不浄を拭うひと(漫画)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『不浄を拭うひと』とは沖田×華による漫画作品。『本当にあった笑える話Pinky』にて連載が始まった 。ストーリーは特殊清掃員を生業にしている山田正人が依頼を受けて孤独死をした人の部屋や、ゴミ屋敷の清掃を通じて人の生死や生活について考えるものとなっている。特殊清掃員という仕事上、人の死や人生について深く触れている内容になっているため、死後にどのような清掃がおこなわれるのか、残された遺族たちの言動などリアリティに溢れる内容が魅力となっている。

『不浄を拭うひと』の概要

『不浄を拭うひと』とは沖田×華による漫画作品である。『本当にあった笑える話Pinky』にて、2019年1月号から連載を開始した。本作は特殊清掃・遺品整理業者「ラストクリーニング茨城」の代表者である天地康夫が原案協力をしている。本作のエピソードは沖田が天地にインタビューして、印象深かった話を自身の想像を交えて再構築して作られている。

ストーリーは、脱サラをして特殊清掃員となった山田正人が、孤独死した人の部屋やゴミ屋敷などの清掃を通して、人の生死や生前の生活はどんなものであったのかなどを考えながら仕事していく様子を描いている。時には、幽霊を見たりとオカルトな現象に見舞われつつも、正人は特殊清掃員として部屋の原状復帰に勤しむ。

本作は、特殊清掃員が主人公ということもあり、遺体、血液、虫、汚物、など生理的悪寒を感じるものが多数出てくるが、作者の味であるさっぱりとシンプルなイラストであるため緩和されている。それでいてまるで現場に居合わせているかのようなリアルな描写もあるのが本作の魅力となっている。

『不浄を拭うひと』のあらすじ・ストーリー

はじめての仕事

主人公・山田正人(やまだまさと)は39歳の一児の父親である。大学卒業後はサラリーマンをしていたが会社が倒産してしまい、リサイクル店でバイトを始めることになる。そして、バイト先で出会った特殊清掃会社のスタッフに誘われて、特殊清掃員となった。特殊清掃員とは、遺体のあった部屋を原状回復させる仕事である。また、ゴミ屋敷の清掃なども請け負う仕事である。

特殊清掃員としての初仕事は孤独死をした女性の部屋の清掃であった。女性は部屋で病死しており、死後2か月が経った状態であった。正人は先輩の指示のもと片づけを始めると、カツラが落ちていることに気が付く。しかし、それはカツラではなく、警察が回収し忘れた女性の遺体が腐ったことで剥がれ落ちた髪の毛がついた頭皮であった。気持ち悪いのを我慢しながら、片づけを続けていく正人。しかし、正人は掃除を進めていくと、女性の生活の痕跡が出てきて女性の最期に思い馳せるようになる。その日の夜中から正人の家では怪奇現象が起きるようになり、正人の妻も怖がるようになっていった。ある時、怪奇現象はふっと止んだ。正人は霊感のある人から「死んだ人のことを考えると幽霊が寄って来る」という話を聞いたことで、仕事の最中は事務的に作業するように心がけるようになった。

仕事をこなすうちにベテランの域に達した正人は、様々な依頼を受けていく。ある時は、超有名ホテルで自殺した男性の大量の血液の清掃。またある時は天井までゴミが積まれたゴミ屋敷の清掃。様々な事情で亡くなってしまった人や掃除ができなくなってしまった人たちの部屋を綺麗にしていく。仕事をこなしていく中で、正人は清掃の過程で亡くなってしまった人の生前の生活の断片に触れることで気に病んでしまうこともあった。しかし、特殊清掃員の先輩に励まされたことで立ち直る。時には依頼主に困らせられながらも正人は特殊清掃員として強く仕事をこなしていく。

遺品のゴミでしんどいもの

正人は仕事柄知人から様々な質問に答える。そして、ある時「遺品のゴミのなかで一番しんどいものは?」という質問を受ける。正人はランキング形式にして3位は冷蔵庫、2位はドラム式洗濯機と重たい家電を挙げていき、1位には金庫を挙げた。正人の会社では金庫の処分については外に運び出すだけではなく、依頼人から頼まれれば金庫を破壊して中身を出すと言う作業も請け負っていた。そしてある時、孤独死した女性の娘からの依頼で、女性の持っていた金庫を開けてほしいという頼まれた。亡くなった女性は我の強い性格をしていたために、娘と折り合いが悪く疎遠になっていた。そのため、娘が相続に必要な書類がどこに保管されているのかもわからず、とりあえず金庫を確認することにしたのだという。正人は工具を使って金庫を開けることに成功。娘夫婦が嬉々として金庫の中身を確認したが、そこにあったのは「財産はすべて○○県に寄付する」と書かれた遺言状であった。財産を1円ももらえないと分かった途端に鬼の形相に変わる娘夫婦に怯えながらも、正人は依頼を完了したとしてその家を去る。

更に別の日には、明治大正時代のものかと思われる立派な金庫を開ける依頼が正人の元に入った。依頼人曰く「父親が買ったが、父親以外は開け方も鍵もわからないまま亡くなってしまった」という。そして、依頼人の父親が生前に金庫の中にはダイヤよりも価値のある宝物が入っているとよく言っていたため、その確認がしたいと依頼人は正人に頼む。正人は作りの古い頑丈な金庫をグラインダーと大きいハンマーを使い時間をかけて破壊していく。そして、数時間かけてようやく金庫の中身を依頼人とともに確認すると、そこには依頼人が幼い頃に描いた絵や手紙などが大事に保管されていた。金庫には父親にとってはダイヤよりも価値のある大事な家族の思い出が詰まっていたのだ。依頼人家族は懐かしさに盛り上がり、正人はその姿を見て保管されてたものについてはどうするのか依頼人家族に尋ねると、正人の会社のほうで処分してくれとあっさりと申し出た。盛り上がった姿とのギャップに正人は拍子抜けしながらも、処分を請け負った。故人にとってはお金よりも価値のあるものが入っている金庫、金目のものが入っていないことがわかると落胆する家族の姿に思いを馳せながら、正人は仕事に励んでいく。ちなみに、故人の金庫に金銭や宝石が入っているのを正人は見たことがない。

事故死であると伝えたい男性の霊

ある時、正人の仕事用携帯に後輩から連絡が入る。後輩は清掃の依頼を受けて、亡くなった人の家に見積もりに来たが幽霊がいて怖いから変わってほしいと正人に頼む。依頼が入った家は60代の夫婦2人暮らしの家で、妻が夫のために湿布を買いに出かけて帰ってきたら、夫が健康器具にベルトをひっかけて首つり自殺をしていたという場所であった。夫が突然自殺してしまったことで妻は体調を崩して入院している最中で無人のはずの家で人の気配がするという。正人は後輩の頼みを引き受けて、依頼のあった家に赴く。
正人が家に入るとすーっと横切る黒い影を目撃するが、霊感があり慣れている正人は驚くことをせず見積もりを始める。そして、見積もりの最中に大きなラップ音が正人の耳に届く。さらに、黒い影も正人の後ろをついてくるが、不思議と嫌な感じがせず、正人は見積もりを終えた。その日の夜、正人は見積もりに行った家にいる夢を見る。そこで、健康器具の上に座る60代くらいの男性に見つめられていた。正人は亡くなった夫だと思い、軽く挨拶をしてからなぜ家にいるのかを夫に聞く。夫が妻を探しているが見つからないと答えたため、正人は妻は心労で入院をしていると教える。夫は「俺のせいで妻が…」と落ち込んでしまう。そして、正人に自殺する気はなかったんだと妻に伝えてくれと懇願する。夫は亡くなってしまった日は肩が痛くて妻に湿布を買ってきてくれと頼んでおり、妻が出た後に病院でやってもらった牽引を自分でやろうと思いついた。そこで健康器具にベルトを通して首をかけたところ、足を滑らせて首つりになってしまっただけだと説明した。自殺する気はなかったんだと繰り返し、正人に妻は悪くないんだと伝えてほしいと泣いて頼んだ。目が覚めた正人は入院をしている妻の元を訪れて夢で夫に言われたことを伝える。妻は正人の話を聞くと、誰に慰められても響かなかったけど正人の話は不思議と信じられて納得ができたと話した。その後、家に幽霊が出ることも無くなり、妻が一人で元気に暮らすようになった。

金目の物

ある時、正人の元に亡くなった身内の家の遺品整理の仕事が入った。身内は金銭や持っていたはずのロレックスがあったら持ってきてほしいと正人に頼んだ。頼まれた正人が家に入ると家の中はゴミで溢れかえっている状況であったため、掃除をしながら遺品を探していく。亡くなったのはギャンブルで生計を立てていた60代の男性で、自宅で病死して死後数か月してから発見されたという。正人が清掃を進めていると黒革の財布を見つけて手に取った。しかし、それはもはや黒革ではなく、遺体の体液で変色した財布であった。中にも腐敗した体液が染み込んでおり、中に入っていた硬貨や紙幣は変質して悪臭が取れない状態となっていた。清掃を終えて、正人が出ていた金銭を依頼人に見せるが、使えない状態であると説明する。そして、指定されていたロレックスは見つからなかったと伝える。すると、亡くなった男性の身内たちは男性に金銭を貸していたようで、出てきた金が使えないこと死後に迷惑をかけられたことに怒り心頭の様子を見せた。どうにかなだめて仕事を終えた正人は家へと帰る。

家につくと妻・可南子(かなこ)の母親が遊びにきていた。可南子の母親は正人に聞きたいことがあると言い、可南子から見たら祖母にあたる人の遺品を売りたいが、どのくらいになりそうかという相談であった。正人は特殊清掃員になる前に中古ショップに勤めていたので、その時の経験を生かして目利きしてほしいということであった。可南子の母親が持ってきたのはテレフォンカードや切手といったもので、可南子たちは売ったお金で旅行に行きたいと盛り上がる中、正人は大した金額にはならないと気まずそうに伝える。正人の言葉にショックを受けながらも、可南子の母親はポストに入っていたチラシでは高額で買い取ってくれると書いてあったのにとぼやく。正人はどの業者も買取価格に差はなく、業者によっては詐欺まがいの手法で金目のものを安く持って行ってしまう可能性があることを可南子の母親に教える。さらにショックを受けてしまった可南子の母親にきちんとした業者を紹介するからと正人は慰めてその日は終わった。後日、祖母の遺品を売ったお金で可南子の母親は孫である清塩(きよし)におもちゃを買って送った。遺品を高額で買い取るという旨が書かれたチラシは危険であると正人は思いながら、可南子の母親へのお礼の電話を清塩にかけてもらった。

『不浄を拭うひと』の登場人物・キャラクター

主人公

山田正人(やまだまさと)

本作の主人公の男性。39歳。一児の父親。特殊清掃員を生業としている。元はサラリーマンであったが、会社が倒産してしまいリサイクル店でバイトをしていた。バイト先で特殊清掃員をしている人に出会い、スカウトされたことで特殊清掃員となった。仕事は、遺体のあった部屋の原状復帰、遺品整理、ゴミ屋敷の清掃を主にしている。

仕事を通じて亡くなった人の生前の生活を考えて気の毒に思ってしまうなど優しい性格をしている。そのため、初仕事の際に亡くなった人に感情移入してしまったことで、生まれつきの霊感体質も手伝って幽霊を家に持って帰ってきてしまった。また、霊感が強いため、亡くなった人から夢で自身の死の真相について遺族に伝えてほしいと頼まれたこともある。幽霊に関しては怖がりはするが対処に慣れているため、異変を感じると知り合いの住職にお祓いを頼んでいる。

特殊清掃員を始めてから太ってしまったが、孤独死して数か月経った巨体の男性の遺体から漏れだした腐敗した油の放つ悪臭を嗅いでからは食欲が減退して痩せた。

清掃の際に悪臭を嗅ぐ時間が長いせいで、仕事時間外は花の香りを嗅いで癒されるのがマイブームとなっている。

山田の家族

山田可南子(やまだかなこ)

正人の妻。育児をしながら特殊清掃員をしている正人を支えている。

正人とは職場恋愛の末に結婚。寿退社したため専業主婦をしていたが、正人の会社が倒産したことをきっかけに働きに出る。正人が特殊清掃員になるかどうかの相談を受けた時は、正人がやりたいことを応援したいと笑顔で快諾した。正人が会社員時代は生活が豊かであったが、正人が激務であったため夫婦の時間が取れずに寂しい思いをしていた。しかし、会社が倒産したことで時間に空きのできた正人と話す時間が増えたことから夫婦の時間を楽しむことができるようになり、喜んでいる。生活の豊かさよりも、夫との時間を大事にしたいと考える愛情深い性格をしている。

妊娠時に里帰り出産で実家にいるときに予定日より早く破水してしまい慌てていると、認知症の祖母からなぜか大量の塩をかけられてしまう。そのため、塩塗れで息子・清塩(きよし)を出産した。

正人の連れてきた幽霊による怪奇現象がトラウマとなり、音に敏感になってしまっている。正人が住職に言われて持って帰ってきたお札を家に貼られたときは、インテリアが台無しと怒っていた。しかし、怖い思いをするよりはマシだと最終的にお札を貼るのを手伝った。

山田清塩(やまだきよし)

正人と可南子の1歳の息子。名前の由来は、認知症の可南子の祖母が破水した可南子と連絡を受けて病院に来た正人に「清めなアカン!」と塩をかけたことから。

霊感に強い正人に似たのか、何もいない壁に話しかけることがある。

正人の勤める特殊清掃会社

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