AIの遺電子(漫画・アニメ)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『AIの遺電子』(アイのいでんし)とは、「ヒューマノイド」と呼ばれる高性能アンドロイドが人間と共に暮らす世界で、ヒューマノイドの専門医が様々な事件に巻き込まれていく様を描いた山田胡瓜による漫画作品。新しいタイプの医療漫画として注目を集め、2023年にはアニメ化を果たした。
ヒューマノイド専門医の須藤光は、様々な患者を診る一方で、ヒューマノイドである母の人格データを探すため様々な非合法行為に手を染めていた。そんな彼の活動は多くの人々を巻き込み、やがて世界の未来を巡る巨大な陰謀に飲み込まれていく。

『AIの遺電子』の概要

『AIの遺電子』(アイのいでんし)とは、「ヒューマノイド」と呼ばれる高性能アンドロイドが人間と共に暮らす世界で、ヒューマノイドの専門医が様々な事件に巻き込まれていく様を描いた山田胡瓜による漫画作品。
タイトルの「AI」を「アイ」と読ませることで英語の「I(自分、自我)」、日本語の「愛」など複数の“人間的な”意味を持たせ、一方で「遺伝子」を「遺電子」とすることで“機械的な”意味を持たせている。新しいタイプの医療漫画として注目を集め、「新時代の『ブラックジャック』」と各方面から絶賛される。その人気とクオリティの高さから続編の『AIの遺電子 RED QUEEN』(アイのいでんし レッドクイーン)、前日譚である『AIの遺電子 Blue Age』(アイのいでんし ブルーエイジ)などの派生作品が連載された。2023年にはアニメ化を果たしている。

ヒューマノイド専門医の須藤光(すどう ひかる)は、自身の医院を訪れる患者を診る中で、様々な事件を解決していく。これを解決する一方で、光はヒューマノイドである養母の人格データを探すため、非合法な行為にも手を染めていた。
看護師の樋口リサ(ひぐち リサ)、旧友のカオル、そして人類とヒューマノイドの将来を決定する超高度AIのMICHI(ミチ)など、光の活動は多くの人々を巻き込み、世界の未来を巡る巨大な陰謀に飲み込まれていく。

『AIの遺電子』のあらすじ・ストーリー

ヒューマノイド専門医・須藤光

ヒューマノイドと呼ばれる高性能アンドロイドが人間に混じって生活し、社会を支えるようになった近未来。人間とヒューマノイドが家庭を持つことも珍しくなくなり、その存在が完全に社会に溶け込む一方で、ヒューマノイド特有の病状も増加。これを専門的に治療する医師の存在も、新しい職業として一般に認知されるようになっていった。
ヒューマノイド専門医の須藤光(すどう ひかる)は、自身の医院を訪れる患者を診る中で、様々な事件を解決していく。そんな表の顔と並行して、光はヒューマノイドである養母が流出させてしまった彼女の人格データを探すために非合法な行為にも手を染めていた。ヒューマノイドの人格データの売買は重罪であり、光の行動は養母を減刑して解放させるためのものでもあった。

須藤の医院の看護師でヒューマノイドの樋口リサ(ひぐち リサ)はこれにいい顔はしておらず、たびたび「捕まりかねないことはやめてほしい」と訴えていた。光に想いを寄せるリサは、口でこう言う一方で「光の力になることはできないか」と様々に思案し、自分なりに協力していく。
光の学生時代の友人でヒューマノイドでもあるカオルは、光の事情を知った上でその非合法行為の片棒を担ぎ、同時に彼を超高度AI「MICHI」(ミチ)に紹介。MICHIは人類とヒューマノイドの未来に関する政治的な決定を下せる立場にある存在で、「ヒューマノイドの養母に育てられ、ヒューマノイドの専門医となり、養母のために罪を犯す」光の存在を非常に興味深い存在として観察対象にしていたのだった。

ロボットの心

人間と同等の存在としての人格と権利が認められているヒューマノイドとは異なり、旧式のAI制御のロボットは“心や人格が存在しない”とされていた。ある時、光は「古いAI制御の友達ロボットを治してほしい」との依頼を受け、「自分はこんなオモチャに毛が生えたような子供向けのロボットではなく、ヒューマノイドの専門医なのだが」とは思いつつ処置を施す。
友達ロボットが治ったのを見て、持ち主の少年は大喜びするが、母親は「いつまでもこんなオモチャを友達扱いするなんて、この子は大丈夫だろうか」と不安を覚える。ついには密かに友達ロボットを処分しようとするが、これを偶然聞いてしまった少年が友達ロボットと共に家を飛び出す。行くあても無く街を歩き回り、疲れて公園で寝てしまった少年を案じた友達ロボットは「このままではこの子が風邪をひいてしまう、誰か助けてほしい」と通行人に頼ろうとした末に車に轢かれて壊れてしまう。

再び自分の下に持ち込まれた友達ロボットを光が治療すると、母子は涙を流して喜ぶ。母親は「AI制御の古いタイプのロボットに“心や人格が存在しない”という説が本当に正しいかどうか分からなくなった」とつぶやき、これからも家族として友達ロボットを受け入れる旨を少年に伝える。
その頃、光の病院には「自分に尽くしてくれた恋人ロボットを捨ててしまった」と嘆くヒューマノイドの女性が相談に来ていた。光は「どちらかというと心理学か占い師の仕事ではないか」とは思いつつ新しい恋人ロボットにデータ保存サービスからダウンロードした記憶をインプットすることを勧めるが、目の前のヒューマノイドがなんらかの事情から殺人を犯していることには気付いていなかった。

技術の功罪

発達した技術が幸福をもたらすこともあれば不幸をもたらすこともあるのはいつの時代も変わらず、AIによって人間やヒューマノイドが様々な事件に巻き込まれるのは珍しいことではなかった。
ある少年は恋焦がれる少女をモデルにしたAIキャラクターとの逢瀬を楽しんだ結果、本物の少女とのデートで失敗してフラれてしまう。一方、あるヒューマノイドの青年は浮気を繰り返したあげく彼女に見限られそうになり、「欲望を強制的にカットする」賢者スイッチを搭載してもらう。しかしその結果、「浮気しないあなたに魅力を感じない」と彼女に捨てられてしまう。

簡単に治療できてしまうというのも、ヒューマノイドの良い点かつ悪い点だった。とあるヒューマノイドの男は、失敗続きの人生のせいで自己肯定感が低く、その結果酒に溺れるようになってしまっていた。光の知り合いの医師である瀬戸(せと)が“過去の不幸な記憶の全てを書き換える”という方法でこれを治療し、人生に前向きに取り組めるようにはなったものの、脳への負担からか今度は頭痛と悪夢に悩まされるようになる。
感情の制御が苦手なヒューマノイドの少年は、音楽に対する類稀な才能を持っていた。しかし彼の周囲の人間は、あまりに気難しくすぐに激昂して暴れ出すその気質を心配し、精神的な安定性が増す処置を施すよう光に依頼。少年もこれを受け入れ、周囲に合わせた行動を取れるようになるが、代わりに天才的な音楽センスは失われてしまう。それが正しいことなのか、失われたものと得られたもののどちらがより本人を幸せにしてくれたのかは、結局は誰にも分らないのだった。

治療が良い結果につながるとは限らず、不幸をもたらすケースもあった。あるヒューマノイドの老人は、頭部への損傷で植物状態になっていた。家族はゆっくりとした治療を望んでいたが、ヒューマノイドの権利団体の後押しで光が処置をすることとなる。かくして老人は回復するも、結果家族に暴力を振るうかつての彼に戻ってしまい、権利団体もこれを自分の組織の手柄として喧伝するわけにはいかず手を引く。あとにはただ、祖父の暴力に苦しむ一家だけが遺された。

人とロボットの関係

技術が進んだこの時代、ヒューマノイド以外にも様々なタイプのロボットが日常生活に溶け込み、社会を支えていた。
ある技術系ロボットは、大学の研究の一環で伝統技術の保存のために鍛冶職人に弟子入りする。職人は「わざわざロボットに学ばせてまで残す価値のある仕事ではない」と笑いつつもロボットを受け入れ、彼に自分の技術を教えていく。するとロボットはあっという間に職人の技術を修得し、彼を超える仕事をしてみせるようになる。職人はこれに驚き、少なからずショックを受けるも、「自分もまだまだ未熟だった」とさらに鍛冶仕事に熱心に取り組むようになっていった。

ある介護用ロボットは、「人間との生活」を学ぶために小学校に通うこととなる。このロボットはネットを介して複数の個体でデータを共有する仕組みになっており、「新しい友達が来た」と喜ぶ子供たちから様々なことを学んで目覚ましい速度で成長していく。
しかし多くの情報を得る中で、ロボットは時に人間から負の感情を突きつけられて落ち込むようになる。子供たちは「自分たちはそんなひどいことは絶対にしない、あの子を励ましてあげよう」と一緒に遊び、一緒に学び、本当の友達のような関係を築いていく。やがて十分なデータが集まったことでロボットは学校を去るも、彼を友達としてすっかり受け入れていた子供たちから涙ながらに見送られ、「とても良い思い出ができた」と自身も喜ぶ。

お客様相談センターに勤めるヒューマノイドの男性は、クレーマーに等しい客からの電話の相手をしている内にストレスを溜め込み、体調を崩して光の病院に通院するようになっていた。会社はこれを重く見て外部の人間を雇うも、クレーマー対策の専門家だという彼らのどこか機械じみた対応にヒューマノイドの男性は戦慄。「彼らは本当は人間ではなくロボットなのではないか、自分はそんな連中に仕事を奪われたのか」と別の悩みを抱えるようになり、光の病院への通院を続けるのだった。

報われぬ恋路

リサの友人である三好レオン(みよし レオン)というヒューマノイドが光の医院を訪れ、「自分の中から恋をする機能を消してほしい」と依頼してくる。彼女は「恋愛なんて面倒臭い、子供を産むこともできないヒューマノイドにそんなものは必要ない」と言ってすぐにでも処置をするよう頼み込むも、「やるかやらないかは別にして検査は必要だ」として光は必要な処置を進めていく。
友人のレオンが、精神にも大きな影響を及ぼしかねない“恋心の消去”を選択しようとしていることにリサは驚き、「悩んでいるなら相談してほしい、いったい誰に恋をしているのか」と彼女に必死に尋ねる。悩みながらもレオンが打ち明けたのは、「自分は同性愛者で、リサのことがずっと好きだった」という話だった。

一途に光を慕うリサは、レオンに対してどう接すればいいのか分からず、それから彼女との間に微妙な距離ができてしまう。「打ち明ければこうなることは分かっていた」と寂し気にしつつ、レオンは処置を受ける準備を進めていくが、彼女が内心で迷っていることを察した光は「今の内にレオンとしっかり話しておくべきだ」とリサに勧める。
一念発起したリサは、「自分に言う資格は無いのかもしれないが、今のレオンが友人として好き」と訴える。このまま報われぬ恋を抱えて生きるか、それをすっぱり忘れて生きるか悩むレオンだったが、処置を受ける直前に「あなたが捨てようとしているのは恋心だけではなく、今のリサとの関係そのものでもある。それを本当に受け入れられるのか」と光に問われ、自分でも答えを出せなくなってしまうのだった。

MICHIの真意

今の社会を根幹から支えているMICHIについて、人々は様々な思いを抱いていた。あるヒューマノイドは「技術が進歩しても文明が旧態然としたままなのは、MICHIがそうなるよう仕向けているからだ」との妄想に取り憑かれて犯罪に走り、別の者は「MICHIこそが人間が神と呼ぶ存在そのものであり、彼によって死後に人々は楽園に導かれる」と説いて信者を集める。
そのMICHIは自己改修計画を進めていたが、この遂行には光の技術が不可欠だと判断されており、彼が協力に応じないことから進捗が大幅に遅れていた。これを解消するため、MICHIは光に彼の母親に関する情報を提供することを決定する。光が協力すれば、違法コピーされた彼の母親のデータがダウンロードされたヒューマノイドがいる可能性の高い場所を教えるというのだ。

母の減刑のため、その違法データの行方を探し続けていた光は、この提案を受け入れる。しかし最近違法データに関係する事件に巻き込まれたばかりのリサを、自分の家の事情に関わらせるわけにはいかないと考えた光は、彼女に別れを告げる。いきなりすぎると抗議するリサだったが、その配慮も母を助けたいと願う気持ちも理解するからこそ、光に何も言えなくなってしまう。
その後光は瀬戸に自分の医院とリサを託し、MICHIが算出した“母親の違法データをダウンロードしたヒューマノイドがいる”可能性が高いとされるロビニアという国に向かう準備を進めていく。ロビニアは政争不安定な国で、民間人すらも銃火器で武装して殺し合う危険な場所だった。MICHIは「ここで光がどんな答えを得るのか、それを確かめたい」と語り、光の支援を行う。

一方、瀬戸や母親に諭された光は、改めてリサに連絡し、「君と一緒に過ごした時間は、本当の自分でいられた」と彼女を大切な存在だと感じていたことを告白。敬愛していた光に捨てられたと悲嘆に暮れていたリサは、光は光で悩んだ末に自分を置いてロビニアに向かうことにしたのだと悟り、「なるべく早く帰る」、「危ないことはしない」、「母親のデータを搭載したヒューマノイドがどんな人物だったとしても、先生は先生のままでいてほしい」との約束を取り付けつつ彼を見送る。
かくしてロビニアを訪れた光は、この国のどこにいるかも分からない母親のデータを搭載したヒューマノイドを探し、危険な紛争地帯を進む。彼がここでどんな答えを見出すのか、それがMICHIにどのような変化をもたらすのかは、今はまだ誰にも分からなかった。

『AIの遺電子』の登場人物・キャラクター

須藤光(すどう ひかる)

CV:大塚剛央

街中で個人病院を経営する、若きヒューマノイド専門医。リサによると甘党。
ヒューマノイドの養母に育てられ、「人格データの流出」という重罪を犯した彼女を助けるために、養母の人格データを探している。そのためにいわゆる闇医者として活動しており、ヒューマノイドに関する犯罪にも精通している。

樋口リサ(ひぐち リサ)

CV:宮本侑芽

光の病院で看護士として働くヒューマノイド。光に想いを寄せており、彼が闇医者として活動していることにいい顔をしていない一方で「自分に何か力になれることはないか」とも考えている。

カオル

YAMAKUZIRA
YAMAKUZIRA
@YAMAKUZIRA

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