家栽の人(漫画・ドラマ)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『家栽の人』は1988年~1996年に『ビッグコミックオリジナル』で連載された毛利甚八作・魚戸おさむ画の裁判を扱った人情物青年漫画、及び本作を原作としたテレビドラマである。家庭裁判所の裁判官桑田義雄が裁判を進めていく中で裁判に関わる人々の心情を書いた人情系漫画。多くの悩みや問題を抱えて裁判所にやってくる人々を桑田が裁判を通じて救っていく。また、桑田に様々な感情を持ちながら桑田と関わっていく裁判所の個性的な職員たちも魅力的だ。

『家栽の人』の概要

『家栽の人』は1988年~1996年に『ビッグコミックオリジナル』で連載された毛利甚八作・魚戸おさむ画の裁判を扱った人情物青年漫画、及び本作を原作としたテレビドラマである。単行本全15巻の他、文庫版全10巻が発売されている。また、TBSで三回、テレビ朝日で二回テレビドラマ化されている。タイトルの家栽の「栽」は栽培の栽であり、家庭裁判所の略称の「家裁」とは異なる。
家庭裁判所の裁判官桑田義雄(くわたよしお)は、東京高裁長官の息子で裁判官としても優秀でありながら家庭裁判所に勤務し続ける変わり者の裁判官だ。いつも裁判所の花壇の手入れをしたり休日や昼休みに町を散歩したりとボンヤリしているようにみえるが、持ち前の洞察力、推理力で様々な問題を解決していく。
人々の心理描写を中心に家族関係や非行少年の更生を書く他、物話に関わる形で必ず植物が登場し、各話のタイトルも1つを除き植物に関連するものとなっている。話の大半は一話完結となっているが、後半は1つのストーリーに数話掛ける話が登場し、単行本13巻から15巻に当たる部分は1つの事件を扱う長編となっている。

『家栽の人』のあらすじ・ストーリー

緑山家庭裁判所編

単行本1巻「タンポポ」

緑山家庭裁判所の裁判官桑田義雄(くわたよしお)は大の植物好きで、裁判所内の鉢植えや花壇の世話を行ったり、昼休みには散歩に出かけて町の植物を眺めたりと少し変わった人物だ。裁判官としての能力は非常に優秀で東京への栄転の話もあったが家族のためにと断った過去もある。彼の勤める裁判所では毎日多数の離婚や遺産相続の調停、非行行為で送致された少年の審判が行われている。だが桑田は一つ一つの事件を丁寧に扱い、少年たちにただ罰を与えるのではなく彼らが成長できる道を探していく。若手の調査官補の山本博や明るい事務官の伊藤りさ、ベテランで桑田の女房役ともいえる書記官の篠原繁蔵(しのはらしげぞう)など桑田を慕う人物も多く、最初は奇妙な人物として桑田を訝しく見ていた人たちも徐々に彼の人柄に惹かれていく。
少年の審判では彼らの育った家庭の環境を重視し、調査官補の山本を頼りに家庭の問題を洗い出していく。
ある事件では、売春で補導された15歳の少女の審判を行うことになったが、山本が教師や両親に話を聞いても問題があったようには見えない。しかし桑田に「家を見てみないとわからない」と言われ、少女の家に行くと、奇妙なほどに清潔な家であることに気づく。また家から帰るときに、少女の弟から「お姉ちゃんも汚くなったから、この家に戻ってこられない」と母親が言っていたことを聞かされる。翌日木の世話をする桑田と話した際、「落ちた桜の花びらは木のための栄養となっており、落ちて腐った花びらもあって花の美しさだ」という話を聞き、山本は母親の潔癖症が少女の非行の間接的な原因となったのではと考える。その後裁判所で桑田は母親に「この子が自分を探しながら生きていけるように、もっと大きな母親になれませんか?」と話し、少女に各種施設に行くか家に帰るか自分で決めるように言う。母親の動揺した姿をみた少女は、家に帰ることを選択する。

単行本2巻「スミレ」

桑田の既知の緑山署の刑事、細川右近が妻から離婚を申し立てられて調停を行うことになる。双方の話を聞いてみると、妻は夫が仕事から帰ってきても何も話さないと言い、右近は妻は最近些細なことでカッとなると話した。調停委員たちは妻に原因があると考えるが、桑田は離婚はやむを得ないと結論付け、右近には結婚生活がどういうものか分かっていないと話した。
夫の右近はどんなにつらい事件があっても家では決して愚痴をこぼさずそういった時はただ黙って酒を飲むようにしていたが、必要以上に感情を隠し続ける余り、妻が少しでも右近の気を紛らわせようと毎日玄関に花を飾っていたことすら気が付かなかった。そんな夫を見ていられなったというのが、離婚を申し立てた原因だった。右近は離婚を受け入れる決意をするが、妻から「離婚の執行猶予」を提案されていることを桑田に聞かされる。その後、二人は執行猶予状態のまま別居して暮らすことになる。
緑山家裁に新しい所長として浜口が転任してくる。東京高裁から転任してきた浜口は高裁長官の息子である桑田が東京への栄転を拒否したことを不思議に思い篠原書記官に桑田のことを聞いてみる。篠原は前任の兼松所長が同じことを聞いた際に桑田は「スミレの種類は50種類以上あるが最近ようやく数種類の違いが分かってきた。少年達も同じで一年に何百人もの子に会うが一人ひとり違う悩みを抱えている。あの子たちのことを考えていたい」と話したという。

単行本3巻「ユリ」

ある日司法修習生の加藤が桑田の元に研修にやって来る。桑田は仕事の流れを見てもらおうと、現在行っている少年の傷害事件の資料を紹介する。少年の処遇について意見を聞かれた加藤は少年が19歳半であることを理由に、地裁に逆送して大人と同じように罰するべきだと主張する。しかし桑田は少年を中等少年院に送致した。もし地裁に逆送した場合、罰金刑で済んでいた可能性もあった。山本調査官は、桑田は少年に大人になる前に考える時間を用意し、罰ではなくチャンスを与えたのだと話した。
新米判事補の桐島宏美(きりしまひろみ)は、窃盗したバイクで事故を起こした少年の処遇で悩んでいた。少年の両親は離婚していてどちらも経済的には問題ないが仕事が忙しく少年との時間が取れそうにない。精神的に繊細なところも見受けられていて少年院に入ると精神的な傷を負う可能性もある。そんな不安を抱いていた桐島は散歩をする桑田の後を付けてみる。少年の処分を決定するときにいつも不安であることを桑谷に話すと、桑田は「あなたは処分が厳しいか甘いかそればかり考えているんじゃないですか?」「それを忘れたらどうです」と言う。難しいという桐島に桑田は「どんなに長い処分を与えても、少年は社会に戻って来るんです。誰かの隣に住むんですよ。その時……その少年が笑って暮らしている可能性を探すのが裁判官の仕事じゃないんですか」と話す。その言葉を聞いた桐島は、少年の両親に毎日どちらかが一緒に食事を取るように提案する。
桑田に、最高裁判所の調査官にならないかという誘いが来る。最高裁の調査官は本来出世コースのど真ん中であり、桑田のような家裁を転勤して周る判事からの転勤は異例中の異例の人事であった。しかし、桑田は緑山裁判所より小さい岩崎地家裁春河支部を逆指名し、これが受理され転勤することとなる。

岩崎地家裁春河支部編

単行本4巻「コスモス」

渋谷直正(しぶやなおまさ)は、熱血漢で仕事熱心な調査官だ。だが裁判官・鳥海和友(とりうみかずとも)等の少年犯罪に熱意の無い判事を見て来た事で裁判官に不信感を持っていた。そんな中桑田が着任し、すぐに渋谷が担当していたバイク窃盗の少年の審判を担当することになる。桑田にもまったく期待を寄せていない渋谷だったが、桑田はすぐに少年の好きなバイクと盗難されたバイクのタイプが違うことに気づき、少年が無理やり窃盗をやらされたという事実を突き止める。その後、渋谷が担当し桑田が不処分とした別の少年が三人に怪我を負わせる事件が発生する。今度こそ少年を更生させようと意気込む渋谷だが、桑田は心理テストで投げやりな回答ばかりしている中に唯一「私は『ホウセンカ』が好きです」と書かれた回答に注目する。その後渋谷の調査により、男と蒸発したことにされていた母親が出ていった原因が父親の借金であることが判明する。また、少年の家の前に咲いているホウセンカは少年が三歳の時に母親と植えたものだった。母親が裁判所に来ていることを知った少年は涙を流す。実は渋谷も幼いころに母親が蒸発しており、この審判をきっかけにして桑田のことを認めるようになる。

単行本5巻「ナノハナ」

松角吉徳(まつかどよしのり)は春河市で盆栽師を営んでおり、その盆栽は500万円の値段が付く程の腕前を持つ。週に一度散歩で立ち寄る桑田が裁判所の人間だと知った松角は、バンドばかりで働かない孫のことを相談する。孫の長所を見つけてやるのがいいかと聞く松角に桑田は頷く。その後松角は孫に働かないことを叱りつけるが、孫は松角の大切な盆栽を壊してしまう。しかしいままで大人しくしていた父親が怒り、孫を平手打ちして全て弁償するように叱りつける。直前桑田に松角と孫の対立のことを話していた父親は、桑田に「一番大切な枝が折れている」ことが原因と言われる。父親は自分が祖父に遠慮して意見の言わないことを原因と考えたのだ。
春河支部の支部長に、新しく目黒留吉が就任した。引っ越し初日に春河支部にやってきた目黒は、梅の木を植えるために休日に支部に来ていた桑田と出会う。目黒は桑田を植木屋と誤解したまま彼と話し、桑田を植木屋にしておくにはもったいない男と評価する。しかし翌日判事として挨拶に来た桑田に驚くことになる。いつも花壇や鉢植えの世話ばかりしている桑田を見て真面目に仕事をしていないと考えるようになった。さらに自宅で仕事をしているはずの桑田が水商売の店に入っていくのを見たことから彼を一人前に更生させようとする。実は桑田は事件に関係のある店の調査に来ていたが、通常裁判官がそこまですることは無いため、まさか調査とは思わなかった。

単行本6巻「ヒマワリ」

目黒留吉に続いて、緑山家庭裁判所で桑田と共に勤務していた桐島宏美が春河支部に転勤して来る。かつて不安を桑田に相談していた彼女は、桑田の「離婚の時に男も女も条件は同じ」という発言に強く抗議するなど、気の強い女性に成長していた。
ある日調査官の今西恭子(いまにしきょうこ)は目黒支部長が落とした職員達の情報や評価が書かれた手帳を拾う。渋谷調査官、大滝調査官と共に手帳の中を見てみると「軟弱で裁判官としての威厳に欠けるところがある」「時折審判に非常に長い期間を要することがあり、決断力の欠如が心配される」等桑田への辛辣な評価が大量に書かれていた。怒り出す渋谷だが、大滝は目黒支部長の気持ちが分からないでもないと言う。彼が今見ている少年は完全な確信犯で、父親は教育熱心な立派な父親に見えるのだが、桑田が父親への聞き取りを重視して審判を続行したことに疑問を感じていたのだ。だが桑田は無理やり柔道を教えて厳しく接し続けた父親を非難し、「あなたの子供が今、ここに立っていることが、あなたの教育の結果ですよ。これをどう償うつもりですか?彼を、これからどう育てるか答えて下さい」と聞く。皆目どうすればいいか分からないという父親に、大滝はこの家庭の問題点を知った。桑田に対する評価を改めた大滝は、こっそり支部長室に手帳を置いて来るのだった。

単行本7巻「サザンカ」

桐島判事補は春河支部に転属してきてから、保守的な調停委員の久保一騎(くぼかずき)と対立することとなってしまう。若い女性であるため、調停を受ける人々からも低く見られることが多かった。書記官の高崎や調査官の渋谷が心配して桑谷に相談するが、桑田は彼女を早咲きの菊の蕾である「鬼蕾」に例え、彼女を信じるように言う。彼女と付き合いの長い桑田には、彼女がどれだけタフで努力家か分かっていた。その後も桐島はめげることなく自分のスタンスで調停を続け、調停で不安そうな目で桐島を見る人には、自分が多くの調停を既に手掛けていることを話して安心させようとすることに努めた。

単行本8巻「モモ」

春河支部に強姦殺人を犯した少年が送致され、桑田が担当することとなった。今西調査官が少年の聴取を行うが、少年は全く反省する様子を見せないどころか、今西の胸を掴むなど挑発的な態度を見せる。事件は世間の注目を集め週刊誌が桑田に事件について取材するが、桑田は「花の色が違うくらいで騒いだりしませんよ。毎日眺めているんですから」とだけ答える。今西は地裁に逆送して刑事法廷で裁かれるのが妥当だと桑田に意見するが、桑田は家裁での審判を決定する。不安を覚える今西だが、渋谷調査官から桑田が花壇で真剣に悩んでいるところを初めて見たと聞かされ、気合を入れ直す。実は少年と被害者は元々付き合っており、急に被害者が結婚するために振られたことを恨んでの犯行だったが、そのことについて少年は決して話さない。しかし審判が進むにつれて挑発的な言動が多くなる少年に、今西も彼が無理をしていることに気づいてきた。最終的に桑田は少年に中等少年院送致の処分を下す。仮に地裁に逆送して刑事裁判を受けても、場合によっては三年程で仮釈放される可能性があったため、それなら少年院に送った方がいいと考えたのだ。

単行本9巻「サルスベリ」

今日も桑田は昼休みに散歩に出かける。そんな桑田に目黒支部長は散歩のとき何を見ているのか尋ねるが、桑田は全部だと答えて行ってしまう。散歩中民家に寄った桑田は、その家の女性から夫がこちらに引っ越してきてからすっかり暗くなってしまったと相談を受けるが、その時はそのまま去っていった。さらに「お化け屋敷の森」と呼ばれる森に入ると、熱心に虫を観察している学者の男性と出会う。二人はウマが合うと思ったのかそのまましばらく過ごし、その後友人となる。帰りに再び民家に寄った桑田は女性に原因は自分で分かっているはずと指摘し、夫が引っ越し前の場所でまだ働いていたかったのだと気づいた女性は夫に謝ろうと決意するのだった。

単行本10巻「ゴデチア」

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