あの夏のルカ(ピクサー映画)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『あの夏のルカ』とは、2021年に公開されたピクサー・アニメーション・スタジオ製作の3Dアニメーション映画で、少年たちのひと夏の冒険を描いたファンタジー・アドベンチャーである。シー・モンスターの正体を隠して人間の世界に飛び込んだ少年ルカと親友アルベルトは、自由を手に入れるため人間の町のトライアスロンレースで優勝して賞金を獲得しようと奮闘する。色彩鮮やかでノスタルジックなイタリアの港町を舞台に、友情と好奇心の間に揺れ動く子ども達の心の変化が見どころ。

ルカが学問に初めて触れるシーン

天体について話すジュリア(左)とルカ(右)

ルカとアルベルトはジュリアのツリーハウスに泊まり込み、レースの練習に明け暮れていた。そんなある夜、アルベルトがマッシモの漁の手伝いで席を外し、ルカとジュリアはふたりで過ごすことになる。ジュリアが星の話をした時、ルカは初めて聞く天体の話に衝撃を受ける。以前アルベルトからは「空で光っているのは、眠っているイワシだ」と説明を受けていたためだ。知的好奇心が旺盛なルカは、ジュリアが学校で学んだ天文学の話に夢中になる。ジュリアも自分の話を楽しそうに聞いてもらえることに喜びを感じていた。ジュリアはいつも母から「喋りすぎ」と注意されていたためだった。この夜、学問に触れたことをきっかけにルカは学校に行きたいと思うようになる。物語のターニングポイントとなる重要なシーン。

ルカ「君の真似したの」

町人達の目の前でシー・モンスターに変身して、アルベルト(右)を助け出すルカ(左)

ポルトロッソカップ当日の自転車レース中突然の雨で濡れないように民家の軒下に逃げ込んだルカは、レースに戻らなければ優勝できず、レースに戻って雨に濡れれば正体がバレてしまうジレンマに動けなくなっていた。そこへ昨日ルカに裏切られ傷つけられたはずのアルベルトが、大きなパラソルをさして「ルカ、助けに来たぞ」と駆けつける。しかしよそ者が気に食わないエルコレに蹴飛ばされたアルベルトは、パラソルを落として雨に濡れ、群衆の中でシー・モンスターの姿に変身してしまった。前々からシー・モンスターの懸賞金を狙っていたエルコレは、躊躇なくアルベルトを漁網で捕らえる。これを見たルカは、自身も雨に濡れて正体がバレることも憚らず、自転車で飛び出してアルベルトを救い出した。自転車にふたり乗りして逃げながら、アルベルトが嬉しそうに興奮した様子で「おまえ本当にどうかしてるな!」と言うと、ルカも嬉しそうに「君の真似したの」と答えた。臆病だったルカが、アルベルトを見習って彼のピンチを救い出す際の印象的なセリフ。

アルベルト「おまえが島から連れ出してくれた。もう大丈夫だ」

別れを前に固く抱き合うルカ(左)とアルベルト(右)

ジュリアの見送りに来たルカは、アルベルトの計らいでジュリアと一緒に学校に通えることになったと知る。今にも出発しそうな汽車に乗り込もうとするルカは、アルベルトも一緒に学校へ来るものと思っていた。しかしアルベルトはマッシモのもとに残るのだと言う。「僕、君がいないと無理だよ」と怖気づくルカを、アルベルトは「俺はずっと一緒だ」と励ました。するとルカは今度はアルベルトの肩に手を置き、「でも君はひとりで大丈夫?」と問いかけた。すると今まで頼りになる兄のように振る舞っていたアルベルトが、急に悲しみが溢れそうな表情になり、ルカをしっかりと抱擁して「おまえが島から連れ出してくれた。もう大丈夫だ」と返した。これを聞いたルカは、決意を固めて汽車にひとりで乗り込んだのだった。ふたりのより深まった友情が表れる、ラストシーンの印象的なセリフだ。

『あの夏のルカ』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話

チッチョの声優は映画監督ピーター・ソン

チッチョの声優を担当した映画監督ピーター・ソン

エルコレの子分のひとり、小太りのチッチョの声優を担当したのは、ピクサー作品『アーロと少年』(2015年公開)や『マイ・エレメント』(2023年)で監督を務めたピーター・ソンである。ピーター・ソンは声優経験も豊富で、『レミーのおいしいレストラン』(2007年)でエミール、『バズ・ライトイヤー』(2022年)でソックスなどを演じている。いずれも作品の魅力を引き立てる名脇役である。

水の描写のモデルはスタジオジブリ作品

水の表現は2Dアニメを参考にしている

本作において、ピクサーは新たな水の表現を追求している。完全なリアリティを追求しない「漫画的な水しぶき」と呼ばれる、2Dアニメーション表現を参考にした描写を取り入れたのだ。この時参考にされたのがスタジオジブリ制作宮崎駿監督の『紅の豚』(1992年公開)、『千と千尋の神隠し』(2001年公開)、『崖の上のポニョ』(2004年公開)などである。本作の監督エンリコ・カサローザの、スタジオジブリや宮崎駿へのリスペクトの表れでもある。

ディズニーランド・パリでは本作をモチーフにしたレストランが人気

ルカのイラストが描かれた、ディズニーランド・パリのレストラン『ピッツェリア・ベラ・ノッテ』

フランスにあるディズニーランド・パリの人気エリアのひとつ「ファンタジーランド」内のレストランに、「ピッツェリア・ベラ・ノッテ」がある。こちらは『わんわん物語』をモチーフに、イタリアの様々な地方の雰囲気を内装や料理で表現しているレストランだ。その一部が2022年から改装され、本作をモチーフとした拡張エリアが誕生している。ポルトロッソの漁業文化を連想させる料理も楽しめるという。

『あの夏のルカ』の主題歌・挿入歌

ED(エンディング):suis「少年時代」

suis「少年時代」

日本語版エンドソングは、井上陽水作曲「少年時代」が採用された。これをトクマルシューゴが本作のためにアレンジしている。トクマルジューゴは日本出身のアコースティックギターと非楽器の演奏の調和を追求したミュージシャンで、2008年にはニューズウィーク誌が特集した「世界が尊敬する日本人100人」にも選出された実力派である。また歌唱は男女2人組ロックバンド、ヨルシカのボーカルsuisが担当している。日本人の郷愁に訴えかける名曲が、遊び心と瑞々しさあふれるアレンジで、作品の世界観を彩る楽曲にリメイクされている。

peony
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@peony

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