Jの総て(漫画)のネタバレ解説・考察まとめ

『Jの総て』は『マンガ・エロティクスF』(太田出版)で連載された、中村明日美子によるボーイズラブ作品。作者の代表作には『ウツボラ』『同級生』『ばら色の頬のころ』『ノケモノと花嫁』『Jの総て』があり、艶やかで官能的な絵柄と登場人物一人一人を際立たせる深い物語が特徴である。舞台は1950年代のアメリカ。10歳の少年Jは、映画館で初めてマリリン・モンローを観て強烈な憧れを抱いた。これは同性愛者が生きるには窮屈な世の中で、マリリン・モンローになりたいJの愛と絶望の半生を描いた物語。

『Jの総て』の概要

『Jの総て』は『マンガ・エロティクスF』で連載していた、中村明日美子によるボーイズラブ作品である。作者の代表作にはアニメ映画化した『同級生』シリーズや、『ノケモノと花嫁』『ばら色の頬のころ』『メジロバナの咲く』がある。また、爽やかな青春漫画からボーイズラブ、ガールズラブ、ミステリー、サスペンスまで幅広いジャンルを手がけている。耽美で個性の光る絵柄と、独特の世界観で映される物語は多くの読者を惹きつけている。本作『Jの総て』は舞台化もされており、2020年4月9日から公演予定だったがコロナウイルス拡大のため中止となった。作者はSNSで「今後も舞台化の機会があればやりたい」と前向きなコメントをのこしている。
舞台は1950年代のアメリカ。マリリン・モンローに憧れた少年Jは、とある事件で父と母を失い名門男子校の寄宿舎へと14歳の時に転入することになる。男性に惹かれるJは、そこで出会う年上の優等生ポール・アンダーソンに興味を持つ。仲が深まる二人だが、同性愛者が窮屈な世の中ではすれ違いは避けられなかった。そんな中、学校の傍らバーに顔を出していたJはクラブのオーナーに誘われてニューヨークへと飛び出す。マリリン・モンローになりたいJの、愛と絶望の半生を描いた物語。

『Jの総て』のあらすじ・ストーリー

マリリン・モンローと父親の死

1952年、アメリカのオハイオ州で10歳の男の子Jは忍び込んだ映画館で、スクリーンに映るマリリン・モンローと出会った。すぐに歌を真似て酒場で披露した。厳格な母親には理解されなかったが、優しい父親は「お前はべっぴんなんだから」とJのマリリン・モンローを気に入ってくれていた。しばらくすると、父は会社が倒産して毎日酒を浴びるようになった。ある日、Jは酔った父親にマリリン・モンローの歌を頼まれる。歌の後、Jは大好きな父親のために自分ができることをしてあげたい気持ちから、実の父親と関係を持ってしまう。そして、その最中に偶然帰宅した母親は目の前の光景が信じられず、棚にあった拳銃を衝動的に発砲する。弾は父親に当たり、Jの目の前で即死してしまう。

名門校への転入

校内案内中Jに説教するポールと注意を受けるJ。

父親の死と母親の精神的な病による入院から、Jは14歳まで孤児院にいた。しかし、孤児院では中性的で大人びていたJは浮いており、子供たちからいじめを受けていた。そんな折、孤児院に寄付していたカレンズバーグが写真のJを気に入り、彼を養子として引き取って、自身の運営するカレンズバーグ高等中学校に転入させる。Jはそこで、優等生で年上のポール・アンダーソンと出会う。Jは初め、ポールの真面目でウブな所をわざとキスをしたりしてからかっていた。その後ポールの同級生で不良のモーガンの車に気まぐれで「乗せてくんない?」とJが頼んだところからモーガンとの交友が深まる。風変わりで同年代に馴染めず浮いていたJを面倒見の良いモーガンは気にかけていた。また、いつも冷静で優等生のポールをモーガンは気に入らず、胸ぐらを掴んで刃物をチラつかせたりして威嚇することも多かった。Jはその様子を見て、モーガンがポールに好意を抱いていることを鋭く指摘するが、ポール本人のモーガンへの態度は冷たいものだった。その後、不良たちとの交友でJは問題児扱いされ、ポールが舎監首を務める上級生の寮へと移動させられる。

ポールと縮まる距離、すれ違い

出典: flooooor.exblog.jp

2年経ってやっとポールはJに気持ちを伝えられた。

上級生寮に来たJは監視役であるポールと相部屋になる。聖書が愛読書の真面目なポールだが、毎晩酒場に出かけて帰りの遅いJの唇に女装後の口紅を見つけると、顔を真っ赤にして嫉妬した。1度Jのタバコをポールが咎めた際にJがからかってキスをしただけだったが、初々しいポールをJが可愛いと思う気持ちは強まっていった。月日が経ちJが16歳になった頃、彼が学校の傍ら働くバーに身なりの綺麗な男性アーサーが訪れる。アーサーと親しくなったJは当時最新のマリリン・モンロー主演映画『お熱いのがお好き』を見せてもらう。しかし、マリリンへの情熱を語るJに現実的なアーサーは別れ際、「お前はマリリンではない」とあくまでJは劇中に登場した女装家と同等だと言い放つ。激怒して帰宅したJは怒りのまま、部屋にいたポールにやつあたりし、「自分からキスひとつもできない」と挑発する。挑発を受けたポールは布団に潜ってしまったJを見つめ、覚悟を決めて部屋の明かりを消す。その後、2人は初めてつながることになり、ポールは初めてJに「好きだ」と伝えることができる。

しかし、次の日からポールのJへの態度はぎこちなくなった。道を外さずに人生を歩んでほしい周囲の期待と、Jへの気持ちで感情が溢れたポールはJを突き放し、彼からのキスを拒んでしまう。うまく伝えられない2人の気持ちはどんどんすれ違っていった。

NYのクラブ歌手Jとリタとの出会い

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付き人としてJの身の回りの世話をするリタとJの日常の一コマ。

アーサーに「一緒にNYに来ないか」と誘われていたJは、ポールとのすれ違いもあり16歳で学校を飛び出した。その後19歳になり、NYのアーサーの店でクラブ歌手をしていた。ある日Jは家の前に倒れた男の子を見つけ、とりあえず家に入れてあげる。彼の名はリタ・バーセルミで、実は男の子ではなくボーイッシュな女性だった。リタは詩人を夢見てNYに来たが、騙されて一文なしになったというのでJの付き人としてしばらく居候することになった。Jは看板歌手として借金のあった店にお金を入れるべく、ステージ以外でも客に体を売っていた。また、アーサーとも体の関係があり、少なからずJは好意を抱いていた。しかし、店に出入りするリタにアーサーは惹かれていく。
そんな折、お得意様の議員からJを買いたいという太客がいるとアーサーは告げられる。しかし、その客はアメリカの秘密結社・白人至上主義団体のKKK(クー・クラックス・クラン)の疑いがあるマイノリティの弾圧に力を入れている男だった。危険なことは重々承知で、アーサーは断れずに承諾する。リタはJを必死に止めるが、避けられないことだとJには通じなかった。Jは覚悟を決めて客の元を訪れるが、同性愛者に対する差別的暴言と客が雇った黒人男性2人からの酷い性行為が待っていた。客の相手が終わり、ボロボロのJはアーサーに自分を抱いてくれるよう懇願し、アーサーもそれに応じる。

Jに対して好意を感じていたリタは、アーサーに反発するが「実家に帰れば?」と言われ冷静になる。その後、リタは詩人になるために無理矢理NYに出てきたことや、アーサーは幼少期に太っていて惨めな思いをしていたことを話すうちに2人は次第に少しだけ打ち解ける。するとアーサーが「僕と寝てみる?」とリタに尋ねる。躊躇はしたものの受け入れたリタだが、Jを好きな気持ちは変わらずアーサーと関係を持ったことをJに告げる。それを聞いたJはアーサーへの当て付けと、リタが自身に好意を持っていることを知った上でリタを抱く。リタが自身が女であるためにJが振り向いてくれないことを言うと、その晩Jは姿を消してしまった。

ポールとモーガンとの再会

1962年、NYの刑務所で父親の殺人未遂で受刑中のモーガンは同じく浮浪罪で刑務所にいたJに会いに来ていた。Jは精神的に弱って度々医務室に連れて行かれていたが、その日はJの憧れるマリリン・モンローの訃報によって倒れ、医務室に運ばれたところへモーガンが様子を見に来ていたのだ。そこに、看守がJに弁護士が会いに来ていると伝える。個室に通されたJの前にいたのはポールだった。初恋の相手に緊張するJだが、ポールからリタにJとの子供がいることを告げられて倒れてしまう。Jが失踪してからJを探していたリタと、失踪直前にJにそれまでの半生をインタビューしていた雑誌記者のエドモンドはJの過去からポールへと行き着き、NYでの出来事を話していたのだ。その後、医務室に運ばれたJはポールへの気持ちやリタとの子供のことで自暴自棄になり、快楽を求めて偶然訪れた新人看守を誘惑して行為に及ぶ。しかしすぐに上にバレて、警察側は新人看守の失態を有耶無耶にすべくJを病院送りにしかねない状況になってしまう。ポールは上司に黙って刑務所を訪れ、警察が事件を揉み消そうとしていることを問いただした。その後「たまにはブタ箱にブチ込まれる方になったらどうだ」と警察を脅迫し、Jに無理やり会いにいく。そしてポールは、Jの今までの行動を責めず「君は被害者だ」と諭す。しかしJはかえってその言葉で自分自身を否定されたような気持になり、深く傷ついてしまう。Jはポールに対する恋心を蘇らせていたが、同性愛者である自分とそうではないポールは関わるべきではないと思い「ほっといてよ」と号泣しながら突き放した。ポールはJを追っていたエドモンドの元を訪れてことの経緯を話すが、「それで引き下がるのか」と言われてJのために自身も変わることを決心する。

様々な愛の形

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弁護士として働くポールと、出所して間もないJ。

もう自分を誤魔化せられないと思ったポールは、両親の死後親代わりとして自分を育ててくれた叔母のカレンズバーグに自身が同性愛者であることを告げる。厳格なカトリック教徒である叔母は、ユダヤ教徒のポールの父親に恋をして家を出た妹のことを思い出す。妹のように道を踏み外さないでほしいと思って育てたポールのカミングアウトを、最初は信じられなかった。ポールは短期受刑者のJが出所する日にJを迎えに行き、Jのために借りた広い部屋のマンションへと案内する。洗面所で2本の真新しい歯ブラシを見つけたJは赤面し、動揺する。その時突然電話が鳴り、2人はJの母親が病院で倒れたことを知る。嫌がるJを連れてすぐに病院に向かったポールだが、偶然鉢合わせたJの母方の親族に「ここはお前の来るところじゃない。帰れ」と心ない言葉を言われてしまう。Jが父親と関係を持ったことで、母親は精神的に衰弱して入院することになり家庭自体が崩壊したため、親族からJに対する風当たりは強かった。病院からの帰り道、同行してくれていたエドモンドにポールはJへのシンプルでまっすぐな愛を語る。それに対してエドモンドは、Jの叔父の言葉や態度が一般的な考え方であることや、これから2人に訪れる困難への覚悟はあるのかをポールに投げかけた。そんな2人の会話を聞いていたJは家に帰ると、これ以上ポールや色んな人に迷惑をかけて生きられないと窓から身を投げる。

Jに手を伸ばしたポールは、なんとか彼を救出することができた。涙を流しながら「もう君と離れたくない」と言うポールに、Jも「ポールが大好き」と告げる。ちょうどその時玄関の扉が開いて、巻毛の小さな赤ん坊ジーンがリタと共に現れた。その後時は流れて、リタとJの娘ジーンは婚約者の紹介のためにリタの元を訪れていた。リタの暮らす家ではエドモンドがおり、詩人たちの会合の手伝いをしていた。そんなエドモンドにジーンは早く母にプロポーズしろとせかす。一方Jはその頃、自身の母親の元へポールとともに訪れていた。ジーンが婚約者を連れてくることを思い出したポールがJと母親を呼びに行くと、2人は仲良く池のほとりで歌を歌っていた。ポールはNYで弁護士として家で待つJのために働き、忙しくも楽しい新婚生活を心から大切な人と送っている。

『Jの総て』の登場人物・キャラクター

J(ジェイ)

本名はJ・M・オースチンだが、カレンズバーグの養子になってからはJ・S・カレンズバーグと名乗る。性同一性障害であり、幼い頃は自身を女性だと思っていた。金髪の巻毛で、中性的で整った容姿をしている。マリリン・モンローが大好きで、その訃報に気絶するほどだった。父親の死や母親の病は、全て自分が引き起こしてしまったことだと思い悩む青春時代を送った。ポールに恋愛感情を持っているが、自身のせいで不幸にさせてしまうと突き放してしまう臆病な一面を持つ。周囲には強気で威勢のいい態度を取るが、実際は脆く精神的に弱い部分がある。

ポール・アンダーソン

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