死役所(漫画・ドラマ)のネタバレ解説まとめ

『死役所』とは、あずみきしが2013年11月号から『月刊コミック@バンチ』(新潮社)にて連載中の漫画、およびそれを原作としたテレビドラマ作品。主人公の死役所職員『シ村』が毎日途切れる事なく迎える相手、それは死者。シ村は死者をお客様と呼び死後の手続きを進める。作り笑いと辛辣な物言いに顰蹙を買う主人公だが交流を重ねる内にお客様との心の距離を縮めていき、それぞれの死後の世界へ見送りする。死後だからこそ知る真実や生前からの思いや行動、様々な人間関係が交錯するヒューマンドラマ作品である。

『死役所』の概要

『死役所』とは、あずみきしが2013年11月号から『月刊コミック@バンチ』(新潮社)にて連載中の漫画、およびそれを原作としたテレビドラマ作品。2017年3月8日付の週間マンガランキングにて【マンガランキング】8位。2017年8月8日付日刊ビビビにて、2017年上半期マンガランキング1位。その他第1話目から各方面から高い評価を得ており、著名人からも人気の高い作品である。
「死役所」は、死後に自らの死の手続きをするために訪れるあの世とこの世の狭間にある場所。死因はさまざまであれ(自殺、他殺、病死、事故死、寿命等)死を迎えた人が必ず一度は立ち寄る場所である。生前である過去、死役所にいる今現在、自らが選ぶ今後歩む死後の未来、訪れる死人の数だけある人生について描かれている。また、ここで働く死役所職員も全員死亡した人間であるが、何故死んでなお就労しているのか、他訪問者と違い死後の世界へと行かずに「死役所」(狭間)に留まっているのか、職員の人間模様や過去も徐々に明らかになっていくヒューマンドラマ作品である。2020年11月現在コミック17巻既刊。売上累計部数は2019年8月時点で300万部を突破している人気作品(紙、電子合わせ)。またテレビドラマとして2019年10月から12月までテレビ東京にて、TOKIOの松岡昌宏主演で放送された。

『死役所』のあらすじ・ストーリー

第一話の表紙。死役所には様々な死因で亡くなった死者が来訪する。

本作は、主人公シ村及び死役所職員の一部に関しては物語が徐々に明らかになっていくものもあるが、基本的には一話完結のストーリーとなっている。

『あしたのわたし』(コミック1巻収録)

総合案内シ村の元へは今日もたくさんの死人が訪れている。そんなお客様にシ村は変わらない笑顔を浮かべて対応していた。「お客様は仏様ですから」そんなシ村に声を掛けた人物。「よう、シ村さん」同死役所職員のイシ間だ。「イシ間さんお疲れ様です」「お疲れさん」話し始めたばかりの二人へ「あのぅ癌で死んだんですけどね」愛想よく客対応するシ村。そんな姿を見ながらイシ間はやっぱり年寄り相手がいいよなと漏らす。「やるせねーぜ、子供相手はよー」年端もいかない内に死ぬ事が禁止にならないものかと言うイシ間に「お年寄りはどんどん死ねという事ですね」とにこやかに返すシ村。「極端な解釈すんなよ」呆れるイシ間と謝るシ村だがその間もお客様は引切り無しに訪れ総合案内は多忙を極める。
ちょうど通りかかった職員ニシ川がイシ間にお疲れ様ですと声を掛けたのをきっかけにイシ間もその場を離れニシ川を手伝おうと申し出るが、死んでいるから大丈夫(死んでいるから疲れもない重くもない)と返される。シ村が働いている姿を見ながら二人は大変そうだと話す。実際ベテランのイシ間から見ても一番忙しい係だという事だが「でもま、本人の希望で配属されたからな」呟くイシ間。訳アリの様子をニシ川は察するがそれ以上は突っ込まない。階段を昇りながらイシ間とニシ川の会話は続く。忙しい課の話から自然とニシ川の所属「自殺課」に今日子供は来たか?と尋ねるイシ間。小学生が一人来ましたと聞き落ち込むイシ間に「落ち込むなら聞かないでくださいよ」とニシ川。子供が好きなイシ間。そんな彼の胸の職員証に記載された所属課は子供の死と縁遠い他殺課の文字だった。

幼稚園の風景。「せんせーあそぼ」子供達に人気の先生は常に子供達に囲まれ事務作業も出来ない程てんてこまいだ。「じゃあ凛先生のお仕事お手伝いする」くりくりとした目のかわいい女の子は胸に絵本を抱きしめてそう言った。絵本の題名は「あしたのわたし」。そしたらみんなで遊べるよーと言う凛に他の子供達も喜んで賛成するが先生は苦笑いをしながら先生の仕事はみんなにはちょっと難しいのだと諭す。そんな中窓の外は初雪が降り始める。子供達は大喜びで外へ飛び出していくが男の子が走り出した瞬間、凛に引っ掛かり転ばせてしまう。本を抱えたまま転ぶ凛。謝る男の子と心配する先生に凛は大丈夫だよと明るく返事をするのだった。他の子供達が外で遊んでいる中、凛は先生に転んだ傷の手当を受けている。「絵本もキズついてない?」「うん」「大事な絵本だもんねー」とそこまで言いかけて先生は何かに気付く。それは凛の首の痣。それどうしたの?と尋ねる先生に凛は「転んだの」と返した。それ以上何を聞かれても煮え切らない返事しかしない凛。最後に先生が「ね、凛ちゃん、お母さんおうちでどんな感じ?」と言葉を選びつつ尋ねると凛は「お母さんやさしいよ」と答えたのであった。
凛も外へ遊びに出て行った後、園の事務所で担任先生は他のベテラン先生の元へ行き相談をしていた。「虐待?」「髪にフケがついていたり、同じ服ばかり着ていたり」金銭的に厳しい環境とは聞いていたがあの痣はいくらなんでもおかしいと話す担任先生。凛の母親は入園式も二日酔いで欠席するような人物らしい。担任先生の話を聞いてベテラン先生も同行し帰宅後に家庭訪問する事になった。
アパートの鍵を自分で開け玄関から入る凛。部屋中に散乱するゴミ。そんな部屋の中で布団に寝ている人物が凛の母親だった。凛が絵本をテーブルに置き朗読し始めると「うるさい!」と怒鳴る母親。「ごめんなさいお母さん、凛あっちで読むね」と台所の隅で凛は読み始める。「あしたのわたし─」小さな声でブツブツと読んでいる声は寝ている母親の耳には不愉快に響き手近にあった目覚まし時計を鷲掴み台所にいる凛の所までやってきて投げつけた。「うるさいって言ってんだろ!本くらい声出さずに読めんだろ!起こすんじゃねえよ!こんな本!」そう言って凛から絵本をひったくる母親。そんな母親に凛は必死に謝り本を返してくれるよう懇願する。母親は何も言わずにベランダの外へと凛を放り出すと絵本を投げつけ鍵をかけた。北風が吹く中折れてしまった絵本のページを一生懸命直す凛。そしてその場で朗読を再開していると、アパートの下から先生達の声が聞こえてきた。「お母さんが…先生に怒られちゃう…」ぎゅっと膝を抱え息を殺す凛。部屋の呼び鈴も鳴らされ玄関の外から声も掛かるが「お母さん出ちゃダメ」と凛は寒さに震える自分よりも母親が責められる事を気にかけジッと身を潜めている。幼稚園の先生達は不在と諦めやがて帰って行った。
やがて外はまた雪がちらつき始める。タイツ一枚でコンクリートの冷たさに耐えながら凛はその場でおもらしをしてしまう。そのタイミングで母親が窓の鍵を開けた。化粧をしコートを着た母親の姿。外出前に凛を家の中に入れようとしたが凛がおもらしをしていた事に腹を立て反省してろと言い残しそのまま鍵をかけ出かけてしまった。
その晩、担任の先生は自宅で首の痣について調べていた。「やっぱりおかしいよね…それにしても」室内でも感じる寒さに腕を摩る先生。今日は寒い。何度あるんだろう。眺めた窓の外は大雪になっていた。その頃凛は寒いベランダに座り込みカタカタと震えていたのだった。

他殺課のイシ間の所にシ村がやってくる。挨拶の後シ村が尋ねる。「今日はお子様は来られましたか?」「来てねーよ」子供が来る所じゃないと返すイシ間に年寄りはどんどん来いという事ですねとシ村。呆れるイシ間は不慣れなパソコン作業にも愚痴る。シ村はイシ間に代わってパソコン操作していたがモニターを見ながら「このごろ多いですね、虐待死」と言った。

夜中にベテラン先生に電話をかける担任先生。凛の事が気になるから明日出勤前の朝に凛の家に寄っていくと話す。電話を切った後テレビでは町中での凍死にも注意するようとのニュースが映っていた。要介護者のおもらしから体温が奪われ家の中でも凍死するケースもあると。エアコンをつけ部屋を暖める先生。
凛は寒いベランダで震えていた。おもらししたタイツはすでに凍り付いている。「寒いよお母さん」呟く声は誰にも届かない。震えながら絵本を開く凛。「あしたのわたしは─」
母親と男が酒に酔い笑いながら建物へ入っていく。男は娘が待っているのにいいのか?と母親に聞くが「あの子しっかりしてるから」と全く心配する様子もなく二人は朝まで楽しもうと消えていった。
「あしたのわたしは─」凛の記憶が走馬灯のように流れる。思い出すのは優しい母親の姿ばかり。おいしいね凛。凛、お風呂行くよ。絵本欲しいの?いいよもうすぐ誕生日だから特別。「あしたの凛は…お母さんと一緒…」
「お母さん大好き」それが凛の最期の言葉だった。
降り続ける雪。先生は暖かい部屋でコーヒーを飲みながら続きの本を読み、マンションでは母親と男が裸で抱き合っている。よく朝凛のアパートを訪ねる担任先生。呼び鈴を押すが誰も出てこない。凛ちゃん一緒に幼稚園に行こうと誘う先生の声は既にベランダで冷たくなっていた凛の耳は届かなかった。

他殺課のイシ間にシ村はパソコン操作を教えていた。シ村の物言いに閉口しながらシ村のような優秀な人がいてくれてありがたいと素直に感謝するイシ間。総合案内なんて面倒な事をよくやるよなと感心した時にシ村が他殺課来客に気付きイシ間に伝えた。「イシ間さん待望のお客様ですよ」課の入口に立っている小さな女の子。イシ間は悲痛な面持で女の子に聞いた。「お嬢ちゃん、本当にうちの課なのか?」「わかんない」
手続きが終わり成仏許可証を手渡すイシ間。これで成仏できる良かったなと話すイシ間に天国にいくの?と聞く凛。悪い事してなければ基本的に天国行きだと優しい笑顔で言うイシ間に凛は自分は天国に行けないかもと呟く凛。シ村が何か悪い事をしたのかと凛に尋ねると凛はお母さんを怒らせてきたから自分はいい子じゃなかったと言う。張り付いた笑顔のままシ村はそうですかと答えた。イシ間は不憫な女の子に「子供や殺されたやつは早く生まれ変わるから」と元気づけるが凛は自分が殺されたと思っていなかった。母親に虐められていただろう?と聞くイシ間に対し凛は「お母さんはすごく優しいんだよ」と目を輝かせて語る。寧ろ母が如何に自分に良くしてくれたのかを嬉々として語る凛。そんな凛の姿を見てイシ間は耐えきれずに凛の前で泣き出してしまう。どこか痛いのかと心配する凛にイシ間は大丈夫だと答える。「いい子なのになあ…なんでかなあ…」イシ間の悲しい疑問は凛には理解出来ず。生まれ変わるって何?という凛の問いにシ村がその絵本の話のように新しい命になって生まれる事ですよと教えた。
早く成仏すればまた母親に会えるかもしれないというイシ間の言葉に凛は嬉しそうに成仏課の方へ走って行ったのだった。やるせない気持ちのイシ間。「これだから子供も嫌なんだ」死ぬってことがどういう事なのかわかっていないと溜息をつく。「老衰課へ異動願いを出されたらいかかですか?」とシ村だが同じフロアに『死産課』があるから嫌だと言うイシ間。死んでもまだ母を庇う健気な幼心を「あれが愛ってのかね」と呟くイシ間にシ村は「いや、ただの洗脳でしょう」とシ村はきっぱりと言い切った。うまいことを言うとシ村に関心し「今度は本気で愛してくれるいい母ちゃんに会えるといいな」と凛の行く末を案じるのだった。

現世では凛の葬式が行われている。担任先生が泣きながら葬儀を後にする途中で凛に母親と男が話している後ろ姿を見かける。警察に疑われているのを心配する男に母親は心配ない、そんな事よりお荷物がなくなったのだから結婚してくれるよね?と笑っている。担任先生は怒りが抑えきれず母親の元へ走り頬を平手打ちした。唖然とする母親。男が担任先生を押さえつけ止めに入るが担任先生は大声で「人殺し!」と叫んでいた。凛はいつも母親を庇っていたのに!こんなにひどい母親なのに!凛を返せ!と泣きながら叫ぶ担任先生に母親は「馬鹿かてめー!あたしのモノなんだよ凛は!」と怒鳴り返し掴み掛かろうとしたその時、大柄な男が二人母親の前に立ち塞がる。男達は令状を持った殺人課の刑事だった。「小野田瞳さん。小野田凛さん殺害の件で逮捕状がでています」。蒼白になり潔白を主張する瞳だが向かいの市営住宅から目撃情報があると言われ同行を促される。それでもなお言い逃れしようとする瞳は先程担任教師に暴行を受けたからその女も逮捕しろと刑事に詰め寄るが
「悔やまれますよ。叩いた時点で(瞳が凛を叩いた時点で)逮捕しておけば凛ちゃんは死なずに済んだんですから…」
刑事にそう言われ最早何も返す言葉がない瞳。行きましょうの言葉に従い葬儀の場から警察へと連行されていった。
他殺課のイシ間。シ村相手にまだ愚痴っている。あの子の母親が職員にでもなったらどうすると危惧するイシ間。自分が殺してしまうかもしれないと零すイシ間にシ村は自分達は死んでいるので殺す事は出来ないと真面目に返す。わかってると返すイシ間だが話の本題はこちらのようだった。
「でもよー可能性はあるよなー子供一人殺してるんだから」
「どうですかね?死刑にならないとここの職員にはなれませんからねぇ」
答えたシ村の顔はいつもと変わらない薄い笑顔だった。

『堕ちる』(コミック4巻収録)

ニシ川がシ村相手にボヤいている。ニシ川が手を焼いている相手、それはミチルという女子大生だ。ミチルはコンパ中に急性アルコール中毒で死んでしまったが死因が気に入らない事と好奇心旺盛な性格の為49日の成仏猶予期間を死役所内で好き勝手に散策していた。(「成仏しません」コミック3巻収録)ミチルの性格上騒ぎ立てる予測し、ニシ川とシ村はミチルに死役所職員の過去(死刑囚である事等)を知られる事を心配していたのだ。そんな中すっかり死役所職員の仕事を勝手に手伝うミチル。「こんにちはーお客様今日はどのようにして亡くなられましたか?」死人に声を掛けるミチルを止めるニシ川。当の本人は説教をされてもどこ吹く風だ。シ村は改めて目の前の死人に声を掛ける。「お怪我をされているようですがどうされましたか?」シ村の目の前の死人は眼鏡が割れ顔中血だらけの女性だった。

「それじゃあ夕飯はおでん作ってあるから」そう言って玄関から出かける主婦の千裕に娘はしきりにいいなーと羨ましがっている。そこに旦那も顔を出し、専業主婦のくせに日曜日にホームパーティーに出かけるだなんていい身分だなと嫌味を言う中、千裕は作り笑いでいってきますとドアを閉めた。会場へ向かう車の中でも家の事で頭が一杯の千裕。炊飯器の予約を忘れた、子供達は喧嘩しないだろうか、冷蔵庫の中はなど考える内にふと「つまんないなぁ」と思いふける。自分の人生は何なんだろう、幸せといえば幸せだろう、しかし…女としても…「最後にパパとしたのいつだっけ?」そうこう考えている内に車は目的地に到着した。そこは映画に出てくるような大豪邸。玄関を入ると執事が千裕を迎える。「千裕様ですね。ようこそいらっしゃいました」千裕が驚いている所に奥から蘭子が上機嫌で飛び出してきた。「待ってたよ~」千裕に抱き着き頬にキスする蘭子。自分の認識と桁外れのホームパーティー。会場や来賓の様子に居心地の悪い千裕は料理を食べる手も震えていた。その時「あれ?蘭子さんの友達?」声の方を見るとそこには芸能人のような綺麗な顔をした若い男がいる。「あん、瀬斗」と蘭子と瀬斗はキスをする。キスをしながら友達の千裕だと瀬斗に紹介する蘭子。千裕は目の前で起こっている事にドギマギしながら蘭子に恋人か?と尋ねると蘭子はペットみたいなものだと笑った。千裕もかわいがってあげてねと瀬斗の喉を撫でながら言う蘭子に自分とは全然違う世界に住んでいるんだなぁと思うのだった。
瀬斗とソファで話す千裕。大学時代蘭子の代返をしていたのだが先日偶然街で再開しその時にパーティーに誘ってもらったと語る。自分とは全然違う人生を歩んでいる蘭子に驚いたと言う千裕の頬にキスをする瀬斗。驚愕する千裕に向って瀬斗は「かわいいなと思って」とニコニコしている。すでにキャパオーバーの千裕はグラスを握り締め赤面する事しかできなかったのだ。が。隣の瀬斗に何げなく視線を向けた千裕は見慣れない物を見て瀬斗に聞いた。「瀬斗くん何それ」瀬斗は慣れた手つきでパイプを持ちながら爽やかな笑顔で答える。薬だよと。リラックスできるから千裕もどうかと。薬の入った袋を千裕に手渡す瀬斗。心臓が跳ねる千裕。テレビでみたような光景。目の前の若い美男子は使い方を教えてあげると自分に笑いかける。しかし動揺と恐怖で心臓の鼓動は増すばかり。「い…いらない…何か怖いし…」と言いかけた所で後ろから回された腕。蘭子だ。「千裕、私がパーティーに誘った理由わかる?」

─退屈そうだったから。刺激が欲しいって顔に書いてあったからよ─

両手で怪しい薬の袋を力一杯握り締めた千裕。
蘭子と瀬斗に両脇から挟まれパイプを咥える千裕。パイプの煙を吸い込むとホワンといい気分に満たされる。「どう千裕気持ちいい?」蘭子の言葉に頷き千裕は更に一服と吸い込んでいく。蘭子は千裕に今セックスするともっと気持ちがいいと囁き瀬斗が千裕の唇を噛む。出席者の目の前で始めようとする千裕に瀬斗はベッドルームに行こうと誘うのだった。

帰宅しまだ薬で朦朧としている千裕。そんな千裕に旦那は歯を磨きながら嫌味を言う。主婦は気楽でいいと。千裕はいまだ欲情した体の疼きが治まらず旦那に抱き着く。旦那はそんな千裕を酔っぱらっているのかと怒鳴りつけ気持ち悪いと振りほどいた。翌日。すっかり正気に戻った千裕は昨日の事は事故だと自分に言い聞かせ主婦業に専念していたのだが蘭子からメールが入る。「瀬斗が千裕のことすっごく気に入ってたよ♪待ってるからまた来てね」その一言で蘇る昨日の記憶。煙を吸い込み若い男に抱かれ絶頂に登った自分の姿。「気持ちよかったなぁもう一回だけ」涎を垂らして妄想する千裕。

「いらっしゃい千裕」笑顔で迎える蘭子の奥で瀬斗が微笑んでいる。
大丈夫。はまらなければ問題ない。これが最後。もうしない。もう一回だけ。もうやめる。日々頭の中で言い訳を繰り返しながら堕ちていく千裕。大丈夫と繰り返し思いながら自宅のテーブルに突っ伏した千裕の後ろで子供二人が「ママ…ご飯は…」と恐る恐る声を掛ける。廃人同然の千裕は起き上がる気力もなくコンビニで何か買ってきたらと寝言のように答えた。あたしは大丈夫と思う千裕に向って旦那が主婦なんだから掃除くらいしろよと叱っているが千裕の耳にはそれも届かない。子供達が台所で洗い物をしている最中ガタガタと玄関から出ていく千裕。「ママ…また出かけるの?今度はいつ帰ってくる?」と聞かれている事にも気付かずに虚ろな瞳のまま出ていく母の後ろ姿に、残された子供二人は泣き崩れながら母を心配していた。

そんな日が続いたある日、千裕は子供二人を連れて外出した。子供二人は千裕の機嫌を損ねないようにとヒソヒソと小声で話しながら後部座席に座っている。げっそりと痩せて別人のような顔の千裕の耳にラジオから流れてくるニュースが飛び込んできた。
「続いてのニュースです。大手サロン経営の日暮蘭子容疑者が覚せい剤取締法違反の疑いで逮捕されました」
千裕の顔から滝の様に流れる汗。千裕はブツブツと呟いている。「知りません。やってません。蘭子?誰ですか?大学の時の…ああそうでしたね。でもそれ以来は全然。はい。友達でも何でもないです」車を運転しながら一人ブツブツと呟き続ける千裕は助手席に置いたバックから無意識にパイプを取り出し握り締め口に咥える。そんな普通ではない母の様子に後部座席の子供達が声を掛ける。「ママどうしたの?」振り返った千裕の目に映ったのは子供二人が心配そうにみつめる姿ではなく二人の警察官が恐ろしい顔で迫ってくる幻だった。驚いてアクセルを一杯に踏み込んだ千裕。後部座席の子供二人が必死で止める声も空しく千裕の運転する軽自動車は電柱に突っ込み千裕は35歳の生涯を終えた。

「そうですか。それは大変でしたね」死役所の廊下に座り込む千裕を労うシ村。千裕の話を聞いたミチルも「危険ドラッグをする人って本当にいるんだ、やめたくてもやめられなかったんだな、かわいそうと」思うが、すぐ隣から「よかったですね」と冷たい声が聞こえた。ニシ川だ。ニシ川はなんでもない顔のまま続ける。「浮気もドラッグもバレる前に死ねて」驚くミチル。「あ…あたしずっとやめるつもりで…苦しくて…」涙を浮かべて言う千裕にニシ川は「嘘。幸せだったくせに。女として身体を求められて。快楽を味わってたんでしょ」と言い放つ。
やめたくてもやめられない苦しみがあなたにわかるのかと言い返す千裕にニシ川は初めて嫌な顔を晒し一喝した。「馬鹿ですか?苦しかったのはあなたの子供達でしょう?」何も言い返せない千裕。死んでようやく事の重大さに気付く。「あ、苦しみ続けるって言った方がいいですか?まあ生きていればの話ですけど」と言うニシ川の言葉も「交通事故死課は4階ですので」と言うシ村の言葉も耳に入らずフラフラと歩きだす千裕。憔悴した後ろ姿を見送ったミチルはニシ川に死んだ人にあそこまで言わなくてもと咎めるが本当のことでしょ?と切り返されシ村も自業自得ですからねと笑顔でミチルに言い残し二人はそれぞれの職場へと戻っていく。残されたミチルはあまりに情のない死役所職員の一面を垣間見て困惑するのだった。
階段の踊り場に座り込み泣きながら祈っている千裕の後ろをニシ川が通り過ぎる。「ごめんなさい。お願いだから無事でいて。どうか神様」子供二人の命の心配する千裕。死んでようやく母の心を取り戻した千裕には「─また同乗していた子供二人の命に別状はありませんでした。次のニュースです」というラジオ放送すら聞く事も叶わないのである。

『夜ノ目町爆弾事件』(コミック12巻収録)

町の小さな牛乳配達店「アサダヨ牛乳」では今日も怒鳴り声が鳴り響く。「おい行亮!何でこねーに牛乳あまっとんな?届け直してけぇ!」店の店主であり行亮の父でもある人物が息子「行亮」の酷い仕事ぶりを叱責していた。本人は悪びれる様子もなく煙草をふかしている。そこへ男が二人現れる。手にしているのは警察手帳。「金子行亮だな?」何日か前にあった喧嘩の件で署まで連行される事になった行亮。パトカーで連行されていく息子に溜息をつく父。「親父」声を掛けられ振り返るとそこにはもう一人の息子、長男「茂」が立っていた。行亮は?と尋ねる茂に父は喧嘩して警察に連れていかれたと答えると茂はまた?と返す。行亮の素行の悪さは日常的な事だったのだ。
警察署で尋問が行われている。「それで、初対面の男を殴ったと」「そうじゃったかいなぁ」「相手は全治一週間じゃで。ケンカしたことくらい覚えとけ」「はあ、すんません。これから気を付けます」
「それから。夜ノ目(よのめ)の爆弾事件は知っとるな?」
刑事の目がギラリと光る。まあ近所だから。それが何か?と行亮が言い終わらない内に「お前がやったんじゃろう」と刑事が吐き捨てる。驚き否定する行亮に刑事は再度お前がやったのだと怒鳴りつけた。「お前がやったんじゃ。ほんまのこと言え!警察は全部わかっとんじゃ!7月1日午前7時30分頃。お前は被害者の鈴原さんの家の前に爆弾を置いた。そんで鈴原さんは爆発に巻き込まれて亡くなったんじゃ!」知らない、自分ではないと言う行亮に更に大声で怒鳴り返す刑事。そんな様子を見ていたもう一人の刑事が口を開く。「金子、お前事件の日牛乳配達してただろ。その時配達先の住人と話をしてる」
その日の朝の回想─住人「何かあったんですかね?」行亮「さあ…爆弾事件みたいですけど」住人に牛乳を渡す行亮。家に入った住人が家族に「爆弾事件じゃって」と伝える声が外にまで聞こえてきていた。
刑事は言う。「まだ全容もわからないのにお前は事件と言い切った。自らの口で犯人であることを証言してるんだ」行亮は自分がそう言った事も覚えてないと話すが刑事二人は行亮が犯人だと決めつけ、何を言っても聞く耳を持たない。犯行を認めろの一点張りに行亮は馬鹿馬鹿しくなり帰らせてくれと立ち上がった。しかし体はしっかりと押さえ付けられ椅子へと戻される。お前がやった、やってないの問答が続きその日は結局留置場に泊まる事になった。翌日もその翌日もずっと続く尋問。連行されてから一度も家に帰る事は叶わず毎日同じやりとりが繰り返される。刑事は「家族も早く罪を認めろと言っている」と言う。死んだ母はきっと泣いていると、父も姉も妹も、そして兄もと。兄の話題が出た時に行亮は初めて反応を見せた。「兄貴が?」刑事は兄も罪を認め償い、真っ当に生きて欲しいと言っていると行亮に話すがそれでも行亮の返事は「ワイはやっとらん…」の一言だった。それからいくつもの季節が過ぎ毎日同じ繰り返しを聞かれる中で行亮はとうとう「やりました」と自供してしまうのある。
裁判が始まり法廷で行亮の自供を録音したテープが流される。自分の短気な性格から会社勤めを辞め実家の家業を手伝い始めたが嫌々やっていた事。そんな時に被害者の鈴原さんから注意された事に腹を立て殺そうと思いついた事。自分は工業高校出身の為爆弾作りの知識があり、それを凶器に使用した事、事件の朝牛乳と一緒に玄関先に爆弾を置き、配達中に爆発音が聞こえたので成功したのだと思ったと行亮自身の声がテープから聞こえてくる。判決は無期懲役。その後上告も退けられ刑が確定し行亮は刑務所に収監された。
しかし行亮の刑期中の真面目な態度が認められある日突然仮釈放が言い渡される。迎えに来てくれたのは兄の茂。すっかり年を取ってしまった兄と自分の姿。長い長い年月を経てようやく兄弟は再会できたのだ。
社会復帰してからもすっかり真面目に生きるようになった行亮。ある晩茂に誘われて居酒屋で酒を飲みながら話す内に行亮は鈴原さんの墓参りに行こうと思っていると兄に伝えると一緒に付いていってやろうか?と言われる。一旦は断った行亮だがやはり一緒に行って欲しいと素直に頼むと茂は嬉しそうに「任せろ任せろ!俺はお兄ちゃんやけんな!」と行亮の肩をバシバシと叩く。「何がお兄ちゃんじゃ。気持ち悪い」と笑う行亮。しかし二人は本当に嬉しそうに可笑しそうに笑っている。ようやく人並みに笑える生活を送れるようになった事を実感する行亮だった。

死役所の廊下に立ち尽くすパジャマの人物。年老いた行亮だ。そんな行亮にシ村が声をかける。行亮の死因は肺炎だった為『肺炎死課』へ案内するシ村。そのままシ村が行亮の手続きをしようと行亮の過去データに目を通した時、シ村の目つきが変わった。「金子さん。冤罪…ですか?」驚く行亮。「わかるのか?」「ええ、データにありますので。判決は無期懲役。拘置所に9年刑務所に19年、長いこと頑張りましたね。ですが無事出られてよかった…」シ村がそう笑顔で言う最中に行亮はテーブルを叩き怒鳴った「権力なんかクソくらえじゃ…!」

『肺炎死課』のテーブルで話す行亮とシ村。「何の罰なんかと思うた」と語る行亮。長い取り調べが続き頭がおかしくなりそうだった行亮。警察は交代で尋問に当たるが行亮は一人きりで戦い体も心も疲弊していく。毎日同じ事を聞かれその内に本当に自分がやったのではないか?とさえ思うようになってしまったと言う。本当は何もしていないのに…呟く行亮にシ村は「ええ。わかります…」と返した。
夜の留置場で横になる行亮。疲れているのに眠れない。警察に聞いた、兄に早く認めて償えと言われた事が頭の中にちらつく。行亮にとって兄にそう言われる事は他の何よりショックだった。しかしやっていない事を認めるのもおかしい。しかし認めれば楽になるだろう。葛藤し揺れる気持ちのまま次の日もまた尋問は始まる。「いい加減認めえや金子!」刑事の怒鳴り声に行亮の頭の中で認めれば楽になれるという思いが浮かぶが行亮の口から出た言葉はやはり「やっとらん」の言葉だった。強情な行亮にもう一人の刑事が話しかける。以前、兄が罪を認めろと言っていると話した刑事だ。
「じゃあお前の兄さんがやったんだな」
言われている意味がわからない行亮。そういえばお前の兄貴も工業高校の出身だったなと目の前の刑事も続けて言うのを聞いて行亮はキレた。兄貴がそんな事するわけがない。馬鹿な事を言うなと否定する行亮に刑事二人はお前と兄貴二人共犯なんだなと決めつけて話を進める。口車に乗らされているいることに気付かない行亮は兄貴は関係ないと叫ぶが刑事二人が待っていたのはその言葉だった。兄貴はという事はお前一人でやったんだなと言う刑事。行亮は当然否定するが行亮の弱みが兄である事を知った刑事二人は兄を取り調べると言い出した。行亮の頭の中で優しい兄が自分と同じ尋問を受け、辛い状態になる様が浮かぶ。優しい兄なら自分の為に犯人になってしまう事も十分あり得る。人が一人死んでる事件、死刑になるかもしれない。あの優しい兄が。
行亮の頭の中で兄が自分に「お前は自分より弱いもんには絶対手ぇ出さんけぇそこは安心じゃわ」と笑ってくれる過去の映像が流れる。行亮のたった一人の理解者、それが兄だった。
兄が容疑者として上げられるかもしれない。「お前がやったんじゃな?」刑事の問いに行亮は「ワイがやりました」と自供したのだ。動き出す警察に兄貴には何もするなと約束させる行亮。その後拘置所に移送されやっと兄と面会した行亮。警察の尋問中の発言は嘘だと知る。茂は罪を認めろなどと言っていないと怒るが行亮は自分の代わりに兄が取り調べを受けるのを避ける為に自供したなどとは言えなかった。これから自分は裁判で戦うと告げる行亮に茂は自分も共に戦うと誓う。街頭で冤罪事件だと演説し署名を集める兄茂と拘置所内から新聞社や弁護士に手紙を送り無実を訴えた弟行亮。しかしその努力空しく刑は無期懲役として確定してしまったのだった。
『肺炎死課』のテーブルで行亮は自分史をシ村に語り終わった。お兄様と仲がよろしかったんですねと笑顔のシ村に兄貴は誰とも仲が良かったと好人物だった事を語る。物的証拠である茶筒爆弾に残された行亮の指紋についても捏造だと最後まで信じてくれた兄だったと。しかしシ村が行亮の過去データを見ると指紋が出たのは事実だったようだ。牛乳配達時に邪魔な茶筒をどかしたのかもしれないと告げられても行亮には全く覚えがなかった。「覚えていても…」結局は自分が有罪にされたであろう事、警察、検察、裁判官に28年間の人生を奪われた事を死んでも許すことは出来ないと怒りに震える行亮。そんな行亮にシ村は真犯人に対してどう思うか聞いてみると行亮は「そりゃまあ、許せんわ」とその事については深く考えた事がなかった様子で曖昧に答えた。シ村が何も罪を咎められる事なく今も普通に暮らしているか、もしくはそんな事件の犯人だから他にも事件を起こして捕まり死刑になっているかもしれないと話すと行亮は警察の奴らも一緒に死刑になればいいと言う。行亮の中ではあくまで憎い相手は権力であり冤罪=真犯人がいるという事実はあまり重要ではないらしい。
シ村は過去データを読みながら兄茂の功績を称えた。行亮の為に本当に頑張って活動をしていた記録が残されている。「街頭演説、署名、支援会発足、ホームページの作成、世間の目とも戦ってきたようですね」「そうじゃ。だからこそ兄貴の為にも無実を証明したかった」そんな行亮にシ村は心から労わりの言葉を掛ける。しかし行亮はシ村に何がわかると突っぱねるがシ村はいつになく真剣な顔で「いえ、わかります」と言うのだった。

手続きが終わりまた廊下で再会する行亮とシ村。成仏許可証を受け取ったら成仏課に提出するよう話すシ村に行亮は気になっていた事を切り出す。「お前さんも冤罪被害者なのか?」と。肯定したシ村に詳しく話して欲しいと頼む行亮。行亮は自分以外の冤罪被害者という仲間にあった事はない。この苦しみが共有出来る人の話を聞きたいと言う行亮に、はじめシ村は自分の話など面白くないとやんわりと断るが行亮の真剣な様子に「では少し昔話でもしましょうか…」と自らの過去を語り始めたのである。

※この後コミック13巻では一冊分シ村の過去について語られる。

『死役所』の登場人物・キャラクター

死役所職員について

死役所職員は全員元刑執行後の死刑囚である。苗字あるいは名前に必ず「シ」が入っており、その部分はカタカナで表記される。死刑囚は成仏はせず強制的に職員採用試験を受けなければならない事が条例に定められている。(冤罪の場合申請すれば成仏可能)。採用試験を辞退すると真っ暗闇を永久に彷徨う『冥途の道』行きとなる。採用後任期満了の辞令が下りれば成仏できる。辞令が下りても49日以内に成仏しなかったり、辞令を拒否すれば『冥途の道』行きになると言われる。なお、職員であれお客様であれ成仏=天国行きとは限らず死刑囚は地獄行きの可能性が高い為、必ずしも任期満了を望む職員ばかりではない。

主要人物

keeper
keeper
@keeper

目次 - Contents