還願(Devotion)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『還願(Devotion)』とは台湾の「Red Candle Games」が開発したホラーゲームでSteamから配信されていた。主人公の脚本家・フォンウが次元が歪んで時代が錯綜する台北の集合住宅を彷徨いながら元女優の妻・リホウや娘・メイシンを捜すうちに、過去の断片を集め家庭崩壊に至る経緯を徐徐に思い出していく。当時の社会情勢や精神病への偏見、新興宗教の問題などを盛り込み、消えた娘を追う過程で自らのエゴを突き付けられる主人公を通し、親子愛や家族愛とは何かを問う作品に仕上がっている。

3人目、終点のメイシンから鋏を受け取ったフォンウは、自分の心血を捧げて娘の快癒と飛躍を願い、物書きの命である手を刺し貫く。ホー先生が指示した言問いの儀式とはフォンウが身代わりに命を捧げ、娘の健康を取り戻すことだった。
激痛に意識が途切れたフォンウが目を開けると、そこはホー先生の家だった。
しかしホー先生の姿はおろか家財道具一式が見当たらず、夜逃げの後のようにがらんとしている。机上にはカウンセリング記録と書かれたカセットテープがある。部屋を漁って発見したテープレコーダーでカセットテープを再生したフォンウは、ホー先生の教えに全く効果がない、言う通りに多額のお布施をしたが効き目がないと抗議する信者の声を聞く。ホー先生は厚顔無恥に受け答えしていたが、十年間祈り続けても無駄だと怒り狂う信者の剣幕は凄まじい。インチキがバレて潮時と見たホー先生は、集合住宅を引き払って姿をくらました。
階段を下りるフォンウの耳に、留守番電話が録音したリホウの声が響く。リホウは連絡がとれない夫を不審がり、仕方なくおいてきてしまった娘の身を案じていた。次に再生されたのはホー先生の伝言で、彼女は言問いの儀式を実行したものの効果がないと訴えるフォンウを宥めていた。彼女にしてみれば夜逃げの準備が整うまでの時間稼ぎに過ぎない妄言だが、フォンウは頭から信じ込んだ。メイシンが産まれた時に醸した酒で浴槽を満たし、娘を浴室に監禁した。次にフォンウがかけた時、ホー先生の電話は繋がらなくなっていた。

1987年、妄想から醒めたフォンウは現実の部屋の荒廃を目の当たりにする。

扉を開けて家に帰ったフォンウは、荒廃した居間のテーブルに置かれたメイシンの絵を発見する。黄色いチューリップの咲く家で、両親に挟まれたメイシンが笑っている絵だ。浴室からは僅かに明かりが漏れているがメイシンの気配はなく静まり返っている。
フォンウはホー先生の嘘を真に受け、愛娘を死に至らしめていた。しかしその現実は断じて受け入れがたい、彼はメイシンの幸せだけを祈り続けていたのだから物語はハッピーエンドで閉じなくてはならない。
浴室の扉を開けると光の洪水が溢れてフォンウを飲み込む。清浄な光に満たされた空間には折り紙のチューリップが点々と咲き、どこからかメイシンの声が響く。メイシンは医者に診せなくても病気を治す方法はわかっていたと言い、優しい両親が揃い、好きにピアノを弾いて唄っていた頃は頃は発作と無縁だったと回想する。歩き続けるフォンウの視線の先を、元気になったメイシンが駆け抜けていく。それを見たフォンウは大きな犠牲を払ったが漸く願いが成就したと痛感、メイシンが健康を取り戻した感慨を噛み締める。

メイシンがフォンウを連れてきたのは、闘病中に遊びに行きたがっていた公園だった。

メイシンが最後に父親を導いたのは滑り台とブランコがある小さな公園だった。それは彼女が夢にまで見た、外遊びの願いを叶える場所だった。砂場で遊んだメイシンは満足して顔を上げ、朗らかにフォンウを促す。

「パパ、おうちへ帰ろう」

もうどこにもいないメイシンが愛くるしくフォンウを呼ぶ。

エンディングソング終了後、廃人化したフォンウがテレビの砂嵐を眺め続ける虚無的なラストシーン。

長い暗闇が続いたあと、己の愚かさ故に全てを失ってしまったフォンウが居間で一人テレビの砂嵐を見ているシーンで物語は終わる。

『還願(Devotion)』のゲームシステム

基本システム

ゲームの特徴として挙げられるのは完全一人称視点。プレイヤーは基本フォンウを操作してアイテムを取得し、それを所定の場所で選択・使用する事によって話を進めていくが、展開上メイシンやフォンウが飼育する観賞魚のアロワナ、リホウなど、フレキシブルに視点が切り替わるので没入感が味わえる。
作中にはヒントをもとに正解の数字を入れる南京錠の暗号や塗り絵の線を繋げる暗号も登場し、探索と謎解きを融合した構成となっている。
アイテムはクリックで入手でき、正しい場所で使用すると状況に変化が起きる。具体例として、1980年のメイシンの部屋の鉢植えに折り紙のチューリップを植えると1985年の通路と自宅に変化が起き、こちらにもチューリップが咲き乱れる。これは1980年当時のメイシンが父親の没原稿でチューリップを折ったエピソードが、のちにフォンウがプレゼントした絵本に出てくるチューリップとリンクするからである。
また机上のメモや新聞の切れ端、集合住宅内の掲示板の貼り紙を読むことで得た情報を組み合わせ、物語の全体像を構築できる。

本作の舞台となるのは台北の老朽化した集合住宅だが、中盤以降はそれぞれの時代に繋がる4つの扉(1つは固く閉ざされているので実質3つ)を行き来して過去を探っていく。
この扉は各自異なる特徴をもつ。

4種類の扉

申年1980年の扉

申年1980年の扉。廊下は白い照明。

申年1980年の扉。廊下は白い照明。1980年はフォンウ達一家が集合住宅に引っ越してきた年。メイシンは当時5歳、フォンウの仕事には影がさしていたがこの頃はまだ夫婦仲も順調だった。

丑年1985年の扉

丑年1985年の扉。青いイメージ。

丑年1985年の扉。全体として青いトーン。カルテを見るとメイシンの発症が1984年なのでこれはその翌年、メイシンは当時10歳。フォンウの長引くスランプと収入減による生活苦から夫婦喧嘩が絶えない。

寅年1986年の扉

寅年1986年の扉。黄色い照明。

寅年1986年の扉。黄色い照明が印象的。メイシン当時11歳、発症から3年が経過しても病状は改善せず夫婦仲は冷えきっていた。フォンウは新興宗教にどっぷりハマり、リホウの心労は限界に達する。

卯年1987年(現在)の扉

最後の1つの扉で「過去の記憶を拾い戻せば今日の円満を迎えられる」の貼り紙がしてある。現実のメイシンはこの時点で既に故人となっている。封鎖の理由はフォンウが娘を殺してしまった事実を思い出したくない為。3つの扉を行き来して過去の断片を全回収しないと最後の扉は開かない仕組み。
本作は幽霊や怪物など超常現象を扱うホラーではなく、人間の心の深奥に分け入り、その複雑怪奇な仕組みを解き明かすサイコホラーの趣に近い。リホウは作中度々怨霊として現れフォンウに襲いかかるが、それはフォンウが娘の病気が治らないのは妻が悪霊に憑依されてると信じ込んでいたせいであり、現実のリホウは夫の心理的虐待に苦しんだ被害者である。その証拠にエレベーターが閉じる寸前本来の容姿を取り戻し、夫に何かを伝えようとしている。終盤にはメイシンも怨霊に近い姿で現れるが、これはフォンウが目を背け続けていた現実、即ち娘を殺してしまった罪悪感の具現化である。
集合住宅内の奇怪な構造も異空間に繋がったのではなく、フォンウの認識が歪んでいたのが原因であり、ホー先生の失踪が確定し現実に叩き戻された後は本来の殺風景を取り戻している。
作中では台湾の伝統楽器を用いたBGMや1980年代当時の番組や歌謡曲を流し、当時の一般家庭の家具や調度、建築様式を再現する事によって、臨場感溢れるリアルな世界観作りに成功している。

『還願(Devotion)』のアイテム

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