ウツボラ(漫画 ・ ドラマ)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『ウツボラ』とは、太田出版の雑誌『マンガ・エロティクス・エフ』で2008年11月から不定期で連載された中村明日美子原作の漫画およびそれを原作としたドラマ作品。身元不明の投身自殺死体が発見されるところから物語が始まる。主人公の溝呂木舜は人気作家でありながら、この自殺した藤乃朱の執筆した小説『ウツボラ』を盗作し発表していた。朱が死亡すると入れ替わるように朱の双子の妹と名乗る三木桜が溝呂木の前に現れる。正体が謎に包まれた瓜二つの女性、朱と桜により深い闇に追い詰められていくサイコ・サスペンス作品である。

『ウツボラ』の概要

『ウツボラ』とは、『マンガ・エロティクス・エフ』(太田出版)にて2008年11月から2012年3月まで不定期で連載された中村明日美子原作の漫画、およびそれを原作としたドラマ作品である。「このマンガがすごい!2011」で第7位にランクインし、連載当時からミステリアスな展開と官能的な描写で話題を呼んでいた。コミックスは全2巻で完結しているにも関わらず、完結後も朱や桜の正体について読者による考察が未だ繰り広げられている。

ある日、雑居ビルから飛び降り自殺をした身元不明の女性の死体が発見される。死体は身元が確認できるものを一切持っておらず、唯一残された携帯電話には履歴が2つしか残されていなかった。携帯電話の履歴から、警察は彼女の正体を藤乃朱(ふじのあき)と推定する。朱の携帯の履歴に残されていたのは、主人公である作家・溝呂木舜(みぞろぎしゅん)と、朱の双子の妹と名乗る三木桜(みきさくら)だった。溝呂木は朱が書いた小説『ウツボラ』を盗作しており、彼女の死によって窮地に立たされる。朱と入れ替わるように現れた桜は、『ウツボラ』の続編を持ち溝呂木に近づくと、共著での『ウツボラ』出版を持ち掛け、彼を深い闇へと追い詰めていく。一方で、刑事たちは朱の死の真相を追っていた。

この漫画は複雑に絡み合う「身元不明の死体」、「瓜二つの美しい女性・朱と桜の存在」を謎解くミステリー要素もありながら、さらに「盗作に手を染めた作家・溝呂木舜」と、「朱と桜」とのミステリアスで官能的な3人の関係も見どころとなっている。

『ウツボラ』のあらすじ・ストーリー

顔のない死体編

ある日、雑居ビルで身元不明の女性の死体が発見される。女性は上半身の損傷が激しく、身元を示すものを持っていなかった。唯一の手がかりは携帯電話だけで、そこには溝呂木舜(みぞろぎしゅん)と三木桜(みきさくら)の2人の履歴だけが残っていた。警察はその携帯電話から身元不明の女性は藤乃朱(ふじのあき)ではないかと推測する。
警察から身元確認を依頼された溝呂木は、警察署に駆けつける。生活安全課の刑事である望月(もちづき)とその部下の海馬(かいば)に、身元不明の女性の死体が朱である可能性があると聞かされる。過去に出版社主催のパーティーで朱と会っていた溝呂木だったが、遺体の激しい損傷により顔を確認することはできず、朱であるかはわからなかった。
そして、溝呂木は警察署で朱に瓜二つの双子の妹だと名乗る桜と出会う。驚いた溝呂木は桜と話をしようと喫茶店に誘う。桜は朱が小説を書いていたことを溝呂木に話す。朱の「ウツボラ」を盗作していた溝呂木は死んだ朱が続編を残していなかったかどうか気になり、「朱は遺書を残していなかったか」と桜に尋ねる。桜は「追って連絡します」とだけ答え、連絡先を交換する。

数日後、溝呂木は古くからの友人で、作家の矢田部(やたべ)に相撲観戦に誘われる。矢田部は溝呂木が発表した小説『ウツボラ』を褒めた。そして、溝呂木に過去に出版社主催のパーティーで会っていた女性のことを尋ねるが、溝呂木は何も答えなかった。

その時、溝呂木のもとに海馬から連絡があり、「三木桜という人物は実在しない」と告げられる。桜が警察に提出していた連絡先は全て嘘だった。

桜の正体が不明となり不信感を募らせる溝呂木の元に、海馬からの連絡に割り込むように桜から連絡が来る。溝呂木はその桜からの誘いで朱の自宅とされるマンションに2人で訪れた。部屋には最低限の家具しかなかった。そんな部屋を見た桜は、「本当は朱なんて存在しないのかもしれない」と取り乱し、その気持ちを落ち着かせるため部屋を出た。桜が席を外した隙に溝呂木は『ウツボラ』の原稿を探し始める。そんな溝呂木に向かって桜は、『ウツボラ』の第二回原稿を投げつける。「先生は作家としての自分が守れればそれでいいんでしょ」と桜が溝呂木を責めると、溝呂木の携帯電話に編集担当の辻真琴(つじまこと)から原稿を催促する連絡がある。通常月末であった月刊「さえずり」の締め切りが事情により早まったため、すぐに原稿がほしいと伝えられる。焦った溝呂木は桜から『ウツボラ』第二回の原稿を手に入れ、それを自分の原稿として辻に提出した。

桜から原稿を受け取って以降、溝呂木は連絡が来る度に彼女と会っていた。ある時、桜は溝呂木に「私たちで『ウツボラ』を一冊の本にしましょう」と提案する。

本当の作者編

溝呂木が朱の原稿を盗用するきっかけとなったのは、彼がたまたま矢田部に連れられて編集部を訪問し、辻と初めて顔を合わせた時のことだった。
編集部の机の上に、新人賞に応募された小説の封筒がいくつも積み重なっていた。溝呂木は辻が席を外した時、ひとつを無断で持ち帰っていた。
その以前から溝呂木の自宅には、直接ファンレターや小説のようなものが投函されていた。それらの差出人はすべて藤乃朱だった。この日、偶然、溝呂木は藤乃朱の名前が書かれた封筒を見つけ、持ち帰っていた。

数日後、海馬から連絡を受けた溝呂木は、彼と喫茶店で待ち合わせる。海馬は朱が持っていた携帯電話の契約者が秋山富士子(あきやまふじこ)という女子大生であったことを告げる。調べによると富士子はここ最近大学には出席していなかった。海馬は朱と桜は同一人物なのではないかと推理し溝呂木に意見を求めるが、溝呂木はそれを「くだらない」と一蹴し喫茶店を後にした。

溝呂木と同居し家事の全般を担っている姪の溝呂木コヨミ(みぞろぎこよみ)は、溝呂木の帰宅が遅くなり不要になってしまった夕食を食べてもらうため、辻と矢田部を家に招く。そこで辻と鉢合わせた矢田部は、以前から疑問に思っていた『ウツボラ』の本当の作者について辻に問い質す。矢田部は辻の手によるものだと疑っていたが、辻はそれを否定する。2人はそれぞれ、溝呂木が何者かの作品を盗作していると疑惑を深めていた。
数日後、出版社に「溝呂木舜にはゴーストライターがいる」「『ウツボラ』は盗作だ」と告げる電話がある。その電話を受けた辻は『ウツボラ』の本当の作者である「藤乃朱」を名乗る桜とホテルのラウンジで会う約束をした。辻の元に現れた桜は『ウツボラ』が自分の作品であることと次の原稿を持っていることを話す。しかし、辻は話を遮り、桜の前に新人賞に応募された『ウツボラ』の原稿を差し出す。辻は新人賞の一次選考を担当しており、応募作の中から『ウツボラ』を読んでいた。朱の『ウツボラ』に魅力を感じたが、あまりにも溝呂木の文章に似すぎていることを懸念し、朱の作品を自分の手元に残していた。実は、朱の書いた『ウツボラ』は桜によって勝手に出版社に投稿されていたが、朱も自ら『ウツボラ』を出版社に投稿していた。このため一方の原稿を溝呂木が、もう一方の原稿を辻がそれぞれ手にすることになっていた。
謝罪する辻に対して、桜は自身がゴーストライター本人である証拠として、先日溝呂木に渡した次回作の『ウツボラ』のデータを渡す。さらに桜は辻を誘惑し、二人は体を重ねる。

その頃、望月のもとに知り合いの刑事から、違法な治療をしている美容外科クリニックを摘発したと連絡が入る。その医者のもとに富士子のカルテが残されていた。

辻は桜からもらったデータと溝呂木から送られた原稿を確認し、盗作を確信する。そして、編集長に盗作の事実を伝えた。しかし、編集長からは、作品のことを考えるのであれば、無名作家の作品として発表するより、溝呂木の作品として発表するほうが売れる、と言われる。やりきれない思いを胸に溝呂木の家を訪ねた辻は、溝呂木の部屋で藤乃朱の名が書かれた『ウツボラ』の原稿を見つけ、自分が憧れていた作家の落ちぶれた姿に怒りをぶつける。さらに辻は、密かに思いを寄せていたコヨミを得ることを交換条件に溝呂木を脅迫する。しかし辻は自身も業界の腐敗に染まっていることに気付くと、コヨミを傷つけることなく帰宅させ、そのまま消息を絶った。

数日後、溝呂木と桜は朱が飛び降りたビルの屋上で再会する。溝呂木は桜に『ウツボラ』はボツにしようと提案する。溝呂木の発言に取り乱した桜は手すりの上に立ち、飛び降りようとする。それを見た溝呂木は慌てて発言を取り消し、続きを書くことを約束する。しかし、桜は「きっと彼女のことを書いてくださいね」と伝え、ビルから飛び降りてしまう。

『ウツボラ』の最終話編

警察が対策をしていたおかげで、ビルから飛び降りた桜は一命を取り留めた。意識が戻った桜に、望月と海馬は溝呂木が行方不明であることを伝える。その後、桜は病院を抜け出し溝呂木の元に向かう。

望月は摘発された美容外科クリニックが、完全紹介制であることを突き止めていた。そして、富士子を紹介した女性が、大手生命保険会社に勤めていた元OLで現在は行方不明であること、横領の容疑がかけられていることを海馬に伝える。

溝呂木の元に向かった桜は、『ウツボラ』の最終話を書き上げた彼と再会する。最終話の原稿を読み終わった桜は、溝呂木に感謝の言葉を述べ、彼も桜を労った。朱が亡くなってから『ウツボラ』出版のために奔走した日々を思い、桜は溝呂木に「上手くやれたでしょうか」と尋ねる。それに対して溝呂木は「完璧だった」と答えた。桜を名乗っていたのは、横領疑惑をかけられ行方不明になっている元OLだった。
彼女は富士子に桜と瓜二つの顔に整形を受けさせ、藤乃朱として溝呂木に近づくように計画していた。しかし、富士子は投身自殺をする。死後、桜は富士子の望みが「『ウツボラ』を溝呂木の手によって書き上げること」だと悟ると、桜は溝呂木の前に現れ、富士子のために奔走していたいたのだった。
桜の願いを受け止めた溝呂木は、「君こそ僕の一番愛しいものだ」と桜を抱きしめる。

翌朝、溝呂木は矢田部に宛てた手紙を手に桜と海へ向かう。恋人同士のようにはしゃぐ二人だが、桜が手紙を投函しに行っている間に、溝呂木は海の方へと歩き出す。そして、翌日、溝呂木の遺体が上がった。

溝呂木の死後、桜は出版社を訪れ、最後の原稿を失踪した辻の後任の編集者へ手渡す。原稿は溝呂木舜と藤乃朱の連名になっており、編集者も事前に溝呂木から手紙で「藤乃朱との共著にしてほしい」と頼まれていた。しかし、すでに「溝呂木舜」1人の名義で出版されていた『ウツボラ』を今更共著にすることはできず、桜もそれについて了承する。その後出版された『ウツボラ』は、作者の謎の死という話題性もあり、売り上げを伸ばし、溝呂木舜の代表作となった。

溝呂木の一周忌を前に、コヨミと矢田部は彼の墓の前で偶然会っていた。コヨミに近況を聞く矢田部だが、コヨミは「おじさまがいてくれたら、それでよかった」と涙を流す。

コヨミは溝呂木の墓前からの帰り道、お腹の大きくなった桜とすれ違った。

『ウツボラ』の登場人物・キャラクター

主要人物

溝呂木舜(みぞろぎしゅん )(演:北村有起哉)

溝呂木舜

この漫画の主人公。南洋出版の人気作家。
スランプで新作を書くことができなくなったため、魔がさして藤乃朱が新人賞に応募した小説『ウツボラ』を盗作する。
過去にはエッセイや社会派のコラムなども書いていたが、本来は耽美的な作風の作家。
作品には、必ずこの世のものとは思えない美しい少女が登場する。
また、学生時代から女性に人気があり、本作の中で三木桜と関係を持つほかにも、同居している姪のコヨミからも思いを寄せられている。
小学生の終わり頃、車にはねられたことがあり、それが原因で性的不能になった可能性がある。そのことから、年若い姪のコヨミを彼女の両親から預けられている。

藤乃朱(ふじのあき)/ 秋山富士子(あきやまふじこ)(演:前田敦子)

藤乃朱

雑居ビルから飛び降り、身元不明の死体として発見される。
唯一残された携帯電話には、溝呂木舜と三木桜の連絡先しか登録されていなかった。
正体は都内の女子大に通う大学生、秋山富士子。溝呂木舜の熱狂的なファンで藤乃朱のペンネームで『ウツボラ』を執筆する。
整形し、三木桜と同じ顔になる。

三木桜 (みきさくら)/ 浅尾ゆかり(あさおゆかり)(演:前田敦子)

三木桜

自称、藤乃朱の双子の妹。朱とは瓜二つの容貌。
溝呂木舜が藤乃朱の小説を盗作したことを責めつつ、二人で『ウツボラ』を出版しようと持ち掛ける。
正体は大手生命保険会社に勤めていた元OLで横領の容疑がかけられている。「三木桜」も偽名で、本名は「浅○○」としか明かされていないが、ドラマでは浅尾ゆかり(あさおゆかり)と名付けられている。
三木桜の名前の由来は、秋山富士子と初めて図書館で出会った際、近くの本棚に並んでいる本のタイトルの頭文字を並べたもの。富士子の書いた『ウツボラ』を桜が無断で出版社へ投稿したことで、作中に『ウツボラ』が2つ登場することになった。
富士子のために『ウツボラ』を出版させようと画策し、出版社主催のパーティーで「藤乃朱」の名を騙り溝呂木舜に近付いた。

出版関係者

辻真琴(つじまこと)(演:藤原季節)

南洋出版の編集者で32歳。溝呂木舜、矢田部理を担当している。
学生時代から溝呂木のファンで作家として尊敬している。
溝呂木の姪コヨミに、密かに思いを寄せている。
『ウツボラ』の締め切りが早まったことを溝呂木に隠しており、その結果として彼を追い詰めることになる。

矢田部理(やたべおさむ)(演:渡辺いっけい)

Hua18257
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