オチビサン(安野モヨコ)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『オチビサン』とは、主人公・オチビサンの四季折々の日常を描いた安野モヨコによるフルカラー漫画である。1話ずつ1ページでストーリーが進む。『朝日新聞』に2007年4月から2014年3月まで連載され、2014年4月から2019年12月まで『AERA』(朝日新聞出版)に移籍して連載された。単行本は全10巻。オチビサンとその仲間たちのほのぼのとしたストーリーと、水彩画の絵が人気を呼んだ。絵本になりテレビアニメ化され、さらには動画配信サイトでも公開された。

物語の舞台である町。オチビサンをはじめとするキャラクターが住んでいる。豆粒町は架空の町だが、住所が鎌倉市豆粒町となっているので、鎌倉市にある設定である。
本物の人間が住む町のように電車が走り、家が建ち、自然豊かな町だ。電車の路線は豆粒線(まめつぶせん)である。オチビサンやナゼニのように不思議なキャラクターも住んでいれば、おじいのような人間も住んでいる。和菓子屋や金魚売りのお店の店主は、オチビサンサイズの人間だ。
主要キャラクターの家は、歩いてすぐ着く距離なのでお互いご近所同士である。だから頻繫にオチビサンやナゼニ、パンくいはお互いの家を行き来する。
豆粒川(まめつぶがわ)が流れており、その周辺には季節によってさまざまな植物が顔を出す。さらに桜の木、椿の茂み、杉の木など四季を身近に感じることができる木々が多く植えられている。豊かな自然と便利過ぎないまちづくりが形成されており、オチビサンたちは快適に暮らす。

豆オチビ(まめおちび)

オチビサンの頭から出てくる小さいサイズのオチビサン。オチビサンの分身のようなものである。オチビサンが夜眠りに就くころ、オチビサンの頭から小さな扉を開けて顔を出す。そして、春の訪れを知らせたりする。オチビサン本人は、豆オチビが動き回る間眠っているので、豆オチビの行動は夢の中で起こっていると思って目を覚ます。オチビサンと豆オチビが対面したことはないが、豆オチビはオチビサンが行くことの出来ない狭い空間や植物の間を動き回る。

『オチビサン』の名言・名セリフ/名シーン・名場面

「子どもの日」に夢が叶う場面

オチビサンには夢があった。
この日は端午の節句である。オチビサンは朝から柏もち作りに大忙しだ。「いそげいそげ」と材料を両手に持って、庭にでた。大きなボウルに粉を入れる。そこにお湯を注ぐ。オチビサンが粉をこねて、餅を作る。ナゼニは餅を蒸す担当だ。一度蒸した餅に、砂糖と片栗粉を混ぜて、もう一度蒸す。ナゼニが大きな鍋で餅を蒸している間、オチビサンは柏の葉を切る。2人で力を合わせた柏もちが完成した。「で…できた」と汗をぬぐうオチビサン。だが、中に入れる餡子がない。餡子は作らなくていいのだ。なぜなら、温かい餅の間にオチビサンとナゼニが入って寝転ぶからである。あんこになると言う長年の夢を2人で叶えた「子どもの日」であった。オチビサンの夢が叶い、オチビサンが笑顔で横になっている姿を見ると心温まる名場面だ。

ナゼニ「パンくいにパンをあずけるのは国にお金をあずけるのと同じだよ」

パンくいとすっかり友達になったオチビサンは、パンくいにパンをあずけることにした。パンくいいわく、「パンくいはパンをしまう箱を持っているからオチビサンのパンをあずかるよ。箱に入れてねかせておくと大きくなるしおいしくなるよ。増えたパンを後でじっくり食べる」とのことだ。「へえ、じゃああずけてみる」とオチビサンは言って、夕食用のパンをパンくいにあずけた。
半月後、オチビサンはパンくいの家を訪ねた。「こんにちわ、オチビのパンは育ちましたか」とオチビサンがパンくいに尋ねると「おいしくいただきました」と返事が返ってきた。オチビサンはナゼニに事情を説明した。オチビサンは、パンくいがパンを増やしてくれると思っていたのでショックだったのである。話を聞いたナゼニが「パンくいにパンをあずけるのは国にお金をあずけるのと同じだよ」とオチビサンに説いた。オチビサンはべそをかきながら「あの時食べときゃよかったと言うの?」と言った。
この場面は、ナゼニの頭の良さが現れる場面だ。ナゼニの言葉は的を得ている。国民は安心して税金や年金を預けるが、それが時々国会議員の不正利用されてしまうことがある。ほっこりするだけでなく、安野の皮肉がチクりと現れたナゼニのセリフだ。

命の大切さを感じる名場面

豆粒町には、樹齢が1000年を超える大きな銀杏の樹がある。毎年秋には、黄色く葉っぱが色づき黄葉が素晴らしい。だが、今年悲しい出来事があった。オチビサン、ナゼニ、パンくいがその大きな銀杏の樹のところへ行くと根こそぎ倒れていたのである。誰かが人工的に切ったわけではない。この銀杏の樹は、夜明けの誰もいない時に、ひっそり倒れたのだ。まるでそこに感情があって、誰にも迷惑をかけないように倒れたようにオチビサンには思えた。オチビサンは「とっても大きいからきっとすごく強いんだって思ってたの」と倒れた根元のそばで思う。パンくいも「いつでもそこにいてくれるって安心してて」と樹に語りかける。「きみがそんなにくたびれてたなんて知らなかったんだ」とナゼニも俯いた。3人は倒れた銀杏の樹に「ごめんよ…」と言って涙を流した。樹にも命がある。いつかは命が尽きることは人間や他の生き物と同じである。「今までずっとありがとう」と、心をこめて3人は涙の別れをした。この大木も、永遠には生きていけない。その抗えない事実をわかりやすく、そして丁寧に描かれたこのページは名場面である。

オチビサン「誰も答えてくんないってことは自分で答えを決めていいってことだ」

豆粒町に流れる豆粒川の水が、水路に流れている。そして水路と水路の間に橋がかかっている。橋といってもオチビサンが3歩で渡ることができるくらい小さい橋だ。オチビサンはその水路を越えて、また小さな橋を見つけた。「これもちっちゃい橋?」とオチビサンは見ながら言った。しかし、誰もいないのでオチビサンはその木の板が橋かどうかわからない。あたりをきょろきょろ見ながら「誰も答えてくんないってことは自分で答えを決めていいってことだ」とオチビサンは呟く。そしてピョンとジャンプしてその橋を渡った。「一歩で渡ったけど、これもちっちゃい橋!」とオチビサンはその水路の木の板を橋に決めた。
生活をしていて、疑問に思うことは山ほど出てくるものだ。そして、その答えを誰かに求めたくなる。オチビサンは、誰かにその答えを委ねるのではなく自分で決めた。この「誰も答えてくんないってことは自分で答えを決めていいってことだ」というオチビサンの気持ちは、とても心が純粋である。何かに迷ったときに読み返したい名言である。

『オチビサン』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話

『オチビサン』のグッズが発売された

総合ブランドバック会社の「MOTHERHOUSE(マザーハウス)」と、『オチビサン』がコラボした。そしてお散歩バックが製作された。「MOTHERHOUSE」とは、「途上国から世界に通用するブランドをつくる」という理念のもと、2006年に代表取締役兼チーフデザイナーである山口絵理子(やまぐち えりこ)が創業した総合バッグブランドである。『オチビサン』を読んだ山口が、「オチビサンみたいに小さくてもこだわりをもったカバンを届けたい」という思いで作者の安野と打合せが始まった。カバンは軽さを重視し、持ち運びしやすいように斜め掛けである。両手が空くので散歩にはピッタリ。カバンの丸みのある柔らかいフォルムが、優しい印象になる。内側に施された、赤×白の裏地はまさに「オチビサン」の服だ。カバンの色はキャメルとブラウンの2色展開だから、洋服にも合わせやすい。カバンは2015年の6月に販売された。5年以上の年月が経っているので、現在は正規オンラインショップでは購入できないが、安野モヨコの公式ホームページから閲覧可能ではある。

『オチビサン』の関連動画

『オチビサン:The Diary of Ochibi』

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