人狼 JIN-ROH(じんろう)のネタバレ解説まとめ

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「GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊」の押井守が原作・脚本を担当し、「ももへの手紙」の沖浦啓之が監督した1999年制作の長編アニメ。治安部隊の青年が反政府ゲリラだった女性と出会い、愛と使命の狭間で苦悩する、人間ドラマに重点を置いた作品。実写とみまがう、きめ細かい演出と映像表現が光り、世界の国際映画祭でも注目を浴びたアニメーション。

概要

「人狼 JIN-ROH」は、押井守が、第二次世界大戦で日本が敗戦国となりドイツ軍に占領されたという架空の設定を背景に、実写映画として撮った「紅い眼鏡」「ケルベロス 地獄の番犬」に続くケルベロス三部作(ケルベロス・サーガと呼ばれている)の一本である。
童話「赤ずきん」の“赤ずきん”と“狼”を、治安部隊・特機隊の男と反政府ゲリラだった女の物語に巧みにリンクさせた寓話的ストーリーを、アニメーター出身の沖浦啓之が、初監督ながら手描きセル画でのアニメ表現にこだわり、時間をかけて完成させた。
深みある人間ドラマと精緻なアニメ表現は、ベルリン国際映画祭、ブリュッセル国際ファンタジー映画祭、アヌシー国際アニメーションフェスティバルなど海外の国際映画祭で注目を浴び、ファンタスポルト1999最優秀アニメーション賞/審査員特別賞、他を受賞している。

ストーリー

昭和30年代の東京。第二次世界大戦で敗戦国となった日本。
国際社会への復帰のため強行された経済政策が失業者や凶悪犯罪、そして過激な反政府組織が生み、政府を悩ませていた。
そのため、政府は反政府組織掌握のために、首都圏に限り治安部隊を設置した。
首都圏治安警察機構、通称「首都警」と呼ばれる治安部隊は、高い戦闘能力を持つ警察機構として加速的に拡大していった。
だが、反政府勢力は、立法措置によって非合法化し地下組織の道をたどりながら、首都警との市街戦を繰り広げた。
世論は、強大な武力で対抗する首都警を非難の的にし、やがて首都警は孤立を深めていった。

ある日、街頭で学生らのデモが行われ、警視庁の機動隊が彼らと対峙していたのに対し、首都警の部隊は、共同警備という名目で後方配置に甘んじていた。
だが、デモ隊の中にセクトと呼ばれる反政府組織が紛れ込み、デモに乗じて機動隊への攻撃を目論んでいた。
セクトは、地下水路を利用し、火炎瓶などの物資を、通称「赤ずきん」と呼ばれる運搬係の少女・阿川七生に運ばせていた。
彼女が投擲爆弾を実行役に渡し、セクト・メンバーと共に地下水路に戻ったとき、突如、首都警の戦闘部隊である「特機隊」が現れ、彼らの前に立ちふさがった。
セクトのメンバー達は特機隊に銃を向け乱射するが、ことごとくハチの巣にされ絶命していった。

メンバー達とは別の場所にいた七生は、発砲音を耳にし、すぐさま逃げるが、彼女の前にも特機隊が現れた。
特機隊の一人、伏一貴は、彼女に銃を向け、投降を呼びかけた。
だが、七生はそれに耳を貸そうともせず、携えていた投擲爆弾の信管を作動させる紐に指を近づけた。
「なぜだっ」と一瞬戸惑う伏。なぜか仲間からの射撃指示も聞こえなかった。
七生は伏をじっと見つめると、もう逃げ場はないと意を決し、紐を一気に引き抜き、自爆した。
辺りは地響きするほどの轟音に包まれ、地上は停電に見舞われ、デモ隊はそれ乗じて逃走してしまった。

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数日後、伏は適切な行動をとらなかったと査問会で責任を問われ、首都警特機隊養成学校での再訓練を命じられた。
養成学校で黙々と訓練に明け暮れる伏は、自爆した少女・七生のことがどうしても忘れることができずにいた。
養成学校同期で今は首都警・公安部に籍を置く伏の友人である逸見に頼み、七生のことを調べてもらった。
そして、七生の遺骨が納められた共同墓地を教えられ、墓を訪れると七生の墓の前に一人の若い女が立っていた。
彼女は、死んだ七生の姉、圭と名乗った。

互いに惹かれあうものを感じ、その後、二人は度々会うようになり、親密になっていった。
彼女と会っているとき、伏は安らぎに似た感情に包まれ、愛しいと思うようになっていった。

だが、圭には秘密があった。
実は、彼女は元セクトのメンバーだったが、首都警公安部に身柄を押さえられ、公安部の辺見の命令により伏に近づいていたのだ。
目的は、特機隊の男とセクトの女の逢引きをスキャンダルに仕立て上げ、特機隊を粛清すること。
公安部の部長が警視庁(自治警)の幹部と密約を交わし、世間から非難を浴び、目の上のたんこぶとなっていた特機隊を排除したかったのだ。
辺見は、その計画の実行役を部長から仰せつかっていた。
上司の命令とはいえ、友人を裏切ることになるが、養成学校を落ちこぼれてしまった辺見にとって、特機隊や同期の伏に対して少なからず妬み心があり、それゆえに彼は命令に従った節がある。
圭は七生の実の姉ではなく、顔立ちが似ていたから選ばれただけだった。
しかし、最初は命令に従っただけのはずが、圭も伏に対し、いつしか彼を愛する気持ちが芽生えていった。

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ある夜、伏は圭から緊急の呼び出しを受け、待ち合わせ場所の博物館に向かう。
そこには、公安部の男たちが待ち構えていた。
「伏が“赤ずきん”である圭から爆弾を受け取る」という現場をでっち上げ、彼を逮捕しようという、辺見の計画だったのだ。
だが、伏は、彼を取り押さえようと向かってきた男たちを次々と倒し、なぜか自分を陥れようとした圭の手を取り、その場からまんまと逃げ出した。

圭は、伏を騙していたこと、自分の過去、そして辺見らの策略をあらいざらい告白する。
伏は、驚くこともなく黙って彼女の言葉に耳を傾けていた。
そして、互いの顔を近づけ、そっと唇を重ねた。
どこにも行き場がなくなった圭は、このまま二人でどこか遠くに逃げてしまおうと漏らすが、伏は、まだやることがあると、ちょっとためらいがちに答える。

そして、地下水道に忍び込むと、特機隊養成学校の教官の塔部や彼の部下たちが二人の前に現れた。
実は、塔部は最初から辺見たちの計画を見抜いていて、公安部の辺見にハメられたと装いながら、逆に彼らをハメる策を練っていたのだ。
まだやることがあると伏が言ったのは、そのことだった。

圭のバッグに忍ばせていた発信機を頼りに、辺見たちが地下水道にやってきた。
だが、甲冑服・プロテクトギアに身を包んだ伏が待ち構えていた。
伏は、彼らを一人、また一人と銃の餌食にしていった。
最後に残った辺見にも、体中に無数の銃弾を浴びせ、彼は壮絶な最期を遂げた。

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公安部の計略を阻止した伏に、塔部は最後の仕上げとして、圭の殺害を命じる。
殺人マシーンであるはずの伏は、七生を撃てなかったとき以上に動揺してしまい、うろたえた。
自分は彼女を愛してる、なのになぜ彼女を殺さなければいけないのか。

圭は、殺さないで、助けて、と命乞いはしなかった。
遅かれ早かれ、自分は死ぬ運命にあるんだと悟っているかのように。
ただ、彼女は愛した伏の心に自分の存在を留めておきたいと願った。

伏の胸にすがり、大粒の涙をこぼし、泣き崩れる圭。
伏は、何も言い出せず、突っ立ったまま。

やがて、伏は彼女の腹におもむろに銃口を向けた。
銃声が鳴り響き、圭は地面にゆっくりと倒れていった。
伏は、放心したように虚ろな表情を浮かべ、身動きできないでいた。

主な登場人物

伏一貴(ふせかずき/声:藤木義勝)

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首都圏治安部隊・戦闘部隊<特機隊>の隊員。恵まれた体格で戦闘技術に優れているが、口数が少なく親しい友人もほとんどいない。闘争本能のみで生きる一匹の“狼”のように、人間としての感情を切り捨て、自分を律してきた。しかし反政府組織を追い詰めたとき、少女が自爆するのを目の当たりにして心に迷いが生じる。そして、少女の眠る墓を訪れたとき、彼女の姉を名乗る圭と出会い恋に落ちる。

雨宮圭(あまみやけい/声:武藤寿美)

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自爆した少女、阿川七生と顔立ちが似ていたことから、首都警公安部の策略により、彼女の姉と偽って伏に接近する。彼女も、元・反政府組織のメンバーで「赤ずきん」を務めていたが、身柄を押さえられてからはすべてがどうでもよくなり、公安部の指示通りに動くようになっていた。
思いがけず伏と恋に落ちたことで、彼女は悲しい運命をたどることとなる。

辺見敦(へんみあつし/声:木下浩之)

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伏とは特機隊養成学校の同期だったが、特機隊候補から脱落し、公安部に籍を置いている。部署が変わっても、伏との付き合いは続いていたが、公安部部長・室戸の計画「警視庁との組織統合による新しい警備体制」確立のため、彼は雨宮を使って、伏のスキャンダルをでっち上げ、特機隊の排除を画策する。
どうも辺見の心には、特機隊に対する妬みや憎しみが潜んでいるように見受けられる。

阿川七生(あがわななみ/声:仙台エリ)

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反政府組織の「赤ずきん」こと物資運搬係の少女。実行メンバーに爆弾入りバッグや火炎瓶を渡すなどしているが、地下水路を移動中に特機隊の包囲を受け、逃げ場を失った彼女は、伏の眼前で自爆してしまう。伏が自分の使命に迷いが生じるきっかけとなった出来事となった。彼女の死後も、伏の脳裏に七生の姿がたびたび現れ、彼を悩ませる。

塔部八郎(とうべはちろう/声:坂口芳貞/ナレーションも兼任)

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