ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日(映画)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』とは、ベストセラー小説「パイの物語」を実写化した冒険映画。神を愛し命を信じた少年に起こった唯一無二のサバイバル・アドベンチャー。新天地を求めて航海中だった少年とその家族は嵐に見舞われ不運にも船は沈没。1人生き残った少年はトラと救命ボートに乗っていた。227日間にも及んだ漂流生活をどのように生き抜いたのか。圧巻の映像美と実話を元にした奇跡の連続に心奪われる名作。第85回アカデミー賞最多4部門受賞のほかゴールデン・グローブ賞にも輝いた。

『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』の概要

『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』とはヤン・マーテルのベストセラー小説「パイの物語」を原作に、アン・リー監督、デヴィッド・マギー脚本のもと実写化を果たしたサバイバル・アドベンチャー。主人公パイ・パテルの青年期にはオーディションを勝ち抜き大抜擢されたスラージ・シャルマ、そしてイルファーン・カーンが成人したパイを演じ、レイフ・スポール、ジェラール・ドパルデューなどのキャストが脇をかためた。新天地を求めて航海中だった少年とその家族は嵐に見舞われ不運にも船は沈没してしまう。命からがら乗り込んだ救命ボートにはなんとベンガルトラがいた。一隻の小型ボートの上でトラと生きるパイの姿に、生きることの過酷さやその意味、自身の存在意義とは何か。日常生活では気づけない「人は1人では生きて行けない。」ということを考えさせられる類をみない展開に誰もが感動を覚え、2013年1月の日本公開から2日で21万人を動員、興行収入3億2979万円を記録。最終的には全世界で19億円を超えるヒット作となった。第85回アカデミー賞では11部門にノミネートし、監督賞、作曲賞、撮影賞、視覚効果賞の最多4部門受賞。ゴールデン・グローブ賞にも輝いた。

『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』のあらすじ・ストーリー

「神の話を聞きたい」とカナダ人小説家がパイの元を訪れる

スランプに陥り2年かけて書き上げた小説をボツにしたカナダ人小説家がインドを旅行中、とあるカフェでママジという男に声をかけられた。小説家が落ち込んでいることを知ったその男は「カナダに住むインド人の話を聞け。聞けば神を信じる。」と言ってくる。何か縁を感じ半信半疑でそのインド人であるパイの元を訪れた小説家に、パイは自身の生い立ちから丁寧に話し始めた。食事はヒンドゥー教にならいベジタリアン、食前にはクリスチャンとして祈りを捧げるパイの姿を不思議に思いながら話を聞き始めたのだった。

ピシンがパイになった日

パイは子供の頃、父親の親友であるママジに泳ぎを教えてもらっていた。「ピシン・モリトール・パテル」というパイの本名も、ママジが世界一美しいパリのプール「モリトール・ピシン」に因んで名付けてくれたものだった。しかし「ピシン」とはフランス語の「おしっこ」という言葉と同じ発音だったために、幼少期は揶揄われることが多かった。小学2年生になった最初の日、パイは全ての授業で「僕はパイ。円周率と同じパイだ。」と自己紹介し、得意だった数学の授業では暗記していた円周率を延々と披露し、学校中の有名人となった。この日から「Pi(パイ)」というニックネームが定着し「おしっこ」と揶揄われることは無くなった。

心のまま様々な神に祈りを捧げるパイ

ヒンドゥー教徒だった母の影響を大きく受けながらも、イスラム教徒のムスリム(礼拝)が日常的に見られる旧市街とフランス人居住区に囲まれたポンディシェリに住んでいたことから、幼い頃のパイはヒンドゥー教徒でありながらイスラム教徒として礼拝を行う生活を送っていた。そして12歳になった時、家族で訪れたムンナルという山間でキリストに出会う。きっかけは退屈した兄のラヴィに、茶畑を下ったところに見つけた教会で聖水を飲んでこいと揶揄われたことだった。教会に入ったパイは入り口付近にあった聖水を口にふくみ、教会内部の宗教画を眺めていた。すると「You must be thirsty.(喉が乾いているのでしょう。)」と教会の司祭がコップ一杯の水を持って現れ、宗教画に描かれたイエスについてキリストの教えを受けるのだった。パイはその夜、ヒンドゥー教の最高神であるビシュヌ神に「キリストに会わせてくれてありがとう。」と言いながら眠りにつき、その後父に洗礼を受けたいと話すのだった。

リチャード・パーカーとの出会い。トラの瞳に魂を見るも残酷な教訓を学ぶことに

父親の経営する動物園で、ある日2つ上の兄とともに飼育員不在の隙を見てトラの檻を訪れる。ヒンドゥー教、イスラム教、キリスト教と、様々な神を信仰していたパイはトラにも魂があり通じ合えると考えていたのだ。毎日のように餌やりの様子を見ていたパイは、肉の塊を素手に持ち、檻の隙間から「リチャード・パーカー」とトラの名前を呼んだ。姿を現しゆっくりと近づいてくる一頭のトラに怖気付いた兄ラヴィが逃げ出すと、パイはトラと2人きりになった。凜とした堂々たるその姿に神をも感じトラの瞳を見つめ続けるパイだったが、ラヴィに呼ばれた父親が駆けつけ沈黙を破り、同時にトラは逃げ去ってしまった。父は激怒し動物の恐ろしさを教育するため、母ジータの反対を押し切ってパイとラヴィの目の前でトラに仔山羊を捕食させ、「お前はトラの瞳に映る自分の姿を見ただけだ。」と二度と同じことの起きぬよう叱咤するのだった。

カナダへの移住が決まり動物達と共に貨物船へ

財政難を理由に市から動物園への援助が打ち切られることになり、16歳になったパイとその家族はインドを離れカナダへの移住を決断する。恋人アーナンディとの別れに張り裂けそうな胸を押さえながら出航したパイだったが、船内でもベジタリアンに提供する食事はないなどと船のコックから差別を受ける。白米のみがのせられたお皿を前に落ち込むパイ達だったが、「肉汁ソースに肉は使われていない。ソースをかけたライスはなかなか美味いぞ。」などと空気の読めない仏教徒の青年が話しかけてきたことで、カナダに着くまでの辛抱だと割り切った。

貨物船が沈没。予想だにしなかった遭難生活の始まり

マニラを出向して4日後、マリアナ海溝の真ん中で船は嵐に見舞われ不運にも家族を道連れに沈没してしまう。パイ自身も海に投げ出され沈み行く貨物船を眺めるなど、そのまま波に拐われてもおかしくなかったが、奇跡的に救命ボートに乗り込むことができた。しかしそこには負傷し立てなくなったシマウマがいた。沈みきった貨物船の灯りを海中に見ながらしばらくの時間が過ぎた。すると帆布に覆われていたデッキの中からハイエナが現れ、バナナに乗ったオランウータンもやってきた。パイは「パイの方舟へようこそ。」とオランウータンを引き上げてやった。

救命ボートで遭難生活のはじまり。リチャード・パーカーと2人で過ごす奇跡の毎日

遭難して間も無くハイエナはシマウマ、そしてオランウータンの命を奪ってしまった。そしてそのハイエナも密かに同船していたベンガルトラのリチャード・パーカーの逆鱗に触れ絶命する。パイはリチャード・パーカーの登場、そして残酷な自然の摂理と直面し、絶望に打ちひしがれながらも自身を守る術を考える必要があった。まずは物理的に距離を取るべく、オールと救命胴衣でイカダを作り、保存食とともに船から5メートルほど距離を取った。そしてサバイバルブックに従い出来るだけ規則正しく、生きる希望を捨てずに日々を送った。

トラと共存する小型ボートでの日々

ある日パイは船酔いするリチャード・パーカーを見て調教することを思いつき、笛を片手にサーカスと同じ方法でトラの調教を試みた。まずは船首と船尾にロープを縛って波に対して船を平行にする。そして笛を吹きながら波に合わせて船を揺すり、笛の音を聞くと不快な波が連想されるよう仕向けたのだ。これがなんとうまく行きリチャード・パーカーと対等にやりとりができるようになる。彼のために飲み水を用意し、魚を取ってやった。この頃にはパイにとってリチャード・パーカーの存在は生きる意味となっていたのだ。
大海原で過ごす日々は過酷そのものだったが、全く波のない凪の日には海と空の境界線がわからなくなるほどの無限の水平線が広がり、夜行中の光に包まれる幻想的な夜もあった。

保存食も底をつき極限状態の中再び嵐に見舞われる

イカダに移動しておいた最後の保存食を鯨の衝突によって失ったパイは、いよいよ命の危機に直面し始める。魚の群れに遭遇した日にはリチャード・パーカーと本気で奪い合い、一度は大型船を見つけ必死に助けを求めるも気づかれる事はなかった。やがてリチャード・パーカーとパイは距離を取る必要も無くなり、お互いの存在が唯一の生きる希望となっていた。そんな中体力も限界に近づいたある日、再び嵐に見舞われた。貨物船が沈没したあの日と同じような大嵐に、ついに神が姿を表したのだと天を仰いだ。なんとか生き延びた2人だったが、嵐の過ぎ去った後には水も飲めぬほどに衰弱したリチャード・パーカーと、痩せ細り死を覚悟したパイがいた。そしてパイは気を失っていた。

命の危機にあるとき現れた命の島

気を失っていたパイは島に流れ着いていた。リチャード・パーカーの姿は既になく、上陸するやいなや、目に入る植物や木の根にむさぼりついた。島の内部にはミーアキャットの大群、そして美しい水を湛えた池が点在し、そこでリチャード・パーカーも食事にありついていた。日暮れが近づき、その日は島で夜を明かすことにしたパイは不思議な体験をすることになる。夜がふけ、ミーアキャット達は一斉に木に登り、リチャード・パーカーは船に戻った。木の上に寝床を作ったパイが下を見下ろすと、昼間泳いだ池の中には無数の魚の死骸。木々は不気味に輝き生命に満ちている。違和感を感じだパイはふと目に入った木の実を手に取ると中には人間の歯が。なんとそこは肉食の島だったのだ。昼間には無限に与える生命の島、そして夜になると命を奪う死の島だったのだ。

翌日、パイは自身の食料とリチャード・パーカーの為にミーアキャットを大量に船に積み込み出港した。
「神は希望を失いかけた私に島で束の間の休息を与え、旅を続けよと示してくれたのだ。」とその日を振り返りパイは語った。

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