ノー・ガンズ・ライフの名言・名セリフ/名シーン・名場面まとめ

『ノー・ガンズ・ライフ』とは、カラスマタスクによって「ウルトラジャンプ」で連載されたSF漫画作品である。本作は読みきりを2回経て、2014年に連載が開始された。
主人公は、作中で「拡張者」と呼ばれるサイボーグ、乾十三(いぬいじゅうぞう)。十三は、街で「処理屋」というトラブルシューターを営んでおり、頭頂部が拳銃になっているという、かなり奇抜な見た目のキャラクターである。
古臭い探偵小説のような物語である本作では、鉄の塊のような、武骨な男の言うハードボイルドなセリフが印象的である。

『ノー・ガンズ・ライフ』の概要

『ノー・ガンズ・ライフ』とは、全身を機械の体に変えた、「拡張者(エクステンド)」と呼ばれるサイボーグの主人公・乾十三(いぬいじゅうぞう)が活躍するSF漫画作品である。

本作の作者・カラスマタスクは、2006年に月刊少年エースで、読み切り作品『カミホギ』でデビューし、その後、同誌で『シャングリ・ラ』や、月刊少年ライバルで『ドールズフォークロア』などの作品を発表した後、2014年にウルトラジャンプでSF漫画『ノー・ガンズ・ライフ』の連載を開始した。

本作の物語始まりはいつも、十三の1人語りからはじまる。

「―オレは乾十三。あの大戦を経て拡張者と呼ばれる身体機能に拡張処理を施した者達があふれるこの街で、拡張者に関する問題を「処理」する稼業を正業としている」

レイモンド・チャンドラーの書く小説のような1人語りでわかるように、本作はSFである一方、ハードボイルド風の物語にもなっている。

ハードボイルドとは「固ゆで卵」という意味であり、黄身までしっかり硬くなったゆで卵のように、周囲に流されることがなく、己の生き方を貫くタフな男を主人公とした物語をハードボイルド小説という。また、アーネスト・ヘミングウェイの小説などに代表されるように、客観的で簡潔な文体で描写される作品なども意味している。(例えば「マルタの鷹」で有名なダシール・ハメットは報告書のような文体を使って表現している。)本作も、複雑な設定の多い漫画であるにも関わらず、十三の1人語り以外は説明を出さず、極力絵とセリフで、物語背景や設定を語っており、ハードボイルド文芸の特徴である、無駄をそぎ落とした簡潔な表現が、漫画として上手く表現されている。
また、ハードボイルド文芸のその他の特徴としては、猥雑な都市社会を舞台とし、そこに住む一癖も二癖もあるキャラクターが特徴で、犯罪をテーマとして扱った物語が多いということであるが、本作も街を舞台として、そこに住む様々な事情を抱えた人々が登場し、彼らが引き起こす(もしくは巻き込まれる)事件を主人公が解決するという物語形式をとっている。

主人公である十三は、戦時中兵器として拡張処理を受けており、生身だった頃の記憶は失くしていた。その外観は、大柄な体躯に、頭頂部がリボルバー式のピストルという異形の姿で、作中では「過剰拡張者(オーバーエクステンド)」と呼ばれている。
十三は、「ガンスレイブユニット」という拡張体で、頭部の銃口から放たれる一撃は戦況を一変させるだけの力を持っていた。そして、「ハンズ」と呼ばれる、ガンスレイブユニットの力を制御するパートナーが力を解放させると、体内に宿った更なる武器を使うことが出来る。

拡張者は失った体を機械で補っているだけの人もいれば、特殊な機能をつけたり、十三のように戦争のために全身を拡張体にして、兵器を内蔵した異形の姿となった過剰拡張者となったものもいる。作中では戦争が終わり、行き場も生き方も見出せない拡張者が様々な事件を起こすのが社会問題となっている。十三は、そんな拡張者と非拡張者達の間で起こる揉め事を処理する「処理屋」というトラブルシューターを、拡張者や移民が集う街で営んでいる。彼は後に、自分のパートナーとなっていく「ハルモニエ」という拡張者の体にハッキングできる力を持つ謎の少年・荒吐鉄朗(あらはばきてつろう)と、有能な拡張技師(拡張者の体を専門に扱う技師)の少女・メアリーと供に、大企業ベリューレンの陰謀に巻き込まれていく。

本作の黒幕であるベリューレンとは、十年前に起きた戦争で拡張技術を開発したために、戦後は街の支配者のごとく君臨するほどに発展した巨大企業である。その上、ベリューレンは、大勢の孤児を使って、拡張体の違法実験を行ったりするなど、非人道的な実験を秘密裏に行っており、その目的や行動原理は謎につつまれている。物語冒頭で判明しているのは、本作のメインキャラクターの1人、荒吐鉄朗にハルモニエを宿したことである。
鉄朗は、ベリューレンのCEO(最高経営責任者)荒吐総一郎の息子であるにもかかわらず、手足の腱を切られ、声帯を潰されるなど酷い仕打ちを受け、そのうえハルモニエを埋め込まれていた。やがて鉄朗がベリューレンの施設から脱走すると、ベリューレンは鉄朗を血眼になって捜し始めた。このハルモニエにいかなる秘密が宿され、ベリューレンがそれを使って何を企んでいるかが本作の最大の謎である。

本作は独特の世界観を持っており、舞台となっている街には巨大なビルが立ち並び、狭い路地裏や壁にパイプが張り巡らされ、漢字で書かれた看板が点在しているので香港や台湾のようなアジア的な雰囲気を持っている。その一方、電話や車などのデザインは20世紀初頭の欧米諸国のようでもある。登場人物の人種は、鉄朗のような日系人も居れば、メアリーやオリビエのようにアングロサクソン系も居るので、舞台となっている国がアジアなのか、それともヨーロッパやアメリカなのかはっきりしない。その上、具体的な地名を表わしている箇所や、街を俯瞰視点で描写している場面がないので、作中で舞台となっている街がどの国のどういった場所にある街なのか良く分からないようになっている。そのため、混沌とした猥雑な都市社会の中で暮らす一癖も二癖もある住人達が起す事件に巻き込まれる一人の男という、古典的なハードボイルド小説の世界観の形成に一役買っている。こうしたアジアと欧米を合わせた様な世界観は、映画「ブレードランナー」や「攻殻機動隊」、SF漫画「銃夢」などの影響が見て取れる。

物語は、十三が1人の少年・荒吐鉄朗を助けたことから始まる。十三が、ゴロツキにからまれた飲み屋の女給を助けた後、自分の事務所に戻ると、そこには子供を抱えた大柄な拡張者が居た。警備局に連絡しようとした十三だが、拡張者の切羽詰った様子を見て何者か問い正そうとすると、今度は警備局が現れた。彼らは子供を拉致した拡張者を追っており、それが今しがた十三の事務所に乱入した拡張者ではないかと思い、部屋を調べようとしたが、十三に凄まれて、彼らは立ち入り捜査を断念した。

拡張者は十三に礼を言うと、連れてきた子供を十三に預け、街中に張り巡らされた警備局の監視員の目を誤魔化すために、自らは囮になった。
子供は意識を失っているうえに、手足の腱を切られていた。十三は自分の専属技師メアリーに子供を匿ってもらうように連絡を入れ、子供を抱えて彼女の元に向かったが、道中で1人の修道女が現れた。十三が抱えているその子供は、自分たちの孤児院で預かっている少年だったと言って引き取ろうとしたが、十三は子供の手足が腱を切られていることや、子供を拉致した拡張者がいるのに一人で出歩いている様を見て、彼女がただの修道女ではないと訝った。修道女の正体はべリューレンの刺客であった。

ベリューレンの刺客と交戦する十三だが、子供を抱えた状態では分が悪かった。そこへ十三に子供を守るように依頼した拡張者が現れ、十三に加勢したが、返り討ちに遭い、地下水道に落ちてしまう。十三は拡張者を助けるために、断腸の思いで子供を一旦べリューレンの刺客に渡し、拡張者を助けるために地下水道に飛び込んだ。
十三は拡張者から真相を聞くと、子供の名は荒吐鉄朗といい、彼はべリューレンの実験体で、拡張体遠隔操作装置「ハルモニエ」を埋め込まれていることが判明した。そしてハルモニエの力で、今しがた十三と話している拡張体を操ってべリューレンの元から脱走したのだった。今まで十三と話をしていたのは、ハルモニエで拡張体を操っていた鉄朗であったのだ。
やがて、鉄朗が操っている拡張体がハルモニエの力に耐え切れず限界を向かえ、鉄朗は脱走をあきらめて、十三に礼を言ってハルモニエの接続を切った。しかし十三は鉄朗を見捨てようとはせず、彼が乗せられたべリューレンの護送列車に乱入し、鉄朗を救助した。十三は助けた鉄朗の処遇をどうするか考えていると、街頭テレビのニュースが飛び込んできた。それによると、鉄朗はべリューレンのCEO荒吐総一郎の息子であったのだ。

そして十三は、この時からべリューレンの陰謀に巻き込まれていくようになる。

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乾十三の名言・名セリフ/名シーン・名場面

乾十三

本作の主人公で、街で処理屋を営む、過剰拡張者。頭部の銃だけでなく、拳にも銃が仕込まれている。その正体は大戦時に活躍した、ガンスレイブユニットと呼ばれる戦略兵器型拡張者。強力なパワーを持つ反面、神経系統に負担がかかるので、『種子島』という鎮静剤入りのタバコを常用している。武骨な見た目に合わず、掃除好きという一面を持つ。
拡張者となる前の記憶を持っておらず、いかなる人物だったのかも自分ではわからないようである。

ガンスレイブユニットは、「ハンズ」と呼ばれるパートナーに制御され、その力を発揮する。戦時中、十三にもハンズがいたが、現在は行方知らずである。

「オレの引き金に触れていいのはオレが認めた奴だけだ」

第1巻出典

本作の物語冒頭。十三が街の飲み屋の依頼で、店で暴れている拡張者のチンピラ2人と退治していた時、チンピラの内の1人が隙を見て、十三の頭頂部にあるグリップと引き金を掴もうした。彼らは、「十三は引き金を手にかけられるのを嫌う」という噂を聞いて、それが十三の弱点だと思った。
十三が自分の引き金を誰かに引かれるのを嫌うのは確かだが、それは弱点というわけではなかった。十三は引き金を引こうとしたチンピラをあっさりと打ちのめして、「オレの引き金に触れていいのはオレが認めた奴だけだ」と言った後、「そして…オレは誰も認めるつもりはねぇんだよ」と凄みをきかせ、チンピラ二人を追い払った。

頭頂部が銃になっているという十三のキャラクターを際立たせた、本作序盤の場面とセリフである。

十三の正体は、戦時中に活躍した「ガンスレイブユニット」と呼ばれる拡張者で、徒手空拳でも高い戦闘力を発揮することが出来るが、「ハンズ」という射手の拡張者の制御下におかれることによって、真価を発揮する拡張者であった。頭頂部から放たれる銃撃は強力で、戦況を一変させるほどであったという(頭頂部の銃はハンズでなくても撃つことができる)。そしてハンズの許可を受けると、内臓されている兵器を使って戦うことが可能で、その破壊力は町を1つ破壊できるほどである。しかしその戦闘力ゆえに、人の手に余ると見なされ、終戦時にガンスレイブユニットは軍の上層部によって廃棄が決定された。

十三を除くガンスレイブユニット達は逃亡を企てたが、十三の狙撃によって始末されてしまう。その時、十三は軍の命令とはいえ、同胞を殺したことに衝撃を受けてしまう。十三はそれまでただ軍の命令に従い、あまり自分の意志を持とうとしなかった男であった。そして命令されるままに自分の仲間である、他のガンスレイブユニットを手にかけることとなったのである。
己の行為を省みた十三は、自分の意志で判断しなかったことに後悔し、罪悪感から暴走して友軍と町を破壊してしまったのだ。
十三は引き金に触れるのを嫌っているのではなく、誰かに制御されるのを嫌っているのである。

ガンスレイブユニットには謎が多く、拡張体の脊髄部分に収納してある兵器・「椎骨連結格納庫」は、あらゆる局面で対応するための装備品が収納され、戦闘中に破損した身体の修復も行うことが出来る。そして、その格納庫の鍵となっているのがハンズの腕に取り付けられている制御装置である。
格納庫や、そこから取り出す武器は明らかに、ガンスレイブユニット本体より大きいので、ガンスレイブユニットは四次元的な構造になっていると思われる。

このガンスレイブユニットの謎を追うというのも物語の魅力の1つである。

「てめえの願いはオレが叶えてやる、“弾丸(願い)”は込められた」

第1巻出典

十三は自分の事務所に乱入してきた謎の拡張者から、手足の腱を切られた子供を守るように依頼された。拡張者は警備局の目を誤魔化すために、囮となって、いずこへと去っていった。子供を安全な場所まで運ぼうとする十三だが、道中でべリューレン刺客に襲われてしまう。子供を抱えているためにうまく戦えない十三。そんな彼を助けるために再び謎の拡張者が現れたが、べリューレンの刺客に返り討ちされ、地下水脈に落とされてしまう。間一髪で彼を掴んだ十三だが、子供も抱えていて、引き上げることが出来ない。そこで刺客の手に渡るのを承知で子供を置き、十三は拡張者を助けようとしたが、刺客は子供を置いた瞬間に十三に凶弾を浴びせた。地下水脈に落ちていく十三と拡張者だが、拡張者は身を挺して十三を庇った。

拡張者から事の真相を聞くと、子供の名は鉄朗といいべリューレンが拡張体を遠隔操作できる装置「ハルモニエ」の実験体となった少年であることが判明した。十三の元に現れた拡張体は鉄朗が操っているものである。つまり、今まで十三と話をしているのは拡張体ではなく、拡張体が抱えていた子供・鉄朗であったのだ。鉄朗はベリューレンによって手足、そして声帯を切られ、それでも自由を得るためにハルモニエを使って脱出したが、再び、べリューレンの手に落ちてしまう。操っている拡張体は、ベリューレンの刺客との戦いで破損し、ハルモニエの負荷に耐え切れなくなっていた。鉄朗は全てを諦め、拡張体に限界が来たところで、十三に礼を言って接続を切った。
十三は鉄朗を助けるために、彼が護送されているべリューレンの私設列車に乱入し、拘束されている鉄朗に向かって、「ガキはガキらしく駄々の一つもこねて見やがれ!!!」と、檄を飛ばした。それに答えるように鉄朗はハルモニエを起動させて、近くの拡張者の体を乗っ取り、十三に「僕を助けて…!!!」と懇願した。その言葉を聞いた十三は「てめえの願いはオレが叶えてやる、「弾丸(願い)」は込められた」と言って、鉄朗を助けるためにべリューレンと戦うこととなった。

自らの頭頂部が銃になっているからなのか、十三は依頼人のから仕事を引き受けたとき「願い」を「弾丸」に喩えてこのセリフを言っている。

十三が軍に身を置いていた時、彼は軍の命令どおりにしか動かない男であった。ガンスレイブユニットはハンズというパートナーの制御下に置かれてしまうので、自分の意志の無い道具となって生きるしかなかったのである。やがて十三は、軍を裏切って脱走した同じガンスレイブユニットを処刑する任務を受け、彼らを殺したという自責の念から暴走し、町ひとつ破壊してしまう。
十三は自分のハンズの口添えで釈放され、軍から離れた。そして、この街に住み着いて「処理屋」と名乗り、他人の願いを叶える仕事を生業とするようになった。
自分の意志を持たず、仲間のガンスレイブユニットを殺して彼らの自由になるという願いを踏みにじった十三は、ガンスレイブユニットの力を封じた状態で、助けを求める誰かのためのみ力を使うことが、唯一の償いだと思っているのだ。

「世の中理屈じゃねぇんだ 理不尽と折り合いをつけてやっていくしかねぇんだよ」

第1巻出典

十三は鉄朗を助けた後、テレビのニュースで、鉄朗がベリューレンのCEOの息子であることを知った。その後、移民の集う区画、「九星窟」に向かい、そこで己の専属の拡張技師であるメアリーのラボに鉄朗を匿った。すると十三を尋ねて、九星窟を管理するヤクザ「九星会」の幹部であるホアンが現れた。彼は九星窟で起きている、拡張者となった子供が襲われる事件の処理を十三に依頼しに来たのだ。
ホアンはこの事件を反拡張技術派テロリスト集団のスピッツベルゲンの仕業と思っていたが、十三はスピッツベルゲンではなく、べリューレンが鉄朗を燻り出して、見つけるためにやったことだと見抜き、鉄朗を守るために依頼を断った。
自分を燻り出すために、見ず知らずの子供が襲われていると知った鉄朗は責任を感じ、十三にこの事件の処理を求めたが、十三は鉄朗を助けるのが精一杯で赤の他人までは助ける余裕が無いと突き放してしまう。それでも鉄朗は、自分がべリューレンのCEOの息子なら、この悪事を止める義務があると正論を言ったが、十三は「世の中理屈じゃねえんだ理不尽と折り合いをつけてやっていくしかねえんだよ」と冷たく返すのみであった。

鉄朗は純粋な正義感と、責任感から九星窟の子供を助けたいと思っているが、十三はそれをたしなめ、鉄朗に正義感だけではどうすることも出来ないという、理不尽な現実を受け入れさせようとした。他者の気持ちを重んじている十三だが、それでも出来ることは限られている。いくら罪のない子供が犠牲になっているからと言って、無闇に動けば鉄朗を危険な目に合わすことになってしまう。鉄朗を守るためには、この事件を黙って静観するしかないのである。
正論を言う子供に対し、理不尽な現実を言って諭す大人という構図が印象深い場面であり、十三の言葉には、常に理不尽なことを吞み込んできた大人の苦々しい思いが込められている。

「……気にいらねぇが信用しているぜ…お前の誰が何を言おうと己の成すべき事を成すってぇところだけはよお」

第2巻出典

十三は親しくしている復興庁のEMS(拡張者対策局)の局長・オリビエの依頼で、脱走した拡張者の囚人を捜査することになった。囚人の名はヘイデン・ゴンドリー。彼は何者かの助力を得て脱走してしまう。ゴンドリーは逮捕以前から暴走状態となっており、脱走から48時間で3人以上殺されていた。
ゴンドリーが逮捕されたのは戦時中であり、彼は軍で特殊任務に就いていたため、記録は一切残っていなかった。彼は補助脳が異常をきたしていて、戦時中、ノーズスコットの研究所で暴走し、研究所に査察に来ていた軍警察と、友軍の兵士を殺害してしまったのである。(拡張者は体をコントロールする際、脳に負担がかかるために脊髄に補助脳というAIを取り付けて、負担を軽減させている)
事件が起きた時、戦時中拡張技術を普及させたがっていた推進派は、拡張技術が一般に広まることを、妨げられるのではと懸念し、ゴンドリーの暴走はあくまでも本人の所為であると主張した。それに対し、軍警察は補助脳に問題があると主張した。議論は平行線を辿り、行き着いたのはゴンドリーの無期限の幽閉であった。(オリビエに言わせると問題を先送りにした。)

十三は被害者の1人である復興庁の高官フィリップ・ルカレの屋敷で調査をしていた時に、落ちていた写真から、ゴンドリーが戦時中から被害者達と面識があることが分かった。すると十三の前に、EMSの捜査官でオリビエの部下・クローネンが現れた。彼もまたゴンドリーの捜査で屋敷に来ていたのだ。十三は、次にゴンドリーに襲われると予想されるのは、ゴンドリーの同胞であり、初の全身拡張者と言われている「メガアームド斎時定」と判断し、クローネンと供に時定の元へ急行した。
時定を監視していた2人は、少女に擬態したゴンドリーが時定に襲いかかろうとしているのを目撃した。2人は時定を連れて逃走し、時定からゴンドリーの正体は擬態能力を持った、過剰拡張者であることを知った。彼はその能力を使って、戦時中は暗殺任務を行っていたが、ゴンドリーは烏賊や蛸のような異形の形状をしているうえに、擬態という特殊な機能を持っているため補助脳の負担も凄まじく、とうとう暴走してしまったのだ。

時定を保護しながらゴンドリーの捜査をしている時、上層部からクローネンに、EMSは手を引けとの指示が下された。オリビエは局長の任を解かれ、ゴンドリーは逮捕ではなく処分されることになり、その任務は別の者が担うことになったのだ。(上層部は元々オリビエにゴンドリーの処分を任せていたが、オリビエはゴンドリーを公の場で裁くチャンスであると思い、ゴンドリーを逮捕しようとしていた。)上層部は事件を完全に闇に葬ろうとしていた。(EMSに手を引かせたのは、非合法的な手段で始末するつもりであったためと思われ、又、オリビエに言わせると上層部はベリューレンとの癒着が疑われていると言っている。)
クローネンは現場を離れることになったが、その隙を狙ってゴンドリーが再び現れ、時定に襲いかかろうとした。それを十三は徒手空拳で防ぎ、ゴンドリーに真っ向勝負を挑んだ。やがて両者とも消耗し、ゴンドリーは補助脳が過熱してしまったので撤退したが、彼の退路にはクローネンが待ち構えていた。クローネンはゴンドリーの補助脳に針を打ち込んで、体の動きを封じた。
「……気にいらねぇが信用しているぜ…お前の誰が何を言おうと己の成すべき事を成すってぇところだけはよお 」と言って十三はクローネンに全てを託していたのだ。

クローネンは生身だが、拡張者のトリガーポイント(動力系)に針を打ち込んで、拡張者の動きを封じる技術を持っている。十三と仲が悪く、2人は喧嘩が絶えないが、お互いの実力は認め合っており、時には協力しあうこともある。
双方供に個人感情に惑わされずに、己の成すべき事を果たそうとする「仕事人」としての誇りと、両者の奇妙な間柄を表している名言である。

「すっかり寝入っちまったぜ あんたのご高説があんまり退屈だったもんでなあ」

第3巻出典

10年前、ノーズスコットの拡張技術研究所で起きたヘイデン・ゴンドリーが軍警察を殺した事件。その真相は、捕虜を使った違法な拡張実験を時定がもみ消すために、当時すでに暴走していたゴンドリーを軍警察にけしかけたのであった。犠牲者の中には、軍警察であったオリビエの父親も居た。
真相を知り、怒りに燃えるオリビエだが、そこへタバコの鎮静剤が切れて暴走した十三が乱入し、時定に襲いかかる。しかし十三は、時定に向かって振り下ろした拳をはずしてしまう。そして十三は補助脳の負担をかけすぎて限界に達し、とうとう倒れてしまった。
間一髪で助かった時定はオリビエに向かって、「自分が英雄であることを世が望んでいる、拡張者と非拡張者との架け橋である自分によってこの国は平穏を保たれて来た、自分の存在こそが大義であるのだ」と主張しはじめた。
時定に殺意さえ覚えていたオリビエであったが、暴走した十三が時定への攻撃をはずしたことから、犯人を生きたまま捕まえてくれというオリビエの願いを、十三がギリギリの状態で全うしようとしていることに気付いた。
十三の思いを知ったオリビエは、自分の本当の願いが復讐ではなく、犯人を捕まえて、父の無念を晴らすことだったと思い出した。そして、十三の愛飲している鎮静剤入りのタバコ・種子島の煙を口移しで与え、「…あなた……依頼人を見殺しにするつもり?十三 」と言って十三の正気を取り戻させた。時定は、オリビエと十三を二人まとめて鉄パイプで串刺しにしようとしたが、目覚めた十三にさえぎられる。
その時十三は、「すっかり寝入っちまったぜ あんたのご高説があんまり退屈だったもんでなあ」と憎まれ口を含んだ決めセリフを言った。薄っぺらな正論を交えた時定の演説との対比が印象的な名セリフであり、オリビエがタバコの煙を十三に口移しして目覚めさせるという名場面である。

かつて、かの有名なチャップリンの映画「殺人狂時代」には「一人を殺せば犯罪者だが百万人を殺せば英雄だ」と言う言葉がある。チャップリンだけでなく、ドストエフスキーの「罪と罰」や、古代中国の思想家である墨子も同じ事を言っていた。
英雄の行為には蛮勇も含まれ、それが大義としてみなされる場合もある。例えば戦争などで、敵国の人間を何万と殺して自国を勝利に導くといったことである。有事において行われるマキャベリズムによって、国や民を守ることができれば、大衆はそのものを英雄として賞賛する。それがどれほど恐ろしい所業でも、大義名文と大衆を惑わす弁舌とパフォーマンスに長けていれば、その人物は英雄として大衆の記憶に刷り込むこともできるのだ。
それを得意としていたのが、時定なのである。大衆を煽るパフォーマンスに長けた彼は、戦時中ノーズスコットの研究所を査察に来た役人達を始末しただけでなく、隠蔽にも一役買っていたようである。だが、洞察力に長けた十三は、時定の語る理念や大義に惑わされることはなかった。十三は襲い掛かってきた時定を返り討ちにし、時定はオリビエに逮捕されてしまう。

時定は護送中、オリビエに彼が自分を英雄たらしめた存在・ベリューレンのことを話そうとした。時定は、ベリューレンはEMCではどうにもならないほど強大な存在であることを言ったが、全てを語る前に時定は、ベリューレンの処理屋であるガンスレイブユニット「セブン」とそのハンズのペッパーに粛清されてしまった。そして、戦時中ノーズスコットの研究所で、何が行われていたのかについては、闇に葬られてしまったのだ。

「…知らねぇことには決めようがねぇだろう 大事なのは知っちまった事に対してどういう選択をとるか…だ」

第6巻出典

十三がべリューレンの情報が入った記録媒体を手に入れたために、それを狙った反拡張技術主義「スピッツベルゲン」によって、鉄朗と十三の事務所があるビルのオーナー・クリスティーナが拉致されてしまう。だが、そのスピッツベルゲンはいかなる理由からなのか、鉄朗とクリスティーナを解放したのであった。
鉄朗はスピッツベルゲンに拉致されている時に、組織のリーダーから、自分がハルモニエの実験体となって、記憶を失う前にスピッツベルゲンに協力していた事実を知らされる。自分がテロリストに加担していたと知り、ショックを隠せない鉄朗は、そのことを十三に話した後、こんなことなら事実を知りたくなかったと言った。
それに対して十三は「…知らねぇことには決めようがねぇだろう 大事なのは知っちまった事に対してどういう選択をとるか…だ」と言って鉄朗を諭した。

十三は軍に居た頃、ハンズがいなければその真価を発揮できないというガンスレイブユニットの特性もあって、軍の命令に機械的に従って生きていた男であった。さらにガンスレイブユニットのパワーは、ハンズなしで使おうとすると安全装置が働き、意識をなくしてしまうのであった。だから、十三は自分で判断したり選択をしようとすることはなかった。しかし、同胞のガンスレイブユニット達を殺してしまった時、今まで自分の意志で判断をしなかったことに後悔をした。
終戦後、街で生きることになった十三だが、他の帰還拡張兵と同様に、生き方も居場所もわからず荒れていた。やがて、十三は自分の力を封印した状態で、拡張者に関わるトラブルを処理する仕事をすることになった。それが、忌まわしい過去と向き合うために十三が選んだ道だった。
そうした経験から十三は鉄朗に、忌まわしい事実や過去の向き合い方を教える一方、十三自身も又、同胞を殺したというその事実とどうやって向き合って生きていくのか、常に思い悩んでいるのではないかと感じさせるセリフである。

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