野火(映画)

野火(映画)のレビュー・評価・感想

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野火(映画)
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密林戦の果てに人肉食に至る帝国陸軍敗残兵を描いた『野火』

この映画は小説家・大岡昇平の小品『野火』を原作にしています。
大岡は1948年に従軍記『俘虜記』を発表しましたが、その初稿直後より、同作品を補足するための作品として『野火』が着想されていました。日常の視点をもとに戦争を描写することが特徴であった『俘虜記』に対し、その手法では表現できなかった描写として、熱帯の自然をさまよう孤独な兵士と感情の混乱を表現するため、本作はファンタスティックな物語として構想されています。大岡自身の体験をもとにした『俘虜記』に対し、小説としての本作は純前たるフィクションであると言えます。戦中の場面の描写のための手段として、主人公は「狂人」に設定されており、戦地における殺戮、孤独、人肉食などが取り上げられています。大岡は自身の作品について多くを語っていたが、中でもこの『野火』に対する拘りは強く、原稿に手を入れる数も多く、生涯に渡ってこの作品のことを気にかけていました。題名の「野火」とは、春の初めに野原の枯れ草を焼く火のことで、この作品にはカニバリズムが出てきます。
1959年の映画版の監督は市川崑。人肉を食う場面は、映画では「栄養失調で歯が抜け、食べられなかった」という処理が行われました。これは、映画の持つ表現の直接性を考慮し、観客に「食べなくてよかった」と感じさせるための変更です。