皇帝と女騎士

皇帝と女騎士のレビュー・評価・感想

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皇帝と女騎士
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漫画『皇帝と女騎士』から目が離せない理由

母親の死により父が再婚した継母と、その間に生まれた異母姉妹に疎まれ、理不尽な扱いを受ける日々。父親も助けてくれず見て見ぬふり。
「貴族の令嬢に生まれながらもそんな、不遇の幼少期を過ごした主人公による一発逆転劇…」というのはよくある話です。
しかしこの話の面白いところは「皇太子や身分の高い貴族の目にとまり愛されて幸せになる」という王道シンデレラストーリーではないのです。あくまで主人公のポリアナが「自分自身の力で苦境に耐え、日々己の肉体と精神を鍛え、女ながらに少しずつ地位や周囲の信頼を得てのしあがっていく」。そんなところにあると思います。

頭の回転の速さと先を見通す力。また一度決めたら簡単には諦めない粘り強さを持ちつつも、部下達を守るための冷静な判断力も兼ね備えるポリアナ。そんな彼女は大陸統一を目指す敵国の若き皇帝・ルクソス一世の目にとまり、その騎士となり忠誠を誓うことで、殺されるはずだった運命が大きく変わっていきます。

このようにストーリーはあくまで真面目な展開ながら、コマ割りや台詞まわし、登場人物達の表情などから思わず笑ってしまうギャグ的要素もところどころに散りばめられています。読む者を決して飽きさせないような、絶妙な描き方をしている点もポイントです。

また、話が進んでいくと皇帝とポリアナの恋愛模様も描かれます。
人によっては「騎士といっても女だからやっぱり恋愛要素が入ってくるのか…」と思うところではあるかもしれません。しかし皇帝が長い年月をかけて大陸統一を果たし、その間様々な出来事を経てポリアナへの信頼感が増し、彼女との間に絆が生まれていく様子をしっかりと時間をかけて描いたからこそ、後半の2人の恋愛要素がリアリティを増していると個人的には思います。
単に主人公の優しさや美しい見た目に惹かれた、というだけならどこにでもあるラブストーリーですが、決してそうではないところは非常に読み応えがあります。

またポリアナだけではなく要所要所でルクソス一世目線からも話が進み、それによってなかなか2人の仲が進まないもどかしさや、2人を応援したい気持ちがより強まります。
皇帝の側近たちやポリアナの部下など、他のいろいろな人達のストーリーや思いもしっかりと描かれているところも、見所の1つです。

家族に捨てられ、幼いながらも過酷な戦場に身を置くことになったポリアナ。その身1つで築き上げてきた騎士としての地位や矜持、皇帝への変わらぬ忠誠心を大事にしたいと思いつつ、1人の女性としても気持ちが揺れ動くポリアナの今後が気になります。