宝石商リチャード氏の謎鑑定(ラノベ・漫画・アニメ)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『宝石商リチャード氏の謎鑑定』は、辻村七子による日本のライト文芸作品。2015年12月から集英社オレンジ文庫より刊行されており、2021年6月時点でシリーズ累計発行部数は80万部を突破している。2020年1月から3月までTVアニメが放送された。
イギリスから来た宝石商のリチャードと、彼が営む店にアルバイトとして雇われた正義感のある大学生・中田正義のコンビが、宝石に潜んでいる持ち主の隠れた心理面を紐解く。宝石商と宝石を題材としたジュエルミステリー。

『宝石商リチャード氏の謎鑑定』の概要

『宝石商リチャード氏の謎鑑定』は、辻村七子による日本のライト文芸作品。2015年12月から集英社オレンジ文庫より刊行されており、2021年6月時点でシリーズ累計発行部数は80万部を突破している。『コミックZERO-SUM』にて2020年1月号より漫画の連載を開始。2020年1月から3月まではTVアニメが放送された。

大学生の中田正義はある晩、酔っ払いに絡まれる金髪碧眼の美しい男を助ける。流暢な日本語で正義にお礼を言うその男は、宝石商のリチャードと名乗った。別れ際、リチャードに名刺を渡された正義は、自身の持つ祖母の形見の指輪の鑑定をするために再びリチャードに連絡をとった。指輪にまつわる話から、祖母の思いを知ることになりリチャードの観察眼に驚く正義。この一件で、正義はリチャードの宝石店でアルバイトをすることになる。そこに訪ねてくる客の宝石を見ながら、宝石に潜む持ち主の隠れた心理面をリチャードは鋭い観察眼で紐解いていく。正義は彼の助手として宝石と向き合う。宝石商と宝石を題材にしたジュエリーミステリー。

『宝石商リチャード氏の謎鑑定』のあらすじ・ストーリー

祖母の形見のピンク・サファイア

大学生の中田正義(なかたせいぎ)はある晩、酔っ払いに絡まれる金髪碧眼の美しい男を助ける。その男は宝石商のリチャードと名乗った。別れ際に渡された名刺から、正義は祖母の形見である指輪を鑑別してもらうために再び彼に連絡を取る。リチャードに指輪を渡した帰りに、横断歩道で老人に絡まれていた女子大生を助ける。その女子大生はお礼を言った後、谷本晶子(たにもとしょうこ)と名乗った。

しばらくして、正義にリチャードから連絡が来て鑑別結果を聞く。「盗品の可能性があることを知っているか」と正義に聞くリチャードに、正義は喜びの声をあげる。正義の祖母は若い頃、掏摸(すり)をして生計を立てていた。ある日祖母はピンク・サファイアの指輪をした女性を見つけ、掏摸を働くが翌日その女性が電車に飛び込んだ。指輪を返そうとした祖母はすぐに警察に捕まり、結局指輪は死ぬまで手元に置いていたという。正義は「指輪を返したい」と言う。リチャードは正義に「会わせたい人物がいる」と言った。

正義が連れてこられたのは、広い庭の立派な邸宅だった。正義を待っていたのは、車椅子に乗った高齢女性で、彼女は祖母が盗んだ指輪の元の持ち主だった。政略結婚で受け取った「鎖のついた首輪」とその指輪のことを言う老人は、「感謝している」と続けた。指輪を失ったことで結婚は破談になり、電車との事故で病院に入った彼女はその病院で旦那となる医師と出会うことになる。老人は、「指輪は正義が持っていて欲しい」とにこやかに告げる。帰りの新幹線で正義に、ピンク・サファイアの宝石言葉「弱者への正義」を伝えるリチャード。正義は祖母の気持ちを知り、自分が持つのが運命なのだと涙を流した。

宝石店でのアルバイト

正義はリチャードに誘われて宝石店「エトランジェ」でアルバイトを始める。ある日、明石真美(あかしまみ)という女性が、大抵のルビーがヒートと呼ばれる熱処理を行なっていることを確認した後、「ルビーのヒートの有無を調べて欲しい」と依頼してきた。リチャードは「宝石の価値である数字が重要になる場合だろう」と正義に話す。しばらくして、リチャードの元に穂村と名乗る真美の婚約者が現れた。真美は結婚の話が出てから笑わなくなってしまったらしい。穂村に「結婚できない」と告げる真美。正義が事情を聞くと、彼女は穂村に出会う前に女性と同棲していた。普通の女としての幸せに憧れる自分のために、穂村との結婚を進めてきたのだという。「ヒートしていたら結婚して、していなかったら考え直すつもりだった」と彼女は言った。「石は主人をうつす鏡」と答えるリチャードは、「真美の気持ちは始めから決まっていたのだ」と伝えた。「穂村に石を返す」と話す真美は晴れやかな顔で、店を後にする。

宝石店に小さな客が訪れる。その子供は「これと同じものをください」と、クリソベリル・キャッツアイをリチャードに見せた。少年は自分の名前をはじめだと言い、ミルクという飼っていた猫について話し出した。家族に降りかかりそうな災を予知して、知らせてくれることが多かったその猫は最近、父親がどこかへ連れていってしまったらしい。父親はミルクの代わりにその石をくれたのだという。同時に玄関のチャイムが鳴り、はじめの父親が入ってきた。はじめの持ってきたキャッツアイは父親が「エトランジェ」で購入したものだった。リチャードが父親に連絡して、迎えにきたのだ。正義が「はじめの話を聞いてほしい」と言うと、「お父さんはいつもそうだ」と言ってはじめは声をあげて泣き出してしまった。元々野良猫のミルクは、寄生虫を持っている可能性から、妊婦のはじめの母親から遠ざけようと父親が知り合いに預けていたのだという。父親の買ったキャッツアイは、地がはちみつのような黄色で、真ん中に白い線の走る通称「ハニーミルク」。「はじめの好物であるハニーミルクとかけ、はじめに幸運をもたらすお守りとして贈ったのだ」と父親は話し、2人は手を繋いで帰っていった。

「エトランジェ」に結婚指輪の下見の予約が入った。山本という女性の探していた宝石はガーネット。当日、現れた女性はリチャードの持ってきたガーネットを見て「ガーネットもいいですね」と喜んだ。リチャードがイギリス生まれでフランスとのハーフだと知ると「すごいですね」と、山本は小さな声で呟く。結局宝石を決めずに山本は帰った。次の山本の来店時にリチャードは初回と別のガーネットを提示した。正義は「お手頃ですし、山本様の石って感じ」と伝えた。ムッとした表情になった山本は「7年付き合った彼氏に振られ、若い彼女に乗り換えられた」と告げる。山本は、宝石をもう誰にももらえないと思い購入を考えたガーネットは誕生石であり、「努力と忍耐」の宝石言葉が自身にぴったりだと笑う。そんな彼女に「ガーネットは古代ローマの戦士の間で護符として使われていた」とリチャードは話す。そして「ダイヤやルビーを羨ましく思いながら、自身の石であるガーネットを買おうとした山本にはぴったりの石だ」と続けた。それを聞き、吹っ切れた表情で山本は店を出ていった。

宝石犯罪とオークション、晶子へのプレゼント

宝石店での帰り道、正義は中学の頃の憧れの先輩に偶然出会う。自分の祖母がなくなったことや、祖母の宝石の事件から宝石店で働いていることを正義は話した。宝石店で働く正義の話に食いつく羽瀬に、結婚するから店を探していると正義は早合点する。再会の翌日、リチャードに羽瀬のことを話していると宝石店に羽瀬が現れた。キッチンにいた正義は宝石の買い取りの依頼を不思議に思う。羽瀬が見せたのはファイア・オパールだったが、その宝石を自分が持っている経緯が正義の話した祖母と指輪の物語そのものだった。ある日、「ここ最近オパールを買い取って欲しいという客は来なかったか」と女性が店を訪ねてきた。その女性の叔母がオパールの持ち主で、羽瀬はその叔母の介護スタッフなのだという。羽瀬は貧しい生活の足しにするためにオパールを売ろうとしたが、正義の「先輩はそんなことしない」という気持ちを感じ、踏みとどまった。仕事を辞めた羽瀬に「もう顔を見たくない」と正義は言われてしまう。

バイトに来た日、リチャードが老舗骨董品屋の伊藤翡翠堂(いとうしょうびんどう)の店主と店先で話している場面に遭遇する。そして、正義に「オークションについて来てくれないか」とリチャードは頼んだ。そのオークションは、有名コレクターの死によって売り出される、値打ちものの遺産がメインのオークションだった。中でも目玉は「仏手柑(ぶっしゅかん)」と呼ばれる翡翠の細工物。元々は伊藤翡翠堂が持っていたが、コレクターの手に渡ったため買い戻そうとしている。オークションにはリチャードの商売敵もいて、仏手柑はこの2人の一騎討ちになった。リチャードは見事オークションで仏手柑を手に入れる。

一方大学では「男の人のことはわからないんだ」と困ったように笑う晶子が、正義にお見合いに行くことを相談していた。晶子に好意を抱いていた正義がアクアマリンをプレゼントしようとした矢先だった。晶子は「恋愛がわからない」と寂しげに言い、「結婚してしまえば、恋愛しなくてもいいから結婚はしたい」と話した。それを聞いて正義は自分の両親が離婚して、母が再婚していることを話し、いろんな形の結婚があると晶子の背中を押した。「エトランジェ」に出勤した正義を「阿保」と罵ったリチャードは自分の恋愛の失敗と後悔を話し、正義を晶子の元に送り出す。自分のために、厳しくも説得をしてくれるリチャードに「俺、お前のことが本当に好きだ」と正義は伝える。アクアマリンを受け取った晶子は「ありがとう。何かから逃げる結婚はしない」と正義に力強く言った。

リチャードの過去

正義がバイトを始めてしばらくした頃、突如リチャードに別れを告げられる。1ヶ月経ってもリチャードが帰ってこない宝石店にシャウル・ラナシンハ・アリーと名乗る男性が「リチャードから店を預かっている」と言ってやってきた。この男性はリチャードの宝石商の師匠だった。「リチャードにあってどうしたいのか考えろ」とラナシンハ氏に言われて悩む正義に、晶子が「正義は怒ってるんだよ」という。ラナシンハ氏にリチャードを追ってリチャードの好きな手作りのプリンを振る舞うことを告げると、笑顔で正義の背中を押してくれた。ラナシンハ氏は自暴自棄のリチャードと4年前に出会い、弟子にした話を正義にした。その頃からリチャードは実家と絶縁状態だったのに、突然帰ることを知らせてきて驚いたという。

正義がリチャードの故郷のロンドンの空港に着くと、リチャードの従兄弟だと名乗るジェフリーが話しかけてきた。正義は彼からリチャードの複雑な家庭事情を聞く。リチャードの曽祖父は、一人息子がスリランカの女性と結婚したことに怒り、伯爵の爵位を息子ではない別の人物に譲ろうとしていた。しかし、戦争で曽祖父は重傷を負い、後継者を早々に決める必要があり勘当されていたリチャードの祖父が家を継いだのだ。その祖父が亡くなったとき、遺産として400億円のダイヤモンドが見つかった。遺言状には「公開時の時期伯爵世代で、母親の出身地がイギリスに近い者を相続人とする」とあり、リチャードが選ばれたのである。ジェフリーは順当にいくと遺産相続人だった兄が遺言状の発表後すぐ病に倒れ、それを不憫に思ったが故にリチャードの恋人に接近して別れさせたりを繰り返していたという。

ロンドンの博物館でジェフリーと一緒にいる時に偶然リチャードと再会した正義。ジェフリーから逃げようとするリチャードを引き止めて、正義は「協力する」とジェフリーに伝える。早速リチャードの実家へ向かうが、見せられたダイヤモンドはホワイトサファイアだった。そうとは知らず、ダイヤをつかんで割ろうとした正義をリチャードが叱る。「あなたの愛する人たちは皆、あなたに幸せになってほしいのですよ。正義」と微笑むリチャードの言葉に正義は涙する。その晩、正義のプリンを持ってリチャードはジェフリーと兄のヘンリーの元へ向かう。相続でギクシャクしていた関係が、昔の仲の良い子供時代に戻ったようだった。

それぞれの再会

ロンドンから帰国後、正義はリチャードが幼い頃教わっていた日本語の家庭教師に日本で偶然出会う。その女性はちえこと言い、彼女の家で手作りのプリンを教え子によく振る舞っていた話を聞いた正義は、彼女とリチャードが繋がった。ちえこはリチャードの母親のペンダントを盗んだ疑いで日本に帰国したが、実は母親と協力して事件を画策したという。そうとは知らないリチャードは19年経った今もちえこを探していた。正義の計らいでちえことの再会を果たしたリチャードは、「ジャベール。僕は君を責めない。君は、君の勤めを果たしただけだ」と笑い、ちえこを抱きしめた。

正義もまた、実の父親と再会を果たす。しかし、父親の家庭内暴力を覚えていたため、嫌悪感が湧いた正義は「もう父親じゃない」と言って、「もう一度一緒に暮らそう」と言う父親から逃げ出した。日に日に父親はよく正義の生活圏内に現れるようになり、耐えられなくなった正義は、包丁を手に父親と対峙する。正義は父親を刺そうとした自分を知って、軽蔑されたくなくて「エトランジェ」を辞めようとした。辞めるまでも普段のように仕事をしようとする正義に、「生まれ変わったら何になりたいか」とタンザナイトを見に来た客が聞いた。「誰でもいいから俺ではない誰か」と答えた正義に、「私はあなたのような人になりたい」と誰かを暗闇から救い出せる正義をリチャードは純粋に褒めた。そして、正義はリチャード同伴のもと、もう一度実父と会うことを決める。当日、その場には正義の義理の父親もいて、「血のつながりはなくても、正義は自分の大事な息子だ」言い放った。

それからしばらくたち、成人式のスーツを着た正義のカフスには、義理の父が選んでくれたタンザナイトが付けられていた。タンザナイトの宝石言葉は「転生」で、「生まれ変わったら中田正義がいい」と正義はリチャードに笑う。そこへ「エトランジェ」のチャイムが鳴り、また新しい客がやってくる。

『宝石商リチャード氏の謎鑑定』の登場人物・キャラクター

主要人物

中田正義(なかた せいぎ)

声:内田雄馬、松田利冴(少年時代)
本作の主人公で、大学2年生。ある晩、酔っ払いに絡まれていたリチャードを助けたことにより、彼の営む「エトランジェ」という宝石店でアルバイトをすることになる。正義感が強く、裏表のない真っ直ぐな性格。思ったことを正直に言ってしまったり、正しいと思ったらすぐに行動してしまうためリチャードに怒られることもある。祖母は掏摸で、その娘の母親とはあまり仲が良くない。実父の家庭内暴力によって小学生の頃に両親は離婚しており、中田は母の再婚後の姓である。この複雑な家庭事情がリチャードとの共通点となり、それぞれの家族の絆を修復していくきっかけにもなっている。

リチャード・ラナシンハ・ドヴルピアン

声:櫻井孝宏、山村響(少年時代)
金髪碧眼で絶世の美貌を持つイギリス人宝石商。冷静沈着で広い視野で物事を捉え、スマートな身のこなしをする。美しすぎる容姿と高いスキルが人を寄せ付けなかったため、気のおける友人がいなかった。銀座でフランス語で異邦人を意味する「エトランジェ」という名前のジュエリーショップを営む。週末はエトランジェの営業、それ以外の日は世界中の顧客の元を飛び回り仕事をこなす敏腕ビジネスマン。英語はもちろん、日本語の他にも10ヵ国以上の言語を操る。甘いものに目がなく、正義をよく食事に誘っては自身はパフェやスイーツを食べる。本名はリチャード・クレアモント。ロンドンにある伯爵家の後継人だが、遺産相続のトラブルで実家から逃げ続けている。祖母の母国のスリランカに逃亡中、宝石商となり、ラナシンハ氏の弟子になる。貴族である先祖の人種差別のせいで実家がバラバラになり、大勢の人が不幸になったことが骨身に染みている。そのことから、「あらゆる人種、国籍、趣味、性的嗜好を差別しない」という「エトランジェ」の約款を作る。

正義の友達

谷本晶子(たにもと しょうこ)

4bJohnJohnJohnny
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@4bJohnJohnJohnny

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