猫楠 南方熊楠の生涯(水木しげる)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『猫楠 南方熊楠の生涯』とは、1991年から『ミスターマガジン』で連載された水木しげるによる伝記漫画。粘菌の研究で有名な南方熊楠の生涯を猫の視点から観察し分析している。史実に基づいた描写の他、水木しげるが得意とする妖しげな雰囲気をまとわせた世界観が魅力。熊は熊野/那智(ナチ)の地(ナ)霊(チ)の化身と作中で熊楠が猫に語るように、常人には理解難しい奇抜な行いをしながらも、その行いには深い意味とエネルギーが秘められていると感じられる内容となっている。

柳田国男 (銭湯で熊の意味を考える、熊楠剃髪し反省、猫安・ねずみ猫と出会う)

猫楠と銭湯に行くと按摩で物知りの亀という男と一緒になり、皆で河童との相撲で勝つ方法や山男を倒す方法の話をする。早く帰りたがる猫楠に熊楠は熊が那智の地(ナ)霊(チ)の化身であり、自分の常人離れした所もその影響だと話す。大学に行かずにアメリカに行かせて欲しいと熊楠が言った時、家族はその大それた案に反対したが熊楠は10日押し入れに閉じこもり家族を承知させたのであった。家に帰ると熊楠が外国人に日本の神社合祀令での騒ぎを伝えたのが恥だとして友人・白井教授から絶交状が来ていた。これに反省した熊楠は息子と一緒に剃髪し号を自分は法蚓(ミミズ)息子は法蟹(カニ)としてその意を示すのだった。これを知った柳田国男はよく理解できない行動だと思いつつもとりなしをして絶交は取り消された。猫楠が庭で亀が卵を産んでいるのを見つけて見に行く。娘・文枝が生まれている熊楠は亀に共感し、また合わせて猫道という古くからある猫の通り道も見つけたので皆で散歩する。弟子の絵描き・草堂の家にたどり着くが彼の書いた虎の絵を猫のようだと言って怒らせ鉄砲で撃たれ逃げ出す。その後別の友人の家に行くとそこにはネズミ顔の珍種のねずみ猫がおり、その飼い主の魚屋の猫安という男が古猫語が解るというので猫楠と古猫語で話す。更に猫安は和歌山県全体の猫道マップや猫集会の猫踊りも知っておりそこではその猫踊りの講習会の最中であったので熊楠も一緒に講習を受ける。喜多幅も騒ぎを聞きつけ参加して皆心地よく踊っていると猫安が“人間猫化計画”なる冊子を落としお前は化け猫かと糾弾されるも“私は猫的生活に楽園を見出している”と諭され納得する。熊楠はねずみ猫をもらえないかと猫安に頼むも人間語が解る珍種猫だからダメだと言われ悔しがる。家に帰ると遠路はるばる柳田国男が訪ねてきていたが猫踊りで疲れている熊楠は会おうとしない。旅館で待ってくれたら会いに行くというので待っていても来ないので確認すると旅館の階下で既に熊楠は酒を飲んでいた。

猫安の招待 (柳田国男と会談、猫集会に参加し魔女と出会う)

芸者と宴会をして酔って反吐を吐く熊楠とは話にならず翌朝柳田は二日酔いの熊楠と寝床で話すことになった。熊楠は柳田に日本語に外国語を混ぜるのは良くないとか外国には妖精学者もいるのに日本では妖怪を見たというと変に思われるだけで残念だと話す。近所に良い空き家があると松枝と見に行くも値段が高い。ねずみ猫が熊楠宅に尋ね来て熊楠は猫又踊りが見たいと頼み込む。家を買うお金を常楠に無心に行くも常楠の嫁が反対し常楠名義ならば買ってくれるということになる。その帰途で熱を出し、ちょっと良くなったところで行水をしたため悪化して肺炎となる。看病してくれた喜多幅は熊楠を叱るが数日後には一緒に裸踊りをして互いにまた風邪になった。ねずみ猫が猫集会への招待の知らせを持ってきたため皆で猫集会に参加する。猫の規則の歌や楽しい踊りで浮かれているとそこには西洋の魔女も参加していた。草堂が鉄砲で魔女を撃つも外し、ねずみ猫は魔女と逃走する。魔女は高野山の方向へ向かい、高野山には知人の僧侶・法竜がいるのでその法術の力も借りて魔女退治に行くと叫ぶ熊楠であった。

熊楠老年期

高野山 (熊楠ダニを恐れ一物にサックする、窒素のためパレルモグア培養、魔女を追って高野山へ)

家族で花火をする熊楠は長女・文枝が花火に触ろうとするのを“像の肌のようになる”と止めたことから自分が海外の曲馬団(サーカス)で雑役をしていた時の話をする。この頃熊楠の名が日本国内でも評判となり熊楠が書いた門札が盗まれることが多発したため息子に門札を書かせた。一物の内部にダニが侵入し痒がる熊楠は松枝と女中・お梅にフマキラーを注入させるがこれにびっくりして女中は倒れる。この件で喜多幅は熊楠を注意し一物にサックをかぶせるように勧め熊楠はそれを付けることにする。友人の毛利がドイツでの空中から窒素を取り出す技術を熊楠に話すと熊楠がそれは自分ならもっと安く開発できるというためそれを可能にするパレルモグアという藻の一種を培養する計画を立てる。魔女の一件のショックで猫安が急死し激昂した熊楠は魔女退治に出かけることにする。高野山に着いてロンドン時代に知り合った僧侶の法竜に会いに行くと法竜はねずみ猫を抱いていた。法竜は魔女はねずみ猫に使われている無力な魔女だと話し、皆で鴨鍋を食べて帰った。法竜は当時結核で後日死に、魔女とねずみ猫も消えた。この件に関し熊楠たちは魔女は式神の一種であったかもと話し、精霊のようなものの実在を確信する。

権蔵との戦い (隣家と揉めてパレルモグア培養中止、南方研究所設立の動きが始まる)

弟子たちと酒を飲みながら熊楠は海外での芸術鑑賞で男女の交合以外に感銘は受けなかったか聞かれ美への感受性の欠落を指摘される。熊楠は逆に見えないものを書くことこそ芸術だとするがそこへ猫楠がゴッホを挙げて己の狂気を抑えるため絵を描くゴッホと熊楠の粘菌研究は似ているのではないかと話す。己を抑え守るため卵の殻のような適当な厚みのある殻として“南方熊楠”を演じているのだと熊楠は言う。隣家がミカン箱の製造を始め、出入りのゴロツキが窒素用のパレルモグアの培養田に糞便をしたため熊楠は反吐を吐き返し責任者の権蔵と喧嘩になる。パレルモグアの培養地の日差しを遮るように隣家が二階の建設を始め、友人・毛利が抗議に行くも火鉢を投げつけられる。新聞上での抗議文にて反撃するが権蔵も別な新聞に記事を書き連日紛争が報じられた。現実でも二階建て建設阻止の熊楠と建設強行の権蔵との派閥で大乱闘となり毛利が県知事にとりなしを頼むがうまく行かずパレルモグア培養は中止となる。これを残念に思った農学博士・田中が常楠宅を訪れ南方研究所の創設を提言し常楠も賛成。元紀州藩主の徳川頼倫も賛同し熊楠を激励に訪れ周囲の尊敬の念が高まる。熊弥は中学に入り粘菌の絵を上手に描くようになり、南方研究所の設立の動きなど熊楠の前途に日が差すかに見えていた。

南方研究所 (研究所のため東京で資金集めをする熊楠、常楠からの仕送り滞る)

南方研究所設立のために東京へと旅立つ熊楠、猫楠は粘菌の留守番を頼まれる。徳川公やロンドン時代からの知己の農商務大臣にも惚れ薬の秘法等を伝授し多額の寄付を集めるが大規模な講演会ではあまりうまくいかず疲れる熊楠。それでも4万円集めて帰るが家では常楠からの送金が途絶えており寄付金は研究所のものなので手は付けられず熊楠の家計は窮乏する。花子猫と猫楠も心配するが熊楠は著作の版権も買い叩かれ、持病が悪化し酒が飲めないまま常楠に談判しに行くも勢いが出ずうまくいかない。松枝が代わりに再度交渉しに行くが常楠は熊楠がもう金持ちだとして生活費の送金や家の譲渡はしてくれない。兄弟は絶縁状態となった。

大いなる哀しみ (天皇陛下に粘菌献上、熊弥は粘菌の絵を破る)

子供達も大きくなり、その受験費用のため奔走する熊楠であったが、高校受験のため高知に向かった熊弥はそこで病気になり錯乱した状態で帰ってきた。発作がなければ大人しく絵を描く日もあったが、静養のための小旅行で病状はさらに悪化する。責任を感じた熊楠は遂に禁酒する。熊楠の古い友人であった孫文も死に、徳川公も死に寂しく思う弟子達。以前弟子にした小畔から天皇陛下が粘菌に興味を持っていると手紙が来るが、松枝も熊弥の看病疲れでおかしくなりかけており、熊弥の粘菌の絵を見て慰みや希望としていた熊楠も熊弥が発作で粘菌の絵を全て破いてしまいショックを受けている。熊弥は多大な費用をかけて入院させることになる。東京から小畔が訪ねてくる。

熊楠晩年期

天皇陛下 (妹尾官林で凍傷になる、天皇陛下に御進講し感激)

小畔が熊楠の選んだ粘菌を天皇に紹介した事を報告し、看病疲れの熊楠を妹尾官林への粘菌採取の旅行に誘う。山小屋で世間知らずの猫におやつをあげたりその飼い主をからかったりしながら粘菌の採取と観察をするが妹尾は寒く手が凍傷になる。帰り道中学時代の親友兄弟の仏壇に参る。家には天皇陛下の行幸の知らせが来ていた。役人は熊楠の面会を阻止しようとするが熊楠は自分でやると頑張った。子分の新五郎や草堂と天皇に見せる海蜘蛛を取りに海に行き天皇の行幸に備えた。
和歌山に天皇を乗せた艦隊が付き、熊楠一行は天皇が御臨幸する神島に待機する。天皇は迎えた熊楠にお辞儀をし、何度もお辞儀をしあった後熊楠は自分にも丁寧な天皇の姿に感激する。天皇が案内人と森に入っている間軍艦で待ち、戻られてから自分の標本を説明する熊楠に天皇は足が悪いだろうから椅子に座るよう勧めるが熊楠は始終立ったままであった。海蜘蛛も気に入ってもらえ、熊楠は海底に埋もれていた老貝が太陽を仰いだという歌を詠む。天皇陛下に頂いた菓子を持って松枝と記念写真を撮り周囲に菓子を配り大満足して、知っている限りのドドイツを歌う熊楠。友人・毛利はその頃選挙に勝つため熊楠に応援してほしいと思っていた。

転生 (友人の選挙事務長になり当選させる、友人達が次々倒れ熊楠も子供達を心配しながら絶命)

2~3日だけということで毛利の選挙事務長になった熊楠はズルズルとそのまま葉書を1018枚推薦状を300枚書くこととなるが、一物が1寸4尺にも腫れ上がったり海老のように赤くなったりする。この苦労のおかげか毛利はギリギリで当選し喜ぶ。熊弥の病状も良くなり別荘で療養できるようになった。文枝は看護学校に受かる。粘菌を見てばかりの熊楠を見て猫楠は久々に熊楠を分析し、粘菌が生死を一連のつながりを持って見せてくれる事は大日如来的な宇宙的根源である霊魂を知覚させてくれ、脳力の活性化につながるという真言密教の教えが熊楠のバックボーンではないかと推測する。粘菌は輪廻転生の秘密を具体的な形で示してくれるというのである。この頃熊楠の友人の毛利や喜多幅達も高齢で次々と倒れ熊楠も寝込む。太平洋戦争も始まり娘に自分から娘へと書付した今昔物語を渡し死後の頼みとするように言う熊楠。最後天井一面の紫の花を見ながら熊弥を心配する言葉を残し絶命する。最後を看取った花子猫と猫楠も家を離れ、喜多幅や毛利と並んである熊楠の墓へ参る。猫楠は熊楠が転生を考えていたのではないかと話し、自分を“幸福観察猫”であるとして草むらへと消えていく。

『猫楠 南方熊楠の生涯』の登場人物・キャラクター

主人公

南方熊楠

山中を放浪したりしながら粘菌を研究する豪快な男。海外での研究歴もある学者。

猫達

猫楠

5utomato1994
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@5utomato1994

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