Jの総て(漫画)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『Jの総て』は『マンガ・エロティクスF』(太田出版)で連載された、中村明日美子によるボーイズラブ作品。作者の代表作には『ウツボラ』『同級生』『ばら色の頬のころ』『ノケモノと花嫁』『Jの総て』があり、艶やかで官能的な絵柄と登場人物一人一人を際立たせる深い物語が特徴である。舞台は1950年代のアメリカ。10歳の少年Jは、映画館で初めてマリリン・モンローを観て強烈な憧れを抱いた。これは同性愛者が生きるには窮屈な世の中で、マリリン・モンローになりたいJの愛と絶望の半生を描いた物語。

ポールと同級生のヤンチャな問題児。市長の息子で、自分を理解してくれない父親に対して反発していた。転入したての風変わりなJを気に入り、何かと面倒を見ていた。刑務所でJと再会した際も、「保護者」としてそばに寄り添って世話を焼いていた面倒見のいい性格。ポールに好意を抱いていたが、実際に会うと突っかかってしまう不器用な一面もある。

リタ・バーセルミ

出典: bookmeter.com

画像右下の赤髪の女性がリタ。

本名はマーガレットの、JがNYで拾った自称詩人。赤毛の短髪で化粧っ気のないボーイッシュな容姿をしている。数年後に失踪したJを探している時は、髪の毛がロングである。自分のやりたいことやなりたい自分をもって、NYで懸命に働くJに憧れと好意を抱いていたが、女性である自分に振り向いてもらえずに苦悩する。Jへの当てつけでアーサーと寝るが、その後Jとも肉体関係をもち、そのことからJの子供を妊娠する。失踪したJを探して無事に娘とともに再会を果たす。

アーサー・ユースタス

JがNYで働くクラブ「ブルー・ラビット」のオーナー。白のスーツにオールバックで背も高く、スマートな都会の男。その発言は時に冷血な印象を受けるが、Jを仕事のパートナーとして大切に思っている。リタに好意を抱くが、なかなか思いが届かず悶々としている様はどこか可愛らしい。

エドモンド・クレモンス

NYの雑誌記者で、売れっ子クラブ歌手のJを創刊第一号の記事にしようと訪ねてくる。その後すぐに失踪してしまったJをリタとともに探すためにポールの元へ訪れ、彼の相談役として交友を深める。リタに思いを寄せるが、何年経っても言い出せずにいる。

カレンズバーグ

祖母の設立したカレンズバーグ高等中学校を継いで理事長を務める。妹の忘れ形見であるポールをできる限りの愛情で大切に育ててきた。厳格なキリスト教で、ユダヤ人であるポールの父親を妹をたぶらかしたとして憎んでいる。小太りで背が小さく、フリルの多い可愛らしい服装を好んで着ているが昔は痩せて美人だった。

ジーン

リタとJの娘。幼い頃に一度だけJに会うが、その時のことを「夢みたいに綺麗なひとだった」と語る。また、Jのことは「ママJ」と言っており、婚約者を紹介しに行くなど関係は良好である。

『Jの総て』の用語

カレンズバーグ高等中学校

ポールの叔母であるカレンズバーグが理事長を務める学校。ヨーロッパ圏で見られる大学進学を目的とした教育機関の「ギムナジウム」の形態をしている。ギムナジウムの語源はドイツであり、全寮制の7〜9年制のものがある。作者は別作品の取材のためにフランスへ訪れた際にこのギムナジウムに触れ、作品に入れようとしたが話が膨らみすぎるため『Jの総て』に入れることになった。

浮浪罪

Jが刑務所に来た理由。当時のNYでは警察がノルマ達成のために、Jのように所在のはっきりしないものを軽犯罪者として捕らえていた。軽犯罪のため留置期間は短いが、ポールはJが無罪になるように手を貸そうとする。結局短期での釈放になった。日本でも警察犯処罰令に定められていたが、その内容は「一定の住居または生業なくして諸方に徘徊する者は、30日未満の拘留に処せられる」といったもので、裁判によらない処分を可能にしていたためNYのものと類似して警察による安易な勾留が横行する実態があった。日本の警察犯処罰令は1948年に廃止されたが、浮浪罪相当のものは軽犯罪法に現存している。

KKK

クー・クラックス・クランの略称で、アメリカの秘密結社・白人至上主義団体のことをいう。Jを一晩買った大物議員はこの団体への所属を疑われていたが、議員ということからも断れずにJは彼のもとを訪れ性行為を含めた暴行を受けた。この議員は自身をKKKではないと言っているが、有色人種や同性愛者への暴言が作中では見られていた。

『Jの総て』の名言・名セリフ/名シーン・名場面

J「わたしたちは女の子。リトルロックの女の子。生まれ育ちは下町よ。でも毎日紳士が遊びに来たわ。愛してるって会いに来たわ。」

映画『紳士は金髪がお好き』の劇中歌で、主人公のマリリン・モンローが親友役のジェーン・ラッセルとデュエットする。モンローの大ファンであるJが学生時代に口ずさんでいたり、最後母親と仲睦まじく歌うなど作中何度か登場する。歌詞の中には小さな田舎町からNYに出てきた少女のことが歌われており、Jは自身を重ねていたのかもしれない。

ポール「僕は君が好きだ。それだけじゃ2人で生きてく理由にならないのか。僕はもう…君と離れたくないんだ…っ」

出所したJがポールの用意した2人で暮らすためのマンションの窓から身を投げた後、必死に救出したポールが泣きながらJに伝えた言葉。普段感情をあまり出さないポールの涙とJへの大きな愛が詰まっている。この言葉を聞いたJは、ポールと一緒に生きていくことを決心する。

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