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Sato-frのレビュー・評価・感想

野火(映画)
9

密林戦の果てに人肉食に至る帝国陸軍敗残兵を描いた『野火』

この映画は小説家・大岡昇平の小品『野火』を原作にしています。
大岡は1948年に従軍記『俘虜記』を発表しましたが、その初稿直後より、同作品を補足するための作品として『野火』が着想されていました。日常の視点をもとに戦争を描写することが特徴であった『俘虜記』に対し、その手法では表現できなかった描写として、熱帯の自然をさまよう孤独な兵士と感情の混乱を表現するため、本作はファンタスティックな物語として構想されています。大岡自身の体験をもとにした『俘虜記』に対し、小説としての本作は純前たるフィクションであると言えます。戦中の場面の描写のための手段として、主人公は「狂人」に設定されており、戦地における殺戮、孤独、人肉食などが取り上げられています。大岡は自身の作品について多くを語っていたが、中でもこの『野火』に対する拘りは強く、原稿に手を入れる数も多く、生涯に渡ってこの作品のことを気にかけていました。題名の「野火」とは、春の初めに野原の枯れ草を焼く火のことで、この作品にはカニバリズムが出てきます。
1959年の映画版の監督は市川崑。人肉を食う場面は、映画では「栄養失調で歯が抜け、食べられなかった」という処理が行われました。これは、映画の持つ表現の直接性を考慮し、観客に「食べなくてよかった」と感じさせるための変更です。

DOUBLE DECKER! ダグ&キリル
10

ダブデカ

2018年10月期のサンライズのアニメです。作り込まれた作品でした。男女問わず好きになれると思います。

キャラクターですごいと思ったのは、テンションの上がったり下がったりの表現の仕方でした。あまりテンションが変わらない気質を演じている部分はあるのですが、その中でもテンションが上がっているときや戦闘など自分が能動的に興味を持ってやっているときはなんだかテンションが高いのです。冷静な中での表現なのでそこは大変だったかと思いますが、そういう部分も面白かったです。

特筆することのひとつに、小道具の使い方のうまさをあげておきたいと思います。劇中では色々な小道具がみきれてでてきて、盛り上げています。あとは、天気の動きで感情が表現されている部分があり、すごいなと思いました。ずっと一人ぼっちで孤独しか愛せないと思っていた主人公と重なる部分も垣間見えてとても共感している様子がわかるのです。もうひとつは、戦闘のCGです。あれはかなりの時間をかけていると思います。シーンがすごく立体的でかつ自然なのがすごいと思います。アニメーターさん大変だったんじゃないかなぁとおもいました。でもすごく楽しめました。現代の技術の進歩を感じます。

モアナと伝説の海 / Moana
10

夏にピッタリ

これを見れば気分はあっという間に南の島へ!あの南国の美しさが、アニメーションとは思えないほど美しい。キャストの歌声に潮の香りを感じ、海をゆく冒険に、日常を忘れます。初めて見ると多感な時期の女の子に向けた作品のように感じましたが、小さな子どもにも理解できる内容です。神話がもとになっているので、神話好きな大人も引き込まれることでしょう。個人的に大好きなのは、随所に見られるジブリ作品へのオマージュ。ディズニー作品でありながら、ジブリを感じずにはいられない不思議な作品に仕上がっています。数あるジブリ作品のいいところを一作品にまとめ、描いたところはさすがのディズニー。圧巻です。ヘイヘイ、マウイ、タラおばあちゃん…といった魅力的なサブキャラクターにも注目です。吹き替えの声優さんは尾上松也さん。あのうまさと歌声は、今まで尾上さんのファンでなかった私も、思わずファンになるほど!おばあちゃん役の夏木マリさんも、役のうまさはもちろん、歌声も最高です!子どもは純粋に楽しみ、一緒に歌い、大人はその映像美に酔いしれ、日常を忘れ、大切なものを思い返す。夏にピッタリの作品です。

イニシエーション・ラブ
7

前田敦子の圧倒的可愛さ

「トリックが仕掛けられている」と書かれて始まる映画。イニシエーション・ラブは映画を見る前に文庫本を読んでいたのでトリックは知っていました。なので楽しさは半減です。原作を読んだことのない人は原作を読まないまま映画を見た方が楽しめる作品です。
肝心の映画は1980年代を舞台とした映画であり、繭子(前田敦子)とたっくんのラブストーリーとなっています。前半は波風立たないのであまり面白みはないです。繭子の可愛さを存分に味わってください。繭子の可愛さは純情なのか、それとも裏があるのか。疑心暗鬼になりながら楽しめる映画です。
ここからネタバレになります。
後半になりたっくんが痩せてかっこよくなり、演者俳優も松田翔太になります。たっくんが都会に転勤になり、都会の色に染まって繭子から心が離れていく、心が離れるだけならまだしも、妊娠した繭子に堕胎をすすめます。つきあい当初はたっくんが繭子にベタ惚れだったのに、立場は逆転していき、二人は別れてしまいます。そんなありきたりなラブストーリーかと思いきや、最後の15分で大どんでん返しがあります。
たっくんは2人いたのです。繭子は最初に付き合っていたたっくん(松田翔太)が東京に転勤になってから違うたっくんとも付き合っていたのです。どちらも「たっくん」と呼ばれていることや、時系列がバラバラになっていることから、すっかり「トリック」にはまっていました。
映画のタイトルの「あなたは必ず2回観る」の意味が分かる映画です。

昭和元禄落語心中 / Descending Stories: Showa Genroku Rakugo Shinju
8

めくるめく落語世界に一席、お付き合い下さい

昭和も終わりにさしかかったとある刑務所で行われた落語慰問会。そこで、八代目・有楽亭八雲(CV:石田彰)の落語「死神」に心奪われた男がいた。満期で出所したこの男、与太郎(CV:関智一)が向かったのは一目惚れした八雲のもとだった。「もう、あんたの弟子になるしかねぇんだ!」何の因果か与太郎に出会ってしまった八雲は弟子入りを承諾する。しかし、八雲はなかなか芸を教えようとはしなかった。何やら訳ありな八雲の過去を遡っていくことで物語は進んでいく。一緒に落語の生き残る道を見つける、と約束したかつての兄弟弟子である助六(CV:山寺宏一)との出会いから全てははじまった。

本作は雲田はるこ氏の漫画『昭和元禄落語心中』をアニメ化したものである。落語と聞くと普段あまり触れることのないエンターテイメントなのではないだろうか。独特な江戸っ子の喋り方、噺のネタも現代を生きる私たちには少し遠い。しかし、この作品に映し出されるのは噺家たちの、もとい八雲の生きた人生である。落語家として切磋琢磨する助六に出会い、恋をしていく中で得ていく幸せや、やるせなさ、切なさ、落語への諦めと希望。そして、その経験した全てが時節、作中で軽快な三味線の音にのって落語として滲み出てくる。

また、本職の噺家さん顔負けの声優陣の落語もこのアニメでしか見られない。特に、石田彰さんの演じる八雲の声色は10代から70代まで幅広く、加えて習いたての下手な落語から熟練の落語まで細かく演じ分けられている。山寺宏一さん演じる助六との落語の比較も面白い。八雲は実家が芸者の家であったことや生真面目であまり笑わないことからも、その所作の美しさが際立つ廓話や艶笑話が得意で、助六は明るく大雑把な性格から観る人を自然と笑わせる落語が得意である。そんな落語の違いも、本作が噺家の人生に焦点を置いているからこそ、キャラクターを存分に知った上で見ることができるからである。

ぜひ、ここでしか観ることのできない個性豊かな落語を、八雲の落語家としての人生とともに堪能してほしい。