ハックルベリーにさよならを(舞台・漫画)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『ハックルベリーにさよならを』とは、集英社より発売された漫画作品。演劇集団キャラメルボックスが上演した脚本をきらが漫画化したもの。脚本は劇作家の成井豊が担当している。主人公で小学6年生のケンジの側には兄さんがいる。ケンジの両親は離婚しており、面会日に父親からカオルさんという女性を紹介される。ケンジはカオルさんに反発するが、兄さんは好意を持っている。ケンジは父親と喧嘩し、ボートで川を下りながら後悔を取り戻す旅に出る。親子の葛藤や、少年の成長などを描き出すファンタジー作品。

『ハックルベリーにさよならを』の概要

『ハックルベリーにさよならを』とは、集英社よりマーガレットコミックスとして1999年9月1日に発売された漫画作品である。巻数は全1巻。『ハックルベリーにさよならを』の他に『白色』も収録されいてる。演劇集団キャラメルボックスが1991年3月20日~4月7日に新宿シアタモリエールで初上演した脚本を、きらが漫画化した。脚本は、演劇集団キャラメルボックスの成井豊が書いた。初演後も、演劇集団キャラメルボックスで何度も再演されている人気作品である。また、脚本は高校の演劇部をはじめ、他演劇団体でも好んで上演される名作である。この作品は、演劇集団キャラメルボックスの作品の中では“ハーフタイムシアター”として、他作品と区別される、1時間前後の短い時間で上演される作品でもある。演劇集団キャラメルボックスとは、1985年6月30日、早稲田大学の劇団てあとろ50’で脚本を書いていた成井豊、同様に演出・制作を行っていた加藤昌史を中心に結成された劇団。1986年3月7日に東芸劇場で行った『地図屋と銀ライオン』が旗揚げ公演。代表作は、『銀河旋律』『広くてすてきな宇宙じゃないか』『また逢おうと竜馬は言った』『サンタクロースが歌ってくれた』など。既に退団しているが、1989年のオーディションで入団した上川隆也はテレビドラマでも活躍している。2019年5月に上演した『ナツヤスミ語辞典』をもって劇団活動を休止していた。しかし、2021年12月に『サンタクロースが歌ってくれた』で、活動を再開している。
主人公ケンジは小学6年生。いつも兄さんがケンジの気持ちに寄り添っている。兄さんは、後半の展開で明らかになるが、もう1人のケンジ自身であり、10年後のケンジでもある。ケンジの両親は離婚しており、母親とふたり暮らし。母親は中学受験をさせたいと考えており、ケンジには家庭教師がつけられている。しかし、家庭教師にカヌーについて教わり、ケンジの興味は勉強よりもカヌーに向いていく。月に1度の面会日には、近くの公園でボートに乗るため、ケンジはパドルを持って父親に会いに行く。そして、ある面会日に父親からカオルさんという女性を紹介される。カオルさんは、絵本作家である父親が世話になっている出版社の人であり、父親が結婚を考えている女性だ。ケンジはカオルさんに反発するが、兄さんは少し違うようだ。兄さんはカオルさんに好意を持っているようにさえ見える。ケンジは父親と喧嘩してボートに乗り、何かから逃げるように兄さんと一緒に川を下っていく。主人公が過去に置いてきた後悔と向き合う、優しいファンタジー作品である。

『ハックルベリーにさよならを』のあらすじ・ストーリー

父親の特別な人との対面と葛藤

作中で“兄さん”として描かれている青年が、携帯電話で電話をかけるところから物語が始まる。彼は10年前の“彼女”に電話がつながることを信じて、祈るように電話をかけている。

場面は変わって、主人公ケンジが登場する。ケンジは小学6年生。学校から帰宅し、兄さんに話しかける。その日は小学校の終業式で、ケンジは兄さんに通信簿を見せて他愛もない話をする。そこに、離婚して女手ひとつでケンジを育てている母親が帰宅する。母親は、ケンジに受験をさせたいと考え、家庭教師をつけている。ケンジは、その家庭教師から国語と算数を教わっているのだが、カヌーについても教えられた。そこから、ケンジの1番の関心ごとは受験勉強ではなくカヌーになっていく。そこで、タイトルにもなっているハックルベリーが主人公の物語『ハックルベリー・フィンの冒険』の内容が盛り込まれる。“トム・ソーヤの友達であるハックルベリー・フィンは 束縛の毎日から逃れる為に カヌーに乗ってミシシッピー川へ漕ぎ出す”。『ハックルベリー・フィンの冒険』の中で、ハックルベリー・フィンが束縛の毎日から逃れる為にカヌーに乗ったように、ケンジ自身もまた、現状から逃れる為にカヌーに乗って1人になりたいと考えていたのだ。

ケンジは月に1回、面会日に父親に会いに行く。父親と母親は離婚しているため、父親は吉祥寺のマンションに一人暮らしをしており、そこへ遊びに行くのだ。ケンジにとって父親との“面会日”は、楽しみでもあり罪悪感を感じる日でもあった。父親と一緒に過ごすという事は、母親を独りぼっちにしてしまうという事でもあったからだ。その日ケンジは、6年生になったお祝いに家庭教師からプレゼントされたパドルを持って、いつものように父親の部屋に会いに行った。父親は、同級生からいじめられたらすぐにかけるようにと携帯電話をプレゼントするが、ケンジは携帯電話なんて持っていたら逆にいじめられると断る。そして、“カオルさん”を紹介される。カオルさんは、絵本作家である父親と仕事をしている出版社の人だった。そして、父親がカオルさんとの結婚を考えているが、ケンジが嫌なら結婚は諦めると伝えられる。「ボクは関係ないよ」というケンジに、父親から「関係ない?あるだろう!おれはおまえが大切なんだから 1番大切なんだから!」と言われ、「ボクに責任を押しつけるなよ」と言い返し、そのまま父親の部屋から飛び出してしまう。部屋に残されたのは、ケンジのパドル。カオルさんは、そのパドルを手に取る。そこにケンジが部屋に戻ってくる。カオルさんはパドルを手にし、パドルを返して欲しければ自分と1分間だけ話をしてほしいとケンジに言う。そして、「私のうちの住所と電話番号 よかったら遊びに来て……?」と、カオルさんは自分の電話番号と家の住所を書いた紙を手渡す。ケンジはカオルさんに絶対に連絡しないというが、兄さんは父さんが一緒に暮らす女がどんな女か確かめるためと、カオルさんに会いに行く。カオルさんの家は、下高井戸にあるアパートだった。兄さんはカオルさんと話し、カオルさんが父親の絵本のファンだったことを知る。そこにケンジが乗り込んできて、兄さんを連れ戻す。

後日、また兄さんはカオルさんの家に行く。すると、カオルさんは風邪をひいていた。ケンジもまた、兄さんを連れ戻すために、カオルさんの家にやって来る。兄さんとケンジは言い争いになる。ケンジは、母さんが悲しむから、カオルさんと仲良くするのはやめた方がいいと考えているのだ。しかし、その一方で、母さんが何かにつけて「あたしにはケンジがいるじゃない」と言う事を重荷に感じていた。そんなケンジの様子に気付いた兄さんは「―本当は息苦しいんじゃないのか?」と言った。そこへ父親もカオルさんのお見舞いに家にやって来る。ケンジは「父さんはカオルさんと幸せになって母さんはボクの心配だけして年を取っていく…そんなの不公平だよ!」と父親に言った。そしてケンジはカオルさんに「カオルさんなんかいなくなればいいんだ」と言い放ってしまう。ケンジの乱暴な言葉に、カオルさんに謝るよう叱る父親に対し、ケンジは、兄さんを連れ戻すために来ただけで、本当は来たくなかったと伝える。それを聞いた父親は「兄さんって誰だ」とケンジに尋ねる。「…兄さんは兄さんだよ」と答えるケンジに、父親は「何を言ってる?昨日ここへ来たのはおまえひとりだろう?」と話す。動揺するケンジに向かって父さんは更に言った。「それはおまえ自身のことだな?」ケンジはパドルを抱えたまま、家の外に飛び出す。父さんはカオルさんに「(兄さんは)あなたを好きになってしまったケンジです」と告げた。“兄さん”は、ケンジが作り出したもうひとりの自分。“カオルさんを好きになってしまった”自分自身だったのだ。

10年前の後悔を取り戻す川下り

飛び出したケンジを、自身の分身である兄さんが追いかけた。兄さんとケンジは井の頭池のボートに乗って川を下り始める。兄さんは、ケンジ達を追ってきた父親に「携帯電話貸して!危なくなったら電話するから!」と言い、携帯電話を貸してもらう。兄さんとケンジは神田川に出た。川は善福寺川と合流し、中野坂上辺りに差しかかる。そこへ、父親から携帯電話に電話がかかってくる。ケンジが父親と電話で話すと「カオルさんがそんなに嫌なら父さんもう1度初めから考え直すから!」と父親は言った。東中野を抜け下落合へ、高田馬場についたところで母親から電話がかかって来る。母親は「あたしはお父さんの結婚に賛成なのよ」「1つの家で暮らしてなくてもあたし達は家族なんだから」とケンジに伝えた。ケンジは、母親に向かって「ボクはひとりになりたいんだ」と気持ちをぶつけた。それを聞いた兄さんは、「ひとりになれるからカヌーに乗りたかったのかー」と呟いた。早稲田を過ぎて、江戸川橋、飯田橋、水道橋、そしてお茶の水の聖橋についた。そこには父親の姿があった。父親は橋の上から、「カオルさんのことは諦める だからボートを降りてくれ」「父さんを許さなくてもいいから!だから無事に帰ってきてくれ」と叫び、ケンジは「ボクはひとりになりたいんだー!」と叫び返した。聖橋をくぐり、昌平橋、万世橋をくぐり抜け、ケンジは3時間かけて神田川を下りきった。そして隅田川に着いた。

携帯電話が鳴る。ケンジは出なくていいと言うが、兄さんが電話をとる。兄さんは「おまえが出るんだ!」と、ケンジに携帯電話を握らせた。電話はカオルさんからだ。カオルさんは「ケンジくんに悲しい思いをさせてまで お父さんを取り上げたくない」「だから……『さよなら』ね」と言った。ケンジが何も答えられないまま、電話は切れる。ここで場面は物語の冒頭部に戻る。「それから10年 僕は今でも彼女の部屋の番号を押し続けている」「この番号を押し続けていれば いつかは あの時の彼女につながるかもしれない」「時の流れを さかのぼるかもしれない」という祈りを込めて、兄さんはあの時のカオルさんに電話をかけている。カオルさんが電話に出る。それは、10年前にボートの上で聞いた彼女の声だった。「『さよなら』って言ったばかりなのにどうしてかけてきたの?」と彼女は尋ねた。兄さんは「僕はカオルさんが好きだったんだ。」「結婚していいんだよ!」「僕はひとりで生きていけるんだから」と10年分の思いをカオルさんにぶつけた。すると、カオルさんは「私だって!ひとりで生きていけるわ」と明るく言った。兄さんはたまらず「ごめんなさいっ…」と涙を浮かべて謝った。カオルさんは「謝ることない 私はちゃんと幸せになってみせるから大丈夫よ」と言い、ケンジに「だから 許してあげてね」と伝えた。ケンジが「……誰を?」と聞くと、カオルさんは「『あなた自身』を」と答えた。左手に晴海埠頭が見えてくる。ケンジと兄さんはボートを降りる。ケンジが「…兄さんは?一緒に帰らないの?」と兄さんに尋ねると、兄さんは「おれに頼るな!これからはおまえひとりで考えるんだ!」と言った。ケンジは兄さんに背を向けて、1人で家路についた。そして兄さんは、10年間抱えていた後悔から解放されたのだった。

『ハックルベリーにさよならを』の登場人物・キャラクター

主要人物

ケンジ

物語の主人公。小学校6年生。両親が離婚し、母親と2人暮らし。塾にもパドルを持っていくほど、カヌーに興味を抱いている。性格は明るく、家族思い。母さんからの自分に対する愛情に、プレッシャーのようなものを感じている。成績はあまり良い方ではない。いつも外出時にはキャップを被っている。もう1人の自分自身でもある兄さんに、自分の気持ちを打ち明けている。

兄さん

もう1人のケンジであり、10年後のケンジでもある。物語の中盤までは、ケンジの兄さんとして描かれている。優しい性格。21~22歳を想定した、背が高くすらっとした青年。ケンジに、カオルさんに優しく接するよう働きかける。また、兄さんはカオルさんに好意を持っている。10年前に伝えられなかったカオルさんへの謝罪の気持ちを抱えている。

主人公の家族

父さん

ケンジの父親で、職業は絵本作家。吉祥寺のマンションに1人で暮らしている。明るい性格。兄さんから「冴えないおじさん」と評される、中年男性。ケンジの事を心から愛していて、その事をケンジにいつも真正面から伝えている。カオルさんとの結婚を考えている。ケンジが話している“兄さん”が、もう1人のケンジ自身だと気が付いた人物。

母さん

ケンジの母親。ケンジに受験させようと、家庭教師をつけている。以前は絵本の挿絵も描いていたが、今は雑誌のイラストを描いている。ケンジの事になると心配性な面が見られる。アクセサリーをつけて、きちんと化粧をしている美人。ケンジの事を大切に思っているが、その愛情がケンジの重荷にもなっている。

そのほか

カオルさん

hiasusun
hiasusun
@hiasusun

目次 - Contents