LAMB/ラム(映画)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『LAMB/ラム』とは、ある夫婦が羊から生まれた羊ではない「何か」を我が子として育てるスリラー映画。アイスランド・スウェーデン・ポーランドの合作だ。「何か」の得意なビジュアルがSNSを中心に話題を呼んだ。
『プロメテウス』、『ミレニアム』シリーズで知られるノオミ・ラパスが主演・製作総指揮を務めた。
第94回アカデミー賞国際長編部門のアイスランド代表作品に選出、第74回カンヌ国際映画祭の「ある視点」部門でオリジナリティ賞を受賞するなど、世界的な評価を得ている。

『LAMB/ラム』の概要

『LAMB/ラム』とは、ある夫婦が羊から生まれた羊ではない「何か」を我が子として育てるスリラー映画。アイスランド・スウェーデン・ポーランドの合作だ。「何か」の得意なビジュアルがSNSを中心に話題を呼んだ。
『プロメテウス』、『ミレニアム』シリーズで知られるノオミ・ラパスが主演・製作総指揮を務めた。
第94回アカデミー賞国際長編部門のアイスランド代表作品に選出、第74回カンヌ国際映画祭の「ある視点」部門でオリジナリティ賞を受賞、2021年のシッチェス・カタロニア国際映画祭の最優秀作品賞を受賞、ノオミ・ラパスは主演女優賞を獲得するなど、世界的な評価を得ている。
アメリカの映画評論サイト「Rotten Tomatoes」では、183件の評論のうち高評価は158件、平均点は10点満点中7.2点。批評家からは「暗い想像性に富み、主演2人の印象的な演技によって命を吹き込まれた『LAMB/ラム』は、その羊毛のようにぼんやりとした特異な恐怖感で予想を裏切る」と評されている。映画、ゲーム、音楽などのレビュー収集サイト「Metacritic」では、33件の評論のうち高評価は23件、賛否両論は10件、低評価は0、平均点は100点満点中68点となっている。

『LAMB/ラム』のあらすじ・ストーリー

羊から生まれたもの

アイスランドの山奥、人里離れた霧の深い場所で、マリアとイングヴァルという夫婦が羊を飼って暮らしていた。ある日、羊の出産を行っていた夫婦は、羊の頭と人間の体を持った「何か」が生まれてくるのを目撃する。声もなく驚く二人だったが、マリアはその子どもを自宅に連れ帰り、人間の赤ん坊のように世話をしはじめる。夫婦は「アダ」という娘を亡くしたばかりだった。特にマリアの悲しみは深く、その痛みを知っていたイングヴァルはマリアを止めようとはしなかった。「何か」は亡くなった娘と同じ「アダ」という名前をつけられ、マリアとイングヴァルの子どもとして育てられることになった。アダは言葉こそ話さなかったが、外見以外に人間の子どもと大きく変わるところはなく、マリアの心は癒されていく。だが、アダを生んだ羊がたびたび羊小屋から抜け出しては、家の窓に向かって執拗に鳴くようになった。
それから暫く経ったある日、都会で暮らしていたイングヴァルの弟ペートゥルが山で仲間に放り捨てられ、仕方なく生家に戻ってきた。夫婦はペートゥルを快く迎えるが、ペートゥルはマリアに手を引かれたアダの姿に愕然とし、強い不快感を抱く。イングヴァルはペートゥルをいさめるが、ペートゥルは夫婦が寝ている間にアダを連れ出して殺そうとした。しかし直前で思いとどまってふたりで家に帰り、以降はアダに愛情をもって接するようになる。ペートゥルは朗らかな男だったが、マリアに目をつけていた。アダとマリアが入浴しているのを盗み見して「君が見せたんだ」とマリアに迫ったりと、強引なアプローチをするが、マリアは相手にしない。

霧の中で起きたこと

水面下に不穏なものを抱えつつ、家族は幸せに暮らしていたが、アダの母羊は相変わらず我が子を求めて家の外で鳴き続けていた。アダを心から愛しているマリアは母羊の存在にだんだん我慢ならなくなり、家族が寝静まっているある日の早朝、猟銃で撃ち殺してしまった。その様子を、ペートゥルは隠れて見ていた。
マリア、イングヴァル、ペートゥル、アダの4人はテレビでハンドボールの試合を観戦して盛り上がり、ペートゥルが若い頃にボーカルをしていたバンドのミュージックビデオを見て大笑いする。音楽をかけてダンスをし、一家は楽しい時間を過ごす。しかし、ふと外に出たアダは、何かが飼い犬を殺し、猟銃を盗むところを目撃する。
踊り憑かれてイングヴァルが眠ってしまうと、ペートゥルが行動を起こした。マリアがアダの母羊を殺したところを見たといい、「従わなければアダにこのことを言う」と脅して関係を強要しようとした。マリアは脅しに屈したように見せかけてペートゥルを物置小屋に閉じ込める。翌朝、マリアは物置小屋からペートゥルを出し、バス停まで送っていき、金を渡して見送った。
マリアとペートゥルが出かけている間にイングヴァルは目を覚まし、故障したトラクターを修理しに、アダを連れて出かけた。修理を終えて家に帰る途中、イングヴァルは何者かに猟銃で首を撃たれて倒れる。それはアダと同じように羊の頭と人間の体を持った生き物で、裸の体は男のものだった。男は涙を流すアダの手を引き、霧に沈んだ山へと消えていく。
マリアはイングヴァルとアダを探しまわり、血を流して倒れているイングヴァルを発見する。動揺するマリアの目の前でイングヴァルは息絶えた。マリアは呆然と、霧に包まれた山々を見つめるのだった。

『LAMB/ラム』の登場人物・キャラクター

アダ

マリアとイングヴァルが飼っている羊から生まれてきた子ども。羊の頭と人間の体を持っている。夫婦の亡くなった娘「アダ」と同じ名前をつけられ、夫婦の子どもとして育てられる。
言葉は話さないが、人間の子どもと全く同じ生活をしている。

マリア(演:ノオミ・ラパス)

日本語吹き替え:朴璐美

夫と共に人里離れた山奥で羊を飼っている女性。幼い娘のアダを亡くしたことで深い悲しみを抱えていたが、羊から生まれてきた異形の子どもを我が子にすることで明るさを取り戻していく。その一方で、子どもの本当の母親の羊を殺す苛烈さを見せる。
最後には夫と子どもの両方を失うことになる。

イングヴァル(演:ヒルミル・スナイル・グドゥナソン)

アダを抱いてマリア(右)と過ごすイングヴァル(左)。

日本語吹き替え:山路和弘

マリアの夫。妻とふたりで羊を飼って暮らしている。娘を失った悲しみから回復できない妻を案じていた。羊から生まれた異形の子を我が子として育てるマリアを止めることはせず、3人で家族になることを決める。

ペートゥル(演:ビョルン・フリーヌル・ハラルドソン)

アダ(左)を抱いてソファで眠るペートゥル(右)。

日本語吹き替え:間宮康弘

イングヴァルの弟。マリアとイングヴァルが住んでいる生家から離れて、都会で暮らしている。羊の頭を持った子どもを我が子として育てている兄夫婦に動揺し、何度も異常性を指摘する。
マリアに目をつけており、何度も強引に関係に及ぼうとする。最後には脅して従わせようとするが、撃退され、金を渡されて追い出された。

『LAMB/ラム』の名言・名セリフ/名シーン・名場面

怯える羊たち

『LAMB/ラム』は霧深いアイスランドの山地の景色から始まる。霧の中を進む馬たちが、何かを感じ取って動揺を見せる。そしてマリアとイングヴァルの羊小屋の羊たちも、馬たちの不安が伝播するように騒ぎ出し、小屋の外の何かを見つめる。
この一連のシークエンスには、恐怖の対象となる姿は一切映らない。そのため視聴者は「山に何かがいる」というぼんやりとした予感だけを覚えて物語を見続けることになる。その正体が明らかになるのはずっと後、イングヴァルが撃ち殺されるクライマックスシーンだ。猟銃を構える羊頭の獣人が、馬や羊たちを怯えさせていた怪物(あるいは神聖な生き物かもしれない)の正体だ。マリアとイングヴァルの目を盗んで羊小屋に侵入し、メスの羊を妊娠させたのだ。そして、自分の子どもを取り返しにやってくる。
『LAMB/ラム』はストーリーの大部分を台詞で語らず、映像だけで説明する作品だ。明言されない情報はたくさんあるが、何かに怯える馬や羊たちだけで怪物の存在を示唆する冒頭のシーンは『LAMB/ラム』を象徴していると言える。

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@shuichi

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