花ざかりの君たちへ(花君)のネタバレ解説・考察まとめ

『花ざかりの君たちへ』とは中条比紗也による学園ラブコメディーである。『花とゆめ』で1996年から2004年の8年間連載された。略称は『花君』(はなきみ)。主人公の芦屋瑞稀(あしや みずき)は憧れのハイジャンパー佐野泉(さの いずみ)に会うためアメリカからら男子校の桜咲学園(おうさかがくえん)に転入する。実は瑞稀は女で性別を偽っていた。女であることがバレないように学園生活を送る瑞稀に様々なハプニングが降りかかる。台湾、韓国でドラマ化され日本では2007年と2011年の2度ドラマ化された。

『花ざかりの君たちへ』の概要

『花ざかりの君たちへ』とは、中条比紗也による学園ラブコメディーである。略称は『花君』。白泉社の『花とゆめ』で1996年から2004年の8年間連載された。単行本は『花とゆめコミックス』から全23巻発売。また2007年の日本でのドラマ化を記念して愛蔵版が『花とゆめCOMICSスペシャル』から全12巻発売されている。ドラマがヒットしたことが相まって2017年1月時点で累計発行部数は1700万部を突破している。中条比紗也はデビュー前の1993年に『真夏の犯罪者』で、第18回白泉社アテナ新人大賞佳作を受賞。翌1994年に『花とゆめ』から『ハートの果実』でデビュー。数々の作品を発表していたが、特に『花君』は台湾、日本、韓国で相次いでドラマ化されたことで中条の代表作品となっている。
日本では2度ドラマ化された。1度目は2007年7月3日から9月18日のフジテレビ系列『花ざかりの君たちへ~イケメン♂パラダイス~』である。放送枠は毎週火曜日の21:00から21:54。放送は全12回であった。また2008年の10月12日に『卒業式&7と2分の1話スペシャル』のタイトルでスペシャル放送されている。主人公の芦屋瑞稀(あしや みずき)役は堀北真希が演じた。特にこのドラマで話題になったのが、堀北の完璧な役作りである。出演前に肩くらいまであった髪をバッサリカット。本当の男子高校生さながらの姿で主演を演じた。同ドラマのホームページや当時新聞に掲載されたドラマの宣伝写真に写る堀北は、他の男性キャストにも劣らないほどのイケメンぶりであった。またキャストも豪華であり、佐野泉(さの いずみ)役に小栗旬、中津秀一(なかつ しゅういち)役に生田斗真が起用されている。特に生田は当時はまだジャニーズJrで無名の俳優だったが、中津役がハマり役でこのドラマで知名度が上がった。ほかにも岡田将生、溝端淳平、鈴木亮平、水嶋ヒロなど脇役にも多くのイケメン俳優が出演している。瞬間最高視聴率は23.1%で、2007年夏クールにおいて視聴率第1位の高視聴率を記録した。(ビデオリサーチ調べ)
2度目は4年後の2011年でタイトルは『花ざかりの君たちへ~イケメン☆パラダイス~2011』である。2011年7月10日から9月18日まで放送された。放送枠は毎週日曜日の21:00から21:54。放送回数は全11回である。瑞稀役は当時AKB48の前田敦子が演じた。佐野泉役は中村蒼、中津役は三浦翔平が演じている。2007年の高視聴率に比べて大きく低迷し、第2シリーズの平均視聴率は7.1%だった。(ビデオリサーチ調べ)
2つのドラマを比べるとドラマ化された内容が違う。2007年の『花ざかりの君たちへ~イケメン♂パラダイス〜』では、原作の内容をほぼ再現している。時系列はバラバラだが寮対抗のイベントが多い学園という設定である。また、女であることがバレた瑞稀が学園を去る時、花道を作って皆が瑞稀を送り出す場面が漫画では描かれているが、こちらもドラマでは生徒1人1人が瑞稀に別れの挨拶をしている。2011年の『花ざかりの君たちへ~イケメン☆パラダイス~2011』では、原作と違い「桜咲学園がボロボロで廃校寸前」という設定であった。また瑞稀は最後に退学をするが生徒が見送るという場面はない。より原作に近いのは2007年版である。
主人公の芦屋瑞稀(あしや みずき)は、アメリカ育ちの女の子。テレビで何気なく見たハイジャンパー・佐野泉(さの いずみ)の美しい跳び方を見て、佐野に強い憧れを持つ。日本にいる佐野の情報を雑誌やテレビで徹底的に調べて、佐野が通う桜咲学園(おうさかがくえん)に転入する。桜咲学園は全寮制の男子校である。瑞稀は女の子だが性別を偽ってまでアメリカからやってきたのだ。絶対にバレてはいけない秘密を抱えながら、瑞稀は学園生活を送っていく。佐野のほかにサッカー少年の中津秀一(なかつ しゅういち)や、霊感を持つ萱島大樹(かやしま だいき)、陸上部の関目京悟(せきめ きょうご)など、桜咲学園には個性豊かなメンバーが揃っている。瑞稀は佐野と同じクラス、同じ寮部屋になり大喜びする。しかし、衝撃的なことに佐野はハイジャンプを辞めていた。彼にもう一度跳んでほしくて瑞稀は奮闘する。また、佐野と接しているうちに彼に恋心を抱いてしまう。さらに中津は瑞稀に恋をし、自分は「ホモなのではないか」と悩む。個性豊かな友達と学園生活を送る瑞稀だが、女の子であることがバレそうになるハプニングが次々と瑞稀に降りかかり、ドキドキハラハラする青春ストーリーである。

『花ざかりの君たちへ』のあらすじ・ストーリー

男子校に転入してきた少女

瑞稀(みずき)(左端)が、転校早々遅刻する場面。大急ぎで教室に駆け込む。

主人公の芦屋瑞稀(あしや みずき)は、大急ぎで桜咲学園(おうさかがくえん)に向かっていた。アメリカからやってきた彼女は、飛行機が遅延し転入日早々遅刻していたのだ。学園の廊下を走っていると、ある生徒と角でぶつかる。瑞稀が激突した相手は佐野泉(さの いずみ)だった。瑞稀は謝るが、「女みてぇ」と佐野につぶやかれる。慌てていた瑞稀は佐野であることに気が付かず、カバンを落としたままその場から逃げる。駆け込むようにして入った教室で「転入性の芦屋瑞稀ですッ。飛行機が遅れてしまいました…っ!!」と大きな声で挨拶をした。すでに生徒たちが着席しており、瑞稀のことを珍しそうに見ていた。すると生徒の1人が、「おい、カバンはどうした」と瑞稀に言った。「あれ?」と思った瑞稀の背後から、「おい、忘れモン」と佐野が頭にカバンを置いてきた。振り返ると佐野が立っていた。瑞稀は佐野と同じ1年C組であることに気が付き大喜びする。憧れのハイジャンパー・佐野泉に転校初日から会うことができ、かつ彼と同じクラスであることに瑞稀は神様に感謝した。

佐野(上)は、瑞稀と同じタイミングで教室に入ってきた。佐野に会い、瑞稀(下の長髪の女の子)が3年前の出来事を思い出す場面。

「佐野泉」。それは瑞稀にとって特別な存在だ。瑞稀がはるばるアメリカから日本にやってきた最大の理由は「佐野泉に会うため」である。瑞稀は女の子でありながら、性別を偽って男子校であるこの桜咲学園に転校してきた。それほどまでして佐野に会いたかった理由は、彼の高跳びをする姿に心を奪われたからである。3年前、日本に一時帰国した時に見たローカルテレビで、瑞稀は初めて佐野を知る。佐野は瑞稀と同じ13歳で、自分の背丈以上のバーを跳ぼうとしていた。「ムリだよ。あんなの自分の背丈以上あるじゃない」と思った瑞稀は、すぐに目を奪われた。佐野がバーを越える姿は華麗で、なめらかに跳んだのだ。瑞稀にとって人が跳ぶ姿をきれいだと思ったのはそれが初めてだった。それからというもの、瑞稀は佐野の情報集めに没頭した。テレビ局に問い合わせては佐野のプロフィールを聞き、日本の陸上関連の雑誌はローカルなものまで個人輸入。さらに、その代金を払うためにバイトに明け暮れた。佐野が写っているスナップはすべて集めた。そして、単身帰国を渋る両親をなんとか説得し、桜咲学園に転校してきたのだ。言うまでもなく、親には性別を偽って男子校に転入することは伝えていない。落ち込んだとき、瑞稀が必ず唱えていた言葉がある。「努力はきっと報われる。後は自分の力を信じるだけ」という佐野が雑誌のインタビューで口にした言葉だ。そんな憧れの佐野のことを誠実な人だと思い、仲良くなりたいと瑞稀は思った。頭で考えるより先に行動する瑞稀は、「好きです。お友達になってください」と佐野ににこやかに話しかける。ストレートな表現だったが、アメリカで育った瑞稀ははっきり伝えることが習慣になっていたのだ。そんな瑞稀の言葉に佐野は、瑞稀をゲイだと思い、「悪いけど俺そういう趣味ないんだけど」と言い返す。そして、授業をサボって教室から出ていってしまった。初っ端からコミュニケーションがうまくいかない瑞稀と佐野である。

中津(なかつ)(右)が、瑞稀(下)に馴れ馴れしく挨拶する場面。中津は大阪出身で、関西弁を喋る。

それを間近で見ていたのが中津秀一(なかつ しゅういち)だ。「お前オモロイやっちゃな~。なんやメッチャ気に入ったわ!オレ中津秀一ゆーねん」と馴れ馴れしく声をかけてきた。中津は金髪だったため、瑞稀は中津のことをヤンキーだと思った。しかも関西弁でペラペラと話しかけてくる。「桜咲学園一の駿足っ。サッカー部の”燃える若獅子”とはオレのこっちゃ」と初対面にしてはかなり距離が近い。瑞稀は戸惑いつつも、「はぁ、よろしく…」と挨拶した。
桜咲学園は、全寮制で文武に秀でた私立学園である。そのため、一般入試と一芸入学のふたつが設けられている。中津はサッカーの特待で入学した。瑞稀は少し陸上をやっていたのだが、特待生になれるほどの実力ではなかったため、通常入学という形でやってきた。「そういえば泉も通常入学やったで」と中津が教えてくれた。そのことに、瑞稀は疑問を持った。なぜ中学生のころ高跳びで有名だった佐野が通常入学なのかが謎だったのだ。しかしそんな疑問を考える余裕もなく、中津に瑞稀の寮部屋を紹介される。瑞稀と佐野は同じ部屋だ。同室で嬉しいのだが、中津によると佐野は瑞稀が来るまで2人部屋を1人で使っていたため、急に相部屋になったことを拗ねているとのことだ。瑞稀は、佐野がもっと大人で優しい人だと思っていたので佐野へのイメージが狂った。

瑞稀(左上)は、佐野(2コマ目)に「友達になりたいのは本当」と話しかける。そして、佐野が通常入学した理由は、高跳びをやめたからという事実を知る。

部屋に入ると佐野が読書をしていた。瑞稀は今朝佐野にゲイと誤解されたままである。その誤解を解かなければならない。「今朝のは単なる言葉の綾なんだ」と佐野に説明する瑞稀。「でも友達になりたいのは本当。だっておれ高跳びやってる佐野くんに憧れてここにやってきたんだ」と佐野に話を続ける。佐野は笑うこともなくじっと瑞稀の顔を見ていた。「あ、でも佐野くん通常入学なんだって?おれてっきり特待で入ったんだと思ってた!」と瑞稀が言うと、「ああ、だって俺…やめたから高跳び」と佐野は冷淡に告げた。佐野が高跳びを辞めたことに衝撃を受けた瑞稀は「えええっっ!な…っなんで!?」と佐野の襟元を掴んで必死に聞いた。しかし佐野は「やめんのにイチイチお前の許可がいんのかよ」と鋭い目つきで答えた。瑞稀が抱いていた誠実で優しい佐野泉とは全然ちがう。「なんか性格悪い―」と瑞稀の佐野に対する理想にヒビが入った。高跳びをやっている佐野が好きでアメリカから海を越えてやってきたのに、「こんなのってあんまりだ」と瑞稀は落胆する。

瑞稀(右)の部屋の前に立っていたのは、黒髪ロングが似合う寮長の難波南(なんば みなみ)(真ん中)だ。

制服から私服に着替えて部屋を出たところに、黒髪の青年が立っていた。「君が芦屋瑞稀クン?」と聞いてきたのは、瑞稀の寮の寮長である2年の難波南(なんば みなみ)である。「今、君んとこに寮内の説明兼諸注意を教えに行くところだったんだ」と爽やかな笑顔で挨拶した。さらに難波は瑞稀の顔をじーと見つめ、「…うわさには聞いてたけど、君かわいいねえ。よくそう言われない?」と早くも女であることがバレそうになる。瑞稀は必死に首を横に振った。難波は、瑞稀から離れ食堂へ向かいながら寮の説明をし始めた。ユニットバスは各部屋についているが、深夜12時以降は使用禁止。夕食も夕方6時から9時まで食堂で食べることができるが、早めに行かないと食べ損ねてしまう恐れアリ、などおおよそ学園案内のパンフレットに載ってある通りだ。廊下を歩いていると、瑞稀の写真が大きく貼ってあった。写真部の日本橋(にほんばし)が、隠し撮りしたものだ。瑞稀の写真の横には「新アイドル現れる」と書かれていた。そして一枚500円で売られている。瑞稀は自分が気が付かないところで日本橋に写真を撮られていると思うと警戒した。自分が着替えているところが万が一撮影されたものなら、すぐに女であることがバレる可能性が高い。難波は、「寮には娯楽が少ないから写真くらいは大目にみてやってくれ」と、日本橋の隠し撮りに特別注意することはなかった。
難波と一緒に歩いていると、中津が夕食を一緒に食べようと誘ってきた。「おお、瑞稀、難波となに話とってん。あいつと話したらお前みたいなん妊娠すんで」と中津は瑞稀に言った。これは冗談であるが、難波の性格を表すのにふさわしい表現だ。難波はかなりの女好きで、学園内でも有名なのだ。「俺は女専門だよ!」と難波は言いながら、その場から去った。
夕食を食べ終えると、中庭に佐野がいるのが見えた。瑞稀はそっと近づいた。佐野は気持ちよさそうに寝ているのである。佐野の横に座り、彼の寝顔を見つめる瑞稀。「本当に好きだったんだぞ!君の跳ぶ姿…」と瑞稀は独り言をつぶやいた。すると中庭には犬が一匹いた。桜咲学園で飼われているゴールデンレトリバーの裕次郎(ゆうじろう)だ。佐野の寝顔を見つめてぼーっとしていると、急に裕次郎が佐野によりかかり、佐野が瑞稀の上に倒れてきた。その勢いで瑞稀も一緒に芝生に倒れてしまった。驚いて目を覚ました佐野は「なんでお前がここにいるんだ?」と聞いてきた。瑞稀は「…別に放っておいても良かったんだけど、君がカゼひいて迷惑すんのはおれだし…」と照れ隠ししながら言った。佐野が馬乗りになってきたのが恥ずかしかったのだ。

佐野(右上)が、「変な奴」と言って笑う場面。瑞稀(真ん中)の前で初めて笑った。

「起こそうかと思ったけどあんまり気持ちよさそうににグースカ寝てるしさあ」と瑞稀が言うと、佐野は笑った。「変な奴」と笑顔を見せた。佐野の笑顔を見たのは初めてだったので瑞稀は彼の笑顔を見つめた。「…でもっ倒れてきたのはそっちだぞっ」と、瑞稀が言うと「え」と佐野は顔を赤らめた。笑ったり赤くなったり、佐野の柔らかい表情を見て「なんだカワイイとこあるじゃない」と瑞稀は思った。「そろそろ戻るか。このままだとマジに風邪ひいちまう」と佐野は瑞稀と部屋に戻るように言った。今朝からずっと佐野が冷たい奴だと思っていたが、佐野が笑ってくれたことで距離が縮まった気がした瑞稀。でも、肝心な高跳びをやめた理由を聞くことができなかった。

校医に女だとバレる事件

次の日、体育の授業で短距離のタイムを計る日があった。佐野が笑顔を見せてくれたことは嬉しかったが、高跳びをやめた理由を聞くことが出来なかったことにモヤモヤする瑞稀。ぼーっとしていると、中津が声をかけてきた。中津はすでにタイムを計り終え、瑞稀のタイム測定を急かす。位置につき、瑞稀は走った。タイムを計測するのは陸上部の関目京悟(せきめ きょうご)である。ストップウォッチを片手に立つ関目の前を瑞稀は一瞬で通り過ぎた。「へぇー、割と早いな芦屋のヤツ…」とふと測定されたタイムを見た関目は驚く。そして中津に、「おい中津、これ見ろよ、これ芦屋の100mのタイムなんだけどこれじゃあ校内一のお前のタイムより上だぜっ」と言った。中津はそのタイムに驚いた様子だが、中津にしては珍しく無言でその場から離れた。
噂はすぐ広まるものである。瑞稀の駿足ぶりが全校生徒に知れ渡り、瑞稀は多くの部活から勧誘される。「芦屋~!!オレの部活に入れ!!」と地鳴りがするほどの勢いで数々の部員たちが瑞稀を追いかけてくる。それは毎日毎日繰り返された。瑞稀がどこへ行っても、陸上部を始め、運動部の部員たちが瑞稀の入部を求めた。噂の発端は、関目が瑞稀のタイムを陸上部の先輩に伝えたことである。瑞稀が大勢の運動部員たちに追いかけられるのを、中津は無言で見つめていた。

中津(右上)は、瑞稀からボールを奪うが、中津の腕が瑞稀(真ん中)の頭に直撃。その瞬間を佐野(左上)は見ていた。

ある日の夕方、瑞稀は中津に呼び出された。中津は瑞稀の足の速さに嫉妬し、勝負をもちかけてきたのだ。ルールは、グランドにあるサッカーゴールに、先にシュートを決めたほうが勝ちというわけである。普段の中津とは違い、瑞稀に対して強気な態度の中津である。「男やったら売られたケンカは買うんが筋や!」と中津は言った。瑞稀は「良くないよ、ちっとも…、なんで中津とこんなことしなきゃいけないのよ」と内心困惑していたが、中津との勝負を受けることにした。
ゴールデンレトリバーの裕次郎の散歩をしていた佐野は、瑞稀と中津がシュートの勝負をしている光景を目にした。中津は瑞稀の足の速さに苦戦しており、なかなかボールを奪えない。瑞稀がドリブルするボールになんとか食らいつき、中津はボールをゲットした。「よ…っしゃあ」と中津が腕を上げた瞬間、中津の肘が瑞稀の頭に突撃する。瑞稀は気を失ってしまった。振り返った中津は、倒れた瑞稀を見て焦った。意識を取り戻させようと、中津は瑞稀の名前を呼びながら必死で瑞稀の頬を叩く。しかし反応がない。どうにもできずに困っているところに、佐野がやってきた。「こいつは俺が運んでいくから中津は先に行って校医を引き止めておけ」と冷静に対処する佐野。「いややっ、オレが運ぶ、オレのせいで瑞稀が…っ」と言った中津に佐野は「馬鹿野郎!中津お前足速いだろうが。早く学園に戻ってクサレ校医を足止めしとけつってんだ」と中津に言った。その言葉で、瑞稀にタイムを抜かれた中津の気持ちに変化があった。確かに瑞稀よりタイムは劣るが、今の状況では自分の足の速さが大事な友達を助けることになる。中津は大急ぎで保健室に走った。「ったく、世話やかせやがって」と瑞稀を抱き上げた佐野は、瑞稀の体つきが柔らかく女であることを気付いた。佐野はとりあえず、瑞稀が「女であること」を無視して保健室まで運んだ。
保健室では、「ただの脳震盪だ」と梅田北斗(うめだ ほくと)は言った。梅田は学園の校医で、ちょうど帰りがけのところを中津に足止めされた。梅田はきちんと処置をする腕のある校医だが、教師らしからぬ口調で生徒に接する。梅田は「たかが脳震盪ぐれーで大騒ぎすんじゃねーよ」と帰宅途中に呼び止められたので機嫌を損ねている。瑞稀は頭を冷やされ、ベットに横たわっていたので意識を取り戻した。「瑞稀~!!よかったあ」と中津は安心している。感激のあまり瑞稀に抱きつこうとした中津は、梅田から一発蹴りを食らう。「部外者はとっとと帰れ」と梅田は言った。佐野は中津の首根っこを引っ張り、保健室から退室した。

脳震盪から意識を取り戻した瑞稀(真ん中)。しかし、校医の梅田北斗(うめだ ほくと)(右)に女であることがバレてしまう場面。

「もう意識ははっきりしてきたか?」と梅田は瑞稀に聞いた。「…はい」と言いながら、瑞稀は中津の肘が当たって気を失ったことを思い出した。「あの、もう大丈夫ですから…」と保健室から出ようとする瑞稀に梅田が「そうか、じゃあそのはっきりした意識で答えてもらおうかね」と立ちふさがる。「どうして君みたいな『女の子』が男子高にいるのか…その訳を是非訊きたいね」と微笑を浮かべながら瑞稀に迫る。瑞稀は「ど…どうしよう…バレた…!?」と思いながらも、なにも言い返せない。するとタイミングよく佐野が保健室にやってきた。瑞稀のカバンを持って迎えにきたのだ。「詳しい話はまた後日訊かせてもらおうか」と、梅田は話を切り上げた。間一髪のところで梅田から逃れられた瑞稀だが、油断はできない。梅田に女だとバレてしまった。しかし、瑞稀は自分が佐野のジャンプを見るために日本までやってきたことを思い返した。両親の反対を押し切り自分の意志で決めたことだ。何があっても絶対帰らないと強く心に決めた。
佐野は、瑞稀との接し方に悩んでいた。瑞稀を抱き上げたとき、瑞稀が女であることに気が付いたのだが、どう接していいかわからない。佐野は瑞稀を避けるようになった。瑞稀は佐野に話しかけるが、佐野は素っ気なく口をきいてくれない。

佐野(右上)は、理香(左端)にもう一度高跳びに復活してほしいとお願いされている場面。

佐野に避けられていることに気が付いた瑞稀は落ち込んだ。やっと普通に話せるようになったのに、原因がわからない。そんな元気のない瑞稀を、中津が気にかけてくれた。中津は瑞稀に勝負を持ちかけたが今ではすっかり元通りである。瑞稀のことを親友だと思っているのだ。
中津と下校途中、佐野が見知らぬ女の子と何やら話しているのを目撃する瑞稀。陰に隠れて話を聞いていると、女の子は「ねぇ泉、お願い。もう一度跳んで…!」と佐野に言っている。佐野にもう一度高跳びを跳んで欲しいとお願いしているのだ。女の子の名前は理香(りか)といい、中学の頃佐野と同じ陸上部のマネージャーだった。もう一度跳んでほしいという理香の願いに、「…俺はもう高跳びにアキたんだよ」とうつむきながら話す佐野。「うそ…!今でも好きなくせに…あの事故のせいね」と理香は佐野が今でもハイジャンへの気持ちがあると言った。「事故」という単語を聞いて、瑞稀は驚く。佐野が高跳びを辞めた理由を知らない瑞稀にとっては衝撃的な事実だ。しかし佐野は、「ちがう」と否定した。でも理香は引き下がらない。「そうよ。あの時泉があたしなんかを庇ったりしなけりゃ、あたしが車に注意していれば泉が事故に遭うこともなかったのよ!」と理香は言った。佐野は理香の言い分を聞いたうえで、「あの事故は関係ないんだ。俺の足だってとっくに完治してる…。俺が高跳びを辞めたのは俺自身が決めたことだよ」と静かに理香に告げる。一連の話が終わり、理香はその場から立ち去った。瑞稀は、佐野が事故に遭って高跳びを辞めたことを知り、ショックだった。傷を抱えていたのに佐野はそんな過去の話をすることなく接していた。瑞稀は、佐野泉という人間を知らないと痛感した。それと同時に「彼のこともっと知りたい」と強く思ったのである。

keeper
keeper
@keeper

目次 - Contents