ラブ・セカンド・サイト はじまりは初恋のおわりから(映画)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『ラブ・セカンド・サイト はじまりは初恋のおわりから』とは、2019年にフランスで製作されたロマンティック・コメディ。ユーゴ・ジェラン監督が自身の結婚生活から構想を得たラブストーリー。高校時代に出会い結婚したラファエルとオリヴィアに10年後に起きる奇跡。作家としての成功を謳歌するラファエルが妻のオリヴィアのいない「もうひとつの世界」へ迷い込む。そこには有名ピアニストとなり、まばゆい輝きを放つオリヴィアがいた。ラファエルは異次元の世界に住むオリヴィアの愛を取り戻そうと奔走する。

『ラブ・セカンド・サイト はじまりは初恋のおわりから』の概要

『ラブ・セカンド・サイト はじまりは初恋のおわりから』とは、2019年にフランスで公開されたユーゴ・ジェラン監督が10年間暖めてきたオリジナルストーリーを映画化したものである。本作の興行収入は全世界で5,996,929ドル。2019年第45回セザール賞においてフェリックスを演じたバンジャマン・ラヴェルネは助演男優賞にノミネートされた。

自身の結婚生活を顧み、「もし、大切な妻と出会わなかったら」とのジェラン監督の想いから生まれた。本作は売れっ子SF作家になり、自分本位のとらえ方しかできなくなっていたラファエルが「セカンド・サイト/もうひとつの世界」に飛ばされたことをきっかけに、妻オリヴィアへの真実の愛に目覚めていく過程をユーモラスかつ辛らつに描いている。
本作はコメディ映画としても高く評価できる。フェリックス役のバンジャマン・ラヴェルネの卓越した笑いのセンスが随所にちりばめられ、シリアスとユーモアが絶妙なバランスで彩られた良質なラブストーリーとなった。

物語は、高校生の時に校舎の上階から聞こえてくるかすかなピアノの音に誘われるように階段を上がった先にある屋根裏部屋でのオリヴィアとの出会いから始まる。オリヴィアがピアノを弾き終わり、この部屋を退出する時に立てた物音で警報が鳴りだす。2人は校内を走り回り脱出に成功する。ラファエルとオリヴィアは全力で走りきったことで疲労困憊し近くのベンチで同時に気を失う。翌朝登校したラファエルが親友のフェリックスに、昨夜の顛末と小説を書き溜めた赤いノートを失くしたことを話しているとオリヴィアが現れる。オリヴィアはその赤いノートをあの屋根裏部屋で見つけたのだ。こうして信頼し合うようになった2人は恋を育み、やがて結婚する。

10年後。作家志望のラファエルはデビュー作『ゾルタンとシャドー』で一気に人気SF作家への階段を駆け上がり、メディアにも取り上げられるようになっていた。ラファエルは夢に見ていた順風満帆の人生のスタートを切り、公私ともに多忙な生活に明け暮れていく。その反面、ラファエルはプロのピアニストへの希望を持ち続けながらも、自宅で細々とピアノ教室を開いているオリヴィアとの溝が広がっていくことに気づいていた。そこには自分が孤独な生活へと追いやったオリヴィアへの罪悪感と、彼女に対する疎ましさが共存していた。だが、ラファエルが仕事で成功を続けていくにはオリヴィアにかまけている暇はなかった。

一方でオリヴィアは、自分の置かれた境遇に対する不満と苛立ちが頂点に達しようとしていた。ラファエルを支える妻の役割に甘んじている毎日に辟易していたのである。1人での味気ない夕食。夜遅く帰宅してもすぐに仕事に向かうラファエルの姿に寂しさと疎外感を拭いきれない。まるで自分など眼中にないかのようなラファエルの態度の変化に、あの楽しい結婚生活はどこに行ったのだろうかという不満がくすぶり続けていた。そんなある夜、2人の間に諍いが始まった。孤独に耐えきれなくなったオリヴィアがついに自分の気持ちをラファエルに投げつけたのだ。今までになく激しく言いつのるオリヴィアに恐れをなしたラファエルは「もう僕を愛していないのか?」と反論し、外に飛び出してしまう。家の近くのバーで閉店まで苦い酒を飲んだラファエルは、大雪が舞うなか帰宅し、オリヴィアの傍らに服を着たまま横たわった。

翌朝目覚めたラファエルの隣にはオリヴィアの姿はなかった。二日酔いに苦しめられながらも自宅を出たラファエルの前に現れたのはフェリックスだった。今日はラファエルのエージェントをしているフェリックスと共にある中学校へ作家としての講演に行く予定だったことを思い出す。フェリックスのバイクで中学校に着き、講演場所となる教室に入ったラファエルはかすかな違和感を抱く。講演をする時に同行するはずのマスコミもいないし、彼の小説『ゾルタンとシャドー』すらも生徒たちに知られていないことに気づいたラファエルは、混乱したまま中学校から立ち去る。
その足で馴染みの出版社に立ち寄ったラファエルだったが、そこでも部外者として手ひどく扱われた。
そんなラファエルの目の前で停車したバスの後部には、妻であるオリヴィアの大きな写真が貼られていた。「オリヴィア・マリニー」のコンサートの広告だった。ラファエルにはもう何がどうなっているのかさっぱりわからない。混乱した頭を抱えながら歩きだし、ある劇場の前にたむろしているオリヴィアのファンに交じっているとオリヴィアがやってきた。ラファエルはオリヴィアのマネージャーからオリヴィアの写真をもらう。その写真にサインをしに来てくれたオリヴィアは、ラファエルに「お名前は?」と聞いた。驚いたことに、オリヴィアはラファエルを知らなかった。

信じがたい現実に打ちのめされたラファエルは自宅に帰り着き、あらためて部屋の中を見まわす。いたるところに自分の知らない物が置かれてある。机の引き出しには未完成のあの赤いノートが入っていた。次第に状況が飲み込めてきたラファエルは唯一の手がかりとなるパソコンを開き、自分の名前を検索する。すぐに出てきたのは出会い系サイトで、プロフィール欄には国語教師となっている。そして知らない人たちと写った記憶にないたくさんの写真を見たラファエルはうめき声を上げる。震える指で次にオリヴィアのサイトを検索し、オリヴィアはプロのピアニストとして大成功を収めていることを知る。
疑いようのない現実をかろうじて受け入れたラファエルは翌日フェリックスに事の次第を打ち明け、協力を要請する。2人が出した結論はラファエルの「異次元空間」へのワープだった。ラファエルはフェリックスに、この世界に飛ばされた理由は不明だとしても、元の世界に戻る必要があることを力説する。ここでの自分はしがない中学教師だが、元の世界では有名なSF作家としての人生があるのだ。

フェリックスからオリヴィアを夕食に誘えと助言されたラファエルは、その夜に開かれる、あるホテルでのパーティに潜入する。そこでオリヴィアと再会できたラファエルはつかの間ではあったがオリヴィアに好感を与えることに成功する。翌日のフェリックスとの会話で、自分がこの世界に来たきっかけがあの夜のオリヴィアとの大喧嘩だったことを突き止めたラファエルは、元の世界に戻るにはオリヴィアとの復縁が絶対条件であることを確信する。ホテルでの会話をきっかけにオリヴィアとの新しい関係を築く希望が出てきたラファエルは、オリヴィアの祖母のガブスを郊外の老人施設に訪問し、オリヴィアの伝記を書くというアイディアを思いつく。そして、狙い通りに現れたオリヴィアにそのことを伝えるとオリヴィアは答えを渋るが、数日後に漕ぎつけた彼女の家での夕食後に了解を取り付けた。

こうしてラファエルとオリヴィアの人生が再び交差していくのだが、オリヴィアの愛を取り戻す過程でラファエルに心の変化が生じていく。元の世界では自分本位の考え方を押し通してきたラファエルだったが、オリヴィアへの理解度が深まるにつれて、紆余曲折を経ながらも懸命に自分の気持ちを軌道修正していくのだ。そして、この世界での成功で光り輝くオリヴィアに接するうちに今までの自分の愛情不足を痛感したラファエルは、オリヴィアの幸せを願えるようになっていく。

『ラブ・セカンド・サイト はじまりは初恋のおわりから』のあらすじ・ストーリー

ラファエルとオリヴィアの出会いとすれ違い

ラファエル・ラミスは作家志望の高校生。下校時に空き教室から聞こえてきたピアノの音に魅かれる。その屋根裏部屋に置かれていたピアノを弾いていたのは、オリヴィア・マリニーという女子生徒だった。
不審者と間違われた2人は、急いで校舎を抜け出す。全力で走ってきたため、近くのベンチで同時に気絶してしまう。その時、ラファエルの脳内では、書きかけの小説『ゾルタン』の続きがどんどん書き上がっていった。

翌朝。学校で親友のフェリックスに、前夜に気絶した話をしているとオリヴィアが通りかかる。オリヴィアは早朝にピアノを弾きにあの屋根裏部屋に行った。床に落ちていたラファエルの赤いノートを見つけたオリヴィアは、それを彼に返してくれた。ラファエルは、この赤いノートに自作の小説を書き溜めていたのである。このことをきっかけに2人は交際を始める。
2人で眠り込んでしまったベンチの背もたれに、「気を失って恋に落ちた」と書き込む。ベンチは2人の忘れがたい記念碑となった。やがて2人は結婚した。

オリヴィアはピアノコンクールで順調に受賞を重ね、ピアニストへの夢の実現にまい進していた。一方、ラファエルは高校時代からの力作『ゾルタンとシャドー』を完成させる。
主人公のゾルタンはラファエル、シャドーはオリヴィアがモデルだった。完成した原稿をオリヴィアが出版社に送ったところ原稿が認められ、念願だった出版を果たす。メディアからも取り上げられるようになり、続編も次々に出版され、ラファエルはSF作家としての地位を確立する。

出版社関係のパーティなどに忙殺されるラファエルの傍らで、孤独の影がオリヴィアに忍び寄ってきていた。家にいてもオリヴィアに対応する余裕もないラファエルとの心の距離が、自然と開いていく。そして、オリヴィアのピアノコンクール会場からラファエルの姿が消えていき、ついにピアニストへの道を断念する。

自宅でピアノ教室を開いたオリヴィアが、生徒のピアノの音に聴き入りながらガラス越しに隣の部屋に目をやる。そこで仕事をしているラファエルへの厳しい視線が、結婚生活の危機を物語っていた。

すれ違いが増えてきたある夜。テレビ出演を終え帰宅したラファエルは、すぐに『ゾルタンとシャドー』の続編に取りかかった。原稿は終盤に差し掛かっており、ゾルタンとシャドーのどちらを消すかを決める段階に来ていた。ラファエルは逡巡の末、オリヴィアの分身であるシャドーを殺害することで、物語を完結させる。

書き終わった原稿を読みたい、と言うオリヴィアへのラファエルの態度は冷たかった。オリヴィアの不満が限界に達し、口喧嘩へと発展する。
腹いせに家を飛び出したラファエルは、近所のバーで込み上げる怒りを喉に流し込む。閉店で外に出たラファエルに、降り始めた雪が降りかかる。帰宅するラファエルを、ベッドで原稿を読んでいたオリヴィアが無言で迎えた。ラファエルは、彼女の隣に服を着たまま倒れ込んだ。

「もうひとつの世界」への移行

二日酔いで目覚めたラファエルは、迎えに来てくれたフェリックスと講演予定の中学校に到着。いつもなら出迎えるはずの教職員や、取材同行のマスコミの姿が見当たらない。困惑したラファエルは最寄りの教室に入り、『ゾルタンとシャドー』の話を始める。しかし、生徒たちの様子がおかしい。『ゾルタンとシャドー』の内容に関する質問も出てこない。

学校を退出したあと寄った出版社でも邪魔者扱いされた。警備員にビルから追い出されたラファエルの前で、バスが停まった。そのバスの後部には、オリヴィアの写真があった。「オリヴィア・マリニー ピアノコンサート」の宣伝ポスターを見たラファエルは驚く。

バスのポスターに書かれていたオデオン座の前に行くと、人だかりができていた。そこへオリヴィアが付き人と一緒に近づいてきた。ファンへのサインを終えたオリヴィアが、ラファエルの前にやってきて、「あなたのお名前は?」と聞く。

去って行くオリヴィアを目で追いながら、手渡された写真を見ると「ラファエルへオリヴィアより」と書かれていた。自分の妻なのに他人同士となってしまった現実をどう受け止めていいのか分からないまま、ラファエルは帰宅した。

机の引き出しには、書きかけの赤いノートが入っている。机の上のノートパソコンで「ラファエル・ラミス」を検索すると、「出会い系サイト」が出てきた。プロフィール欄には「国語の教師」となっている。さらにFakebookには知らない人たちとの写真が溢れていた。次に「オリヴィア・マリニー」を検索したラファエルは、驚きに声を失う。そこには、ピアニストのオリヴィアがいた。

困惑から抜けきれないラファエルは、翌日もフェリックスと中学校に出勤する。いつもと違うラファエルの様子に気づいたフェリックスは、「なにか変だぞ。昨日からお前らしくない。何があった?言えよ」と詰め寄る。ラファエルはフェリックスに「昨日の朝、別世界に入って人生が変わったんだ」と打ち明けるが、相手にされない。

元の世界に戻れないかぎり、このパッとしない人生から逃げ出せないと焦るラファエルは、仕事帰りにフェリックスの家に行く。フェリックスの説明では、ラファエルは自分とは昔からの親友で、5年前から中学の教師をやっているという。ラファエルは卓球が上手く、女性関係も派手らしい。現在は同僚のメラニーと交際中だという。

その夜、オリヴィアがチャリティー活動をしているホテルに、ラファエルが給仕係として潜入する。運よくオリヴィアに接触できたラファエルは次の手段として、郊外の高齢者用施設にいるオリヴィアの祖母のガブスを訪問することを思いついた。

元の世界への足掛かり

施設に行ったラファエルは、ガブスの部屋でオリヴィアと遭遇する。建物の外の階段で入所者に本を読み聞かせるフリをしていたラファエルは、出てきたオリヴィアにコーヒーをおごる。しばらく話をしていたオリヴィアは、迎えの車で去って行った。

施設を後にしたラファエルは、再びフェリックスを訪ねた。フェリックスを自分のエージェントに仕立て、電話でオリヴィアの自伝を書く契約を、オリヴィアのエージェントのマルクに持ちかける。ラファエルは、オリヴィアの自宅でのディナーに招待された。

ディナーに出掛けたラファエルは、先日電話でマルクと交渉したフェリックスを呼び出す。社交的なフェリックスの演技のおかげで食事は順調に進んだ。デザートの準備をマルクとフェリックスに任せたラファエルは、バルコニーでオリヴィアと話すチャンスを得た。自伝出版に気が進まなかったオリヴィアは、無理強いをしないラファエルへの信頼が湧き、出版を許可する。

こうして偽の自伝づくりがスタートした。ラファエルは、2008年までジャック・ドクール高校に在籍していたことを告白し、オリヴィアの様子をうかがう。

打ち合わせを兼ねたある夜に、ラファエルはジャック・ドクール高校をオリヴィアと訪ねた。ラファエルは2人が出会ったあの屋根裏部屋にオリヴィアを誘導する。ドアには鍵がかかっていた。ラファエルが無謀にもすぐそばに置かれていた消火器をドアノブに叩きつけると、中の消火剤が吹き出した。その騒ぎを聞いて、隣の部屋から教師が出てきた。驚いたオリヴィアは、その教師に消火剤をぶちまけてしまう。

慌ててそこを逃げ出した2人は、あの夜と同じように高校からの脱出を図る。校庭を出て通りを歩きながら「心臓がバクバク」と息を切らすオリヴィア。ラファエルはここぞとばかりに、「あのベンチに座ろう」と提案する。また気を失うことがあれば、元の世界に戻れるかもしれないからだった。

しかし、目当てのベンチには男性の先客がいた。深いため息をつくラファエル。オリヴィアが来週末にカマルグの自分の家に行くことを聞いたラファエルは、同行の許可を取り付ける。

ラファエルの覚醒

カマルグでの休暇は、2人にとって親密になる絶好の機会となった。サイクリング、レストランでのディナー、夜の海での遊泳。そして一緒の夜を過ごした。ラファエルにとって期待以上の成果があったが、元の世界に戻ることはできなかった。
パリに帰り着くと、マルクが出迎える。2人の微妙な雰囲気に気づいたマルクは、オリヴィアへのプロポーズを決意した。

ラファエルはフェリックスの家に行き、オリヴィアとの旅行で元の世界への移行に失敗したことを告げた。自分はこれから先もこのしがない人生をやっていくしかないと愚痴をこぼす。
それを聞いたフェリクスは「それは本心か?ひどすぎるぞ。冷たい奴だな。見損なったよ。今のままだとまたすべてを失うぞ」と怒りをぶつけてきた。
引き出しから、失恋したモルガンへのラブレターの束をとりだすと、ラファエルに放り投げる。それは投函できない何通もの手紙だった。

マルクのプロポーズを知ったラファエルは、オリヴィアに連絡を入れる。
その夜。高校の門の前でラファエルが待っていると、オリヴィアが現れた。「彼とは長い付き合いなの。あなたと10年前に会いたかった」と、別れの言葉を口にするオリヴィアの目には光るものがあった。

去って行くオリヴィアを見つめながら、もう打つ手がないことを悟ったラファエルは、力なくあのベンチに座り込む。背もたれに2人で書いた「気を失って恋に落ちた」という金文字を手で消していく。言いようのない深い哀しみに襲われたラファエルには、今の世界での生活を続けていくしかなかった。
オリヴィアも迫りくるコンサートの準備に追われた。それでも、心の片隅ではお互いへの新しい気持ちが芽生え、深く醸成していく。

フェリックスのモルガンへの手紙を手元に置いていたラファエルは、ある夜モルガンが勤務する花屋にそれを持っていく。

失意のまま教壇に立つラファエルに、閃きが降りて来た。ある生徒の「あの本の結末は最悪よ。彼女が死んじゃう。シェイクスピアは最後に主人公を殺すの。作家は結末を自分で決められる」という会話を聞いたラファエルは、教室を飛び出す。

フェリックスに電話して、「僕が別世界に来た経緯が分かった。本の中で僕が妻を殺したからだ。気づくのが遅すぎたよ。これが解決策さ。オリヴィアのコンサートの開演前にオデオン座に来い。お別れを言いたい。この世界に飛ばされたのは、僕が妻を殺したせいだったんだ」と伝えた。

急いで帰宅したラファエルは、机の引き出しからあの赤いノートを引っ張りだし、『ゾルタンとシャドー』の執筆を再開した。何日も書き続け、ようやく最終章へとたどり着いた。今度はシャドーではなく、ゾルタンを死に至らしめる結末を書き終えた。

オリヴィアのコンサート当日の夜。
オデオン座にオリヴィアを訪ねたラファエルは、書き上がった原稿を「これを読んでほしい」と渡す。オリヴィアは「鑑賞するならガブスの席に座って」と言い、ラファエルの原稿を手に、楽屋に戻っていく。

オデオン座の外に出たラファエルを、フェリックスが呼ぶ。傍らにはモルガンがいた。ラファエルとフェリックスが抱き合っていると、雪が降り始めた。ラファエルはとっさに「成功するぞ、雪だ!きっとオリヴィアは原稿を読んでいる!」と叫ぶ。
ラファエルは、フェリックスとモルガンに「明日別の僕と3人で食事しよう」と謎の言葉を残し、解散する。

ドレスに着替える前の慌ただしい時間だったが、オリヴィアは先ほどラファエルに渡された原稿に目を通す。表紙に「知らない人へ」と書いてある。「フッ」と微笑むオリヴィア。しかし、開演が15分後に迫ると、原稿を途中で閉じてしまった。とても最後まで読む時間はない。

舞台から4列目のガブスの指定席に向かうラファエルを、舞台袖で見つけたマルクは「なぜ彼がいるんだ?」とつぶやく。

オリヴィアが舞台に登場し、演奏を始める前にラファエルを見る。2人はじっと見つめ合う。コンサートが始まり、久しぶりに聴くオリヴィアの演奏は自信に満ちていた。前の世界で知っていた内気なオリヴィアの姿ではなく、全身から崇高な輝きさえも放っている。

演奏を聴いているうちに、結婚していた頃の幸せな思い出がラファエルの脳裏にいきいきとよみがえる。やがて溌剌としていたオリヴィアが去り、冷たい目を自分に向け、涙を流すオリヴィアの顔が迫る。

自分がオリヴィアにした仕打ちにようやく気付いたラファエルは、いたたまれなくなり席を立つ。それを知らないオリヴィアは、演奏を続ける。魂を揺さぶるようなオリヴィアの演奏は、舞台袖で見守るマルクにも伝わった。オリヴィアが何かを決断しようとしていることを、マルクは本能で感じとったのだ。

ロビーに出て、オリヴィアの楽屋を探しあてたラファエルは、机に置かれた自分の原稿を手に取る。急いで裏表紙に「僕の最高の思い出は君を愛したこと」という言葉を書き残す。ラファエルは中に挟んであった原稿を持ったままコンサート会場の後ろに立ち、オリヴィアの姿を心に刻む。

演奏を終え、花束を受けったオリヴィアは、ガブスの指定席からラファエルの姿が消えていることを知って動揺する。オリヴィアはこの時、自分が愛しているのはマルクではなく、ラファエルだとはっきりと悟った。オリヴィアの様子に異変を感じたマルクの前面で花束を捨て、楽屋に戻ったオリヴィアは、ラファエルの書置きを見つけた。

そうとは知らないラファエルは、オデオン座の階段横にある容器に原稿を投げ捨てた。これをオリヴィアが読んでくれることこそが、元の世界に戻る唯一の方法だと確信しているラファエルだった。だが、そうなると、この世界で光り輝いているオリヴィアが消滅するということも分かっていた。

元の世界で成功している自分と、この世界で成功しているオリヴィアのどちらを取るかについては、もう迷いはない。オリヴィアを心から愛しているからこそ、自分もこの世界で生きることを選んだのだ。過去の栄光を捨てたラファエルには、もう明日への希望はない。オリヴィアはマルクと結婚し、幸せに暮らしていくだろう。

そう思いながら階段を降りていたラファエルは、自分に呼び掛けるかすかな声を聞いた。
振り向くと、あのオリヴィアが自分の後を追ってきていた。オリヴィアは、この世界でも彼を愛してくれたのだ。ラファエルは元の世界に戻ることを強く望んできた自分が、降りやんだ雪と共に「ス~ッ」と消えていくのを感じ取った。

ラファエルがこの世界に残ることを選択した理由はもうひとつあった。ずっと変わらずに自分の親友であり続けてくれているフェリックスが、愛するモルガンを元の世界ではなく、この世界で取り戻したことだ。

『ラブ・セカンド・サイト はじまりは初恋のおわりから』の登場人物・キャラクター

主人公

ラファエル・ラミス(演:フランソワ・シヴィル)

小説家になることを夢見ている高校生だったラファエルは、授業中も小説を書き溜めている赤いノートに熱中して教師に叱られるほどであった。念願かなって人気SF作家となったものの、ひとめ惚れ同士で結婚したオリヴィアとの生活が、10年目で破綻の危機に見舞われる。多忙を極めるラファエルとの心の距離感に疲れたオリヴィアと大喧嘩した翌日、ラファエルはオリヴィアとは他人となった「もうひとつの世界」で目覚めた。彼は長年の親友フェリックスと同じ中学校の国語教師となっていた。ラファエルには、苦労してつかんだ名声は過去のものとなり、見知らぬ人だらけの世界で、趣味の卓球に開けくれる生活が待っていた。

フランソワ・シヴィル
1989年パリ出身。舞台での活躍後に2005年・16歳で映画界にデビュー。以後、テレビドラマでも活躍する。近年の映画出演では、2018年の『おかえり、ブルゴーニュへ』や2020年の『私の知らないわたしの素顔』でのジュリエット・ビノシュとの共演でも注目された。『ウルフズ・コール』でも高い演技力を発揮している。

オリヴィア・マリニー(演:ジェゼフィーヌ・ジャピ)

高校時代にラファエルと恋に落ち結婚。数々のピアノコンクールで受賞を果たし、プロのピアニストとしての成功を望んでいたがかなわず、今は自宅でピアノ教室を運営している。SF作家として大成したラファエルとの格差が広がっていき、孤独に苛まれる日々を送っている。
もうひとつの世界では、オリヴィアは世界的なピアニストとして成功しており、長年の公私にわたるパートナーのマルクとの結婚を待ちわびている。

ジョセフィーヌ・ジャピ
1994年パリ出身。10歳で映画デビュー。2011年『マンク~破戒僧~』に出演。2014年『呼吸-友情と破壊』での演技で複数の有望若手女優賞にノミネート。
趣味はイラストを描くこと、料理など。

協力者

フェリックス(演:バンジャマン・ラヴェルネ)

ラファエルとは高校時代からの親友で、趣味の卓球でもペアを組む。元の世界では、SF作家として成功したラファエルのエージェントとして活躍している。ラファエルが飛ばされたもうひとつの世界でも2人の友情は変わらない。ここではラファエルが勤務する中学校での同僚として存在していた。フェリックスは、元の世界に戻ることを決意したラファエルの唯一の相談相手でもある。
フェリックスは今の世界でのラファエルの人生を詳しく説明してやり、日常生活に困らないように気を配る。
どちらの世界でも彼は抜群のユーモアセンスを発揮し、ラファエルとオリヴィアが愛を取り戻す助けをしてくれる。しかし、自分の恋愛となると不器用さをさらけ出し、恋人のモルガンから3年前に別れを切り出された。フェリックスはモルガンにまだ未練を残したままである。

バンジャマン・ラヴェルネ
1984年フランス出身。長年テレビドラマ・舞台・映画で活躍。2017年『セラヴィ!』で第43回セザール賞有望若手男優賞にノミネート。コメディアンとしての評価も高い。本作のフェリックス役で第45回セザール助演男優賞にノミネートされた。

別世界の人物

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