若き日の安倍晴明の葛藤と成長の軌跡
平安時代に実際し、令和の今日でも多くの人々の心を掴んで離さないスーパースター的存在、安倍晴明。平安時代には実際に天文、気象、暦、天災や農作物の出来不出来、戦乱の有無などの天地人に渡る出来事を占い、時には呪術をもって解決するための行政機関であった陰陽寮というものがあった。後にその陰陽寮の長となり、直接天皇の補佐官としての役割を担った安倍晴明。本作は、彼の若かりし青春時代のひとコマを描いた作品である。
両親を政敵に暗殺された晴明は、天才的な呪術の才能を持ちながらも、心を閉ざした孤独な若者として生きていた。そんな彼の元に青年貴族、源博雅が相談事で現れたことから、晴明の日々に大きな変化が訪れる。主役の安倍晴明を演ずるのは、『キングダム』の信、『ゴールデンカムイ』の「不死身の杉元」という最強の剛の男を演じた山崎賢人。今回の『陰陽師0』では繊細で一見線の細い風情に見える晴明の役を演じ切った。飛信隊の信、不死身の杉元を演じたのと同一人物とは信じられないほどの名演だった。後に生涯の親友となる源博雅を演じたのは染谷将太。個人的には『寄生獣』の熱演の印象が強いが、ここでも密かに想いを寄せる皇族の女王との切ない恋を演じ切っている。
このようにキャストが魅力的であるというだけではなく、『陰陽師0』は、最近の映画にありがちな「語りすぎ」のないところが好ましい。登場人物の内面や感情を何もかもセリフにして説明してしまう作品は、わかりやすいだろうが、深みがない。すべてをセリフで語るのではなく、言葉にならない部分を敢えて残すことで、深みと余韻の残る作品になった。その点に、『陰陽師0』の大きな魅力が感じられるのである。