社会派映画としての「ロッキー」の真価とは?無名のロッキーと王者アポロの対比

1976年公開の映画『ロッキー』はスポーツ映画の金字塔です。
続編も制作されており、世界中から愛される作品です。
しかし、その人気に反して社会派映画として非常に高い価値を持つことはあまり知られておりません。という事で、この映画の本質的な意味をもう一度探ります。

ロッキーは成功者ではない

『ロッキー』を単純なサクセスストーリーとして記憶されている方が多いですが、社会派映画として記憶されている方はあまりいらっしゃいません。ロッキーが作品の中で得たものは婚約者とボクシングへの情熱だけです。試合は判定までもつれ込みますが負けてしまいます。これではいささか映画におけるサクセスとしては物足りないと思えます。
そう、彼は『ロッキー』では成功しておらず、成功者となるのは『ロッキー3』、厳密には『ロッキー2』の最終シーンです。鍛えぬかれた体で格上のチャンピオンに対して必死に食らい付き、ボロボロになっても戦い続ける闘志が強い共感を得たために生まれた勘違いですが、少なくとも映画『ロッキー』において、彼は勇者であって成功者とは言えないのです。

映画『ロッキー』とは?

厳しいトレーニングで汗を流すロッキー

スポーツ映画の金字塔

1976年公開の『ロッキー』は監督ジョン・G・アヴィルドセン、脚本シルヴェスター・スタローンによって製作された映画です。B級低予算映画専門の監督と無名の脚本家による作品という事で、業界では全く期待されていない中で公開されましたが、アメリカの観衆には熱烈に支持をされました。世界中で公開され110万ドルの制作費に対して1億1700万ドルの興行収入という当時としては突拍子もない金額を稼ぎ出した映画です。作品の評価はといえば、アカデミー賞作品賞とゴールデングローブ賞ドラマ作品賞を受賞しております。まさに名作中の名作といえるでしょう。映画史においては80年代から90年代にかけてのドル箱スター、スタローンの出世作であり、『エイドリアーン』の名シーンや、ビル・コンティの名スコア「Gonna fly Now」は今でも様々なメディアで使用されており、皆さんよくご存じのテーマです。またアヴィルドセン監督も後に『ベスト・キッド』で再注目を浴びるなどしました。日本人にもなじみ深い名作といえるでしょう。

映画『ロッキー』のあらすじ・ストーリー

ロッキーはジムのトレーナーからも見放された三流ボクサーです。彼の唯一の楽しみは、ペットショップの店員エイドリアンと話すこと。ですが、ロッキーには言語障害があり、うまく話すことすら出来ません。毎日をただ過ごすだけの非生産的な日常を送っています。一方でヘビー級チャンピオンのアポロは自身の連勝記録を不動のものとする打算もあって、予定の対戦相手がアクシデントでキャンセルをしたことをきっかけに、アメリカンドリームを無名選手に与える事を口実にして、下位のボクサーとタイトルマッチをする企画を思い立ちます。対戦相手の白羽の矢が立ったのはロッキー。選ばれた理由はロッキーのイタリアの種馬というキャッチ・フレーズが間抜けで面白いからというどうでも良いような理由でした。思いもかけずに飛び込んだ大チャンスなのですが、ロッキーは最初は恐れて辞退しようとします。しかし、周囲の説得もあり、トレーニングに励み挑戦することを決意します。二人の戦いは衆目の予想に反して白熱して盛り上がります。さすがに一進一退とはいかず、終始劣勢のロッキーですが王者アポロの猛攻を耐え抜き、最終ラウンドで反撃に打って出ます。ロッキーの奮戦は王者アポロをあと少しで倒せるところまで追い詰めますが、惜しくもゴングが鳴り、判定でロッキーは敗北します。しかしロッキーの姿はこれまでと違って自身に満ち溢れた勝者のものでした。

社会派映画として観る映画『ロッキー』

映画『ロッキー』は題名の通りに、ロッキー・バルボアその人自身の物語です。しかしロッキーはそれ以上に一人の社会的弱者が自らの可能性に挑む物語だったのではないかと思います。それにはこの映画の登場人物、メインとなる二人のボクサーに対する考察を深める必要があります。主人公ロッキー・バルボアは素質こそ認められているものの、練習が嫌いな無名の三流ボクサーであり、闇金融の取立人として使われることでようやく生計を立てているという絵にかいたようなホワイトトラッシュ(白人のクズ)です。学歴もなくまともな職を望めないような境遇にくすぶっています。対する王者アポロは国民的大スターです。慢心や打算も見えますがパワー・スピード・テクニック三拍子そろった本物の実力者です。しかし、彼ももともとはスラム街の薄暗いジムで必死の練習を積み、その地位を確立した成り上がりものです。

図式としては成り上がりの黒人と、おそらく日の目をみないであろう貧乏白人の対決ということで、社会的な弱者が自らの生存をかけた争いだったといえます。ロッキーではアポロがかろうじて勝利しますが、続編では、ロッキーのファイトに胸を打たれた国民はアポロの勝利は八百長ではないかと声をあげ、窮したアポロには避けられない戦いとして、ロッキーに再戦をせまるのが続編の『ロッキー2』となります。ロッキーは体に衰えを感じてボクシングを引退していますが、なかなか職につけず自身の車を売ってしまう程に困窮しています。この戦いはアポロもロッキーと同じく本当に後がない状況にいることがうかがえます。

背景として~当時のアメリカ~

1970年代のアメリカでは黒人の公民権運動がようやく成果を見せ始め、黒人の社会進出が活発になってきていました。劇中の王者アポロは名声を絶対のものとする為に躍起となっていますが、そうした行動もいまだ不安定な黒人の権利の代表だったとも言えます。
一方のロッキーはフィラデルフィア出身。70年代当時のフィラデルフィアは不況による劇的な治安低下で非常に荒廃していました。白人社会の落伍者の吹き溜まりそのもので、ロッキーもその一人です。こうした両雄が偶然にも出会い栄光を争う、また決戦の地フィラデルフィアは独立宣言が出された場所。ロッキーは白人社会が威厳を取り戻すための旗印だったとも見られます。

結びに~映画『ロッキー』の真価を考えよう~

初戦ではロッキーの目標は勝利ではありませんでした。劇中で彼は「最後まで立っていられれば俺が屑ではないことが証明できる」と言っています。つまり勝ち目の薄い相手に対して決死の覚悟で挑むことこそがロッキーの目的でした。ロッキーはその目的を果たし、一度は自信を取り戻し、地元のヒーローともなりましたが、それだけでは成功者にはなれませんでした。むしろ負け犬の世界から全く脱却できませんでした。成功者になれるのは勇者ではなく王者のみなのです。
対するアポロも疑惑の王者ということで権威を失っており窮地に立たされているのですから、王者であることの証明こそがアメリカンドリームを掴む唯一の方法だったといえるでしょう。『ロッキー』の映画としての価値はまさにここにこそあるといえます。二人の不遇な境遇を持つボクサーが生存をかけてまで争わなければいけなくなる、過剰な競争社会を代弁したこと、誰しもに可能性を与えることの素晴らしさを社会に訴えかけたこと、そして片側では大衆に対して自らも境遇と戦う勇気を与えたこと。自由とは何かを考えるのに十分な映画であり、その意図が知らず知らずに観衆にも伝わったことがこの映画が大衆を沸かせた秘密だったのではないでしょうか。

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