魔術士オーフェン(はぐれ旅・無謀編)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『魔術士オーフェン』とは、秋田禎信によるライトノベル。北欧神話に着想を得た近代的な世界観が特徴である。1994年に第1巻が発売され、2003年にいったん完結。その後2011年に新シリーズがスタートした。90年代の富士見ファンタジア文庫を代表する人気作品の1つであり、漫画、アニメ、ゲーム、ラジオなど様々なメディアミックスを果たした。
怪物と化して行方を絶った姉を追うオーフェンは、やがて「自分たちの大陸が神々に狙われている」という事実を知り、仲間たちと共に大陸を守る戦いに巻き込まれていく。

『魔術士オーフェン』の概要

『魔術士オーフェン』とは、秋田禎信によるライトノベル。漫画、アニメ、ゲーム、ラジオなど様々なメディアミックスを果たした、90年代の富士見ファンタジア文庫を代表する人気作品の1つである。
1994年に第1巻が発売され、2003年にいったん完結。その後2011年に新シリーズがスタートした。新シリーズは前シリーズの20年後を舞台としており、登場キャラクターもその分だけ加齢し、新世代の若者たちも主要人物として追加されている。

ジャンルとしてはファンタジー作品だが、「北欧神話風のモチーフを持つ近代的な世界」という独特の世界観が特徴。魔術が存在する世界ではあるが、蒸気機関などの科学文明も発展の兆しを見せており、銃などの火器も登場する。
シリーズは大別してシリアスな長編の『魔術士オーフェンはぐれ旅』と、ドタバタコメディに振り切った短編の『魔術士オーフェン・無謀編』の2つに分けられている。『無謀編』は『はぐれ旅』が始まる直前の時間軸で繰り広げられる物語で、登場人物の一部は両方に登場している。

怪物と化して行方を絶った血のつながらない姉アザリー・ケットシーを追うため、若き天才魔術士キリランシェロ・フィンランディは魔術士の総本山たる牙の塔を飛び出す。その際、「アザリーを見つけるまで、自分は家族のいない存在だ」との意味を込めて、キリランシェロはオーフェン(孤児)と名乗るようになる。
キエサルヒマ大陸各地を旅してついにアザリーを見つけたオーフェンだったが、人としての姿を取り戻した彼女は再び彼の前から姿を消す。

おしかけ家出娘のクリーオウ・エバーラスティンや魔術士としての弟子のマジクと共に旅を続けるオーフェンは、やがて「自分たちの大陸が神々に狙われている」という事実と、アザリーがこれに対抗するために活動していることを知る。アザリーに関わる内に、オーフェンと仲間たちは大陸を守る戦いに巻き込まれていく。

『魔術士オーフェン』のあらすじ・ストーリー

牙の塔の天才少年

右からオーフェン、クリーオウ、マジク。彼らは様々な地域を旅しながら、大陸に迫る危機に立ち向かっていく。

キエサルヒマ大陸の魔術士の総本山たる「牙の塔」には、チャイルドマン教室という施設が存在していた。ここでは、大陸最強の魔術士であるチャイルドマン・パウダーフィールドが選び抜かれた若き秀才たちに魔術と戦い方を教えており、キリランシェロ・フィンランディも彼の生徒の1人だった。
アザリー・ケットシーとレティシャ・マクレディという血のつながらない2人の姉にかわいがられて育ったキリランシェロだったが、ある時アザリーが古代魔術の実験に失敗し、醜悪な怪物へと姿を変えて失踪してしまう。

牙の塔の誰もがアザリーを死んだものとして扱う中、キリランシェロは「彼女はまだ生きている」と主張し、自分の手で助け出すことを決意。「アザリーを見つけるまで、自分は家族のいない存在だ」との意味を込めてオーフェン(孤児)と名乗るようになり、牙の塔を出奔する。
魔術士としては天才だったオーフェンだが、それだけで世間を渡っていくのは難しく、彼は次第にひねくられた性格になっていく。牙の塔を出て5年後、20歳になった頃には、オーフェンは金貸しを生業とするチンピラ同然の人間となっていた。

アザリーとの再会

商業都市トトカンタで、借金を返すためと説得されて結婚詐欺に加担したオーフェンは、そこでアザリーと再会する。詐欺の相手に選んだエバーラスティン家は豪商で、様々な古い美術品を集めており、その中にアザリーを元の姿に戻せる魔法の道具があったのである。アザリーはこれを狙って行動しており、いったんは撤退するものの再び現れることが予想された。
エバーラスティンの令嬢であるクリーオウ・エバーラスティン、自身の新たな弟子となったマジク・リンに興味本位で首を突っ込まれつつ、オーフェンは「アザリーを連れ戻すチャンスだ」と奮起する。一方、「アザリーは死んだ」とする牙の塔は怪物化した彼女をそのまま葬り去ることを決定し、そのための実行役としてチャイルドマンがトトカンタに派遣される。

チャイルドマンが殺すより早くアザリーを助けようとするオーフェンだったが、魔術士として自分の遥か上を行く相手を出し抜けず、アザリーは地に倒れる。しかしそれは「アザリーを救うためにより効率的に立ち回っていたが、そのアザリーの魔術で精神を入れ替えられて怪物の体に入れられてしまったチャイルドマン」であり、本物のアザリーはトトカンタに来る前にチャイルドマンの体を奪っていたのだった。
アザリーが「オーフェン以上に必死に彼女を救おうとしていたチャイルドマンを騙し討ちにして殺した」ことに失望したオーフェンは、しかし家族として慕った彼女を師の仇として憎むことも殺すこともできず、エバーラスティン家の魔法の道具で元のアザリーの姿に戻した上で「自分の前に2度と現れないでほしい」と告げてトトカンタを去る。これに弟子のマジクも同行するが、クリーオウまでもが「なんかおもしろそう」というだけで押しかけ、オーフェンの新たな旅は賑やかに幕を開けるのだった。

キムラック教会との戦い

「マジクを魔術士として登録して補助金をもらおう」と牙の塔を目指す中、オーフェンは各地で様々な敵に襲われる。アレンハタムの街では、天人というドラゴン種族が残した自動殺戮人形と交戦し、「天人とキムラック協会は人間の魔術士を敵視し、これを全滅させることを目論んでいる」という事実を突きつけられる。
ようやく牙の塔へと辿り着き、レティシャと再会したオーフェンは、この地で再びアザリーと出会う。「2度と現れない」という約束を破った彼女がオーフェンに言い渡したのは、「決着をつけたければ、キムラック教会の聖地であるキムラックに来い」というメッセージだった。

アザリーが何を考えているのか分からず、しかし放っても置けず、オーフェンは次なる目的地にキムラックを選ぶ。人間の魔術士を排除せんとする教会の先兵と戦いながら、キムラックの最深部である聖域に踏み入れたオーフェンが見たものは、死滅したとされる天人の生き残りと、その天人の首を鷲づかみにする超常的な存在の腕だった。
キエサルヒマ大陸に魔術をもたらした6種のドラゴン種族は、その技術を女神から盗み出していた。女神はこれを許さず、ドラゴン種族たちを残さず滅ぼそうと画策。これに対し、ドラゴン種族たちは女神の下から逃げ出し、キエサルヒマ大陸に広大な結界を張って追撃から逃れたのである。それでも女神は諦めることなく結界の隙間を探し続け、ついに捕捉されたのが目の前にいる最後の天人なのだった。驚愕の事実を突きつけられつつ、オーフェンはキムラックを後にする。

大陸を守護する者たち

人間はキエサルヒマ大陸の外部からやってきた種族で、女性しかいない天人たちと交わり、その子孫がオーフェンのような魔術士だった。ドラゴン種族たちは「人間の魔術士は増え過ぎた、大陸の存在を神々に嗅ぎつけられたのは彼らが原因だ」と考えていたのである。しかしこの事態にどう対処するかはドラゴン種族たちによって様々な意見があり、天人たちが積極的に人間の魔術士を滅ぼそうとしていた一方で、ディープ・ドラゴンと呼ばれる種族の子供であるレキは、クリーオウに懐いて彼女に力を貸すようになっていた。
大陸の真実と今もなお迫る危機を知ったオーフェンたちは、否応なくこれに対処しようとする個人や組織と関わるようになっていく。女神に対抗しうる「魔王スウェーデンボリー」にならんとするチャイルドマン教室のコルゴン。コルゴンを後援する領主アルマゲスト・ベティスリーサ。チャイルドマンに匹敵する魔術士にして「王都の魔人」の異名を持つプルートー。ここにアザリーも加わり、大陸を守るための戦いは“誰が主導権を握るのか、その方法は本当に実行力があるのか”で混沌としていく。

天人以外のドラゴン種族の始祖たちが身を隠す、大陸にあるもう1つの聖域を巡って熾烈な戦いが繰り広げられる中、もっとも早くここに辿り着いたのはオーフェンとコルゴンだった。魔王となって大陸を守らんとするコルゴンだったが、効率だけを考えて計画を進めてきた彼は、何度も利用して傷つけてきた妻に土壇場で裏切られて倒れる。
聖域に辿り着いたオーフェンは、ドラゴン種族にも匹敵する力を持つ魔王となる権利を与えられる。彼がここでしたことは大陸を覆う結界を解除することだった。ドラゴン種族が女神に狙われているのはドラゴン種族の都合であり、そのために大陸に生きる者全てが巻き込まれるのは筋が通らないというのがオーフェンの結論だった。オーフェンの意志と決断を見続けたアザリーは、己の全ての力を使って大陸に侵入しようとしていた女神を一時的に押し戻し、そのままいずこかへと姿を消す。

かくして大陸の存在は女神に完全に捕捉される。ドラゴン種族の血を引く魔術士である以上、自分が女神に狙われることも覚悟していたオーフェンは、同じ境遇のマジクや新天地を求める人々と共に船で大陸を脱出。「魔王である自分は真っ先に女神に狙われる可能性が高い、それに巻き込まれる人々は少ない方がいい」というのがその真意だった。
そんな事情とは全く無関係なクリーオウは当然置いていかれそうになるが、「ここまで来てそれはない」とばかり出航直前のオーフェンの下に独力で辿り着く。今さら置いていくこともできず、置いていっても必ずまた追いかけてきそうな彼女に呆れたオーフェンは、やむなくクリーオウも一緒に連れていく。

新たなる世代の躍動

オーフェンたちがキエサルヒマ大陸を後にしてから20年。新たな陸地を見つけ、ここを「原大陸」と名付けたオーフェンは、弟子のマジクや共に旅だった者たちと協力しながらここを開拓していく。自身はクリーオウと結婚して3人の娘を儲け、魔術士学校を運営して生計を立てていた。聖域の件では敵対したコルゴンとも和解し、原大陸に現れる怪物ヴァンパイアたちを相手に戦い続ける中、オーフェンの前にキエサルヒマ大陸からの使者が現れる。
聖域の件では協力関係にあったプルートーと共にやってきたのは、レティシャの息子であるマヨール・マクレディだった。オーフェンが魔王となったことは、キエサルヒマ大陸の魔術士の上層部では周知の事実となっており、「オーフェンを殺して新たな魔王を生み出す」という計画が密かに進んでいた。プルートーは、かつての縁でこれを忠告するためにオーフェンに会いに来たのだった。

まだ若いマヨールはそういった謀略には無縁で、プルートの護衛兼「母がたびたび口にする叔父のオーフェンがどんな人なのか見てみたい」というだけで海を渡っていた。魔王と女神、キエサルヒマ大陸と原大陸、オーフェン暗殺計画などの裏の事情を知ったマヨールは、「大陸の全ての命のために戦ったオーフェンを殺すなんて話は納得できない」と判断し、オーフェンに味方するようになる。

『魔術士オーフェン』の登場人物・キャラクター

主要人物

オーフェン/キリランシェロ・フィンランディ

CV:森久保祥太郎/中西裕美子(TV第1シリーズの幼少期)/田澤利依子(TV第2シリーズの幼少期)

主人公。物語開始時点で20歳。本来の名は「キリランシェロ・フィンランディ」だが、作中ではほとんどの場面で「オーフェン」を名乗っている。
牙の塔出身の天才的な黒魔術士。もともとは素直な性格だったが、牙の塔を出て以降の様々な失敗と経験を経て、すっかりチンピラ然とした青年となっている。それでも胸の内には「家族を守りたい」との純真な想いを秘めており、身内を傷つける者には容赦の無い姿を見せる。

師であるチャイルドマンからは暗殺技術を叩き込まれており、魔術戦においても格闘戦においても無類の強さを誇る。しかし生来優しい気質で、必要と判断した時に相手を痛めつけることには躊躇しない一方、殺人には強い忌避感を持つ。このことから「殺せない暗殺者」と揶揄されることも多い。

クリーオウ・エバーラスティン

CV:飯塚雅弓(TV第1シリーズ)/大久保瑠美(TV第2シリーズ)

本作のヒロイン。商業都市トトカンタの豪商エバーラスティン家の次女で、物語開始時点で17歳。姉相手に結婚詐欺を働こうとしたオーフェンに好奇心を抱き、「おもしろそう」というだけで彼の旅に加わる。
自由奔放を絵に描いたような少女で、勢い任せに動いては状況を悪化させたり、逆に追い詰められたオーフェンたちを救うこともあった。旅の中でオーフェンの孤独と家族に向ける強い愛情を理解し、置いていかれても自分の力だけで彼を追いかけ、最終的にその妻となる。

マジク・リン

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