ダンジョン飯(漫画・アニメ)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『ダンジョン飯』とは、年10刊漫画誌「ハルタ」(KADOKAWA)にて2014年2月から2023年9月に連載されていた、九井諒子原作の長編連載作品である。古典的ファンタジーな世界観をもつ作中のダンジョンに登場する魔物を、現実にある方法で料理し食す、グルメ&アドベンチャー漫画となっている。作中で作られた料理にはレシピが記載され、これにより作者の持ち味である、架空と現実が融合した世界観が存分に発揮されている。

『ダンジョン飯』の名言・名セリフ/名シーン・名場面

マルシル・ドナトー「ヤダーッ」

少しでも早く深層到達を目指すため、ダンジョン内の魔物を食料として調達することをライオスに提案されたマルシルの叫びである。
この作品は魔物を捕食することを主題としたグルメ漫画であるが、作中の世界観では魔物食は非常にマイナーであり、「ゲテモノ食」とも言える立ち位置にあった。その理由の根底には、冒険者らを殺害あるいは捕食した可能性のある魔物が中心であったこと、魔物を食べることで魔物になるなどの穢れ信仰が後を絶たないことが挙げられる。その為、ライオスやセンシを除くほとんどのキャラクターは、どのような立場であっても一様に強い嫌悪感を示す。
マルシルも例外ではなく、早速「歩き茸」を食べようとするライオスに対し、マルシルは鬼気迫る顔で「ヤダーッ」と叫び激しく拒絶した。
結局は、このあと合流したセンシによって美味しそうに調理されたこと、ライオスやチルチャックが美味しそうに食べていたこと、強い空腹に耐えかねたことでマルシルも渋々ながら食した。
これ以降マルシルは、なんだかんだと嫌がりながらも魔物を口にし、徐々に抵抗感が薄れていく。この作中での彼女の変化も通して、このセリフは読者にとっても印象深いセリフである。
また、彼女自身が優秀な魔法使いでありながらもどこか抜けている情緒豊かなキャラクターであることもあり、作中で多くの顔芸が披露されている。そのうちの1つとしてもこのシーン・セリフは知名度が高い。さらに、このシーンでは魔物食を嫌がりながらまるでブレイクダンスのような動きも披露しており、ファンには「ヤダヤダブレイクダンス」と呼ばれている。

チルチャック・ティムズ「俺はお前たちを失いたくない!」

狂乱の魔術師によってファリンを連れ去られたライオス達に、1度地上に戻って体制を立て直すよう説得するチルチャックの言葉。
レッドドラゴンを討伐しファリンを古代魔術で蘇生させた一行であったが、ファリンは狂乱の魔術師によって連れ去られてしまう。
ライオスは蘇生したばかりの妹を奪われたことで焦燥感に駆られ、さらに迷宮の深みへと潜りファリンを探しに行くと強硬な態度を取る。これに対して、チルチャックはこのままでは誰かが死んでしまうと判断し、「俺はお前たちを失いたくない!」という言葉で涙ながらに訴えかけた。
普段は口が悪く皮肉屋であるチルチャックが、仲間たちのことを本当に大切に思っているとわかるセリフである。

ライオス・トーデン「食事は暇なときにすることじゃない 睡眠をとって食事をしたら生き物ってのはようやくやりたいことができるようになるんだ」

ファリンを救出するため寝食を疎かにして深層へと到達したシュローに対して、ライオスがかけた言葉。
シュローは求婚までするほどファリンを深く愛していた。そんなファリンを失ったとわかったシュローは一刻も早くファリンを助けたい一心で、食事も睡眠も最低限の状態で地下5階層に挑んだのである。
当然ながら身体は限界を迎えており、ライオスと合流するやシュローは目眩で倒れ込んでしまった。シュローがそんな無茶をしてきたと知ったライオスは、「食事は暇なときにすることじゃない 睡眠をとって食事をしたら生き物ってのはようやくやりたいことができるようになるんだ」と言って、シュローを諭した。
これによりシュローは考えを改め、食事を摂ることになった。
ライオスはファリンを失ったときも、空腹により連携の精細を欠いていたことが原因であると正確に振り返っており、この地下5階層にたどり着くまでにも食事をとることによって状況を改善させてきた。こういった経験を経て、このようなセリフが出てきたのだとわかる。
現実生活においても、1つの事柄に囚われ、寝食を疎かにしてしまうことはよくあることである。しかし、そういった無茶をすることで状況が必ずしも良い方向に行く訳でないこともまた、事実である。これは、そういった経験を持つ読者にとっても大きく胸を打つセリフとなった。

ライオス・トーデン「1日3食しっかり食べて睡眠をとってる俺たちのほうがずっと本気だった!!」

ファリンが古代魔術によって蘇生した結果、狂乱の魔術師の支配下に陥ったと知ったシュローに問い詰められたライオスの、渾身のセリフである。
禁忌とされる古代魔法を用いたことは、作中世界の法に触れる重罪であった。それを犯し蘇生させたことは、ファリン自身が罪の証拠となるのである。ファリンを愛していたシュローは正気の沙汰じゃないと3人を責める。そのパーティのリーダーでファリンの兄であるライオスに対し、激昂したシュローはライオスに殴りかかった。
これに対したライオスは「1日3食しっかり食べて睡眠をとってる俺たちのほうがずっと本気だった!!」と大声で怒鳴りつけると、必ず狂乱の魔術師を打倒しファリンを救出すると誓う。2人はそのまま殴り合いに発展し、本件に関係のない不満までぶつけ合う。最終的には3食しっかりと食べ健康的な生活を積み重ねたライオスが勝利した。
これによりシュローは完全な敗北であったと受け入れ、食の大切さを噛み締めた。
実際に寝食を疎かにすれば悲観的な考えに取り憑かれたり、逆にそれらを適切に取ることで少し前向きに物事を捉えることができるということを、身を以て知っていたライオス達だからこそ言える言葉である。

センシ「ずっと…… ずっとこのスープをもう一度飲みたかった」

かつて迷宮で遭難したセンシの仲間たちが最後にセンシに与えた肉が、人肉ではなくヒポグリフであったと分かった時の、深い疑念やトラウマから解放されたセンシのセリフ。
作中のセンシは迷宮が島に発見される約70年前に迷宮に到達した坑夫団の一員であった。
迷宮に囚われ遭難した坑夫団は、最年少のセンシを残しグリフィンによって全滅してしまった。その全滅の直前、リーダーのギリンと工員ブリガンとの間では諍いが起こっていた。そしてグリフィン討伐でそのブリガンを失いつつも、センシに「討伐したグリフィンのもの」として肉をあたえたギリンは、そのまま「周辺捜索をする」と言って姿を消していたのである。
この経緯により「あの肉はグリフィンではなく直前に死亡したブリガンのものだったのではないか」という疑念を抱いたセンシは、迷宮から脱出したあとも、迷宮内に住み続けてからも、グリフィンの住まう階層を訪れることが出来ずにいたのである。
作中でライオスと共にグリフィンを討伐したセンシは、グリフィンの肉を食べたことで、それが思い出の肉の味ではないと知り大きく落胆した。しかし、この階層にはチェンジリングと呼ばれる「対象を近縁種に変化させる茸」が自生していた。これに気づいたライオスにより「思い出の肉はグリフィンによく似たヒポグリフではないか」と望みをかけられ、チェンジリングでグリフィンの肉をヒポグリフの肉に変化させることとなる。
このヒポグリフの肉でできたスープを口にしたセンシは、記憶のスープの肉がヒポグリフのものだったと理解し、「ずっと…… ずっとこのスープをもう一度飲みたかった」と安堵の声とともに涙をこぼした。
パーティ最年長でありいつも貫禄ある頼もしいセンシが涙を流し、70年長にわたって苛まれ続けた恐ろしい疑念とトラウマから解放されたとわかるセリフである。

マルシル・ドナトー「私がみんなの死体に囲まれているとこ 少しでも想像した…?」

狂乱の魔術師に付き従っているファリンを無力化するための料理の材料として「迷宮の兎」を捕獲しようとしたライオス一行が、回復要員のマルシルを残して全滅した際のマルシルのセリフである。
ライオスに借りた首を保護する鎧を装着し死を免れたマルシルは、遺体と捕獲した兎を移動させるため、遺体を魔術で操作し建物の中に身を隠す。安全な場所に身を置いたまる汁は、緊張から解放された安堵感と、自分1人を残して全滅したパーティを見て涙を流しながら、「私がみんなの死体に囲まれているとこ 少しでも想像した…?」と泣き言を漏らしながら、鎧を貸したライオスの遺体に縋り付いた。
マルシルはエルフとトールマンのハーフである「ハーフエルフ」であり、その寿命は長命種とされるエルフをさらに駕ぐ1000年程度とされている。そのゆえ、成長の速度は一様でなく、周囲の人間と同じ時間を刻むことが出来ず先に周囲が老いて死にゆくことを歯がゆく思っていたのである。
冒険者として日が浅い部分も否めなく、戦闘要員としては一歩劣っており、戦闘が終了せぬまま1人残された不安は尋常ではなかった。また迷宮においては死者が復活することに慣れすぎていたことを反省していたマルシルは、これらの事情からも今後いつか来るであろう「仲間の死」に対して、予期悲嘆を深めたのである。

ライオス一行「バランスのとれた食生活!! 生活リズムの見直し!! そして適切な運動!! この3点に気をつければ 自ずと強い身体は作られる!!」

人種の違いによる寿命の差を無くそうと迷宮の主となったマルシルに、ライオスやチルチャック、センシらが「寿命を延ばす方法」として強く訴えた言葉。
この言葉は、新人冒険者たちの「より強くなるにはどうしたらいいか」という問いかけに答えたセンシの信条「まず食生活の改善!! 生活リズムの見直し!! そして適切な運動!! この3点に気をつければ 自ずと強い身体は作られる!!」を基礎としている。
作中でのライオス、チルチャック、マルシルの3人は、センシの手を借り数々の魔物を食しながら迷宮内での困難に立ち向かって来た。そこに到達するまでには何度も死の危機に合っており、実際に死亡することも多かった。魔物食を繰り返したことで全滅を回避した彼らの経験に基づいており、それゆえマルシルにとっても「より永く生きる方法」として深く心に刻まれている信条である。
迷宮の悪魔・翼獅子に唆され迷宮の主となってしまったマルシルは、状況的にも精神的にも追い詰められており、さらに尽きぬことのない欲望に苛まれていた。そんなマルシルに対して、ライオスたちは食べたいものややりたいことを次々と訴えかけ、歪な迷宮に頼らずとも悲願を達成できる方法として、「バランスのとれた食生活!! 生活リズムの見直し!! そして適切な運動!! この3点に気をつければ 自ずと強い身体は作られる!!」という言葉で強く訴えたのである。
この言葉に胸打たれたマルシルは、迷宮の悪魔による歪で危険な力を手放したいと望むようになった。

翼獅子「お前たちはきっと飢えるために生きているのだな」

Kyazu0818t2
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