『多情仏心』『善心悪心』『極楽とんぼ』などが存在する。古典落語の名人として評価されており、「小説の小さん」と称された。同じ白樺派の文豪・有島武郎は実の兄にあたる。潜書時の武器は刃。通常衣装時の属性は土となっている。精神状態は安定。
内向的な兄とは反対に、人懐っこく親しみやすい性格の青年キャラクターとなっている。文豪として活躍していた頃から知人・友人が多く、転生後も白樺派はもちろん、それ以外の派閥の文豪達とも友好的な関係を築いている様子。特に歌人であり脚本家でもある吉井勇(よしい いさむ)とは仲が良い。里見弴が実装される前から、彼がやってくる事を心待ちにしている吉井勇の姿が『文アル』作中で描かれている。
師匠である文豪・泉鏡花と、自分と同じ白樺派の文豪であり兄の友人でもある文豪・志賀直哉に対しては尊敬の念を抱いている。兄に対しても家族として深い思いを持っており、転生前に彼が縊死した事もあってか、転生後は兄の事を強く気にかけている様子だ。
「芸術」と名のつく事は、文学以外のものであっても興味を持つ。モデルである文豪・里見弴がマンドリンを演奏できた事もあり、『文アル』の里見弴もマンドリンを得意としている。

プロレタリア

大正前期頃に流行した文学の総称。労働者達が直面している過酷な現実を描いた作風が特徴である。社会主義思想や社会運動・労働運動者として活動していた無産者(社会的身分が低く、財産を持っていない者達のこと)による文学となっている。また、無産者ではない知識階層(高い知識を持つ階層のこと)のなかからも、労働者の状態について記そうとした文学者も存在した。

小林多喜二(こばやし たきじ)

CV:小西克幸
明治から昭和にかけて活躍した文豪・小林多喜二をモデルにしたキャラクター。純文学の作家で、代表作は『蟹工船』『党生活者』『不在地主』などが存在する。プロレタリアの代表的な文豪として有名だ。潜書時の武器は刃。通常衣装時の属性は風となっている。精神状態は不安定。
権力が嫌いでひねくれた言動が多い青年キャラクター。しかし、元来は明るい気性らしく、その事が『文アル』作中の言葉の端々から感じられる。実際、心を許した相手には優しく振る舞う様子も作中にて描かれている。同じプロレタリアに属する文豪・徳永直(とくなが すなお)や中野重治が、その代表格だ。また、師である文豪・志賀直哉に対しても尊敬心から、他の文豪達を相手にする時よりも態度がやわらかい。師と同じ白樺派の者達とも、転生後は仲良くしている模様。それ以外に、詩人の石川啄木とも何かと気が合う事から、向こうから共感意識を持たれている。転生前の小林多喜二と石川啄木は面識こそなかったが、小林多喜二の方は石川啄木の詩を好み読んでいたという。
なお、明るい気性でありながらもひねくれ者になってしまったのは、モデルである文豪・小林多喜二自身の人生が大きく関わっている。プロレタリア文学の者として日本社会の闇を描く作品を輩出し続けた結果、反逆者として追われる身となった。最期は逮捕され、拷問の末に亡くなったといわれている。権力者が嫌いな理由も、この小林多喜二の人生が大きく反映された設定だといえる。権力の塊である政府のもと働く特務司書達には複雑な顔を見せる事があるが、文学を護るという事には彼も賛成している為、潜書自体には協力的な姿勢だ。
公式いわく、実は「大食漢」。自分でもその事を自覚しており、「いっぱい食べる」と作中で宣言している。文豪・織田作之助いわく「胃袋の中に宇宙が繋がってる」と思えるレベルの食べっぷりだそう。

徳永直(とくなが すなお)

CV:山下大輝
明治から昭和にかけて活躍した文豪・徳永直をモデルにしたキャラクター。純文学の作家で、代表作は『太陽のない街』『妻よねむれ』『はたらく一家』などが存在する。潜書時の武器は刃。通常衣装時の属性は火となっている。精神状態は安定。
公式いわく「不屈不撓の元気っ子」な少年キャラクター。出身地が熊本県であるため、熊本弁で話している。しかし、その陽気さからは考えられないほどの苦労人で、転生前は幼い頃から働きながら独学で勉強していたという。このような人生を歩んだからか、どんな事があっても落ち込まない。我慢も強い。しかし、自分の頑張り自体を認められると嬉しい事も事実なようで、褒められると外見相応の素直さで喜ぶ。文豪で活躍していた頃に、己の作品を認めてくれた文豪・川端康成に対してはその素直さがよく出ている。
プロレタリア派の仲間である文豪達は彼にとって盟友であり、支えるべき仲間である。精神状態が不安定なところがあるプロレタリア派の文豪達を、不屈不撓の精神で励まし続けている。また、他派閥の文豪達とも積極的に関わっている様子だ。
プロレタリア派の人間ではあるが、権力の塊である政府直属の職員である特務司書達に対しても嫌な顔を見せる事はない。むしろ、積極的に司書の仕事や図書館内の掃除などを手伝っている様子だ。

中野重治(なかの しげはる)

CV:赤羽根健治
昭和時代に活躍した文豪・中野重治をモデルにしたキャラクター。純文学の作家で、代表作は『歌のわかれ』『梨の花』『むらぎも』などが存在する。また、小説以外にも詩・評論文を書いていた。潜書時の武器は刃。通常衣装時の属性は土となっている。精神状態は不安定。なお、『文アル』ではゲーム開始直後に選べる初期文豪の内の1人となっている。
冷静沈着な青年キャラクター。論戦が得意だという。公式の紹介いわく「遠回しな批判をする傾向」にある模様だ。しかし反面、大雑把で小さい事に拘らない性格でもある。また、文豪として活躍していた時にプロレタリアの文豪者として警察に捕まり拷問を受けた事があり、その事がトラウマとなっている。モデルとなった中野重治は、この拷問を機にプロレタリアとしての思想を放棄しており、それにより出獄できた。『文アル』における中野重治は、自分の信念を曲げる事となったこの出来事を悔やんでおり、プロレタリア派の他の文豪達に対しては罪悪感を持っている。しかし、普段はよき友人・盟友として付き合っており、仲そのものは良好な様子だ。ほかの派閥の文豪とは、文豪として活躍していた頃からの友人である文豪・堀辰雄や志賀直哉との付き合いがある模様。
モデルとなった文豪・中野重治が、癖のある字を書いていた事で、『文アル』中の彼も「文豪一、字が汚い」という設定がされている。本人も気にしているらしく、「上手に書けるようになりたい」と作中でこぼしている。

新感覚派(しんかんかくは)

大正末期から昭和初期にかけて存在した文学の派閥。大正13年に創刊された文芸雑誌・文芸時代によって誕生した、新進作家の事を指す。第一次世界大戦の後にヨーロッパで生まれた前衛芸術の影響を受けた者達の集まりとなっており、感覚かつ主観的な心理の追求を唱えていた。それまでの国内にあったどの文学の派閥とも違う考えだった事もあり、当時の文学に大きな影響を与えたという。

川端康成(かわばた やすなり)

CV:関智一
大正から昭和にかけて活躍した文豪・川端康成をモデルにしたキャラクター。純文学の作家で、代表作は『雪国』『伊豆の踊り子』『抒情歌』などが存在する。作風の広さや常に新しい表現技法を試み続けた姿勢から、「奇術師」という異名を持つ。また、小説家としてだけではなく、文芸評論家としても活躍していた。文学賞の1つ、芥川賞の選考委員であった時期もある。潜書時の武器は刃。通常衣装時の属性は水となっている。精神状態はやや不安定。
寡黙な上に凝視癖があるせいで、他人を怖がらせがちな青年キャラクターとなっている。凝視癖はモデルである文豪・川端康成にもあった癖で、文豪・梶井基次郎(かじい もとじろう)と一緒に泥棒とはちあった際は、じっと泥棒を見つめ、その眼光のみで退けたというエピソードすらある。また、浮世離れした側面がある為、彼と意思疎通を測るのは至難の業。同じ新感覚派の文豪で盟友である横光利一、そして師の菊池寛だけが、彼の真意を理解できる。人と争う事が苦手なので口で言い争うような事はないが、代わりに目で不平不満を訴える事がある。
芸術品に目がなく、気に入ったものがあるとすぐに購入してしまう。おかげで、図書館内で一・ニを争う借金王として有名。しかも、本人はお金を返す発想がないようで、同じく借金王として有名な詩人の石川啄木には返す意思がある事を考えると、川端康成の方がタチが悪いといえる。
徳田秋声の大ファンで、転生後も度々ファンレターを送っている模様。ただ、決して面と向かって本人に言う事はできないようで、対面すると凝視癖が出てしまい、徳田秋声を戸惑わせている。

横光利一(よこみつ りいち)

CV:羽多野渉
大正から昭和にかけて活躍した文豪・横光利一をモデルにしたキャラクター。純文学の作家で、代表作は『蝿』『機械』『旅愁』などが存在する。当時圧倒的な人気を誇っており、「文学の神様」と呼ばれていた。また、小説家としてだけではなく、俳人や評論家としても活躍していた。潜書時の武器は刃。通常衣装時の属性は火となっている。精神状態は普通。
真面目でストイックな青年キャラクター。新感覚派の一員にふさわしく、常に新しい感覚の文学を追求し続けている。また、文学に繋げる為に、自ら進んで様々な事を経験していく行動力も持つ。自身が感動するような何かと出会う度、「新感覚」とこぼしている。そのような口癖もあわさってか、彼の事をよく知らない文豪達からは変わり者と思われてしまっている様子だ。無機物を人として扱うような表現をする癖もあるので、そちらも変わり者と思われる理由の1つと推測される。
師である文豪・菊池寛と自身と同じく新感覚派で盟友の文豪・川端康成とは、転生後も良好的な関係を築いている模様。特に川端康成とは固い絆で結ばれており、彼が実装された際のイベントでは、潜書先の本の中で彷徨っていた彼の居場所を「絆」という名の勘のみで見つけ出した。また、寡黙で、思った事をあまり口にしない川端康成の意思を、その目を見るだけで汲み取る事が可能だ。
そのほかの文豪との交流もそれなりにあるようで、川端康成の知り合いである文豪・梶井基次郎とは顔見知りの仲。詩人・草野心平に対しては、彼の人柄や才能に感心しており、彼から詩を習いたいとすら思っている。

新興芸術派(しんこうげいじゅつは)

昭和5年に誕生した派閥。新興芸術倶楽部(しんこうげいじゅつくらぶ)という文学者集団をきっかけに生まれた。労働者の現実を書いていたプロレタリア文学に反対していた、反プロレタリア文学作家達の集まりとなっている。
美を重要視した芸術を大事にした作風が特徴で、政治色よりも芸術性の高い作品が多い。一時は大きな盛り上がりを見せたが、文芸理論としては深みがなかった事から2年ほどで収束した。

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