還願(Devotion)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『還願(Devotion)』とは台湾の「Red Candle Games」が開発したホラーゲームでSteamから配信されていた。主人公の脚本家・フォンウが次元が歪んで時代が錯綜する台北の集合住宅を彷徨いながら元女優の妻・リホウや娘・メイシンを捜すうちに、過去の断片を集め家庭崩壊に至る経緯を徐徐に思い出していく。当時の社会情勢や精神病への偏見、新興宗教の問題などを盛り込み、消えた娘を追う過程で自らのエゴを突き付けられる主人公を通し、親子愛や家族愛とは何かを問う作品に仕上がっている。

CV:劉芷融
フォンウとリホウの一人娘。
心優しく純粋で両親思いな少女。黄色いリボンに黄色いワンピース、長い黒髪が特徴。リホウ曰くパパっ子でフォンウに懐いていたらしい。毎日のように両親の口論を聞かされるストレス、共にテレビ業界に携わっていた両親に歌手として期待をかけられ続けたプレッシャーから心を病んで過呼吸の発作を引き起こす。
病気にかかる前は毎週歌のレッスンに通い、天性の歌唱力と可憐な容姿で母の代表曲を唄いこなし、オーディション番組で4週連続勝ち抜く偉業を達成した。
しかし心身症を患ってからは大好きな学校も行けず、歌番組でも失語に陥り途中退場するなど、薬漬けの自宅療養を余儀なくされていた。当時の台湾では心身症の一般認知度が低く、庶民が正しい知識を持ち得なかった為、ストレス性の障害は身内の恥としてひた隠す傾向があった。メイシンは父が購入したビタミン剤を毎日大量に投与されていたが、病状が一向に改善しない為、迷信深いフォンウは上階のホー先生が率いる新興宗教団体に傾倒していき生活費を圧迫するほど貢ぐようになった。
元女優で大スターの母に憧れていたが、その母が父に愛想を尽かし出て行ってしまってからは、フォンウと二人の荒んだ暮らしを強いられていた模様。慈孤觀音を盲目的に崇拝する父に連れられ、ホー先生の元へも通わされている。集合住宅の廊下で目撃される赤い人影は、当時のメイシンの残留思念である。終盤になるとメイシンも怨霊化しフォンウの前に姿を現すが、これはフォンウが過去を辿る過程で、娘を死に追いやった現実を否応なく思い出させられた為。新興宗教の詐欺にひっかかり意味のない布施で家庭崩壊を招いた事、素人判断で精神科に診せず甲斐のない治療を続けた事、挙句娘を浴室に閉じ込めて殺してしまった罪悪感が裏返り、自分を憎んでいるに違いないメイシンを悪霊に仕立て上げたのだ。
最期は極限状態まで追い詰められたフォンウの荒療治で酒を満たした浴槽に浸けられ、1週間浴室に監禁。死因は不明だが溺死か急性アルコール中毒の可能性が高い。彼女が残した日記やメモからは最期の瞬間まで両親の仲直りを信じ、家族の再生を願っていたいじらしい心根が窺える。

鞏莉芳(ゴン・リホウ)

CV:何夏
フォンウの妻でメイシンの母親。歌唱力に恵まれた元女優だが、フォンウとの結婚を機に引退し専業主婦となった。
迷信深く神経質な夫の注文によくこたえ、常に夫を立てていた良妻だが、現実逃避と散財をやめらず売れない脚本を書き続けるフォンウに次第に不満を募らせていく。元は家庭を一番に重んじる貞淑な性格で夫と娘を心から愛し、メイシンの誕生日には母娘を模した人形をケーキに立てて祝い、父の日にはフォンウへジッポライターを贈っている。
しかしメイシンが学校に通い始める頃にはフォンウの収入減による生活苦から夫婦の不仲が決定的となり、毎日喧嘩ばかりを繰り返し、結果としてストレス性の過呼吸発作を娘に起こさせてしまった。
家計を助ける為に知人の監督にキャストを追加してもらい芸能界への復帰を模索したが、その事でフォンウの怒りを買い、激しい口論のはてに宝物のチャイナドレスを切り刻まれる。
ラジオ番組の司会者や実家の母に家庭の問題を相談しようとするも、1980年代の台湾の価値観では既婚女性は夫に従うのが美徳とされ気持ちを汲んでもらえず、さらに彼女を追い詰める要因となってしまった。それからもフォンウが新興宗教に傾倒し、生活が逼迫するほどの布施をするなど行いを改めず、遂に耐えきれなくなったリホウは夫と娘を捨て出奔。なおメイシンを家に置いていったのは、彼女がパパっ子で父親に懐いていたのが最たる理由と思われる。
家を出てからもメイシンを心配して度々電話をかけ、フォンウがメイシンに手をかけて以降は音信不通になった娘の身を憂い何時でもかまわないから連絡を乞うなど、母親としての愛情は健在だった。
作中度々怨霊化しフォンウに襲いかかるが、これは彼女の生死云々以前に、フォンウが「娘の病気が治らないのは妻に悪霊が憑依しているから」と信じ込んでいたせい。かてて加えてフォンウには娘を殺してしまった負い目があり、そんな自分を妻は決して許さない、殺したいほど憎むはずという強迫観念が無意識下で働いていた。即ちフォンウの妄念がリホウを偽りの怨霊に仕立て上げたのだ。
以前から芸能界に未練はあった模様で、夫婦の寝室には壁一面に女優時代のポスターが飾られている。

サブキャラクター

何老師(ホー・ラオシ)

フォンウ達一家の上階に住む新興宗教団体の教祖。詐術に長けた胡散臭い女性で、娘の病状に悩むフォンウを騙し多額の寄付をさせた。慈孤觀音という霊蛇の化身を偶像崇拝しており、彼女の信者の家には必ずこの神壇がある。のちに複数の信者から詐欺で訴えられ夜逃げした。祈祷と布施の甲斐もなくメイシンの病状が悪化の一途を辿り追い詰められたフォンウはホー先生の甘言に唆されメイシンを浴室に閉じ込める荒療治を行い、結果死に追いやってしまった。

『還願(Devotion)』の用語

還願

神に願をかけ、願いが叶った際は代償を支払う事。即ち神への恩返し。本作のタイトルは主人公であるフォンウが娘の快癒を神(自身が信仰していた慈孤觀音)に願い、地獄めぐりの幻覚の中でその代償に目・舌・手を捧げた事をさす。

紅龍

フォンウが居間の水槽で飼育していたアジアアロワナの一種。金運を招く縁起の良い魚とされ、起業家の間で飼育されるのが流行った。そこそこ値が張るので金持ちの道楽の面が強い。

紙人形

紙と竹で製作された等身大の人形。葬儀の時に死者と一緒に燃やす事で黄泉の道に付き添わせ、最後の旅路の慰めにした。昔は紙人形を冥府における死者の使用人とする概念があったので、金持ちが死んだ場合は一気に十数個を火葬した。日本では三途の川を渡ると言われるが、台湾では奈何橋(ナイ・ホー・チャウ)を渡すと言い、死者は冥府に架けた橋を渡っていくとされた。故に紙製の乗り物を燃やしたり、冥府での住まいとなる紙の別荘を焼いたりした。

選び取り

台湾・中国で満1歳になった子供に様々な品を選ばせ、どれを取るかで将来を占する風習。筆なら芸術家や物書き、貨幣や財布なら金持ち、匙や箸なら食うに困らない料理人、辞書なら秀才や博士にといった具合に判定する。

女兒紅

台湾と中国において娘の誕生祝いに酒を醸す風習。娘を嫁に出す日の宴会で甕を割り酒を注ぐ。嫁入り前に死ぬか生涯未婚で終えた場合は花雕酒と名前が変化する。本作でフォンウの自宅の厨房に吊るされていた甕の中身が該当する。

慈孤觀音

本作でフォンウが信心していたホー先生率いる新興宗教団体の偶像。ご利益をもたらす霊蛇(アマガサヘビ)の化身とされた。

言問い

フォンウがホー先生に唆されて行なったメイシンを劇的に回復させる儀式。一甕分の酒に発願者の血と霊蛇を捧げ、それで浴槽を満たして対象者を浸ける。一週間経過後に対象者を出し、慈孤觀音の神壇の前に跪かせ祈祷すると見違えるように回復するとされたが、ホー先生が捏造したインチキなので医学的な効果は皆無である。

『還願(Devotion)』の名言・名セリフ/名シーン・名場面

「この花が将来 健やかに育ちますように」

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