劇光仮面(漫画)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『劇光仮面』(げきこうかめん)とは、特撮の魅力に取り憑かれた若者が歩む愚かしくも気高い求道と友情の日々、そして不可思議な事件を描いた、山口貴由の漫画作品。
特撮美術に魅入られ、そこに込められた創作者の想いに触れることを喜びとしていた実相寺二矢は、友人である切通昌則の葬儀で大学時代の仲間たちと久々に再会する。切通の遺言で、彼が製作した着ぐるみ「ゼノパドン」を介錯してほしいと頼まれた実相寺は、学生時代に仲間と共に作った改造着ぐるみ「空気軍神ミカドヴェヒター」を再びまとうこととなる。

『劇光仮面』の概要

『劇光仮面』(げきこうかめん)とは、特撮の魅力に取り憑かれた若者が歩む愚かしくも気高い求道と友情の日々、そして不可思議な事件を描いた、山口貴由の漫画作品。
『覚悟のススメ』や『シグルイ』などの傑作を次々と世に送り出してきた作者が初めて挑戦する現代劇として、漫画界を中心に連載が開始された時から注目を集める。作中には作者によって再解釈された特撮作品が毎回のように登場し、その元を探るのも楽しみの1つとなっている。2023年のマンガ大賞にノミネートされ、9位に輝く。

特撮美術に魅入られ、そこに込められた創作者の想いに触れることを喜びとしていた実相寺二矢(じっそうじ おとや)は、友人である切通昌則(きりとおし あきのり)の葬儀で大学時代の仲間たちと久々に再会する。切通の遺言で、彼が製作した着ぐるみ「ゼノパドン」を介錯してほしいと頼まれた実相寺は、学生時代に仲間と共に作った改造着ぐるみ「空気軍神ミカドヴェヒター」を再びまとうこととなる。これは「特撮のヒーローの精神によく深く触れるためには、スーツはただの着ぐるみではなく、作中の戦闘能力を再現したものであるべきではないか」との想いから実相寺たちが作り出した劇光服(げきこうふく)と呼ばれるもので、随所に護身用としては過剰な程度の改造が施してある代物だった。
ゼノパドンの介錯を終え、学生時代の仲間たちとの友情、そして劇光服がもたらした自身の過ちについて想起する実相寺だったが、彼らの過去の活動は現在にもささやかな影響を残していた。その後始末のために、あるいはヒーローのなんたるかを今度こそ知るために、実相寺はミカドヴェクターへの変身を繰り返していく。

『劇光仮面』のあらすじ・ストーリー

旧友の死と学友たち

フリーターの実相寺二矢(じっそうじ おとや)は、大学時代の友人である切通昌則(きりとおし あきのり)の葬儀に参加する。大学生だった頃の実相寺は、特撮美術研究会(特美研)という同好会に所属し、切通や当時の仲間たちと特撮美術に込められた美意識や哲学について語り明かす日々を送っていた。
その切通は、実相寺を始めとする特美研の仲間たちに、自作の着ぐるみゼノパドンの介錯をしてほしいとの遺言を残していた。これは単に処分してほしいということではなく、特撮作品の敵役らしく“劇光服による破壊”を実行してほしいという意味の依頼だった。

劇光服とは、「特撮のヒーローの精神により深く触れるためには、スーツはただの着ぐるみではなく、作中の戦闘能力を再現したものであるべきではないか」との想いから実相寺たちが作り出した、随所に護身用としては過剰なほどの改造やギミックが施してある代物だった。怪人のデザインの解釈で揉めた実相寺と切通が、わざわざ古い特撮作品の美術担当だった人物に真相を聞きに行った時に教えてもらった「劇光仮面」こと“戦後狼藉を働く米兵を相手に闘争と襲撃を繰り返した元特攻部隊の兵士”の存在が、そのルーツとなっていた。
かつて自分用に制作した劇光服「空気軍神ミカドヴェクター」を久々に身にまとった実相寺は、圧縮空気によって作動するアームと日本刀を用いてゼノパドンの裁断を試みる。日本刀はゼノパドンを立てかけた鉄柱に食い込んで止まり、それごと輪切りにするつもりだった実相寺は失敗したと悔やむも、仲間たちは「十分だ、これで切通も満足するだろう」と彼を慰める。

人斬り実相寺

仲間の1人を見送りがてら、自分たちの青春の舞台だった帝都工業大学を訪れた実相寺は、そこで今の代の特美研の学生と出会う。その後輩から「部室の割り当てもなく苦労している」という話を聞いた実相寺は、「自分のせいだ」と言って己の過去の過ちを語り始める。
実相寺の代の特美研の学生たちは、自分たちで作った劇光服を着て活動する際、“本物のヒーローになったような感覚”を得られることに気付いて恍惚となった。特撮美術の神髄に近づきたい一心で、彼らは劇光服を着たままヒーローらしい社会奉仕活動を繰り返すようになっていったが、当初ゴミ拾いや酔漢の通報程度だったそれは、次第に過激な方向へとシフトしていった。

ある時、ミカドヴェクターの劇光服を着て活動していた実相寺は、河原でリンチを受けている少年を発見し、これを止めようと駆け付ける。少年に暴行を加えていた不良たちを制圧するまでは良かったものの、しぶとく組み付いてきたそのリーダー格が圧縮空気の起動装置に触れたことでアームが暴発、彼に右目を失う大怪我を負わせてしまう。
実相寺は逮捕され、少年が「自分はイジメられていない、遊びだった」と証言したことで彼を助けようとしたという話も信じてもらえず、執行猶予付きの判決を受ける。この1件は当時のマスコミにおもしろおかしく報道され、実相寺は「人斬り実相寺」の名で方々からバッシングされ、特美研も部室を失うこととなった。

恥ずべき過ちではあったが、実相寺は少年を助けようとした己の選択を悔いてはいなかった。特美研の仲間たちも決して彼を責めず、庇い続けてはいたが、時の流れと共にそれぞれの人生を歩み、「過去のことは過去」と割り切るようにもなっていた。後輩と別れ、仲間を駅まで見送った実相寺は、自分だけが未だ劇光服とヒーローに囚われ続けていることを改めて思い、寂寥を噛み締める。

ヒーローレイヤーとクライムファイター

コスプレじみた服装と覆面で正体を隠し、街の美化や暴漢の制圧、警察への通報などを行うヒーローレイヤー。アメリカで発祥したこの文化は、日本でも少しずつ見られるようになっていたが、一方で“公然と顔を隠せる”ことを利用して悪事を働く者も少なからず存在した。
“炸裂音と共に家の中から一家全員が忽然と消滅する”という不可思議な事件が発生する中、実相寺は有名な特撮ヒーローの初代覆面ヴァイパーの仮面を被った藍羽ユヒトという青年から「自分と戦え」と要求される。彼自身はまったく知らないことだったが、不良たちを蹴散らした件で実相寺は「クライムファイターランキング」とやらで不動の1位にあるらしく、ユヒトはその座を狙っていたのだった。

ユヒトは感情によって筋力のリミッターが容易に外れる特異体質で、あちこちでトラブルを重ねながら生きてきた青年だった。ある時、街で悪漢を注意して突き飛ばされた老人を助けたユヒトは、彼から初代覆面ヴァイパーの仮面を贈られる。その老人こそは、かつてヴァイパーの主人公を演じた岩倉芯(いわくら しん)という有名な特撮俳優だったのだ。
岩倉が未だに“ヴァイパーの主人公”という役を日常においても演じ続けていること、そのために無謀を承知で悪漢を注意したのだということを理解したユヒトは、「自分もまた岩倉のように、日常に置いても“正義のヒーロー”を演じる人間になりたい」と考え、手始めに岩倉をバカにしたヒーローレイヤーを襲撃。その後も裏で悪事を働いているとされるヒーローレイヤーを狙って襲い続けた末に、「偽者のヒーローではなく、本物と戦ってみたい」と考え、実相寺に挑戦したのだった。

ユヒトの暴走を招いた遠因が自分の過ちにあること、彼が自分なりの正義に則って行動していることを知った実相寺は、挑戦を受けることを決意。ミカドヴェクターを装着し、ユヒトを廃棄された遊園地へと呼び出す。
見届け役を任された特美研の仲間たちが見守る中、実相寺はユヒトと激突。身体能力の差を見せつけられるも、ミカドヴェクターに仕込んだギミックを利用して、互角以上に渡り合う。

『劇光仮面』の登場人物・キャラクター

実相寺二矢 (じっそうじ おとや)

主人公。虐待に等しい環境で育ち、喜怒哀楽に乏しく、コミュニケーション能力が低く、物事への執着が薄い。それでいて感受性や本質を見抜くセンスは並外れたものがある。かつて特攻隊員だった狭山章は、彼を見て「生への執着を捨て切った特攻隊の若者のようだ」と語っている。
特撮を愛好し、これに対しては並みならぬ情熱を発揮し、切通に誘われる形で特美研に入部。以降はその中心的な人物として仲間を引っ張っていった。学生時代、自身の劇光服で大怪我を負わせてしまった不良に対して2000万円もの示談金を少しずつ払い続けており、年齢の割に質素な生活をしているのもこれが理由となっている。

切通昌則(きりとおし あきのり)

特美研の創設者。特撮に熱烈な愛情を抱き、その知識も情熱も実相寺に引けを取らない。似ているようで似ていない実相寺とはウマが合い、両輪となって特美研を牽引していった。
生来あまり体が丈夫ではなかったらしく、物語が始まる少し前に死亡。仲間たちに「自分の作ったゼノパドンを処分してほしい」との遺言を残すが、どうしてそのようなことを頼んだのかは不明。

中野考文 (なかの たかふみ)

神奈川県警で働く警察官。大学時代は特美研の一員で、誠実かつ優しい人柄で仲間たちから慕われていた。
一番最初に劇光服を着込み、「本物のヒーローになったような感覚」を体験した人物。それだけに後に実相寺が事件を起こした際も責任を感じ、自分にできる形で彼をフォローしようと必死になっていた。

真理りま (まり りま)

特美研の仲間の1人。現在は大手玩具会社に勤めている。高校生の頃からコスプレを趣味としていた。
大学時代に実相寺の事件で散々な目に遭ったことを恨んではいないが、「過去は過去」とすっかり切り替え、大人としての人生設計を進めている。エジプトの歴史が好きなのか、たびたび物事を“ファラオと奴隷”の関係に当てはめて考える癖がある。

芹沢耀 (せりざわ よう)

YAMAKUZIRA
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@YAMAKUZIRA

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