ダルちゃん(漫画)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『ダルちゃん』とは、漫画家・はるな檸檬により資生堂のwebメディア『花椿』で2017年10月~2018年10月にかけて連載され、2018年に小学館から単行本が発刊されたコミック作品である。コミック作品としてはじめて「新井賞」を受賞したことで話題となった。「ダルダル星人」という本当の姿を隠し、ごく普通の派遣OL・丸山成美に〈擬態〉して生きる主人公・ダルちゃんが、詩作を通じて本当の自分や幸福を見つけていく過程が描かれる物語である。女性が抱える生きづらさを扱い、多くの人の共感を集めた。

『ダルちゃん』の概要

『ダルちゃん』とは、漫画家・はるな檸檬により資生堂のwebメディア『花椿』で2017年10月~2018年10月にかけて連載され、2018年に小学館から単行本が発刊されたコミック作品である。女性が抱える生きづらさ、創作活動を行う人の孤独を描き出し、「ダルちゃんは私だ」「しんどいけれど読む手がとまらない」と多くの人の共感を集めて大ヒットとなった。コミックはフルカラーで全2巻が刊行された。コミック作品としてはじめて「新井賞」を受賞したことでも話題となった。
「ダルダル星人」という本当の姿を隠しごく普通の派遣OL・丸山成美に〈擬態〉して生きる主人公・ダルちゃんが、詩作を通じて本当の自分や幸福を見つけていく過程が描かれた。周りに合わせて生きてきたダルちゃんが、自分の本当にやりたいことを見つけ、自分の思いを優先できるようになっていく様子が見どころである。

『ダルちゃん』のあらすじ・ストーリー

自分を隠して生きてきたダルちゃん

丸山成美は、ありふれていてどこにでもいそうな24歳の派遣OL。しかしそれは仮の姿で、本当の姿はスライムのようにふにゃふにゃとしたダルダル星人のダルちゃんだった。
ダルちゃんは一般的な家庭の平均的な両親のもとに生まれ、なぜダルちゃんだけがダルダル星人として生まれたのか、その理由は誰にも分からなかった。そのため両親からは持て余され、兄と姉からは無視され、小学校では先生やクラスメイトからは馬鹿にされて過ごした。「自分はこの世界にそぐわない」と考えたダルちゃんは、周囲の女の子を必死に観察し、普通の人間の女の子に〈擬態〉する術を身につけた。
惜しみない努力の結果、現在はダルダル星人としての素性を隠し、ごく普通のOLとして生活できるまでになったダルちゃん。しかし、周囲に合わせて本当の自分を押し殺し続けたことで、「本当の自分が何を考えているのか分からなくなる時がある」という悩みを抱えて日々を過ごしていた。また、自分の役割を果たすだけで居場所を得ることができるオフィスワークはこなせても、臨機応変な対応が求められる飲み会の席は苦手なままだった。

スギタさんとの一件で心に傷を負うダルちゃん

ある日、ダルちゃんは気が進まない中で会社の飲み会に参加し、席が近くなった営業部のスギタさんの話の聞き役に徹する。しかし、どのように振る舞うのが正解か分からないダルちゃんは、周りの女の子たちのリアクションを真似て、スギタさんのダルちゃんに対する侮辱的な発言にも笑いながら答え続けてしまう。
そんな2人のやり取りを見ていた経理部の先輩・サトウさんは、ダルちゃんを飲み屋の外に連れ出して「自分を下に見る相手を受け入れていたら、簡単に相手に人生を支配されてしまう」と諭す。
ダルちゃんは、それまであまり話したことのなかったサトウさんから突然説教をされたことに驚き、ひどい言葉をかけてきたスギタさんではなく、サトウさんに対して「嫌い」という感情を抱いてしまう。「なんとかしてサトウさんに自分は間違っていないと思い知らせたい」と思ったダルちゃんは、「サトウさんが否定したスギタさんを好きになろう」と決意する。
スギタさんからの誘いに応じて2人で飲みに行ったダルちゃんは、スギタさんの会社の愚痴を笑顔で聞き続ける。そんなダルちゃんに気を良くしたスギタさんは、当然のようにダルちゃんをホテルに連れていくが、ダルちゃんは行為の直前で恐怖に襲われベッドの上でダルダル星人の姿に戻ってしまう。スギタさんはダルちゃんの姿を見て驚き、舌打ちをしてホテルを出て行った。自分の気持ちを蔑ろにしたことで他人から軽く扱われたダルちゃんは、心に深い傷を負う。

新しい友人サトウさんと詩作の開始

その後もいつも通り会社に出社していたダルちゃんだが、ホテルでの一件がトラウマとなり、社内でスギタさんを見るだけでも気分が悪くなってしまう。
屋上で休憩していたダルちゃんの元に、サトウさんがやってくる。サトウさんは、会社での飲み会の日に突然ダルちゃんに説教したことを謝罪し、悲しい過去をダルちゃんに打ち明けてくれる。それは、自分の考えを言えないまま勝手な恋人に振りまさわれ、望まない妊娠と堕胎を繰り返したことでもう子どもが産めない体になってしまったというものだった。サトウさんは、自分を軽く扱うダルちゃんの姿がかつての自分自身と重なり、放っておけなかったのだという。そこからダルちゃんとサトウさんの距離は急速に縮まっていく。
サトウさんは、寂しい時には詩集を読むことを習慣としていた。スギタさんとの一件で生きづらさや居場所の無さを感じていたダルちゃんは、サトウさんに詩集を貸してもらい、詩の世界に魅了される。はじめは読むだけだったが、サトウさんの後押しもあって自身でも詩を書くようになり、web上の詩の公募にも応募するようになる。

ヒロセさんとのはじめての恋

そんな中、派遣社員を取りまとめていた事務部のフクダさんが産休に入ることになった。ダルちゃんをはじめ派遣社員たちから好かれていたフクダさんは惜しまれながら休職し、その後任としてヒロセさんが配属される。ヒロセさんは事務職としては珍しい男性で、「仕事はできるが足が不自由なため営業などはさせられないのだろう」と噂されていた。彼自身も足が不自由なことをコンプレックスに感じており、同情されないように振る舞ううちに、派遣社員たちからは「とっつきにくい」と評価されるようになる。しかしダルちゃんだけは、彼の「緊張しますね」という言葉を聞いたことで彼の本当の人柄や気持ちを知っていた。
そんな折、派遣社員たちが揃って書類の入力ミスをするという事件が起こる。派遣社員たちは、「ヒロセさんの指示が分かりにくかった」「質問したくてもしにくい雰囲気だった」とヒロセさんを責めた。また、派遣社員であるため残業もできないと言い、修正作業をヒロセさんに任せて退社してしまう。ダルちゃんも一旦は会社を出たもののヒロセさんを放っておけず、会社に戻って徹夜でヒロセさんの修正作業を手伝う。
手伝ってくれたことのお礼としてヒロセさんはダルちゃんに食事を奢り、シャワーを浴びるために自分の部屋にダルちゃんを連れて行く。過去の辛い経験を思い出したダルちゃんは、その場でダルダル星人の姿に戻ってしまうが、ヒロセさんがダルちゃんを拒絶することはなかった。ダルちゃんはヒロセさんの多様性を受け入れる価値観に惹かれ、間もなく二人は恋人同士となる。

ヒロセさんのために詩作を諦めるダルちゃん

ヒロセさんと付き合うようになったダルちゃんは、生まれてはじめて恋を知る。ヒロセさんも恋愛には不慣れであり、デート先のレストラン選びでは「自分はこう言うことには疎くて」と申し訳なさそうだが、ダルちゃんは「あなたといられたらそれだけでいい」と伝える。二人は幸せな恋人同士としてしばらくの時を過ごす。
しかしそんな日々は、ダルちゃんの書いた詩がwebに掲載されるようになり変化の時を迎える。webに詩が掲載されたことをサトウさんは喜んでくれ、それまで詩作のことは伝えていなかったヒロセさんにも報告した。しかしヒロセさんは、自分の不自由な足のことや自分たちの関係性のことが描写されたダルちゃんの詩に、私生活が覗き見されているような不快感を得てしまう。足が不自由であることにコンプレックスを抱えて生きるヒロセさんは、知っている人が見れば自分たちのことだと分かるダルちゃんの詩が受け入れられず、「自分のことや自分たちのことを詩に書くのはやめてほしい」とダルちゃんに伝える。思いのままに詩を綴っていたダルちゃんは、それがヒロセさんを傷つけたことにショックを受け、もう詩を書くのはやめようと決心する。

ダルちゃんの幸せとヒロセさんとの別れ

詩作をやめたダルちゃんは、それまで通りヒロセさんとの関係を続けていたが、その様子はどこか空元気のようだった。
ある日ダルちゃんはサトウさんから、「婚約者がダルちゃんに会いたがっている」とコウダさんを紹介される。コウダさんはサトウさんの大学の後輩で、サトウさんが妊娠できなくなってしまった過去のこともすべて知った上でプロポーズをしてくれた相手なのだという。一見ごく普通のマイペースな男性に見えたコウダさんは、実はダルちゃんと同じダルダル星人で、しかもその姿を周囲に隠そうとしていなかった。ダルちゃんは「そんなの普通じゃない」とコウダさんを非難するが、コウダさんは「普通の人なんていない」「存在しないまぼろしを幸福の鍵と思ってはいけない」とダルちゃんを諭したのだった。
コウダさんの言葉に衝撃を受けたダルちゃんは、家に帰って寝食も忘れて詩を書き始めた。そして、詩を書くことは今の自分にとって切り離せないものだと悟り、「私を幸せにするのは私しかいないの」とヒロセさんに伝え、別れを告げたのだった。

「自分は自分でいい」と気づくダルちゃん

ダルちゃんはサトウさんとコウダさんの結婚式に出席する。新郎としてこの日ばかりは普通の人間に〈擬態〉していたコウダさんだが、ダルちゃんが指摘すると「そろそろ限界」とダルダル星人の姿に戻ってしまう。「こんなやつその辺にいっぱいいる」と言うコウダさんの言葉にダルちゃんがあたりを見回すと、そこにはダルちゃんの予想以上の数のダルダル星人が混ざっていた。世の中にはたくさんのダルダル星人が何者にも〈擬態〉せずに生活していることに気がついたダルちゃんは、ありのままの自分で生きていくことを決意する。
時は流れ、ダルちゃんは出版社に転職する。社内はダルダル星人ばかりで、ダルちゃんを「しっかりしている人」として頼ってくれる。また、ダルちゃんの詩が掲載された雑誌を見て「すごいね」と称賛してくれた。
そんな折、ダルちゃんはサトウさんから、「コウダさんとの子どもを妊娠した」という報告を受ける。涙を流すサトウさんを抱きしめながら、ダルちゃんは窓の外の桜を見上げるのだった。

『ダルちゃん』の登場人物・キャラクター

主人公

ダルちゃん・丸山成美(まるやまなるみ)

本作の主人公。24歳のごく普通の派遣社員・丸山成美に〈擬態〉しているが、本当の姿はダルダル星人で、気を抜くとスライムのような見た目になってしまう。
家族はいたって平均的な人間であったため、兄と姉からは無視され、両親からは持て余される。また、椅子に座っているだけでも大変だったダルちゃんは小学校生活にうまく馴染めず、つらい幼少期を過ごした。そこで必死に周りの女の子たちを観察し、「普通の女の子に見える容姿とふるまい」を身につけることに成功したが、普通の女の子に〈擬態〉し続けたことで「自分が本当は何を考えているのか分からなくなる時がある」という悩みを抱えていた。
会社の先輩であり後に親友となるサトウさんとの出会いを通じて、詩を書いて自分自身を表現する喜びを知る。
会社の上司であるヒロセさんと付き合うようになるが、最終的には彼との関係よりも詩を通じた自己表現を優先することを決め、彼とは別れることになる。

会社の人たち

サトウさん

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