町山智浩の『風立ちぬ』の解説が深い!ラジオで語った内容を紹介
TBSラジオ『たまむすび』でスタジオジブリの『風立ちぬ』について語っていた映画評論家・町山智浩。否定的な感想が多かった作品に対し「なぜそのように感じたのか」を解説しました。「全てを語らない」「分かってくれる人だけ分かってくれというタイプの作品」であることを熱弁。作品に対する考えが変わる、興味深い話をたっぷりと紹介していきます。
TBS RADIO たまむすび: 町山智浩アーカイブ
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TBS RADIO たまむすび 赤江珠緒と小林悠が曜日パートナーと共に世の中をパ~ッと明るく!いちごを摘みながら聞いている農家のおばちゃんが、 笑って思わずいちごを落としちゃうような(笑)一日一爆笑!トーク&バラエティー“たまむすび”。TBSラジオで毎週月~金 13時00から放送!メールはtama954@tbs.co.jp 「たいしたたま」の音声は1週間で削除されます。 音声の試聴は こちら か…
TBSラジオ たまむすびで町山智浩さんが映画『風立ちぬ』の解説をしていたので、書き起こしました。
1週間以内ならリンクから音声が聞けます。
書き起こしました。
町山)よろしくおねがいします。『風立ちぬ』を観るために帰ってきました。僕の友だちが大絶賛なんですよ。「観ろー」とか「泣いた」っていう話でね、「特にお前のようなやつは観ろ」みたいな話があって。
赤江)実は私観たんです。正直、ん?っていう所が多くて、でもねこういう巨匠の作品を「わからん」って言うと馬鹿だと思われると思って、黙っておこうみたいなぐらい、正直ん?これどう捉えたらいいんだろう?みたいな感じだったんです。
町山)評判はあんまり良くないんですよ、一般的には。
山里)僕も観に行った友達から、あんまりだったみたいな話を聞いて、それで観に行ってないんですよ。
町山)そう。一般観客の評判はあまり良くないんですよ。そうだろうなと思いましたよ。というのはクライマックスがないんですよ、はっきりした。物語の目的がわからないんですよ。主人公は何に向かっていて、何を解決しなきゃいけないのかという、一般的な物語って必ずそれがあって、それを解決してみんな終わるわけじゃないですか。それがないから、どう観たらいいかわからないって人が多いですね。
宮崎監督の妄想なんですよ
それをごっちゃにしたものなんですよ。一緒くたにしてて、しかも婚約者っていうか、中では結婚しているんですけども、奥さんが死んだっていう話は全然堀越二郎さんの話とは無関係なんです。勝手にこの人の奥さん死んだって話にしちゃってるんですよ。笑
赤江)それを知らずに観ている人は、堀越二郎さんの奥さんはこういう感じだったのかなって思いますよね。
町山)そう思っちゃう人もいますよね。実際に現実の人物だった堀越二郎さんの実話と、堀辰雄さんの実話を元にした小説をごっちゃにしたんですよ。全然関係ない二人の人物の体験を一人の人にしちゃっているんですよ。
これいいのかなって思ったら遺族の方が許可を出したらしいですけど。これは妄想なんですよ。宮崎監督の妄想なんですよ。宮崎さんの原作のマンガにははっきりと妄想と書いてるんですよ。これは私の妄想であるってちゃんと書かれているんです。
赤江)だからね映画の中にわりと夢が出てきますよね。夢のシーンが多いですよね。
町山)そうなんですよ。これは主人公の堀越二郎さんが、何かを見るたびに自分の飛行機のいろんな設計のアイデアと結びつけて妄想するんですよ。次々と想像してハッと現実に戻るっていうのを繰り返すんですよね。
だから昔の映画で『虹をつかむ男』っていう映画がアメリカの映画がありまして、それは主人公が常に妄想してて、なにか見ると妄想してっていうのが現実として映画の中では映像化されるから、観てるほうはどこまでが夢でどこまでが現実なのかわからないっていう映画があるんですけど、それに近い、『虹をつかむ男』系の映画なんですよね。
山里)『中学生円山』もそういうような映画ですよね。
町山)そうそうそう!『中学生円山』もクドカンのやつも主人公の中学生が、すぐにあいつはスパイじゃないかって思うと、スパイ・アクションが展開したり、あいつはなんかクンフーの達人じゃないかって思うと、クンフーアクションになったり、中学生の妄想をそのまま映像の中に入れちゃってるんですよね。それをアニメでやってるんですよ。
自分の考えていること、決して口に出して言わないんですよ。
これね、1番わかんないのが、主人公の堀越二郎さんが自分の考えていること、決して口に出して言わないんですよ。寡黙なんですよ。で、最近の日本映画って特にそうですけど、主人公たちが全部自分の思っていることを言って、ディスカッションするんですよ。そういう映画ばっかりなんですよ。ひどいことになってるんですよ。
こないだ飛行機に乗ってこっち来るときにですね、『藁の楯』っていう映画観てたんですけど、それで松嶋菜々子さんが刑事で、連続殺人鬼の藤原竜也君をずっと連行する話なんですけども。藤原竜也君がいきなり松嶋菜々子さんをぶっ殺すんですよ、突然。その時に「何で殺したんだ!」って言うと、「このババア、くせーんだよ!」って言うんですけど、なんてひどいことを言うんだって思いますけど、こんなこと言うかーッて思うんですけど、全員が全員が思っていることをぶちまけあうんですよ、日本映画って最近。全部説明するんですよ。「私はこういうこと思ってますよ」とか「俺はそうは思わない」とか。それに慣れると『風立ちぬ』っていう映画はわからないんですよ。
なんにも言わないんですよ、この人。で、これは戦争が起こり始めてるっていうか戦争に向かい始めているんですけども、それに対して彼は武器を作るっていう仕事をしてるわけですね、戦闘機を作るっていう。その葛藤があるだろうとみんなは思うんですけど、葛藤に関して主人公は何も言わないんですよ。だからやっぱり、それを言ったほうがいいんじゃないのって他の日本映画だったら言っちゃうんですよ。会話でねディスカッションしたりするんですよ、「戦争というのは」とか言って。
言わないんですよ、これは。
山里)「俺はこんなために作ってるんじゃない」みたいなこと。
町山)そうそうそう!そういうこと言うんですよ。「俺はホントは空を飛ぶのが好きで」とか言って、「でも戦争は良くない」とかね。
言わないんですよ!言うのは下品ですよ、やっぱそれは。当時の人達は思っていても言えなかったんだろうし。
わかってくれっていう映画
で、それはどういうことかって言うと、まずユンカースっていう人は戦争に反対していたんですね。ユンカースっていう博士がいて、爆撃機とかを開発した人なんですけども、爆撃機とかを作りながらもすごいナチスに逆らってて、最後はナチスに監禁されて死んでいくんですよ。そういう人生をたどった博士で、偉大な航空工学家なんですけども、その人の人生って、まさに戦争に反対しながらも兵器を作るっていう人の代表ですよね。
それを出すっていうことで、わかってくれよなんですよ。説明はないんですよ。一瞬なんですよね。
あと、途中でドイツ人が出てくるんですよね、謎の。軽井沢に行くと、軽井沢に主人公が行く理由もほとんどわからないんですけが、軽井沢に行くと、ドイツ人がいて、友情ができるんですね。でね、いい曲がかかるんですけど、今かけていただけますか。『ただ一度だけ』という歌。『ただ一度だけ』という主題歌なんですよドイツ映画の『会議は踊る』という映画の。それを全員で、ビアホールみたいなところで合唱するシーンがありますね。
ただ一度の (ドイツ映画 会議は踊る、より) 高橋晴行 - YouTube
www.youtube.com
Das gibt's nur einmal 2010-01-25 唄 高橋晴行
「風立ちぬ」で二郎と菜緒子が療養より二人でいることを選んだ心の内は、軽井沢で合唱する「ただ一度だけ」の歌詞が語り尽くしている。BY町山智浩
赤江)あー!そうなんですか!
町山)セリフには出てこないし、わからないですけど、たぶんゾルゲのような人物であって、ドイツや日本の戦争をやめさせようとか思っているドイツ人で、軽井沢に潜入してきただろうというところがあるんですが、何もそれを言わないんですよ、この映画は。
赤江)そうだ!ほんとにそう!
モネのタッチで描いてある
町山)そういうことをね、ずーっとやってるんです。例えばすごく印象的な絵柄でですね、初めて主人公が菜穂子さんに合うっていうシーンがあるんですけど。菜穂子さんっていうのは『風立ちぬ』の主人公の名前をそのまま使ってるんですけども、丘の上に立ってパラソルを持ってですね、絵を書いてるっていうシーンで、これで出会うんですけども、この絵っていうのが最初のモチーフになってるんですね、『風立ちぬ』っていう原作の。
*菜穂子は「風立ちぬ」のヒロインの名ではなく、堀辰雄の「菜穂子」のヒロインです。後に訂正されてます。
どんなに危険なときにも妄想をやめない
あそこでこう、煙が、ものすごい火災が起きて、大震災で。すると煙が舞い散るところで、主人公の堀越二郎は、突然妄想を始めて、飛行機が飛んでる妄想をするんですね、爆撃の妄想みたいなものを。この人はどんなに危険なときにも妄想をやめないんですよ。これはね、僕の友達の映画監督たちがみんな、「俺だよ!」っていうんですよ、彼らは。みんな「あれは俺だ!」って言ってるんですよ。
どんなに自分が危険な状態にあっても、常に自分の妄想の中に入っていくんですよ。これは映画監督とか、シナリオライターをやっている人たちとか、撮影とかやってる人、アニメーターとかはみんなそんな人達ですよ。
道を歩きながらビルを見上げて、ビルの向こうから怪獣が出てくるのを想像するんですよ、彼らは。それこそ大震災であるとか、大変な事件があって悲劇が起こっても、どう撮ろうか、どう表現しようかってことばっかり彼らは考えるんですよ。頭のなかに絵コンテがバーって出てくるんですよ。
そういう人たちなんですよ。そういう人種なんですよ。それは非常に不謹慎な人たちですよ、はっきり言いとね。けど、そういうものなんですよ。ものを作る人達っていうのはそういうところがあるんですよ。
で、この人はまさに戦争の道具である戦闘機を作るんだけども、戦争そのものに対して責任はどうなのかっていう事を問うているわけですね、この作品の中で。で、宮崎駿さん自身がそういう人で、とにかく戦闘機とか戦車が大大大好きな人なんですよ。でも、反戦映画を撮っているでしょ。戦争はいけないんだっていうことを映画の中で言うじゃないですか。でもその割には戦闘シーンをめちゃくちゃ快感で撮ってるじゃないと。あんた戦争の道具大好きでしょうと。大好きですよ、でも戦争は絶対いけないと思うと。そうした矛盾した気持ちっていうのを持ってるのが、こういった物をつくってる人たちなんですね。
だから零戦を作ったってところで、零戦っていうのは何百機も何千機も作られましたけども、乗った人は全員死んだんですよ。これは大変なことで、自分が作ったもので何百人、何千人っていう人が死んだってことで、ものすごい辛い罪を背負ったわけですけども、まさしくオッペンハイマーと同じですよね。
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