息もできない(映画)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『息もできない』とは、2008年公開の韓国のインディーズ映画。暴力や暴言を吐くことでしか自分を表現出来ない取り立て屋の男サンフンが、ある女子高生ヨニと出会う。最低最悪な出会い方をした2人だったが次第に心を通わせて行き、似たような過去やトラウマを抱えてきた2人の魂の解放を描く。怒りと憎しみで支配されたサンフンと、傷ついた心を隠し生きている負けん気の強いヨニ。それぞれの痛みを抱えた2人が不器用に惹かれ合って行くのだった。主人公ヤン・イクチュンが監督、脚本、編集を務めている。

父親

サンフンとヨニが抱えている問題の共通に父親がいる。
サンフンの父親は、母親への暴力を止めようとしたサンフンの妹を刺殺し、15年の服役後出所した。日頃から暴力的だったヨニの父親は、ベトナム戦争帰還後精神のバランスを崩し妄言が加わるようになった。お互いの家族については語り合わない2人だったが、それぞれ父親に対する憤りを抱えていたのだった。

暴力の連鎖

目的のない衝動的な暴力を繰り返すサンフンは憎むべき暴力を他者に向けて発散して行き、その暴力が思わぬ所で連鎖してしまう。屈折していたヨンジェの凶暴さを呼び起こし、それによってサンフンは命を落としてしまった。

『息もできない』の名言・名セリフ/名シーン・名場面

最低最悪の出会い

通り道で出会うサンフン(画像右)とヨニ(画像左)

通り道を歩くサンフンの吐いた唾がヨニの胸元にかかり、呼び止めたヨニはサンフンに平手打ちを食らわす。サンフンはヨニを殴り気絶させ、ヨニの意識が戻るまで付き添っていた。目覚めたヨニがサンフンに唾を吐きかけ睨み合うシーン。この最低最悪の衝撃的な出会いが何の因果か2人を結びつける。次第に互いを必要とし心を通わせ合うようになるのだった。

商店街を歩くサンフンとヨニ

並んで歩くサンフン(画像右)とヨニ(画像左)

警察を殴ったサンフンを公園へ連れて逃げたヨニが、「逃げ場所を提供したお礼におごって」と言って、無理やりサンフンを市場に連れ出す。
商店街や市場を歩くシーンだけセリフや他の音はなく音楽だけが流れている。望遠で撮られていたりなど、人で賑わう街をサンフンとヨニが並んで歩く様子を映像と音楽のみで映し出す演出に、人知れず何を抱えていようとも群衆の中ではサンフンとヨニもその中の1人に過ぎないのだと感じられるシーンである。

サンフン「両親は幸せか?」

涙を流すサンフン(画像下)とヨニ(画像上)

サンフンの父親が自殺未遂を図った日、ヨニの父親がヨニを包丁で刺し殺そうとした日、サンフンはヨニに連絡をし2人は堤防で落ち合う。他愛もない話をする2人だったが、サンフンがヨニに「両親は幸せか?」と聞き、「もちろん幸せよ」とヨニが答え、「困らせないで親孝行しろ」と言うサンフンに、「あんたこそチンピラやめなよ。あんたの親はきっと泣いてるはずだわ」とヨニが言うと、サンフンはヨニの膝の上でむせび泣く。
怒りや憎しみの感情しか持ち合わせていなかったサンフンが声を上げて泣き、サンフンの前では家族を偽り心の傷を隠していたヨニもとうとう我慢ができなくなり涙を流す。言葉を交わさなくとも、痛みを分かち合う2人の感動的なシーン。

サンフンがマンシクに仕事を辞めると告げるシーン

事務所で話すサンフン(画像右)とマンシク(画像左)

父親を殴っている様子をヒョンインに見られてしまったサンフンは、「おじいちゃんを殴るな。優しいのになんで殴るんだ。パパもママをあんなふうに殴った」と泣きながら訴えられる。その姿に昔の自分を見たサンフンは、今の仕事を辞める決意をし、マンシクの元へ行く。「この仕事は今日で辞める」と言うサンフンに始めは驚いたマンシクだったが、自分も一緒に辞めると言い、サンフンに渡す退職金もあると伝えた。社長で友人でもあるマンシクが、一度言い出したら聞かないサンフンの意見を尊重し背中を押すのだった。

『息もできない』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話

ヤン・イクチュン監督の本作に懸ける思い

ヤン・イクチュン監督

主人公を演じたヤン・イクチュン監督は、『息もできない』を制作するにあたり、「自分は家族との間に問題を抱えてきた。家族の中でなぜ1人が殴り、1人が殴られるという関係があるのか、当時子供の自分には理解できなかった。家族の問題は差異はあるものの抱えている人が多いと思う。韓国では、父母や祖父母の世代が社会的に困難な時代、戦争やその弊害が残る状況の中で生きてきて、なかなか子供を手放したくないという風潮があり、子供が家族から精神的に独立するのが遅い。それは父母の子供に対する愛でもあるが、同時に執着でもあると思う。このもどかしさを抱えたままでは生きていけないと思った。すべてを吐き出したかった」と話している。そのため他のキャストにも、「演技をするのでななく、吐き出せ」と指示をしていたらしい。
制作費が足りず借金をし、更には自宅まで売り払い制作費にあてたヤン・イクチュンの、気迫に満ちた執念によって『息もできない』は完成した。
映画学校で学んだり、助監督などを経験したあと監督デビューするのが通例だという韓国では、それらを飛び越えて監督となるのは非常に珍しいという。

『息もできない』の原題は『トンパリ』

「トンパリ」とは糞蝿(クソバエ)を意味するスラング。劣悪な環境にたかるハエを、精神的苦痛を強いられた人間に降りかかる不幸に例えられている。

『息もできない』の主題歌・挿入歌

4nmaaari
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