ロスト・ケア

ロスト・ケアのレビュー・評価・感想

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ロスト・ケア
7

見ていて楽しい気分でもないが見て損はない作品

葉真中顕原作の「ロストケア」は、超高齢化社会を迎え慢性的な介護の問題を独特の切り口で抉り出す、いやな気持ちになる小説だ。映画化されると聞いて、正直成功するのかかなり疑問だった。映画は原作とは違う展開になっており、見たくない映像世界を繰り広げてくれるやっぱりいやな気分になる作品だった。
検事役の長澤まさみと、介護士役で高齢者を何人も殺してしまった松山ケンイチが対峙する場面は迫力があり、見応えがある。彼の父親役の柄本明の演技は言わずもがな、舞台を見ているような印象。しかしやや長すぎるかといった感じを受けた。最初から展開はわかっているようなところもあるので、ずるずるといやな場面が長引くのもどうなのか。犯人の親子のシーンが濃密で細かく描かれているのに比べ、検事側の家族ドラマはいたってあっさり。父親は顔すら出てこなかった。これはこれでいいのだろうが、もう少し彼女の心の奥の方ものぞいてみたくなった。家族の心と心のつながりとか、絆とか超安全地帯にいる偉い方々からよく聞く言葉が、ますます空虚に聞こえる。
1度穴に落ちたら這い上がることはできない。安全地帯にいる人たちに是非見てもらいたい作品だ。エンディングで流れる森山直太朗の「さもありなん」が悲しくも美しすぎて、ずっと聞いていたいような気分だった。