ヘレディタリー/継承(映画)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『ヘレディタリー/継承』とは、2018年に公開されたアメリカのホラー映画である。監督のアリ・アスターは本作が長編映画デビュー作である。主演のアニー役をトニ・コレットが務めた。サンダンス映画祭で「ホラー常識を覆した最高傑作」「現代ホラーの頂点」と批評家から最高の評価を受けた。家長である祖母エレンの死をきっかけにグラハム家に奇妙な出来事が頻発し、家族が崩壊していく。緻密に張り巡らされた恐怖の伏線。タイトルの「継承」の意味がわかったときには、逃れられない仕組まれた最悪の運命に恐怖する。製作はA24。

『ヘレディタリー/継承』の概要

『ヘレディタリー/継承』とは、2018年11月30日から日本の劇場公開されたアメリカのホラー映画である。上映時間は117分。
監督・脚本を務めたアリ・アスターは、本作が長編デビュー作である。主演のアニーを『シックス・センス』のトニ・コレットが務めた。いつも冷静なアニーの夫スティーブをガブリエル・バーン、長男ピーターにアレックス・ウルフ、妹チャーリーは本作が映画初出演のミリー・シャピロが演じた。

公開時のコピーは「【超恐怖】これが現代のホラーの頂点」「トラウマ級の怖さで全米を震撼させた、傑作ホラーが遂に日本上陸」。
製作はA24。

家長である祖母エレンの死から始まる。葬儀のあと、悲しみを乗り越えようとするグラハム家に奇妙な出来事が頻発する。亡くなったはずのエレンの気配を感じる。チャーリーに最悪の事故が起こり、家族は修復不可能なほど崩壊していく。エレンが残した私物とはやアリーに近づくジョーンの存在など、緻密に張り巡らさせた恐怖の伏線は、すべてがラストシーンにつながる。
そして「継承」の意味がわかったときには、逃れられない仕組まれた最悪の運命に恐怖する。

『ヘレディタリー/継承』のあらすじ・ストーリー

エレンの死

最初に字幕で、2018年4月3日にエレン・リーは78歳で死去したこと、長男はすでに故人ということもあり、娘アニーの家に同居していたこと、葬儀は午前10時から始まることを伝える。

部屋の窓から見えるツリーハウス。カメラが横にゆっくりパンするとその部屋にドールハウスがある。そのひとつの部屋がズームされると、ドアからスティーブが入ってきて物語が始まる。寝ている息子ピーターを起こす。妹のチャーリーはツリーハウスで寝ていた。アニーは車の中で待っている。これから亡くなったエレンの葬儀に向かうのだ。

葬儀でアニーは見知らぬ参列者が多いことに驚く。そこでアニーは母エレンとの関係を話す。チャーリーはその話を聞きながら、ときおり「コッ」と口の中で音を鳴らす。これはチャーリーのクセだ。チャーリーはチョコレートを食べていた。「ナッツは入ってないか?」と心配するスティーブ。チャーリーはナッツアレルギーであることを示唆している。

アニーは、母が亡くなったのに悲しくはなかった。ピーターも同様だったが、おばあちゃん子だったチャーリーは違った。エレンは、チャーリーに「男の子になれ」といっていた。アニーはチャーリーに「赤ちゃんの時、あなたは少しも泣かなかった。生まれた時でさえ」という。

エレンの気配

「母の私物」と書かれたダンボール箱の中には、アルバムと「スピリチュアリズムについて」の本があった。その中に「愛する娘 美しいアニーへ」と書かれた手紙が挟まれていた。メモを読み終えたアニー。ふとその場にエレンがいるように感じた。アニーは気配するほうへ「ママ?」と呼びかける。

チャーリーはテスト中にも関わらず、ひざの上で何かをつくっていた。先生に注意された瞬間、飛んでいたハトが窓ガラスに当たる。他の生徒はざわつくが、チャーリーは表情を変えず、教室にあるハサミを見つめていた。休憩時間にチャーリーは外へ出て、窓ガラスに当たって死んだハトの首をハサミで切った。そしてそのままポケットの中へ。その一部始終を遠くからある女性が見ていた。

無気力な高校生のピーターは、歴史の授業中ぼんやり講師の説明を聞いていた。英雄ヘラクレスの欠陥についての質問に、ある学生が、選択肢があったらより悲劇的だと答える。「避けられない運命なら絶望的な仕組みの中の駒でしかない」と。

アニーはミニチュア・ドールハウスをつくる仕事をしている。作業をすすめながら「霊的な出現を判定するための基準」という内容のサイトを見ていた。スティーブが帰ってきたとき、エレンの部屋の扉が開いていることに気づく。スティーブも開けてはいなかった。そこへ電話があり、スティーブが話す。請求の件だと嘘をつくが、本当はエレンの墓が荒らされていたという知らせだった。

アニーは映画に行くといって出かけたが、「愛する人の喪失」の集会、グループセラピーに参加していた。そこでアニーは、自分と母との関係はよくなかったと話す。さらに父は鬱病で餓死したこと、兄チャールズは統合失調症で16歳で首吊り自殺をしたことを告白する。兄の遺書には「母さんが僕の中に何者かを招き入れた」と書かれていたと。

チャーリーが部屋で工作遊びをしていたとき、謎の光に導かれて外へ出る。手には首のないハトをもっていた。視線の向こうには火がたかれており、その中心にはエレンがいた。アニーがチャーリーを見つけ、声をかけたとき、それは幻だったように消えてなくなった。チャーリーは靴も履いていなかった。

チャーリーの事故

ピーターはチャーリーを連れて車で学生のパーティーに行く。チャーリーは行きたくないといっていたが、アニーは半ば強制的に連れて行くように促した。
パーティーでピーターは、友人たちと部屋に入って麻薬を吸っていた。その間、チャーリーはチョコケーキを食べていた。しばらくして、チャーリーは呼吸ができないと苦しみだした。ケーキにナッツが入っていたのだ。
苦しむチャーリーを車に乗せて急いで病院へ向かうピーター。後部座席で暴れるチャーリー。苦しくてたまらず車の窓から顔を出す。ピーターは動物の死骸を避けた瞬間、電柱にチャーリーの頭がぶつかり、吹っ飛んでしまう。ピーターはそのまま呆然としながら帰宅する。
翌朝、買い物に出かけようとしたアニーは、首のないチャーリーを見て泣き叫ぶ。その声をベッドで聞いているピーター。事故現場には虫がたかったチャーリーの頭があった。

アニーはまたグループセラピーに出かけたが、会場に入らずに引き返そうとした。そのときジョーンに話しかけられ、ふと娘が亡くなったことを話した。中に入らないかと誘われたが、アニーは断った。別れる間際、ジョーンは連絡先の書いたメモをアニーに渡した。

アニーはもらったメモを見て、ジョーンに会いに行くことにした。ジョーンの部屋の前の「ジョーン」と書かれた玄関マットを見て、エレンも似たものを持っていたことに気づく。アニーはジョーンに、頭のないチャーリーを見た悲しみを伝える。ピーターとの関係を聞かれ、自分は夢遊病であることを告白する。そのことが原因でピーターと不仲になっていた。

アニーはチャーリーの事故現場のミニチュアを作成していた。
その晩の食事で、またアニーとピーターは口論になってしまった。

チャーリーの気配

スーパーマーケットから出たアニーは、駐車場でジョーンに会う。ジョーンは強引に家に来るように誘う。降霊術を見せるのだという。暗い部屋にロウソクを立て、亡くなった孫ルイを降霊するジョーン。グラスが勝手に動いたり、チョークが勝手に動いて黒板に文字を書きだした。疑っていたアニーだったが、驚いてパニックになり慌てて帰ろうとする。ジョーンは降霊の方法が書かれたチラシを渡し、「あの子は死んでない」と言い残す。
帰る途中、車の後部座席から「コッ!」と聞こえる。

アニーは眠れない夜、ピーターとスティーブを起こして、ジョーンに学んだ降霊術を見せる。疑うスティーブだったが、3人は手をつなぎ、チャーリーを呼ぼうとする。空気が動いていることを感じる。グラスが勝手に動き出す。そしてアニーはチャーリーの声で話し出す。チャーリーが乗りうつったのだ。パニックになるピーター。スティーブはアニーに水をかけ、アニーは我に返る。

アニーはチャーリーの部屋から音が聞こえるので行くと、ベッドの上のノートが勝手にめくれ、ピーターの絵を書いていた。そのノートを燃やしてしまおうとアニーは暖炉に投げ込んだが、火が自分の腕に燃え移り、燃やすことができなかった。

ジョーンの正体

校庭で昼食をとっていたピーターは遠くでジョーンに呼ばれていた。「お前を追放する。それから出ていけ!」その声は、ピーターにしか聞こえていなかった。

もう一度アニーは、ジョーンの家を訪れた。不在だったが、部屋に儀式の後が残っていた。
アニーは急いで帰り、エレンの私物のダンボール箱を開ける。ジョーンの家にあったようなアニーとチャールズの名前が書かれたマットがあった。別のダンボールには「召喚」と書かれた本があった。その本には、エレンのネックレスと同じ紋章が刻印されていた。「地獄の王ペイモン」のページに、「儀式完了後、定められた者の体に宿る」「王は男、男の肉体が必要である」「王は臣下への財宝」の言葉にマーカーが引かれていた。さらにアルバムにはエレンとジョーンが一緒に写っている写真があった。ふたりは以前から知り合いだったのだ。

学校の廊下でピーターはまた光に導かれている。授業中「コッ」という音が何度も聞こえる。突然、ピーターが片手をあげ顔をゆがませて硬直してしまう。チャーリーがピーターの身体に入ったのだ。ピーターは机に顔面をぶつけ、我に返る。学校から連絡があり、スティーブはピーターを迎えに行く。ピーターは鼻に包帯を巻いていた。

戴冠式

アニーはハシゴを使って屋根裏部屋に入ると、そこには首のないエレンの遺体があり、壁には例の紋章が血で書かれていた。
アニーはスティーブにチャーリーのノートを燃やしてほしいと頼む。スティーブが断るとアニーはスティーブからノートを奪い、暖炉に投げ入れた。その途端、炎がスティーブを包む。それを見たアニーの絶叫の表情が無表情に変わる。

目覚めたピーターは、ゆっくりダイニングに降りる。そこには真っ黒になったスティーブの焼死体があった。扉のほうが気になって振り向くとアニーが無言で走ってきた。ピーターは走って二階へあがり、ハシゴを使って屋根裏部屋に逃げる。屋根裏部屋は、ロウソクがいっぱい立てられていた。
ギコギコと嫌な音が聞こえるので、上を見ると、アニーが宙づりになり、自分の首を切っていた。それを見たピーターは叫びながら窓ガラスを割って、下に落ちた。首を切る音は続き、「どさっ」という音で首が切り落とされたことがわかる。
首のないアニーは宙に浮いた状態で、ツリーハウスの中へ入る。「コッ」という音も聞こえる。近くにチャーリーもいる。ツリーハウスから音楽が聞こえる。光が見えたピーターは、導かれるようにツリーハウスの階段をのぼる。

ひれ伏す人たち。首のないエレンとアニーもひれ伏している。壁にはエレンの写真が「王妃リー」として掛けられている。ジョーンによって王冠を乗せられたピーター。「チャーリー、あなたはペイモンになった。地獄の8王の1人」。
そこにいる崇拝者たちの「ペイモン万歳!」と万歳三唱で映画は終わる。

『ヘレディタリー/継承』の登場人物・キャラクター

グラハム家

グラハム家(海外版ポスター)

アニー・グラハム (演:トニ・コレット)

亡くなったエレンの娘。
父は妄想性のうつ病で食事ができなくて餓死し、兄チャールズは、統合失調症で16歳のときに首吊り自殺していた。
自らも夢遊病に悩んでいる。
ミニチュア・ドールハウス作家。個展を開催する準備をしていた。

スティーブ・グラハム (演:ガブリエル・バーン)

常に冷静に家族を見ている。
アニーにも優しく接しているが、最後には我慢ができなくなる。
エレンの血を引いていない。

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