ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日(映画)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』とは、ベストセラー小説「パイの物語」を実写化した冒険映画。神を愛し命を信じた少年に起こった唯一無二のサバイバル・アドベンチャー。新天地を求めて航海中だった少年とその家族は嵐に見舞われ不運にも船は沈没。1人生き残った少年はトラと救命ボートに乗っていた。227日間にも及んだ漂流生活をどのように生き抜いたのか。圧巻の映像美と実話を元にした奇跡の連続に心奪われる名作。第85回アカデミー賞最多4部門受賞のほかゴールデン・グローブ賞にも輝いた。

ポンディシェリ

インド東海岸タミル・ナードゥ州隣接地域に位置し、元フランスの植民地であるパイの故郷。旧市街ではイスラム教徒のムスリム(礼拝)が日常的に見られ、フランス人居住区には教会が点在している。

『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』の名言・名セリフ/名シーン・名場面

小型ボートの上で繰り広げられる残酷な現実

パイが経験した想像を絶する悲壮体験を象徴するシーンの一つ。バナナに乗って彷徨っていたオランウータンが仲間に加わり、パイの方舟はどこに向かうのかパイ自身にもまだわからなかった。貨物船で飲まされていた鎮静剤が切れ始め、荒々しく動き出したハイエナにパイもオランウータンもシマウマも怯えていた。遭難開始から丸一日が経ち、負傷したシマウマは船尾で動けずにいた。そして動物たちは皆空腹だった。そしてそれは突然起こる。ハイエナがシマウマを襲い狭い小型ボートの上でシマウマの泣き叫ぶ声が響きわたった。パイはそれを阻止しようとオランウータンと共に叫び続けたが何も変えることはできなかった。永遠のように長く残酷な時間が過ぎ、気づけば朝を迎えていた。

美しい映像に注目。リチャード・パーカーと2人迎えた凪の朝

不自然なほどに美しい映像が、この物語がパイによって作られたフィクションなのではないかと感じさせるシーン。
リチャード・パーカーと2人になり絶望にうちひしがれるパイ。艇内の保存食さえ手に取ることもままならず迎えた朝は奇しくも神々しいほどに波のない凪だった。クラッカーの空き缶に助けを求めた手紙を込めて力一杯遠くに投げるが、無限に広がる水平線の中では、手にとれそうな程近くにぽとんと落ち、虚しく波紋を見せるだけだった。

幻想的に光揺らめく海の奥深くに家族や恋人、森羅万象を見る

美しい映像に気を取られるも、パイの失態に感情移入してしまうシーン。
リチャード・パーカーとの距離をうまく保ち、宝物となったサバイバルブックや日記、ちびた鉛筆。そして保存食をイカダに全て移動させ一息つくパイ。その夜は夜光虫が光り輝き、足元の水を掻き回すとその幻想的な光の中に大切な教訓を教えてくれた父や優しかった母、兄やアーナンディ、そして森羅万象を見た気がした。渦巻く光が次第に大きく近づいてくるような感覚を覚えたパイは、いきなり水中から現れた山のような巨大な塊に呆気にとられ、空中を見上げた。それが鯨だったと気づき全てを理解したのは不覚にも宝物や保存食のほとんどを失った後だった。
1秒にも満たないその一瞬はスロモーションのように長く、巨大な鯨の体が海面を叩きつけ、大波がイカダもろともパイを飲み込んだのだ。

嵐が過ぎ去り、力なく横たわるリチャード・パーカーとパイ

パイとリチャード・パーカーの絆が最も強く描かれたシーン。
嵐に見舞われ体力の限界に。力なく横たわるリチャード・パーカーに水を飲ませようと試みるも反応のない姿に死が近づいている事を悟ったパイは、初めてリチャード・パーカーに触れ、かろうじて目を開けた彼の頭を膝に乗せ、むせび泣いた。リチャード・パーカーは抵抗することなく、パイも薄れゆく彼の命を感じていた。

『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話

パイ=リチャード・パーカー

トラと漂流し生還したユニークな物語としても楽しめる一方で、「お前はトラの瞳に自分自身を見ただけだ。」(父親が虎に近づきたがるパイを𠮟咤したセリフ)や、「You must be thirsty.(あなたがサースティに違いない)」(山間の教会の司祭が「喉が渇いているのでしょう」とパイにかけた言葉。リチャード・パーカーの本当の名前はサースティだった)など、リチャード・パーカーはパイ自身だったという、エンディングで語られたもう一つの物語の伏線とも取れる描写が多くある。つまり2つ目に語られたのがパイが経験した「本当の物語」であり、生還を果たすためにはベジタリアンでありながらも人を殺し、その肉を食べる他ない凄まじい極限状態にあったことから、動物との物語として記憶さえも書き換えなければ正気ではいられなかったということではないだろうか。

リチャード・パーカーという名前の由来

実在した「ミニョネット号事件」について公式HPでも公表されているが、4人の男性が漂流し食糧が尽きたために誰か1人を生贄にしようと話し合い、結果衰弱した17歳の船員が他の3人に食べられてしまったという事件。この青年の名前がリチャード・パーカーだったのだ。ライフ・オブ・パイでは反対に食べる側としてリチャード・パーカーが描かれていることから、この過酷な状況を生きたリチャード・パーカー青年への追悼の意味もあったのではないだろうか。

劇中のトラの86%はCG

ストーリーだけをとってもこれまでに類を見ない、哲学的な「パイの物語」だが、物語を知った上でもなお一見の価値ある美しいCG映像は、ナルニア物語などを手がけたアメリカのリズム&ヒューズ・スタジオ(R&H)が行っており、劇中に登場するベンガルトラは86%ほどがCGだったということで、そのクオリティーの高さは一見の価値がある。

主なロケ地は台湾とインド

主に台湾とインドで撮影されたという。
海洋でのシーンが大半の本作だが、台中市の古い飛行場に超大型の撮影用タンクを設置して様々な波を再現。そこにCGで空や水の動きを合成したという。

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