87CLOCKERS(エイティセブン・クロッカーズ)のネタバレ解説まとめ

『87CLOCKERS』とは、とは二ノ宮知子による日本の漫画作品。集英社「ジャンプ改」の創刊号2011年6月から2014年11月号まで掲載された。「ジャンプ改」休刊後は「週刊ヤングジャンプ」にて連載された。
音大生・奏は、一目惚れした美女・ハナと接点を持つため、パソコン界のF1競技、オーバークロックの世界に飛び込んだ。その世界の個性豊かな人々との出会いで成長する物語。

『87CLOCKERS』概要

『87CLOCKERS』とは代表作『のだめカンタービレ』で知られる二ノ宮知子による日本の漫画作品。集英社「ジャンプ改」2011年6月の創刊号から2014年11月号まで掲載された。その後、2015年4・5合併号から「週刊ヤングジャンプ」に掲載誌を移し、2016年31号まで連載された。単行本は全9巻。
2012年4月発売の第1巻は、日本・韓国・台湾・香港で同日発売された。

音大生の奏は将来への希望もなく、恋愛にも縁がなく、日々ただ流されるままに生きていた。そんな彼が一目惚れした美女・ハナは「パソコン界のF1」と呼ばれるオーバークロックという競技に熱中していた。オーバークロックとはパソコンを普通より速く動かすことであり、ハナがサポートしているミケは、オーバークロックで誰よりも速いタイムを出すことが出来るワールドレコード保持者だった。
ハナと接点を持ちたい奏はミケとハナに勧められ、オーバークロックの世界に飛び込んだ。

オーバークロックで世界と競い合うミケとそれをサポートするハナ、ミケからハナを奪いたい奏のPCと恋愛と成長の物語。

『87CLOCKERS』のあらすじ・ストーリー

オーバークロックとの出会い

音大生の一ノ瀬奏は、コンクールに出れば、いい結果が出せると言われる程の腕を持つヴァイオリン奏者だが、競争が苦手で3年間コンクールから逃げ回り、闘争心溢れる同級生とも上手く馴染むことができずにいた。
当初は才能豊かな奏に期待する声も多く、奏に闘争心を燃やす人もいたのだが、余りにも消極的な奏に周囲から人はいなくなり、今では誰からも声をかけられなくなっていた。
日々、目の前の課題をこなすことで精一杯だったため、将来について何も考えておらず、院にもいかず、留学もしない奏は周囲からは「就職組」なのだろうと思われていた。奏は同級生に就活に誘われ、家族に相談すると、母のピアノ教室の手伝いをしつつ、後には跡を継ぐということで、就職問題も片付いてしまった。

ある雪の日大学からの帰宅途中、奏は、とあるアパートの前で裸足で佇む美女に目を奪われた。美女が気に掛かり、奏は翌日もそのアパートに行ってみると、美女が立っていたその場所には猫がおり、猫に餌を与えながら猫に彼女の面影を重た。
ある日、欠員が出て人数合わせのために呼ばれた合コンで、皆が将来について語る中、奏はやりたいこともないので親のピアノ教室を手伝うと告白すると、「超うしろ向き」と言われ、思わずやけ酒をしてしまった。
フラフラになって帰宅途中、あのアパートの前でまた美女が立っていた。彼女は涙を流していて、見過ごせなかった奏は思い切って彼女に話しかけた。
するといきなりアパートのドアが開き、「液体窒素もって来い!」と叫んだ男と共に彼女は部屋へ入ってしまった。
彼女に男がいたことにショックを受ける奏だったが、雪の日に裸足で立たせていたり、暴言を吐かれたりしていた彼女はあの男にDVを受けているのではないかと思い、彼女を救おうと決意した。

翌日、アパートに行ってみると、窓からゲームをしている2人の姿が見えた。覗きが見つかり、部屋に入れてもらうと、そこにはむき出しになった基盤や液体窒素があった。何をしているのかと質問すると「世界平和のために戦っている」と男が答えた。なんの事だか分からない奏に、美女のハナは「オーバークロック」を知っているかと聞く。要するに、パソコンのCPUやメモリを定格のクロックを超える高いクロック周波数で動かすこと、つまり、パソコンを普通より速く動かすことだと説明した。
その男「ミケ」は、自分でチューニングしたマシーンで世界中の人とレースをしているという。
興味があるならばやってみろと、ミケに勧められ、ミケから安価に機材を購入し、奏はオーバークロックの世界に入っていった。

足りない部品をハナと一緒に秋葉原に買いにいった奏は、ミケとハナが付き合っているわけではなく、ただのオーバークロック仲間なのだと知った。奏はハナと接点を持つために、ハナに教わりながらオーバークロックで代表的冷却方法である空冷のPCを作り上げ、スーパーPIというソフトでオーバークロックを始める。
ハナに認めてもらおうと、ハナの作ってくれたメモを見ながらオーバークロックをしていると、その地道な作業がまどろっこしくなり、メモの注意を無視し、電圧を上げすぎてしまった。すると、一瞬にしてパソコンが壊れてしまった。パーツは吹っ飛び、基盤からは煙が出て、あわや大惨事と言う事態になってしまった。
オーバークロックを頑張って、いい成績が出たらハナに報告しようと思っていた奏はもう一度同じPCを作ろうと秋葉原に走った。自分の知識のなさを知った奏は、オーバークロックの世界を知ろうと検索してみると、ミケがオーバークロック界では有名人で世界記録保持者であることがわかった。海外で行われるオーバークロックのイベントなどで知られる超有名人だったのだ。

ミケとハナはいつもアパートで液体窒素などを使ってCPUを冷やし、オーバークロックを行なっていた。液体窒素やCPUや基盤など、オーバークロックにはお金がかかる。ミケは牧場でバイトをして資金を稼ぎ、ハナはパイナップル工場で働いたり内職をしてミケを支えていた。
ある日、アパートの前でハナに会った奏は、ハナの手があかぎれで腫れ上がっていることに気づいた。しかし、ミケはそんなハナに素手でドライアイスを扱わせ、しかも失敗をハナのせいにしてハナを家から追い出した。
それを見た奏は、貢がされた上、暴言まで言われ、ハナは今すぐミケと別れた方がいいとハナを説得する。しかしハナは、ミケが一番を取るには自分がいないとダメだといって聞く耳を持たない。しかし、奏が一番になったらミケと別れて奏と組むとハナは言った。
奏はミケに勝つためにネットで調べたCPUを買おうと秋葉原に来ていた。在庫が1つしかないそれを巡って、女子大生のジュリアとトラブルになり、ジュリアの泣き落しに負けた奏はそのCPUをジュリアに譲ることした。譲ってくれたお礼と称して食事に誘われた奏は、ジュリアがオーバークロッカーであることを知り、ジュリアからオーバークロックのレッスンを受けることになった。

ジュリアとの出会い

ジュリアにオーバークロックのレッスンをしてもらうことになった奏は、ジュリアに連れられてオーバークロックカフェに行った。奏は、ミケに勝つためにオーバークロックを始めたので、ミケと同じく液体窒素を使った冷却方法をしたいと思っていた。しかし、まだ始めたばかりで素人同然の奏にはまだ早いとジュリアは言い、オーバークロックの基本、空冷というファンを使った冷却方法を勧められた。
そしてジュリアに強引に誘われ、オーバークロックを駆使して戦うゲームバトル大会に出場することになった奏は、ジュリアの家に泊まり込みで猛特訓を受けさせられ、大会に臨んだ。

一方のミケとハナは資金難に苦しんでいた。
オーバークロックはとにかく資金がかかる。CPUやマザーボード、グラフィックカードやメモリなど、一回買えばいいというものではなく、性能を上げるためには良いパーツに買い換えていかなければならない。日本ではオーバークロックはマイナー競技で知名度は低いが、海外では、有力なオーバークロッカーは企業と契約して、その企業のパーツの広告宣伝をしつつ、オーバークロックをしている人や、テレビやCMにでたりしている億万長者などもいるらしい。
世界でトップであるミケは企業からの誘いも多いのだが、「日本人である自分が日本でやらなければ意味がない」という持論を持っているミケは、世界各国のパーツメーカーから誘われても全て断っていた。奏や他のオーバークロッカーたちも不思議に思っているのだが、その理由は明かされていなかった。

ある日、イタリアの億万長者のライバルに記録を抜かれてしまったミケは、新しいパーツを買うための豊富な資金が欲しいと思い、以前ハナが話していた賞金20万円の大会を思い出し出場することにした。
大会当日、会場には水冷のマシンが並ぶ中、ジュリアと奏はジュリア自作の空冷のマシンを使用して参加していた。空冷よりも水冷の方が効率よくマシンを冷却することができるため、より簡単にオーバーヒートを防ぐ水冷マシンを使う人の方が多くなっているようだ。
大会にエントリーしたのは6チーム。なんとそこには変装したミケとハナの姿もあった。オーバークロック界では世界的に有名なミケは、賞金欲しさに畑違いの大会に顔を晒して出場することに恥ずかしさを感じ、大会出場を拒否していたのだが、イタリアのライバルに記録を更新され、新しいパーツを購入するため、20万円という賞金のために変装して出場することにしたのだ。

この大会は、ゲーム担当とオーバークロック担当の2人一組で戦う。各担当は1ステージごとに入れ替わる。ゲーム担当は敵を殲滅してステージをクリアする速さを競い、オーバークロック担当は、オーバークロックコントローラーを使い終始高いFPS値(フレームパーセカンド、一秒間に表示できる画像の枚数のこと)を維持し、その平均値の高さを競う。ゲームでプレイヤーが死んだり、PCがフリーズしたら失格になるルールだった。ゲームは4ステージあり、それぞれのミッションをクリアすると次のステージに行ける。
ミッション1、ミケはオーバークロックで最高点を出し、ハナはゲームを3位でクリアした。ジュリアはゲームを1位でクリアした。
ミッション2ではゲーム担当とオーバークロック担当が入れ替わった。
奏はゲーム担当になり、ジュリアに特訓を受けた成果が出て、2位でクリアし、ジュリアはオーバークロックで2位につけた。
一方のミケは、ゲームはしたことがなく、どこを押せばプレイヤーがどう動くのかもよく分からない状態だった。しかし、ハナの助言を受けなんとかゲームはクリアした。ハナはオーバークロックで1位を獲得した。
ミッション3、オーバークロックではミケに適う者はなくダントツの1位を獲得、ゲームでハナは3位を獲得した。ジュリアはゲームで2位、奏はオーバークロックで3位を取った。
ミッション4、ゲームに弱いミケはタイムオーバーで失格になり、ゲームを真面目に練習もせずに大会に出場したミケに腹を立てたハナはそのまま会場から立ち去ってしまった。
ジュリアと奏チームは、善戦するが奏がオーバークロックで失敗し、ブラックアウト、失格になってしまった。
奏たちの総合結果は2位、ミケとハナは3位に終わった。

大会に出場し、良い結果を残してハナに認めてもらいたかった奏は、大会で、ハナに全く気にかけてもらえなかったことにショックを受け、また、自分の未熟さのためにジュリアを失格にしてしまったことを後悔していた。
後日、3位の賞品を持ってミケの家を訪ねた奏は、ミケがブラジルのライバルに記録を抜かれた場面に遭遇した。

ミケの力

ミケは、ブラジルのレオナルドに抜かれた記録を更新しようと挑戦を始めた。浴びるほど窒素を持っている金持ちが作った記録かと思いきや、拾ったパーツでオーバークロックをしているミケと同じように貧乏な人たちだった。最近、資金難を負けの理由にしていたミケをハナは痛烈に批判した。すぐさま記録を抜くとミケは息巻いたが、ハナはこの前の大会でミケが真面目にやらなかったことを怒っていて、バイトがあると出て行ってしまった。ミケはたまたまそこにいた奏に手伝いをさせ、記録奪還のために「スーパーPI」というソフトを立ち上げた。ミケはすぐに記録を更新することができたが、喜びもつかの間、すぐに抜き返されてしまった。ブラジルのレオナルドらがOSを軽くするためにチューニングしていることを知ったミケは、自分が最強と過信してOSの作り込みなどをサボっていたことをハナに指摘されたことを思い出した。どうしてもレオナルドに勝ちたいミケは自分もOSをチューニングして勝とうと奏に協力してもらいデータを取り始めた。そしてOSをチューニングしたミケは、世界記録更新の瞬間を生放送してその強さを全世界に見せつけた。

ミケの凄さを目の当たりにした奏はミケを目指して極冷と呼ばれる液体窒素を使ったオーバークロックを始めることにした。以前ジュリアに連れて行ってもらったオーバークロックカフェで教えてもらった中学生から液体窒素を保管するのに必要なデュワー瓶を購入し、本格的に極冷マシンで始めようとしていた。すると、奏の自宅にジュリアが訪ねてきてもう一度チームを組もうと誘われた。ジュリアは薬科大学の学生でこれから大学が忙しくなるからしばらくオーバークロックはしないと宣言していたのだが、奏と一緒に参加した大会で、負けたことが後からどんどん悔しくなってきて、リベンジしたくなったのだという。奏はジュリアに押し切られ、ゲームとオーバークロックの大会、アキバ杯に出ることになった。
ミケはその大会の解説ゲストとして呼ばれていた。
この大会は、奏たちが2位になった大会の上位大会で、1位が辞退したため、繰り上げて奏たちが出場することになっていた。下位大会の優勝者が集まるこの大会はなかなかの実力者揃いだった。しかし、特訓を積んだジュリアと奏チームも奮戦し、好発進した。奏にデュワー瓶を売った中学生も参加しており、ゲームが神業のように上手かった。実は中学生たちは不正を働いており、ゲームの当たり判定に細工をしていることをミケは見破る。白熱したゲーム展開の中、ジュリアのPCが煙を吹き始め、最早これまでと思った時、隣の会場から液体窒素を譲ってもらった奏が、液体窒素でPCを冷やし難を逃れた。最終的にジュリアと奏チームが強豪を破り、見事優勝を勝ち取った。

ハナの事情

突然、ミケのアパートにハナの父と叔母が現れた。ミケのアパートに行こうとしていたハナは、アパート前で父に捕まり、田舎に戻れと強要されてしまった。ハナは拒否しているが、ハナには婚約者が決まっており、その彼が海外から帰国するから田舎に戻って来いというのだ。婚約者の名前は火切俊充といい、ハナの田舎の有力者の次男なのだ。ハナの親族は火切グループに大恩があり、ハナに想いを寄せている俊充にどうしてもハナを嫁がせたいのだ。

一方ミケの部屋では牧場主の丸田が訪れており、その場にいた奏に極冷を教えるから牧場のバイトをしないかと持ちかけていた。ミケにも「時間があるなら悪い話ではない」と勧められた奏は丸田の牧場でバイトをしながら極冷を教えてもらうことになった。
ハナは、ミケを訪ねてきていた丸田が牧場に戻ると部屋から出てきたのを見ると、自分も牧場に行くと父の手を振り払い、丸田を強引に引っ張って逃亡してしまった。
取り残された奏は牧場に急ぎ、ハナと一緒にバイトをしながら生活することになった。

ハナの婚約者・火切俊充は、ハナの地元の大企業の息子で、ハナの親戚一同、火切グループの何かしらの関係企業に勤めているため頭が上がらない。ハナが小学生の時から俊充はハナに好意を持っており、学校の図工の時間、風景画を描かなくてはいけない時にハナを描いてみたり、母の日でもハナの絵を描いたりと周りの目を気にせず、ハナに好意を向けてくる。ハナは周囲からからかわれ、どんなにきつい言葉を浴びせてもずっと好意を向ける俊充を嫌っていた。しかし、親戚一同はそれを許さず、ハナがどんなに俊充を拒絶しても、親戚がフォローを入れてハナの拒絶をなかったことにしてしまう。この経験がトラウマになって、ハナは美女であるにも関わらず、異性からチヤホヤされることが苦手になっていた。

丸田の牧場では、ハナと同じ空気を吸い、ハナと同じ仕事をし、ハナが作る料理を食べ、奏は幸せに浸っていた。ハナは、自分がいなくて困ってないかとミケに連絡を取るが、ミケの返事はつれないものだった。本当は、ハナがいないことに不自由さを感じていても、ハナと婚約者の事情に巻き込まれたくないミケはハナを突き放した。

約束通り、丸田は牧場での空き時間に極冷によるオーバークロックを奏に教えてくれた。奏がミケの所で手伝ったオーバークロックは2Dと呼ばれるもので、「スーパーPI」というソフトを走らせて、マシンの計算速度を計るオーバークロックだった。丸田が教えるのは3Dで「ベンチマーク」という立体的な映像を描く力も含めたマシンパワーを競うソフトを動かして、マシンの性能を図るオーバークロックだ。この3Dの大会に丸田は娘と出場するつもりだったのだが、娘に断られ、奏と一緒に出場することになった。ハナは奏の練習に付き合うといい、奏の指導をしてくれた。丸田もいろいろなサイトでトップをとっているくらいのすごい人なのだが、ハナはそんな丸田にも厳しく注意をする。奏は、以前ミケから、ハナの方がオーバークロックにしか目に入っていない、と言っていたことを思い出した。練習に励む奏とハナに、ミケが記録更新の生配信をするという情報が入った。
ミケは、ハナがいなくても自分は1人でできるとハナに見せつけるために、「スーパーPI」で生配信を始めた。やり始めようとしたその時、なぜかジュリアがミケのもとを訪れ、慌てたミケは記録更新に失敗してしまった。自分のせいだと生配信で謝るジュリアに、不機嫌ながらもジュリアが可愛いから許す、と照れたような顔をミケが見せたところで生配信は終わった。
長いことずっと一緒にミケと過ごして来たハナは、ミケがジュリアに見せた顔を見て、ショックを受けた。
ショックを受けたハナを見て、純粋にオーバークロックが好きでミケの側に居たような事を言っていたハナが、本当はミケ自身が好きだったのだと、奏はハナの気持ちに気付いてしまった。

上海で行われる3Dオーバークロックの世界大会の日本予選が始まった。予選期間3日の間にベンチマークソフト・3Dヒートマンというソフトを使用してオーバクロックをし、そのスコアを大会サイトに登録するシステムだった。本選は上海の会場に集まって行われるが、予選は各自で行う。期限内であれば、何回でもスコアは登録してもいいので、高スコアが出るまで何度挑戦しても良い。高スコアを出し、ランキング1位だったとしても、期限ギリギリで高スコアを登録するチームもいるので、最後まで油断はできない。予選に参加するのは8組。最終的に最高スコアを出した1位のチームだけが上海の大会に進める。予選期間は3日間あるが、牧場の仕事と並行してオーバークロックを行うのは体力的にも時間的にもなかなか厳しい。継続してオーバークロックをする場合には問題ないのだが、牧場の仕事のためにオーバークロックを中断すると、マシンは一度バラして乾燥させなければいけない。生き物相手の仕事は時間をずらすことができないため、何度も中断しなければならず、心身ともに疲労してしまうのだった。
そんな中、牧場に俊充がハナを訪ねてやってきた。ハナは俊充を見かけるとそのまま逃亡してしまった。
丸田と奏は俊充からハナとのこれまでのいきさつを聞き、余りにもひどい毛嫌いぶりに同情はするものの、大会の期限が迫っている中、ハナが出て行ったことは大打撃で、ハナの代わりに牧場を手伝えと俊充に迫った。俊充は、ハナがオーバークロックのトッププレイヤーだと知り、オーバークロックに興味を持ち始めた。なかなか好成績が出ず、牧場の仕事で時間もない。大会は諦めるしかないと思った時、丸田の子供たちが協力を申し出て、時間ギリギリまで大会に集中することができた。そして、丸田と奏は最高得点を出し、予選1位となった。

予選1位は上海の大会に出場できるが、丸田には牧場の仕事があってどうしても家を空けることができない。丸田は奏に上海の大会に出場するように言い、奏に他のパートナーを紹介し、奏を上海の大会に出場させることにした。

一方、牧場から逃走したハナは、ミケのところへ行くが、ミケがハナの居場所を俊充に教え、あまつさえ、俊充と結婚して有り余る金でCPUを買ってくれと暴言を吐かれてしまった。もはやミケのところにもいられず、ハナはどこにも行き場がなく、あてもなく彷徨っていた。すると、奏の妹・葵に出会い、葵の好意でしばらく一ノ瀬家に滞在することになった。

上海大会

奏が牧場でのバイトを終えて自宅に戻ると、そこにハナの姿があった。ハナを奏の彼女と勘違いした奏の母は、ハナを大歓迎し、いつまでも居ていいと言っていた。

奏は上海に向かう飛行機の中で、その大会のゲスト審査員を務めるというミケと出会った。丸田に紹介された庄野と合流した奏は変わり者ぞろいの出場者に囲まれ、ハチャメチャな前夜祭を過ごし、大会当日を迎えた。パートナーとなった庄野はオーバークロック界で有名な人で、多くの人からの尊敬を集めているようだ。しかし、3Dができないと言って手伝わず、奏の隣で椅子に座ったまま動かない。試合はデンマークチームと香港チームがトップ争いをしている。一人で戦っても勝ち目はないと悟った奏は、庄野に液体窒素を浴びせ手伝って欲しいと頼んだ。奏の勝ちたい気持ちを汲み取った庄野は起き上がり、奏のサポートに入り、日本チームが徐々に追い上げてきた。しかし、デンマークチームは強く、ワールドレコードを連発している。諦めるチームが多くなってきても、奏の集中力は途切れることがない。超シビアな温度コントロールが必要な時に、日本チームの温度計のコードが抜けてしまうというアクシデントが起こった。最早これまでと会場にいた誰もが思ったが、奏は音楽で鍛えた鋭敏な聴覚を駆使し、ポットの収縮の音で温度を判断するという離れ技をやってのけ、時間ギリギリのところでデンマークの記録を抜き、ワールドレコードをたたき出し、日本チームが優勝を勝ち取った。

翌日、メーカーに所属するプロのオーバークロッカーたちのデモンストレーションが行われ、奏は庄野と一緒に見学に行った。プロのオーバークロッカーとは、そのメーカーのパーツを使いオーバークロックをする人達の事だが、市販に出回る前の高スペックなパーツを使い、一切自分の懐を痛めることなく、好きなだけメーカーが用意した高性能のパーツを使うことが出来る。前日の大会に出場したメンバーもメーカーに声をかけてもらえるように、頑張っていたのだ。ミケは、何社からもこの誘いがあるのだが、全て断り、個人でのレースを続けていたのだ。メーカーの手も借りずに常にトップを走り続けるミケに、全世界のオーバークロッカーから尊敬と注目が集まっているのだ。
このデモンストレーションで、メーカー所属のeek(エーク)に、奏が前日に出した3Dのワールドレコードをあっさりと更新されてしまった。次にeekは、ミケが持つ2Dのワールドレコードに挑み、これもあっさりと更新してしまった。

日本に帰ってきた奏は、優勝したことでさぞやハナが喜び、認めてくれるだろうと期待していたが、ハナの意識は、ミケの記録が破られたことだけに集中していた。早く記録を抜き返そうと、ハナはミケのアパートを頻繁に尋ねるのだが、ミケは不在で連絡が取れない。そんな時、俊充からハナや奏にミケのアパートに集合という連絡が入った。

ハナ、サポート役解任

丸田の牧場でオーバークロックに触れ、3Dの上海大会も見に行った俊充は、オーバクロックの魅力に取りつかれ、自分も参戦することにした。といっても、自分でやるのではなく、ミケのサポートとして参入するのだ。その話を聞いたハナは、素人にミケの手伝いなどはできないと言うが、俊充は十分に考え、実家の火切グループのpcを取り扱っているBTO会社(顧客の発注に応じてPCなどの部品の組み合わせを選択し生産する会社)の経営権を取り、ミケの資金と部品のサポートをすることにしたのだ。これにより、ミケはメーカーに所属しなくても、それと同じような環境でオーバークロックに集中できるようになるのだ。
ミケはハナに、俊充と組むと宣言し、ハナに「お疲れさん」と言って切り捨てた。ハナを追いかけようとする奏を引き止めたミケは、奏に俊充から貰った機材の中から好きな物を持っていけと言い、奏を「潰す」と宣戦布告をした。ずっと憧れだったミケに勝負を挑まれ、奏は嬉しくてたまらない。さらに、ミケがハナを完全に切ったことも嬉しい。ミケに必要とされなくなったハナは奏がミケに勝てるようにオーバークロックを教え込む。

ミケは食事の世話からパーツの用意まで俊充の世話になり、至れり尽せりの状態でオーバークロックをしていたが、豊富なパーツに油断してメンテナンスを怠り、大事なマザーボードをカビさせてしまった。今までずっと、メンテナンスはハナに任せていたため、いい加減になっていたのだ。ミケに構いすぎる俊充に家に来るなと言い渡し、ミケは1人でオーバークロックに打ち込んでいた。そして、必要ないとサポート役を首にしたが、以前貧乏だった時に自分を全力で支えてくれていたハナの面影が眼前をちらつき、苛立っていた。馴染みの工場でパーツを作ってもらったミケは、その職人に、早くハナを呼び戻してサポートしてもらえと言われた。しかしミケは、いい大学に通い、いい教育を受け、金持ちの男たちに好かれ、将来は選びたい放題のハナは、自分になどくっついて、オーバークロックなどをしていてはいけないと、ハナを自分から離したのだ。

俊充は、上海大会のイベントでミケの記録を破ったeekにミケとの一騎打ちを申込み、承諾を得ていた。ミケは今ひとつ乗り気ではなかったが、俊充に押し切られ、そのイベントに出ることになった。

一方、ハナの実家ではハナを呼び戻そうと、父親が奏の家を訪れていた。どうしても実家に帰りたくないハナはとっさに妊娠していると嘘をつき、それを聞いた奏の母は、ハナを引き止めようと、相手は自分の息子の奏です、とさらに嘘の上塗りをして、ハナの父親の怒りは奏に向かった。ハナの父に殴られた奏を心配するハナは、実家に戻るというが、奏はそれを引き止めハナに告白し、2人は付き合うことになった。

俊充は、ハナと奏が付き合うことになったと知り、ハナに会いに行った。今までハナにどんなにきつい事を言われてもハナを嫌いにならなかった俊充だったが、ハナが奏を選んだことに失望していた。それは、自分が選ばれなかったからではなく、ミケの手伝いをしていて、ハナのミケへの溢れんばかりの思いに気づいたからだ。
俊充はハナに、ミケとeeKの試合が行われるラスベガスのイベントの招待状と飛行機代と旅行券を渡し、「アメリカに来て」と言った。

ミケとeeKが戦うラスベガスのイベントが始まった。その様子は全世界に生配信されている。ハナはラスベガスには行かず、日本で奏と一緒にPCの前で試合を観戦していた。メーカーの社名を背負っているため、どうしても勝たなければならないeeKはBIOS(マザーボードに入っているプログラムの一種。オーバークロックの速さは、このBIOSの設定で決まってくる)を試合開始30分前に更新するというずるい手を使い、ミケに不利な様にしてきた。しかしメーカー所属のeeKがBIOSに関して、汚い手を使ってくると予想していたミケの対応策はしっかりしている。そして始まった試合で、ミケは善戦するもののeeKに追いつけない。そんな緊迫した試合を見ていた最中、奏の家にハナの父親が訪ねてきた。妊娠の責任を取って結婚しろと婚姻届を持ってきたのだが、ハナは話を聞くふりをしてミケの試合をこっそり見ていた。ミケが会心のタイムを出し、ワールドレコードを出したことをハナは喜び、中継を見ていることがバレてしまった。ハナの父は、ハナがミケに入れあげている事を知っており、どんなにオーバークロック界で有名でも、ミケのような変な男にハナを預けたくないと思い、今回、妊娠が嘘だと知りつつ強引に奏と結婚させようとしていたのだ。
ミケに記録を塗り替えられてしまったeeKは、メーカーと契約しているプロとしてどうしても負けるわけにはいかず、非公開のBIOSをマシンに積んでいて、いざという時切り替えられるようにしていた。これは、明らかな不正行為なのだが、数値を見ただけでは誰にもバレない行為だった。新しいBIOSを使い、eeKはミケの記録を打ち破り、その瞬間に1日目の時間が終了、1日目はeeK勝利で終わった。
eeKの不正を見破ったハナはテーブルを叩きながら怒りを吐き出していた。それを見た奏は、今からラスベガスに行って、ミケの試合を見て来いとハナを家から追い出した。

2日目、ミケはeeKが前日に出した記録に届かない。車に例えると、市販の車をどうにかチューンしてレースをしているミケに対して、eekは最初からワークスマシン(車で言うところの自動車メーカーがレース用に開発したマシン。元々の性能が高い)を与えられているようなもの。「伝説」と呼ばれるミケでもワークスマシンには勝てないのかと、会場はミケの時代は終わったのかと思い始めていた。
そんな時、会場にハナの声が響いた。ハナの言葉に初心を思い出したミケは4台のマシンを組み上げ、それを操り始めた。誰もが無謀と思う中、ミケは昔、純粋に自分の記録を抜くために速くなる為の地道な作業を繰り返していたことを思い出した。初心に立ち返ったミケは見事ワールドレコードを出し、2日目を制し、eeKに勝利した。

PCで中継を見ていた奏は、ハナが無事にラスベガスに到着し、ミケの勝利を喜んでいる姿を見た。ふと机にあるハナの置き手紙に気づいた奏は、ハナが作り残していったOSを使い、2Dのオーバークロックをやってみた。すると、驚いたことに、先ほどミケが出したワールドレコードを塗り替える記録が出た。奏はすぐさま「87」の名で記録を登録した。ミケはそれを出したのが奏だと見破り、今までハナが作りこんできたハナの記録なのだと奏は言っていると解説した。ミケはワールドレコード保持者になったハナにライバルとは手を組まないと言い、自分はアメリカに残るから、ハナは日本に帰れといった。

その後、奏は音楽のために、イタリアに留学することを決めた。オーバークロックを真剣にやったことで、自分の中にも闘争心があったことに気づき、また、どんなに時間がなくても毎日バイオリンの練習だけは欠かさずやっていたことに気づき、バイオリンの無い生活はできないと、音楽に本気で取り組むことにしたのだ。

ハナは日本に戻り、ミケのアパートを訪れていた。ミケに「わたしをここに置いて下さい!」と頭を下げると、ミケから「オーバークラッカーはいらねぇ、オレはもう誰とも組まねぇ!でも…家政婦なら置いてもいい」と言われ、ミケと一緒に暮らすことになった。

『87CLOCKERS』の登場人物・キャラクター

一ノ瀬 奏(いちのせ かなで)

英考音大3年生。ヴァイオリン専攻。
入学当初は、教授たちからの期待も高く、コンクールに出場すれば入賞すると言われていたが、人との競争が苦手でコンクールから逃げつづているうちに、教授からも友人からも声をかけられなくなった。
雪の日に、裸足でアパートの前に立っていたハナに一目惚れした。ハナとアパートの住人・ミケがオーバークロックという競技をしていることを知り、ハナと接点を持つために、オーバークロックを始めた。ミケのハナに対する傍若無人な態度からハナがDVを受けているのではないかと疑った奏は、ミケからハナを奪おうとオーバークロックの世界で一位を取ったらミケと別れ、自分と組んで欲しいとハナに言い、約束した。
CPUを購入する時、同じ物を取り合ったことで知り合ったジュリアにFPSゲームを教わり、時にミケの2D「スーパーPI」でワールドレコード更新を手伝ったり、ミケのところで知り合った牧場主・丸田から極冷マシンの3D「ベンチマーク」を教わったりと、人脈を広げながら世界大会に出場するまでになった。
父は海外勤務。母はピアノ教室経営。妹・葵がいる。

中村 ハナ(なかむら はな)

K大学の3年生。
ミケのアパートの前にいたやせ細った猫に餌をやっていたら、空腹で倒れる寸前のミケに出会い、食事を作ってあげたことがきっかけで、ミケのオーバークロックの手伝いをすることになった。
オーバークロックの資金を稼ぐために、パイナップル工場で働き、その他内職にも勤しむ。稼いだお金はほとんどオーバークロックにつぎ込んでいるため、いつも貧乏である。ミケのために捨てられる寸前の食材をもらってきて調理したり、秋葉原のパーツ店で値切り交渉を行ったり、ミケのマシンのデータ取りから競技のサポート、機材のメンテナンスまでして、ミケに尽くしている。
時々ドジをして、ミケから玄関前に立たされるなど、ひどい仕打ちをされることがある。

ミケ

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