琥珀の夢で酔いましょう(漫画)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『琥珀の夢で酔いましょう』とは、原作・村野 真朱、作画・依田 温、グルメ漫画研究家・杉村 啓の監修によって2018年11月号より『月刊コミックガーデン』にて連載しているグルメ漫画である。ビールが苦手な主人公・剣崎 七菜は居酒屋で知ったクラフトビールに夢中になり、飲み仲間たちと共にビールを楽しみながら、仕事や趣味に奔走するストーリー。作中では多くのビールや醸造所が紹介されている。またビールを楽しむ描写以外に、飲酒へのネガティブな意見にも注目しており、お酒が飲めない人への理解や配慮にも努めている。

『琥珀の夢で酔いましょう』の概要

『琥珀の夢で酔いましょう』とは、原作・村野 真朱、作画・依田 温、グルメ漫画研究家・杉村 啓の監修によって2018年11月号より『月刊コミックガーデン』にて連載しているグルメ漫画である。
通称「こは酔い」と呼ばれ、2021年8月には「次にくるマンガ大賞2021」コミックス部門20位を受賞している。

京都の広告会社に勤める派遣社員の剣崎 七菜(けんざき なな)は、周りからのプレッシャーや嫌味によって仕事でストレスを感じる毎日を送っていた。ある日の仕事終わり、彼女は偶然入った居酒屋白熊(しろくま)でクラフトビールと出会う。そして七菜は店主の野波 隆一(のなみ りゅういち)と、同じく客のカメラマンの芦刈 鉄雄(あしかり てつお)と意気投合し、ともにビールを楽しんでいくストーリーである。

『琥珀の夢に酔いましょう』ではたくさんのビールや醸造所が紹介されており、漫画ファンやビールファンだけではなくビール業界からも注目されている漫画である。作中では有名なクラフトビールはもちろんのこと、ラードラー、クリーム・エール、フルーツビールなどのインパクトのあるビールが登場する。また苦味の少なく飲みやすいビールも多く紹介しており、読者が「ビールを飲んでみようかな」と興味をもちやすい内容となっている。またビールの紹介と共にクラフトビールの文化やコミュニティの広がりも同時に描かれており、醸造所などビールの造り手側にフォーカスした話も多い。
『琥珀の夢に酔いましょう』にはビールが好きなキャラクターだけではなく、ビールが苦手、お酒を飲むこと自体が嫌いといった飲酒に対してネガティブな考えを持つキャラクターも登場する。本作では「お酒=楽しい」というイメージだけでなく、お酒に対してのネガティブなイメージも隠さず描かれているのが特徴である。飲酒を嫌悪するキャラクターのネガティブな意見を否定せず描くことで、読者に「飲酒には楽しい気持ちが生まれるだけではない」ということを再認識させ、作品を通して現代社会の中でのお酒の場のあり方を考えさせる内容となっている。
作中ではビールを通して、キャラクターの個性・お酒への想い・日常の葛藤がそれぞれ描かれており、その等身大な人間らしさがキャラクターの魅力となっている。そんなキャラクターたちがクラフトビールという一つ一つ特徴が違ったビールを共に味わい、違いを共有することで、ビールや人間の多面性を表現した奥行きあるストーリーとなっている。

『琥珀の夢で酔いましょう』のあらすじ・ストーリー

クラフトビールとの出会い

広告代理店に勤務する派遣社員の剣崎 七菜(けんざき なな)は、他社員からの陰口にストレスを感じる毎日を送っていた。彼女が仕事で何度も成果を出していることで、他の社員から「派遣社員のくせに」「でしゃばりすぎ」などやっかまれ陰口をたたかれていたのだ。

そんな七菜のストレス解消法はお酒を飲むこと。
仕事後、七菜はお酒を飲むためいつもの行きつけの居酒屋に行くも満席で入れない。「仕方ない」と彼女が周りを見渡すと、「創作料理 白熊(しろくま)」と書かれた看板を見つける。七菜は薄暗い路地を進み店の扉を開けると、店内には店主の野波 隆一(のなみ りゅういち)と客の芦刈 鉄雄(あしかり てつお)の2人のみで、店内はガランとしていた。
繁盛してない様子の店内に不安になる七菜に、店主の隆一から「本日のメニューは“クラフトビールとおばんざいセット"のみ」と伝えられる。「メニューがビールだけ?」とさらに不安になる七菜は、実はビールに悪い印象を持っていた。彼女の中でビールは仕事の付き合いというイメージが強く、味ではなく喉越しだけを感じるためだけの飲み物という苦手意識があったのだ。
ビールを嫌悪する様子の七菜に、隆一はクラフトビールを差し出し勧める。七菜はおそるおそるクラフトビールを飲んでみると、すっきりした味わいと果物のような香りでとても飲みやすく、これまでのビールの概念を一新させられる味だった。七菜は初めて飲むクラフトビールに感動する。さらにクラフトビールとおばんざいを共に食べることで味や雰囲気が変わることも発見し、七菜は隆一と鉄雄とともにいつの間にかビールを楽しんでいた。
隆一が提供したクラフトビールは、醸造所の造り手によって「うまいビールを作りたい!」という一心で丹念に作られた商品だという七菜は「自分の広告の仕事は、このビールと同じように一瞬にして人に夢を与えることを目指していた」ということを思い出す。自分が広告の仕事を続けていた理由を思い出した七菜は、仕事での嫌な気分を忘れて明日からの仕事へのモチベーションが上げることができた。

初対面ながらも打ち解けて共にビールを楽しむ七菜と鉄雄。そんな2人に隆一は「うちの店のアドバイザーになってくれ」と頼む。最近開店したもののお店の客入りが良くなく、宣伝業務に長けている七菜とフリーカメラマンの鉄雄の2人の力を借りて、この店を宣伝したいというのだ。
2人はこの店がすでに気に入っていたためその頼みを引き受け、居酒屋白熊を居心地の良い店にし、店にもっとお客さんを呼び込むべく力を合わせることにしたのだった。

まだ見ぬクラフトビールを求めて

居酒屋白熊に客を呼び込むべく「白熊をなんとかする会」を結成した3人。
相変わらずお客さんがさっぱり来ない店内で作戦会議を始めると、七菜はまず「居酒屋白熊をクラフトビール専門店にした方が良い」と提案する。大手チェーン店に対抗するため、個人の飲食店として店の特徴を付けたほうがいいと考えたのだ。
七菜は持ち込んだお気に入りのクラフトビールを2人に振る舞う。彼女は自らクラフトビールを研究して種類・作り方の豊富さを知り、クラフトビールなら隆一の和洋折衷な創作料理に合わせられると考えたのだ。
さっそく隆一の料理と様々な種類のクラフトビールを組み合わせて楽しんだ3人は、「これならいける」と七菜の案に納得する。隆一は居酒屋白熊をクラフトビール専門店とすることに決め、新しく再出発することにした。外の看板を「クラフトビールとおばんざい 白熊」に変え営業すると、もの珍しさに客が数組来店し、客足は少し回復したのだった。

「経営方針が決まった次は、市場調査だ」と、3人は京都で開催される地ビール祭に新しいクラフトビールを探しに行くことにした。
待ちに待った地ビール祭、あいにくの雨天だがイベント会場はたくさんの人でにぎわっていた。イベントには各地の醸造所やビールブランドが集まり、種類が多く目移りするほどのビールが販売されていた。
七菜・鉄雄・隆一は共に会場へ向かうも、人混みの多さにはぐれてしまう。しかし各自で気になるビールを見つけてそれぞれ楽しむことにした。
隆一は気になるクラフトビールを購入し、持参した自分の手料理と合わせて楽しむため、フリー飲食スペースの一角に料理を広げる。すると隆一の料理に興味を持った人が集まり、隆一が「自分はクラフトビール専門店をやっている」と宣伝をすると、ビール好きが集まるイベントだけあって皆興味津々で盛り上がる。
そこへ鉄雄と七菜もやってきて、皆それぞれ購入したクラフトビールを楽しむ。お店の宣伝もでき、皆でビールを楽しめた良い一日となった。

ペアリング作戦開始

とある夜、いつものように七菜と鉄雄が居酒屋白熊へ到着すると、看板には“臨時休業”の文字が書かれていた。店内の明かりがついていたためそっと中を覗いてみると、緊張して落ち着かない様子の隆一が1人で待っていた。
なんと今日は居酒屋白熊に雑誌の取材があるというのだ。取材にはモデルで有名なMAKOTO(まこと)と、人気の料理評論家であるグリフ・ハーヴェイが来店するという。顔色が悪く不安そうにする隆一のため、七菜と鉄雄は店内で取材を見守ることにした。

そしてついに取材担当者とともにMAKOTOとグリフが来店する。挨拶もすませてさっそく取材が始まるが、テンションが高く不自然なほど張り切っている様子の隆一に、七菜と鉄雄は心配になる。
隆一はさっそく料理を出すが、いつもの素朴な彼の料理とは違い、高価な食材を使った派手な見た目の料理を提供する。彼は取材に張り切りすぎたことで、料理をいつも以上によく見せようとしてしまったのだ。MAKOTOはクラフトビール・おしゃれな料理・京都の町屋にある店という組み合わせに大満足してくれるが、一方グリフはこの料理が取材用に作られたいつもとは違うものだということを見抜き、料理を冷静に酷評する。隆一は見栄を張って作った料理を見透かされショックを受け、店内は重苦しい雰囲気になる。
このままではダメだと思った隆一は、退店しようとするグリフを引き留め「もう一度料理を提供させてくれ」と頼み、あらためて3品の料理とクラフトビールを組み合わせて提供する。今度の料理はいつも七菜や鉄雄に提供しているような、彼らしいシンプルで素材の味が光るおばんざいだった。ビールとおばんざいの組み合わせを楽しめたグリフは隆一の料理を認め直し、取材はひとまず成功したのだった。

数日後、七菜と鉄雄が居酒屋白熊に着くと、店のカウンターにはたくさんの種類の大量のおばんざいが並んでいた。隆一は先の取材によって自分の料理を見直し「あらためてお客様にもっと喜んでもらえる店にしたいと思った」という。
そこで3人は居酒屋白熊の新しい企画として、隆一の料理が生かせる、クラフトビールとおばんざいのペアリングを始めることに決めた。さっそく3人は店内のビールを飲みながらずらりと並ぶおばんざいを食べ比べ、客に提供するおすすめのペアリングを考えた。
そした客が複数の組み合わせを楽しめるよう、メニューに生ビール飲み比べセットとおばんざいの3種盛り・5種盛りセットを追加し、ビールと料理のお気に入りの組み合わせを見つけてもらえるようにと考えたのだった。

お城でお疲れ様会

鉄雄にMAKOTOあらため四ノ宮 慎(しのみや まこと)から電話があり、「岡山城でみんなで飲もう!」というお誘いがくる。実は鉄雄と慎は幼馴染で、先の取材の際に再会していたのだ。
岡山城は夜間貸し出しをしており、慎は飲み仲間たちだけで天守閣で飲み会をするという。誘われた七菜・鉄雄・隆一の3人は、当日の夜に岡山城へ向かう。

岡山城の天守閣に集まったメンバーは、慎が主催なだけあっていろいろな職業の人間が集まっていた。
業種関係なく賑やかに輪を広げる場で、それぞれがビールや料理を片手に交流を楽しむ中、七菜は自分が場違いな気がしてソッとその場を離れる。彼女は前日、会社の上司である早乙女 慎吾(さおとめ しんご)に「次回の企画を俺と共に進めるべきだ」と提案され落込んでいた。
彼は七菜の才能を買っており、彼女の企画を推したいがあまり「派遣社員だけで企画しても会議に通らない。部長の俺が企画を出せば通る」と悪気なく言ってきたのだ。その言葉に、七菜はまるで「お前には力がない。1人では何もできない」と言われた気持ちになり、自分の無力さにショックを受けていた。ゆえに今回の飲み会に集まる自立しているような人たちの中に居づらくなってしまったのだ。
七菜が沈んだ気持ちのまま1人でビールを飲んでいると、慎が七菜を探して声をかけてくれる。
慎は以前の取材で会った七菜に好印象を持ち「また会えて嬉しい」と話すが、七菜は「自分は期待に添えるような人間じゃない。派遣社員で安定もしていないし、1人では何もできないと烙印を押されたし」と自信なく答える。
そんな七菜に慎は「自分は2年前まで無職で何も持っていなかった」と打ち明け、「そんな自分を恥じてはいない。自分の好きな人たちと将来楽しいことができたらいいなと考えて、今回も企画した」と話す。自分に劣等感を感じていた七菜は、自分のやりたい事は自分で作るという慎の姿勢に感動し、2人は打ち解けて仲良くなる。
その後2人で会場に戻り周りと打ち解けていくと、中には七菜が担当した広告を認知し褒めてくれる人も現れた。七菜は自らの仕事を評価してくれる人がちゃんといることも気づき、自分に自信を取り戻す。
そして彼女は翌日、上司の早乙女に「派遣の身分では企画が通りにくいのは分かっているが、あなたの力を借りず1人で頑張ります」と自信を持って伝えたのだった。

居酒屋白熊のクラフトビールイベント開催

「白熊をなんとかする会」の七菜・鉄雄・隆一と仲良くなった慎。4人はともにビールを楽しむようになり、その中でそれぞれ自分の仕事で悩んでいることを打ち明ける。
七菜は先日企画会議でやはり企画が通らず、鉄雄は次の大きな撮影が急に無くなり、隆一はビールサーバーを新設置したことにより店が赤字の危機に陥っていた。そして慎は自らの新しい仕事である女優業で、自分の実力に自信が持てないでいた。
皆仕事先で順調にいかないことから、今の自分から一歩を踏み出すべく、4人で何か新しいことにチャレンジしようと相談する。そして4人は、居酒屋白熊でのクラフトビールイベントを実施することにした。
イベントではクラフトビールと料理のペアリングを提供し、初心者の人にもクラフトビールとは何かが分かりやすいよう解説しながら実際に飲んで食べて楽しんでもらう内容だ。
七菜はこのイベントで、各自の仕事の実力が発揮できるよう考えていた。店内に鉄雄が撮影した写真を飾って多くの人に見てもらい、隆一の料理を食べてもらって居酒屋白熊の認知度を上げ、慎には進行役として新しいキャラクターで演技をし女優業を楽しんでもらいたいと考えたのだ。
そして七菜自身も、会議に通らなかったクラフトビールイベントの実現と「クラフトビールの楽しさをみんなに伝えたい」という思いを叶えるべく、イベントの準備を進めるのだった。
イベントにはたくさんの人が協力してくれた。皆が知り合いやツテに声をかけて、イベントに協力してくれる仲間を集め準備を整えた。そしてついに居酒屋白熊で開催する初のクラフトビールイベントとなる「十月はたそがれのビール」、通称“たそビール”が開催となった。

「十月はたそがれのビール」開催日当日。
内気な女子大生、三宅 杏(みやけ あん)は、友達の滋賀 宇美(しが うみ)に誘われたこのイベントに1人で来店していた。イベントに誘った当の本人である宇美は、急な用事で来れなくなったのだ。杏は余ったチケットを店の前でイベントに興味がありそうな男性に譲る。その男性は偶然にも七菜の上司である早乙女で、杏は早乙女と2人で店内へと入る。
チケットが完売したおかげで居酒屋白熊の店内は満席だった。
イベントが始まると店内が薄暗くなり、壁に設置されたスクリーンに映像が流れる。そこには仮面をかぶった謎の人物ネオが、手元の機械で感動エネルギーを集め、居酒屋白熊に入ってくる姿が映し出される。そして店内の電気が付いた瞬間、入り口の扉からネオ本人が登場する。
ネオは自分のことを未来人だと紹介し、「自分の目的はクラフトビールという文化の感動エネルギーを集めること」と説明する。そして彼は店内を周り、会場の客にクラフトビールのイメージを尋ねて周る。
好印象な意見が多い中、ネオから問いかけられた杏は「実はビールの味が苦手。私でも美味しいと感じるビールはありますか?」と尋ね返す。実は杏はビールに対して“サークル飲み会で無理やり飲まされる苦いお酒”という苦手意識を持っており、友達の宇美に強引に誘われたから来ただけで、この店に集まったビール好きに囲まれていることに居心地の悪さを感じていたのだ。
それを聞いてネオは「ビールの苦味は誰かによっての旨味。ビールが美味しいかどうかは味覚の個人差だから、ビールの味が豊かならば、君にとって心地よい味にいつか巡り会うかもしれない」と答え、ビールの苦味が少なく香りが豊かなクラフトビールを杏に勧める。
杏は勧められたビールを思い切ってひと口飲むと、美味しく感じることに驚き感動の声を上げる。杏の反応に店内の客も興味を持ち始め、そのタイミングで隆一が杏と同じビールと特製の料理を各テーブルに届け、客はビールの美味しさと料理のペアリングにも感動する。
その後店内映像にてクラフトビールの紹介する映像を流しながら、一つずつ特徴の違ったクラフトビールが客に提供される。色も香りも違うクラフトビール、ペアリングとして提供した隆一の料理に客は終始満足そうだ。
杏にチケットをもらって入店した早乙女も、クラフトビールの多様さに感心し、自分の中でビールの固定概念が外れたことを感じる。
そしてビールが苦手だった杏は、自分の好きな味のビールがあること、お酒とご飯と一緒に食べるとおいしいことを知った感動から、「今はビールについてもっと知りたいなって思います」と笑顔を見せる。
実は白熊をなんとかする会のメンバーは、杏と同じようにお酒に対して苦い思い出があった。
七菜は1人飲みの最中に高圧的な男性に絡まれたこと、鉄雄は海外で飲酒時に現地の人に飲んでいるお酒の銘柄でからかわれたこと、隆一は店で酔っ払いに絡まれたこと。イベント企画をした時、七菜は「苦しみや不安を抱えてちゃ楽しめない」と皆が楽しめるクラフトビールイベントをと徹底したのだ。杏の沈んだ顔が笑顔になったこと、そんな顔を見てメンバーはこのイベントをやってよかったと胸を撫で下ろした。

ビールを飲み、隆一の作った料理を食べ、イベントは大盛況。SNSも賑わっており動画の視聴者数も伸びていたところで、ネオが静かに語り出す。
「自分がいる未来では文化が規制されており、ビールという素晴らしい文化も廃れてしまった。ビールにはいろんな味があり、ビールの多様性を知ってもらえたと思う。君たちが今この素晴らしいビールを気軽に楽しみつづけるためにも、君たち一人一人の手でビール文化を切り開いて欲しい」と語る。
ネオが別れの挨拶と共に帽子と仮面を取り払うと、ネオを演じていた慎の素顔が現れる。男性役を慎が演じていたネタバラシで会場は大いに沸き、盛り上がったクラフトビールのイベントの幕は無事閉まったのだった。

新しい仲間と次の挑戦

居酒屋白熊でのクラフトビールイベントは大盛況で終わった。店への集客効果もばっちりで、イベント後店内は連日満席になるほどの盛況ぶりだ。
メンバーそれぞれにも収穫があり、隆一は以前酷評されたグリフを招待し彼から再度料理を認めてもらい、鉄雄も次の仕事へのツテを手に入れ、慎も今後の自分のやりたい演技を見つけることができた。七菜は大きなイベントが無事終わったことにほっとする。

数日後、七菜の会社での企画会議で、桂木 修道(かつらぎ なおみち)からクラフトビールイベントの企画提案がある。彼はSNSで居酒屋白熊のクラフトビールイベントを知り企画を考えたのだという。
企画は多数の賛成があり、新しいイベントとして進めることになった。しかしイベント企画の張本人である桂木は、クラフトビールを特別好きと言うわけでもなく飲んだこともないと言う。
そこで部長の早乙女は、企画会議に参加していた七菜に「この企画どう思う?」と問う。「また剣崎か」と言わんばかりの周りの視線に七菜は萎縮するも、早乙女が「実は自分は件のクラフトビールイベントに訪れており、面白かったしクラフトビールに興味が湧いた。前に彼女のクラフトビールイベントを企画し、企画が通らなかったことを知っておりもったいないことしたなと思った。この中で1番ビールのことを知っているのは剣崎かなと思って聞いてみた」と周りに言う。その言葉通り、前回七菜が立案した企画は派遣社員という立場ということから企画会議にすら出せなかったのだ。
早乙女の助け舟もあり、七菜は「クラフトビールというテーマなら、地域振興にからめたスタンプラリー形式のクラフトビールイベントはどうか」と提案する。さらにクラフトビールと食事のペアリングを提案し「地域の飲食店に持ち帰り限定メニューを用意してもらい、各店舗とクラフトビールの組み合わせを自由に楽しんでもらう。クラフトビールを取り扱っているお店を中心に洋食、和食、スイーツ店などを含め、いろんな飲食店を取り込める。またSNSでタグを作って参加者の自分だけのペアリングを投稿してもらうなど、地域も参加者も楽しい企画になるんじゃないか」と発言する。
彼女の意見にみんな面白そうだと賛同し、桂木が主体、七菜がサポート役ということでクラフトビールイベント企画を進めることになった。

企画が通った嬉しさと同時に、七菜はモヤモヤを感じていた。以前自分がクラフトビールの企画を提案したときあっさり落とされたのに、正社員の男性の提案というだけで周りがすんなり賛成する、そして管理職の男性の説得があって初めて意見が聞いてもらえるという状況に腹が立ったのだ。
その一連を居酒屋白熊でいつものメンバーに愚痴ると、隆一は「その社員さんうちの店連れてきたらどう?」と提案する。クラフトビールとスイーツの新しい組み合わせを考えるべく、店内でペアリングの勉強会をしようということになった。

七菜がさっそく桂木をペアリング勉強会に誘い居酒屋白熊に到着すると、店主の隆一、鉄雄、新しく入ったバイトの柳 知恵(ゆ じえ)、そして七菜のピンチを助けるべく現れた慎が集まっていた。
勉強会は題して「スイーツ ペアリング会in白熊」としてスタートした。
今回の狙いはクラフトビールとスイーツの新しい組み合わせを見つけること。ご飯はもちろんスイーツとのペアリングが提案できればいろんなお店を企画に誘致できるということで、各自がそれぞれの組み合わせを楽しんでいく。
桂木は初めて飲むクラフトビールや、スイーツとのペアリングに「魔法みたいだ」と感動する。
ビールを楽しんでいる様子の桂木を見て、七菜は「ビールとのペアリングは人によって感じ方が違うことが楽しい。私がスタンプラリー企画でペアリング作りを提案したのは、飲む時間を楽しんでもらいたいと言う気持ちから。これが合う合わないを自由に楽しく遊んでもらえたら」と伝える。
すると桂木が急に泣き出す。彼は実はずっとお酒を飲むのが怖かったのだという。
桂木は昔、大学の男友達に「女友達を紹介してくれ」とプレッシャーをかけられ飲み会をセッティングした。しかし飲み会に遅れて到着すると、紹介した女友達が無理な飲酒で酔わされ意識を失っていた。桂木は無我夢中で女友達助け出し帰宅させたが、女友達を囲むようにしてニヤついていた男友達に、彼自身もその後無理矢理お酒を何杯もも飲まされ記憶がなくなってしまった最悪な体験をしていたのだ。
桂木はその経験から飲酒自体がトラウマとなり、お酒を見るだけで気持ち悪くなるようになってしまったという。しかし彼は先日のクラフトビールイベントをSNSで見つけ「こんなに楽しくお酒を飲めるならもう一度飲んでみたい」と思って企画を出したのだった。
桂木は「企画したくせに自分1人じゃビールを飲む勇気が出なかったが、今日数年ぶりに飲んで美味しかったし感動した」と涙をこぼしながら皆に礼を言う。
メンバーは過去の桂木の辛い経験に胸を痛め、「飲みたくなったらまた私たちと一緒に飲もう!」と誘う。そして一緒に全員が楽しむためのスタンプラリー企画を成功させようと全員で誓ったのだった。

クラフトビール文化を創る

クラフトビールイベント企画を通して、七菜と桂木あらため修道(なおみち)は会社でよく話すようになる。相変わらず陰口を叩く人や2人の仲を勘繰る人もいるが、七菜も修道も気にせず、嫌な人には付き合わないと割り切ることにした。
七菜と修道は、クラフトビールのスタンプラリーイベントの企画で、まずグッズ展開を考えた。「グッズを作ることで愛着を持ってもらえるしイベントも盛り上がるだろう」と思ったのだが、肝心のグッズを何を作ればいいかなかなか決められない。そこで2人は他の人の意見を聞くべく、隆一と鉄雄の2人にも相談することにした。

居酒屋白熊に集まって作戦会議をすることになり、当日皆でビールを楽しみながら、そのクラフトビールを出している醸造所が出しているグッズを研究し参考にすることにした。そこで各地の醸造所から商品を持ち運びできるエコバック、ビールを定量変えて冷たく持ち運べるタンブラーなどたくさんの種類豊富なグッズが販売されていることを知る。皆がいろんな意見を出し合った結果、「スタンプラリーイベントのグッズはグラウラーにしよう」という意見でまとまる。普段遣いしやすく外でも使いやすい、SNSにも載せたがるアイテムだと考えたからだ。
クラフトビールをグラウラーに入れて持って帰ってもらうことで、家でグラスに入れて気軽に料理と一緒に楽しんでもらうことができ、クラフトビール文化になじみができるかもと考えたのだ。また今回は地域イベントとして、地元に根付いた地域の特色が強いビールを広め「現地で飲みたい!」というファンを増やし、観光も盛り上げたいという意見でまとまった。
さくさく決まっていく企画内容に、七菜はイベント内容の相談にのって手伝ってくれる隆一と鉄雄の2人を心強く思う。感謝する七菜に、隆一は「七菜ちゃんのおかげで今の居酒屋白熊がある。クラフトビールが好きな君の気持ちや勢いで、みんなと一緒にこの先もどんどん進んでいこう」と力強く応援してくれる。七菜はこのスタンプラリーイベントを通して、クラフトビールという文化を盛り上げて、文化もビールも楽しんでもらうそういうイベントにしようと決意する。

『琥珀の夢で酔いましょう』の登場人物・キャラクター

主要人物

剣崎 七菜(けんざき なな)

広告会社勤務の派遣社員。
はっきりと意思表示でき、チャレンジ精神が大きい活発な性格。「白熊をなんとかする会」で宣伝、イベント企画を担当している。
ビールは会社の付き合いで飲むお酒、というイメージが強く苦手に思っていたが、クラフトビールを知りビールが大好きになった。
モデルのMAKOTOの大ファン。

芦刈 鉄雄(あしかり てつお)

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