ハイガクラ(漫画)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『ハイガクラ』とは、高山しのぶにより2008~2015年まで『コミックZERO-SUM増刊WARD』で連載、本紙が休刊した後は『ゼロサムオンライン』にて連載されている中華風ファンタジー漫画。竜王が人々のためにつくった国「五神山」。国を支えていた神々が逃げ出したことで崩壊の危機に瀕していたたその国は、「人柱」を作ることでその危機を回避した。一葉は、人柱にされた育ての親を救うために逃げ出した神々を連れ戻そうとするが、次第にこの国の真実を知っていくことになる。

『ハイガクラ』の概要

『ハイガクラ』とは、高山しのぶにより2008~2015年まで『コミックZERO-SUM増刊WARD』で連載、本紙が休刊した後は『ゼロサムオンライン』にて連載されている中華風ファンタジー漫画。
『一迅社』にてコミックが出版されており、4巻以降は、限定版や描き下ろし小冊子付き特装版が合わせて発売されている。

竜王が人々のためにつくった国「五神山」。その国は、四方の地を四匹の凶神「四凶」と八百万の神が支えることで成り立っていた。
しかしある日、四凶のうち2匹が山を沈めて他の八百万の神と国外へ逃げ出したことで国は支えを失ってしまった。そこで人々は、失った支えの代わりに「人柱」を、そして逃げ出した神々を連れ戻すために「歌士官」という職をつくりだした。
歌士官である一葉は、人柱にされた育ての親である「神獣 白豪」をその役目から解放するため、逃げ出した四凶を連れ戻すべく日々奮闘するが、次第にこの国の真実を知っていくことになる。
本作は、中華風ファンタジーらしい華やかで派手な戦闘シーンだけでなく、徐々に明かされる国や神々の真実に苦悩し葛藤する様がリアルに描かれており、主人公たちが過酷な過去を乗り越えて精神的に成長していくヒューマンドラマな一面もある。

『ハイガクラ』のあらすじ・ストーリー

主人公たちの目的と秘密

一葉(いちよう)は国から逃げ出した神々を連れ戻すのが仕事である歌士官(かしかん)であり、滇紅(てんこう)はその従神である。
二人は、歌士官が支配した神々を調教するのが仕事である調教師の羅漢と食事をともにしていた。
そんな三人のもとへ、国の重鎮である八仙の一人「藍采和(らんさいわ)」が訪れたことで、歌士官や一葉自身のことに話の論点が変わっていくことになる。
一葉は藍采和の唯一の弟子であるがそれと同時に一葉が最も嫌いな人物であること、一葉が半ば伝説と化している四凶を本気で連れ戻すために歌士官になったことが藍采和の口から語られる。
かつて国を支えていた四凶が逃げ出したことで崩壊の危機に瀕していたこの国を支えるため、人柱となった育ての親である「神獣 白豪(はくごう)」を救うことが一葉のたった一つの目的なのだ。

もう一人の従神である花果(かか)と合流した一葉たちは、羅漢がかつて調教した牛鬼(ぎゅうき)のもとを訪れていた。
本来ならもっと見目麗しい女仙の姿になるはずの竦斯(しょうし)という種族である花果は、一葉がそのような調教をしなかったために、見た目も言動も幼子のままな姿である。
牛鬼は力仕事が得意なようにきちんと調教がされており「元はほとんど獣と変わらぬ神たちを目的に合わせて成長させ、人の良き相棒となれるようにするのが調教師である」と羅漢は一葉の調教の仕方に説教をするのであった。
そんな一葉たちのもとへ牛鬼の主人である武夷(ぶい)が現れ、一葉のことを「史上最も出来損ないの歌士官」と侮辱して花果に反撃されるなどの一幕があったが、その過程で歌士官が神獣を従えるために必要な斎(さい)を一葉が牛鬼に手渡してしまうのだった。
その後牛鬼から一葉の斎を取り上げた武夷であったが、自分を封じている斎に他人が無断で触れたことに激怒した本来の姿の花果に襲われることになる。
一時的に力を解放した滇紅により武夷は助けられたが、騒ぎを起こしたことで一葉に怒られた花果は大号泣してしまう。花果を泣き止ませるために舞を披露する一葉の、そのレベルの高さに驚愕する武夷だったが、そのすぐ後に一葉が唄いはじめると「もうやめてくれ」と叫びだしてしまうほどの音痴であったことが判明する。
神獣を従えるための術である踏々歌(とうとうか)は、唄と舞がセットになっており、一葉は壊滅的なまでの音痴であるが故に出来損ないと言われているのだ。
そしてその唄により花果は元の姿に戻り、余波を受けて牛鬼の姿も小さくなってしまうのだった。その姿を見て滇紅が「余波でよかったな。一葉は地霊などは一句唄ううちに潰してしまう」と、呟く。そして竦斯という種族は本来3000年生きて変化するはずが、生まれたときから変化していた変わり種が花果であると説明する。
本来そんな存在は普通の歌士官には扱えるはずもなく、「一葉や滇紅はいったい何者なのか?」と恐怖と疑問を返す武夷を、元の姿に戻り笑顔でかわす滇紅だった。

主人公と新たな仲間

国と外国を行き来するには、水門と呼ばれる水で繋がれた道を通る必要がある。
日本に渡るために水門を抜けた一葉たちだったが、滇紅が泳げない一葉の手を放してしまったことで波に流され、日本の南の小島で「りゅう」と名乗る幼い少年に発見され保護されたのだった。
りゅう曰く、姉と二人で暮らしているが今は姉が家を空けており、少し離れた島に鳥の写真を撮りに行っているおねえはあと1か月ほど戻らないという。
付近にあるという白い蛇を祀る社を教えてもらい様子を見に行く一葉たちであったが、今は神々が出雲に行ってしまう神無月の時期であるため、その社の神も不在のようであった。
その夜、ひどい嵐が来るため一時的に帰ってきたというおねえに出会い頭に不法侵入者と罵られた一葉たちは、弁解する間もなく集会所にみんなが避難できるように手伝うこととなる。
集会所で村の老人たちを交えて話すうちに、一葉たちのことはりゅうが助けて連れてきたのだと、おねえの誤解を解くことができた。しかし同時に、おねえがりゅうの姉ではないことが判明する。
村のものたちは、おねえがこの島にくる季節にだけ現れるりゅうはおねえの弟だと思っており、逆におねえはりゅうは村の子供であると思っていたのだ。
一葉は村人たちのそんな誤解から、この時期にだけくるひどい嵐が、同じタイミングでのみ現れるりゅうによってもたらされていることに気が付く。
りゅうが人ではなく「雷獣(らいじゅう)」であると察した一葉たちは、どんどんひどくなる嵐と雷の中、その元凶であるりゅうのもとへ急ぐのであった。
空になった社とその時期にだけ現れるりゅうと嵐、そのことから一葉はりゅうの過去をある程度考察することができた。
雷獣は本来雷を呼び、雷に交じり移動し、雷を糧として生きる存在だ。しかし、生まれたばかりの幼いりゅうは海に流され弱っていた。それを哀れんだ島の女神がりゅうを拾い、回復するまで雷で渡って行ってしまわないように角を己の懐である社に隠したのだ。角がなくとも女神の加護で育っていったりゅうだったが、成長に伴いそれだけでは足りなくなってしまった。そして、女神が不在のこの時期は女神の加護が薄れるため、その姿を現して無意識に嵐を呼んでしまっていたのだ。だがどれだけ嵐を呼んで雷がそこにあっても角が無いりゅうにはそれを糧にすることができず、飢えに苦しみ暴れているのが現状である。
社から角を回収した一葉がりゅうに角を渡そうとするも、角を受け取ればもう島には居られないと知るとりゅうは怖気づいてしまう。だが一葉が、怖いのならば自分を寄る辺にしたらいいと激励したことでりゅうはそれに応えるのだった。
そしてともに国に帰還した後に従神登録を行い、一葉から「流」の字をもらったことで、りゅうは正式に一葉の従神として仲間に加わったのである。

一葉と白珠龍の過去と確執

国に帰還した歌士官は、1日目に東王公、2日目に西王母に拝見することになっている。
一葉は、本来なら平伏して崇め奉るべき西王母に対していつも不遜な態度で接しており、その理由は彼らの過去に原因があった。

「白珠龍(はくしゅりん)」は孤児であり、八仙である「漢鍾離(かんしょうり)」のつくった身寄りのない者たちが集う施設で、漢鍾離の一人息子である「山烏(さんう)」と兄弟のように育った。
漢鍾離が仕事から離れることができない折にその妻が帰らぬ人となったことで山烏とは確執ができており、そこにさらに逝去した西王母の次代として突然白珠龍が召し上げられてしまったのだ。
現状を受け入れらずに泣き暮れていた白珠龍は、宮に侵入していた幼き日の一葉と出会う。そして二人の境遇を憐れんだ藍采和の計らいにより、一葉と白珠龍は夜に密かに談笑する時間を得る。
一葉は白珠龍が次代の西王母だと知らぬまま、己の従神となった滇紅との出会いを語る。
滇紅は、歌士官長である「孫登(そんとう)」が世話役となり一葉が初任務として赴いた地で何故か封印されていた謎の男だ。そしてその封印を解いて一葉が無意識に行った潔斎は古く禁じられた方法であったために、改めて潔斎を行ったところ負荷に耐えられずに記憶も自我も吹き飛んでしまったのだ。
その後一流の調教の腕を持つ「峰龍井(ほうりゅうせい)」によって、滇紅は随分と明るくマイペースな「従順でない、一葉にとって気負いのない友人のような存在」へと変化したのだった。

白珠龍との密かな邂逅を続ける一葉は、二人が兄弟のように育った事実を知らずに山烏とも親交を深めることになった。
かつて母を亡くし父はその母を顧みず、そして兄弟のように育った友を国に奪われた男である山烏。国に「西王母のために」と大切な育て親を奪われた一葉と、似た境遇であると言葉を交わす二人。
このことがきっかけになり一葉は白珠龍に「西王母に大切なものを奪われた」と告げ、自分がなぜ歌士になったのかを伝える。己が次代の西王母であると伝えることができていない白珠龍は静かにその言葉を受け止めることしかできなかった。
そうして白珠龍だけが互いの背景を理解してしまった数日後、ついに一葉は白珠龍こそが次代の西王母であることを知ってしまうのだった。
一葉は藍采和を問い詰め、「なぜ白珠龍は自分の理由を知っていたのにそのことを言わなかったのか」「なぜ自分たちを会わせたのか」と悲痛な叫びをあげる。そして、どれだけ待ってももう白珠龍の待つ場所へ一葉が現れることはなかった。

二人が合わないまま4年の時が経ち、時代の西王母即位式典が行われた。
白豪の捕獲は先代の命であり、藍采和がその命に逆らうことはできなかった。そして白珠龍も白豪と同じ憐れな人柱であると、分かっていても割り切ることができない一葉は、藍采和の命で4年ぶりに白珠龍と邂逅する。
西王母になるために、政争から身を守るために様々な知識を身に着け、作り笑いも上手になった白珠龍。もう白珠龍はいないのだと、帰る場所も行く場所も無くしてしまったと静かに笑う。
一葉は、そんな白珠龍に「おまえなんて知らない」「白珠龍を返せ」と叫んでその場を走り去ってしまう。西王母でない自分はもう誰にも必要とされないと思っていた白珠龍は、一葉のその言葉に涙するのだった。

渾沌襲来と新しい仲間

一葉は偶然にも武夷とともにいた山烏と再会するが、談笑の最中滇紅が謎の不調により倒れてしまう。
医者を呼ぼうと焦る一葉だったが、突然竜王の息子である「鎧糸(がいし)」が現れて一葉を連れ去る。そして一葉は東王父(とうおうふ)の宮の前、そこで得体の知れぬ化け物と兵たちが戦う場に放り出されるのだった。
四凶の「饕餮(とうてつ)」である「比企(ひき)」曰く、あれは渾沌の手駒なのだという。
そして調香によって場を清めたおかげで何故か唄うことができた一葉によりその場の混乱は収束されるのだった。

そんな戦場の裏、八仙の思惑により藍采和を引き離した白豪を移送することで、敵をあぶりだすことに成功していた。
その場で待ち構えていた孫登は、金髪の現代風の恰好をした敵と対峙する。そして敵の目的は白豪に「卵のありかを聞き出す」こと。つまり帝江であることを知る。
己の神獣をたやすく倒すほどの強さの敵に、孫登は自身も深手を負いながらも一矢報いたところで、外部から干渉があり敵に逃げられてしまうのだった。

戦闘が終わり滇紅のもとへ帰る一葉たちであったが、留守番をしていた流が道端で大怪我を負って倒れていた神獣を拾ってきてしまう事態が起きていた。
その神獣は目も見えず、舌も切られて言葉を話すこともできない様子であった。泣いてしまう神獣とそれに寄りそう流に絆された一葉は、そのまま一週間「金雀(きんじゃく)」と名付けたその神獣のめんどうをみることとなった。
しかし、立てるほどに回復した金雀は忽然と姿を消してしまい、その翌日には滇紅も目を覚ますのであった。

一葉たちは孫登に代わり、敵の攻撃により穢れてしまった斎の浄化のために作り手のもとへ向かうこととなった。
竜王の子の一人「丙閑(へいかん)」を案内人として斎栄宮に赴き、斎の作り手であり丙閑たちの母である「乙姫(おとひめ)」に謁見する。
しかし乙姫から特別な斎の浄化には2.30年かかると告げられ、白豪が守護する一葉の正体を知りたい竜王たちの思惑により斎栄宮に留められてしまうのだった。
宮を彷徨っている道中に喧嘩をしはぐれてしまった一葉と滇紅。一葉は竜王の長子「春睨(しゅんげい)」に出会い道案内をしてもらっていたが、滇紅は比企が封じられている部屋へと迷い込んでしまう。
そこで比企は、滇紅の姿が四凶「共工」の腹心の部下である「相柳」と同じ顔であるという驚愕の事実を告げる。
その後一葉の「自分も自分を知りたい。協力するからここから出してほしい」という懇願に、乙姫は丙閑を一時的に一葉の従神として面倒見ることを条件として一葉たちを地上へと返すことに了承するのだった。

友の裏切り

丙閑は一葉の正体を探るために、八仙の考えと乙姫の昔話から考えられる想定を語りだす。
本来、白豪は「帝江(ていこう)」のみを守護する存在であり、人を愛さぬ獰猛な神獣である。そして帝江は、袋のような姿で深紅の体躯をもち、目や鼻口はなく手足が6本と羽が4枚生えているとのこと。
何か心当たりはないかと問われた一葉が、自身の首に生える羽を皆に見せる。すると丙閑は、一葉から仙桃に似たいい匂いがすることが気になっていたと指摘する。
帝江は仙桃の木の源と言われており、その仙桃に似た匂いがする一葉は帝江に近い人間か、もしくは帝江から生まれた人間のような何かではないかと告げるのだった。

その後一葉は孫登へ一連の報告をするのだが、敵が帝江を狙っている以上一葉を外国に出すわけにはいかないと、居を宮に移すことと今後監視がつくことが告げられる。
そのことに憤慨する一葉だったが、それと同時に相柳の疑いのある滇紅が連行されてしまうのだった。
「親も、友人も、相棒も全て奪われた」と国への憤りを叫ぶ一葉を静かに居守る花果や流、丙閑のもとへ山烏が突然現れ、一様に「国が憎いか?」と問いかける。
歌士でもないのにかつて一葉が起こしたような禁術により「矢之王(やのおう)」という神獣を引き連れた山烏は一葉に謀反の誘いをかける。だが一葉はその呼びかけを一喝して否定、戦闘となるのだった。
矢之王の操る病に手こずる一葉の従神たちだったが、山烏の「自身には渾沌様の加護がある」という言葉に反応した一葉が無意識に不思議な炎を操り応戦しだす。
明らかに正気でないその様子に、丙閑は場を清めることで一葉を呼び戻すのであった。そして、その清めにより唄えるようになった一葉は矢之王を下すことに成功する。
そこへ騒ぎを治める為に山烏の父であり八仙の一人である漢鍾離が現れ、それに応戦しようとした山烏だったが何故か矢之王からの攻撃により自滅することとなる。
先の宮の襲撃も、渾沌の逃亡を手助けしたのも山烏であると判明し、一連の騒動は一時的な収束をみせることになった。
連行されていた滇紅も峰龍井のもとで保護されており、無事に一葉たちは合流することができた。そしてその場に一葉を訪ねて白珠龍が訪れ、久方ぶりに互いに意地を張らずに素直に言葉を交わす二人であった。
矢之王からの攻撃を受けて瀕死の状態になっていた山烏は、毒自体の治療はされたものの禁術の影響でその命を削られ続けていた。
そんな状態でもまだ周りに呪いの言葉を振りまく山烏に、一葉は「白珠龍はとっくに自分の役目を受け入れている」「自分の不幸を誰かのせいにするな」と叱咤する。
一葉の言葉に、ずっと黙秘していた山烏はとうとう渾沌について口を割る。渾沌は二人居り、身体の一部が欠けた相柳たちを従えていたのだという。

主人公の真実

自身のことをきちんと知る必要があると決意を固めた一葉は、白豪に「なぜ自身を守るのか?」「帝江とは何なのか?」と尋ねる。
一葉が自身の意思で知ることを選んだのだと理解した白豪は、今まで語ってこなかった事実を告げる。
一葉自身が帝江であり、意思を持つことを選んだ帝江は一葉が初めてであった。そして、帝江の意思が何物にも影響されず支配されないように守るのが白豪の役目であり、そのために一葉を守護していたのだと白豪は語る。
そして白豪から告げられた「自身のことをしりたいのならば、生まれた森で賢者に会いなさい」という言葉に従い鎮守の森を目指すことになる。
白豪か「一葉の正体を知ることは、竜王とこの国の秘密を知ることと同義だ」と伝えられたため、一葉とその従神、藍采和と孫登のメンバーで丙閑の助力によって竜王たちに知られずに鎮守の森へ向かうこととなった。

鎮守の森についた一葉たちは、一葉のことを「春」と呼ぶその地の花精に導かれて「封印木のおんじ」のもとへ向かう。
たどり着いた封印木のおんじは巨大な木の恐竜のような見た目であり、外国の氷河期の時代から生きているという。
案内人となった花精から、おんじの体はそのひとつひとつに長い長い歴史の記憶を刻み付けている「アカシックレコード」だと告げられ、一葉の正体の前にまずはこの鎮守の森の成り立ちについて説明が必要だと語りだす。
おんじは氷河期を生き残った数少ない封印木であり、その後の長い歴史の中で生き残った最後の一本だという。
そんなおんじの前に若き日の竜王が現れ、おんじの根を切り五神山を作ったのだ。そしておんじによって浮島をつくった竜王は、そこに竜王の思う良きものを雌雄一対集め国を作ったという。
だがおんじはあくまで生き物であるため、根を切られたことで死に始めてしまった。そんなおんじを生き返らせるためにさらに利用されたのが帝江である。
帝江は本来死体や死臭などの陰気が集まる場所に生まれるものであり、自然の還元力が生むものである。人や神獣の死体を喰って生まれ、死にかけたものに生命を与える死地の花が帝江だ。
そんな帝江を都合よくこの地に生ませるために、竜王は国中の死体が流砂によって流れ着く仕掛けをつくったのだ。
そして何の因果か本来なら死体しかたどり着くことができないその場所で、死した母の胎内でまだ生きていた赤子が産声をあげたのだ。
それが、一葉である。
一葉が産声を上げた時、まさにその場では新たな帝江が生まれていた。そして、生まれたばかりで死にかけていた一葉に帝江が生命を与えたのだ。
本来ならありえないはずの赤子と帝江の同化を目にした白豪だったが、帝江が意思を持つことを選び望んだのだと察し、静かに一葉を抱き上げるのだった。

最初の仲間と新しい仲間

帝江やこの国の秘密を知った一葉たちは、竜王と主従契約を結んでいる藍采和から話を聞くこととなる。
鎮魂歌で舞を踊り銭を得ていた戦争孤児である藍采和は、その舞の腕前を認められて外国からこの国に召し上げられ、何年もかけて八仙から教育を受けることで神仙となった。
そして竜王から己を潔斎し主となってくれと告げられたという。竜王曰く「自身と契約することで竜の主になれば、比企を潔斎して救うことも可能かもしれない」のだという。
生まれてすぐに母を食らってしまった息子を救ってくれと頼む竜王に応え、藍采和は三日三晩踊り続けて潔斎を成功させるのであった。
正気を取り戻した比企は一時的には落ちついたが、時間が経つにつれてその力は成長していき、とうとう再び暴走してしまったのを比企の姉である「智奮(ちふ)」が命がけで止めたという。
だが、その暴走で多くの人が犠牲になってしまったため、竜王は比企を柱に封じ人柱にしたのだ。しかしその後渾沌の手により比企は柱から引きはがされ、ともに智奮も外国へ消えたという。
そしてその話を聞いていた孫登は「竜王が国土に四凶を封じたのも、帝江生産のための布石だったのだろう」と告げる。
つまり崩落する国を支える支柱の芯として封じられたわけではなく、封印木の森をさらに巨大な陰陽の地にするための帝江の苗床にするために封じられたのだ。

そうして事実を知り宮に帰ってきた一葉は、ひとり比企のもとを訪れていた。
その境遇を知ってしまったことを伝え、この待遇に納得しているのかと問う一葉に「こんな化け物なのに死ぬのが怖いのだ」と答える比企。
仕方がないのだとあきらめて受け入れている様子の比企に、一葉は「自分は納得できない。お前をここから連れ出してやる」と叫びその力をふるうのだった。
突然比企の潔斎が解けたため、渾沌の襲撃かと藍采和たちは比企のもとへと駆けつける。だがそこにいたのはもふもふとした毛玉のようになった比企と、禁術により腕の刺青の浸食が広がった一葉が倒れている姿であった。
比企に吸われるエネルギーが多く目が覚めない状態が続いている一葉に、峰龍井はエネルギーを接種できない一葉の代わりに比企が食事をすればいいのではないかと提案する。
すると隔離されていたはずの滇紅が突然現れて「もっと燃費のよい姿になれるだろう」と怒り、それに応えた比企が子供の姿へと変化した。そして、用意された食事をとるようにと比企をひっぱたき、滇紅も食事を開始する。

一時の安寧を得る一葉たちであったが、その裏では姿を消したはずの金雀が流の前に突然現れ「流たちは好きだから助けてあげる。この国はなくなっちゃう」と不穏な言葉を残していたのだった。

西王母誘拐と悪夢の始まり

白珠龍の朝の日課だと言う前西王母の霊廟への参拝に付き添うことにした一葉だったが、その場に突然謎の男が現れ一葉たちに襲い掛かる。
応戦する一葉たちを圧倒する男。峰龍井はその正体が西王母殺しの「蚩尤(しゆう)」であると気付くが、みなの奮闘もむなしく白珠龍は流とともに蚩尤に連れ去られてしまうのだった。
白珠龍が連れ去られたことを矢之王越しに察知し暴れていた山烏は、担当医をしていた八仙「韓湘子(かんしょうし)」に連れられて一葉たちのもとへと現れる。
そして外国にでることを禁止されている一葉は山烏とともに、八仙の一人「呂洞賓(りょどうひん)」にその渡航の許可を求めることになる。

一方、連れ去られた白珠龍は角を奪われ弱り切ってしまった流を連れ、所持していた獣笛を使い閉じ込められていた部屋から逃げ出していた。
そして夜の街中を逃走しているところを、たまたま密航していた武夷に助けられていたのだった。
同時に、渾沌討伐のために外国に赴いていた孫登は、蚩尤の部下である夸父(こほ)と相柳の二人と対峙し苛烈な戦闘を繰り広げていた。
その一部始終を監視していた蚩尤は智奮に、前西王母の正体が四凶「窮奇(きゅうき)」であり比企たちは竜王と四凶の子供であるという事実を告げる。
窮奇は母性と狂気の二面性を持つ人面虎身の神獣であり、かつてその母性と狂気を人面と獣身にそれぞれ切り離したのが蚩尤である。
比企も同じように切り離すことができると知り喜色を露わにする智奮に、「切り捨てた方はどうするのか」と聞こえない呟きを残す蚩尤だった。
各々の思惑が渦巻く中、白珠龍は所持していた蚩尤の封印された力の一部を対価に取引を持ち掛け、一時的に蚩尤を味方につけることに成功する。
その取引により蚩尤は嵐を呼んで雷を落とすことで流を救うのだが、その場に渾沌の一人である金雀が現れたことで流はひどく動揺してしまうのだった。

外国に渡る許可を得るために八仙からの試練を受ける一葉たちは、外国に向かった歌士たちは仮初の器であり、その器が死んでも本体はこの国で眠っているために問題がないことを知らされる。そして一葉たちも同じ術を受けて渡航をすることが条件であると告げられるのだった。
だが外国に向かう準備が整ったその時、本当の裏切りものである八仙の一人「張果老(ちょうかろう)」が本性を現した。彼の本当の名は「白蝙(はくへん)」であり渾沌の配下であったのだ。
白蝙の工作により、本来なら死せずに帰ってくるはずの歌士たちはみな死に、同じ術をかけるはずだった一葉の肉体と魂は分割され奪われてしまうのだった。
藍采和たちの奮闘で魂は取り戻すことができたが、その肉体は渾沌の手元へと渡ってしまう。
そして同時に、一葉の肉体と魂が分かれたことで潔斎が解かれ、滇紅が本来の姿と記憶を取り戻してしまった。本来の姿を取り戻した滇紅は自分を呼ぶみなの声を無視し、自分は共工であると告げるのだった。

過去の世界へ

肉体と魂が分割されてしまった一葉だったが、本人の意識は不思議な世界に迷い込んでしまっていた。
かつて滇紅と出会ったかの地に似た場所で、何故か蚩尤たちが封印される前の時代の世界に、本来の帝江の姿のまま迷い込んでしまった一葉。
そこで蚩尤に拾われて連れられた先には、滇紅の姿があり、そして彼が部下たちに「共工」と呼ばれているのを目にしてしまうのだった。
戦い以外の他には何にも興味を持たず、禍つ神であるはずなのに、その言動の節々にいつもの滇紅が垣間見えてしまうことに苦しむ一葉。
とっさに共工のもとを飛び出したことで、期せずしてこの不思議な世界で、過去に起きた真実を目にしていくのだった。

『ハイガクラ』の登場人物・キャラクター

主要人物

一葉(いちよう)

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