これ描いて死ね(これ死ね)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『これ描いて死ね』とは、漫画を愛し、漫画に憧れ、漫画の世界に踏み込んでいく離島の女子高生の姿を描いた、とよ田みのるの漫画作品。
伊豆王島で暮らす安海相は、漫画をこよなく愛する高校生。敬愛する☆野0が10年ぶりに未公開作品を発表すると聞いた相は、都心で開催される同人誌即売会に参加する。そこで彼女は、☆野の正体が自分の学校の教師の手島零であること、漫画は自分でだって描けることを知る。仲間を集めて漫画同好会を作り、手島を説得して顧問になってもらうと、相は作る側の立場で漫画の世界に飛び込んでいく。

『これ描いて死ね』の概要

『これ描いて死ね』とは、漫画を愛し、漫画に憧れ、漫画の世界に踏み込んでいく離島の女子高生の姿を描いた、とよ田みのるの漫画作品。
漫画への情熱を胸に進む少女と、かつて漫画家として活動していたからこそその厳しさを知る先達の交流がベテラン作家ならではの丁寧な筆致で描かれ、「日本の漫画家・漫画界」がどのようなものなのかが明快に理解できる作品となっている。2023年にはマンガ大賞を受賞し、その物語としての高いクオリティが改めて注目されることとなった。

伊豆王島で暮らす安海相(ヤスミ アイ)は、漫画をこよなく愛する高校生。通っている学校の教師である手島零(テシマ レイ)からは、「漫画に描かれていることは全て嘘だ、人生の役に立つことなど何もない。高校生にもなってそんなものにいつまでもうつつを抜かすな」とたびたび叱責されていたが、その都度「漫画は嘘じゃない」と言い張っていた。
ある時、敬愛する☆野0(ホシノ レイ)が10年ぶりに未公開作品を発表すると聞いた相は、都心で開催される同人誌即売会コミティアに参加する。そこで彼女は、☆野の正体が手島であること、「漫画は自分でだって描ける」ことを知る。友人の赤福幸(アカフク サチ)、美術部の藤森心(フジモリ ココロ)たちと共に漫画同好会を立ち上げ、手島を説得して顧問になってもらうと、相は“作る側の立場”で漫画の世界に飛び込んでいく。

『これ描いて死ね』のあらすじ・ストーリー

漫画への愛と初めての創作

伊豆王島で暮らす安海相(ヤスミ アイ)は、漫画をこよなく愛する高校生。島にある寺村貸本屋にある漫画はもう全て読み終えてしまい、中でも特に☆野0(ホシノ レイ)という今はもう活動していない漫画家の描いた「ロボ太とポコ太」という作品を熱愛していた。通っている学校の教師である手島零(テシマ レイ)からは「漫画に描かれていることは全て嘘だ、人生の役に立つことなど何もない。高校生にもなってそんなものにいつまでもうつつを抜かすな」とたびたび叱責されていたが、相はその都度「漫画は嘘じゃない」と言い張っていた。
ある時、☆野が同人誌即売会コミティアで10年ぶりに未公開作品を発表すると聞いた相は、都心で開催されるこのイベントに参加する。そこで彼女は、☆野の正体が手島であること、「漫画は自分でだって描ける」ことを知る。憧れの漫画家が身近にいたことに感激した相は、手島に「漫画の描き方を教えてほしい」と頼み込むが、あっさりと断られる。

諦め切れない相は、島に戻ってから友人の赤福幸(アカフク サチ)に相談し、「漫画研究会(漫研)を立ち上げ、手島にその顧問になってもらう」という計画を思いつく。2人で正式に頼み込み、幸から「公務員が副業(同人誌の販売)をしてもいいのか」と指摘された手島は、「実績の無い人間が何を言っても意味が無い、1週間で漫画を1本仕上げてみせろ」との条件を出す。
手島は「こう言えば諦めるだろう」との想いからこの条件を提示し、なお2人が副業の件で脅してくるなら辞表を出して島を去るつもりでいた。しかし相は1週間でノート1冊分の漫画を描き上げ、手島を驚かせる。それは稚拙で、いいところを探す方が難しいような代物ではあったが、“漫画が大好きだ”という想いに溢れた作品だった。相が自分の出した条件を達成したこと、漫画への本物の情熱を抱く少女であることを知った手島は、漫画同好会の顧問を引き受ける。

漫画同好会と新たな仲間

新たな部の設立には3人の部員を集めなければならず、相と幸は誰かもう1人同好会に入ってくれる生徒はいないかと学校中を探し回る。この際、相は手島にも見せた自作の漫画を説明を兼ねて見せて回るが、生徒たちの反応は芳しくないものだった。自分の漫画はおもしろくないのかと意気消沈する相だったが、手島は「あなたの漫画に技巧は無いが、情熱がある。それが伝わる読者も必ずいる」と彼女を励ます。
果たして手島の言葉通り、美術部の藤森心(フジモリ ココロ)という少女が相と幸の前に現れ、「自分も漫画同好会に入れてほしい」と言い出す。これで部の設立に必要な人数をそろえた相たちは、手島が掛け合って確保してくれた貸本屋の空きスペースを部室代わりにして、本格的な活動を開始する。この際、手島は「学業を第一とすること」、「プロになるなど言い出さないこと」、「趣味の範囲で楽しむこと」、そして「これ描いて死ねなどと漫画に命を懸けたりしないこと」を相たちに約束させる。

相がネタと下描きを作り、心がそれを仕上げ、幸が批評する。漫画同好会の活動はそんな形で始まり、3人は漫画作りをそれぞれに楽しんでいく。そんな折、学校に新しくやってきた転校生の石龍光(セキリュウ ヒカル)と擦れ違った相は、彼女が以前コミティアで出会った有名サークルの同人作家であることに気付く。
相は光を漫画同好会に誘うも断られ、一方で相手から「夏のコミティアに参加するつもりはないのか」と尋ねられる。自分にはまだ早いのではないかと悩む相だったが、今の自分の漫画が同人誌即売会という場所でどう評価されるのか知りたいとの想いを膨らませていく。

初めてのイベント出展

コミティアへの参加について手島に相談すると、彼女は「イベントまでに本を作る」、「学力を落とさない」、「イベントのために外泊することについて親から許可を取る」の3つの条件を出す。旅館の娘である心が親の説得に苦慮し、漫画のことばかり考えていたために成績劣悪だった光の勉強にみんなで付き合い、相たちはなんとかこの条件をクリアする。
部の仲間たちの名前を組み合わせ、「赤福想(アカフク ソウ)」というペンネームで本を仕上げた相は、コミティアの開催に合わせて再び本土を来訪。ここで「みんなで作った本だけではなく、自分だけで作った本も売りたい」と考え、夜を徹して漫画を描き上げる。コピー機で作った販売用の本20部、相が一気に描き上げた新作の本5部を用意して、彼女たちは初めて本を売る立場でコミティアに臨む。

順番で会場を見回る中、相は七畳島から来たというルゥ・ガルゥという少女と知り合う。彼女もまた創作活動をしており、相の本を評価するが、「買ったら負けだ」として購入はせずに引き上げてしまう。結局相が描き上げた本は終了間際まで1冊も売れず、手島に会いに来た金剛寺華(コンゴウジ ハナ)というプロの編集者からも手に取られることはなかったが、ここで突如手島が「その本を買う」と言い出す。
手島は相の漫画を未熟だとは常々言っていたが、彼女の感性が生み出す独特の魅力を評価してもいた。幸、心、光も同じくで、彼女たちもが次々に「自分も買う」と言い出した結果、提出用にイベントスタッフに渡した1部も合わせて相の漫画は無事に完売。相はこの結果に驚愕し、感動し、興奮する一方で、「もっとおもしろい漫画を描こう」と誓うのだった。

『これ描いて死ね』の登場人物・キャラクター

安海相(ヤスミ ソウ)

伊豆王島で暮らす高校生の少女。漫画が大好きで、島にある貸本屋にある漫画は全て読み込んでいる。中でも☆野0という今はもう活動していない漫画家の描いた「ロボ太とポコ太」という漫画が大好きで、ポコ太をイメージしたイマジナリーフレンドを持っている。
漫画は自分でも描けること、☆野の正体が手島であることを知って創作活動を開始。技術は拙いが、漫画への愛と情熱に満ちた作風が持ち味で、心や光からはこの点を評価されている。

手島零(テシマ レイ) / ☆野0(ホシノ レイ)

相の学校の教師。漫画ばかり読んでいる相のことをたびたび叱責し、「漫画など嘘ばかりで人生の役には立たない」と常々伝えている。実は10年ほど活動を停止している☆野0というプロの漫画家で、これを知った相から「漫画の描き方を教えてほしい」と懇願される。
どうして漫画家を辞めたのかは詳細には明かされていないが、編集者の金剛寺に迷惑をかけたと謝罪するシーンと、「漫画家を続けるガッツを無くした」と語るシーンがある。相たちが漫画同好会を立ち上げる際にも、「学業第一、プロを目指すな、趣味に留めろ、これ描いて死ねなどと命を懸けるようなことはするな」と約束させている。

赤福幸(アカフク サチ)

相の同級生で友人。島にある観光客向けの土産物店の娘。漫画は描くよりも読む派で、相の創作活動を応援してはいるが作業を手伝うことはなく、読者目線で批評する。
漫画同好会の立ち上げに協力するも、「相を助けたい」というより「エアコンがある場所で漫画を読める環境を手に入れたい」というのがその動機。手島が同人誌を売っていたことを指摘して顧問になることを承諾させようとするなど、悪知恵の働くタイプである。

藤森心(フジモリ ココロ)

相の同級生で漫画同好会の仲間。美術部と兼部で、絵の技術という点では仲間内でも随一。引っ込み思案な性格で、自分の要求を相手に打ち明けるのが苦手。
島にある老舗旅館の娘であり、「その娘である自覚を持て」と高圧的に接する母親に委縮している。相たちとの交流を経て、“漫画で自分の想いを伝える”という方法で母との関係を改善させた。

YAMAKUZIRA
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@YAMAKUZIRA

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