虹色のトロツキー(安彦良和)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『虹色のトロツキー』とは、1990年より1996年まで、安彦良和が『月刊コミックトム』に連載した漫画作品。昭和初期の満州を舞台に、日本人の父とモンゴル人の母との間に生まれた青年・ウムボルトが、レフ・トロツキーを満州国に招く「トロツキー計画」に関わり、自身のルーツに迫っていく姿を描く。舞台となる満州国や日本を中心とする第二次世界大戦直前の世界情勢の中で、トロツキーをめぐって国家や民族、人々の思惑が絡み合い、複雑な人間ドラマが形成される。石原莞爾や辻政信、甘粕正彦といった実在の人物が多数登場する。

謝文東(しゃぶんとう)軍に属して戦う朝鮮人の朴基白(ぱくきぺく)は、謝文東のやり方についていけなくなり、仲間内でいざこざを起こす。
話を聞くウムボルトに朴は謝と別行動をとり、同じ朝鮮人である金日成(きんにっせい・きむいるそん)の元に向かうと告げ「やはり大事なのは民族の血だ!漢人は漢人 朝鮮人は朝鮮人! もちろん日本人は日本人!ちがうか!?」と語る。
「民族というよりもっと大事ななにかで人と人とは結びつき合えるだと思っている」というウムボルトに、朴は「理想主義者は殺されるぞ!敵にも!味方にも!!」と返す。
そしてウムボルトを勇敢でいい指導者になると評価し「蒙古民族と共に闘えよ!そうしたらキミはジンギスカンになれる!」と言い残して去っていった。
その言葉は自身のルーツ、民族に思いを巡らすウムボルトに深い印象を残す。

ウムボルト「人がひとり死んだんだぞ!!平気な顔をするな!!泣け!!」

興安軍(こうあんぐん)の少尉となったウムボルトは、興安軍官学校の教官として赴任し、モンゴル人の生徒たちと打ち解ける。
第三班の班長であるダムバドルジは、「じぶんも少尉殿(ウムボルト)のような立派な将校になりたいデス!」と話す、無邪気で真面目な生徒だった。
ある日、歩哨に出ていたダムバドルジは敵の攻撃を受け、重傷を負ってしまう。
犠牲を出しながらもウムボルトたちは敵を撃退する。戦闘後、上海に出向するウムボルトと共に後送されることになったダムバドルジは、自分がもっと早く敵の存在に気づけばと気にかけていた。ウムボルトは優しい言葉をかけてやるが、安心したダムバドルジは息をひきとった。
淡々とダムバドルジを看取る衛生兵に、戦いに虚しさを感じていたウムボルトは「なぜ悲しんでやらないんだ…」と感情を爆発させ、「人がひとり死んだんだぞ!!平気な顔をするな!!泣け!!」と叫ぶ。
軍人として戦いに身を投じながらも、その意義に迷い、非情になりきれないウムボルトの姿を象徴する場面。

ウムボルト「非道な犠牲を人に強いるような大義など正しくはありません!!そんなものは犠牲になった者達の流す涙の万分の一の値打ちもない独りよがりです!!」

ウムボルトはジョンジュルジャップの手引きにより関東軍司令部を訪れ、父・深見圭介(ふかみけいすけ)の死の真相を知る花谷正(はなやただし)大佐と対面する。
深見の死の真相、それは張作霖(ちょうさくりん)爆殺事件を起こした河本大作(こうもとだいさく)大佐を守るため、関東軍にとって都合の悪い謀略を隠蔽するための「陸軍の総意」だった。
ようやく明かされた父の死の真相。「むろん望むところではなかった。深見中尉は立派な先輩だったからな…」としつつも「帝国陸軍の大義と国家の繁栄のために、犠牲は必要だった」と弁明する花谷に対し、ウムボルトは怒りをこらえ「それはちがいます」、「非道な犠牲を人に強いるような大義など正しくはありません!!そんなものは犠牲になった者達の流す涙の万分の一の値打ちもない独りよがりです!!」と言い返すのだった。

『虹色のトロツキー』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話

アニメーターから漫画家へ

作者の安彦良和(やすひこよしかず)は、アニメーターとして『機動戦士ガンダム』『宇宙戦艦ヤマト』『超電磁ロボ コン・バトラーV』などに関わった。『クラッシャージョウ』や『巨神ゴーグ』では監督をつとめたが、商業的に振るわず「アニメ屋としての気持ちが切れた」という。
また、『風の谷のナウシカ』や『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』を見て、そのクオリティの高さにとても敵わないと思ったこともあり、アニメを諦め『ナムジ』(1989年)から専業漫画家として活動を始めた。
本作『虹色のトロツキー』は、安彦の専業漫画家としての2作目にあたる。

作品の背景

安彦良和(やすひこよしかず)は、今作を手掛けるにあたり「従来の被害と不正義を告発するような被害者的視点と、『馬賊もの』と称されるようなお楽しみ系、そのどちらでもないものを描きたい」と考えたという。
作品の構想の過程で「建国大学」にたどり着いた。OBに取材をしたり資料を調べるうちに建国大学を舞台にした青春記に転換することも考えたが、書きたいテーマが多く、結局実現しなかった。
作品の最終盤には現代の日本に舞台が移り、安彦がOBに取材をする姿も描かれる。

いしかわじゅんとの論争

NHK・BS2の番組『BSマンガ夜話』の2004年11月29日の放送において、本作が取り上げられた。
番組内でレギュラー出演者のいしかわじゅんが、川島芳子や李香蘭の登場シーンを「必然性がない」、植芝盛平が合気道の技を使ってウムボルトを投げるシーンについて「動きが描けていない」と批判。
安彦は『王道の狗』第4巻あとがきで、「そもそも川島と李の2人は中心ではなく客演者に過ぎず、合気道の技についてはプロレス技などと違い、中動作が極めて見えにくい。望むのであれば全ての動作を描いてもいい」と反論した。
この論争について、同じく『BSマンガ夜話』にレギュラー出演していた夏目房之介や評論家の伊藤剛などがフォローする発言を行った。

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