サバイバル(さいとう・たかを)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『サバイバル』とは、原作・原案さいとう・たかを、作画さいとう・プロダクションによるサバイバル・ファンタジー漫画(劇画)作品である。
1976年から1978年にかけて『週刊少年サンデー(小学館)』にて連載されていた。
ある日、突如として世界中に発生した巨大地震を生き残った日本人少年・鈴木サトルが、文明の壊滅した世界で己が生存をかけて抗う姿を描く。
大自然に放り出された人間が、人類原初の生活に戻り、そこから創意工夫と勇気をもって少しずつ元の文明を取り戻そうとしていく様が読者を大いに惹きつける。

「なにが可哀想なものか!! あんただって平気で牛や豚の肉を食べてきたんだろ!?」

サトルが獲ったカモシカを、アキコと共に前にして。
アキコが「かわいそう」と言った直後、サトルは食料のない中、これだけの肉を獲ればどれほど生き延びられる可能性が高まるか解らないのか、とばかりに怒りを見せた。
処理された後のものしか目にしない文明人のひ弱さが強調されるシーンでもある(この時、すでにサトルは野生児化している)。

「これじゃ、コンクリートジャングルどころか……ほんもののジャングルになっちゃったぞ……」

壊滅した東京の瓦礫の中で襲ってきたトラを、なんとか退散させた後のサトルの独白。
動物園から逃げ出した猛獣が、そこらをうろついているということに気がつき恐怖した。この世界では、もはや自分以外の存在には最大限の注意を払わねば、いともたやすく命を落としてしまうのだ。

現実の世界でも、放射能汚染などによって立ち入りが禁止された区域では、野犬などが発生してしまっている。ただし、家畜化されていた動物たちは、その多くが野生化できずに命を落としており、文明化されることで生命力が低下するのは人間に限った話ではない、という厳然たる事実が存在している。

「く…………食えねえかな、これ…………」

餓死の予兆すら見えてきた時、サトルが偶然発見したミミズの大群を前にしての独白。
日本人から見れば相当の覚悟をもって臨まねばならない「食料」だが、実際食料として見た場合のミミズはタンパク質やビタミンに富んでおり、捕まえやすさも手伝い、優秀な非常食である。

また、米国カリフォルニア州でミミズ料理のコンテンストが行われることがあるなど、現実においてもミミズを食べる文化は存在する。
さらに追求すれば、乾燥させた特定の種類のミミズは「地龍(じりゅう)」という解熱の効果をもった生薬・漢方薬の材料にもなる。

「がんばるんだ! がんばって生き抜くんだ! 希望を持って!! …………」

目をやられて失明寸前の状態になったサトルが、かつて、同じく視力を失った老人にかけた自身の言葉を反芻して。
ろくな食料も衣服もなく、住処も視力も失った状態で己を鼓舞するシーンだが、同じコマの解説では、身体機能の欠如がどれほど不自由をもたらすものかをサトルは思い知った、という趣旨の言葉が綴られている。

苦しみは、同じ苦しみを共有する者でなければ決して理解できない(たとえ多くの苦しみを経験した者でも、未経験の苦しみへの理解は浅くなる)という事実をありありと描いているシーンでもある。

『サバイバル』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話

さいとう・たかをの少年漫画(劇画)

さいとう・たかをは『ゴルゴ13』の原作者・原案者として名が知られており、大人向けの作家としての認識が強いが『サバイバル』は『少年サンデー』に連載された純然たる少年漫画(劇画)であり、同氏が年齢対象を問わず、質の高い作品を生み出せる作家であることを証明した作品である。

劇画の技術が漫画へ伝わった時期の主要作品

劇画とは、その名の通り画の世界に劇の動きを、すなわち静止画でありながら流れる映像を見ているかのごとく感じる描写を紙面にて実現した漫画のことを指し、さいとう・たかを調の絵を指すわけではない。劇画が登場するまで、漫画の描写は「対象を正面から描いた一枚絵」のコマが連続するものに過ぎず、紙芝居に近かっためこのように区別された。
漫画の表現を格段に進歩させる技術であったため、あっという間にその手法は拡散し、既存の漫画家も続々と劇画の技術を採用していった。

その点を踏まえて『サバイバル』連載当時はちょうど少年漫画の世界にも劇画の技術が流入し、漫画の描き方に革命が起きつつあった頃とバッティングする。『サバイバル』は、後に強力な輸出品に成長する日本の漫画の礎になった作品のひとつでもあるのだ(言い換えれば、現代の漫画家はほぼ全員が劇画作家になったわけである)。

ザリガニ食が(なぜか)失明を治す

作中、原因不明の視力障害に見舞われたサトルが、川のほとりに居たことを幸いに目が見えなくても捕獲しやすい(と、作中では断言している)ザリガニを食べ続けた結果、ザリガニの胃石は眼病を治す効果があったのだと解説が示され、サトルの失明はあっという間に治ってしまう。

確かにザリガニの胃石は、古来より「オクリカンキリ」や「蜊蛄石」と呼ばれ眼病などを癒す薬として扱われた記録があるが、明確な作用機序が解明されているわけではなく、それのみ食べていたからとて失明が治る保証はどこにもない。
(漢方薬として見た場合も、その質の管理と、使用者と成分の相性が極めて重要になるため、やはり保証できない)

生食は論外としても、半端に加熱しただけのザリガニなどを食べれば肺吸虫などの危険な寄生虫に冒される可能性が高い。
(作中でもそのことに言及はされており、サトルは石製の簡易焼き台で調理しているが、どう見ても安全に食せるほど焼けていない。『サバイバル』執筆当時の1970年代は、田舎の子どもがザリガニを釣って食べることは日常茶飯事であり、同時にギョウ虫やサナダムシに寄生されてしまっていることも多々あったため、それほど神経質になるものではないという認識の違いがある。だが、それは寄生虫を駆除できる抗生物質が自由に手に入る背景もあってのことなので、そのような医療品のアテがないサバイバルでは命取りになる)

『サバイバル』はところどころ、現実に基づく検証を行ったシーン(ミミズの栄養価を示すなど)を描くが、決して辞典ではなく、荒唐無稽な理論を平気で持ち出してくる「漫画」であることを念頭に置かねばならない。

ムキムキになったシロ

離ればなれになった後、再会したシロは闘犬も真っ青になるほど筋骨隆々とした成犬に変じている。
確かに犬は1年もあれば成犬の姿になるが(作中では数年間が経過している)その、あまりのビフォーアフターぶりが、同作の名シーンでありつつシュールな迷シーンとしてもファン間では認知されている。

熊殺し超人サトル

作中序盤、サトルは襲ってきた熊から逃げ延び、命からがら返り討ちにして食料とするシーンがある。

遭難していた場所が本州のあったどこかであることから、該当の熊はツキノワグマ(ヒグマよりは大人しく小型)である可能性が高いが、熊の身体能力は人間のそれをはるかに超越しており、たとえばツキノワグマの場合、短距離ならば瞬発的に時速50km/h程度で動くことができる。いくら鍛えていようとも本気で狩りの態勢に入った熊から人力のみで逃げることは不可能といえる。

サトルは作中で熊から「木々の間を走って逃げ、落とし穴を探した」が、木々を抜けて猛スピードで走ることこそ熊がもっとも得意とする動作であり、間違ってもサトルのやったことを現実の参考にしようなどと考えてはならない。熊は動いて逃げる物体に刺激される。一瞬で血と肉の塊になるだろう。

現実において、熊との遭遇で命を落とすケースは数多いのだ。
仮に猟銃があったとしても、通常の散弾では分厚い毛皮と脂肪に阻まれて通じず、スラッグ弾や大口径ライフル(人間相手に使えば一撃で頭が粉々になる威力を持つ弾丸や銃)を使って急所を狙うか、集団で何発も撃ち込んで、やっと倒れるというのが熊という生物なのである。その場合においても殺し損ねた場合には熊が「手負いの獣」と化し、全力で脅威の排除にかかる可能性があり、その場合は下手をすればハンター側が殺されることになる。

2016年に秋田県で起こった十和利山熊襲撃事件においても、これを知った部外者が「熊を殺さないで」などと苦情の電話やメールを入れてくる問題が後を絶たなかったが、その原因は上述のように、熊がいかに強靱で一旦暴れ始めれば手が付けられない猛獣なのかを認識していないことによる。また、政府や自治体が熊の実態を熱心には周知せず、さらには一部の程度が低い動物愛護団体などが盲目的に人間以外の生物を保護すべきと騒ぐことを許してしまっていることにもよる。

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