花とみつばち(漫画)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『花とみつばち』とは2000年から2003年に講談社の『週刊ヤングマガジン』で連載された安野モヨコによる青年コメディー漫画である。コミックスは全7巻。高校生の小松正男(こまつ まさお)は、モテたいが地味でファッションにも容姿にも自信がない。格差社会で構成されるスクールカーストの底辺にいる小松が、モテる男になるために悪戦苦闘する。風変わりなメンズエステに通いそこで出会った「オニ姉妹」に指導されながら、小松が成長していく青春コメディー作品だ。

『花とみつばち』の用語

美男ワールド(びなん)

都内のビルに存在するメンズエステ。小松が最初に来店したときは、オカマたちが無茶苦茶な施術を行っていた。小松の眉毛を細くしたり、髪の毛をバッサリカットしたりと、小松の要望はお構いなしであった。美男ワールドのオカマたちの施術目標は、客を満足させるのではなく自分たちのしたいようにすることだった。
ほどなくしてオカマたちは外国へ移住した。後に店長に就任したのがオカマの妹の桜井ハルミである。ハルミの妹の桜井清子はスタッフというポジションだがハルミに劣らず、2人で小松にモテ指導をする。その強引で手厳しい指導から、小松は2人のことをオニ姉妹と呼ぶ。オニ姉妹は、小松に対してはコミュニケーション能力の低さや、容姿の悪さを指摘するのだが、他の客には本格的なマシンを使う。エステのメニューには脱毛、筋肉の引き締め、顔のパックなどがある。原作では小松とオニ姉妹のやり取りがメインで描かれているが、一般の客も多く来店していた。物語の終盤では、客足が遠のき、オニ姉妹は「美男ワールド」を閉店した。

太田軍団(おおたぐんだん)

太田サクラを中心とした女子グループ。太田を含めて4人で構成されている。制服も崩して着こなし、化粧もしている。太田は元が可愛いため、軍団のなかでもリーダー的存在だ。いつもクラスでギャーギャー騒ぎ、授業もまともに受けない。スクールカーストの頂点に立つ。太田の名前は記載されているが、他の3人の名前は不明。
小松が眉毛を細くしたり、髪の毛を切ったりするたびに太田軍団は笑って馬鹿にしていた。その中でも太田は、一生懸命にモテようと努力する小松に惹かれていくのだが、軍団の内2名は小松のことを下に見ていた。だから小松に話しかける太田を、非難していたこともある。だがもう一人の軍団員が小松の努力を認め、「小松はキモくない」と言ったことで太田も小松に惹かれていく自分を認めることができた。

『花とみつばち』の名言・名セリフ/名シーン・名場面

エステスタッフ「大切なのは『いい物を選んだ』という自分の心!!」

おしゃれになりたいと思う小松は、美男ワールドのオカマたちに服を選んでもらう。デニムは小松の1日に稼いだアルバイト代と同じだった。だがTシャツは、デニムより安いペラペラなものだった。これに小松は、「もっとかっこいいものを…」と抗議する。だがオカマは「パンツでも靴でもどれかひとつは高くてもいいからいいモノを!」と説く。「大切なのは『いい物を選んだ』という自分の心!!」というオカマたちの言葉は小松に響いた。頭の先から足の先までブランドもので揃える必要はない。一つでも高くていいモノを買えば長く使えるし、他のものが安くても洗練されたように見えるのだ。いいモノを選んだという気持ちが、その人の心から出されて、体全体をまとうのである。この言葉は、読者にもオシャレのいろはを教えてくれる名言である。

小橋「そして…何かあったら助けてあげて大切にしてあげる。いつの間にか女の人にとって『なくてはならない』存在になっている」

小橋が小松に対して、女という人間はどういうものかということを説いた場面。女を大事にすることがまずは第一で、それを自然にすることが必要である。
小橋が小松に教えているのは、女と接する時の元になる気持ちである。「女の人っていうのは…『花』なんです…。だからそっと包むように周りを囲んであげないと。用事やってあげたり、生活の中に自然に存在していくんです」と解説。「そして…何かあったら助けてあげて大切にしてあげる。いつの間にか女の人にとって『なくてはならない』存在になっている」という小橋のセリフは具体的で分かりやすい。もちろん相手を思いやることは男性が女性に一方的にやるものではなく、互いに必要なことだ。だがこの場面の言葉は、女性読者にとっては的を得たセリフであり、男性読者が読んでも学びにもなる。

小松正男「さっきはホントに…太田が…殴られそーになってんの見て助けなきゃってそれしか考えてなかった。自分が弱いとか…やられるとか全然考えてなかったんだ」

小松の勇敢さが見える場面。一生懸命頑張っている小松の気持ちが表現されたセリフである。
今まで自分の心の中の気持ちを口にすることは恥ずかしくて、相手に引かれてしまうと思っていた小松。だが小橋に習って思っていることは素直に言葉にすることを覚えた。よーじと太田が殴り合いをしている時に、太田を助けなければと思ったのは本心である。「弱いくせに入ってくんなよ」と太田が小松に言うが、「さっきはホントに…太田が…殴られそーになってんの見て助けなきゃってそれしか考えてなかった。自分が弱いとか…やられるとか全然考えてなかったんだ」と小松は太田に伝えた。この言葉で、太田は胸が打たれたのだ。ボコボコに殴られ、たとえ無様な姿になったが小松の優しい心が太田にはちゃんと伝わったのだ。

小松が太田に告白する場面

「勇気を出して告白してよかった」というアルバイトの同期の言葉に勢いづいた小松は、学校で太田に告白する。「付き合ってください」と面と向かって言うが、太田は睨んでいる。小松は勢いであっさり告白したことを後悔し、逃げ帰るか迷った。でもそれじゃ今までと同じだと思った小松は太田の背中を追いかけ「ホントに太田の事好きで、マジで付き合いたいって思ってて。怒るかもしれないって思ったけど、でもどうせあきらめるならその前にせめてホントの気持ちを…」と言いながら太田の顔を見る。
これは小松が今までの殻を破って勇気を出したシーンである。相手の気持ちを聞かずに怖くなって逃げることをしてきた過去の自分を見直し、小松は太田から逃げないで追いかけた。これは誰かに告白する時だけに限らず、大事なことを相手に伝える時の良い心構えだ。

『花とみつばち』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話

物語に込められたタイトルの意味

この漫画は、小松正男の男磨きがテーマである。小松は、髪型や服装、そして女の子に対する接し方までをオニ姉妹から教わり、学び成長していく。タイトルの『花とみつばち』を見ただけでは、地味な男子の成長物語とは推測できない。だが、このストーリーの根本的な部分は、男と女の恋愛関係である。「どうしたらモテるのか」「どうすれば女を落とすことができるのか」「女とはどういう生き物なのか」と必死に悩む小松と、自分のことを優しく包んでくれる男を求める太田の関係性はまさに「花とみつばち」なのである。小松は自分のところに止まってくれるハチを探す「花」であり、よりきれいな花になろうと悪戦苦闘する。一方で太田は、寂しさを包容し甘い蜜をくれる花を探す「ハチ」なのである。これは作中にも出てきており、小松が太田と別れた後雨の中で「女たちが飛んで行く。男の周りに群がるハチのように。好きなだけ蜜をもらうの。好きなお花にとまるの。好きな花へ飛んでくの。ハチのくせに花に向かって『蜜持って来い』って言うんだ」と思う場面がある。この時になって小松は、振り回されていた自分に気がつくのだ。安野は、この男女のいびつな関係性を端的に『花とみつばち』と表現したのである。作品を読めば、タイトルの意味が分かるということである。

巻末ごとにあとがき漫画を収録

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